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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
36/77

十話

「くくくくっ……あぁぁっはっはっは!」


「所詮、人間などこの程度!」


俺を……。


俺なんかを友なんて言うから、死んじまうんだ。


馬鹿野郎。


俺の不幸は筋金入りなんだよ。


馬鹿エゴール。


死ぬのは俺一人で十分なのに……。


ああ……。


ちくしょう……。


「どうした? 人間?」


俺の心が……。


「恐怖で、動く事も出来ないか?」


俺の心が一色に染まっていく。


真っ黒な炎一色に……。


「もう、お前を助ける盾は無いぞ~?」


心臓がドクンと大きく脈を打ち、体内の合成金属達が目を覚ます。


俺の全身は、灰色のオーラに包まれ、急速に修復されていく。


そして……。


「さあ! つ~ぎ~は~……お~…………ま~………………え……………………の…………………………」


そして、世界の全てが速度を失った。


殺してやるよ。


お前等は……。


何も感じないまま……。


そこで死んでいけ。


「えっ!? えっ!? 何!?」


「ああ……天使が」


エルザと一般兵の目の前で、いきなりクソ天使モドキが光の粒子へと変わる。


そこに立っているのは、灰色のオーラを纏った俺一人。


「今のは……レイ様が?」


「なんなのよ! あれは!」


結界の活動を停止させられたアストレアは、その光景に両目を見開く。


「アストレア様にユーノ様」


「あんな事……人間には! 人間のままでは、不可能だ!」


「落ちついて~、アストレア。だからこそ、あれはイレギュラーなのよ」


くそったれ……。


灰色のオーラが消えると同時に、胸の奥から激痛が溢れ出してくる。


「おい! 女神共!」


「な……なんだ?」


「その結界は、どうなった?」


「出来る限り、抑え込んだわよ」


「でも~、異世界三つ分」


脈動する俺の全身は、胸からの激しい痛みを隅々にまで行き渡らせていく。


「はぁ? 分かる様に喋れ!」


「生意気ね~……。異世界三つ分のあれが、侵入したの!」


ちっ……。


ドクン、ドクンと心臓の鼓動にあわせて、苦痛がその強さを増していった。


このっ!


口内に鉄臭い液体が、逆流してきた。


「うっ! ごはっ! はぁ……はぁはぁ……」


俺はバシャリと、大量の血を吐き出す。


「ぐうう! くそ……ごぶっ! はぁ……たれ……」


全身から血が噴き出したせいで、俺の足元にある真っ赤な水たまりがどんどん広がっていく。


もちろん、有り得ないほどの激痛を伴って……。


「やっぱりね~……」


ユーノが呆れたように息を吐き、目を細めた。


「あの……ユーノ様?」


「人間があんな力を、何のリスクもなく使えるはずがないのよ」


ぐがあああああ!


俺の手に入れた力ってのは……。


嫌になるほど、不便に出来てやがる。


あ~……。


やってらんね~……。


だが、意識を失ってる暇なんて無い。


泣きごとを言ってる時間も無駄だ。


行くぞ!


『しかし、後遺症で魔力の循環が……』


どうでもいい……。


【いくら貴方でも、これ以上の苦痛は後遺症が残ります】


知るか……。


殺すんだ……。


奴らを。


守るために、殺すんだ。


『馬鹿者が』


「なんなのよ! あいつは!」


「アストレア様?」


「イラつく! 人間のくせに!」


行くんだ……。


敵のいる所へ。


戦うんだ。


「ブルルン!」


クソ馬……。


フラフラと歩いていた俺の襟に噛みつくと、クソ……ゼピュロスは鞍へと放り投げた。


「ヒヒイイィィン!」


掴まってろってか?


逃げもせず……。


馬鹿な馬だ。


「私達も行くわよ!」


「転移は~……。駄目ね。封じられてる」


「私は馬を……」


一般兵とエルザが、馬がいるかもしれない厩舎に向かって走り出した。


****


何とかゼピュロスに掴まった俺は、そのままロンドジーブへ向かう。


そこに敵がいる。


俺の戦う相手がいる。


苦痛も、恐怖も、絶望も……。


知った事か!


俺はまだ……戦える!


俺の耳に大きな銃声が届く。


「ヒヒィィン!」


あれは……アルベルト?


