十話
「もう……結界は解除してよさそうね」
「そうね~。全く、とんでもない吸引力」
集束を始めた力の風が、俺の姿を隠し徐々に復元を進める。
「あの……双子神様?」
「誰よ?」
「あっ、失礼しました。俺……私は、ザッファ。中級神です」
「で? 何よ?」
「少し気になる事がありまして……」
「早く言えば~?」
「吸収と融合……。属性が、あまりにも敵に似ていると思えるのですが?」
「ふん! クズね」
アストレアから吐き出された辛辣な言葉に、ザッファの顔が引きつる。
「えっ……クズ……」
「あ~、うちのアストレアは、あんたみたいな顔だけの男が大嫌いなのよ~」
「顔……だけ……」
人間、神問わず、女性からあまり悪い扱いを受けた事のないザッファは、完全に顔を歪めてしまう。
「そうよ~。あんたの言う通り、悪意達と酷似した属性を持ってるわ。でも、似て非なる者なのよ~」
「あの……どういう事……」
「あいつ等は浸食と言う力で、肉体と魂を無理やり奪うのよ。そして、恐怖と絶望でそれを支配する。ま~、一度取り込まれれば逃げ出せなくなるわ~」
「でも、レイは違う。世界を、一番下で支え続けたのよ。人間のくせに……」
「アストレア様……」
「一人……血まみれで、ずっと歯を食いしばったのよ。何の見返りもなしにね」
メーヴェルさんはアストレアの眉間に入ったしわを、見逃さない。
「皮肉な事に、その存在は生きている人でも神でも無く、死ぬまで支えられ、レイが助けられなかった想いの光となったのよ~」
「そして今、多くの無念がレイを高みへと持ち上げ、支えているの。悪意達がいて、世界の危機だからこそ生まれた存在」
「でもね~……。敵が強ければ強いだけ、レイは強くなるの。つまり……」
「悪意の……天敵!?」
「もう! 私のセリフとらないでよね~。メーヴェル?」
「もっ……申し訳ありません」
「まあ、いいけど~」
「さあ、早く貴方の姿を見せてよ。レイ」
****
俺に、思念体達の情報が流れ込んでくる。
属性……。
人間って属性無かったんだな。
『その人間の知識や意思の強さによって、使える魔法の種類は限定されるようじゃな』
【頑張れば、なんでも出来るんですね】
俺は、根本的に無理っぽいけどね!
『魔力まで不器用とは……。逆に凄いな』
ですよね~……。
【しかし、流石はあの方がくれた物ですね】
ああ……。
師匠は、ここまで見越してたのか?
『そうかも知れん』
俺の体には、液体合成金属……青生生魂[アポイタカラ]が馴染みきったらしい。
細胞一つ一つを、ミスリルと同化した細胞膜がおおい、核の周りはオリハルコンを含む物質へと変化していた。
そして、賢者の石……。
俺の細胞には、ミトコンドリアや核の隣に、極小の賢者の石が泳いでいるらしい。
師匠は恋人の復活を目的に、実験で出来たと言っていたが……。
俺用に出来た素材に感じてしまう。
俺の体は、意思の力や魔力が無ければただの人間の体。
逆にその力を持っていれば、無滅の魔法金属と同じ強度まで高まってくれる。
【まあ、魔王を素手で倒す時点で気が付くべきでしたね】
でも……。
『そう言えば、ブルーの魔力も平気で流用しておったな。わしのコアに蓄積できる以上を』
分かるわけ無いじゃん。
神様でも、超能力者でもないんだからさ。
ただ……。
『うむ』
【神様を含めた知識を得ましたからね】
ああ……。
自分でも理解できていなかった力、全てを使える。
これで、戦える!
『うむ』【はい】
奴らを殺す……。
殺しきってやる!
