七話
「あ……」
「よいしょ……」
「あの……本当に大丈夫ですか?」
うん!?
なんだこいつの魂は!?
輝いてる……のか?
【これは何でしょうか?】
上半身を起こしながら見た彼女の魂は、不思議な輝きを放っていた。
こんなのは初めてだ。
『魔力……なのか?』
「あの本当に……」
目を少しうるませて、女性が俺に問いかける。
「ああ……悪いな。大丈夫だ」
俺は、自分で謝った事も気が付かない。
謝るという事は、相手に許しを請う事……。
俺の嫌われたくないという、気持ちの表れ。
そんな事よりも、自分自身の胸の高まりに、押しつぶされそうになっていた。
俺にとってこの感情は……。
最悪なんだよ……。
本当に……。
頼むから、おさまってくれよ。
そんな俺の願いに反して、鼓動が高まる。
本当に、俺の願いはかなわない。
不吉な予感は的中するってのに……。
あ~……。
やってらんね~……。
彼女はまだ、目に涙を溜めている。
「あの! えと! 大丈夫だから! 本当に!」
『落ちつけ、馬鹿』
あばばばばっ!
「うふふっ」
あ……。
彼女の笑顔は、俺の心に直接触れてくる。
「お人好し……いい人……優しい人……。うふふっ」
「えっ?」
「そう、人に評価されませんか?」
まあ、確かに……。
でも、それって……。
【彼氏にはなれない相手に対して、女性がよく口にしますね】
うん!
フラグ折れてる!
これで、俺が我慢すればいいだけど……。
嬉しい様な、悲しい様な……悲しい様な。
『ドンマイじゃ~!』
なんで嬉しそうなんだよ!
死ね……クソジジィ。
「自分が痛い思いをしてなお……他人を思いやれる人なんですね」
「いや、別に」
「貴方のその不器用な優しさは、きっと貴方自身を苦しめた……」
(ただ、その代償に多くの人を救ったんでしょうね)
えっ!?
『この娘……』
【今のは、念話!?】
「お前……」
「おい! こっちだ!」
うおう!?
背後に回り込んだ彼女に背中から引っ張られた俺は、壁にもたれ掛りながら変な格好で座る人になった。
何!?
「おや? 確か……ロンジュールの勇者様では?」
兵隊さん?
「あ……あ~、どうも」
「あの、こちらで……。あの……女性を見かけませんでしたか?」
女性?
ふと、見上げると窓が開けっ放しだった。
なるほど、さっきの衝撃は、この娘が二階の窓から飛び降りたんだな。
そりゃ、首も折れるって……。
兵士から死角になった、壁際の角から俺を掴む手が小刻みに震えている。
「そこから飛び降りた子が、あっちに走って行った」
「あちらですね? おい!」
兵士達は、俺が指差した方向に走っていく。
「ありがとうございました」
振り向くと、その娘は三つ指をついて頭を下げていた。
よく見ると靴もはいてない。
え~……。
泥ぼ……。
【この国のお姫様】
『何らかの魔術的な理由で監禁されていた小娘』
うん! そう! それ!
【今、泥棒って……】
はははっ……気のせいだ!
【でも……】
黙ってろ!
姫様……かな?
『その可能性は高いじゃろうな。他の可能性も十分あるが……』
「で? 理由を聞いても?」
「少し訳がありまして、今日中に港町に向かわないといけないんです」
えっ?
姫様だとして、逃げる気?
まずいんじゃね?
「日が沈むまでに行きついて、今日中に帰ってこないと……」
逃げるってわけじゃないのか。
『そのようじゃ』
「では、ありがとうございました」
おいおい……。
「行く方法にあてはあるのか?」
「いえ……でも、行かないといけないんです!」
ふ~……。
「あの……あそこの生い茂った草むらに、身を潜めてろ」
「いえ! これ以上ご迷惑は……」
「いいから!」
俺は、動き出してしまう。
その先に、何があるかも考えずに。
****
「はぁ~?」
「なっ! 頼むよ! 姫さん!」
「お金は構わないんだけど~……。この国の姫と面会があるって、分かってる~?」
「すぐに帰ってくるって! なっ?」
俺は、客室へ帰ると姫さんに頭を下げる。
「仕方ないわね~……。どうぞ~」
金貨の詰まった、ズシリと重みのある袋を渡された。
ありがたいけど……。
うん!
