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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十二章:闇の深淵と神々編
48/77

九話

「やっ……た……」


「やりやがった! あいつ!」


「レイ……さん……」


「うおおおおお!」


「やってくれたんだ! あの男が!」


「何て人間なの……」


「わあああああああぁぁぁぁ!」


「レイ君……貴方と言う人は……」


「メーヴェル様! ヤニ! ローズ! レイさんが! レイさんが!」


「うん! うん! うん!」


****


とても……。


とても遠くで歓声が聞こえる……。


遠過ぎて……。


現実じゃないみたいだ……。


なんで、皆騒いでるんだ?


何かあったのか?


『おい! しっかりせんか!』


【限界……なんですね?】


限界?


よく分からない……。


ただ……。


『くっ……ここまでか……』


【よく……よく頑張りましたね】


ただ、少しだけ……。


『そうじゃな。これだけ苦しんだんじゃ……』


【ええ。もう、楽になっても許されます】


眠いんだ……。


外の情報は俺に伝わってくる。


でも、それが現実とは思えない……。


ただ、眠くて……。


『ゆっくり休め……』


【もう、苦しまない世界で……】


何言ってるんだ? 二人とも?


俺は、まだ戦うんだ。


ただ、疲れたから……。


ちょっと眠るだけだ。


起きたら戦うんだ……。


【地獄の亡者は私が、退けましょう】


『わしの全てをかけて、天国へ押しやってやる』


まるで死ぬみたいじゃないか……。


まだ、何も終わって無いのに……。


『さあ、眠れ……』


【勇者よ……】


まだ……。


まだ、なのにな……。


あ~あ……。


やってらんね~……。


ピシッと音を立てて入ったヒビが、ビキビキと広がっていく


負荷をかけ過ぎた俺の右足が、カシャンと粉々に砕けた。


人間の壊れ方じゃないな……。


血も出ないよ……。


パシップチッと、また音が足から聞こえてくる。


陶器の様に壊れた右足のせいで、重みに耐えられなくなった左足が膝から折れる。


両足を失った俺は、ドサリと前のめりに地に伏せる。


なんだ?


眠くて仕方ない……。


でも……。


体中にヒビが走り、壊れていく……。


亀裂が走る音だけが、頭の中に直接響いてくる。


はははっ……。


人間の死に方じゃね~じゃん。


あ~……。


これが、限界を超えるって事か……。


人間が、あの領域に行くって事は……。


こうなる事なんだな……。


ちくしょう……。


まだ、守れて無いのに……。


まだ、戦いたいのに……。


ガシャンとまたどこかは、壊れた……。


****


「レイ……さん? 嘘! 嘘よ! 嫌ぁぁぁぁ!」


エルミラの悲鳴で、歓喜に沸いていた神々が俺に気が付く。


そして、駆け寄ってくる。


「嫌! 嫌です! 嫌です! レイさん! レイさん!」


そんな事言っても……。


「レイ君! ああ……。誰か……誰か! 彼を助けて! ああ……お願いよ……誰か……」


泣かないでくださいよ……。


俺は、女の人に泣かれるのが苦手なんですよ……。


「レイさん! レ……イ……さん! うう……ううっ」


ちくしょう……。


俺は、こいつ等の涙を止める事が出来ないのか?


守ってやれないのか?


ああ……。


くそ……。


「ぐすっ……メー……ヴェル……様?」


「私の核を、全て彼につぎ込みます!」


「そんな……」


「彼を生かす為なら……生かせるなら! 命など不要です!」


止めてくれよ……。


いちいち、命を捨てようとするなよ……。


「そうだ! 神になれば! レイ君が神になれば、多くの命が救われる! 僕の核も使って下さい!」


「ヤニ君……」


「私の命も!」


「ローズさん……」


止めてくれよ……。


「私もだ!」


「私の命も! 彼に!」


「俺も!」


「私の核も!」


大勢の神が……。


俺に命をささげると言い始めた。


止めてくれよ。


俺は、何のために戦ったんだよ?


「レイ君? 聞こえますか?」


ああ、聞こえてるよ。メーヴェルさん。


「私達が生きるよりも、貴方一人が生きる事が多くの命を救います」


勘弁してくれよ。


俺は……。


「もし、上手くいったら……。頑張って下さいね」


なんだよそれ!


止めろよ!


そんなもん背負いたくないんだよ!


俺は、あんた達も守りたいんだよ!


「レイさん……大好きです。生きて下さい」


エルミラ……。


止めて……くれよ……。


ちくしょう……。



「えっ?」


なんだ?


何も無い空中に、いきなりジジジっと火花が走り……。


空間に球状の……穴!?


死神の結界を、誰かが外から?


「ちょ! 勘弁してよね~!」


「何やってんだ! 馬鹿!」


穴から、青と赤の光が崩壊を始めた世界へ飛び込んできた。


「退きなさい!」


お前らかよ……。


「急ぐわよ~! アストレア!」


「ええ! ユーノ!」


二人は、みんなを退かせると……何かの術をくみ上げる。


「あ……あの……メーヴェル様?」


「間違いない……。二強の一角……裁定の双子神です」


まさか、この二人が来るなんてな……。


「駄目! もうちょっとかかるわ! アストレア!」


「分かってる!」


アストレアが、俺に魔力を流し込んでくる。


そして、ユーノが術の組み上げを続けた。


俺の魂を補充しようとしているのか?


