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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
37/77

十一話

正面から一匹……。


背後から二匹……。


人類から見て、神と呼称できる真っ黒な翼の悪意が俺に向かってくる。


もう我慢しなくていい。


いいんだ。


俺の意思に反応して、合成金属達が目覚めていく。


自分の中にある、狂気の鎖を解き放て。


真っ青に燃え上がる殺意の炎を……。


真っ黒に染め上げろ。


眼前の敵を……。


殺すんだ!


「おおおおおおお!」


俺の体内からあふれ出した灰色の魔力が、体を包みこむ。


そして、二本の剣に伝わっていく。


呼吸を忘れるほどの静かな世界で、俺は天使を模した化け物に剣を振るう。


すれ違いざまに、背後から来た一匹を斬り捨てる。


敵が……。


敵の魔力が、どんどん上昇している?


魔力の上昇に伴い、敵が速度を増していく。


少し離れた場所に感知できる、有り得ないほどの魔力。


四つ分の世界そのものの魔力。


あれが、融合を進める事でこいつ等にも力が流れ込んでいるのか。


なるほどな……。


こちらを見ながら、気持ち悪くニヤついているあの馬鹿がいる。


これが、奴の作った絶望か。


俺達の生還は限りなくゼロに近い……。


いや、もしかしたら本当にゼロかも知れない。


ははっ……。


いいぜ! やってやる!


魂を殺意の炎に焼べろ!


敵の速度が、俺に追いつく前に!


ぐがああああ!


<ラピッドクロス>!


もう一匹を十字に斬り捨てた時……。


最後の一匹が、俺の速度領域に到達した。


くっそったれ!


敵の拳を聖剣で迎えうったが、力負けした俺が吹き飛ばされる。


****


弾き飛ばされた俺の体は城の壁を背中で突き破り、城外にまで飛ばされる。


凄まじい衝撃に吹き飛ばされたせいで、俺の体はなかなか失速しようとしない。


「くそ! くそ! くそぉぉぉぉぉぉ!」


『回復するぞ!』


ジジィの声が聞こえた事で、意識が高速領域から抜けてしまった事が分かる。


砕けた左腕から、煙が噴き出していた。


【きます!】


俺の目の前にまで追いついてきた敵が、空中で拳を振りおろしてくる。


速過ぎて……。


通常状態の俺には、ギリギリでしか感知できない。


だが……。


今の俺には知覚できている!


「おおおおお!」


『ぐぬぬ! 回……復……』


【このおぉ!】


何とか間に合った二枚の障壁は、湖に張った薄い氷のようにいともあっさりと突き破られる。


それでも、刹那の時間だけ拳が俺に届くのが遅れた。


空を蹴り、魔剣をコアに向けて突きだす。


俺の体の中から骨が折れ、体のすり潰される音が聞こえてくる。


敵の拳が、肋骨を砕き皮膚を突き破ったのだ。


裂けた心臓から、大量の血が噴き出した。


「この……くそったれ!」


俺が背中から激突した地面は、クレータ状の穴を開けた。


俺に覆いかぶさるコアを失った敵が、霧のように消える。


【復元します!】


『よし! まだじゃ!』


ああ!


まだやれる!


腕に力を入れようとした瞬間、また体が脈を打ち始める。


この!


血流にあわせて、意識がなくなってしまいそうなほど強烈な痛みが、体内を駆け巡る。


邪魔なんだよ!


合成魔力を使ったつけは、容赦なく俺を苦しめ、体中から血を噴き出させる。


くっそったれぇぇぇぇぇぇぇ!


「ぐがぁ! げほっ! こ……この! 動け!」


痛みなんて邪魔だ!


【魔力が……】


『繋ぐんじゃ! 魔力はわし等が繋ぐんじゃ!』


【はっ……はい!】


まだだ!


殺すんだ!


敵を殺すんだ!


「レイ……」


「レイ様」


えっ!?


「レイ!」


馬鹿!


