二話
やべ~よ。
【頑張って下さい】
いや、もう眠いよ。
だるいよ。
腹減った~……。
『そうじゃな』
【そう言えば、神は食事をとるのでしょうか?】
えっ?
『……あの女神達は、食べておったが』
そう言えば、師匠は食事なしでも死ななかったような……。
【ここは、神様だけの場所なんですよね?】
えっ?
何?
俺は、ここまで来て餓死?
無理やり連れて来られて、餓死?
ふっざけんなよ!
勘弁しろよ。
も~……。
やってらんね~……。
しっかし暇だ。
まだまだ話は続きそうだな~。
あ~……。
俺の視線は、自然とある場所に向けられる。
ほ……ほ~う!
バウン! バウン! っと……。
けしからんですな!
『アホ』
【しかし、本当に体と密着した服を着ていますね】
『服装は、世界が違えば文化や風土で違うものじゃろう』
「さあ……」
もう、挑発しているとしか思えないぴちぴちの服だな。
【ドレスと言うよりは、レオタードに近いですよね】
実にけしからん!
そして、いろんな意味でありがとうございます!
「そろそろ休憩を……」
あれを鷲掴みに……。
『本当に殺されてしまうぞ?』
そこは神様だし、価値観の違いに期待を……。
【死にますって】
しかし、この距離感で上下左右に暴れられると……。
『落ちつけ、犯罪者』
「そんなに興味が無かったかしら? レイ君?」
おおう!?
「それにしても、そこまで凝視されると……」
おっ! ふぉう!
ばれた!
【気を抜き過ぎました!】
『一度殴られてしまえ』
「そんなに興味がありますか? レイ君?」
ぬほうぉう!
興味二千パーセントだけど!
殺される!
誤魔化せ! 誤魔化すんだ!
生き残るために!
「私の胸がそんなに気になりますか? レイ君?」
んっ……無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
【誤魔化し方すら思いつきませんね】
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「ぼっ……僕も人間だったから、分かるんですが人間の男性は……その……興味がある人が多いと思います。メーヴェル様」
ヤニ!
やっぱりお前は分かってくれると、信じていた!
でも、今はやめろ! 馬鹿!
「なるほど。これは、好意的な事ととってもいいのですか? ヤニ君?」
おおう!?
「はい。僕は、レイ君がメーヴェル様を魅力的に感じていると思えます」
ちょ! おま!
ヤニィィィィィィィィィ!
この糸目野郎が!
「私は生まれついての神です。ですから、よくは分かりませんが……」
まずい!
この流れはまずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅい!
『回復の準備じゃな』
【では、復元も】
ノォォォォォォォォォォォォォ!!
「何かしたいのであれば、後ほど個別説明の時にしましょう」
えっ?
あれ?
いいんですか?
えっ?
がっつり鷲掴みたいんですが?
いいんですか?
オォォォォォォォォォォォォォウ!
イエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェス!!
目の前の神様にありがとう!
【これは……】
『意外じゃな』
恵まれなかった、過去の俺にごめんなさい!
そして、これからの俺にヒアァァウィィィゴォォォォォォォォォォォォォ!!
『帰って来い!』
ん?
袖を引っ張られたので、後ろを振り向くと……。
「あの……レイさんも、胸が大きな女性が好みですか?」
エルミラ?
あれ?
自分の小さな胸に手を押し当て、悲しそうに……。
あったらあったで大好きですが、無ければ無いで大好物です。
『口に出してみろ』
いぃぃぃぃぃぃぃぃやでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!
「私……人間だった時で、体の成長が止まってしまって……」
そう言えば、エルミラって十代に見えるな。
【神様ですから、気にしませんでしたが。確かに】
そういう目で見ると、ストライクゾーンギリギリだな。
「エルミラさん。先程説明した通り、元人間でも成長は可能ですよ」
「本当ですか! メーヴェル様!」
「はい」
なんだ? この流れ?
『胃に穴をあけるな! 馬鹿者!』
これは……。
【人間より、神様は正直な気持ちを表して……】
罠か!
殺される!
たま~とられる!
逝っちまう!
確実に!
【そうなっちゃいます?】
『お前は、軽率なのか慎重なのか……』
やらせん! やらせんよ!
俺の神をも凌ぐ、脳内高速処理により胃の動きが活性化された。
ぐぅ~と腹の虫が、騒ぐ。
おっ……おなかすいた。
「あら? そう言えば、レイ君は人間でしたね」
えっ?
