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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
33/77

七話

「あ……」


「よいしょ……」


「あの……本当に大丈夫ですか?」


うん!?


なんだこいつの魂は!?


輝いてる……のか?


【これは何でしょうか?】


上半身を起こしながら見た彼女の魂は、不思議な輝きを放っていた。


こんなのは初めてだ。


『魔力……なのか?』


「あの本当に……」


目を少しうるませて、女性が俺に問いかける。


「ああ……悪いな。大丈夫だ」


俺は、自分で謝った事も気が付かない。


謝るという事は、相手に許しを請う事……。


俺の嫌われたくないという、気持ちの表れ。


そんな事よりも、自分自身の胸の高まりに、押しつぶされそうになっていた。


俺にとってこの感情は……。


最悪なんだよ……。


本当に……。


頼むから、おさまってくれよ。


そんな俺の願いに反して、鼓動が高まる。


本当に、俺の願いはかなわない。


不吉な予感は的中するってのに……。


あ~……。


やってらんね~……。


彼女はまだ、目に涙を溜めている。


「あの! えと! 大丈夫だから! 本当に!」


『落ちつけ、馬鹿』


あばばばばっ!


「うふふっ」


あ……。


彼女の笑顔は、俺の心に直接触れてくる。


「お人好し……いい人……優しい人……。うふふっ」


「えっ?」


「そう、人に評価されませんか?」


まあ、確かに……。


でも、それって……。


【彼氏にはなれない相手に対して、女性がよく口にしますね】


うん!


フラグ折れてる!


これで、俺が我慢すればいいだけど……。


嬉しい様な、悲しい様な……悲しい様な。


『ドンマイじゃ~!』


なんで嬉しそうなんだよ!


死ね……クソジジィ。


「自分が痛い思いをしてなお……他人を思いやれる人なんですね」


「いや、別に」


「貴方のその不器用な優しさは、きっと貴方自身を苦しめた……」


(ただ、その代償に多くの人を救ったんでしょうね)


えっ!?


『この娘……』


【今のは、念話!?】


「お前……」


「おい! こっちだ!」


うおう!?


背後に回り込んだ彼女に背中から引っ張られた俺は、壁にもたれ掛りながら変な格好で座る人になった。


何!?


「おや? 確か……ロンジュールの勇者様では?」


兵隊さん?


「あ……あ~、どうも」


「あの、こちらで……。あの……女性を見かけませんでしたか?」


女性?


ふと、見上げると窓が開けっ放しだった。


なるほど、さっきの衝撃は、この娘が二階の窓から飛び降りたんだな。


そりゃ、首も折れるって……。


兵士から死角になった、壁際の角から俺を掴む手が小刻みに震えている。


「そこから飛び降りた子が、あっちに走って行った」


「あちらですね? おい!」


兵士達は、俺が指差した方向に走っていく。


「ありがとうございました」


振り向くと、その娘は三つ指をついて頭を下げていた。


よく見ると靴もはいてない。


え~……。


泥ぼ……。

【この国のお姫様】

『何らかの魔術的な理由で監禁されていた小娘』


うん! そう! それ!


【今、泥棒って……】


はははっ……気のせいだ!


【でも……】


黙ってろ!


姫様……かな?


『その可能性は高いじゃろうな。他の可能性も十分あるが……』


「で? 理由を聞いても?」


「少し訳がありまして、今日中に港町に向かわないといけないんです」


えっ?


姫様だとして、逃げる気?


まずいんじゃね?


「日が沈むまでに行きついて、今日中に帰ってこないと……」


逃げるってわけじゃないのか。


『そのようじゃ』


「では、ありがとうございました」


おいおい……。


「行く方法にあてはあるのか?」


「いえ……でも、行かないといけないんです!」


ふ~……。


「あの……あそこの生い茂った草むらに、身を潜めてろ」


「いえ! これ以上ご迷惑は……」


「いいから!」


俺は、動き出してしまう。


その先に、何があるかも考えずに。


****


「はぁ~?」


「なっ! 頼むよ! 姫さん!」


「お金は構わないんだけど~……。この国の姫と面会があるって、分かってる~?」


「すぐに帰ってくるって! なっ?」


俺は、客室へ帰ると姫さんに頭を下げる。


「仕方ないわね~……。どうぞ~」


金貨の詰まった、ズシリと重みのある袋を渡された。


ありがたいけど……。


うん!


