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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十二章:闇の深淵と神々編
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五話

「では……。訓練を再開する前に、少し休息を……」


メーヴェルさんのその言葉を聞いて、俺達は部屋を出る。


メーヴェルさんを含めた他の四人も俺の後に続くが、会話はない。


空気がいいわけが無い。


今回で、ちょうど五十回目の出撃だった。


その全ての世界は……。


他の世界崩壊を防ぐために、消滅させた。


仕方が無い……。


そこにいた敵を倒せただけで、次に襲われる世界を救えたのだから……。


分かっている……。


ポジティブに考えたなら……。


考えられたなら。


どんなに楽になるだろう。


だが、ここに来た神は全員が覚悟を決めている。


それは、自分の命をかけても敵を討つ事。


そして、より多くの命を救う事……。


この戦いが、未来を繋ぐ方法だと分かってはいるが……。


無力感と言う、見えない敵と戦わなければいけない。


十分に悲しむ時間も、立ち止まる事も許されない。


その焦燥感で、ただ戦場に向かうだけ。


はぁ~……。


やってらんね~……。


俺に出来る事と言えば、料理を作ること……。


俺の最大奥義は、使っただけでほとんど再起不能になる。


仲間がいる中で、考えなくあれを使う事は迷惑以外の何物でも無い。


そして……。


【私達も、命は何時でも投げ出す覚悟はあるのですが……】


分かってる。


『修行が足りんか?』


かもしれない。


灰色の魔力はある程度引き出せるようになったが、あの一撃は本当に何時でも出せる! とはいかない。


自由に使えない技に、仲間の命まではかけられない。


『あの方にも匹敵する魔力を使う、死神達に任せるのが……』


ああ……。


それも、分かってる。


焦っても仕方ない事し、奇跡を望んでも駄目だって事も、痛いほど分かってる。


それでも……。


****


「レイ君?」


メーヴェルさんが、食事を終えた食器を持ってカウンター越しに話しかけてきた。


「後で、私の部屋へ来て下さい」


「はぁ……」


「それと、エルミラさんは来ない様に」


「えっ?」


「いいですね?」


「でも……」


「いいですね?」


「は……はい」


エルミラが、メーヴェルさんの強い視線で、しぶしぶ了解した。


なんだろう?


二人きりか……。


【きっと、違いますよ】


あの……俺、まだ何も言ってない。


『よめる! よめるぞ! 煩悩!』


違うわ!


勝手に決め付けるな!


あの人に、そういうエロい考えってないじゃん!


どう考えても!


二人きりでの話が終わってから、頼むのはありだけど、今回は向うからの呼び出しじゃん!


『ほほぅ』


期待していくだけ、馬鹿だってのは分かってるよ!


【意外ですね。思考の九割五分が下心なのに】


多過ぎるわ!


『確かに、九割五分ではない! 九割九分九厘じゃ!』


うっさいよ!


それもう、生物として成り立って無いから!


下心以外が一パーセント以下で、生きられるか! そんな生物、聞いた事もないよ!


【でも~……】


「あの……片付け終わったから、僕等も食事にしない?」


ヤニが、もじもじと話しかけてきた。


仕方無い。


あれ?


エルミラの眉間に、珍しくしわが……。


あれ~?


珍しいな。


『分からんか?』


う~ん……。


まあ、いいや!


ご飯! ご飯! っと!


『不憫な……』


****


「ありがとう」


「いいや……」


最近、俺が食事をとっていると、出撃前の神から声をかけられる事が増えた。


皆一様に、感謝の言葉をくれる。


この館で、食事は唯一の楽しみらしい。


情けない俺は、そいつらの目も見てやれない。


そして、二度と会う事もない奴も多い……。


覚悟を決めた奴に、俺はなんて言えばいいんだよ……。


分かんねぇよ。


「ありがとうございました。行ってきますね」


「ああ……」


分かんないんだよ。


****


食器の片づけまで終わらせた俺は、メーヴェルさんの部屋へ向かう。


中から……。


この魔力は……。


『ガイストもおる様じゃな』


なんだろう?