忘れてたの? 馬鹿なの?
「では、食事をとりましょう」
あ! 忘れてた!
「メーヴェルさん? ここにも食料はあるんですか?」
「はい。食事が必要な神もいるんですよ?」
へ~……。
まあ! いいや!
【これで、餓死の危険は無くなりましたね】
うぅぅぅぅぅぅん!
「では、私達メーヴェル班は、食堂に向かいます」
「了解した」
メーヴェルさんがガイストに声をかけ、俺達は部屋を出る。
あのガイストっての……。
『蛇を思い出すのぅ』
虹彩が、人間のそれとは違うな。
まあ、人であるとは限らないもんな。
【爬虫類……リザードマンのような外見でしょうか?】
かもね。
****
うおう!
「さあ、ここです」
でっかいフロアだ。
【何百席あるのでしょうか?】
カウンターで仕切られた厨房も……。
えっ? 何?
ここで商売する気?
『しかし、調理をする者がおらんな』
だね~……。
「この棚の中が、食材です。全て腐食しない様に、特殊なフィールドで覆っています」
「あの……」
「なんですか? レイ君?」
「料理って……」
「残念ですが、担当していた神が戦死しました」
おおう……。
「ここの器具と食材は、自由に使って構いません。ですから……」
もういい。
わかった。
さて、やるか。
『パンじゃな』
【出来れば、パスタも】
ん!
「あ! 私も手伝うわ!」
「僕も……」
「私も、お手伝いします」
ローズ達も手伝ってくれるのか……。
てか、何気に五人分作らないといけない感じ?
『まあ、そうじゃろうな』
このフィールドは……。
『特殊な小規模結界の様じゃな』
核をつぶせば……うん! 使えるな!
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!
****
メーヴェルさんに見つめられながら、料理を始めた。
「すごっ……」
「ローズさん? エルミラさん? 僕は料理って、ほとんどした事なんだけど……。こんなに激しいものなの?」
「いえ……レイさんは……特別だと思います」
しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「ローズ! その鍋三つに水入れて沸かしてくれ!」
「わ! わかった!」
らぁぁぁぁぁぁぁ!
「ヤニ! これの皮剥け!」
「あ……うん!」
おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「エルミラ! 皿!」
「はっ! はい!」
ふぉぉぉぉぉぉ!
「レイ君……やはり、個性的な子ね」
うし!
【あれ? 先にメーヴェルさんに?】
まあ、そこは最低限の礼儀だしね。
「これを先に貰っていいのかしら?」
「どうぞ」
そのかわり、後で見返りを……。
『煩悩……』
さて、下ごしらえも大体済んだし。
「お前等も、トレーをもってそこに並べ」
「先に僕達が食べていいのかい?」
おう!
お前は、イケメンじゃないから許す!
「うわ~! 美味しそうですね! ローズさん!」
「うん! いい香り!」
一皿……二皿……っと!
三皿……四皿……五皿……。
ん?
あれ?
「大盛りでお願い」
見た事もないSランクの女が並んで、声をかけてきた。
あれ?
「どうしたの?」
あれ~?
九皿……十皿……十一……。
あれ~?
「凄い! 美味しい!」
「今度の担当は、料理を司る神か?」
「これはなかなか……」
「素晴らしい味じゃ!」
おや~?
後、二十人……二十柱? 並んでる。
お~や~?
「私はお代りを頂こうかな」
「こんな料理、俺の世界には無かったな」
は……はめられた!
誰かにはめられた!
「あ……あの。レイさん?」
「なんでせう?」
「私、手伝います」
「あ! 私も!」
「僕も」
「はい……お願い」
あれ~?
****
俺が食事を済ませたのは、四十人の客? をさばいてからだった。
何でこうなるの?
「ありがとう、レイ君」
メーヴェルさん……。
この代価は、後で体【まあ、いいじゃないですか】
よくない!
『食料の代価じゃろう? 普通は』
ぬうう!
「レイさん……凄くよく食べますね」
俺が高速で口へ料理を運んでいるのを、皆が眺めている。
「こんなに……清々しく食べる人初めて!」
「僕も初めて見たよ」
「レイさんって……人間ですか?」
人間ですよ! エルミラ!
