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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
35/77

九話

城壁の上に登り座り込んだ俺は、月を眺める。


う~ん……。


明日はロンフェオールへ向かう為、最後の砦に攻撃を仕掛ける。


その砦には、魔族の兵士が一万以上。


その上、魔王までいるらしい。


四人でも落とせると思うけど、全員が出撃できる明日にした理由は……。


『四人よりは、十人で戦えば勝率は飛躍的に上がるじゃろうからな』


【怪我人や戦死者の数も、おさえられるでしょうしね】


焦ってるはずなのにな……。


【そうですね……】


あいつは優し過ぎるんだ。


戦争が綺麗事じゃないって、分かってるはずなのに……。


ん? 視線?


「どう思う~?」


「確実に強くなっているわね。確かに、驚愕するレベルだけど……」


「そうなのよね。それは、所詮人間での話なのよ~」


「同胞から、イレギュラーと恐れられる存在にしては……」


「ええ……。弱過ぎるわ」


「あの男の教示を受け、運命から外れた……上級天使と渡り合う人間」


「でも、あれに対抗するには、決定的に力が不足よね~」


「そうね。あの方は、何故あの人間に固執すのかしら?」


「まさか、あの男の様に神を取り込ませるとか?」


「そうなると、私達を超える存在になるかもね」


「あら~。そうなると、私の連れ合いにでもなってもらおうかしら~?」


「あれの何処がいいの? ユーノは、物好きね」


「分かって無いわね~。あの手の男は、ギリギリまで追い詰めるの」


「は?」


「もう死にたいって所で手を差し出してあげれば、私を裏切らない、何でもしてくれる都合のいい男になってくれるのよ~」


「ふぅ~……。あんた、本当にいい趣味してるわ」


「ありがとう~」


(こっち見んな。気分が悪い)


視線に耐えられなくなった俺は、念話を飛ばす。


『お前……八つ裂きにされるぞ?』


あんなクソアマ共に見られてると、考えがまとまらないんだよ!


「あら、見つかっちゃったわね」


クソ女神共は、その場を立ち去って行く。


これで、ゆっくり考えごとが出来る。


ふ~……。


どうすっかな~……。


【そう言えば、何を悩んでいるんです?】


いや~……。


今から大人の店に行こうか、どうしようかと思って……。


『若造よ。この馬鹿の話を、真面目に聞くのは間違いじゃ』


【今、後悔してます】


馬鹿って言うな!


だって! 今日は絶好のチャンスじゃん!


【何がです?】


夜のお店に行く!


『はぁ~……』


姫さんからお金は貰ってるし……。


もう、俺に女を好きになる資格は無いけどさ……。


お金を払って、割り切った関係なら! っと思って……。


【はぁ~……】


でもな~……。


俺の不幸は、何処までなんだ?


俺とそう言う事すると、死ぬかな?


心がこもって無ければ、セーフかな?


『知るか』


でも、仕事で付き合ってくれたんだとしても、女の人が俺のせいで死んだら嫌だしな~……。


とは言え、このまま未使用で死ぬのもな~……。


『情けない』


五月蝿い!


【しかし、今回はかなり本気で悩んでますね】


まあね~……。


俺が行く世界全て……。


あいつ等の手が伸びてるじゃん。


【そうですね】


それだけあいつ等が、浸食を進めてるって事かもしれないけどさ。


今回かもしれないし、次かもしれないじゃん?


『何がじゃ?』


俺が、消えてなくなるの。


『お前……』


いやいや!


もちろん、今更命なんて惜しくないけどさ。


チャンスがあれば、卒業しとかないと。


五分後に発作で逝くかも知れないし、明日あいつ等と戦って逝くかも知れないじゃん。


『そうじゃな……』


改めて聞くけど、お前らって俺から分離出来ないの?


『なんじゃ? またその話か?』


【しつこいですね~】


でも……。


『ふん! 地獄の底まで、付いて行ってやるわい!』


【たとえ貴方が、私達を置き去りにしようと那由他の距離を走っても、必ず追いついて見せます】


物好きだね~……。


『お前に言われたくわない!』


話が逸れたが……。


【きっと、そういう商売の女性も不幸になりますよ?】


ですよね~……。


あ~あ……。


卒業なんて、絶対無理じゃん!


やってらんね~……。


うん?


