六話
「えっ!? 本当ですか!? メーヴェル様!」
マジでか!?
おいおいおい!
「はい。本当ですよ」
俺以外の三人も、驚きながらも喜んでいる。
「先行部隊に、運命を操作できる神がいたそうで、長達も最初から介入できます」
「やったよ! ローズ!」
「うん!」
「レイさん!」
「ああ……」
初めて、崩壊が確定していない世界への出撃。
「ミスは許されません。ですから、全部隊が出撃します」
うっし!
【これで……】
『うむ! 人が助けられる!』
ああ!
「作戦開始は、今から五時間後です。皆さん、可能な限り魔力を蓄積して下さい」
「はい!」
よっしゃ!
え~……。
何するかな?
『まあ、わし等は睡眠と食事以外はする事が無いからのぅ』
今から、修練なんかしたら本番で動けなくなるしな。
う~ん……。
「あっ、レイ君?」
「何? メーヴェルさん?」
「少しこちらへ」
メーヴェルさんに手招きされたので、目の前に立つ。
「何か……」
お……おおぅ!?
あの……えっ!?
えっと……ええ!?
何!? なんですか!?
おでこに口づけされた俺は……思考が止まる。
「なっ! メーヴェル様! 何を!?」
「これは……」
「駄目! 駄目です! レイさんは……あの! 駄目です!」
え~……あ~……う~……。
「エルミラさん、これは……」
「駄目なんですぅぅぅぅぅぅ!」
『防御フィールドじゃな』
【そうですね。念の為に、神のフィールドをかけてくれたんでしょうね】
あ~……。
『アホが、夢の世界に旅だったな』
【帰ってくるんでしょうか?】
「あの……このフィールドをですね」
「駄目なんです! えと!」
は~……ほ~……。
ゴシゴシ?
なんの音だ? まあ、いいや~……。
ほへ~……あ……あじじじじじ!
「熱い! 皮膚から火が出る! エルミラって!」
「だって!」
お前は馬鹿か!
あっつ!
痛っ!
俺のおでこは、エルミラのハンカチによりケロイド状に……。
何しやがる!
お前は、曲がりなりにも神なんだよ!
全力でこすれば、火が出るわ!
それどころか、頭蓋骨が粉々になるわ!
死ぬ! 人間は死ぬから!
『回復してやろう』
【メーヴェルさんのフィールドのお陰で、これで済んだんでしょうね~】
フィールド?
ああ……。
そう言えば、体に強力なフィールドが。
て事は……。
【まあ、そう言う事だ】
こっ! 殺されかけた!
こいつは、そんな事しないと思ったのに!
何が気に入らないんだ! 言ってみろ!
【気を抜き過ぎて、隙だらけな所と……】
『変態な下衆と言う所じゃな』
おい!
変な回答するな!
はぁ~……。
気を抜くと、殺そうとするの勘弁してくれよ。
やってらんね~……。
出撃前に集まった、二百の神に料理を出してる間中……。
エルミラに腕を鷲掴みにされていました。
うん!
『フィールドがなければ、骨が折れるのぅ』
【神ですからね。腕を引きちぎられるんじゃないですか?】
この娘も、危ない!
てか! 馬鹿だ!
がばっていったら、そのまま突き飛ばされて逝ける!
はぁ~……。
****
「では、出撃です」
「はい!」
「おう!」
大勢の神が編隊を組み、目的の世界へ向かう。
どれだけ生き残れるんだろう……。
【分かりませんが、死神さん達もくるそうですし、かなり生き残るんじゃないですか?】
そうだといいんだがな……。
『敵は奴らじゃ』
ああ、気なんて抜けばすぐに殺されちまう。
【ええ】
俺達が到着した世界は……。
とても、平和だった。
文明は、俺の世界と同じくらいだろうか?
暖かい太陽の光。
爽やかな風。
休日だろうか?
公園らしき場所で、子供達が遊び。
それをベンチに座る親が見守っている。
うん?
「ほれ」
「あいあとう!」
足元に転がってきたボールを、よちよちと歩いてきたガキに渡すと、お礼を言って笑う。
「ありがとうございます」
「ああ……」
姉だろうか?
少し大きな子供が、丁寧に頭を下げてくれた。
俺は、笑いながら公園へ戻る。
その姉妹を見守る。
はぁ~……。
いい世界じゃね~か。
「可愛い姉妹ですね、レイさん」
「ああ……」
たく……。
あのクソったれ共は、こんな世界を壊そうとしてるのかよ!
クズ共が!
「で? メーヴェルさん? どうするんだ?」
奴らを潰すなら、この世界になにも無いうちに。
誰も死なないうちに!