こいつ絶対! 金銭感覚狂ってる!


『まあ、姫じゃからな』


【旦那さんは苦労するでしょうね】


俺はごめんだ!


おっ!


「これ! 借りていくぞ!」


姫さんの荷物を覆っていた、大きな布をはぎ取る。


「ちょ! どうするわけ~?」


「目立たない様に、マントの変わり!」


本当は、あいつを隠す為!


「じゃあ、暇だし俺も行こう」


「ハウス! アルベルト! ハウス!」


「えっ?」


「お前が付いてくると、余計に目立つだろうが!」


てか、ついてくんな髭!


「じゃあ!」


「あ……」


俺は、そのまま馬鹿馬を迎えに行く。


****


「ブルルン!」


「まあ、かわいいですね。お名前は?」


うん?


このスケベ馬!


姫様? に頬ずりしてる!


お前は、人になつかないんじゃないのか?


『この娘にも、何かあるのじゃろう』


てか……え~……。


名前は……クソ馬?


【違いますよ。ゼピュ……】


「そう、ゼピュロス。いい名前ね」


おおう!?


念話?


【動物の心が分かるんでしょうか?】


俺もさすがに、動物とは会話できんぞ?


姫様? に鼻筋をさすってもらうと、クソ畜生は本当に気持ちがよさそうだ。


てか、港町は……一つか。


ロンジュールで、宰相から貰った地図を確認する。


二十キロ以上……。


「時間が無いんだろ?」


「でも……きゃ!」


多分姫様? の、ベルトを掴みクソ馬の背中に乗せて、借りてきた布をかぶせる。


「軽く一時間はかかるんだ、急ごう」


「……はい」


そう……出来れば、そうやって笑ってほしい。


じゃあ、俺も……。


「ヒヒィィィィィィィィィィン!」


えっ?


ちょ!


待ちなさいよぉぉぉぉぉぉって!


馬鹿畜生は、俺が乗る前に走り始めた。


待て! ゴラァァァァァァァァァ!


あ……あああああああああ!


「開けて! 開けて! 早く! 早く!」


顔を引きつらせた俺は、速度を引き上げた。


セーフ……。


てか!待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!


ちょ! 住民!


といや!


ふ~……。


やめ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


暴走状態のクソ馬が、きっと姫様? と自爆しない様に、城門を開かせ……。


進行方向に居る住民を避難させた。


アホか……。


アホですか! お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


考えなく、突っ走るな!


バカ馬ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


こんな感じで、俺達はロンドジーブの城から脱出した。


****


それから、一時間後くらいに目的の港町が見えてきました。


「あの……大丈夫ですか?」


「まあね」


えっ?


俺?


ああ……。


只今、馬と並走してます。


だって! 乗せてくれないんだもん!


飛び乗ろうとすると、避ける避ける。


それどころか、一回後ろ足で蹴り飛ばされたよ……。


こいつ絶対! 俺を自分より下だと思ってる!


まあ、こんな距離をこの速度で走るくらいは平気だけども……。


なんかむかつく!


「……港……漁師の町って感じだな」


『そうじゃな』


さて……。


これでいいかな?


町の入り口にあった、馬屋に馬鹿とおおよそ姫様? を待たせて、俺だけが先に町に入る。


そして、靴を購入した。


「あ……これ」


俺は露店の前で、立ち止まってしまう。


「お兄さん、恋人にかい? 安くしておくよ?」


露店で、貝殻のブローチを……。


買っちまった……。


俺の馬鹿……。


【まあ、これくらいは……】


****


馬屋に馬鹿を預けて、頭からローブのように布を被った、おそらく姫様? と海岸へ向かって歩く。


町からどんどん離れ……。


波打ち際の岩場へと進んでいく。


その間、俺達に会話は無い。


ただ……そう、ただなんとなく彼女から、強い意志を感じていた。


はい?