こいつ絶対! 金銭感覚狂ってる!
『まあ、姫じゃからな』
【旦那さんは苦労するでしょうね】
俺はごめんだ!
おっ!
「これ! 借りていくぞ!」
姫さんの荷物を覆っていた、大きな布をはぎ取る。
「ちょ! どうするわけ~?」
「目立たない様に、マントの変わり!」
本当は、あいつを隠す為!
「じゃあ、暇だし俺も行こう」
「ハウス! アルベルト! ハウス!」
「えっ?」
「お前が付いてくると、余計に目立つだろうが!」
てか、ついてくんな髭!
「じゃあ!」
「あ……」
俺は、そのまま馬鹿馬を迎えに行く。
****
「ブルルン!」
「まあ、かわいいですね。お名前は?」
うん?
このスケベ馬!
姫様? に頬ずりしてる!
お前は、人になつかないんじゃないのか?
『この娘にも、何かあるのじゃろう』
てか……え~……。
名前は……クソ馬?
【違いますよ。ゼピュ……】
「そう、ゼピュロス。いい名前ね」
おおう!?
念話?
【動物の心が分かるんでしょうか?】
俺もさすがに、動物とは会話できんぞ?
姫様? に鼻筋をさすってもらうと、クソ畜生は本当に気持ちがよさそうだ。
てか、港町は……一つか。
ロンジュールで、宰相から貰った地図を確認する。
二十キロ以上……。
「時間が無いんだろ?」
「でも……きゃ!」
多分姫様? の、ベルトを掴みクソ馬の背中に乗せて、借りてきた布をかぶせる。
「軽く一時間はかかるんだ、急ごう」
「……はい」
そう……出来れば、そうやって笑ってほしい。
じゃあ、俺も……。
「ヒヒィィィィィィィィィィン!」
えっ?
ちょ!
待ちなさいよぉぉぉぉぉぉって!
馬鹿畜生は、俺が乗る前に走り始めた。
待て! ゴラァァァァァァァァァ!
あ……あああああああああ!
「開けて! 開けて! 早く! 早く!」
顔を引きつらせた俺は、速度を引き上げた。
セーフ……。
てか!待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!
ちょ! 住民!
といや!
ふ~……。
やめ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
暴走状態のクソ馬が、きっと姫様? と自爆しない様に、城門を開かせ……。
進行方向に居る住民を避難させた。
アホか……。
アホですか! お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
考えなく、突っ走るな!
バカ馬ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
こんな感じで、俺達はロンドジーブの城から脱出した。
****
それから、一時間後くらいに目的の港町が見えてきました。
「あの……大丈夫ですか?」
「まあね」
えっ?
俺?
ああ……。
只今、馬と並走してます。
だって! 乗せてくれないんだもん!
飛び乗ろうとすると、避ける避ける。
それどころか、一回後ろ足で蹴り飛ばされたよ……。
こいつ絶対! 俺を自分より下だと思ってる!
まあ、こんな距離をこの速度で走るくらいは平気だけども……。
なんかむかつく!
「……港……漁師の町って感じだな」
『そうじゃな』
さて……。
これでいいかな?
町の入り口にあった、馬屋に馬鹿とおおよそ姫様? を待たせて、俺だけが先に町に入る。
そして、靴を購入した。
「あ……これ」
俺は露店の前で、立ち止まってしまう。
「お兄さん、恋人にかい? 安くしておくよ?」
露店で、貝殻のブローチを……。
買っちまった……。
俺の馬鹿……。
【まあ、これくらいは……】
****
馬屋に馬鹿を預けて、頭からローブのように布を被った、おそらく姫様? と海岸へ向かって歩く。
町からどんどん離れ……。
波打ち際の岩場へと進んでいく。
その間、俺達に会話は無い。
ただ……そう、ただなんとなく彼女から、強い意志を感じていた。
はい?