「出るなぁぁぁぁぁぁ! その結界から出るんじゃない!」


俺に駆け寄ろうとした、カテリーナとメイドさんに叫ぶ。


どうやら俺は、城の裏山にまで吹き飛ばされたらしい。


最悪に備えた、女神の結界は発動で来たようだな。


「何笑ってるのよ! 早くこっちに来なさいよ!」


「レイ様……ああ……酷い」


大丈夫……。


大丈夫だ。


今、その涙を俺が止めてやる。


「いいざまだな! イレギュラー!」


クソ偽神……。


スーツを着た馬鹿面が、宙に浮きこちらを見下ろしいる。


「やはり、お前のその力は持続出来んようだな~! クズ!」


嬉しそうに笑ってやがる。


「どうだ? 見えるだろう? あれこそが、私の成果! そして、貴様の絶望だ!」


馬鹿の指差す方向には、地面から生えた巨大な黒い光の繭。


そして、黒い羽が生えたどんどん魔力が膨らんでいく、邪悪な神々。


【クインタプル(五倍)Sクラス……でしょうか?】


『ふん!手の込んだ事じゃな』


あれ全部が、全力で俺を殺そうとしてくるのか。


まさに地獄ってやつだな……。


『相手にとって、不足なしじゃ!』


【限界以上……出してみますよ!】


ああ!


「なんだ……その目は?」


ああ?


「あの時と同じ……。何故だ!?」


五月蝿い奴だな。


「何故この状況で、絶望しない! あれが見えるだろうが! お前は死ぬんだぞ!」


けっ……。


「それがどうした? クソったれ!」


「何故、絶望しない! お前には、希望も明日もないんだぞ!? 馬鹿なのか!?」


うっせぇ……馬鹿はお前だ。


「希望も明日も……欲しけりゃくれてやる!」


「も……もう! お前は魔力も残っていないし……あの……魂すら尽きかけているんだぞ!」


お前が動揺してどうするんだよ。


『相手は、只の馬鹿じゃ。仕方あるまい』


【その通り】


「俺の命が欲しいなら、くれてやる。そこらの雑草より、価値なんてないがな」


動け!


「お……お前は」


「だが、ただじゃないぞ! 代価は、お前等全員の命だ」


苦痛も絶望も、必要ない。


「この……」


「腕がもげたら、蹴りつけてやる! 足がもげれば、噛みついてやる!」


蝋燭ですら、燃え尽きる前に炎を大きくするんだ!


高まれよ! 俺の魂!


燃え尽きる前に!


「この……」


「心臓を裂かれても、脳を潰されても、魂が燃え尽きても! 殺してやるよ! クソったれぇぇぇぇぇぇ!」


動きやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


「この……人間がぁぁぁぁぁぁぁ!」


「がああああああああああ!」


無理矢理苦痛をおさえ込んだ俺は、両のまなこを見開く。


そして、全力で大地を蹴り、魔力をともした二本の剣を偽神に振るう。


「ひっ!」


逃がすか! クズ野郎!


<バースト……>


左下段から振りあげた魔剣が、馬鹿を斜めに両断する。


胸の部分にあった小さな核が、必死に右腕の先へ逃げようと移動している。


俺は、あの時とは違う……。


機械のエネルギーも!


知覚出来るんだよ!


<……インパクト>!


真っ直ぐ突き出した聖剣が、偽神の核を破壊した。


「イ……イレギュラァァァァァァァァ!」


ふん! ろくに戦った事がない奴が、こんな最前線で調子に乗るからだ。


まだ後遺症の残る体では受け身など取れず、俺は背中から地面へと落下した。


「はぁ……はぁ……はぁ……ふん! うぐ……ぐぐぐっ」


地面に落下した俺は、血まみれの体を立ち上げる。


これからだ。


これからが、本番だ。


死ぬために……。


生かす為に、殺すんだ!


俺の存在が擦り切れて無くなるまで、戦うんだ!


「ちょっと~……。分かってるの?」


ああ?


「分かってるよ。クソ女神」


「分かってない! あの一つ一つが、あんたの何倍の力があると思ってるの!」


五月蝿い奴だ。


「貴方は、別の世界に逃げられるのよ?」


「そっ! そうよ! あんなのどうしようもないわ! いったん引いて作戦を立てるのよ!」


「落ちついて……アストレア」


この世界とあいつを見捨ててか?


「やなこった」


「あんた、分かってるの!? 死ぬのよ!?」


何をいまさら……。


「ここで逃げれば、俺の魂が死んじまうんだよ」


「私達は、まだ力が使えないのよ!?」


ああ、そうかい。


「そんなもん、期待してない」


「笑えないわよ~?」


「お前等も言っただろう? 俺は生きているだけで、罪なんだよ」


「はぁ!?」


「自分の不幸に巻き込んで、人を殺す俺は……俺が居ていいのは、あそこだけだ」


「人げ……レイ」


「地獄こそ、俺の居場所! 敵を殺す事が、俺の存在理由だ!」


さあ、行こう!


