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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十二章:闇の深淵と神々編
49/77

十話

「もう……結界は解除してよさそうね」


「そうね~。全く、とんでもない吸引力」


集束を始めた力の風が、俺の姿を隠し徐々に復元を進める。


「あの……双子神様?」


「誰よ?」


「あっ、失礼しました。俺……私は、ザッファ。中級神です」


「で? 何よ?」


「少し気になる事がありまして……」


「早く言えば~?」


「吸収と融合……。属性が、あまりにも敵に似ていると思えるのですが?」


「ふん! クズね」


アストレアから吐き出された辛辣な言葉に、ザッファの顔が引きつる。


「えっ……クズ……」


「あ~、うちのアストレアは、あんたみたいな顔だけの男が大嫌いなのよ~」


「顔……だけ……」


人間、神問わず、女性からあまり悪い扱いを受けた事のないザッファは、完全に顔を歪めてしまう。


「そうよ~。あんたの言う通り、悪意達と酷似した属性を持ってるわ。でも、似て非なる者なのよ~」


「あの……どういう事……」


「あいつ等は浸食と言う力で、肉体と魂を無理やり奪うのよ。そして、恐怖と絶望でそれを支配する。ま~、一度取り込まれれば逃げ出せなくなるわ~」


「でも、レイは違う。世界を、一番下で支え続けたのよ。人間のくせに……」


「アストレア様……」


「一人……血まみれで、ずっと歯を食いしばったのよ。何の見返りもなしにね」


メーヴェルさんはアストレアの眉間に入ったしわを、見逃さない。


「皮肉な事に、その存在は生きている人でも神でも無く、死ぬまで支えられ、レイが助けられなかった想いの光となったのよ~」


「そして今、多くの無念がレイを高みへと持ち上げ、支えているの。悪意達がいて、世界の危機だからこそ生まれた存在」


「でもね~……。敵が強ければ強いだけ、レイは強くなるの。つまり……」


「悪意の……天敵!?」


「もう! 私のセリフとらないでよね~。メーヴェル?」


「もっ……申し訳ありません」


「まあ、いいけど~」


「さあ、早く貴方の姿を見せてよ。レイ」


****


俺に、思念体達の情報が流れ込んでくる。


属性……。


人間って属性無かったんだな。


『その人間の知識や意思の強さによって、使える魔法の種類は限定されるようじゃな』


【頑張れば、なんでも出来るんですね】


俺は、根本的に無理っぽいけどね!


『魔力まで不器用とは……。逆に凄いな』


ですよね~……。


【しかし、流石はあの方がくれた物ですね】


ああ……。


師匠は、ここまで見越してたのか?


『そうかも知れん』


俺の体には、液体合成金属……青生生魂[アポイタカラ]が馴染みきったらしい。


細胞一つ一つを、ミスリルと同化した細胞膜がおおい、核の周りはオリハルコンを含む物質へと変化していた。


そして、賢者の石……。


俺の細胞には、ミトコンドリアや核の隣に、極小の賢者の石が泳いでいるらしい。


師匠は恋人の復活を目的に、実験で出来たと言っていたが……。


俺用に出来た素材に感じてしまう。


俺の体は、意思の力や魔力が無ければただの人間の体。


逆にその力を持っていれば、無滅の魔法金属と同じ強度まで高まってくれる。


【まあ、魔王を素手で倒す時点で気が付くべきでしたね】


でも……。


『そう言えば、ブルーの魔力も平気で流用しておったな。わしのコアに蓄積できる以上を』


分かるわけ無いじゃん。


神様でも、超能力者でもないんだからさ。


ただ……。


『うむ』


【神様を含めた知識を得ましたからね】


ああ……。


自分でも理解できていなかった力、全てを使える。


これで、戦える!


『うむ』【はい】


奴らを殺す……。


殺しきってやる!