あまり人が来そうにない断崖絶壁の奥……。


岩場にあった、石でできたスイッチらしきものをずらすと、岩場がゴゴゴッと動き始め、洞窟の入口が現れた。


【魔力……ですね】


目の前の女性は、魔法で光の球を作り、魔力の漏れ出す洞窟の中へと進んでいく。


数百メートルくらい進んだ所で、最深部へと到着した。


「これは……」


岩のすき間から、光が差し込むその場所は……。


【水晶……ですね。それも、紫水晶】


壁全体が水晶で覆われ、至る所からまるで雑草のように先の尖った水晶の柱が生えている。


「人の……骨?」


中心部に、ひときわ大きな水晶柱があり、その中にローブを着たままの人骨が入っていた。


『何らかの魔法の様じゃな……。賢者の石……それと似ておる』


賢者の石?


【魔力を溜めこんでいるんですか?】


じゃあ、ここに姫様? は魔力を補充にでも来たのか?


『違う。これは、賢者の石を精製する魔法に似ておるという意味じゃ』


はい?


「遅くなりました……お母様」


彼女は、その大きな水晶柱に抱きつく。


そして、声を出さずに涙を流す。


母親?


ジジィ? 解析できるか?


俺、これは全く分からん。


『あの娘の母親が魂を使い……何かを……分からん。途中からの式がさっぱりじゃ』


水晶の奥にある、元々の岩でできた壁に書かれた術式を解読しようとしたが、無理だった。


世界が違うと、こうも魔法ってのは違うのか。


【効果は同じ場合が多いんですがねぇ】


そうだな……。



あの娘が泣いている……。



ここで母親が死んだとすれば……。


両親共に……。



彼女は、静かに涙を流し続ける。


泣き顔……涙すらこんなに美しいって反則だよね。


見た目は超一級の美人だ。


でも、勘でしかないけど俺はそこじゃなくて……。


貴女は、何を背負ってるんですか?


なぜ……。


そのまっすぐな瞳は、悲しみを湛えているのですか?


しばらくすると、差し込んでいた日光が……。


なるほどね。


日が沈むまでにってのは、このせいか。


全体がキラキラと光っていたそこは、一気に薄暗くなった。


魔法で作った光の球で付近は照らせるだろうが、太陽光がある角度で差し込まないと、先程のようにはならないのだろうな。


「すみません。お待たせしました」


名も知らないその女性は、真っ赤にはらした目で笑っていた。


その笑顔は辛くないのか?


****


洞窟を出た彼女は、無言のまま砂浜に座り、沈み始めた夕陽を眺めている。


俺も、無言で隣に座る。


「母は……人間を救うために、世界の贄となりました」


「世界の?」


「はい。母は私よりも強い予知の力と、魔力を持っていました」


あれ?


「世界の危機を誰よりも早く察知した母は、父を説得しようとしましたが、失敗してしまい離縁されたんです」


まだ、お互いに何も喋って無いのにな。


「母は自分の命と引き換えに、神様……世界の意思と疎通をとり、私に力を継承したんです。ですから、私はある日から何もかもが理解できるようになりました」


もしかして……。


『何もかも理解しておる……ようじゃな』


「神様の力を借りて、異世界の勇者を見つけ出しました。約百人の方に目星をつけた時に、気が付いたんです」


「何に?」


「勇者とは言え、所詮は人間。相手にするのは、神にも等しい邪悪。勝てる可能性は、限りなく薄いと」


確か……名前は……。


ババァが言ってたんだよな~……。


「なので、勇者の中でも一番……そう言ってもいい人を一人」


え~っと……。


「そして、協力してくれる神の力を持った人達を二人」


あ! 思い出した。


「そして……人間なのに世界を漂流して、たった一人で戦い続ける方を一人」


おいおい。


「俺は、貴女に呼び出された覚えはないんだが? アナスタシア姫様」


「貴方の呼び出しは、残念ですが世界の意思様に拒絶されてしまったんです。ですから、お師匠様の召喚に強制介入して呼ばせて頂きました。レイ:シモンズ様」


何処から、何処までが仕組まれた事なんだかな……。


どおりで、俺だけ召喚の確認が無いはずだ。


本当に無理やりだったのかよ。


「てか、なんで拒否されたんだよ」


少し、納得できん。


「世界の意思様は、他の意思様達と情報交換をしている事は、ご存知ですか?」


「初耳だ」


「貴方は、意思様達の間でイレギュラー……。唯一運命の外にいる人間として、注意を払われているのです」


そう言えば、俺はこの世に存在してないんだった。


「まあ、生まれつき神様には嫌われてたけどね」


「いいえ……。意思様達は恐れているのです。貴方と言う特異な存在を……」


「恐れる? 俺を? 神様が?」


「貴方は、貴方自身の存在をどう思われています?」


えっ?


