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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
38/77

十二話

『今じゃぁぁぁぁぁぁぁ!』


「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」


おおおおおお!


【くそ! 障壁が……】


自分の隣に展開された障壁が突き破られる前に、全力で踏み出す。


そして、目の前にいる敵に向かい二本の剣を突き出す。


<シャイニングシザー>!


よし!


もう一匹!


光の剣身が消える前に、もう一匹を駆逐しようとしたが、圧に耐え切れなくなった俺の脚からボギンっと鈍い音が聞こえた。


「くっ! ……この……」


着地によって、明後日の方向へ曲がった足のせいで、体勢を崩した。


【敵の魔法……きます!】


「らああああ!」


敵の放った光球は、なんとか弾き飛ばせた。


くっ!


敵のエネルギー砲をかき消す為に振るった魔剣は、魔力の刃を失う。


【復元完了です……】


くそ……。


こんな所で……。


『魔力残量……ゼロじゃ』


体が……全く反応……しやがらね~……。


動けよ! ポンコツ!


まだ、残りカスほどだが……魂が残ってるだろうが!


まだ、五十匹も殺して無いんだ!


言う事を聞けよ! ちくしょう!


【体内の合成液体金属からも……】


『とうの昔に空っぽじゃ』


俺は、戦いたいんだ!


俺はまだ戦えるんだ!


くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!



「まずい……まずいわよ! ユーノ!」


「大声を出さないで! アストレア! 分かってるわよ!」


「どうしたんだ!? レイも敵も……動きを止めてるぞ!?」


「五月蝿いわよ~。顎髭の人間」


「レイが……レイの魔力が尽きたのよ」


「その上、人間の限界の限界を超えたみたいね~……。もう! なんで承認がおりないのよ! 私の男が死んじゃうじゃない!」


「くそ……今の私達じゃあ……足手まといにしかなれない……」


アストレアは、悔しそうに自分の親指の爪を噛む。



どうした!?


「ひゅぅぅ……ひゅぅぅ……ひゅぅぅ……」


かかってこいよ!


最初に来た奴に、倒れながらでも剣をぶっ刺してやる!


その次は、噛みついて……噛み切ってやるよ!


さあ! 来いよ!


俺はここだ!


クソ悪意共が、瀕死の気迫にたじろいだのは、そんなに長い時間じゃない。


ただ、それも運命だったんだろうか?


それとも、俺の悪運か!?


****


空の遥か彼方で、ドウンっと空気が大きな音を立てる。


「えっ!? 承認が来た!」


「ユーノ! じゃあ……」


「アストレア! 待って! 違う……このコードは……」


「まさか……運命の……強制介入コード!?」


とんでもない速さで踏みつけられた大気が、再び大きく振動する。


「あの方は、レイがどんな選択をするかお見通しだったようね~……」


「無茶な……でも!」


「ええ、唯一で最高の選択ね~」


女神達は顔を見合わせて、笑顔を作る。


「通りで私達の承認がおりないはずよ……」


「ユーノ? アストレア? 何を笑ってるの?」


空を黒と白銀の物体が、高速で移動していた。


その二つが踏みつけた大気が震え、爆発の様な音が女神達の耳に遅れて届く。


(よし! 間に合った!)


(よかった!)


(行くぞ! 最初から全開だ!)


(はい! マスター!)


《レディ! セット!》


白銀の影が光の粒子に変わり、黒い影に重なり左腕を覆う鎧に変わる。


「分かる様に説明してよ!」


「ふふふっ……ごめんね~、お姫様」


「あの方に間違いはない! あの男を……最強の破壊神をよこしてくれたのよ!」


****


あ……。


あああ……。


「弧月(こげつ+フレア)!」


馬鹿みたいな魔力を纏った三日月状の衝撃波が、俺に飛び掛かろうとした敵を吹き飛ばした。


あ~あ……。


俺の目の前に、刀を持った者が舞い降りてくる。


格好良過ぎるよ……。


「待たせた!」


師匠……。


『お前の悪運だけは、この世で一番じゃな』


うっせ……。


【ヒーローは遅れて登場ですか? 出来過ぎですね】


死神が……。


最強の死神が、奇跡を……。


「弧月乱舞(こげつらんぶ+フレア)!」


うおおおお!


右手の刀から衝撃波を乱発しながら、こちらに向けた左手で俺に魔力を供給した。


(いけるな?)


念話!?


(はい! まだ、戦えます! 体も……もう、動きます!)


(よし! 俺と情報連結しろ!)


えっ!?


これは……。


【貴方のお師匠様は、最強の神です】


師匠の視覚情報が、俺に流れ込む……。


流石は、最強の神が持つチート。


世界すべての魔力が、完全に見える。


どうなってるのか分かんないけど、三百六十度全部見えるじゃねぇぇか!


『こうして見ると……』


ああ! 隙だらけだ!


魔力の弱い部分から流れ、攻撃の起点らしき場所まで全部丸見えだ!


敵は只、魔力が強くて速いだけ!


いける!


(合わせろ!)


背中合わせに、刀を構える師匠からの合図……。


はい!