足元に銃弾を撃ち込まれたゼピュロスが、嘶き立ち上がる。


「ぐはっ!」


そして、俺は振り落とされた。


「止まれ!」


ロンドジーブの町は、目と鼻の先……。


「はぁはぁはぁ……」


ぐっ……ああああ!


全身を引きちぎられる様な痛みの中、何とか立ち上がった。


「ブルル……」


ゼピュロスが、顔を近づけてくる。


「助かった。ここまでで、十分だ」


再びの銃声で、ゼピュロスが体全体をびくりと反応させた。


俺の足元に、アルベルトの銃弾が炸裂する。


「止まれと言っている!」


そうもいかないんだよ。


俺は、そのまま真っ直ぐに城へと歩き出す。


ドガンというけたたましい銃声が、三回連続で聞こえてきた。


その三発すべてが、あさっての方向へと跳んでいく。


「止まれ! 次は威嚇じゃ済まさないぞ!」


「止まれないんでな。好きにしろ」


そんなに、震えてるんじゃ……。


歯を食いしばったアルベルトは、もう一度引き金を引くが……。


ほら……外した。


アルベルトの放った銃弾は、俺の肩をかすめただけに留まった。


俺を殺したいなら脳天でも狙え、馬鹿。


「何でだ!」


ああ?


「お前は本当に、世界を滅ぼす悪魔なのか?」


知るか……。


「アナスタシア姫までが、お前を悪魔だと言う!」


何?


ああ……ちくしょう。


俺は、なんでこうも後手に回るんだ。


「だが、俺の知ってるお前は、悪魔なんかじゃない! なにより……」


………………。


「そんなボロボロの……悪魔がいるものか」


お人好しのヒゲだ。


「俺はもう……友を撃ちたくない」


そう言うと、アルベルトはその場にしゃがんでしまった。


百メートルほどの距離を、何とか歩いた俺はアルベルトの横を通り過ぎる。


「お前なんて、友達じゃね~よ」


「レイ……」


「俺の友達になると、みんな死んじまうんだ。だから、てめぇぇは赤の他人だ」


こんなお人よしを、俺の為に死なせていいわけがない。


こいつが生き残れば、今日死ぬかもしれない俺よりも多くの人を救うはずだ。


勇者として。


****


城下町に入ると、初めて訪れた時のように、沿道に大勢の人が立っていた。


おいおい……。


なんだこりゃ?


俺の肩に軽い衝撃が……。


石?


うん?


人々から、俺は石や瓶を投げつけられる。


「悪魔!」


まあ、もともと死ぬほど痛いから関係ないけどね。


「帰れぇぇぇぇぇぇぇ!」


「悪魔!」


「死ね!」


「お前なんて! 居なくなれ!」


はっ……。


懐かしいこって……。


【懐かしい?】


ああ。


俺は、ガキの頃からこんな感じだったんだよ。


【そう言えば、過去を見た時に……】


『町中の人間から、嫌われておった。まあ、今のように畏怖は無かったがな』


本当に、悪魔だと思っているんだろう。


俺の前を塞ごうとはしない。


恐怖にかられた人々は、ただただ罵声と物を投げつけてくる。


人を不幸に巻き込む俺には、おあつらえ向きだ。



『まずいぞ!』


ちっ……。


まだ、体がまともに動かない上に、魔力の循環も回復していない。


そして、目の前にはライ、ユリウス、ソフィーが武器を構えている。


「やはりお前は、勇者などではなく! 悪魔! 倒すべき敵だった!」


うっさい、ハゲ。


「この勇者ラインバックが、引導を渡してやろう! お前の卑怯な……」


ああ、もう。


五月蝿い。


敵を目の前にして、そんな長ったらしい口上って……。


殺されるぞ? 馬鹿?


「エルザの敵だ!下衆野郎!」


自分で見殺しにしといて、よく言うよ……。


「そう……そうよ! 私は間違ってない!」


うん?


ソフィー?


「全部貴方が悪いのよ! あの……兵士を殺したのも……貴方が悪いのよ!」


完全に目がいってるな……。


【見捨ててしまった自分の罪悪感に、押しつぶされまいとしているのでしょうね】


馬鹿が……。


人のせいにしても、拭えるもんじゃないぞ?


まあ、生きてる本人を見れば正気に戻るだろう。


大丈夫だ。


この経験をバネに……。


俺なんかと関わらなければ、きっといい勇者になる。


しかし、まずったな。


痛みは引いてきたが、体がまだ動かん。


何とか、致命傷だけは回避しないと。


「さあ! 死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」


俺の目の前で、甲高い音を伴った強い閃光が広がる。


えっ!?


