八話
「何でだよ」
おかしい!
絶対おかしいぃ!
【これも作戦ですよ】
うっさい! ボケ!
「ふん! これだから、頭の悪い人間は困るのよ」
ああ~?
「ちゃんと聞いてたの~? 私達は、結界を作る方がいいのよ。それとも、貴方が出来るの~?」
ああ!? ゴラッ!
やんのか!? ゴラァ!
「その不快な濁った目を、こっちに向けないで欲しいものね」
やってやんぞ? コラァ!
ああ~?
『やめんか! 女神になぶり殺されるぞ、人間よりもクズ』
えっ?
【作戦ですって、ゴミの中でもクズ】
ちょ!
人間ですらないっ!
てか、若造の方が何気に酷い!
「作戦を聞いてたのかい? レイ?」
「うっさい! ババッ……痛い! 叩くな!」
ああ! もう!
イラつく!
なんで、俺アルベルトエゴールイグナートが城攻めで、この最強の二人が結界なんて作るんだよ!
おかしいじゃん!
こいつ等二人だけで、魔族の城なんて幾らでも落とせるってんだ!
あ~あ!
やってらんね~……。
「お前が、そこまで明確に敵意を出すのは、珍しいな。あの美人二人と、知り合いなのか?」
黙ってろ! アルベ……ヒゲ!
「アナスタシア姫の予言は間違いない! ここは、わし等と行こうぞ!」
五月蝿い! エゴ……白ヒゲ!
「クズが……」
ああ?
「結界作成側に、姫様達が向かわれるのだ! そちらに、精鋭を揃えるのは当然だろうが!」
「ライの言う通りよ!」
ライにソフィー……。
もう、このバカップルは、いちいちいちいち……。
うっざいわ~……。
『相手をすれば……』
分かってるよ。
【無視ですよ。無視】
はいはい……。
「レイ殿。つまりこの作戦は……」
イグナート! 近い!
お前の距離感おかしい!
隣の席に座っていたイグナートは、肌が触れ合いそうなほど俺に近付いて説明をしようとしてきた。
「ふ~む……。なんともおかしいな人間関係になってきたな」
「エゴール殿も気が付いたか?」
「アルベルトよ。これでも、わしはお前の倍は生きておるんだぞ?」
「これは、失礼した。しかし、レイは……どうしても、人に影響を与えてしまうようだ」
「両国の姫に、使用人の娘からは好意。仲間の勇者二人からは敵意か」
「そう言えば、イグナートの視線が……」
「推測でしかないが、多分そうだろうな。それよりも、あのソフィーと言う娘は、嫌っておる様に見えるが……」
「視線は常にレイに向いているか? 多分な。だが、レイの方は気が無いようでな……」
「それで、こじれたか……。ふ~む、罪作りな奴じゃな」
「前しか見ない男だからな。それよりもあの二人に対して、レイが意識している事の方が驚きなんだが?」
「ユーノとアストレアか……。あの二人は、わし等もよく分からんのだ」
分かってるっての!
「今、イグナートが説明した通りよ~。この娘の作戦は、悔しいけど完璧なの~」
姫さんから、アナスタシア……姫様に目線を移す。
駄目だよ。
笑いかけようとしないでくれ。
ブローチには気付いてる。
でも、駄目なんだ。
俺は、目線をイグナートに戻……うおう!
近い! 顔近い!
「城の裏山に作ってる結界は、異世界の力を使った素晴らしいものなんだよ! 出発前に、見学でもするかい?」
「いや……遠慮する」
『しかし、世界中の人間と動物を召喚したうえで、強力な結界で囲い込むとは……』
【凄い魔法ですね】
まあ、使うときは最悪の場合だから、それは避けたいけどね。
「分かったら、お前は城を攻め落として来い! せいぜい、イグナート殿の足を引っ張らない様にな!」
ライは、俺に喧嘩を売らないと気が済まないのか?
「この世界中の生物を召喚する術式。私達が必要でしょう? 少しは、頭を使いなさい」
今……。
アストレアに馬鹿にされた!
殺して【落ちつきましょうね】
「魔族に~……。あれも、まぎれない様にするのって大変なのよ? 分かってる?」
『悪意を識別する術式を、組んでくれるんじゃろう』
分かってる!