「おおおおおお!」


「次元流奥義、桜花円舞陣(おうかえんぶじん+フレアノヴァ)!」


<ツイン! ソードストーム!>


円を基本とした、乱撃。


大地と、大気と、魔力に……。


流れに剣を合わせるんだ。


最速で、最良の斬撃を!



「な……なによあれ!?」


「竜巻……黒と……灰色の……」


「人間達~。よく目に焼き付けなさい。そう見られるものじゃないのよ」


「あれこそ神と人の頂点。最強の師弟よ」



お前等は、確かに速い。


そして、強い。


だが、それだけだ。


今の俺には、全てが見える。


俺の知覚領域に、師匠の眼が加わればまさに完璧だ!


俺より速いはずの敵の攻撃が、全て予測できる。


皆殺しだ!


てめぇぇ等の命……。


全て刈り取ってやるよ!


『気を抜くなよ! 若造!』


【はい! お任せを!】


俺の中の全てが噛み合った時、世界と俺が一体化していく。


(精神に、防御壁を展開しておけよ)


(はい、展開済みです! マスター!)


(あいつの狂気を超えた殺意は、俺達でも数分で気が狂う)


(一途で、悲しい……とても強い想い)


殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!


遅いんだよ!


死ね!


死んでいけ! クソったれ!


(それにしても……お気づきですか? マスター?)


(ああ、これは才能なんて言葉で片付けるレベルじゃないな)


(まさか、人間のままでこれほど魔力を感知して、敵の攻撃を予測できるなんて)


(馬鹿弟子が……。運命の輪から解き放たれても、地獄に真っ直ぐ進みやがって)


(お説教ですね。……それから)


(ああ! 全てを終わらせて! 免許皆伝をくれてやる!)


(はい!)


****


時間の感覚がぶれてしまったが……。


多分、敵をせん滅するのに時間はほとんど必要なかったはずだ。


「運がよかったようだな」


巨大な光の繭は、まだ開かない。


それは、融合が完了していないという事。


ああ……。


お前……。


(レイ……信じてました)


そこで踏ん張ってくれてたんだな……。


待たせたな。


「師匠! 運じゃありません! あいつが……アナスタシアが……」


「そうだな。俺の失言だ。許せ」


師匠の視界を借りている、俺には見える。


二つの巨大な魔力を持った球体が、アナスタシアで繋がっている。


多分、黒くて巨大な魔力を持った球体が、世界三つ分の悪意。


少し弱いが白く光っている魔力の球体が、この世界の意思……。


二つを繋ぐ管の真ん中に、アナスタシアがいる。


今、その小汚い悪意から引きはがしてやる!


(大丈夫……私は覚悟が出来ています。この世界の為に……私ごと悪意を倒して下さい)


お前……。


(私の肉体が滅びても……心は何時までも貴方とともに……お慕いしております、レイ)


ふざけるな!


(レイ?)


助けて見せる!


何があってもだ!


俺の全部をかけてでも、世界を! お前を守って見せる!


お前は黙って、そこで信じてればいい!


この俺を!


(はい……はい!)


んでもって!


全部終わったら笑えよ! いいな!


約束だ!


(はい!)


よし!


「師匠! 俺が、あの弱点を! アナスタシアが、囚われている場所を!」


「しかし……」


「分かってます! 奴等の核がむき出しになるのは、一瞬だけ! その瞬間を逃せば、倒せないほどの敵が完成してしまう!」


「俺が、あれを破壊しても、あの娘が巻き込まれるぞ? いいのか?」


分かってますよ……師匠。


だから……。


「俺が、守って見せます! この命に代えても!」


「お前……」


(とても強い意志ですね……マスター)


(もとより、言って聞く奴じゃないか)


「よし! なら、守って見せろ!」


「はい!」


「行くぞ! 今こそ我ら流派の真髄を!」


(行くぞ!)


(はい!マスター!)


「ぐ……がぁあああああああ!」


師匠の瞳が金色に変色すると同時に、魔力が爆発的に大きくなっていく。


最後に、背中から真っ黒な光の羽が開いた……。


俺達も……。


行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


『うむ!』【はい!】


俺の! 【私達の!】 『全てを一撃に!』


「おおおおおおおおおお!」


心、技、体全てを極限に!


意思の力を一つに!


俺の体を覆う魔力が、突風を巻き起こす。


二つの特別な剣が一つに重なり、姿を変える。


そして、身長を超える灰色の刃を出現させた。


これが、俺の全てだ!


「一撃必殺!」


光速へと到達した一撃が、この世の全てを斬り捨てる!


「ディメンションブレイカ―!!」


解き放たれたアナスタシアが、宙に浮き……。


そして、敵の核が顕わになった。


「次元流秘奥義!」


くる!


今度こそ……守り抜いて見せるんだ!


必ず!


俺は、アナスタシアを抱き締める。


俺の体を盾にして……。


こいつだけは!


俺の体が砕け散っても……。


俺の魂全てを燃やしつくしても!


こいつだけは守って見せる!