魔方陣?


ライ達三人が、結界で動きを封じられた。


「は~い。そこまで!」


クソ女神。


何処で馬を調達したんだ!?


一般兵を含めて、取り残されていた四人が馬で俺を追って来たらしい。


「エルザ! これはどう言う事だ!」


「ユリウス様、お許し……いえ! 許して頂かなくても構いません!」


ユリウスの血走った眼光を、エルザは強い瞳でおしかえてしまう。


「エルザ! お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「その方を……レイ様を助ける為なら、私は貴方にも逆らいます!」


何があったんだ? エルザ?


まあ、いいや……。


「早く……早く行きなさいよ!」


アストレア?


「急いでくれる~? さっきかなり力を消耗した上に、こいつ等かなり魔力が強いのよね~」


ライ達はアストレア達の結界に抵抗をしており、少しずつだが体を動かし始めていた。


まさか、この二人に助けられるなんてな……。


『もう少しじゃ!』


ああ、体もだいぶ動くようになってきた。


城に目を向けた俺の前に、一人の男が立ちはだかった。


「ここからは、通しませんよ」


イグナート……。


こいつ……目に迷いが無い。


あのライでさえ、あったのに……。


「お前、分かっているんだな?」


少しだけ目を閉じたイグナートが、口を開く。


「はい……。愛する彼女は、真っ暗な闇に落ちてしまわれた」


「で?」


「貴方の様に、彼女を止めるのも愛の形」


…………。


「だが! 私は、彼女とともにありたい! たとえ、それが暗い闇の底でも」


それが、お前の愛の形ってわけか?


『よし!』


【いけます!】


「彼女の為に……死んでいただきます!」


神剣グラムに魔力の刃が灯る。


あれを、魔剣で受けとめれば……。


『最悪、折れるじゃろうな』


【私にお任せを!】


よし、任せた……。


二本の剣を出した俺が、イグナートが踏み出すよりも、一瞬だけ早く前に出る。


「くっ!」


踏み出そうとした瞬間に、距離を無くされたイグナートが、反射的に後方へと跳んだ。


普通の人間には、不可能な反射だ。


だが、遅い!


イグナートと、同タイミングで跳んだ俺は、聖剣で神剣グラムを弾き飛ばす。


<スペースリッパー>


そして、魔剣でイグナートの鎧ごと胸部を切り裂いた。


急所は外してあるし、傷も浅いはずだ。


殺しはしない。


地面に叩きつけられたイグナートは、気を失ったようだ。


「馬鹿な!? あのクズに、イグナート殿まで……」


「エルザ! これを解除しろ! お前は、俺の奴隷だろうがぁぁぁぁぁ!」


よし! 体が動く!


城から、クソったれの魔力……。


【また、あのクラスが……五体はいますね】


異世界の奴まで、来てるらしいからな。


「おい! 裏山の結界を作動させろ!」


それだけをユーノ達に伝えた俺は、城へと跳躍する。


****


「きゃああ!」


玉座の間から、魔力とカテリーナの悲鳴!


くそ!


壁を蹴破って入ったそこには、血を流して倒れるカテリーナとババァ。


くっそ!


二人を見下すように、アナスタシアが玉座に座っている。


玉座の左側には天使が、右側には……奴がいる。


急いで、二人の怪我を!


おい!


『よし!』【はい!】


カテリーナに、右手から回復の魔力を。


ババァに、左手から復元を。


「その二人のゴミムシは、最後まで私の邪魔をするんですよ」


アナスタシアが、笑っている。


「その上、私と世界の融合まで否定されるなら……。殺すしかないですよね?」


くっそ!


「どうだ? イレギュラー? 最高のショーだろう?」


この腐れ外道が!


「私は今……いうなれば、神のコンサルティングをしている」


ああ!?


「お前やあの女神達……。そして、死神によって神の計画は滞ってしまった。だが! 私の案によりそれは、解消されるのだ!」


『もう……少し!』


この!


馬鹿が、嬉々として計画を喋っている。


「我等の能力……浸食を使うのだよ! 神もそうだが、所詮は世界一つ分の魔力。我らが手にした世界の魔力も、そのままでは一つ分だ」


「世界を二つ三つ浸食で、合体させるってことか! ソったれ!」


「流石は、優秀な遺伝子をもつイレギュラーだ! 正解!」


まずい!