****
「もうすぐね~」
「そうね。この世界が崩壊するまで、まだ時間もあるし十分ね」
「納得できない……」
「ちょっと! ザッファ!」
自尊心を傷つけられたザッファは、双子の女神に食って掛かり始めた。
それだけ力にも容姿にも、自信を持っていたのだろう。
「あいつが凄いのは理解出来る! だが! 俺よりも、顔だけで言うなら悪く無いじゃないか!」
「何? 不満?」
「顔だけと言われては、納得できん!」
「中級神くらい、いなくなってもいいわよね? ユーノ?」
「駄目よ~、アストレア」
手をかざしたアストレアを、ユーノが止める。
「くっ!」
「貴方、顔はいいから私のペットにでもなる~?」
「いや……」
「もう、殺そう。ユーノ」
「あんた、最初レイの事もそう言ってたの覚えてる~?」
「それは……運命に履歴が一切なんだから、仕方ないじゃない! 分からないわよ」
「ね? 落ちつきましょう~」
「ふん!」
ユーノは姉らしく妹を落ち着かせてから、ザッファへと視線を戻す。
「さて……ザッファだったわよね~?」
「ああ!」
「まずは、その無駄なプライドをどうにかしなさいね~。何の役にも立たないし」
「……ちっ」
「あら? 感じが悪いわね~。まさか貴方、レイが最初から特別で優遇されてるなんて、馬鹿な不満を持ったのかしら?」
「それは……」
心を見抜かれたザッファの視線が、ユーノから逸れた。
「ふん! じゃあ、全てが終わって同じ条件を与えてあげるわよ! 私が!」
「ちょ! アストレア……」
「なんなら、神のままでもいいわよ! やってみなさいよ! 敵は私がなってあげるわよ!」
「…………」
「出来るもんならなってみなさいよ! あいつがあそこに届いたのは、あいつだったからよ! たとえ、不死身の神でも、あそこにはたどり着けないのよ! 分かってるの?」
「はいはい、落ちついて~アストレアちゃん」
ザッファの胸倉を掴んだアストレアを、ユーノが再び落ち着かせる。
「でも!」
「まあまあ、ヒステリーはよく無いわよ~。でも、レイが今ここに居るのは、レイだったからよ~。他の誰でも、そうはならなかった」
「確かに、少しだけ私は記憶を見てしまったんですが……。レイ君は、少しだけ特別な人間だった……。ただ、それだけ」
「メーヴェル様? 記憶?」
「そうよ! 運命が定めた勇者の方が、優れた能力を持ってるわ。でも、あの馬鹿はギリギリの死線で、自分の限界を乗り越えてきた」
「あの男が与えた技のみでね~……。同じ条件で、同じ人間を作るためには何人が犠牲になるでしょうね? きっと、百億年かけても無理じゃない? ね? アストレア?」
「当然よ! あの力は、レイだけに許された……。いえ、レイだからたどり着けた力なのよ! あんたみたいなクズとは違うの!」
「お二人は、レイ君を高く評価されているんですね。戦力としても……男性としても」
くすりと笑ったメーヴェルさんは、双子の女神に問いかける。
「なっ! あ……あの! 違……わないけど……」
「アストレアちゃん、落ちつきましょうね~。メーヴェルの言う通りよ。レイは、私達の旦那様になってもらう予定なのよ~」
「そっ……そうよ! レイなら務まるわ!」
「ええ……完璧に限りなく近い男だもんね~」
「レイ君は、完璧では無いのですか?」
「えっと……」
「惜しいんだけどね~……」
「「馬鹿なのよ」」
誰が馬鹿だ! ゴラァ!
「それが無ければ完璧なのに……」
「そうなのよね~。だから……」
「私達が支えるの!」
「私達が調教するのよ~」
「ユーノ姉さん……」
何の話だ?
【さあ……あんまり、いい話には聞こえませんね】
「あ! レイさん!」
「待たせたな。体が、何とか復元できた」
一瞬の笑顔の後、双子のクソ女神が俺の左右の腕に組みつき、眉間にしわを寄せる。
「遅いのよ!」
「私達忙しいんのよ~? つけにしとくわよ?」
なんだよ? それ。
たく……。
『まあ、今なら殺される事もあるまい』
なんでジジィは、俺が殴りかかる事を前提で話してるの?