城の中庭に、人影が二つ。


「つまり勇者とは、常に正しくあるべきだ!」


「そうね」


「そうすれば、自ずと人々から尊敬と支持を受ける。間違っても、あの馬鹿は勇者じゃない!」


「そう……よね。うん! そうよ! 勇者は清く正しく正々堂々と……」


あの馬鹿って、俺の事か?


俺への悪口が、ライのライフワークになりつつあるな。


【駄目ですよ】


何が?


【暴力です】


分かってるよ。


ムカつくけど、あいつにはソフィーを守ってもらわないといけないしな。


『まあ、あれでも勇者じゃ。人間のレベルは超えておる』


自分で恋人って言うくらいだし、守るくらいは大丈夫だろう。


さて、ここに居てもあいつの悪口が聞こえて気分が悪いし。


****


俺は、城内へ戻ろうと歩き出した。


ん? この気配は……。


「いいの?」


「何が?」


「あれ……ほとんど洗脳に近いじゃない」


「まあ、正論ってのは耳触りがいいもんだし、間違ってるわけじゃない」


「でも、戦いってそんなに甘くないんじゃない?」


「ソフィーは二十年も生きて無いんだ。今は、あれくらいでいいんじゃないか?」


「自分が、教え導こうって気は無いわけ?」


「俺の近くに居る方が、死亡率が高まるからな。ライの傍でいいじゃないか」


「それが、あんたの本音なのね」


「ああ……。それより、姫さん」


「何?」


「喋り方が素に戻ってるぜ?」


「あんたにはいいでしょ? どうせ気付かれてるんだし」


「まあ、戦争さえ終われば、あんな強気で傲慢なふりも必要無いか。賭けは、俺が勝たせてもらうぞ」


ふと、姫さんの顔を見ると……。


なんでそんなに悲しそうなんだ?


「あんた……死ぬ気でしょ」


おう?


「どうしたんだよ」


「あんたから感じないのよ」


「はぁ?」


「明日へ繋がるものが、何も無いじゃない。おかしいわよ! 人として!」


全否定ですか?


「確かに、使用人やアルベルトとは仲がいい様に見えるわ。でも、本当の本音をぶつけて無いじゃない! 何処か、一線を引いて付きあってる!」


よく見てるね~……。


「人間関係だけじゃないわよ! 人から褒められたい! 認められたい! 優しくされたい!……だから、人は人に尽くすのよ。あんたは、それが無い。不自然よ」


ふ~……。


「これが俺の生きる理由なんでね。多くの命を奪ってきた、俺の罪ってやつだ」


「お願いよ。何か求めてよ……」


カテリーナ姫さんは……。


いつもの仮面を外して……涙を……。


「じゃあ、一つだけ」


「えっ?」


「笑ってくれよ。美人が台無しだ」


「レイ……」


「代価は、この世界の平和って事で、よろしく」


俺は、そのまま自室へ……。


向かおうかと思ったが、部屋の前にアナスタシア姫様の気配……。


そして、姫様に向かってイグナートが……。


よし!


目的の部屋の扉を、バンッと俺は勢いよく開く。


「酒を出せ!」


「えっ!?」


「おお! お前も来たか!」


アルベルトの部屋にいった俺は、エゴールを含めた三人で酒を飲みました。


うん!


これでいい。


****


「おい! 起きろ!」


え~……おう! おはよう! ヒゲ!


えぇぇぇぇ。


ああ、馬車で最後の砦に向かったんだったっけ?


もう着いたのか?


「まったく、緊張感の無いクズだ」


ライからの嫌みと、ユリウスからの不快な視線。


最悪の寝起きだな。


「わしが考えた陣形だ」


エゴールが、地面に陣形を書いている。


前衛は、俺、イグナート、白ヒゲ、アストレア。


中衛は、アルベルト、ユーノ。


後衛は、ソフィー、エルザ、雑魚×二。


まあ、こんなもんだよな。


「エゴール殿!」


ライとユリウスが、エゴールに文句を……。


もちろん、俺の前衛についてだろうな。


『まあ、伊達に年はとっておるまい。上手く説得するじゃろう』


だね。


【それよりも、今回は私達を使いますか?】


そうだな……。


まあ、悪意が出てきたら出すわ。


【分かりました】


『温存したお陰で、魔力は十分じゃ』


そう……うん!?


強い闘気を感じて、そちらに目を向けると……。


「わしに文句でもあるのか、若造ども?」


ち……力技ぁぁぁぁ!