「神様にちょっと嫌われてる、普通の人間」


「貴方は、確かに人間です。でも、この世で唯一運命の支配を受け付けない、そして未来にも過去にも存在しない存在」


あれ?


俺って、何時の間に死んだんだ?


「少し、違いますね……。貴方はそこに居る代わりに、何処にもいない存在」


訳がわかんないけど……。


「つまり、俺は神様共の強制的な運命の介入を受け付けない……。何をするか分からないから、疎んじられていると?」


「はい……。そうとも言えます」


最近、戦い以外で死にそうになるのは、やっぱりクソ神様のせいか。


暴れまわってやろうか? こら?


「お師匠様には、その事を魔法の信号で伝えましたが……」


なるほどね。


ババァがなんか知ってそうだったのは、それか。


てか、知ってたのかよ。


「そう言えば、俺を呼ばなかったって事は呼び出した勇者は三人?」


「いいえ。もっとも、経験豊かな勇者様を呼んでいます」


ふ~ん……。


「許可も無く、貴方様を利用しようとした私を恨みますか?」


こいつの上目使いは、チート級だな。


でも、媚びてるわけでも、許してほしいとも思ってないな。


この目は、覚悟は出来ているので自分を責めて下さいって所か?


「別に……。どうせここじゃなくても、どっかで戦って死ぬだけだしな」


あん?


なんで貴女が泣きそうになるの?


「辛くはないですか?」


何処までしってんだかね~。


こんな時は……。


やっぱり営業スマイ~ル!


「全然。これが、俺の生きる場所なんでね」


それより……。


「姫様こそ辛くないのか?」


「えっ?」


「たった一人で、人類の未来を背負う。聞こえはいいが、きついなんて物じゃないだろ?」


俺は罪滅ぼしなんて理由をつけて、自分を誤魔化さないと背負えなかったよ。


情けないからね……。


「いいえ。お母様から頂いた魔力と、お父様から頂いた権力……。私は、このお役目を光栄だと思っています」


お姫様は笑う。


でもな……。


「俺に嘘は通じない」

「その嘘の笑顔は、こちらまで辛くなりますよ?」


おおう?


気が付くと、俺達は二人で声を出して笑っていた。


お互いに……。


多分、本当のところは分からない。


でも、何故か少し心が軽くなった。


空気を読んだんだか……馬鹿二人は声を出さない。


『……馬鹿はお前じゃ』


【賢者様……】


聞こえません!


俺が、彼女にどうしようもなく惹かれた理由……。


「レイ様と私は……何処か似ているのかも知れませんね」


彼女の笑顔……。


それが何故か、俺に似ていたから?


よく分からないな。


「様はいらない」


「レイ……では、私もアナスタシアと……」


人を嫌いになるのには、理由があるけど……。


好きになるのに理由はいらないって、本に書いてあったな。


今にも沈みそうな夕陽に目を移す。


俺の肩に、アナスタシアの頭が乗ってきた。


胸……。


俺は、本当に珍しく純粋に女性を見る。


胸は小さくないが、鎖骨がくっきりと見えるほど痩せている。


苦労してるんだよな……。


俺の視線に気が付いたアナスタシアが、目を瞑る……。


俺は、その唇に……。


あ……。


そう言えば、俺が殺した不幸な女性も……鎖骨がくっきりと浮き出るほど痩せていた。


そう言えば、俺が助けられなかった狐の神様と……お互いの心の傷を舐め合った。


駄目だ!


駄目だ!


駄目だ!


俺は、この人を殺してしまう。


駄目なんだ!