****


「もうすぐね~」


「そうね。この世界が崩壊するまで、まだ時間もあるし十分ね」


「納得できない……」


「ちょっと! ザッファ!」


自尊心を傷つけられたザッファは、双子の女神に食って掛かり始めた。


それだけ力にも容姿にも、自信を持っていたのだろう。


「あいつが凄いのは理解出来る! だが! 俺よりも、顔だけで言うなら悪く無いじゃないか!」


「何? 不満?」


「顔だけと言われては、納得できん!」


「中級神くらい、いなくなってもいいわよね? ユーノ?」


「駄目よ~、アストレア」


手をかざしたアストレアを、ユーノが止める。


「くっ!」


「貴方、顔はいいから私のペットにでもなる~?」


「いや……」


「もう、殺そう。ユーノ」


「あんた、最初レイの事もそう言ってたの覚えてる~?」


「それは……運命に履歴が一切なんだから、仕方ないじゃない! 分からないわよ」


「ね? 落ちつきましょう~」


「ふん!」


ユーノは姉らしく妹を落ち着かせてから、ザッファへと視線を戻す。


「さて……ザッファだったわよね~?」


「ああ!」


「まずは、その無駄なプライドをどうにかしなさいね~。何の役にも立たないし」


「……ちっ」


「あら? 感じが悪いわね~。まさか貴方、レイが最初から特別で優遇されてるなんて、馬鹿な不満を持ったのかしら?」


「それは……」


心を見抜かれたザッファの視線が、ユーノから逸れた。


「ふん! じゃあ、全てが終わって同じ条件を与えてあげるわよ! 私が!」


「ちょ! アストレア……」


「なんなら、神のままでもいいわよ! やってみなさいよ! 敵は私がなってあげるわよ!」


「…………」


「出来るもんならなってみなさいよ! あいつがあそこに届いたのは、あいつだったからよ! たとえ、不死身の神でも、あそこにはたどり着けないのよ! 分かってるの?」


「はいはい、落ちついて~アストレアちゃん」


ザッファの胸倉を掴んだアストレアを、ユーノが再び落ち着かせる。


「でも!」


「まあまあ、ヒステリーはよく無いわよ~。でも、レイが今ここに居るのは、レイだったからよ~。他の誰でも、そうはならなかった」


「確かに、少しだけ私は記憶を見てしまったんですが……。レイ君は、少しだけ特別な人間だった……。ただ、それだけ」


「メーヴェル様? 記憶?」


「そうよ! 運命が定めた勇者の方が、優れた能力を持ってるわ。でも、あの馬鹿はギリギリの死線で、自分の限界を乗り越えてきた」


「あの男が与えた技のみでね~……。同じ条件で、同じ人間を作るためには何人が犠牲になるでしょうね? きっと、百億年かけても無理じゃない? ね? アストレア?」


「当然よ! あの力は、レイだけに許された……。いえ、レイだからたどり着けた力なのよ! あんたみたいなクズとは違うの!」


「お二人は、レイ君を高く評価されているんですね。戦力としても……男性としても」


くすりと笑ったメーヴェルさんは、双子の女神に問いかける。


「なっ! あ……あの! 違……わないけど……」


「アストレアちゃん、落ちつきましょうね~。メーヴェルの言う通りよ。レイは、私達の旦那様になってもらう予定なのよ~」


「そっ……そうよ! レイなら務まるわ!」


「ええ……完璧に限りなく近い男だもんね~」


「レイ君は、完璧では無いのですか?」


「えっと……」


「惜しいんだけどね~……」


「「馬鹿なのよ」」


誰が馬鹿だ! ゴラァ!


「それが無ければ完璧なのに……」


「そうなのよね~。だから……」


「私達が支えるの!」

「私達が調教するのよ~」


「ユーノ姉さん……」


何の話だ?


【さあ……あんまり、いい話には聞こえませんね】


「あ! レイさん!」


「待たせたな。体が、何とか復元できた」


一瞬の笑顔の後、双子のクソ女神が俺の左右の腕に組みつき、眉間にしわを寄せる。


「遅いのよ!」


「私達忙しいんのよ~? つけにしとくわよ?」


なんだよ? それ。


たく……。


『まあ、今なら殺される事もあるまい』


なんでジジィは、俺が殴りかかる事を前提で話してるの?


