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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十二章:闇の深淵と神々編
43/77

四話

「恋人を……恋人を殺されたんだ!」


そうか……。


「私の子供を……子供を奪われたの! まだ、五歳だったのに! あの子は……うううっ」


そうか……。


「お父さんもお母さんも、弟も死んだ。私は、何も出来なかった。何も……」


そうか……。


「俺の……俺の大事な娘が! くそ! くそぉ! くそ……」


そうか……。


俺は夢を見る。


毎回だ。


この神の住まう屋敷に来てから、毎回同じ夢を見る。


違う事は、登場人物だろうか?


皆が怨み辛み……。


まさに怨念をささやく?


いや、叫んでいく。


理由は分からないが、その怨みの相手があいつらだとは分かってしまう。


その多くは、自分が殺された事、大事な者を奪われた事に対しての……。


理不尽な力に対しての怨念。


このヴァルハラで、仲間の神は訓練をする。


次元の狭間から、魔力を取り込む訓練だ。


神様ってのは、コアが出来た瞬間から、そのコアの魔力を最大限に使用できるそうだ。


元人間でも、コアからいきなり作り出された神様もそれは変わらないらしい。


ただ元人間の神には、元々の思い込みや間違った知識が足かせとなり、力を完全に使えない者もいるそうだ。


メーヴェルさんの推測だが、ガイドもなしにいきなりコアを渡された師匠の場合は、コントロールに時間がかかるだろうと言う事らしい。


元人間の神である三人の仲間は、自分の中にある魔力を完全に支配する事と、そのコアの限界を突破する事。


かなり難しい事らしいが、その二つを訓練している。


もちろん、それが出来なければ戦場で使い物にならないそうだ。


その間俺は、剣の修練をする。


俺には睡眠が必要だが、神には必要では無いそうで、俺が眠っている間も訓練を続けているそうだ。


俺は、人間の必要な事として眠っている。


ただ、それだけのはずだが……。


毎回、夢を見る。


これは、ただの夢なのだろうか?


それとも……。


****


「んっ……」


「あっ。起きましたか?」


「ああ……」


目を開けると、これも毎日の光景。


「酷い寝汗ですね。お湯を用意しましょうか?」


「ああ、頼む」


「はい!」


エルミラは、笑顔で部屋を出る。


【あれの様ですね?】


何?


【奥さん】


奥さんね~……。


『確かに、毎回目を覚ますとエルミラがおるな』


【お母さんと言うよりは、奥さんが相応しいと思いますが】


え~……。


ちょ、勘弁して下さい。


【あれ? エルミラさんも気に入ってましたよね?】


そうだけどさ……。


手を出せないし……。


【好意はあるんじゃないですか?】


なんて言うんだろうな……。


雰囲気?


清潔すぎて、色気が無いって言うか……。


聖なるオーラを感じると言うか……。


あいつに手を出すと、罪悪感で死にそうな気がする。


『お前にしては、空気を読んでおるな』


【確かに、泣きながら大丈夫です、なんて言われたら、胃が溶けて無くなるかもしれませんね】


だろ……。


メーヴェルさんのように、無防備でも無いし……。


そのくせ、四六時中俺の裾を掴んで付いてくるから……。


メーヴェルさんの部屋に、単独突入が出来ん!


何?


この生殺し!?


【そう言えば、ヤニさんと女性の好みについて話していたら、顔を真っ赤にして怒りましたよね?】


『お前等が、胸の形だの色だのを本気で討論するからじゃ』


いや! 大事ですから!


『アホ……』


「お湯ですよ! じゃあ、私は部屋を出ますね!」


「ああ……」


はぁ~……。


いっそ、尻がかる~い子のがよかったかも……。


『まあ、気は楽じゃろうな』


あ~あ……。


やってらんね~……。


『わがままな奴じゃな』


わがままか?


『女なら誰でもいいと言っておるくせに、やれ清純すぎるだの、自分には高値の花だのと……』


だって!


下手に手を出して、気持ちが残ったらどうすんだよ!


『お前はあれか? する事だけして、女を捨てる気か? クズ』


違うわ! ボケ! こら!


『では、何じゃ?』


いや。


俺って、多分……。


『なんじゃ?』


何時死ぬか分からないから、そいつと一緒に居てやれないじゃん。


相手が、すぐに忘れてくれればいいけどさ……。


『……お前』


俺が、逆だったら……。


努力はしたけど、忘れられなかった。


出来れば、相手の大事な人にはなりたくない。


俺が……俺なんかがなるべきじゃない。


『ふぅ~……』


だから、俺の卒業はハードルが高いんだよ。


【結局そこですか? 煩悩さん?】


変なあだ名つけるな!