馬鹿なの?
【違うんですか?】
違うわ!
助けに来た相手に、殴りかかるって!
精神異常者だろうが!
『違うのか?』
違うっつってるだろうが!
はぁ~……。
やってらんね~……。
さて……。
俺は、双子の神様の間に立つ。
そして、右手をユーノ……。
左手をアストレアの頭に、ポンと置く。
「助かった」
さあ!
バッチ来い!
うん……あれ?
殴りかかってこないな?
「馬鹿なんだから……」
「レイは、ずるいわよね~……。馬鹿のくせに……」
馬鹿って言うな!
てか、何?
なんで、顔が真っ赤なの?
何? 風邪?
『不憫な……』
【何も変わって無い……】
何が?
【『はぁ~……』】
ちょ!
言いたい事があれば、ちゃんと言いなさいよ!
口に出さないと、分かりませんよ!
【『はぁ~……』】
ちょっと~!
「と……そこまでゆっくりは出来ないわね」
地面が揺れ……。
空自体が、歪み始めた……。
この世界が崩壊する。
「じゃあ、そっちの神も含めて私達が誘導するから!」
「その穴の外で、待ってて~。すぐに終わらせるわ」
これは……。
「俺がやる」
「レイ?」
あれ? そう言えば、こいつ等何時から俺の名を?
まあ、いいや。
「この世界の無念は、俺が受けとめたんだ。最後までやるのが義務だろう?」
「……分かった」
「出来るの~? 結構難しいわよ?」
「やらせてくれ」
神達の退避を確認した俺は、剣を呼び出す。
それは、最初から融合した魔剣と聖剣。
『よし! 使いこなせておる!』
剣に灰色の刃を灯し、虚空に向かいそれを振るう。
【問題ありません! いけます!】
<サザンクロス!>
十字に切り裂いた空間は、光となり世界全てを飲みこんだ。
「いともあっさり……」
「ちょっと……格好いいじゃない」
「さあ、何処に向かうんだ?」
「私達の家……魂の故郷よ」
なるほど……。
【本当に、生きたままあの世行きですね】
確かにな。
「じゃあ、出発よ。ついてきなさい」
****
二人の女神の誘導で、世界の中心へと向かう。
本当の中心へ……。
で……。
「あの……」
「な~に~?」
「いや……」
「何よ? はっきり言いなさいよ」
いやいやいや……。
【いいじゃないですか。貴方の夢じゃないですか?】
「何故俺は、お前達の小脇に挟まれてるんだ? 飛べないけど、走って付いていけるんだが?」
両腕を女神に挟まれた俺は、身動きがとれない。
何がしたいの?
「楽出来ていいじゃないの~」
「あの! あれよ! レイが逃げ出さない様に……してるだけよ」
誰が逃げるか!
「レイに逃げられると、私達が怒られるから……その……。嫌?」
「そりゃあ、身動きとれないのはぁあああああ! 痛い痛い! 折れる! 折れる!」
「あら~? オリハルコンが守ってくれるんじゃないの?」
「あれは、闘争本能が高まってる時……戦闘中以外はほとんど発動しないんだよ! てか、知っててやってるだろう! 放せよ! 折れるって!」
「だって……。レイ? 普通、人間の男って第一印象がよくない相手ほど、優しくされると好感度が上がるんじゃないの?」
「何!? その情報!?」
「人間の……その、雑誌に……」
何読んでるの!? 女神さま!?
馬鹿なの!?
てか、印象が悪い相手は、悪いままですよ!
嫌いは嫌い! 好きは好き!
『さあ、口に出せ』
断る!
【相変わらずの、へたれっぷりですね】
だって~。
情報を貰って分かったけど、性格はあれだけどこいつ等本当にいい方の女神じゃん。
『世界を、あの方とともに守っておったようじゃからな』
攻撃できない以上……。
やられる!