エゴールが、力技!


年の功、関係無い!


エゴールの闘気に負けた馬鹿二人が、引きさがっていく。


「さあ、纏まった所で行きましょう」


涼しい顔で、イグナートが剣を抜く。


後で、きっと俺が文句言われそうだな~……。


さて……。


****


「うむ! 一万か! 相手にとって不足はない!」


迫った来る敵に、俺達は武器を構える。


いっちょやりますか~。


『そうじゃな』


【真面目にやって下さいよ?】


分かってるって。


「これでは、我々の出番は無いようだな、ユーノ殿?」


「そうね。楽だし、いいんじゃない?」


俺達四人の間を通り抜けられる敵なんて、存在しない。


死んだふりをしても、魔力を感知できるから意味がない。


エゴールの広範囲攻撃は、常に大地を揺らしている。


アストレアの半径十メートルに近づいた敵は、それだけで胸の風穴があく。


イグナートの間合いに入った敵も、一瞬で肉片に変わる。


派手だね~……。


『敵全員の死角から、コアを貫くお前の方が器用じゃがな』


だって、フレイが折れるかも知れないじゃん。


戦うのに困る事は無いけど、借り物だし出来れば折りたくない。


【敵は高くてCランクですから、問題は無いでしょうがね】


俺の範囲に入った敵は、多分知覚すること無く絶命する。


「黒い……残像!?」


「馬鹿な! あんなクズに……」


「やはり、レイ様は……」


「エルザ!」


「あ! ああ……すみません! ユリウス様! あ……あの……」


よいしょっと!


焦って出てきた……中ボス?


Bランクの敵を瞬殺した俺達は、建物内部へと侵入した。


おかしいな。


『奴等の気配がないのぅ』


そうなんだよ。


あれ~?


「おい、アストレア。あいつ等がいないぞ?」


「気安く呼ばないで。でも、確かに変ね……」


う~ん。


砦を突き進み、出会った魔王は……。


「完全に、普通のコアだぞ?」


「私に聞かないでよ!」


お前! 神様だろうが!


【せいぜい、今までの魔王より少し強いというくらいですね】


あれ~?


「少しは骨のある敵が出てきたな!」


そい!


エゴールが肩を回している間に、残りの三人が攻撃を加える。


もちろん、俺とアストレアの攻撃はコアを砕くので……。


即死。


「お……お前等! わしの分を残せ!」


五月蝿い! 白いひげ!


う~ん……。


逃げる残党にも、悪意の気配がない。


どうなってるんだ?


『分からん』


近辺から退避したのか?


う~ん。


「ざ! 残党はわしの獲物だからな!」


ああ、もう。


好きにしろ。


****


「どうなってるんだ?」


ロンフェオールの城下町に着いたが、町の中から人の気配が全くしない。


ただ、敵の魔力も感じない。


訳が分からない。


ただ……。


ただ何となく、いい知れない不安を感じる。


空気が淀んでいるのか?


なんだ? こりゃ?


「ブルルゥン……」


アホ馬もさっきから落ちつかない様子だ。


「どうしますか?」


「う~む……」


手分けして街中の探索……は、駄目だろうな。


【万が一の場合、各個撃破を狙われますね】


『一般兵に向かわせれば、犠牲者が出るかも知れん』


纏まって街中を探索するのも、何も無かったら時間の浪費だしな。


エゴールとイグナートは判断に困ってる。


クソ女神共も、首を傾げてるな。


「仕方ありません! まずは城に向かいましょう!」


イグナートの声で、ロンフェオール城へ向かう。


「な……んだ!? これ?」


「どうしたんだ? レイ?」


気が付いたのは、女神二人だけか?


いや! イグナートも気が付いてる。


「おい! これは……」


「私達も、こんな結界は初めてよ……」


どうなってるんだ!?


「レイ殿も気が付かれましたか……」


「ああ……」


「これをご存知ですか?」


自分の世界に居る時に、魔力を吸収して見えなくする結界は見た事があるが……。


『これは、それ以上……。魔力すら出ておらんし、反響も吸収もない……。異世界の魔法か?』


女神共にはどう見えて感じているか分からんが、俺には辛うじて違和感としてしか感じられない。


魔力が……この空間を透過している!?


と、でも言うのか?