まず、死なない!


これはもう、神様でも上級神!


『まあ、それが最低条件じゃな』


そして、俺に好意的!


【これも、結構難しいですよ?】


『相手は神じゃぞ?』


そして!


一番大事なのは……。


サバッサバ相手してくれる人!


うん! 商売でしてる感じくらいで!


二時間くらいで、顔を忘れてくれるのがベスト!


【うわ~……】


『最低じゃ』


愛などいらん! 一瞬の快楽を!


『情けない……』


【愛する人を気遣って……出てきたセリフがそれですか?】


そうですよ?


凄く自然な思考です!


『もう、根本的に下衆じゃな』


なっ!


【最低な人間の言葉にしか、聞こえませんよね】


うおい!


何でだよ!


コンコンとノックの音が聞こえた。


「レイさん? もういいですか?」


「ああ……」


風呂に入り着替えた俺は、髪をタオルで拭く。


てか、なんで四六時中一緒に居るんだろう?


【ですから好意を……】


いやいや。


それでも、訓練中以外ずっと隣に居るって……。


ちょっとどうなの?


『確かに、特に話をするわけでも無いしな』


何考えてるかわかんね~や。


さてと……。


「食堂ですか?」


「ああ……」


「じゃあ、ヤニさんとローズさんも呼んで来ます」


えっ?


いや……まぁ……。


エルミラは、そのまま部屋を出ていく。


はぁ~……。


****


「皮むき終わったわよ」


「じゃあ、一口大に切ってくれ」


「分かった!」


「あ……僕も、洗い物終わったよ」


「じゃあ、そっちの食器片付け!」


「わ……分かった」


なんだよこれ……。


俺は、人間なので三回食事をとる。


なので、三回食事を作る。


あくまで、自分の為にだ!


『諦めろ』


【手遅れですって】


俺は、自分でも自覚しているが、人より食事の量が多い。


だから、かなりの量を作る。


そして、一緒に居る事の多い仲間の分も……。


【諦めましょうって】


俺が食事の用意を始めると……。


ローズが、下ごしらえを手伝い。


ヤニが、食器や調理器具を洗う。


見た事も無い神共が、トレーを持ってカウンターに並ぶ。


そして、何を考えているのか……。


エルミラは、出来た皿からそいつらのトレーに置いて行く。


『仕方無い』


ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


俺、自分の分作ってるんだって!


何してんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


【台所の神様ですね】


嫌じゃ! ボケ!


そんな二つ名いらない!


てか! 何をニコニコと!


殺すぞ! クソ神様!


【料理を、褒めてくれてるじゃないですか】


そんなんいいから!


金か女よこせ!


『また、クズ発言か』


当然だろうが!


ただじゃないんだよ!


ただじゃあ!


『いっそ、そう言えばどうじゃ?』


え~……。


『根性無しのチキンが』


五月蝿い!


相手は、化け物みたいな魔力持ってるんだよ!


勝てないとは言わないけど!


料理作るより、面倒な事になる!


【まあ、本当の神様を敵に回しますからね】


はぁ~……。


「そうか。今日出撃なんだな」


「ああ……」


「頑張れ! そして、生き残れよ!」


「ああ! 俺の……世界の仇を討ってくる!」


トレーを持って並んでいる奴が、出撃らしい……。


ふぅ~。


「エルミラ? これが、あいつのだ」


「あれ? レイさん?」


「いいから」


「はい……」


エルミラが、俺の指定通りに皿を置く。


「あれ? あの……」


「なんですか?」


「俺のだけ量が……多い」


「問題でも?」


「いや……ありがとう!」


この戦いの生存率は、二割以下。


死の覚悟が出来ていない者は、出撃すら出来ない。


それでも、俺が再び睡眠をとるまでに、大勢の神が出ていく。


そして、また多くの神が覚悟を決めてここを訪れる。


襲われた世界で、必ずはみ出した神が出るわけでもないのに……。


「ふ~! 今日の分は終了だね!」


「ああ……」


それは、世界がどんどん奴等に浸食されていると言う証拠。


奴等はしたたかに……。


「洗い物も終わらせたよ」


「ああ……」


周到に、執拗に魔力……魂を奪う。


俺は……。


俺は、無力だ。


【焦りは禁物です】


『あの方や、ここの死神とやらも戦っておる』


分かってる……。


分かってるんだ。


でも……。


俺は、あの二人を失った時……。


自分が死ぬより辛かった……。


そんな思いを……。


どれだけの人達が……。


「レイ……さん?」


おっと!


