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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十二章:闇の深淵と神々編
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八話

「げほっ……はぁはぁ……げはっ!」


俺の足元には、また真っ赤な水たまりが出来ていた。


くそ……。


くそ……。


血だまりの中で、見開いた眼は敵を映し出す。


真っ黒だったはずの敵は、白い光へと変わっていく。


まだ……。


「ぐうう! ごほっ……くそが……」


まだ、敵がいる!


終わってない。


動けよ……くそが。


『ぐがあ! ま……魔力……魔力の循環は、わしが保持する!』


【はい! くうう! 絶対に!……治して見せます! ぐぐっ!】


****


「レイさん! !嫌! いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「待ちなさい! エルミラさん!」


「放して下さい! レイさんが!」


半狂乱で走り出そうとしたエルミラを、メーヴェルさんが止めてくれた。


「貴女がいってどうなるんですか!」


「でも……」


「分かっています! 分かっているんです……。でも、もしこの中の誰が死んだとしても、彼自身が死ぬよりも彼が苦しむんです」


「くそぉ! 人間のレイが……くそぉ!」


悔しさから神達の心に再び黒い感情が湧き出し始めていた。


「落ちつきなさい! 私達には、もう魔力が残っていないのです! 彼の邪魔にしかなりません!」


「レイさん……」


「彼を……信じるんです! 私達が!」


「メーヴェル様……」


****


全く体の動かない俺は、血だまりの中……。


ただ、立ち尽くす。


まだ戦うんだ……。


俺はまだ戦える……。


体中が脈動を止めてくれない。


ドクン、ドクンと痛みを伴った音だけが、大きくなっていく。


広がり切った苦痛は、際限なく強くなっていった。


ぐ……があああああぁぁぁぁぁ!


体中を、自分では表現できないほどの苦痛が駆け巡る。


分かってるんだ……。


【しっ……かり! しっかりして下さい!】


人間の限界なんて、知れている。


それでも、力が必要だった。


守るための力が……。


『くっ! ぐうう! 意識が……意識が、混濁し始めた!』


分かっていたんだ……。


俺は、とうの昔に限界を超えてしまっていた。


ミルフォスと戦った時?


ヨルムンガンドと戦った時?


悪魔達と戦った時?


偽神へ全てをぶつけた時か?


いや……。


そんな生易しい限界なんて、今の足元にも及ばない。


なぜ俺が生きているか……。


知っているなら教えてくれよ。


誰でもいいから……。


ああ……。


『しっかりせんか!』


俺は……。


(レイ?)


オリ……ビア……。


(レイよ!)


梓……さん……。


【ここまで……なんですか? 貴方は!】


ああ……。


二人とも……。


泣かないで……。


『しかっりせんか! この……馬鹿者があぁ!』


泣かないでくよ!


守って見せるから!


必ず! 守るから!


「がああああああああ!」


『よし! そうじゃ!』


こんな苦痛がなんだ!


殺された人達は、もっと苦しんだんだ!


辛かったはずだ……。


悔しかったはずだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


こんな苦しみ!


【そうです!】


クソ食らえだ!


「はぁ……はぁ……」


なんだ? 今のは?


どうなってたんだ?


『心肺停止じゃ』


おいおい……。


【臨死体験は、何度目でしょうね?】


覚えてね~よ。


ちくしょう……。


****


光の収束した馬鹿が、自分の体を確かめるように拳を見つめている。


いったい、いくつ分の世界を飲みこみやがったんだ?


化け物が……。


「素晴らしい……。素晴らしい! これが、真の神の力! 最高だ!」


見た目は、本当にただの人間。


「どうだ? イレギュラー? 私はついに手に入れたんだ! 神を超える力を! くははははっ!」


イレギュラー?


ちっ……。


『記憶を共有しておるんじゃったな……』


気分の悪い……。


「最っ……高だ! これで何でも思い通りだ! 何でも手に入る! 全て私の思うままだ!」


それだけ奪っておいて……。


まだ望むのか? クズ野郎……。


【欲深い事ですね。……気分が悪くなるほどに!】


ああ……。


「これでもう、お前達の邪魔も……。くはははっ!」


馬鹿が、裸で笑ってるよ……。


はぁ~……。


あの馬鹿を……。


殺す為に……。


ジジィ! 若造!


お前等の命も!


俺にくれ!


『ふん! 持っていけ!』


【もちろん。付き合いますよ! きっちり地獄まで!】


行くぞ!


『うむ!』【はい!】


この化け物に、下手な攻撃なんて意味が無い。


なら、今俺に出来る最大の攻撃を!


俺の全てを!


魂も! 運命も! 存在そのものを力に変えろ!


この一撃を、今できる極限に!


【『「おおおおおおおおおおお!」』】


全身を覆う灰色のオーラ……。


それと同色の刃が、一つとなった特別な剣に出現する。


加速を続ける俺の視界は、静止した……。


いや、とてもゆっくりと動く世界をうつす。


そして……。


<ディメンションブレイカ―>


俺の全てを乗せた刃を振り抜いた。


「がはっ……」


元の時間へと戻った俺は、切り裂いた敵へ目を……。


「くははっ!」


そんな……。


「それでは足りないようだな? イレギュラー」


斜めに裂けた馬鹿の体は、何も無かったかの様に元へ戻っていく。


くそ……。


魔力が足りなかったのか?