あまり人が来そうにない断崖絶壁の奥……。
岩場にあった、石でできたスイッチらしきものをずらすと、岩場がゴゴゴッと動き始め、洞窟の入口が現れた。
【魔力……ですね】
目の前の女性は、魔法で光の球を作り、魔力の漏れ出す洞窟の中へと進んでいく。
数百メートルくらい進んだ所で、最深部へと到着した。
「これは……」
岩のすき間から、光が差し込むその場所は……。
【水晶……ですね。それも、紫水晶】
壁全体が水晶で覆われ、至る所からまるで雑草のように先の尖った水晶の柱が生えている。
「人の……骨?」
中心部に、ひときわ大きな水晶柱があり、その中にローブを着たままの人骨が入っていた。
『何らかの魔法の様じゃな……。賢者の石……それと似ておる』
賢者の石?
【魔力を溜めこんでいるんですか?】
じゃあ、ここに姫様? は魔力を補充にでも来たのか?
『違う。これは、賢者の石を精製する魔法に似ておるという意味じゃ』
はい?
「遅くなりました……お母様」
彼女は、その大きな水晶柱に抱きつく。
そして、声を出さずに涙を流す。
母親?
ジジィ? 解析できるか?
俺、これは全く分からん。
『あの娘の母親が魂を使い……何かを……分からん。途中からの式がさっぱりじゃ』
水晶の奥にある、元々の岩でできた壁に書かれた術式を解読しようとしたが、無理だった。
世界が違うと、こうも魔法ってのは違うのか。
【効果は同じ場合が多いんですがねぇ】
そうだな……。
あの娘が泣いている……。
ここで母親が死んだとすれば……。
両親共に……。
彼女は、静かに涙を流し続ける。
泣き顔……涙すらこんなに美しいって反則だよね。
見た目は超一級の美人だ。
でも、勘でしかないけど俺はそこじゃなくて……。
貴女は、何を背負ってるんですか?
なぜ……。
そのまっすぐな瞳は、悲しみを湛えているのですか?
しばらくすると、差し込んでいた日光が……。
なるほどね。
日が沈むまでにってのは、このせいか。
全体がキラキラと光っていたそこは、一気に薄暗くなった。
魔法で作った光の球で付近は照らせるだろうが、太陽光がある角度で差し込まないと、先程のようにはならないのだろうな。
「すみません。お待たせしました」
名も知らないその女性は、真っ赤にはらした目で笑っていた。
その笑顔は辛くないのか?
****
洞窟を出た彼女は、無言のまま砂浜に座り、沈み始めた夕陽を眺めている。
俺も、無言で隣に座る。
「母は……人間を救うために、世界の贄となりました」
「世界の?」
「はい。母は私よりも強い予知の力と、魔力を持っていました」
あれ?
「世界の危機を誰よりも早く察知した母は、父を説得しようとしましたが、失敗してしまい離縁されたんです」
まだ、お互いに何も喋って無いのにな。
「母は自分の命と引き換えに、神様……世界の意思と疎通をとり、私に力を継承したんです。ですから、私はある日から何もかもが理解できるようになりました」
もしかして……。
『何もかも理解しておる……ようじゃな』
「神様の力を借りて、異世界の勇者を見つけ出しました。約百人の方に目星をつけた時に、気が付いたんです」
「何に?」
「勇者とは言え、所詮は人間。相手にするのは、神にも等しい邪悪。勝てる可能性は、限りなく薄いと」
確か……名前は……。
ババァが言ってたんだよな~……。
「なので、勇者の中でも一番……そう言ってもいい人を一人」
え~っと……。
「そして、協力してくれる神の力を持った人達を二人」
あ! 思い出した。
「そして……人間なのに世界を漂流して、たった一人で戦い続ける方を一人」
おいおい。
「俺は、貴女に呼び出された覚えはないんだが? アナスタシア姫様」
「貴方の呼び出しは、残念ですが世界の意思様に拒絶されてしまったんです。ですから、お師匠様の召喚に強制介入して呼ばせて頂きました。レイ:シモンズ様」
何処から、何処までが仕組まれた事なんだかな……。
どおりで、俺だけ召喚の確認が無いはずだ。
本当に無理やりだったのかよ。
「てか、なんで拒否されたんだよ」
少し、納得できん。
「世界の意思様は、他の意思様達と情報交換をしている事は、ご存知ですか?」
「初耳だ」
「貴方は、意思様達の間でイレギュラー……。唯一運命の外にいる人間として、注意を払われているのです」
そう言えば、俺はこの世に存在してないんだった。
「まあ、生まれつき神様には嫌われてたけどね」
「いいえ……。意思様達は恐れているのです。貴方と言う特異な存在を……」
「恐れる? 俺を? 神様が?」
「貴方は、貴方自身の存在をどう思われています?」
えっ?