俺はもう二度と……。




「あのさ!」


「えっ? はい」


「これ、さっき露店で売ってたんだけど……プレゼント! 似合うと思うんだ!」


俺は、貝殻のブローチを差し出す。


ああ……。


これが俺の精一杯だ。


営業スマイルではなく……出来るだけ……。


そう、出来るだけ優しく笑ってみた。


「あ……」


アナスタシア……いや、姫様は少しだけ悲しそうな顔をして……。


「ありがとうございます」


これも嘘じゃ無く、本当の笑顔で受け取ってくれた。


ここが俺の限界だ……。


弱くて情けない俺の……。


夕日はもう沈み、辺りは薄暗くなり始めていた。


帰りは、何故か……。


馬鹿馬が大人しく俺を乗せてくれた。


俺の周りには、日頃無茶苦茶なのに大事な時には……。


憎たらしくて、いい奴らが多いらしい。


ブルーは元気かな……。


俺達は、城に帰りつき……。


無言で別れる。


****


「痛い!」


「何やってるの~?」


「だから~!」


俺が皆のもとに帰ると、城下町を暴走する白馬と、それ以上の速度で動く黒い影のうわさ話は伝わっていた。


もちろん、三十分ほど言い訳です。


もう!


「おい! あがったぞ!」


「はい!」


「そこ! 沸騰する前に、取り出せって言っただろうが!」


「はい! すみません!」


え? ああ……。


言い訳の後は、コック長として働いてますが、何か?


「おい……レイ」


アルベルトか。


「なんだよ? 厨房は戦場なんだぞ?」


「お前……」


「よいしょっと! 次この皿だ!」


「お前……慣れ過ぎてないか?」


「舐めんな! コック以外にも、給仕係に、洗濯、掃除! 俺は、使用人としては、ほぼパーフェクトだ!」


『誇れん!』


【女性に引かれるほど、完璧にこなしますよね】


え?


引かれるの?


「誇ってどうするんだ? 女に敬遠されるぞ?」


お前もか!


何? お前ら、念話で繋がってんの?


ちくしょう!


「それよりも、この国の姫と謁見できるそうだ。王様が、来いと言っているぞ」


え~……。


「レイ殿! こちらは我々が!」


「お任せ下さい!」


俺の手足となって働いてくれていた城のコック達が、笑顔を向けてくれる。


「よし! 任せたぞ!」


ただ、お前の髭はいつかむしりとる!


【止めましょうよ~】


あの、先がクルンてなってるのが腹立つ。


「じゃあ、行こうか? アルベルト」


「ああ、姫様達がお待ちかねだ」


****


俺は、玉座に座るアナスタ……姫様に会う。


姫様らしい、貴金属と豪華なドレスに身を包んだ彼女に……。


「御足労感謝致します」


機械的な彼女のあいさつに……少しだけ胸の奥がチクリと痛む。


情けない。


姫様の両サイドには、二人ずつ……。


あれが勇者かな?


『多分そうじゃろうな。魔力の桁が、人間とは思えんレベルじゃ』


右側に、いかにもなイケメンと、大剣を背負った白髪&髭のジジィ。


左側には、全身鎧の女と、ローブを深くかぶった女……。


って、おいおい。


あの魂は……。


『神の力を持った二人と、言っておったのぅ』


【まあ、間違いないでしょうね】


なるほどね……。


こんな化け物が四人もいれば、負ける方がおかしい。


姫様の挨拶が終わるとすぐに、そのイケメンとジジィが寄ってくる。


なんだ?


また、むかつく事言う奴らか?


なんで、俺目がけて寄ってくる?


「貴方が、魔王を倒したレイ殿ですね? 私は、イグナート。以後お見知りおきを」


「はぁ、こりゃどうも」


「うん! 魔力は弱いようだが、いい目をしている! 若いの! わしは、エゴールだ!宜しくな!」


ちょ! 五月蝿い!


声がでかいんだよ……。


耳でも悪いのか?


「宜しく」


差し出された手を、握る。


「うん! 思った通り、日々研鑚を積んだいい手だ!」


こねくり回すな! ジジィ!


キモイ!