馬鹿なの?


【違うんですか?】


違うわ!


助けに来た相手に、殴りかかるって!


精神異常者だろうが!


『違うのか?』


違うっつってるだろうが!


はぁ~……。


やってらんね~……。


さて……。


俺は、双子の神様の間に立つ。


そして、右手をユーノ……。


左手をアストレアの頭に、ポンと置く。


「助かった」


さあ!


バッチ来い!


うん……あれ?


殴りかかってこないな?


「馬鹿なんだから……」


「レイは、ずるいわよね~……。馬鹿のくせに……」


馬鹿って言うな!


てか、何?


なんで、顔が真っ赤なの?


何? 風邪?


『不憫な……』


【何も変わって無い……】


何が?


【『はぁ~……』】


ちょ!


言いたい事があれば、ちゃんと言いなさいよ!


口に出さないと、分かりませんよ!


【『はぁ~……』】


ちょっと~!


「と……そこまでゆっくりは出来ないわね」


地面が揺れ……。


空自体が、歪み始めた……。


この世界が崩壊する。


「じゃあ、そっちの神も含めて私達が誘導するから!」


「その穴の外で、待ってて~。すぐに終わらせるわ」


これは……。


「俺がやる」


「レイ?」


あれ? そう言えば、こいつ等何時から俺の名を?


まあ、いいや。


「この世界の無念は、俺が受けとめたんだ。最後までやるのが義務だろう?」


「……分かった」


「出来るの~? 結構難しいわよ?」


「やらせてくれ」


神達の退避を確認した俺は、剣を呼び出す。


それは、最初から融合した魔剣と聖剣。


『よし! 使いこなせておる!』


剣に灰色の刃を灯し、虚空に向かいそれを振るう。


【問題ありません! いけます!】


<サザンクロス!>


十字に切り裂いた空間は、光となり世界全てを飲みこんだ。


「いともあっさり……」


「ちょっと……格好いいじゃない」


「さあ、何処に向かうんだ?」


「私達の家……魂の故郷よ」


なるほど……。


【本当に、生きたままあの世行きですね】


確かにな。


「じゃあ、出発よ。ついてきなさい」


****


二人の女神の誘導で、世界の中心へと向かう。


本当の中心へ……。


で……。


「あの……」


「な~に~?」


「いや……」


「何よ? はっきり言いなさいよ」


いやいやいや……。


【いいじゃないですか。貴方の夢じゃないですか?】


「何故俺は、お前達の小脇に挟まれてるんだ? 飛べないけど、走って付いていけるんだが?」


両腕を女神に挟まれた俺は、身動きがとれない。


何がしたいの?


「楽出来ていいじゃないの~」


「あの! あれよ! レイが逃げ出さない様に……してるだけよ」


誰が逃げるか!


「レイに逃げられると、私達が怒られるから……その……。嫌?」


「そりゃあ、身動きとれないのはぁあああああ! 痛い痛い! 折れる! 折れる!」


「あら~? オリハルコンが守ってくれるんじゃないの?」


「あれは、闘争本能が高まってる時……戦闘中以外はほとんど発動しないんだよ! てか、知っててやってるだろう! 放せよ! 折れるって!」


「だって……。レイ? 普通、人間の男って第一印象がよくない相手ほど、優しくされると好感度が上がるんじゃないの?」


「何!? その情報!?」


「人間の……その、雑誌に……」


何読んでるの!? 女神さま!?


馬鹿なの!?


てか、印象が悪い相手は、悪いままですよ!


嫌いは嫌い! 好きは好き!


『さあ、口に出せ』


断る!


【相変わらずの、へたれっぷりですね】


だって~。


情報を貰って分かったけど、性格はあれだけどこいつ等本当にいい方の女神じゃん。


『世界を、あの方とともに守っておったようじゃからな』


攻撃できない以上……。


やられる!


