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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
32/77

六話

「お前のそれは、疲れないのか?」


「え? 別に」


「前から思ってたんだが……」


「言いたい事があれば、はっきり言ってくれ、アルベルト」


「お前は、器用なのか不器用なのか全く分からんな」


『わしも、そう思う』


【確かに……】


なんですか~?


殿しんがりなんだから、ちゃんと後ろを監視してるだけだよ」


「馬上で立つ奴は見た事があるが、後ろ向きに立ったまま腕を組んで、何キロも進む奴は初めて見た」


あ、そう。


「殿の仕事はちゃんとしないとね~」


【ただ単に、飽きただけのくせに】


「しかし、俺達全員が出向いて大丈夫なんだろうか?」


「多分、大丈夫だと思うよ~」


俺が魔王を倒した事で、隣の国への道が開けた。


その隣国ロンドジーブへ、王様と姫さんを勇者全員で護衛しながら向かっている。


「確かに、地理的に攻め込まれる可能性は低いが……」


「昨日の夜、ババァと姫さんが占っただろ? 多分、敵は来ないはずだ」


「ほう、お前が占いを信じるとは意外だな」


「俺の世界にも居たんだよ。未来が見える奴らがな。雰囲気的にしか分からんが、多分あの二人も本物だ」


「なるほど……。ところで……」


「何?」


「馬の手綱を持たずに、操る方法でもあるのか? コツがあるなら教えてくれ」


「そんなことしてないぞ?」


「しかし……」


「勝手に、周りに合わせてくれてるんだ」


「そうなのか」


俺は正面を向き、鞍に座る。


そして、乗っている白馬の鼻筋をさする。


「この馬が頭いいんだよ。グッボ~イ!」


つぶらで真っ直ぐな瞳が、こちらを見ながらガプッって……。


ん?


い……痛い! 痛い! 痛い!


噛みやがったぁぁぁぁぁぁ!


咀嚼するなぁぁぁぁぁぁぁぁ!


反射的に拳を握った俺……。


「ヒヒィィィィィン!」


馬上で両手を放した俺は……。


うげっ!


もちろん、落馬しました。


顔を上げると、馬が笑ってる……。


馬にまで馬鹿にされた。


やってらんね~……。


「おい……大丈夫か?」


こ……の……。


「クソ畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 待て! オラ!」


殴る! 一発殴る!