コアが消滅させられなかったんだ……。


「これがお前の限界だな! イレギュラー!」


くそったれ……。


「神を超えた私に……殺される事を光栄に思え! くはは!」


『ぬう……』


【この……】


俺に残ったのは、後数分で燃え尽きる魂と……。


限界を超えて、動かない体。


ちくしょう……。


「く……そっ……たれ……」


「さあ! 消えろ! 出来損ないめ!」


こちらに向けられた掌には、光が集まって行く……。


「ぬおおおおおおお!」


「が……はっ……」


俺と馬鹿の間に飛び込んだ、ガイストの体を凄まじい威力の魔力砲が貫通し……。


俺の体の触れた部分をそのまま消し去った。


俺の左肺……。


左肩……。


心臓は、この世から消えて無くなった。


そして、支えを失った俺の左腕がぶらりと垂れ下がる。


「く……そ……」


前のめりに地に伏した俺の目の前で、馬鹿が大きく口を開く。


あれは見た目が人間と似ているだけで、人間ではない。


胸元まで大きく裂けた口で、ガイストの体を丸ごと噛み砕き……。


飲み込んだ……。


くそ……。


またかよ……。


また、守れないのかよ!


くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


(私は神だと言うのに、盾にさえなれなかったな。すまない)


えっ!?


ガイスト!?


お前……あそこで食われてるんじゃ!?


目の前に居るガイストは、魂ですらない。


当然だ。


魂……神のコアを敵に吸収されているんだから、ここにあるわけがない。


(お兄ちゃん……)


ガキ!?


お前の魂も、吸収されたはず……。


(憎い! 私の家族を……奴は!)


これは……。


俺は、おかしくなったのか!?


いないはずの奴らが見える。


確かに見えるのに……。


目にはうつらない。


そこに魔力は感じない。


こんな事って……。


(魂も肉体も……全て奴に取り込まれてしまった)


ガイスト?


(だが、この想いは消えない)


あ……。


俺は、これを知っている。


(この世界に生きた、全ての生物の無念は消えない)


一度だけ見た事がある。


(だから……)


ジジィと初めて会ったあの日……。


父さんの魂は、想いの強さで姿を具現化した……。


エゴールとババァの様に、魂で精神に話しかけるほど力が残っていない想い。


見えるはずが無い。


(最後に残った私達を……私達の想いを!)


これは、精神と言う実体を持たない……。


力なのだから。


「ガイスト……」


「これで……終りなのか……」


「ああ……」


俺に希望を見た神達は……。


絶望と恐怖に飲み込まれた。


「メーヴェル様……」


「愛する子供達も、守れないなんて……」


空と雷……。


そして慈愛を司る神であるメーヴェルさんは、その絶望の中でも子供の様に愛する、教え子達を抱き締める。


自分の体で守ろうとでも言うのだろうか?


目の前にいる、無慈悲な神を超えた者には意味が無いのに。


泣かないでくれよ。


今……。


今、俺がそれを振り払ってやるから……。


殺してやるから!


「ん? イレギュラー……しぶといじゃないか」


「レイさん?」


「その怪我は、人間ならば致命傷のはずだがな?」


「レイ君?」


「なんだ?……何だその目は!」


殺す……。


「何故そんな目が出来る!」


殺す!


「お前は死ぬんだ!」


殺して……。


殺してやる!


「ぐうう……があああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺の体内から溢れ出した灰色のオーラは、突風をおこす。


そして、失われた体のパーツを補っていく。


「あれは……何だ!? 魔眼には何も見えないぞ!?」


「私の神眼でも、何も……」


「じゃあ、あれは何だ!?」


「分からないわよ!」


「なぜ……見えもしない……魔力も感じないあれに……。これほどの力を感じるんだ!?」


「あれは……人間なの?」


「なんだ!? それは!? 魔力どころか、魂さえ残って無いと言うのに……」


肉体の……魔力の……魂の限界を超えろ!


「あれは……意思の力? なの?」


「メーヴェル様? 意思?」


「レイ君の持つ剣……オリハルコンを、完全に変形させるほどの意思の力……」


「それが、あの力ですか!?」


「分かりません。分かりませんが、そうとしか……」


おおおおおおおおおお!


一つとなった二つの特別な剣に、再び魔力の刃が灯る。


その灰色の刃は、黄金の輝きを放ち始めた。


「ふっ……ふん! また、それか! それでは駄目なんだよ!」


限界なんて、クソ食らえ!


一撃で足りないなら、何回でも斬りつけてやる!


「この……ゴミクズが!」


極限で足りないなら!


それ以上を出すだけだ!


「うおおおおおお!」


魔力よ!


魂よ!


意思の力よ!


俺を導け!


<ディメンション……>


「くっ!」


馬鹿が、障壁を作ろうとしている。


遅いんだよ。


死ね! くそが!


光速へと達した俺は、誰も動かない時間の中で剣を振るう。


全てが導くままに……。


振り抜くのが速過ぎる……。


軌道が違う……。


力を逃がさずに、全てぶつけるんだ!


<ブレイカ―……>


斜めに撃ち込んだ刃は、敵のコアを傷付ける。


まだ、足りない。


自分自身の体を軸に……。


斜めに敵を切り裂いた刃に、さらに力を上乗せさせる。


そして、刃は円を描く……。


<アンリミテッド!!!!>


寸分違わぬ軌道を進んだ刃は、敵のコアを両断した。


そして、俺の時間が元へと戻る。


「そ……んな……私は……神を……」


馬鹿が、光の柱となり……。


消滅していく……。


やったぞ……。


くそったれ……。

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