「どうぞ」


ノックをすると返事があったので、扉を開く。


「なんでしょうか?」


「こちらに座って下さい」


「はぁ」


なんだ?


「確か、貴方は魂が尽きかけていたと言っていましたね?」


ん?


「ああ。ほとんど空っぽだったんだ」


あれ?


何を二人で唸ってるの?


「お前も知っているだろうが、人間の魂は神の核と違い消費は出来ても補給は出来ん」


知りません!


【そうなんですか? おかしいですね】


「お前の力には、何か秘密があると考えたのだ。現在も、人間としては考えられない力を出しているからな」


あん?


何が言いたいの? ガイスト?


「人間の貴方が手に入れた、その力……。私達も使えないかと考えたんです」


ああ、なるほど。


【お二人も、焦りはあるでしょうからね】


「で? どうするんだ? 可能な限り協力はするけど……」


「貴方の記憶を、探らせてくれませんか? もちろん、危険はありません」


「でも、俺自身も精神魔法は試したけど、駄目だったよ?」


「それでも、無理強いはしないが頼めんか?」


う~ん……。


『まあ、わし等も気にはなっておるしな』


【そうですね。私の魔法より、神様の魔法ならもしかすれば……】


う~ん……。


「わかった。どうすればいい?」


「ありがとう。では、目を閉じて下さい」


「魔法は、お前に影響が無い様に私達二人で、試みよう」


「へいへい」


俺は指示に従って、目を瞑る。


魔力が働いているのが分かる。


若造の精神操作とは、何か根本的に違うように感じるな。


何か……暖かい。


「気を失っていたのでしょうか?」


「情報がないな……」


「あるのは……。光を見たと言う事だけですね」


「これでは、何も分からないな……」


「他の五感情報も……。暖かい? 柔らかい? 駄目ですね……」


俺は起きているのに、眠っている様な不思議な感覚に襲われていた。


体が動かない。


金縛りに近いのかな?


てか、こいつ等がもし敵なら、俺はやられてるね。


ちょっと、不用意だったかな?


「もう少し、深く潜るか? メーヴェル?」


「いえ……これ以上は、プライバシーの……えっ!?」


「ぐっ! 精神防御だ!」


「精神! 情報が! うう!」


二人の上級神に、想定外の事が起こる。


俺の肥大した精神が、二人の魔法干渉によりあふれ出した。


俺の全てが……。


「これは!?」


「精神……防……御……」


****


ある世界のある時間……。


父親の存在しない少年が、母親の胎内に宿りました。


少年を身ごもる事で、母親は苦労を強いられます。


しかし、少年の義父となる男性が、母親を救ったのです。


その男性は、旅芸人をしていました。



(これは……)


(無事か? メーヴェル?)


(ええ……)


(これは、レイの記憶なのか?)