「これは初めて見る……」


「そうですか」


「おい! レイ! イグナート! どうしたんだ?」


エゴールの問いかけに、イグナートが説明をする。


どうする?


【魔力で斬れるでしょうか?】


わからん……。


『これは、空間ごと魔力を込めて斬るか?』


そうだな……。


「私達が解除するわ」


アストレア?


「ユーノと私の神眼で、解析は出来たから」


なるほどね。


流石は女神。


「ああ。結界は、あの二人が解除する」


俺が皆に説明を終えると同タイミングで、女神達が結界? を破壊した。


うおおお!?


その瞬間、溢れ出るように悪意のこもった魔力が噴き出してきた。


何だ!? この異常な魔力は!?


「なんだ? 何も変わらないではないか」


「そうですね。おかしいな」


えっ!?


エゴールやイグナートすら感知出来ていないのか?


反応したのは、俺と女神達だけ。


『他の者は、変質したお前の魔力も感知できん! これが人間で分かるのは、お前くらいじゃ!』


落ちつけ……。


でも、これはヤバい!


はぁ!?


今度は、なんだよ!?


町の入り口付近か!?


いきなりふざけた魔力の塊が現れやがった!


くっそ!


何かの罠だ!


【この場合は……】


女神達とアイコンタクトをとると、馬から降りた俺は城から逆走する。


今回は、一人じゃない。


そう……。


弱くて馬鹿な俺は、そう考えてしまった。


「ほう、咄嗟の反応としては、正解だ」


そんな……。


『馬鹿な! 何故こ奴が!?』


【死んでいなかった!?】


俺の前に現れたのは、スーツ姿のクソ偽神……。


アカシックレコードリーダライター……。


「どうした? 再開に感極まったか? イレギュラー?」


なんで?


「お前に亜空間へと飛ばされ、エネルギー源の無くなった私は……私の核は、真の神に助けられたのだ」


それって……。


「まあ、お前達は悪意などと呼んでいるようだがな。彼らこそ、本当の神なんだよ」


クソったれ!


俺の体からは、白と黒のオーラが立ち上り始めた。


「あの方の指示には、私も逆らえん。仕方無く、この世界に居たのだが……。使い魔を通して、お前の映像を見た時は嬉しかったぞ。死んでいるとばかり思っていたからな」


この野郎!


「なら、今度は蘇れない様に殺してやるよ! クソったれ!」


「私もそうしたいがね。お前の方が、困るんじゃないかな?」


ああ?


えっ?


晴天だった空が、いきなり暗くなり始める。


雲……じゃない!


これって!


【日食です!】


「急ぐ事だな。お前には、相応しい舞台を用意してある」


「この!」


「さあ! ショータイムだ!」


あっ! くそ!


偽神は、俺が動揺しているすきに転移した。


(逃げて! 逃げて下さい! 皆さん!)


しまっ!


アナスタシアから、強力な念話が飛んできた。


狙いは、俺の分離かよ!


****


高速移動した俺は、城門が開いたままの城に飛び込む。


えっ!?


『どういう事じゃ!?』


城の大広間には、巨大な魔方陣。


女神二人が、それに向かい魔力を放っている。


他の皆は無事だが……。


(……はめられたのよ!)


は?


アストレア!?


(私達を守りなさい!)


ユーノ?


何がどうなってる?


二人の女神から、絞り出すような念話が飛んできた。


それほど余裕がないのか?


あ……。


勇者達に寄り添うように立つ……。


城の兵士と、王らしき人物の魂が……。


【悪意です!】


まずい!


皆が、俺に視線を向けている背後で、敵が武器を構えている。


やらせるか!


魔剣と聖剣を呼び出した俺が、魔力を込めて悪意となった兵士達を斬り伏せる。


そして、最後に王らしき敵にうち落としを……。


なっ!?


コアの魔力が膨れ上がり、剣を押し返された。


「馬鹿は扱いやすい」


小さな声で、それは呟いた。


俺は、反射的にその場を飛び退く。


『肉体のダメージは、奴らには無意味じゃ!』


魔剣の食い込んだ肩から、心臓に達するほど肉が裂けているが。


コアを破壊出来なかった。


くっそ!


「そんな……レイ。嘘だろ?」


アルベルト?


「お前が、俺達を騙していたなんて……」


は?


「勇者様! これが証拠です! ここは私達が、命に代えても!」


悪意の言葉が理解出来ずに、一瞬動きを止めた俺に城の兵士達が突撃してきた。


【全員悪意に!】


どうなってるんだ!?