てか、やれせんよ!
「どうやれば、印象とかってよくなるの?」
それを、聞いちゃいます?
本人に!
『コミュニケーション能力は、小学生並みじゃな』
【仲良くしたいんでしょうね】
まあ、これから一緒に戦うから、女神なりの気遣いなんだろうな。
『お前……』
【結局、そうなっちゃうんですね】
何が!?
えっ!? だってそうだろ?
仲の悪い奴に、背中を預けられないじゃん!
『お前……実はわかっとるな』
さあねぇ……。
【この二人でも駄目ですか?】
『神としては……いや、この二人以上に死なない女は、そうはおらんぞ?』
まあ、二人で……。
ハーレムも味わえそうだよね~……。
でもさ……。
【自分に厳し過ぎやしませんか?】
お前達も知ってるだろう?
俺の背負った者の重さを。
そして、何をしないといけないかを。
『確かに、生きて帰れる保証は無い……』
ここで、気を緩めれば希望に……希望の仮面を被った絶望に飲み込まれる。
【でも……】
この二人も、死なせていい奴らじゃない。
梓さんの事も、俺の不甲斐無さが招いた結果だ。
この二人は、何とか悪意を浄化しようと限定された力で頑張ってたんだ。
全部俺のせいだ。
愛する人が死んだのは、全部俺のせいだ。
そして、まだ力と言う罪に身をゆだねると決めたんだ。
なら、大好きなこの世界を守る……守りきるしか、俺の存在していい理由なんてない。
【意思は、変わりませんか……】
もし、生き残る事が出来れば……。
奇跡がおきたら……。
世界は、そんなに都合よくは出来て無い。
残酷なんだ。
運命に存在してないはずの俺が、足掻くしかないだろうが。
命を惜しめば、恐怖に負ける。
絶望に飲み込まれる。
なら、意思なんていらない。
俺は、敵を討つ一本の剣でいい……。
敵を殺す為の……。
『ふ~……頑固者が。育て方を間違えたわい』
お前に育てられた覚えはない!
【貴方が、そうしたいなら……一緒に消えましょう。この世から】
今から、あの世に行くけどね~……。
「何? さっきから、眉間にしわが出来てるじゃない。機嫌悪いの?」
「こんな美人二人のボディタッチで機嫌悪くするとかって、無いんじゃないの~?」
「いいや……」
うん。
二人ともいい女じゃないか。
死なせるのも……。
未練を持たせるのも……。
俺には出来ないよ。
「なっ! 何よ! 急にほほ笑まないでよ!」
馬鹿で不器用な俺には……。
「調子が狂うのよね~。レイといい、あの男といい……」
笑う事くらいしか出来なよ……。
あ~……。
情けない。
一度は憎んだ相手に、覚悟をもらうなんてな……。
ははっ……。
こいつ等が……。
オリビアが生きる世界を、守るんだ。
代償は俺の命? 存在か?