『うむ……そうじゃな!』


【はい!行きましょう!】


あの地獄が、俺の……俺達の棺だ!


苦痛を意識の外へ追いやり、空を蹴る。


「おおおおおおおおおお!」


<ペネトレイトアロー>!


****


「馬鹿じゃないの! 馬鹿よ!」


「落ちついて~、アストレア」


姉であるユーノは、妹に爪を噛むのを止めさせる。


「まだ承認はおりないの!?」


「まだよ。今回は、かなり異例のせいかしら」


顔をしかめた女神達の耳に、膝をついて呆然としているライの声が届く。


「こんな馬鹿な事があってたまるか……。これは何だ!? 僕は夢でも見ているのか!?」


「ライ……」


「そうだ! そうだよ! こんな事が、現実に起こるはずがない! そうじゃないなら……奴だ! 奴の自作自演だ! そうだろう? ソフィー?」


自分の存在を保ちたいライは、必死の形相でソフィーに顔を向けた。


「分からない……。私には、もう何も分からないのぉぉぉぉぉ!」


「なんだよそれ……。おい! ユリウス! そうだろう!?」


「…………」


両目を閉じたユリウスは、返す言葉を持っていない。


「有り得ないんだ! 勇者の僕が……勇者の僕に倒せない敵なんて、いるはずがないんだ!」


「嫌! 触らないで! あ……ごめん、ライ。でも……」


自分に必死にすがりついてくるライを、ソフィーは跳ね除けてしまう。


呼吸を浅くしたライは、狂ったように自分の頭を掻き毟った。


「あああ……レイ……あいつだ! あいつが元凶だ! あいつこそが、世界を滅ぼす悪魔なんだ! うげっ!」


ライの顔を蹴りつけたユーノは、不機嫌そうに鼻から息を吐く。


「少し目ざわりよ~……。人間」


「お前などが、レイを差し置いて勇者など……笑わせないでよね。人間」


姉の言葉に、ライに見下すような視線を送るアストレアも続く。


「……僕が……僕が勇者なんだ! 愚民を救ってやったんだ! 僕が、褒め湛えられるべきで……僕が一番じゃなきゃいけないんだぁぁぁぁぁ! ごはっ!」


ライの言葉をそれ以上聞きたくなかったのか、アストレアは拳を振るう。


そのアストレアに、姫さんが言葉をかける。


「アストレア。私の分をもう一発、頼むわ」


「姫様………………。ユーノ様! 私の分もお願い致します」


ライの言葉に堪忍袋の緒が切れていたらしいメイドさんも、ユーノに土下座で制裁を依頼した。


「土下座までされたんじゃあ~……。仕方ないわよね~」


「ひっ! ひぃぃ!」


一撃で三本も歯を折られたライは、アストレアの拳に恐怖して起き上がれずに震えている。


「その力……貴方達も人間じゃないのよね?」


ライを馬鹿にしたように鼻で笑った姫さんが、女神達に問いかけた。


「そうよ~。私達は女神。そして、世界の裁定者」


「そう……じゃあ、教えて! レイは……あの馬鹿は、どれほどの人を救ったの?」


困ったように眉を歪めた女神達は、どこまで教えてもいい物かと悩んでいるらしい。


「そうね……億……」


「億!? レイ様はいったい……」


「いえ……既に人数だけなら兆に達してるかもね~」


ユーノの言葉を聞いたアルベルトが、四つん這い膝をついて地面を殴りつける。


「それで……それで自分は勇者じゃないだと!? ふざけるな!」


「アルベルト……」


「おい! ラインバック! お前に聞いてやる! 勇者とは何だ!?」


「……あぐぐ……それは……」


「お前のように人より秀でた力を、自分の虚栄心を満たす為に使う者か!?」


涙を流しながら、アルベルトはライを睨みつけて怒声をぶつける。


「ふ~ん……男泣き~?」


「ユリウス! お前のように、人を支配して満たされる者の事か!?」


「…………」


「あいつは……誰かに認められる為でも、称えられる為でも無い! ただ、みんなに笑って欲しくて戦ってるんだ。……自分の全てをかけて。本当に……馬鹿だよ、お前は」


泣き崩れるアルベルトに、包帯を巻いた男が近付いていく。


「私も……弱い私には、勇者を名乗れません」


「イグナート様? もう、宜しいのですか?」


「あの方が、手加減をしてくれたからね……。あれが、真の勇気……。人間の頂点なんですね」


イグナートの言葉を、ユーノが肯定する。


「そうよ~……。全ての世界で、あれ以上の人間は存在しないわ。今までも……多分、これからも」