****


「で~? どう思う~?」


馬鹿馬を追いかけはじめた頃、馬車内の姫さんが俺のお気に入りのメイドさんに、問いかけていた。


「そんな! あ……あの、姫様は私なんか比べものにならないほど、お美しいです」


「この馬車の中は、私達二人だけよ~? お世辞なんていらないの~」


「本当です! 何時もお美しいですが、今日のお化粧も文句のつけようが無くです……その」


必死に答えるメイドさんに、姫さんは目を細めて本音を漏らす。


「レイが、貴女を気にってるみたいだから~。わざわざ、貴女に化粧を合わせたんだけどね~」


「すみません。分不相応にレイ様には、よくしていただいています」


「で~? レイの事、どう思ってるわけ~?」


「一介のメイドである私が、勇者であるレイ様とつりあうわけが……」


「それは、好きって言ってるようなものよ~。何処がいいの~?」


メイドさんの頬は、朱に染まった。


「いえ……あの……あの方は、容姿端麗で、強くて、優しくて、私共にも分け隔てなく……でも、それよりも……」


「何~?」


「よく庭の手入れを手伝って頂けるのですが……。たまに、空を見上げるんです」


徐々にメイドさんの表情が、暗くなっていく。


「空?」


「はい……。とても悲しそうに……今にも涙が零れそうな瞳で……」


「でも、泣いてないのよね?」


「はい。私の視線に気が付くと、笑いかけて頂けます。優しい笑顔を、向けて頂けます」


「笑顔……」


「その笑顔は、まるで……。大丈夫だから、それ以上近づくなと言っているようで……。胸の奥が、ギュッと鷲掴みにされたように苦しくなるんです」


「ふ~ん」


「姫様?」


窓の外に目を向けた姫さんの表情は、不満そうだった。


「貴女には、素顔を出してるかと思ったんだけどね~。自分より他人の事だなんて~……お人好しもいい所ね」


「お優しい方ですから……」


姫さんが自分の光景に、目を丸くする。


「えっ!? 何?」


「ゼピュロスと……レイ様ですね」


「あのゼピュロスって馬は、確か~」


「はい。我が国一番の駿馬です」


「レイが乗ってるんだったわよね~?」


「はい。あの子は気位が高いので、誰も乗せようとしなかったのですが、レイ様は難なく乗りこなしておられました」


「その駿馬と、あの馬鹿は何で競争してるわけ~? と、言うよりも馬より速く走る人間って、どうなの~?」


姫さんは呆れたように息を吐き出す。


****


待て! コラ!


もう、ちょっと!


止まった!?


「ふ~! 観念したか!」


わっふぅぅぅぅぅぅぅ!


皆さん……。


ご存知でしょうか?


背後から、馬に近づいてはいけません。


何故かって?


馬に、後ろ足で蹴られるからです。


俺の様に……。


ドサッと俺は地面に落下した。


「うっ! ぐ……おほっ!」


三メートルほど吹っ飛ばされました。


【あ~あ】


『肋骨が、ヒビだらけじゃ』


「ブルルゥン……」


この……クソ馬……。


自分で蹴ったくせに、心配そうに見てやがる。


おら!


「ヒン!?」


死んだふりをしていると、油断して顔を近づけてきたので、たてがみを掴んでやった!


よっしゃぁぁぁ!


あれ?


皆さん……。


ご存知でしょうか?


多分、馬の種類や個体差はあるでしょうが……。


馬の首って、かなり筋肉が付いてます。


因みに、この白い馬は俺を投げ飛ばせるくらい強いです。


ベキベキボギと、何やら嫌な音が俺の体の中で響きます。


はいはい……。


浮いた俺は、もう一回蹴られましたよ?


肋骨?


粉々に決まってるじゃないですか。


再び、ドサッとなりました。


回復……。


『しょうもない所で、魔力を浪費しおって』


痛い……。


顔を上げると、馬がこちらを見ていました。


「あの……もう何もしないから、普通に乗せて……」


【情けない……】


『お前は戦闘以外、本当に……』


馬が、早く乗れとばかりの体勢になった。


「おい……。大丈夫か? レイ?」


「アルベルト……。俺……馬が嫌いになりそうだ」


「そ……そうか」


もう実際、ちょっと嫌い。


****


うおおおおおおお!


すげぇぇぇ……。


「話は聞いていたが……」


「ああ、想像以上だな。すげぇぇぇ……」


ババァから、ロンドジーブは残った三国で、一番富んだ国と聞いたいたが……。


明らかに、俺達がいたロンジュールよりも人口が多い。


城下町に入ると、大勢の住民達からの歓声と花束に迎えられた。


何万人いるんだ?


『十万人以上はおりそうじゃな』


【これは、初経験ですね】


そうだな。


大体、現地住民には嫌われる事が多かったからね。


なんか緊張するな。


【どうやら、あの二人は慣れてるようですが】


王様とババァの乗った馬車。


その、さらに前にいる二人の勇者。


特にライが慣れた雰囲気で歓声にこたえ、馬上から花束を受け取っている。


ソフィーも、沿道の人々に手を振ってこたえてるな……。


「アルベルト?」


「なんだ?」


「お前もこういうの、苦手だろ?」


「まあな」


お! 可愛い娘が、俺に花束を……。


ええ~……。


俺に差し出される予定だった花束は……。


俺が乗っている馬鹿馬に、咀嚼されて吐き捨てられました。


女の子が呆然としてるよ。


謝りたいけど、俺達の後ろからぞろぞろと住民が付いて来てるから止まれない。


【あ~あ】


流石にこれは、俺のせいじゃない!


俺は悪くない!


『殴ろうとするな。また、蹴りつけられるぞ』


ああ! もう!


****


「おお~、豪華だね~」


「確かに」


俺達は、ロンドジーブ城の広くて豪華な客室へと案内された。


「ここって、ロンジュール城より豪華なんじゃね~の?」


痛い!


「何するんだ! ババァに姫さん!」


俺は、杖と扇子で殴られた脇腹を押さえる。


「レイは~……。どうしていちいち余計な事を言うのかしらね~?」


お前らこそ、いちいち手を挙げるな!