てか、やれせんよ!


「どうやれば、印象とかってよくなるの?」


それを、聞いちゃいます?


本人に!


『コミュニケーション能力は、小学生並みじゃな』


【仲良くしたいんでしょうね】


まあ、これから一緒に戦うから、女神なりの気遣いなんだろうな。


『お前……』


【結局、そうなっちゃうんですね】


何が!?


えっ!? だってそうだろ?


仲の悪い奴に、背中を預けられないじゃん!


『お前……実はわかっとるな』


さあねぇ……。


【この二人でも駄目ですか?】


『神としては……いや、この二人以上に死なない女は、そうはおらんぞ?』


まあ、二人で……。


ハーレムも味わえそうだよね~……。


でもさ……。


【自分に厳し過ぎやしませんか?】


お前達も知ってるだろう?


俺の背負った者の重さを。


そして、何をしないといけないかを。


『確かに、生きて帰れる保証は無い……』


ここで、気を緩めれば希望に……希望の仮面を被った絶望に飲み込まれる。


【でも……】


この二人も、死なせていい奴らじゃない。


梓さんの事も、俺の不甲斐無さが招いた結果だ。


この二人は、何とか悪意を浄化しようと限定された力で頑張ってたんだ。


全部俺のせいだ。


愛する人が死んだのは、全部俺のせいだ。


そして、まだ力と言う罪に身をゆだねると決めたんだ。


なら、大好きなこの世界を守る……守りきるしか、俺の存在していい理由なんてない。


【意思は、変わりませんか……】


もし、生き残る事が出来れば……。


奇跡がおきたら……。


世界は、そんなに都合よくは出来て無い。


残酷なんだ。


運命に存在してないはずの俺が、足掻くしかないだろうが。


命を惜しめば、恐怖に負ける。


絶望に飲み込まれる。


なら、意思なんていらない。


俺は、敵を討つ一本の剣でいい……。


敵を殺す為の……。


『ふ~……頑固者が。育て方を間違えたわい』


お前に育てられた覚えはない!


【貴方が、そうしたいなら……一緒に消えましょう。この世から】


今から、あの世に行くけどね~……。


「何? さっきから、眉間にしわが出来てるじゃない。機嫌悪いの?」


「こんな美人二人のボディタッチで機嫌悪くするとかって、無いんじゃないの~?」


「いいや……」


うん。


二人ともいい女じゃないか。


死なせるのも……。


未練を持たせるのも……。


俺には出来ないよ。


「なっ! 何よ! 急にほほ笑まないでよ!」


馬鹿で不器用な俺には……。


「調子が狂うのよね~。レイといい、あの男といい……」


笑う事くらいしか出来なよ……。


あ~……。


情けない。


一度は憎んだ相手に、覚悟をもらうなんてな……。


ははっ……。


こいつ等が……。


オリビアが生きる世界を、守るんだ。


代償は俺の命? 存在か?