なんだ!?


兵士……悪意を斬り捨てる俺の、視界が大きく揺れる。


地震!?


バリバリと音を立てて、床とその下の地面が裂ける。


まずい! みんなを助けないと!


「お前に、そんな余裕があるのか?」


隙だらけの俺に、王だった肉体に憑りついた悪意が接近していた。


速い!


【障壁が間に合いません!】


魔法で腹を打ち抜かれた俺は、情けないく女神達の足元に転がる。


「ぐが……」


【復元します!】


くっそ!


その場所である事に気が付く、亀裂が入りどんどん割れていく床。


そして、倒壊する城……。


その中で、この場所だけが不自然に何の影響もない。


「きゃああああぁぁぁ!」


地面の亀裂に飲み込まれそうなエルザが、ユリウスに手を伸ばす。


最悪だ……。


自分が助かる為に、ユリウスはエルザの手を振り払った。


早く! 復元を!


【もう……少し】


「ソフィィィィィィ!」


地割れに落ちそうになっている、ライと一般兵が見えた。


ライは、必死でソフィーを呼ぶ。


振り返ったソフィーは……。


ライの手をとり、自分の方へと引き寄せた。


声もなく、手を伸ばして掴んでもらえなかった一般兵が、地割れに飲み込まれていく。


これは、どうしようもない……。


どうしようもないが、勇者を名乗ってる奴が一般人を犠牲にしやがった。


くそ!


まだかよ!


【復元……完了です!】


『あれは!?』


俺が飛び出すよりも早く、エゴールが落下する二人を抱え、飛び上がっていた。


<ホークスラッシュ>


「こっちだ!」


衝撃波で、三人に迫る瓦礫を吹き飛ばし、誘導の為に俺は叫ぶ。


「……ふぅ……ふぅ……老人には、ちとキツイな」


二人を抱えたまま、つきだす岩を蹴ってエゴールが何とかたどり着いてくれた。


「ああ……ああああ。私は……捨てられた」


涙を流して震えるエルザと、放心状態の一般兵……。


他の人間……気配は……。


イグナートの魔力を先頭に、皆は上手く脱出できたようだ。


辺りは既に、魔方陣がある一角を残して悲惨な状況へと変わっていた。


情けない……。


『仕方あるまい』


ほとんど動けないかった。


二人の女神は、いまだ結界に魔力を注ぎ込んでいる。


念話で話しかけても、返事が無い。


『余裕がない様じゃな……。この魔方陣は……』


「焦っても、もう手遅れだ」


声のする方を見ると、空に浮かぶ……人の姿をした悪意。


やってくれたな……クソったれ!


「馬鹿な! 奴等は人ではないのか!?」


「その通り。我等は、お前達愚かな人間を処罰に来た……神の使いだ!」


クソったれ共が、融合し三体の天使へと姿を変える。


笑えない冗談だ。


【これは……SSSクラスが三体】


「ひぃぃ!」


この状態で、初めて魔力が感知できたらしいエルザが恐怖で後退る。


「おのれ! 謀ったな!」


「いいや。我等は嘘などついてはいない。その男は、我等神に逆らう邪悪な存在だ」


そういう事かよ。


「ただし、我々は……人類に敵と呼ばれているがな」


皆の前で、力をおさえて斬られたのもそのせいか!


くそ!


クソったれの考えそうな事だ!


悪魔を使って、竜人の国をめちゃくちゃにしようとした時と、そっくりじゃねーか!


『おおよその解析……完了じゃ』


で?


『これは異世界の召喚を、流用した魔方陣じゃ』


大体分かったが……。


『異世界の悪意を呼び寄せる魔方陣……』


最悪だ。


この女神二人が、必死でおさえようとしてるのはそのせいか。


「この作戦を考えたのは奴だ。だが……この状況で、お前達が世界の崩壊まで生きていられるとは思えんな」


生憎……。


「それを黙って見てるほど、酔狂じゃない!」


こいつ等は、俺の大事な奴らがいるこの世界を壊すといった。


誰が、やらせるか!


「レイ……お前」


「レイ……様」


行くぞ!


『うむ!』【はい!】


おおおおおおおおお!