「長達からは、待機の指示が出ています。集合場所だけは、この付近らしいですが」
まあ、あいつ等は巧妙だ。
本当に気付かれない様に、浸食を進める。
『メーヴェルの神眼ですら、悪意は見えんらしいからな』
【アストレアさん達は、見えるように言っていましたよね?】
確かな……。
俺が感じとれるのは、なんでだろう?
『役に立つんじゃ。今は、いいじゃろう』
そうだな。
神達も、悪意が魔力さえ出せば分かるって言ってたし。
主神クラスの死神なら、きっとうまくやるだろう。
後は、奴らを滅ぼすだけだ。
【できれば、この世界の人には気付かれない様にしたいですね】
そうだな。
わざわざ、怖い思いなんてしなくてもいい。
『そうじゃな』
しかし、魔力らしい魔力は感じないな……。
【そうですね】
う~ん……。
えっ!?
あれ?
ちょっと待て!
この感じ!
ビックリするくらい分かり辛いが……。
『うむ! この感じには覚えがある』
どうなってるんだ?
【落ちついて下さい。敵がいるのは分かっている事です】
そうだけど……。
「メーヴェルさん。死神達は、どこに居るんだ?」
「あちらの方に居ると、聞いています」
メーヴェルさんが指差したのは、俺が違和感を覚えた場所の逆方向だった。
おいおい……。
この感じは、あいつ等が使った。
空間ごと透過させた、結界の感じだぞ!?
まずいんじゃないのか!?
どうする!?
『むう……』
解除は一度見たから、多分出来る。
でも……。
俺が単独で動いていいものか?
「メーヴェルさん! 敵がいる! すぐそこの建物だ!」
「えっ? それは……」
「奴らが使った、特殊な結界を感じるんだ! あれは、ユーノ達……双子の女神も騙した特殊な結界だ!」
「そう言えば……かすかに、違和感が……」
「あれは、神を欺く為の結界なんだよ! ヤバい予感がする!」
「しかし……」
メーヴェルさんは、考え込む。
分かってる。
かなり判断が難しい局面だ。
勝手な行動で、万が一があれば仲間が死ぬかもしれない。
でも、あいつ等の罠なら……。
全滅もあり得る!
「メーヴェル。私が行こう」
「ガイスト」
「レイと力を合わせれば、問題は無いはずだ。そのかわり、万が一の場合は私の部隊も指揮を頼む」
「……わかったわ」
よし!
「どっちだ?」
「ついて来てくれ!」
****
俺達は、数キロ離れた廃墟に見えるビルに到着した。
間違いない……。
ロンフェオール城と同じ結界だ。
「これは、結界なのか!?」
「ああ!」
やるぞ!
『よし!』
「はああぁぁぁ!」
力の起点となる部分に、魔力をぶつける。
魔力を感知できないが、あいつ等はこうしてた……。
いけるはずだ!
パシャっと音を立て、まるで水でできた膜が弾けるように、結界が消えた。
魔力!
悪意の魔力だ!
「この魔力は! 正解だな! レイ!」
「ああ! 気を抜くなよ!」
****
そのまま俺達は、魔力に向かいビルの中へ入った。
そこには……。
くそったれ!
勘弁してくれよ!
見たくもない魔方陣が光っていた。
「これは……NO.三にNO.四」
え?
黒い鎧を着た、男と女が一人ずつ……。
こいつ等が死神?
よく見ると、コアが強く光っている。
魔力も、間違いなく主神級だ。
え?
え~……。
「よう、ガイスト」
「よくここが分かったわね」
「はぁ……」
「なるほどな。そのイレギュラーのせいか」
うん!?
イレギュラー?
ジジィ! 若造!
『うむ! 魔力をまわすぞ!』
【はっ……はい!】
でも、コアからは悪意を感じない……。
どうなんだ?
「その魔方陣はなんだ?」
「うん? 人間……いきなりタメ口かよ」
「低能な人間に、期待するだけ無駄よ」
ああ!?
「あの……御二方。その魔方陣は?」
「ああ……あ~、こっちの戦いを有利にする物だ」
こいつ等!
「この魔方陣のお陰で、私達が最初から介入できるの。分かったら、早く持ち場に戻りなさい」
最悪だ!
こいつら、敵だ!
あれは、異世界から悪意が仲間を呼び寄せる魔方陣!
(ガイスト! あれは……)
俺は、急いで念話を使いガイストに説明をした。
くそったれ!
どうなってるんだよ!?
「おっ? ばれちまったな」
「あの人間は、元々これを知ってるみたいね。でも、すぐにばらす予定だったし、いいんじゃない?」
「それもそうだ」
俺の体から出たオーラを見て、向こうにも伝わったようだ。
「な……何故ですか! 貴方達も、奴等に……」
「未来が完全には見えないあんた達には、分からないのよ!」
未来?