商売としては、ぼったくりもいいとこだな。


俺がいなくても、何も変わらない。


悲しむ人もいないよな。


あいつ等は、俺を覚えて無いし。


他の世界は、きちんと別れを告げてきた。


『ふん! あの方も含めた、神が惜しんでくれるわい』


神様の涙かよ……。


【贅沢の極みですね】


でも、出来れば……。


「何をもじもじしてるの~? アストレア?」


「えっ!? あ……別に……」


「話したいけど、何を話せばいいか分からない?」


「その……」


「なに顔を真っ赤にしてるのよ。人間の小娘じゃあるまいし~」


「ユーノ! 五月蝿い!」


こいつ等にも泣いて欲しく無いな……。


泣いてくれるかも分かんないけど……。


出来れば、忘れて欲しいな……。


全部終わったら。


【普通は、逆じゃないですか? 覚えておいてほしいと……】


俺は、俺の死んだ後の事なんて知らん。


それに、ろくな事しなかったから……。


きっと馬鹿にされるのがおちだ。


だから、全て消える……。


そうなれば理想的なんだよ。


「ちょっと~? 何笑ってるの? レイ?」


「いや、何でも無い」


誰に褒められたいわけじゃない。


俺自身の中で、俺と言う罪の最後を見つけるんだ。


ただ、それだけでいい。


俺には、上出来だ。


****


「あれよ。あれこそ、神と世界の故郷。魂の故郷よ」


巨大な光の球が、浮いている。


あれが、全ての魔力と魂が生まれて、消えていく場所。


「あそこに……梓さんはいるのか?」


「あ……あれは、私達のせいじゃないのよ~? どうしようも……」


「分かってるよ。悪いのは俺だ。ただ、師匠の大事な人や、母さん達は魂が消えずに残っていたよな?」


「あれは……駄目なのよ。悪意にのまれていたの。消滅させないと……」


「そうか、それだけ分かればいい。都合よく生きかえらせるなんて、無理なのも分かってる」


そんな奇跡が、二度もおこるはずが無い。


一度だけでも、何かの間違いなんだ。


運の悪い俺に、二度はない。


光にそのまま突き進むと、中には緑の山々が広がっていた。


草原に小川……。


『これは、なんとものどかな風景じゃな』


えっ!?


何このマジヘヴン光景は?


【住みやすい場所……なんじゃないですか? 神様なら、自由に出来るでしょうし】


あれは……。


神社? って建物に似てるな?


【まさに、神の屋代ですね】


人間の世界にあるのは、ここを模した物かな?