俺は、天井に向けた目線をエルミラに落とす。


「じゃあ、食べるか?」


「あの……今、何を?」


「何でも無いよ」


「でも、涙を流さずに……」


「何でも無い」


「あ……」


こんな時、笑う事しか出来ない俺を……。


笑って下さい。


馬鹿な俺を……。


貴女が、天国で笑ってくれるなら……。


あいつが、故郷で笑って暮らせるなら……。


「ふっ! はあぁ!」


俺は、道化になりましょう。


「どうですか!?」


「はい! これで皆さんは、最低限のレベルをクリアしました」


「やったよ! ローズ! エルミラ!」


「うん!」


「はぁ! ふん!」


一振りの剣として、戦いましょう。


笑って……。


戦って……。


「やっぱり凄いね! レイは!」


「うん! 人間のレベルじゃないよね!」


「でも……見ていて心が痛くなるほどの……」


「エルミラさん?」


弾丸のように、敵の急所に深く食い込んで……。


この身を粉々に砕いて、飛び散ってやるんです。


そして、殺して見せます。


絶対の!


「想いの籠った剣を振るっています。レイさんは……」


「ふぅ……はぁ! ふっ!」


俺が、眠りにつくまでに……。


大盛りの飯を食った神は、帰還しなかった。


これが、ここでの日常。


****


眠る前にメーヴェルさんから、俺が睡眠をとり終えてすぐに出撃すると言われた。


皆が、覚悟を決めた目で返事をする。


四日……。


『まあ、考えようによっては四日で敵に到達じゃ』


【数か月かかる場合もありましたからね】


ああ……。


戦える。


やっと戦えるんだ。


俺の居場所に戻れる。


【まるで、戦闘狂ですね】


はっ……。


『全く、綺麗に真っ直ぐ歪みおって』


【直角どころか、ヘアピンですよね】


うるせ~。


俺は、ただ単に女が好きなんだよ。


そいつらに笑ってもらうには……。


【家族や、大事な人が死んでは笑えませんね】


『人間には衣食住が必要で、その為には世界が必要じゃ』


俺は、運命の輪から外れたイレギュラー。


『わしは最強の死が……破壊神の力を宿した、魂を食らう魔剣』


【私は悪魔の偽神により作られた、呪われた聖剣】


俺達が出来る事は、不幸に巻き込んで殺す事だけ。


なら……敵を巻き込んで殺すだけだ。


俺の存在なんて、それでいい。


だから、戦うんだ!


【はい】『うむ』


弱い俺は、そう自分に言い聞かせる。


未来への渇望は、足枷にしかならないから。


俺が死ぬ事の……。


よし!


寝よ……。


「お休みなさい、レイさん」


「おやすみ」


何故か、寝る時も起きた時もベッドの隣に座っている、エルミラに声をかけて目を閉じた。


そして、あの夢を見る。


ああ……。


大丈夫だ。


心配するなって……。


俺は、立ち止まらない。


俺は、まだ戦える。


俺は、死を恐れない……。


俺は……。


****


「おはようございます」


「ああ……」


朝食を作った俺は、狭間に浮かぶ神の隠れ家から戦場に向かう。


「大丈夫ですか?」


「ああ……」


俺ごと結界で包んだメーヴェルさんが、気遣う言葉をくれる。


この人は……。


『元は、慈愛に満ちた神だったんじゃろう』


優し過ぎる。


いい事かも知れないが、戦場では足かせになる。


自覚はしているだろうが、本当のギリギリ……。


自分や他人の命の瀬戸際で、それが迷いになる。


【確かに、魔力の修行はしていましたが、精神の修行はしていませんでしたね】


なんだ?


この違和感と、不安は……。


これだけ、神がいるんだしな。


気のせいだといいけど……。


『気をつける事じゃな。小さな違和感も見逃すな』


【あれは、巧妙に浸食を進めますからね】


そうだな。


「ここです! 行きますよ!」


「はい!」


「おう!」


先行で侵入した部隊に、俺達とガイストの部隊が合流する。


先行部隊は、一番危険なので上級神のみで構成された部隊だ。


そして、今回は最強の死神五人達も、全員ではないらしいが合流予定らしい。


「これは……」


「酷い……」


「皆さん!急いで!」


俺達の侵入した世界は、既に崩壊が始まっていた。


そして、黒い羽が生えた天使が空を旋回している。


辺りには、干からびた人間や動物……。


くそったれ!