分かってるけど……。
殺し【抑えましょうね】
うん?
「ちょっと! レイ!」
俺が、剣に手をかけた事で姫さんが焦り出す。
「ふっ!」
それを無視して、俺は空中に剣を振るう。
「ついに本性を出したか! ユーノ殿! 助太刀を……」
「流石と言っておこうかしら~?」
ライを無視したユーノが指を鳴らすと、俺が斬り捨てた蝿? が燃え上がる。
かすかに、悪意が……。
「まあ、これくらいは出来ないとね」
アストレアも、槍を握っていた手を放す。
後、武器に手をかけたのは、ヒゲーズ二人とイグナートか……。
やっぱり、この三人はかなりのレベルだな。
「レイ……殿は、敵の間者を斬り捨てただけですよ、カテリーナ様」
「ふ~……。そうみたいね~」
女神二人は別格として……。
【残りの四人で魔族の城を攻める作戦は、理にかなっていると思いますよ?】
『姫達は、守ってくれるそうじゃしな』
は~……。
わかったよ~……。
俺が、クソったれ女神に対する文句をおさめただけで、作戦会議はいともあっさり終わった。
たく……。
急がないといけない、ロンフェオールへの道には三つの砦がある。
今日中に、その二つを攻め落とすって作戦らしい。
因みに、その砦の二つには魔王がいるそうだ。
この世界の勇者が命懸けで倒した一匹、俺が倒した一匹、ユーノ達が倒した二匹……。
『残りは三匹じゃな』
まあ、本当の敵はそれじゃないけど……。
【悪意が紛れ込んでいる可能性もありますからね】
気は抜けないな。
『まあ、もう力を制限する事もあるまい』
そうだな。
てか、俺の努力返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!
****
「本当によろしいのですか?」
「この四人なら大丈夫だ」
午前中に、俺達四人は城を出発する。
戦力として、兵士を同行させると大臣が言ってくれたが……。
足手まといなので、断った。
まあ、荷物持ち等、雑用の兵士十人だけは同行してもらうけどね。
全員が乗れる幌馬車で移動する事になった。
「御武運を」
アナスタシア姫様がわざわざ見送ってくれる……。
俺はイグナートのように、気軽には返事が出来そうにないよ。
さて……。
やる事もないし。
「寝る!」
俺は、馬車の床に寝ころんだ。
「相変わらず、緊張感の無い奴だ」
うっさい! ヒゲ!
「肝が据わっている! うん! 頼もしい!」
マジで五月蝿い! 白ひげ!
声がでかいんだよ!
****
「おい! 着いたぞ!」
ああ?
「あれが、砦だ」
ああ……。
魔力からすると……。
『この前よりも多いようじゃ』
【四……五千と言ったところでしょうか?】
まあ、余裕っしょ。
「で? 作戦はどうする?」
え~っと……。
「力技」
「門から真っ直ぐ攻め込みましょう」
「正面突破でいいだろう」
多数決により……。
「真っ向勝負だな」
「何故だろう……」
何? アルベルト?
「全員が同じ意見ではあるが、レイの言葉は……一番頭が悪く聞こえるな」
何?
殴っていいの?
それとも、殴れって事!?
【どうどう】
「アルベルトは武器の特性上少しだけ離れて、わし等のバックアップでいいだろう」
まあ、そうだろうね。
「では! 行きましょう!」
「おう!」
「うむ!」
「うぃ~……」
おお……。
凄いな!
『聖剣……いや、神剣かのぅ?』
イグナートの剣は、若造のように魔力の刃を出している。
「ああ……神剣グラム! 僕の愛剣です!」
白ひげの大剣も、強力な魔力を宿している。
「斬魔剣デュランダル! 長年の相棒じゃ」
こいつ等の剣も鎧も、凄い魔力だ。
きっとチート付きなんだろうな~……。
「では!」
「うむ! 行くぞ!」
真っ先に、白ひげが走り出す。
「ぬん!」
おお……。
巨大な門を両断したよ。
さて……。
俺もフレイを抜くと、二人の後に続く。
勇者三人+俺。
正直、魔族がかわいそう……。
だって、四人ともほぼ無敵状態だもん。
敵の攻撃は、一発も当たらない。
魔法攻撃なんて俺はかき消せるし、イグナートと白ひげの鎧に無効化されてるよ。
弓兵なんて矢をつがえる前に、アルベルトに撃ち殺されていくし……。
二十分も戦うと、敵が涙目で逃げていくよ。
蹂躙戦通り越して、ほぼ虐殺ですよ。
【まあ、屈指の強者四人ですから……】
この三人は……Aランクかな?