「神様にちょっと嫌われてる、普通の人間」
「貴方は、確かに人間です。でも、この世で唯一運命の支配を受け付けない、そして未来にも過去にも存在しない存在」
あれ?
俺って、何時の間に死んだんだ?
「少し、違いますね……。貴方はそこに居る代わりに、何処にもいない存在」
訳がわかんないけど……。
「つまり、俺は神様共の強制的な運命の介入を受け付けない……。何をするか分からないから、疎んじられていると?」
「はい……。そうとも言えます」
最近、戦い以外で死にそうになるのは、やっぱりクソ神様のせいか。
暴れまわってやろうか? こら?
「お師匠様には、その事を魔法の信号で伝えましたが……」
なるほどね。
ババァがなんか知ってそうだったのは、それか。
てか、知ってたのかよ。
「そう言えば、俺を呼ばなかったって事は呼び出した勇者は三人?」
「いいえ。もっとも、経験豊かな勇者様を呼んでいます」
ふ~ん……。
「許可も無く、貴方様を利用しようとした私を恨みますか?」
こいつの上目使いは、チート級だな。
でも、媚びてるわけでも、許してほしいとも思ってないな。
この目は、覚悟は出来ているので自分を責めて下さいって所か?
「別に……。どうせここじゃなくても、どっかで戦って死ぬだけだしな」
あん?
なんで貴女が泣きそうになるの?
「辛くはないですか?」
何処までしってんだかね~。
こんな時は……。
やっぱり営業スマイ~ル!
「全然。これが、俺の生きる場所なんでね」
それより……。
「姫様こそ辛くないのか?」
「えっ?」
「たった一人で、人類の未来を背負う。聞こえはいいが、きついなんて物じゃないだろ?」
俺は罪滅ぼしなんて理由をつけて、自分を誤魔化さないと背負えなかったよ。
情けないからね……。
「いいえ。お母様から頂いた魔力と、お父様から頂いた権力……。私は、このお役目を光栄だと思っています」
お姫様は笑う。
でもな……。
「俺に嘘は通じない」
「その嘘の笑顔は、こちらまで辛くなりますよ?」
おおう?
気が付くと、俺達は二人で声を出して笑っていた。
お互いに……。
多分、本当のところは分からない。
でも、何故か少し心が軽くなった。
空気を読んだんだか……馬鹿二人は声を出さない。
『……馬鹿はお前じゃ』
【賢者様……】
聞こえません!
俺が、彼女にどうしようもなく惹かれた理由……。
「レイ様と私は……何処か似ているのかも知れませんね」
彼女の笑顔……。
それが何故か、俺に似ていたから?
よく分からないな。
「様はいらない」
「レイ……では、私もアナスタシアと……」
人を嫌いになるのには、理由があるけど……。
好きになるのに理由はいらないって、本に書いてあったな。
今にも沈みそうな夕陽に目を移す。
俺の肩に、アナスタシアの頭が乗ってきた。
胸……。
俺は、本当に珍しく純粋に女性を見る。
胸は小さくないが、鎖骨がくっきりと見えるほど痩せている。
苦労してるんだよな……。
俺の視線に気が付いたアナスタシアが、目を瞑る……。
俺は、その唇に……。
あ……。
そう言えば、俺が殺した不幸な女性も……鎖骨がくっきりと浮き出るほど痩せていた。
そう言えば、俺が助けられなかった狐の神様と……お互いの心の傷を舐め合った。
駄目だ!
駄目だ!
駄目だ!
俺は、この人を殺してしまう。
駄目なんだ!