乗せられるだけ魔力を乗せた二つの剣。


それを、自分で出せる最高の速度で相手にたたき込む。


<ラピッド……>


グシャと鈍い音が、俺の体内から聞こえてきた。


「ぐうう!」


俺の最高速度に、敵は付いてきた。


結果は相討ち。


魔剣が敵のコアを傷付ける代わりに、俺の左胸は敵の拳に貫かれていた。


いや……。


急所を避ける為に、体を捩じった分を俺の剣は浅くなり、コアにほとんどダメージを与えられていない。


ごくごく簡単な話だ。


ヨルムンガンドや、ミルフォスと同クラスの敵。


ヨルムンガンドは、世界の意思により俺を試した。


本気じゃ無かったんだ。


悪魔王と戦った時は、魔力を無尽蔵に吸収できた。


ミルフォスは、その力の大半を偽の天使製造に回していた。


俺は……。


こいつらよりも弱いんだ。


身動きが出来ない俺に、残りの二人が……。


ここで……。


こんな所で……。


何も守れずに……。



ふざけるな!



こんな所で、負ける為に戦ってきたわけじゃない!


俺が死ぬのは、こいつ等を殺した時だ!


『若造! 魔力を回せ!』


【しかし!】


『早く!』


「おおおおおお!」


『ぐうう! おおおおおお!』


無理やり回した聖なる魔力で、強制的に合成魔力を魔剣に込める。


敵のコアを切り裂く為に、空中を蹴り全ての力を右腕に乗せる。


俺の胸を貫いていた敵の腕が、俺の動きについて来れず、肉が引きちぎれ骨が砕ける音とともに左腋を突き破る。


「馬鹿な!?」


閃光とともに、天使の一体が爆発をおこす。


爆風で吹っ飛ばされた俺は、再び女神たちの足元に転がる。


『ぬうう……』


ジジィ!


『大丈夫じゃ!』


【復元します!】


上半身だけを起こした俺の口から、大量の真っ赤な液体が吐き出される。


「が……げほっ!」


合成魔力の後遺症は、どうやってもなくせない。


力無く立ち上がる俺の前には、既に二体の天使がいた。


「なるほど、手加減は不要だな」


くそったれ!


くそったれ!


くそったれ!


二体から放たれたエネルギー砲に、体が反応しきれない。


『若造ぉぉぉぉぉぉぉ!』


【この……おおおおおおおおおお!】


若造がありったけの魔力で、幾重にも障壁を展開した。


半分炭化した右腕と、筋肉と腱が切れて上手く動かない左腕。


俺の出来た事は、無理やり動かした両手で剣をクロスして盾にすること。


なんとか直撃は逸らせたが……。


衝撃で意識が一瞬、もっていかれてしまった。


****


えっ!?


光の中に、俺が愛した二人が……。


俺が殺した二人が……。


涙を流す。


泣かないでくれよ。


俺はまだ、戦うから。


守って見せるから……。


****


「うっ! げほっ! ごほっ!」


咳き込むながら、俺は意識を取り戻す。


「き……が……つい……たか?」


えっ!?


目の前で、俺が死にかけたエネルギー砲を、エゴールが大剣を盾に受けとめていた。


「エ……ゴール……」


駄目だ……。


駄目だ!


それは、人間じゃあ防ぎきれない!


「わし……は……わしは、子も弟子もなしてきた!」


何を?


「わしは! 十の魔王を倒し! 百の勇者を育てた! 勇者……エゴール!!」


止めて……。


止めてくれ……。




「ここで、友の為に……命をかけるなら! なんの未練もない!」




酒を飲んだだけじゃね~か……。



「エゴォォォォォォォォォォル!!」



「ぬおおおおおおおおおおおお!!」



パンっと空気を入れ過ぎた風船のように、エゴールの体は弾け飛んだ。



「あああああああ!」



ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!



………………。



俺なんかの為に……。


ちくしょう。


(レイよ)


エゴール?


目の前には……。


光……魂だけになったエゴールがいた。


(わしはここまでだ。全てをお前に託す。許せ、友よ)


あ……あああ……。


(わしの魂は、常にお前とともに……)


エゴールの魂が……。


強大な魔力を持った魂、全てが……。


俺の体に吸収されていく。


クソったれ……。


勝手にたくして、逝くんじゃね~よ。


どうしても、負けられなくなるじゃねーか……。


勝ち目なんて、最初からほとんどないってのに……。


ああ……。


ちくしょう。


あ~……。


やってらんね~……。

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