「これから、この世界の為に一緒に頑張りましょう。同士よ」


「お! お前が、アルベルトか!お前もなかなかの面構えだ!」


え~……。


【普通にいい人達ですね】


拍子抜けした。


あ……。


ライとユリウスが睨んでる。


『最初にこちらに挨拶に来たのが、気に入らんのじゃろう』


俺~……。


最初からこっちの国がよかった。


イグナートとエゴールの言葉に、嘘が無かったから本当に歓迎してくれてるもん。


それも、この二人アルベルトと同等か、それより強いよ。


『まあ、お前の運命じゃ』


運命の外に居るのにぃぃぃぃぃ!


なん~だよ! これ!


「あの、レイ……殿?」


「何でしょうか? 姫様?」


「食事は、レイ……殿が作られたとか?」


「はい」


「後ほど、私の部屋で直接お礼を……」


「いえ、今頂いた言葉で十分です」


これでいい……。


俺は、頭を下げて部屋を出る。


先に部屋を出たのは、目的があるんだけどね。


部屋を出る前に、部屋の様子をチラ見すると、案の定鎧とローブの女が皆に挨拶をし始めた。


****


「よう……久し振りだな」


俺は、通路の影に隠れて完全に気配を消した状態から、二人に声をかける。


二人は、特に驚きもしないし、声も出さない。


「ユーノに……アナスタシアだったよな」


魔力は隠しているようで、感知できないが……。


二人の魂は、ブルーメタリックとレッドメタリックに光っている。


今の俺には見える。


「あら~? 一段といい顔つきになったじゃない」


「どうやった? 普通の人間が、私達の偽装を見破るなんて」


けっ……。


「俺には、悪意を含めて魂が見えるんだよ。お前等のチカチカと派手な魂は、すぐに分かる」


「どう言う事!? 貴方……魔眼や神眼の類いを……」


「持ってね~よ」


「有り得ないわよ。人間が直接魂を見るなんて」


そんなに反応するなよ。


「見える……てか、何となく知覚できるようになったんだよ」


「ふ~ん……。な~に? 私のお灸が効いて、修行でもしたのかしら?」


まあ……。


「そうだな。修行じゃないが……」


戦闘が……地獄が俺を強くしてくれる。


「まあ、見ての通りよ。私達は、あの時と一緒で条件がそろわなければ、力を使う許可が下りないの。今は、貴方達人間と同じレベルでしか戦いないわよ~」


「あの時の借りでも返すか? 人間?」


許可……。


こいつ等の上にまだ何かいるのか?


『そのようじゃ』


「別に、お前等を逆恨みするほど暇じゃない」


「あら~……意外」


「人間にしては、少しはましなようね」


そりゃどうも。


「この世界にも、奴等はいるんだな?」


「……そうだ」


「こっちで私達が倒した魔王は、既にあれが浸食してたのよね~」


なるほど……。


「お前等は、どれだけ奴らが侵入してるとか分かるのか?」


「ええ……」


「残りは?」


「可能な限り、私達が消しておいた」


「でも、油断は出来ないわよ~。奴等、ロンフェオールに集結し始めてるみたいなの」


「集結?」


「そうよ。ただ、私達の情報は知っているから、何時も逃げられる……」


「ここ数回の戦闘では、それが続いてるのよ。もう、面倒なのよね~」


なるほどな……。


「じゃあ、俺が行けば……」


「駄目よ~。貴方も、奴等に気付かれてるわよ」


「そっちに、あれは出てこなかったんじゃない?」


くっそ……。


それでかよ。


『悪意に出し抜かれておったか……』


ちっ……。


「まあ、しばらくは仲間だし……。仲良くしましょ」


ふ~……。


「逆恨みはしない。あれは、俺の力と覚悟が足りなかったせいだ」


「ふん! 分かってるじゃない」


「だが、お前等を好意的に見るかどうかは、別だ」


「まぁぁぁ! 可愛くない!」


「結構だ」


アナスタシアから飛ばされた、冗談のような殺意を無視して、俺はその場を離れる。


本気になれば、情けないが奴らにもかなわないだろう。


だが……。


【気を抜けなくなりましたね】


ああ……。


気を抜けば、奴等は気配も無くどんどん浸食してくる。


『まあ、敵の存在を早く分かっただけでも、あの女神達には感謝せねばなるまい』


けっ……。


誰がするか。


はぁ~……。


あの時と同じかよ……。


女じゃなくて、世界崩壊のフラグがそろっちまった。


あ~あ……。


やってらんね~……。

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