商売としては、ぼったくりもいいとこだな。
俺がいなくても、何も変わらない。
悲しむ人もいないよな。
あいつ等は、俺を覚えて無いし。
他の世界は、きちんと別れを告げてきた。
『ふん! あの方も含めた、神が惜しんでくれるわい』
神様の涙かよ……。
【贅沢の極みですね】
でも、出来れば……。
「何をもじもじしてるの~? アストレア?」
「えっ!? あ……別に……」
「話したいけど、何を話せばいいか分からない?」
「その……」
「なに顔を真っ赤にしてるのよ。人間の小娘じゃあるまいし~」
「ユーノ! 五月蝿い!」
こいつ等にも泣いて欲しく無いな……。
泣いてくれるかも分かんないけど……。
出来れば、忘れて欲しいな……。
全部終わったら。
【普通は、逆じゃないですか? 覚えておいてほしいと……】
俺は、俺の死んだ後の事なんて知らん。
それに、ろくな事しなかったから……。
きっと馬鹿にされるのがおちだ。
だから、全て消える……。
そうなれば理想的なんだよ。
「ちょっと~? 何笑ってるの? レイ?」
「いや、何でも無い」
誰に褒められたいわけじゃない。
俺自身の中で、俺と言う罪の最後を見つけるんだ。
ただ、それだけでいい。
俺には、上出来だ。
****
「あれよ。あれこそ、神と世界の故郷。魂の故郷よ」
巨大な光の球が、浮いている。
あれが、全ての魔力と魂が生まれて、消えていく場所。
「あそこに……梓さんはいるのか?」
「あ……あれは、私達のせいじゃないのよ~? どうしようも……」
「分かってるよ。悪いのは俺だ。ただ、師匠の大事な人や、母さん達は魂が消えずに残っていたよな?」
「あれは……駄目なのよ。悪意にのまれていたの。消滅させないと……」
「そうか、それだけ分かればいい。都合よく生きかえらせるなんて、無理なのも分かってる」
そんな奇跡が、二度もおこるはずが無い。
一度だけでも、何かの間違いなんだ。
運の悪い俺に、二度はない。
光にそのまま突き進むと、中には緑の山々が広がっていた。
草原に小川……。
『これは、なんとものどかな風景じゃな』
えっ!?
何このマジヘヴン光景は?
【住みやすい場所……なんじゃないですか? 神様なら、自由に出来るでしょうし】
あれは……。
神社? って建物に似てるな?
【まさに、神の屋代ですね】
人間の世界にあるのは、ここを模した物かな?
『かもしれんな』
信じられないくらいの魔力を、あの中から感じる。
あれは、多分……。
「で? これからどうするんだ?」
「私達は、そこの神達に意思確認をするわ」
「確認?」
「レイも分かってると思うけど、生き残れる可能性はあんまり高くないのよね~」
なるほど……。
【最終戦に、参加意思があるかどうかですね】
命をかける覚悟は、ここに来た全員がしてるだろうけどな。
『しかし、能力が……』
「意思がある者には、一時的に主神並みの魔力を与えるのよ。ここなら、それが可能なの」
まあ、俺達が気付く事なんて想定済みって事だな。
「その間に、レイは主に会ってきて」
「主……」
「そう、創造主が作った。最初の神。レイの師匠……あの男の上司でもあるわ~」
なるほどね。
俺は、神じゃないから力を貰えないよな。
【十分でしょう。皆さんの想いは受け取っています】
ああ……。
「あの中へ行けばいいんだな?」
「ええ。あまり時間は無いわ。右に回れば、本殿の入口があるから」
「分かった」
****
俺は、木でできた階段を上り、本殿へと向かう。
豪華に金で装飾された、木の扉を開くと……。
ついてね~な。
たく……。
大きな広間が広がり、奥には光の壁があった。
体の後ろ半分と両腕が光の壁と同化した、女神様が目を開く。
「よくきましたね。レイ」
女は殴れないし……。
蹴りあげるケツが、無いじゃないか。
あ~あ……。
「私は原初の女神、ルー:ダグザ。ルーで、結構です」
ルー……。
一番偉い神様にしては、可愛い名前だこって。
「で? 俺は、何を聞けばいい?」
「話が早くて助かります。汚れが、創造主様に迫っています。それを排除して頂けませんか?」
「うけるが、創造主ってのは何処に居るんだ?」
「この魂の故郷の中心です。穢れ達は、創造主様をも取り込もうとしています」
いろいろ聞きたいんだが……。