「回復を!」


仲間の神らしき男が、転がり込んできた。


次元の穴をメーヴェルさんが固定し、エルミラ達がそこから吸収した魔力をその神へと補充する。


「よし!」


二本のハンドアックスを持ったその神は、補充後すぐに天使達に向かっていく。


「来たぞ!」


「行くぞ! テリアナ! ルード!」


補充を見ていた天使達が、こちらへ編隊を組んで向かってくる。


そして、それをガイストの部隊が迎え撃つ。


「レイ君! おさえて下さい!」


メーヴェルさんは、オーラの立ち上る俺にくぎを刺してきた。


ああ……。


分かってる。


俺が勝手に動けば、もしかしたら死人が出るかもしれない。


『団体での作戦とは、そういうものじゃ』


分かってるし……。


「ふっ!」


実際に討ちもらした敵も、少数だがこっちまで来てる。


【敵はSランクです! 気を抜かないでください!】


ああ!


「らあぁ!」


****


最前線の部隊が、二時間ほど天使達を駆逐すると、敵が退避を始めた。


この感じは!


「手遅れ……です」


雷雲に包まれた球体。


この感じは、世界の意思が取り込まれたんだ。


既に融合が完了している。


あの人の世界で感じたから知っている……。


くっそ!


「レイさん! 落ちついて下さい!」


「ああ……ああ! 分かってる!」


俺の全身からは、二色のオーラが噴き出しているようだ。


雲が晴れると、巨大な真紅のサーベルタイガーがいた。


間違いなく……。


『完成体』


世界一つ分だが、十分化け物だ。


死神ってのは、あのレベルなのか?


俺達が侵入する前から居た部隊には、あれに勝てる神なんていないぞ!?


どうする?


【準備だけは……】


ああ!


俺の一撃なら……。


えっ!?


「来ました! 皆さん! もう少しです!」


巨大な力を感じた俺は、振り返る。


「あれが、組織の長。死神NO.二とNO.五のお二人です。」


全身黒ずくめの二つの影が、俺達のいる世界に強引に侵入してきた。


間違いない……。


【主神級ですね】


あの二人なら……。


ローブを着たじいさんが、敵を結界で縛りつける。


『あれは……。敵の魔力を……拡散させておるようじゃな』


【凄い! あのクラスの敵を!】


「皆さんも知っている通り、主神クラスは侵入するだけで、その世界の運命に影響を与えます」


そう言えば、師匠達も言ってたな……。


「ですから、この様な最終局面でしか戦えませんが、魔力は見ての通りです」


もう一人の手に持っていたハンマーが、敵に合わせて巨大化する。


そして、馬鹿みたいな魔力を込めたそれで敵を一撃のもとに粉砕した。


化け物だ……。


【これが、主神クラスの戦力……】


梓さんの世界で感じた、アストレアの魔力……。


レベルの低かった俺は、完全には知覚出来ていなかったようだ。


俺がどうひっくり返っても、届く様な相手じゃない。


『ぬう……』


これが、死神……。


****


仕事を終えた二人の死神が、メーヴェルさん達に手で何かの合図を送っている。


「皆さん! 最後まで気を抜かないでください!」


メーヴェルさんの作った穴から、神が退避して始めた……。


「あ……」


そこで俺は、やっと気が付いた。


確か侵入していた神は、俺達の部隊を含めて五十人。


そして、今穴をくぐった最後の神で、二十六人……。


もう、死神と俺以外にこの世界に神はいない。


「さあ! レイ君! お二人が、この世界を消滅させます! 早くこっちへ!」


理由は知っている。


一つの世界の崩壊は……。


放置すると、周りの世界を巻き込んでしまう。


だから、仕方ない……。


大量の犠牲を出し……。


出来る事は、少しの敵を殺す事……。


今も、敵は浸食し強大になっている。


これが、今俺達の置かれた現状なんだ。


師匠や女神達が常に戦っているのは、このせいなんだ……。


なんてこった……。


世界が、加速度的に崩壊へ向かってるじゃね~か……。


勘弁してくれよ……。


俺は今まで何をしてたんだよ?


ちくしょう……。


俺は、なんて弱くてちっぽけなんだ……。


あ~……。


やってらんね~……。

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