俺はもう二度と……。
「あのさ!」
「えっ? はい」
「これ、さっき露店で売ってたんだけど……プレゼント! 似合うと思うんだ!」
俺は、貝殻のブローチを差し出す。
ああ……。
これが俺の精一杯だ。
営業スマイルではなく……出来るだけ……。
そう、出来るだけ優しく笑ってみた。
「あ……」
アナスタシア……いや、姫様は少しだけ悲しそうな顔をして……。
「ありがとうございます」
これも嘘じゃ無く、本当の笑顔で受け取ってくれた。
ここが俺の限界だ……。
弱くて情けない俺の……。
夕日はもう沈み、辺りは薄暗くなり始めていた。
帰りは、何故か……。
馬鹿馬が大人しく俺を乗せてくれた。
俺の周りには、日頃無茶苦茶なのに大事な時には……。
憎たらしくて、いい奴らが多いらしい。
ブルーは元気かな……。
俺達は、城に帰りつき……。
無言で別れる。
****
「痛い!」
「何やってるの~?」
「だから~!」
俺が皆のもとに帰ると、城下町を暴走する白馬と、それ以上の速度で動く黒い影のうわさ話は伝わっていた。
もちろん、三十分ほど言い訳です。
もう!
「おい! あがったぞ!」
「はい!」
「そこ! 沸騰する前に、取り出せって言っただろうが!」
「はい! すみません!」
え? ああ……。
言い訳の後は、コック長として働いてますが、何か?
「おい……レイ」
アルベルトか。
「なんだよ? 厨房は戦場なんだぞ?」
「お前……」
「よいしょっと! 次この皿だ!」
「お前……慣れ過ぎてないか?」
「舐めんな! コック以外にも、給仕係に、洗濯、掃除! 俺は、使用人としては、ほぼパーフェクトだ!」
『誇れん!』
【女性に引かれるほど、完璧にこなしますよね】
え?
引かれるの?
「誇ってどうするんだ? 女に敬遠されるぞ?」
お前もか!
何? お前ら、念話で繋がってんの?
ちくしょう!
「それよりも、この国の姫と謁見できるそうだ。王様が、来いと言っているぞ」
え~……。
「レイ殿! こちらは我々が!」
「お任せ下さい!」
俺の手足となって働いてくれていた城のコック達が、笑顔を向けてくれる。
「よし! 任せたぞ!」
ただ、お前の髭はいつかむしりとる!
【止めましょうよ~】
あの、先がクルンてなってるのが腹立つ。
「じゃあ、行こうか? アルベルト」
「ああ、姫様達がお待ちかねだ」
****
俺は、玉座に座るアナスタ……姫様に会う。
姫様らしい、貴金属と豪華なドレスに身を包んだ彼女に……。
「御足労感謝致します」
機械的な彼女のあいさつに……少しだけ胸の奥がチクリと痛む。
情けない。
姫様の両サイドには、二人ずつ……。
あれが勇者かな?
『多分そうじゃろうな。魔力の桁が、人間とは思えんレベルじゃ』
右側に、いかにもなイケメンと、大剣を背負った白髪&髭のジジィ。
左側には、全身鎧の女と、ローブを深くかぶった女……。
って、おいおい。
あの魂は……。
『神の力を持った二人と、言っておったのぅ』
【まあ、間違いないでしょうね】
なるほどね……。
こんな化け物が四人もいれば、負ける方がおかしい。
姫様の挨拶が終わるとすぐに、そのイケメンとジジィが寄ってくる。
なんだ?
また、むかつく事言う奴らか?
なんで、俺目がけて寄ってくる?
「貴方が、魔王を倒したレイ殿ですね? 私は、イグナート。以後お見知りおきを」
「はぁ、こりゃどうも」
「うん! 魔力は弱いようだが、いい目をしている! 若いの! わしは、エゴールだ!宜しくな!」
ちょ! 五月蝿い!
声がでかいんだよ……。
耳でも悪いのか?
「宜しく」
差し出された手を、握る。
「うん! 思った通り、日々研鑚を積んだいい手だ!」
こねくり回すな! ジジィ!
キモイ!
「これから、この世界の為に一緒に頑張りましょう。同士よ」
「お! お前が、アルベルトか!お前もなかなかの面構えだ!」
え~……。
【普通にいい人達ですね】
拍子抜けした。
あ……。
ライとユリウスが睨んでる。
『最初にこちらに挨拶に来たのが、気に入らんのじゃろう』
俺~……。
最初からこっちの国がよかった。
イグナートとエゴールの言葉に、嘘が無かったから本当に歓迎してくれてるもん。
それも、この二人アルベルトと同等か、それより強いよ。
『まあ、お前の運命じゃ』
運命の外に居るのにぃぃぃぃぃ!