「お前達も知ってるだろうが、俺達のボスは時間と空間の神だ」
時間と空間!?
「お前達に見える、変動する未来じゃない。完全な未来だ。そこは、奴等の世界なんだよ」
「それ以外は、全てが混沌の未来しかないのよ。どうしようもないの!」
ふざけるなよ!
「それで、お前等は諦めたのか!?」
「当然の選択だ。最高神だとしても、変えられない未来だぞ?」
大事なのは、そこじゃないだろうが! くそが!
「お前等は! 諦めた上に、裏切ったのかって聞いてるんだよ!」
この魔方陣を、こいつ等が守ろうとした。
それは、そういうことだ。
【まさか、最初から?】
『それとも、寝返ったか?』
くそったれ!
「さっきから言ってるでしょ? どうしようも無いの」
「ならば、選択肢は一つだろうが! 生き残るために、奴等に付くしかないんだよ!」
「さ! 最初から、そのつもりだったと言うのか! 死神よ!」
流石に状況が飲み込めたらしい、ガイストが叫んでいた。
「違うわよ……。最初は本当に……。世界を守ろうとしたのよ」
「では!」
「どうしようもないんだよ! 確定した未来は変わらない!」
「だから、私たち五人は選択したのよ! 生き残る為に!」
こいつ等……。
こいつ等ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
『最高の力を持っておると言うのに……』
【だからこそ、ですかね……】
悪意の絶望に負けやがった!
神のくせしやがって!
くそったれが!
あ……。
待てよ……。
「なんで……ここに全ての仲間を?」
「ただの馬鹿じゃあないようだな」
「運命から解放されたイレギュラー……。そうよ! 貴方の想像通り!」
最悪だ!
くそったれが!
「私達が生き残る最低条件は、仲間全てを奴等の餌にする事よ!」
「このクズが!」
全部……。
死んでいった仲間達の想いを……。
こいつ等全部、踏みにじりやがった!
「仕方が無いんだ! 俺達が生き残れば、未来が繋がるんだ!」
この……。
「そうよ! これ以外の選択は、私達の全滅のみなの! 私達さえ生き残れば……」
自分達の……。
命の保身の為に、仲間を売りやがったのかよ!
この!
お前等……神様じゃないのかよ……。
「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺は、自分の全速力で男に飛び掛かる。
「許せよ。これも、神の未来の為だ」
くそ……。
動きが、全く見えない。
槍を持った男が、いつの間にか俺の背後に回っていた。
反応すら出来ないガイストの隣には、女が移動している。
くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「そう、私達は正しいのよ。神なのだから……」
俺の体に大きな衝撃が突き抜け、体が吹き飛ばされた。
視界の隅には、同じように壁にぶつかったガイストが見える。
「がっ!」
「ぐうう……」
俺達は、殺される事なく結界で壁に貼り付けられた。
「お前達も、贄なんでな」
「まあ、すぐに彼らが吸収して私達の仲間になるわ」
「よし、魔方陣は完了だ」
「じゃあ、行きましょう」
くそ!
くそ!
くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「じゃあな、人間」
「今度は、同士として会いましょう」
クズ二人が、ビルを出る。
そして、窓から差し込んでいた光が弱まる。
これは……。
日食……。
『何と言うことじゃ』
【ぐうう! 奴らがしたたかなのは、分かっていたのに!】
「駄目だ! レイ!」
動けないガイストが、俺に叫ぶ……。
情けないが、俺も動けない。
主神クラスの結界。
人間なんかで抜け出せるわけがない……。
くそ……。
このまま……。
このままじゃあ、皆が……。
エルミラが、メーヴェルさんが、ローズが、ヤニが……。
仲間が!
この世界が殺される!
くそったれ! ふざけるなよ!
もう……もう二度と……。
失いたくないんだよ!
「レ……イ……?」
もう二度と!
『来た! 来たぞ!』
【はい!】
魂を……。
想いを力に変えろ!
守って見せる!
敵を……。
敵を殺す力を!
「ぐぐがああああぁぁぁぁぁ!」
純粋な殺意が、俺に力を与えてくれる。
肉体、魂、想いを犠牲にした。
灰色の力を!
ビル中に大量のガラスの砕ける様な音が、響き渡る。
俺は自分を封じていた結界を砕き、魔方陣を無理やり破壊した。
「それが……お前の力」
ガイストの結界を壊し、ビルを出る。
****
辺りには、悪意の魔力が満ちていた。
そして、周囲にいる人間達が、呼吸困難の様に喉を押さえて苦しんでいる。
『何と言う事じゃ……』
【既に、魔力を吸収され始めています! 急ぎましょう!】
くそが!
また、出し抜かれた!
何で俺は……。
くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!