灰色の髪と瞳をもった少年は、旅芸人として幸せに育ちました。


両親や仲間達からの愛情を、余すことなく受けて……。


きっと自分は、将来旅芸人になると考えながら。


しかし、運命の悪戯は少年から全てを奪います。


厳しくも優しい両親、兄妹のように育った少年少女、家族だった仲間全てを……。


代わりに手にしたのは、魂を操る聖なる魔剣。


心優しい男性に拾われた少年には、使用人としての人生が待っていました。


最強の破壊神から剣を習う事と引き換えに、幼馴染の歪んだ愛情表現を受ける事になります。


幼い少年は歪められながらも、その両親から教えられた優しさを失わずに育ちました。


そして、十六歳……。


止まっていた運命は、ついに動き始めます。


彼は謎の敵から、自分を嫌う知人達を救います。


恩人に報いる為に……。


そして、道を謝った友人を殺し……黒幕を殺します。


それからも、狂ってしまった古代の兵器。


目的を失い、おかしくなってしまった上級天使。


そして、敵へと変えられた恋人。


古代に封印された邪神。


狂った偽神の使い。


封印されていた邪神達。


世界の意思からの試練である、上級天使。


偽神に操られた天使の変わり果てた、悪魔達。


戦場に立ち続け、敵を屠り続けます。


そして、真実にたどり着きます。


破壊神の恩恵を受けた少年……青年は、運命から己を消す事で、殺した人達を生き返らせ……。


最後に、偽神を殺しました……。


全てが終わった青年は、死ぬはずだったのです。


しかし、運命は彼の死を許しません。


青年は次元の狭間を、人々を守りながら旅します。


全てを終わらせて、安らぎの場所を探す為に……。


それでも、混沌の運命は再び彼を巻き込んでいきます。


青年から、愛する神を奪ってしまいました。


そして、青年は誓います。


敵を殺すと……。


自分が消えてなくなるまで、戦い続けると……。


愛して、殺してしまったと思いこんだ、女性が笑ってくれるように……。



(こんな……こんな事!)


(これが、レイの強さの理由。神をも凌ぐ、人間……)


あふれ出した、灰色の光が集束を始めた。


****


「戻った……のか?」


「そのようですね」


あれ?


俺は……昔の夢を?


あれ?


体が動くな。


「終わったのか?」


「え……ええ」


「何か分かったのか?」


「それが……」


「気になる事があるが、死ななかったのはお前が特別だからと言う事だろう」


なんだよそれ……。


「じゃあ、役には立たないのか」


【無駄だったようですね】


まあ、仕方ない。


『それよりも……』


ああ! そうだ!


「あの時、俺が何で助かったんだ?」


「それは、分かりませんでした。ですが……」


ですが?


「破壊神が、何らかの力を与えたのかも知れません」


「何?」


「先程も言いましたが、本来人間の魂は補充出来ません。ですが、貴方は幾度かそれを行っていますよね?」


うん?


こいつら、もしかして……。


「魂とは、世界の意思ではなく、魂の故郷におられる最高神が定めている物だ。それに干渉できるのは、多分破壊神くらいだろう」


「ああ、そう」


勘弁してくれよ。


「じゃあ、俺は部屋に戻るよ」


「あの! レイ君!」


部屋を出ようとした俺は、メーヴェルさんに呼びとめられた。


「なんだ?」


振り向かずに返事をする。


「あの……オリビアさんも、梓さんは貴方を恨んでなどいませんよ」


ちっ……。


やっぱり覗きやがったか。


「それは、あんたには関係ない」


「すまん。覗くつもりは無かったのだが、情報が逆流してしまったんだ」


ふ~……。


言葉に嘘が無いのは、分かってるよ……。


「あの! 自分をそんなに責めないで下さい」


あ~……。


勘弁してくれよ。


「何より、オリビアさんは生き返ったんですよね?」


俺は、床板を踏み抜いていた。


「黙れよ」


「でも……」


くっそ!


抑え込んでるんだよ!


勘弁しろよ! クソが!


「生き返って記憶も無くなって……。それで、チャラだとでも? 苦しめて! 殺して! 約束を破った事! 全部! 許されるとでも言いたいのか!?」


「レイ君……」


「許されるわけ無いだろうが! 俺は殺したんだよ! この手で! 恋人を! それも、苦しめてだ……」


「……」


「その上、間抜けな俺はもう一人殺してるんだ……。許されるわけ無いだろうが……。許されていいはずが無いんだ」


「レイよ……」


「たとえ、誰も覚えて無くても……。俺が覚えてるんだよ。俺自身の罪を!」


くそ……。


修行不足だ。


感情が抑えられなかった……。


くそ……。


「レイ君……貴方は……」


ふぅ~……。


落ちつけ。


感情を抑えろ。


俺は、振り返って笑顔をつくる。


別に、この二人と関係を悪くしたいわけじゃない。


「だから、戦う事しか出来ないんだよ。じゃあ、部屋に戻るわ」


無言の二人を残して、メーヴェルさんの部屋を出た。


「貴方は! 貴方は、とても素晴らしい人間です! 私が、そう思った事だけは覚えておいて下さい!」


扉を閉めると同時に、メーヴェルさんの声が聞こえた。


あ~……。


情けない。


『あれぐらいは、自分を許せ』


【日頃は、もっと悪態ついてるじゃないですか】


ああ、はいはい。


お前等に、慰めて欲しいわけじゃないよ。


あ~……。


部屋で休む気持ちになれなかった俺は、木剣を持って庭に出る。


****


あれ?


