十三話
師匠の奥義が、強大な敵を滅ぼした。
「ユーノ……私の神眼は、おかしくなったのか?」
「いいえ~。多分、私も同じものが見えたはずよ」
俺の使った奥義を見た女神達が、信じられないといった表情で自分の目を擦る。
「魔力の量が増えたわけでも無いのに……。あの力は何!?」
「一瞬だったけど、主神を殺せるほどの力だったわね~。あれが、最強の剣技って事? でも、あの男のそれとも違うし……」
女神達の持つ神眼には、俺の技が異質であることが映し出されていたらしい。
「うん!? あれ……何!?」
「お……おい! カテリーナ姫! レイだ! レイが落ちてくる!」
まだ泣き止んではいないが、笑顔を作ったアルベルトが姫さんの服を引っ張る。
「分かってるわよ。引っ張らないで! アルベルト!」
「あの、ユーノ様、アストレア様?」
「なに~? メイドさん?」
「どうなったのでしょうか? あの……その……」
「世界もレイも姫も、無事よ。見て分かるでしょ!」
恐る恐る問いかけたメイドさんに、先程までとは違う事で苛立つアストレアは強い言葉で返事をする。
「すっ! すみません!」
「あら~? 姫様を抱き締めるレイが気に入らない? アストレア?」
「ちっ! 違うわよ!」
「少しは、私の気持ちが分かった~? でも、大丈夫よ~。私達は二人なんだし。お得なこっちを選んでくれるわよ」
「違うったら! でも……本当にそうかな?」
頬を染めたアストレアは、期待を込めた目でユーノに問いかける。
「うふふっ。さ~あ、どうでしょう?」
笑っていたユーノの顔が、予想外の事態に強張る。
「えっ!? ちょ!」
「嘘! ブラックホールが!」
「えっ!? 申請が……おりた! 行くわよ! ユーノ!」
「空間固定を優先ね~……。アストレア! 私達のダーリンの事! 任せたわよ!」
「分かったわ!」
本来の力が出せるようになった女神達は、結界から信じられない速度で飛び出した。
****
「そんな……レイィィィィィィィ!」
「間に合ってよね!」
アストレアの願いは、叶わない。
俺はブラックホールの中に飲み込まれ、アナスタシアの悲痛な声が周囲に響く。
「いやああああああぁぁぁぁ!」
「くっそ! 体が!」
(落ちついて下さい! マスター! 回復まで……後、二分三十七秒です!)
「レイ! レイ! あああ!」
「くそ! あいつは魂が……くっそ!」
「は~い。レイの回収は、アストレアが向かうわ~」
師匠の前に到着したユーノが、ローブを鎧に換装させ両手に凄まじい魔力を込める。
「ユーノ?」
「私は、あの大穴を塞ぐわ~」
「なら……アストレア! あいつに、魂を……魔力を注いでくれ!」
まだ動く事の出来ない師匠は、ブラックホール内に向かおうとしたアストレアを引き留めた。
大事な事を伝える為だ。
「はっ!? そんな事……」
「それが、あいつを救う! 頼む!」
「わっ! 分かったわよ!」
「どう言う事~? 破壊神?」
「あいつは……」
****
暖かい……。
金色に輝く、これは何だ?
俺は……。
死んだんだよな?
魂が無くなったと思ったから、無に消えると思ったけど。
もしかして、俺も魂の故郷にこれたのか?
でも……。
なんだろう?
気持ちいい。
とても安らぐな……。
この感覚は、まるで……。
そうだ!
小さい時に、母さん達に抱かれた時の様に。
えっ!?
梓さん!?
もしかして、待っててくれたんですか?
嬉しいな。
えっ!?
なんで、そんな顔するんですか?
お願いです。
そんなに、辛そうな顔をしないでください。
お願いですから……。
俺……。
俺に出来るだけ、頑張ったつもりなんですが……。
駄目なんですね?
ああ!
ちくしょう!