こいつだけは……。


次元斬(じげんざん)!」


師匠の究極の一撃が、敵の核を切り裂くと同時に……。


光が広がる。


****


あれ?


なんだ?


俺は死んだのか?


見渡す限り真っ白な空間……。


(馬鹿だねぇ)


えっ!? ババァ……。


(わし等が、お前を死なせはせん!)


エゴール……。


(私らの魂だよ。使いきっておくれ!)


おい!


そんなことしたら、魂の故郷に帰れない!


もう二度と、生まれ変われないんだぞ!?


(さあ! 進め! 友よ!)


ああ……ちくしょう……。


(アナスタシアを任せたよ! レイ!)


ちくしょう……。


ちくしょう……。


ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!


守りきるよ!


絶対にな!


俺は……二つの魂を取り込んだ俺の魂を、全力で燃やす。


灰色のオーラが、俺の身体ごとアナスタシアを包み込んだ。


(レイ……)


(アナスタシア……大丈夫だ。お前は、俺が守る)


(はい……)


俺達は、抱きあったまま……。


光に飲み込まれる。


こいつだけは……。


****


ドサリと背中から地面に落ちた俺は、そこから意識がはっきりし始めた。


「が……ごほっ!」


俺は……。


生きてるのか?


『うむ』


「レ……イ?」


俺の腕の中には、アナスタシアが……。


よかった。


【魔力も魂もスッカラカンですがね】


上出来だ。


いや……俺にしては出来過ぎだ。


「レイ……レイ! レイ! レイ!」


痛いって……。


アナスタシアは、俺を力任せに抱き締めて泣いている。


泣かないでくれよ……。


ああ、くそ!


声も出ない……。


「無事だな?」


師匠……。


「あの技は、俺もしばらく行動不能になる」


師匠も、力なくその場に座っていた。


「五分もすれば、回復する。そうしたら、魂を補充してやる」


やったよ……。


俺、やっと守れたんだ……。


【ええ、そうですね】


「レイ? 動けないんですか?」


顔!


顔近い!


アナスタシアが、俺の顔をまじまじと見つめている。


ちょ……あの……。


動けないし、緊張するからやめて……。


「レイ……ありがとう」


頬……。


頬にキスされたぁぁぁぁぁぁぁぁ!


『落ちつけ! チェリー!』


うるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!


「きゃ!」


えっ!?


俺達の身体が、何かに引っ張られるように宙に浮く。


なっ!?


『馬鹿な!? ブラックホールが広がっておる!』


そんな……。


【空一面を覆うほど? こんな……】


敵を倒した爆発の影響なのか!?


「きゃああ!」


アナスタシア!


(師匠!)


「この!」


師匠は、俺の呼びかけにまともに動かないはずの体で、アナスタシアを掴んでくれた。


優しい死神は、いつも俺の期待に応えてくれる。


浮き上がっていた俺の体だけが、どんどん上空のブラックホールへと向かって行った。


「レイ!」


あ……。


アナスタシアから伸ばされた手を……。


弱い……。


弱いままの俺は、届きもしないのに手を伸ばそうとしてしまった。


駄目だ!


駄目だ! 駄目だ!


手なんて伸ばしたら……。


アナスタシアの傷になる。


考えろ!


強がりでいい! 誤魔化すんだ!


俺は伸ばした右腕の……。


拳を握り、突き出す。


そして……。


「そんな……レイィィィィィィィ!」


俺は、笑って見せた。


師匠はアナスタシアを右腕で抱えたまま、鎧に覆われた左腕で大地を穿ち、体を固定した。


「くっ!」


「いやああああああぁぁぁぁ!」


じゃあな……。


お別れだ。


俺はそのままブラックホールに飲み込まれた。


****


あ~あ……。


ちくしょう……。


とうとう年貢の納め時だ。


魂自体がもう消えかけてる。


多分、もう何分ももたないだろうな……。


『仕方があるまい』


はぁ~……。


やってらんね~……。




【未練でも?】


結局未使用だよ。


結局、魔法使いにもなれなかった。


【まあ、魔法は既に使えますがね】


意味が違う。


はぁ~……。


結局、死ぬ時なんて一人だな。


『なんじゃ? えらくさっぱりしておるな?』


まあ、今更後悔なんてしてないよ。


俺にしては、十分だ。


【そうですね】


そう言えば、ジジィ?


『なんじゃ?』


俺が死んだら、若造はすぐに消滅するけど……。


『わしは宿主がおらねば、殆ど身動きがとれん。どうせ、魔力の渦に巻き込まれた粉々じゃ』


そうなるか……。


【でしょうね】


『地獄の入口で待っていろ。すぐに行く!』


え~……。


若造。


【なんですか?】


ジジィほっといて先に行こうぜ~。


【ちょ!】


『お前は! 本当に最後まで!』


はぁ~……。


最後まで冗談の通じない奴らだ……。



徐々に、目の前が光に包まれていく……。


お迎えだ。


じゃあな。


【はい……すぐに行きます】


『待っとれよ! 馬鹿孫!』


へいへい……。



ああ……。



眠いや……。

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