『流石は、焼きたてじゃ』
【食材がいいと美味しいですね~。特にパスタが】
あのさ~……。
『なんじゃ?』
なんで俺は、何時もこんな感じ?
『……諦めろ』
ええ~……。
返答もなし?
【神様なら、周りにいっぱいいるじゃないですか。恨みごとなら、そちらへどうぞ】
『まあ、命の保証は出来んがな』
で……ですよね~。
はぁ~……。
「では、先程の部屋へ帰りましょう」
洗い物を済ませた俺は、メーヴェルさんのあとをついて行く。
****
「あら? ガイスト?」
「こちらも少し休憩だ」
部屋から出てきた、ガイスト達四人とすれ違……!?
「きゃ!? レイさん?」
俺に向けられた殺気で、反射的に二本の剣を構えていた。
「すまないな」
「なるほどね。下手な神よりは、力になってくれそうね」
ああ?
青い髪のイケメンからとばされた殺気は、既に無くなっていた。
「先程魔眼で見せて貰った君の実力について話したんだが、この女神に信じて貰えなくてね。失礼した」
【試されたようですね】
喧嘩を売ら【れてません!】
もう、殺しても『駄目じゃ』
てか、イケメンは皆殺【駄目ですって!】
「お互いの紹介は後ほどだ」
ガイストを先頭に、四人がすれ違って行く。
『S×三クラスか?』
いや、S×二クラスだと思う。
でも……。
【魔眼の力が未知数ですね】
「私から、後ほど注意をしておきます。今は、戻りましょう」
メーヴェルさんに諭されて部屋へ戻る。
ちっ……。
『今回は、舐められると言うよりも評価されたんじゃ』
【落ちついて】
分かってるよ。
視線に、俺への軽蔑は無かった。
でも……。
イケメ『お前! もう! しつこいわ!』
【まあまあ】
ちっ……。
「レイってすごいんだ~! 私、ビックリした!」
ああ?
「レイ君……凄いんだね。人間なのに神様に認められるって」
ローズとヤニが、興味津津といった感じで……。
あれ?
エルミラは、逆に泣きそう?
えっ!?
何で!?
「どうかした? エルミラ?」
「レイさんの感じが、凄く変わって……。怖いです」
ええ~……。
お前のが魔力強いだろう?
怖いってお前……。
【怖がられて距離を……ですか?】
『なるほど! 今回はそれか!』
五月蝿い!
「戦う人の目でした……。レイさんは、人間ですよね?」
「えっ?ああ……」
「人間は、私達よりも簡単に死んでしまいます。死に急ぐような事は、しないでくださいね?」
「ああ……」
【あれ? 怖いって、こちらが死ぬ事ですか?】
そうみたい。
エルミラは、さっきから俺の袖を放さない。
『おかしい! 何故嫌われん!?』
ちょ! 五月蝿い!
おかしくない!
****
「さあ、説明を再開しましょう。時間に余裕がある、と言うわけではありません」
メーヴェルさんが、再び説明を開始する。
これは……。
『まあ、聞く必要があるじゃろうな』
俺が所属するのは、救護部隊らしい。
主に力が弱い元人間の神が多いらしいが、戦闘向きでない者や魔力の弱い者が所属する部隊。
「直接の戦闘が少ないとはいえ、重要である事に変わりはありません。敵との戦闘で重要になるのは、魔力により敵を消滅させる事です」
なるほど……。
そんな事が出来るのか。
【確かに狭間は、魔力の海と言えますからね】
侵入の際、世界に穴をあけるそうだが、その穴からエルミラ達は魔力を補給するらしい。
『まあ、神にしか出来んじゃろう』
神様でも、訓練が必要って言ってるもんね。
エルミラ達が補給した魔力を、他の戦っている部隊に補給するか。
【効率を考えてでしょうね】
まあ、最悪の脱出にも使うって言ってるしな。
「次元の穴は、私が固定します。そして、レイ君にはそれの護衛を」
なるほど。
「もちろん最前線の部隊以外にも、それをサポートする戦闘可能な部隊がいますので、戦う機会は少なくてすむでしょうが」
おいおい……。
分かって……言ってるっぽいな。
『サポート部隊も、強い敵を優先的に倒す予定じゃろうが……』
【止める事が出来ない強敵が、抜けてくる可能性もありますね】
えっ?