『前の二人はSランク……じゃろうな』
俺の世界に居た、英雄王子より強いな。
【あの方もAランクでしたから、人間では群を抜いていましたがね】
そうだよな……。
聖剣を持った使徒共もSランク……。
敵を斬り捨てながら、俺はある事に気が付く。
俺の世界は、少し異常ではないか?
億や京を超えた、無限とも思える世界……。
その世界にも、それぞれで特出した人間はいる。
目の前の三人もそうだが……。
それでも、殆どの世界でBランクを超える人間は存在していない。
全ての世界で一番とは言い切れないが、イグナートはかなり上に居る。
それは分かるが、それはピラミッドの頂上。
俺の世界には、世界中の勇者に混じっても遜色がない人間や、亜人種が……。
多過ぎる。
それも、異常と言えるレベルでだ。
ほぼ、有り得ないと言っていいほどだ。
伝説の武器防具なしで、Aランクに人間が到達すること自体が、有り得ない事じゃないのか?
この三人は、通常の武器でゴルバと渡り合えるのだろうか?
亜人種も、魔力で変わってしまったが人間には違いない。
「おい! レイ! 危な……くないな」
「ふ~、粗方終わったな。どうした? アルベルト?」
「エゴール殿……あんたは、ああやって目を瞑ったまま背後の敵を斬れるか?」
「考え事をしているようだな……。わしには無理じゃな」
「イグナートも強い。別格だ。だが、レイの底も見えんな……」
「異質の天才二人と言ったところか?」
「ああ……」
【相変わらず器用ですね】
何が?
【気配や魔力で、敵の位置は丸わかりですけど……】
分かってるなら、斬るだけでいいんだから誰でもできるよ。
『これほど変態的な強さは、お前だけじゃ』
変態って言うな!
てか、変態関係ないじゃん!
「これで、最後のようだね」
イグナートが、最後の敵を斬り伏せた。
「じゃあ、俺が馬車を誘導してくる」
おう! 行って来い! ヒゲ!
「やはりレイ殿は、お強いですね」
近い!
お前、近いんだよ! イグナート!
寄ってくるな!
お前は、あれか!
「少し場違いですが、ここで告白させていただきます」
告白……だと?
ガチホモですね?
分かります。
ああああああああああああああ!
「私は、アナスタシア姫様に好意を持っています。いえ、既に愛しているといってもいい」
ああ……。
ああ?
あ……焦った~……。
「しかし、姫様は貴方が気にかかるご様子」
「気のせいだ」
「まさか、誤魔化せるとでも?」
ふ~……。
「私は、あれほど魅力的な心を持った方に初めて会いました。ですから……」
「じゃあ、お前が幸せにしてやれよ」
「何を言っているのです?」
「どの道、俺はこの世界に長居は出来ないし、あいつを連れていく事も出来ないんだ。だから……」
「決めるのは、私達ではなく姫様御自身です。私達はただ、アピールをするだけです」
「なら、俺に言う必要もないだろう?」
「私は騎士の家系に生まれたもので、正々堂々が好きなんですよ。戦闘ではそうも言っていられませんが」
爽やかなイケメンが、照れ臭そうに笑っている。
もてるんだろうね~……。
死ね!