死んじまったら、これ以上もうどうしようもない。
はぁ~……。
やってらんね~……。
俺は、梓さんを笑わせることすら出来ないのかよ。
あ~あ……。
なんて最後だよ。
童貞卒業できないだけでも、洒落にならないのに……。
救いすらないのかよ。
はぁ~……。
****
「あの……」
うん?
「すみません。申し訳ないんですが……」
なんだ?
「起きておられますか?」
え~……。
「なんですか?」
てか、あんた誰?
目の前には、濃いブラウンの髪と瞳の……。
おっ……。
結構可愛い女の子。
「私、ここに来るの初めてなんです」
そう何度もくる所じゃないだろう?
「それで?」
「お手数ですが、道を教えて頂けませんか?」
なるほど……。
「お安い御用だ」
俺は、寝そべっていた草むらで上半身を起こし……。
辺りを確認する。
ここは、庭……かな?
少し離れた場所に石畳があり、大きな建物へと続いている。
なるほど……。
何処!?
【さあ……】
ああ?
何処!?
『何処じゃろうな?』
え~……。
え~と……。
あれ?
【どうしました?】
俺……死んでなくね?
『バッチリ、生きとるな』
俺って、魂無くなったんじゃないの?
今回は、師匠に助けて貰えたとは思えないんだけど?
【私達も、魔力の枯渇で今意識を取り戻したんです】
えっ!?
これって、実は死んでなさそうに見えて死んでるとか?
『……いや、生きとるはずじゃ。魂に魔力もある』
は~い。
わけがわかりませ~ん!
あれ~?
【おかしいですね】
「あの……」
ああ!
忘れてた。
「えっとね~……」
「はい」
ここは何処ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
なんでこんなとこに、俺はいるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
誰か、助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃ!
何処ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
ここぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
『落ちつけ! 変態!』
変態関係なぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!
何? これ!?
俺、生きてるの!?
何で!?
ここ何処!?
そしてこの娘、誰!?
えっ!?
何?
何のドッキリ!?
えっ!?
訳が分からない!
「あの~……もしかして、ヴァルハラの方ではないのでしょうか?」
ヴァルハラ?
なにそれ、食えるの?
【食べないでください。きっと、地名です】
ああ……。
どうしよう……。
『どうするかのぅ』
「あの?」
ああ!
どうしよう?
【ここは、素直に言いませんか?】
そうしようか?
『お前は、嘘をついてもろくな事にはならん』
ですよね~。
「はぁ、気が付いたらここに居ました」
「そうなんですか」
落ち込まないで……。
俺も、へこみそうだから!
「ああ、そうだ!」
なんですか?
「目的は一緒ですよね?」
いや……。
多分、違う様な気がします。
「一人で心細かったんです。一緒に行きませんか?」
どうする?
えっと……。
『どうするんじゃ?』
どうしよう?
【どうしましょう?】
えっと……。
よし!
この娘可愛いから、ついて行こう!
【いいんでしょうか?】
『今回は、全く見当がつかん』
「じゃあ、一緒に行く?」
「はい! 私は、エルミラです!」
「ああ……レイだ」
「宜しくお願いします」
「よろしく……」
あれ~?
この子……。
【そう言えば……】
『少し、焦り過ぎて気がつかなんだな』
え~……。
魂がぎらぎら光ってます。
「私は、五穀豊穣の神です。レイさんは、何を司る方なんですか?」
エルミラがニコニコと……。
えっ!?
「なんで、神限定なの?」
「えっ? だって、ここは神のみが来られる場所じゃないですか」
はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
えっ!?
何の嫌がらせ!?
俺、神になったの?
『なっとらん』
何これ!?
どう言う事!?
【分かりません】
ああ! もう!
また、何かに巻き込まれるんじゃね!?
ええい!
くそ!
誰の嫌がらせだよ!
神か?
神なのか!?
言ってみろ!
ちくしょう……。
やってらんね~……。