最悪の場合って……。
『作戦全体……ひいては、神全員の命をお前が背負う事になるじゃろう』
ええ~……。
もう!
勘弁してくれよ!
俺は人間だって言ってるじゃん!
****
それからは、再び神様が狭間から魔力を補給する方法や、訓練の説明。
あああ! もう!
聞いても意味無いじゃん!
またこれかよ!
その説明は、俺の体内時計で十時間続いた。
【多分、二時間かかってませんって】
だって!
暇なんだもの!
やる事って、メーヴェルさんの胸か、エルミラの顔を愛でるしかないもの!
『アホ』
違うわ! 馬鹿!
【まあまあ、しっかり魔力は練り込めましたし】
まあ、悪意相手じゃほとんど意味無いけどね。
『もともと、人間が戦える相手ではないからな』
はぁ~……。
「ガイストの班は、先程言ったサポートの部隊です。直接私達の警護をしてくれますので、挨拶をしましょう」
真っ先に近付いてきたガイストは、ガチャンと首元にあるマスクのロックを外す。
「では、こちらからしよう」
おおう!
ド……!
『トカゲじゃ!』
【ドラゴン!】
ドラゴンで!
身体こそ人型だが、マスクを外したガイストの顔は、完全にドラゴンだった。
意味のない角が四本も生えてる!
【いや、意味はあるんでしょう】
「ん? 珍しいか?」
でも、ドラゴンいっぱい見てるしな。
『似た様な種族は、おったじゃろうが』
「いや……」
「そうか。日頃は魔力を漏らさない様に鎧を着ているが、窮屈でな」
「へ……へぇ~……」
「私は人間が嫌いではない。よろしくな」
「はぁ……」
【人間より神様の方が、礼儀正しいじゃないですか】
こ……。
『こ?』
怖い!
その顔でニヤッ! って、されても怖い!
明らかに、手を出すと噛みつか……食いちぎられる!
【しませんよ】
パクッてされて、うまっ! って言われる!
【言いませんって】
噛まれた傷口からマヒ毒がまわって、保存食にされる!
【だから~……】
『相手にするな』
「さっきは、すまなかったな。俺は氷を司るザッファだ」
青髪のイケメンが、手を差し出してきた。
男と握手か……。
嫌だな~。
『いちいち喧嘩を売るな』
仕方ない……。
「レイだ」
「俺は、ルード。風の神だ」
こいつは……。
『【「普通」】』
五十点!
【五十点!】
『五十点!』
ザッ! 普通だな。
味方じゃないが、敵でも無い。
「レイだ。よろしく」
最後は、女……。
長髪のゴスロリ……。
「私は火のテリアナよ」
「よろしく……」
【あれ? 反応が薄いですね】
見た目が……。
『確かに、年齢と外見は神には関係ないからのぅ』
【若過ぎますか?】
ガキじゃん……。
これなら、まだローズがいい。
【はぁ~……】
「では、説明をしようと思いますが……」
他の皆が、挨拶以外にもいろいろ喋っている中、メーヴェルさんが俺に話しかけてきた。
「ここで聞きますか? それとも私の部……」
「部屋で!」
『はぁ~……』
おや?
笑ってくれてる。
あれ~?
「では、私の部屋へ行きましょう。ついて来て下さい」
こ……。
『こ?』
こんなにうまく行っていいんですか!?
だって!
【だって?】
俺ですよ?
俺なんですよ?
いいんですか?
いいんだよね?
『お前は、誰に聞いとるんじゃ?』
いや! プレイヤー!
いいの?
えっ!?
メーヴェルさんルートの為に、フラグへし折ってただけ?
マジで!?
えっ!?
本当にいいの!?
二十回は、頑張るよ!?
いいの?
【今回、相手の事は?】
あれだけ強い神様だよ!
死なないって!
いけるって!
あの……えっと!
いけるって!
『別に、止めはせん』
【同じく……】
えっ?
何? その感じ?
何で、好きにすればみたいな感じなの?
【『ノーコメント』】
なんだよそれ!
あ~あ!
折角、テンションが上がってきてたのに~!
****
「ここが、私の部屋です」
【『……』】
はぁ~……。
なんだよ~……。
祝ってよ~……。
はぁ~……。
やってらん……。
「さあ、中へどうぞ」
いや!
テンションが、あがって来たぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
ヒャッ! ハァァァァァァァァァァァ!!
【『はぁ~……』】