「あの方を勇者と……英雄と呼ばずに、誰がそれを名乗れるのでしょうか……」


「何でよ!?」


イグナートの話を聞くほどの余裕がないアストレアは、苛立ちから思いきり地面を蹴りつける。


「何回申請しても、同じよ? アストレア」


アストレアの苛立つ理由が分かっているユーノは、落ち着けといわんばかりに言葉を発した。


「なんで承認がおりないのよ! あの方は、レイを助けたいんじゃなかったの!?」


「貴女が申請する前から、私が何百回申請したと思ってるの~?」


「ユーノ……」


「当然でしょ? 私が先に目をつけたんだから~……。あんないい男、神の中にもいないわよ」


女神達の話を聞いていた姫さんが、大きく息を吐き出した。


「女神までその気にさせるって……私達にはライバルが多過ぎるわね」


「姫様……」


閉じていた目蓋を開いた姫さんの目には、強い意志が灯っていた。


腹を据えたらしい。


「ここに全ての術者を集めなさい! 今すぐよ!」


「カテリーナ?」


「これから逆召喚……異世界への転移魔方陣を、組みあげるわよ! 早く!」


「はっ!」


「出来る限りの人間、動物達を異世界に退避させます!」


「カテリーナ姫……」


「あんた達異世界の勇者は、私が責任を持って送り返すわ! ただし、最後よ!」


「ふ~ん。根性あるじゃない、お姫様」


姫さんの言葉に、ユーノが意味ありげに笑う。


「この世界の命を逃がして……最後に残った私が貴方達を送り返す! !文句は受け付けないわ! いいわね!」


「カテリーナ! お前はどうするのだ!?」


「お父様……。私は見届けます!」


「お前……」


「お師匠様の魂を受け継ぎ、この世界と妹弟子を救うために命をかける……。私の愛する人を!」


「カテリーナ……」


いつの間にか、メイドさん達使用人や兵士達一同が、姫さんに土下座をしていた。


「貴方達……何のつもり?」


「姫様! 私もレイ様を見届けとうございます! どうか、留まる事をお許しください!」


メイドさんは目に涙を溜めて、姫さんに懇願する。


「頭を上げなさいよ……」


「姫様! 我等ロンジュール兵の命は、レイ様に救って頂いたもの! 我らも同伴致します!」


「わたくし共使用人一同も、心は常にレイ様とともあります!」


「もう! 好きになさい……。馬鹿なんだから」


「姫様……」


再び大きく息を吐いた後、姫さんは戦場へと目を向ける。


「レイ……貴方は、これだけ人に思われてるのよ? 分かってる? 負けたら……あの世で、無理やりでも結婚してもらうからね!」


****


クソったれ!


「があああああああ!」


速度でも魔力でも劣る俺は、師匠からの技でギリギリ直撃を避ける。


それでも……。


風が……。


大地の欠片が……。


魔力の破片が……。


俺の体……命を削る。


『若造! 致命傷以外の復元は、後回しじゃ!』


【はい!】


残り少ない俺の魂……。


魔力の刃が、きれかけた電球の様に不安定になっていく。


魔力の足りない刃では、化け物共を倒す事は出来ない。


それでも!


諦めてやるもんか!


足掻いてやるよ!


ジジィ!


『よし! 若造! 魔力じゃ! 受け取れ!』


【はいぃぃぃぃ!】


「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い我が刃となれ!」


敵の攻撃を回避しながら、秘言を唱え魂の力をかき集める。


魔剣から灰色の刃が消える。


もう二度と……。


『よし!』


「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」


魔剣が、本来の光る剣身をともす。


「おおおおおおおお!」



もう二度と!



絶望なんてしてやるもんか!



〈シーザースラッシュカスタム〉!


俺と言う……。


「ぐがっ!」


『ええい! 魔力が間に合わん!』


【局所障壁! まだまだぁぁぁぁぁぁぁ!】


この俺と言う、ちっぽけな存在が消えてなくなるまで……。


「があああああああ!」


絶対だ!


くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇ!

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