最悪の場合、女神達でもどうにもできなくなる!


「この世界は、その第一実験場だ。まあ、いろいろ手順が面倒だし、時間もかかる」


まだか!?


【もう……少しだけ】


「だが! 運良くこの世界には、結合の触媒となるこのお嬢さんが居てくれた! まあ、居たからこの世界を選んだんだがね」


まだか!?


もう、殺意を抑えるのが限界だ!


「さあ! お前の絶望を見せて貰おうか!」


殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!


【待って下さい! ヨルダさんが……】


えっ?


そんな……。


復元は終わってないのかよ!?


【終わりました!】


ババァの体から……魔力が。


いや、魂が剥離していく。


「え!? ヨルダ!? ヨルダ!?」


目を覚ましたカテリーナも、ババァの異変に気が付いて声をかける。


そして、ババァがうっすらと目を開ける。


「ババァ! まだ、他に怪我か!?」


「レイ……すまないねぇ。結局、全てあんたに任せちまう」


「そんな事より!」


「ヨルダ! しっかりなさい! ヨルダ!」


くそ! 魂が!


『これは……』


「怪我は関係ないんだよ……。もう、寿命ってやつさ」


そんな……。


これは、この症状は……。


ババァ! 魔法で命を?


『むう。寿命を消費してでも、アナスタシアを元に戻そうと無理に魔法を使ったようじゃな。失敗だったようじゃが……』


「ヨルダ! ヨルダァァァ!」


腕の中で、ババァの魂がどんどん体から抜け出していく。


「カテリーナ……。これからも、しっかり星見の修行をするんだよ」


「ヨル……お師匠様! しっかりしてよ! お師匠様ぁぁぁぁぁぁ!」


「レイ……これは、寿命なんだ。あんたが気に病む必要はない」


ババァ……。


勘弁してくれよ……。


俺が騙されなきゃ、こんな事に……。


くそっ!



「どうか、この世界と……私の可愛い弟子達を救っておくれ」



ババァ!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


えっ!?


ババァの体から剥離した魂が……。


俺の体に吸収されていく。




(私の魂を使っとくれ。……勇者レイ……シモンズ)




勘弁してくれよ。


本当に……。


俺は、勇者じゃないって言ってるだろうが……。


ああ……。


ちくしょう……。


皆……。


みんな死んでいく……。


「さて! 姫様! そろそろ、人間どもに本当の事を伝えましょう!」


「そうね。楽しみです」


アナスタシアにより、規格外の念話で世界の終りが人々に伝えられた。


「どうだ!? 最高の演出だろう!」


俺の手から、命が零れていく。


「いい顔だ! 後は、絶望の顔を見せて貰おうか!」


俺の不幸に巻き込まれていく……。


「この世界には、既に五百の上級天使が来ている!」


その人達の魂を食らい。


生き延びた俺は、どうすれば償える?


「その上、世界四つ分の神が誕生するのだ! どうだ?」


全てを背負った俺は……。


俺は……。




戦おう!


全てを殺す為に!


この俺が消えてなくなるまで!


『そうじゃな!』


【私達には、それしか出来ません!】


さあ、もう抑える必要はない。



「カテリーナ? 確か、転移出来たよな?」


「レイ?」


「先に行って、裏山の結界を作動させておいてくれ」


「レイ……なの?」


俺は今……。


どんな顔をしているんだろうな?


「頼んだぞ?」


抑えていた殺意とともに、灰色のオーラが体から噴き出す。


立ち上がって、振り向いた先には……。


変わり果てた、アナスタシアと……。


クソ野郎!


ぶっ殺す!


「やはり、その力で上級天使を倒したか。まあ、想定内だ」


「テメーら全員……ぶっ殺す!」


「これは、怖いな。では、姫様……ここは私達に任せて、儀式に」


「分かりました」


(……けて)


あん?


(助けて! レイ!)


アナスタシアは、貝殻のブローチをにぎりしめている。


血が滴るほど強く……。


俺は、もう二度と……。


守って見せる……。


今度こそ!


カテリーナが転移し、アナスタシアが消えると同時に、天使どもが俺に飛び掛かってくる。


全てを賭けて守って見せる!


絶対の!


絶対にだ!

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