『お前は……』
「それにふられるにしても、やるだけやってならば、諦めもつきます」
「そんなもんかね~……」
俺は、やるだけやってもムカつくし、上手くいった事がないからな。
分かんね~よ。
「これから、私達はライバルです! 改めて、宜しくお願いします!」
差し出されたイグナートの手を無視して、俺は馬車に乗り込む。
そして、床に座り眠りにつく。
お前なら、あいつを守り抜いて幸せに出来るだろうな……。
俺には出来ない。
だから、俺はお前を応援するよ。
それくらいしか出来ないからな……。
あいつが幸せに……不幸にならないならそれでいい。
それで……。
「三角関係?」
「いや、アルベルトよ。もう一人の姫に、使用人の娘、ソフィーもおるぞ」
「そうなると、ライもか? え~……」
「七角!?」
「わし等は、関わるだけ損だな。見ている分には、楽しめるだろうが」
「ま……まあ、そうだな」
****
「アルティメットブレイク!」
「グラビトンスラッシュ!」
「ショットシェル!」
「バックドロップ!」
イグナートとエゴールの斬撃に続いて、アルベルトが魔力のこもった強力な散弾で魔王を打ち抜く。
『いや……あのな』
「カイザー……トラスト!」
「グラビティインフェルノ!」
「ライトニングスペルバレット!」
勇者三人の攻撃は、魔王に反撃の隙を与えない。
俺も……。
片膝をついた魔王の、膝を使い……。
「シャイニングウィザード!」
『うん! お前だけおかしい!』
何が?
【明らかに肉弾戦じゃないですか】
戦いってそんなものじゃないか!
てか、かなりダメージを与えてるじゃん!
【まあ、そうですが……】
「おい! レイ気を抜くな!」
ああ?
魔王の魔力が膨れ上がり……。
「真の姿になるんだろうな……」
よし! 今だ!
【えっ? ちょ?】
寝る間を惜しんで、暇な時にぼ~っと考えた!
『考えておらん! それは、考えておらんぞ! 馬鹿!』
ひっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!
「えっ?」
「あの……レイ殿は何時も?」
「まあ、大体あんな感じだな」
四の字固め!
か~ら~の~……。
スコーピオンデスロック(サソリ固め)!
おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
【また~……】
前回の魔王との戦いは失敗だった!
今回は、その失敗を生かす!
【え? 何処が?】
これだと、戦ってますよ! 感が出るはずだ!
あんなに引かれない!
ふん!
ブチブチと……。
魔王の足首が取れました。
いらね。
「これはもう、私達は必要ない様ですね」
「そうだな」
「全く……」
死ね! おらぁぁぁぁぁぁぁ!
****
『何処の世界に、エルボードロップで魔王を殺す人間がおるんじゃ?』
え?
ここに居ますけど、何か?
「完全に魔力が消えましたね」
「これで、今日の目的は完了だな」
「お前を……」
「何だ? アルベルト?」
「お前を剣士と認めると、本当の剣士に申し訳が……」
剣士ですよぉぉぉぉぉぉ!
俺、こう見えてもバリバリの剣士ですよぉぉぉぉぉぉぉぉ!
【答えはノーで】
余計な事言うな!
「いいではないか! 勝ってしまえば、同じだ!」
「エゴール殿……」
「アルベルトよ! そう青い事を言うな!」
「まあ、怪我人もなく勝つことこそが、最優先ですからね」
おう! イグナートとエゴールの方が、話が分かるじゃん!
「さて……いったん城に戻りますか?」
「そうだな。食事は移動しながらでいいだろう」
うん!?
「なっ!?」
建物を出た瞬間、砦の屋根に魔力……悪意を感知した俺は、反射的に剣を抜き跳び上がる。
アルベルトには、俺が消えた様に見えただろう。
<サザンクロス>!
フレイに魔力を込めて、悪意を相殺する。
十字に切り裂かれた敵は、フレイの魔力により燃えながら塵へと変わる。
しかし……。
「やはり、生粋の剣士ですね」
「うんうん、見事だ!」
イグナートとエゴールは、俺の動きについてきた。
【ここ高さは……十メートルでしょうか?】
『まあ、お前を除けば最強の二人じゃ』
俺の反射速度に付いてくる人間なんて、始めてだ。
その上、重い鎧と剣を装備して十メートルの跳躍も可能って……。
はぁ~……。
【どうしたんですか?】
イグナートって、まだ十九歳だってさ。
【どうかしました?】
イケメンで天才……。
勇者で最強……。
『なんじゃ?いつもの病気か?』
いい奴過ぎて、嫌いきれん……。
この手の天才は、ろくに苦労してないから……。
大体、調子に乗ってるものなのに。
なんでいい奴なの?
俺と友達になってくれた勇者……。
セシルさんと、イグナートのイメージが重なる。
『真の勇者なんじゃろう』
ああ! もう!
嫌がらせしたら、俺が悪者じゃん!
【止めましょうね】
諭すな!
あ~あ……。
やってらんね~……。