『いっそ、言えばどうじゃ?』


ノーサンキュー!


「あんたには、もう少しこの国について説明が必要なようだね」


あれ? メイドさん?


「今日はお付きの人変えたのか?」


痛い!


「話を聞きな! 恥をかくのはお前だよ?」


「いちいち叩くなババァ!」


たく……。


「皆さん、お疲れさまでした。今すぐ、お茶を入れますので……」


部屋に案内してくれたロンドジーブの使用人さんが、お茶を用意してくれている。


あの子も可愛いな~。


「お手伝い致します」


「これは……恐縮です」


使用人さんを、エルザとメイドさんが手伝っている。


エルザっていい子だよね~……。


あの馬鹿にはもったいない。


【そうですよね】


『こればかりは、人が口を出せる事ではあるまい』


まあね~……。


痛い!


「聞きな!」


「へいへい。で?」


「何処まで聞いてたんだい?」


「全く!」


痛い!


「てかさ、何で説明するのは俺だけなの?」


「あんたが一番失敗しそうだからだよ」


「いやでも、ソフィーとかも聞いて……」


おおう!?


えっ? あの? はい?


今の今まで、ライと楽しそうに話をしていたソフィーに……。


汚物でも見る様な目で見られた上に、そっぽを向かれた。


【まだ怒っているのでしょうか?】


何が?


「おい、この際だからお前にはっきり言っておく!」


ああ?


何でライは、俺にいちいち突っかかって来るんだよ。


うぜ。


「僕の恋人に、二度と喋りかけるな。ソフィー本人もそう望んでいる」


別に喋りかけて無いのに。


「返事はどうした? 負け犬?」


こいつ……。


なんだ!? その顔は!?


『わしも腹が立つがおさえるんじゃ』


俺! 別に何も負けて無い!


むかつく!


殴りて~。


【どうどう】


はぁ~……。


「へいへい。分かったよ」


後で、剣歪めようかな~。


大事な聖剣って言ってたし。


「あの、お茶をどうぞ」


「あ、ありが……」


エルザから差し出された、カップの乗ったトレイに手を伸ばしかけた俺は、手を止める。


案の定、ユリウスがこっちを見ている。


この前、魔王を倒したと俺に教えただけで、夜に隣の部屋からは不快な音が聞こえたんだった。


これは、止めよう。


伸ばした手を、メイドさんの持つトレイ側に伸ばす。


『うん。これは正解じゃろう』


【よく空気を読みましたね】


なんだろう……。


すごくストレスがたまる。


そう言えば……。


「今日は、何時もの付き人さんじゃないんだね?」


「はい、姫様のお世話は私が……」


「そうよ~。この子は、貴方のお気に入りでしょ~?」


ああ、はい。


うん?


「なんですか? 姫さん?」


「何か言う事があるんじゃな~い?」


え~……。


「さぁ……がぁ! 痛いって! その扇子! 金属だからな!」


「さ~て、次を痛めつけて欲しい~?」


てか、何で怒ってるの!?


馬鹿なの?


【化粧……】


あ!


ああ!


知ってた! 知ってた!


「化粧だろ? 分かってるって!」


おお~……。


笑顔になった、セーフ。


メイドさんも笑顔だし……。


【自分の方からお茶をとってくれたのが、嬉しかったようですね】


ふ~……。


危機はさったいっ! 痛い!


「ババァ! 叩くなって!」


「あんたは! 聞く気はあるのかい!?」


ほとんどありません!


でも、叩かれるのはもう御免です!


「ハイ、キキマツ」


「まあ、落ちついてはどうだ? ヨルダ殿? 俺も、話を聞こう」


殴られそうな俺を、アルベルトが庇ってくれた。


「はぁ~……。いいかい?」


****


「へ~……」


国にも上下ってあるんだな。


【ロンドジーブ王家が、ロンジュール王家の本筋にあたるんじゃないですか?】


本家と分家みたいなものかな?


この国も、姫が召喚士兼占い師らしい。


どうも、この世界の風習みたいだな。


『どちらかと言えば、魔力の強い人間を王族に迎えている様に思えるがのぉ』


この国の姫さん……え~……。


【アナスタシアさん】


そうそう、それ。


ババァの弟子で、この世界で一番の星見なんだそうだ。


【しかし、後天的な予言ではなく、先天的な未来予知とは……】


運命……アカシックレコードが読めるのか?