なん~だよ! これ!
「あの、レイ……殿?」
「何でしょうか? 姫様?」
「食事は、レイ……殿が作られたとか?」
「はい」
「後ほど、私の部屋で直接お礼を……」
「いえ、今頂いた言葉で十分です」
これでいい……。
俺は、頭を下げて部屋を出る。
先に部屋を出たのは、目的があるんだけどね。
部屋を出る前に、部屋の様子をチラ見すると、案の定鎧とローブの女が皆に挨拶をし始めた。
****
「よう……久し振りだな」
俺は、通路の影に隠れて完全に気配を消した状態から、二人に声をかける。
二人は、特に驚きもしないし、声も出さない。
「ユーノに……アナスタシアだったよな」
魔力は隠しているようで、感知できないが……。
二人の魂は、ブルーメタリックとレッドメタリックに光っている。
今の俺には見える。
「あら~? 一段といい顔つきになったじゃない」
「どうやった? 普通の人間が、私達の偽装を見破るなんて」
けっ……。
「俺には、悪意を含めて魂が見えるんだよ。お前等のチカチカと派手な魂は、すぐに分かる」
「どう言う事!? 貴方……魔眼や神眼の類いを……」
「持ってね~よ」
「有り得ないわよ。人間が直接魂を見るなんて」
そんなに反応するなよ。
「見える……てか、何となく知覚できるようになったんだよ」
「ふ~ん……。な~に? 私のお灸が効いて、修行でもしたのかしら?」
まあ……。
「そうだな。修行じゃないが……」
戦闘が……地獄が俺を強くしてくれる。
「まあ、見ての通りよ。私達は、あの時と一緒で条件がそろわなければ、力を使う許可が下りないの。今は、貴方達人間と同じレベルでしか戦いないわよ~」
「あの時の借りでも返すか? 人間?」
許可……。
こいつ等の上にまだ何かいるのか?
『そのようじゃ』
「別に、お前等を逆恨みするほど暇じゃない」
「あら~……意外」
「人間にしては、少しはましなようね」
そりゃどうも。
「この世界にも、奴等はいるんだな?」
「……そうだ」
「こっちで私達が倒した魔王は、既にあれが浸食してたのよね~」
なるほど……。
「お前等は、どれだけ奴らが侵入してるとか分かるのか?」
「ええ……」
「残りは?」
「可能な限り、私達が消しておいた」
「でも、油断は出来ないわよ~。奴等、ロンフェオールに集結し始めてるみたいなの」
「集結?」
「そうよ。ただ、私達の情報は知っているから、何時も逃げられる……」
「ここ数回の戦闘では、それが続いてるのよ。もう、面倒なのよね~」
なるほどな……。
「じゃあ、俺が行けば……」
「駄目よ~。貴方も、奴等に気付かれてるわよ」
「そっちに、あれは出てこなかったんじゃない?」
くっそ……。
それでかよ。
『悪意に出し抜かれておったか……』
ちっ……。
「まあ、しばらくは仲間だし……。仲良くしましょ」
ふ~……。
「逆恨みはしない。あれは、俺の力と覚悟が足りなかったせいだ」
「ふん! 分かってるじゃない」
「だが、お前等を好意的に見るかどうかは、別だ」
「まぁぁぁ! 可愛くない!」
「結構だ」
アナスタシアから飛ばされた、冗談のような殺意を無視して、俺はその場を離れる。
本気になれば、情けないが奴らにもかなわないだろう。
だが……。
【気を抜けなくなりましたね】
ああ……。
気を抜けば、奴等は気配も無くどんどん浸食してくる。
『まあ、敵の存在を早く分かっただけでも、あの女神達には感謝せねばなるまい』
けっ……。
誰がするか。
はぁ~……。
あの時と同じかよ……。
女じゃなくて、世界崩壊のフラグがそろっちまった。
あ~あ……。
やってらんね~……。