『かもしれんな』


信じられないくらいの魔力を、あの中から感じる。


あれは、多分……。


「で? これからどうするんだ?」


「私達は、そこの神達に意思確認をするわ」


「確認?」


「レイも分かってると思うけど、生き残れる可能性はあんまり高くないのよね~」


なるほど……。


【最終戦に、参加意思があるかどうかですね】


命をかける覚悟は、ここに来た全員がしてるだろうけどな。


『しかし、能力が……』


「意思がある者には、一時的に主神並みの魔力を与えるのよ。ここなら、それが可能なの」


まあ、俺達が気付く事なんて想定済みって事だな。


「その間に、レイは主に会ってきて」


「主……」


「そう、創造主が作った。最初の神。レイの師匠……あの男の上司でもあるわ~」


なるほどね。


俺は、神じゃないから力を貰えないよな。


【十分でしょう。皆さんの想いは受け取っています】


ああ……。


「あの中へ行けばいいんだな?」


「ええ。あまり時間は無いわ。右に回れば、本殿の入口があるから」


「分かった」


****


俺は、木でできた階段を上り、本殿へと向かう。


豪華に金で装飾された、木の扉を開くと……。


ついてね~な。


たく……。


大きな広間が広がり、奥には光の壁があった。


体の後ろ半分と両腕が光の壁と同化した、女神様が目を開く。


「よくきましたね。レイ」


女は殴れないし……。


蹴りあげるケツが、無いじゃないか。


あ~あ……。


「私は原初の女神、ルー:ダグザ。ルーで、結構です」


ルー……。


一番偉い神様にしては、可愛い名前だこって。


「で? 俺は、何を聞けばいい?」


「話が早くて助かります。汚れが、創造主様に迫っています。それを排除して頂けませんか?」


「うけるが、創造主ってのは何処に居るんだ?」


「この魂の故郷の中心です。けがれ達は、創造主様をも取り込もうとしています」


いろいろ聞きたいんだが……。


何から『聞けば』【いいんでしょうね?】


「創造主様とは、意思もった強大な魔力生命体です。彼が、何もない無からこの世界を創造しました」


ほほう。


「意思はありますが、世界と命の中心なので、身動きは取れません。それから、敵についてですが……」


うん。


「敵にも中心となる、もっとも古き融合体ユミルがいます。ユミルを倒せば、穢れ達の情報網と統括が崩れ、勝てる見込みが出てきます」


ユミルか……。


「貴方もよく知っての通り、魔力を支配するには意思の力が必要です。通常の穢れでは、世界五つ以上を制御できません。ただ、ユミルは多くの邪念が集まってできた存在です」


で……。


「はい。現在は、十五の世界と同等の魔力を有しています。ユミルの目的は、創造主様との融合。そして、過去未来全てを手に入れる事です」


おいおい。


「創造主様こそ世界であり、この世界の法則でもあります。創造主様を取り込めば、時間空間すら自由になるのです」


欲望の塊か……。


しかし……。


「ユミルは狡猾で、周到です。今まで、貴方の師匠や双子神が追い続けましたが、捉える事は出来ませんでした。そして、十分な力を得たと判断した瞬間……今から一二時間ほど前に、ここへと部下を引き連れて侵入してきました」


これは、死神共もここにきてるのか?敵として。


『時間的には分からんな。全員は来ておらんかもしれんな』


「死神達は、外に居ます。彼らも、元は本当にいい神だったのですが……。絶望にのまれてしまいました」


神様って言っても、精神力は人間並みだな。


【そうですね……】


「今、世界は最大の窮地です。ですが……」


「敵を倒せる最大のチャンスでもあるのか?」


「はい。切り札は、貴方です。真幸さんと、姉妹だけではユミルに勝てないでしょう。ですが、貴方がいれば勝てない訳ではありません」


勝率は……。


「三割と言ったところでしょうね」


命をかけるなら……。


『わし等にとっては、十分じゃな』


ああ……。


「真幸さんは千の兵力で、外の世界に残った敵を掃討しています。もちろん、全員が主神クラスです」


おっかない兵力だな。


てか、女神様は……。


「見ての通り、創造主様がユミルにより世界の制御を失いかけています。私は、それを支える為にここを動けません。動けば、世界が崩壊してしまうんです」


やっぱ、かなりヤバいのか。


「そうですね。私は、創造主様より劣ります。現在も、世界は不安定になり始めています」


ふ~……。


じゃあ、行くか。


『そうじゃな』


【時間も無い様ですしね】


「まるで、散歩に出る様に言いますね。怖くは無いのですか?」


そんなもん。


「捨ててきた」


「今から、長い時間の戦いが始まるのですよ? 強大な敵との」


「望む所だ。そこが、俺の居場所だからな」


てか、心が……。


読まれてる!

『読まれとるな』

【読まれてます】


「はい。読めますよ」


ヤベ!


俺、ケツけるって考えちまったよ。


「構わないのですが、生憎今は世界と同化していますので……」


「冗談デツ」


「ふふふっ。相変わらず、嘘が下手ですね」


あんたが、俺の何を知ってるのさぁぁぁぁぁ!


【いやいや、相手は神様ですって】


『知っておるじゃろう』


あ! そうだった!


てか、これも……。


「うふふ。読めていますよ」


おっふぉう!


ちっ……。


なら、開き直るしかない!


『またか……』


【らしいと言えば、らしいですが……】


俺は、女神に人差し指の先を向ける。


そして……。


「ケツは蹴らないが、無事に帰ったら、胸を揉ませろよ!」


【『クズ』】


五月蝿い!


「ええ、喜んで」


女神は、優しく笑いかけてくる。


その瞳には……。


悲しみの色。


分かってるよ。


俺は、ここに帰ってくるのは無理だろう。


でも、俺は強がってこそ、俺だ!


目の前で、美人が世界を支えて踏ん張ってるんだ。


ここでやらなきゃ、男じゃない!


いや! 俺じゃない!


「じゃあ、ちょっと馬鹿を殴り飛ばしてくる」


俺は、女神に背中を向ける。


さあ! 最後の戦場だ!


『うむ!』


【行きましょう】




「いってらしゃい……レイ」




あれ?


まあ、いいか。


「おう!」


俺は、背中を向けたまま右手を上がる。


弱い俺は、振り向かずにそのまま進む。


そこに真実があると言うのに……。


情けないよな……。


あ~あ。


やってらんね~……。

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