エルミラが一人で草原に座っている。


何してるんだろう?


【声をかけますか?】


いや、いいんじゃね?


『うん? 泣いておるぞ?』


えっ!?


おおう!


なんだよ!?


どうしたんだよ!?


「あ……レイさん」


みっ! 見つかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


【オロオロするからですよ】


だって!


泣いてたもん!


「もう、終わりましたか?」


「あ……ああ……」


え~っと……。


え~……。


思いつかん!


なんて言えばいいの?


『ユー可愛いね』

【胸は大きくなりましたか?】


だっ! 騙そうとしてる!


俺に寄生してる変人二人が、明らかに騙そうとしてくる!


【あっ、流石に気が付きました?】


お前等! 俺を馬鹿だと思ってるだろ!


『当り前じゃ』


おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


【うん……その調子で行きましょう】


『お前が湿っぽくては、馬鹿に出来んからな』


え~……。


なんだよ、この二人。


「ここ……座りませんか?」


「お……おう」


「私の話し、少しだけ聞いてくれませんか?」


「いいよ」


「私は、貧しい農家の次女として生まれたんです」


「へ~……」


「本当に貧しくて……私の家族は両親に姉が一人、そして弟が二人で食べていくのが精一杯でした」


「なるほど……」


「ある年、日照りで飢饉になりまして……。両親が弟のどちらかを、山に捨てる相談を始めたんです」


「……」


「あ! でも、泣きながら本当に悔しそうに話してたんです」


『どうとも言えんな』


ああ……。


「それで、私が山の神様への生贄になり、雨を降らせてもらえるように頼むって言ったんです」


はぁ~……。


「山の頂上にある祠に、祈り続けました。命をかけて……」


祈り……ねえ。


「その祈りが、主様に届いて神様になったんです。私の姿は、誰にも見せてはいけなかったんですけど、弟達が育って子供を育てて、その子供がまた子供を産んで……」


それは、幸せなのか?


苦しく無かったのか?


「私は、愛した人達を見守る事が出来たんです。幸せな日々でした」


泣くなよ……。


「それを、あの悪魔に突然奪われたんです。私は……戦う事も出来なかった」


力か……。


戦いなんて、無いに越した事はないんだがな……。


はぁ~……。


「すみません。少し、誰かに聞いて欲しくて」


「かまわない」


これで、少しでもお前が楽になるならな。


「あの……それで」


ん?


「何?」


「実は、レイさんが人間だった時の、知り合いに似てるんです」


「顔が?」


「あ! 違います! その……雰囲気が」


「雰囲気?」


「はい。近所のお兄ちゃんだったんですが、優しくて他の子にからかわれる私を何時も守ってくれたんです」


ん?


これって、もしかして……。


「それで、その……。レイさんといると、落ち着けるんです」


エルミラは、笑いかけてくる。


あああああああああああ!


ちくしょう!


こんな事だと思ったよ!


「そのお兄ちゃんは……」


好意は好意でも!


兄ちゃんに対してだよ!


「私の初恋の人なんです」


ああ! もう!


はいはい!


恋人じゃないんだろ!


分かってるよ!


「容姿は、レイさんの方が何倍も綺麗です」


あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ちくしょう!


【聞いてませんね】


『不憫なアホじゃ』


もう、期待なんてしてないもんね!


だって、分かってたもん!


きっと、エルミラにガバッていっても……。


お兄ちゃんはそんなことしない! とかって展開でしょ!


分かってる! 分かってる!


はいはいはい!


ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


ちくしょう!


「あの……レイさん?」


俺に対する好意なんて、近所の知り合いが限界ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


はいはい!


分かってますよぉぉぉぉぉぉぉぉだ!


「レイさん?」


はん! 期待してなかったもん!


悔しくないもん!


泣かないもん!


『おい! 馬鹿!』


ああ!?


なんだよ! クソジジィ!


【エルミラさんが呼んでますよ? かわいそうな人?】


誰がかわいそうなんだ!


ああああああああ!


もう!


もう二度と、期待なんかするもんか……。


ちくしょう……。


やってらんね~……。

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