でも、確か……。


「あっ! 皆さん! 狭間への穴が開いています! 魔力を補充して、彼に注ぐんです!」


アストレアを見ていたメーヴェルさんが、大きな声で皆に指示を出す。


「え? メーヴェル様? 人間にそんな事をしても、意味が……」


「早く! 彼は特別な……はずです! 早く!」


「はっ……はい!」


神達が次々に、魔力を補充してこちらにそれを向けてくる。


しかし、俺の体は崩壊を続ける。


俺の体中に広がるヒビは、どんどん広がって止まろうとはしない。


「くっ……馬鹿! 馬鹿よ! なにやってるのよ!」


「アストレア……」


「止まらないじゃない! ううっ……何してるのよ! 馬鹿!」


「泣きやみなさい! アストレア!」


泣きそうになっていたアストレアに、ユーノが珍しく強い言葉をぶつける。


「ユーノ……姉さん」


「私達は今できる事を、精一杯やるだけよ! あの男のいう通りなら……助かる! 助けてみせるのよ!」


「う……ん……。うん! 助けて見せる!」


「そうよ! も……もう……少し! 助かったら、無理やり交際を迫ってやるのよ! いいわね!」


双子の女神は、頷き合う。


「うん! ごめん!」


勘弁してくれよ……。


ああ……。


ちくしょう……。


「行くわよ! アストレア!」


「ええ!」


俺の体のうえに、立体の光る魔方陣が出現する。


「さあ! 神になりなさい!」


「最強の神に!」


なんてこった……。


俺には、分かっちまうんだよ……。


「くう! なんで?」


「何でよ!?」



それは、今の俺は受け取れない。


受け取る器……魂と肉体が……もう駄目なんだ。



「なんで、崩壊が止まらないのよ! しっかりしなさいよ!」


「レイ! お願いよ! また、私にクソ女神っていいなさいよ!」


「どうしてなのよ! しっかり……しなさいよぉぉぉぉぉ! 馬鹿ぁぁぁぁ!」



「また……笑ってよ……レイ……」


****


ああ……。


ちくしょう。


女が泣いてる。


俺は、これに応えられないのか?


ちくしょう……。


戦いたいんだよ……。


守りたいんだよ!


俺に……。


俺に力をくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


(ならば、私がお前を支えよう)


お前は……。


(わたくしの想いを受けとめて下さい)


(俺の憎しみを、背負ってくれるか?)


(わたしの悲しみをささげます)


(僕の愛が貴方を押し上げます)


(あたしの憎悪を、受け取って)


(あたいを受け入れてちょうだい)


お前達は……。


俺の体は、地に伏せったまま崩壊を続けている。


それは、認識できている……。


でも、俺の意識は……。


真っ白な世界で、半透明な人達に囲まれていた。


これって……。


****


「えっ!? メ……メーヴェル様……メーヴェル様!」


「どうしたの!? 今は……何? あれは、何?」


二人の女神が開いた、次元の穴……。


そこから……。


「えっ!?」


「ちょっと! アストレア! 緩めない……で?」


「何!? こいつ等!? レイの体に……」


完全な人の形を保った者から、ただの靄のような者まで……。


大勢が、俺の体へと向かい……。


そして、消えていく。


「うそ……あれは……主様……」


「あれは、私の世界の……」


魔力を持った者や、無い者……。


人間に限らず、それは全て俺を目指す。


「ちょっと! ストップ! 魔力を止めなさい!」


ユーノの声で、俺へと供給されていた魔力は止まる。


徐々に……。


俺の体から、灰色のオーラが煙の様にあふれ出す。


微量だったそれは、どんどん量を増やし……。


風を生み出し……。


「ま……まずいわ! 結界を!」


「もう! 勘弁してよ!」


状況をいち早く理解した、二人の女神が他の神を含めて、結界で体を覆う。


自分達の……。


身を守るために。


俺の体からとめどなく溢れ出すオーラは、俺の体を中心に暴風となり荒れ狂う。


それでも、思念体達は俺へと向かって歩き続ける。


その想いを、救いの光に向けて……。


****


(さあ、引き受けてくれ。強き者よ)


力を……。


俺に、もう一度立ち上がる力をくれるなら!


全部引き受けてやる!


背負ってやるよ!


さあ!こいよ!


(託したぞ……全ての想いを!運命を打ち破りし、真の勇者よ!)



ぐがっ……あああああああああああああああああああああああああああ!