何から『聞けば』【いいんでしょうね?】
「創造主様とは、意思もった強大な魔力生命体です。彼が、何もない無からこの世界を創造しました」
ほほう。
「意思はありますが、世界と命の中心なので、身動きは取れません。それから、敵についてですが……」
うん。
「敵にも中心となる、もっとも古き融合体ユミルがいます。ユミルを倒せば、穢れ達の情報網と統括が崩れ、勝てる見込みが出てきます」
ユミルか……。
「貴方もよく知っての通り、魔力を支配するには意思の力が必要です。通常の穢れでは、世界五つ以上を制御できません。ただ、ユミルは多くの邪念が集まってできた存在です」
で……。
「はい。現在は、十五の世界と同等の魔力を有しています。ユミルの目的は、創造主様との融合。そして、過去未来全てを手に入れる事です」
おいおい。
「創造主様こそ世界であり、この世界の法則でもあります。創造主様を取り込めば、時間空間すら自由になるのです」
欲望の塊か……。
しかし……。
「ユミルは狡猾で、周到です。今まで、貴方の師匠や双子神が追い続けましたが、捉える事は出来ませんでした。そして、十分な力を得たと判断した瞬間……今から一二時間ほど前に、ここへと部下を引き連れて侵入してきました」
これは、死神共もここにきてるのか?敵として。
『時間的には分からんな。全員は来ておらんかもしれんな』
「死神達は、外に居ます。彼らも、元は本当にいい神だったのですが……。絶望にのまれてしまいました」
神様って言っても、精神力は人間並みだな。
【そうですね……】
「今、世界は最大の窮地です。ですが……」
「敵を倒せる最大のチャンスでもあるのか?」
「はい。切り札は、貴方です。真幸さんと、姉妹だけではユミルに勝てないでしょう。ですが、貴方がいれば勝てない訳ではありません」
勝率は……。
「三割と言ったところでしょうね」
命をかけるなら……。
『わし等にとっては、十分じゃな』
ああ……。
「真幸さんは千の兵力で、外の世界に残った敵を掃討しています。もちろん、全員が主神クラスです」
おっかない兵力だな。
てか、女神様は……。
「見ての通り、創造主様がユミルにより世界の制御を失いかけています。私は、それを支える為にここを動けません。動けば、世界が崩壊してしまうんです」
やっぱ、かなりヤバいのか。
「そうですね。私は、創造主様より劣ります。現在も、世界は不安定になり始めています」
ふ~……。
じゃあ、行くか。
『そうじゃな』
【時間も無い様ですしね】
「まるで、散歩に出る様に言いますね。怖くは無いのですか?」
そんなもん。
「捨ててきた」
「今から、長い時間の戦いが始まるのですよ? 強大な敵との」
「望む所だ。そこが、俺の居場所だからな」
てか、心が……。
読まれてる!
『読まれとるな』
【読まれてます】
「はい。読めますよ」
ヤベ!
俺、ケツけるって考えちまったよ。
「構わないのですが、生憎今は世界と同化していますので……」
「冗談デツ」
「ふふふっ。相変わらず、嘘が下手ですね」
あんたが、俺の何を知ってるのさぁぁぁぁぁ!
【いやいや、相手は神様ですって】
『知っておるじゃろう』
あ! そうだった!
てか、これも……。
「うふふ。読めていますよ」
おっふぉう!
ちっ……。
なら、開き直るしかない!
『またか……』
【らしいと言えば、らしいですが……】
俺は、女神に人差し指の先を向ける。
そして……。
「ケツは蹴らないが、無事に帰ったら、胸を揉ませろよ!」
【『クズ』】
五月蝿い!
「ええ、喜んで」
女神は、優しく笑いかけてくる。
その瞳には……。
悲しみの色。
分かってるよ。
俺は、ここに帰ってくるのは無理だろう。
でも、俺は強がってこそ、俺だ!
目の前で、美人が世界を支えて踏ん張ってるんだ。
ここでやらなきゃ、男じゃない!
いや! 俺じゃない!
「じゃあ、ちょっと馬鹿を殴り飛ばしてくる」
俺は、女神に背中を向ける。
さあ! 最後の戦場だ!
『うむ!』
【行きましょう】
「いってらしゃい……レイ」
あれ?
まあ、いいか。
「おう!」
俺は、背中を向けたまま右手を上がる。
弱い俺は、振り向かずにそのまま進む。
そこに真実があると言うのに……。
情けないよな……。
あ~あ。
やってらんね~……。