『世界の意思と通じておるかも知れんな』


【でも、先天的に世界の意思と通じている場合と、修行で疎通が取れるようになる場合がありますよね?】


まあ、それはどっちでもいいだろう。


アカシックレコードを直接読めるか、世界の意思を通じて読めるかの違いだけだし。


でも、四人を同時に異世界から召喚するってのは、凄いな。


『この世界では、別格の魔道士なんじゃろう』


「では、この国がいまだに栄えているのは、その姫のお陰と言う事か? ヨルダ殿?」


「その通りだよ。先の王……父親が戦死して、アナスタシア姫様がこの国を導く事になったんだがね……」


姫ってか、女王じゃね?


『王族は、世襲の儀式を大事にする事が多い。多分、儀式がまだなんじゃろう』


ふ~ん。


「魔族が何時、どうやって、どれほどの戦力で攻めてくるかを言い当てるんだよ。さらに、どうすれば敵に奪われた領地を奪い返せるかもわかるからねぇ」


あれ?


「ババァ? なんで、それでロンジュールも含めてピンチになったんだ? この世界の勇者もいたんだろう?」


「アナスタシア姫様がそこまで強い力を持ったのは、ごく最近で先代の王が亡くなってからなんだよ」


「でも……」


「皮肉だけどねぇ。アナスタシア姫様の予言を信じなかった国が滅びた事で、姫様の力が証明されたんだよ」


ああ……。


「魔族側にも、その情報が伝わったようでねぇ。こちらでは防ぎきれない戦力で、三国を分断されたんだよ」


「じゃあ、この世界の勇者は? 分断前に死んだんだよね?」


「アナスタシア姫を、力づくで殺そうと攻め込んできた魔王と戦って死んだんだよ」


「おかしくない? 予測できたんだろ?」


「予測して、数分で攻め込んできたんだよ。転移の魔法でね」


『まあ、未来予知も万能ではないからのぅ』


「この国の民にとって、アナスタシア姫様は神にも等しい存在となっている。失礼があれば、国民全てを敵に回すと考えな」


なんだか、俺がやりそうじゃない?


【分かってるなら、気をつけましょう】


『気をつけても、裸を見るだのなんだので、結局国民に嫌われる可能性はあるがのぅ』


ですよね~……。


もう、嫌だ!


こんな人生! もうコリゴリ!


【まあまあ、気をつけましょう】


何回も言うなぁぁぁぁぁ!


分かってるよ!


誰よりも分かってるよ!


****


「皆様、昼食を用意していただけたようです」


おお! メイドさん!


たゆんたゆん……。


うん! F!


【D……Eで!】


パタパタと走ってくるメイドさんのある部分が、上下に暴れておりました。


『アホ……』


「このお部屋でお食事なさいますか?」


「そうね~。広いし~、テーブルもあるし~。いいんじゃな~い?」


メイドさんと、ロンドジーブの使用人さん達が食事を運び込んだ。


さて!


オ~ウ……ジ~ザス!


【また、デロデロ……】


『パンも……微妙じゃ』


国の状況を見て、期待したのに……。


あれ?


「アルベルト、食わないの? てか、姫さんも……」


「ん? まあ……」


全員が、フォークとナイフを置いた。


不味くても、残すのは失礼じゃね?


『まあ、わし等のように食えない事が少ないのかも知れんな』


【ううう……不味い】


腹に入れば、みんな同じです!


魔力を補充するの!


「レイ~? あんたのせいよ~」


はい?


「何で?」


「あんたの料理のせいで、これが美味しくないと分かっちゃったのよ~。どう責任取ってくれるの~?」


はははっ……。


「知るか!」


痛い!


おでこを擦っていると、姫さんが城の使用人と何かを……。


****


そのやり取りから、十分後……。


俺は、厨房にいました……。


何でぇぇぇぇぇぇぇぇ!?


『いつもの事じゃ』


何で、俺には拒否権とかないの!?


おかしくね~!?


【これで、美味しい料理が食べられますよ】


おかしくね~!?