悪意により散って行った者達の、全ての想いが俺へと受け渡された。


そして……。


****


「も~! これじゃあ、私達完全な無駄骨じゃないの~」


「光が……。あの方はこれを分かっていたの?」


「アストレア~。顔がにやけてるわよ~?」


「あの方は……なんて……なんて者を」


俺の体から溢れ出していたオーラは、周期的に回転を始める。


そして、力の風は竜巻を作り出した。


「これは!? なんですか? レイさんは……」


「黙って見てなさい、お嬢ちゃん。今、結構歴史的な瞬間なんだから~」


おろおろとするエルミラに、ユーノは諭すように言葉をかける。


「申し訳ございません! 双子神様! 私は上級神のメーヴェルと申します!」


「な~に~?」


「彼……レイ君は、人間のはずではないのですか!?特別ではありますが……」


「面倒だけど~……。時間はかかりそうだしね。いいわよ。教えてあげる」


双子の女神は、俺を見つめながら神々へ説明を始めた。


「レイは、特別な……変質した魔力と魂を持った人間だった」


「変質した魔力? ですか?」


「そうよ~。あんた達も知ってると思うけど、人間に属性は無いし、魂の消費は出来ても補充は出来ない」


「はい……それは」


「あの男……最強の破壊神が与えた、ミスリルと言う不滅の魔法金属と、魂の力を流用できる賢者の石を使って、特別な剣を作った人間がいたわ」


「その剣を使うと、自分の魂を使うから何人もの人間が、敵を倒すと同時に死んでいったのよ~。でも、レイだけに特別が起こった」


「特別?」


「父親の魂が、レイ自身の魂を守った事で、十年以上その剣と同化を続けたのよ。そして、魔力……魂が変質した。神の様に、吸収と言う属性を持った魂にね」


俺自身が知らなかった事を、ユーノ達は知っていた。


「もしかして、それで魂を補充できるのですか!?」


「そうよ~。さらに、オリハルコンの剣と同化した魂は、融合の属性まで手に入れたの。これが、第一段階」


「まさか! それで、レイ君は……」


「この世に存在しなかった、あの灰色の魔力を生み出して……」


メーヴェルさん達にも、灰色の魔力があり得ない物だという事は分かっていたらしい。


「敵の魔力を取り込む事で、自分より強い敵を倒してきたのよ~。あのお馬鹿さんは、分かってない様だけどね~」


「それでも、物理的な肉体に生きる比重が大きく左右される人間のレイは、限界を迎えた」


「苦肉の策で、肉体を補助して意思の力に反応する特殊な液体金属を破壊神に与えられたのが、二段階目」


「そして、今目の前で三段階目を超えようとしているわ。どれだけ苦労したんだか……馬鹿ね」


アストレアは呆れたように、穴から息を吐き出す。


「三段階目!?」


「人間を構成するのは、肉体と魂……そして精神よ」


「メーヴェル様? 私……あの……分からないです」


エルミラからの問いかけに、メーヴェルさんは自分の推測を交えて喋り出した。


「私達神と人間の大きな違いはただの魂か、膨大な魔力を蓄積できる代わりに、属性が限定される核を持っているかです」


「はい」


「肉体の限界を超える力を引き出すのは意思の力、そして膨大な魔力を操るのも意思の力……」


「では、レイさんは……」


「元々、二本の剣に宿った二つの精神も受け入れる事で、人間では不可能なレベルの肉体と魔力を操っていたんだけどね~」


「その強い想いが、次元の狭間に漂う思念体全てを引きよせ……。引き受けたのよ。本当……馬鹿なんだから」


メーヴェルの推測を、双子神が補足する。


「まさに、全てが神を超えた存在……ですか」


「えっ!? でも、レイさんに神の核は無いですよ?」


「そうよ。魂は人間のまま。属性の限定も魔力の限界も無い以上、もしかするとまた変質するかも知れないわ」


「人間のまま……」


「レイはその強い意思の力で、誰も成し得なかった事を……。神を超える人間へと、たどり着いたのよ。幾億の地獄を乗り越えて……」


「神を超えた……人間」


エルミラは笑いながらも、ごくりと喉を鳴らして唾液を飲み込んだ。


「アストレア……目を潤ませながら、にやけないの~」


「あ……でも……」


「分かります、アストレア様。レイ君を見ていると、私達に希望が沸いてきます。でも……泣きそうなほど……悲しみを秘めた……とても暖かな光は……」


「メーヴェル~? あんたも泣かないの! あいつがそれを嫌がるのよ! ほら! 笑いなさい!命令よ!」


「は……い……はい!」


****


俺から溢れ出した力は、俺の体へと戻り定着していく。


そして、崩壊を続けていた体は……。


体内の合成液体金属と魔力により、体を補っていく。


『全く……しぶとい奴じゃ』


【声が笑ってますよ? 賢者様】


『ふん!お前も同じじゃろうが!若造!』


【はい!】


何が嬉しいんだか……。


死んだ方が楽なのに……。


ドMかよ……。


また、戦うんだぞ?


【喜んで】


『戦場のみが、わし等の居場所じゃろうが』


たく……。


この二人といい……。


あいつ等といい……。


俺は、勇者じゃないって言ってるのに……。


ききゃしね~……。


あ~……。


やってらんね~……。


でも、まあ!


引き受けた以上! やり遂げる!


じゃ、ないとさ……。


【はい!】


『うむ!』


俺の魂が死んじまうからな!


覚悟してろよ!


くそったれ!

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