「頑張ってください! レイ様!」


メイドさんは料理が下手らしく、横で声援を……。


おかしくね~!?


「お……おお! これは素晴らしい」


誰だ!?


【この城のコックの方では?】


「これほど異世界の料理が素晴らしいとは……」


うっさい! ボケ!


そのカイゼルっぽい髭引きちぎるぞ! コラ!


てか! ちゃんと見てろ!


「いいか? 茹で加減はこれくらいだ!」


少しだけ芯の残った麺を、差し出す。


「でもって……こう!」


「おお~!」


さて……。


「これを姫さん達に持って行って……」


「はい!」


****


俺は、二時間ほど厨房で戦った。


料理を作って教えつつ、試食の説明をしつつ、メイドさんの分を作りつつ、自分もつまみ食い。


いろんな意味でお腹いっぱい……。


「あのさ~……。あの国も姫さんと会うのは……」


「はい。今日は予言の為に籠っておいでですので、明日の予定です」


じゃあ、来るのは明日でもよかったんじゃないの?


はぁ~……。


「レイ様? どちらへ?」


「ちょっと、外の空気を吸ってくる」


疲れた……。


しかし、この城は庭も広いな……。


【そうですね】


うん!?


あれって……。


俺は、庭の雑草に駆け寄る。


おい! ジジィ!


これ!


『う~む……。確かに似ておる』


俺の発作を抑える薬になる葉っぱ!


これ乾燥させて、煙を吸引したら発作抑えられないかな?


『しかし……』


【あの葉っぱは、赤色じゃないですか。これは、茶色に近いのでは?】


でも……。


『多分別の植物じゃな』


そうか……。


あ?


人の気配?


俺は、自分の頭上へ視線を向ける。


て……んし?


空から、白髪の天使が舞い降りてくる。


これは、夢か?


スローモーショ……。



俺の首は加重に耐えられず、グキッ、ボギン変な音と共に曲がった。


そして、石にぶつかった後頭部がグシャっとこれまた嫌な音を出して、陥没する。


「きゃ……」


し……死ぬ!


俺! 死ぬ!


必死とは、必ず死ぬと書いて……死ぬ!


【あわわわわ!】


『落ちつけ! 回復しておる! まだまにあう!』


強制的に高速処理状態になった俺は、自分の顔に何かがのっている事を、回復が終わってから気が付いた。


ちょ! 何これ!?


もが……ふが!


「きゃん!」


俺の上に居た女性が立ち上がる事で、俺視界を塞いでいたのがその女性の臀部だと分かった。


合法セクハラ……。


じゃ! なくて!


死にかけた!


本気で死にかけた!


馬鹿か!


****


「あの……大丈夫ですか?」


「死にかけ……」


俺は、言葉を詰まらせた。


俺の顔をのぞきこく女性の顔……。


光の加減で白髪に見えたが、正確には銀髪だったようだ。


「ああ……大丈夫だ」


必死に出した声は、俺の思考とは全く別のものだった。


「よかった」


女性は、笑う……。


俺の目の前で……。


もし、神様が人間の理想をこの世に再現したら……。


いや、再現したからこの女性はいるんじゃないのか?


こんな瞳は、人間が持っていいのか?


一切の淀みも汚れも無い、真っ直ぐな黒い瞳。


その大きな目を見ていると、魂が吸い込まれてしまいそうだ。


薄いピンクの唇……。


筋の通った、高過ぎない鼻……。


完璧以外の言葉が、出てこない。


駄目だ……。


俺は、自分の沸き上がるこの感情を知っている。


「あの?」


駄目だ! 駄目だ! 駄目だ! 駄目だ! 駄目だ!


この感情は駄目だ!


俺のこの感情は……。


不幸を……残酷な現実を呼び寄せる。


駄目だ!


抑えるんだ!


目の前に舞い降りた天使が……。


死んじまう。


駄目だ! 駄目だ! 駄目だ!


ああ……。


ちくしょう……。


なんで、人間は感情を……。


唯一の自分自身を、コントロールできないんだ?


俺の精神修行ってのは、こんな物なのか?


無言の俺に、髪をかき上げながら、その女性は笑いかけてくる……。


あ……。


ちくしょう……。


ちくしょう……。


やってらんね~……。

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