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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
31/77

五話

「えっ?」


「当然でしょ~? もし火事になったら、責任取れる~?」


うっ!


「魔剣フレイを、鞘に納めずに投げるなんて~……。あんた馬鹿でしょ?」


五月蝿い!


「何~? 文句でも~?」


「イイエ、マッタク」


回収の事なんて、考えもしてなかった。


「城の裏にある森は、深くて暗いわよ~」


何で、ちょっと嬉しそうなの?


頭おかしいの?


「流石に城が見えるから、迷子にはならないでしょうけど~……。あの森で探し物をするのは大変よ~」


ああ、そうですかぁ。


「さ~あ、早く行ってきなさい。おほほほほっ!」


あれ?


笑う事なくね?


『ほれ! 早く回収して、厨房に行くぞ』


ああ、もう。


めんどくせ~……。


はぁ~……。


やってらんね~……。


****


さてさて……。


「はい! こちらが文句など」


出発前に、一応厨房に断りを入れた。


うん?


厨房を出ると、ソフィーが待ち構えていた。


ライ! は……一緒じゃないのか。


じゃあ、話を聞こう。


「あの……今日なんですけど、夕食の後に部屋にお邪魔していいですか?」


は?


「何で?」


「少し、相談が……」


なんだ?


最初に会った頃の元気がないな。


「何の相談だ? 今じゃ駄目なの?」


「大した事じゃないんですけど! 出来れば、後で」


大した事じゃないのかよ。


じゃあ、優先順位は低くてもいいよね。


【表情は深刻そうに見えなくもないですが……】


どうなんだろうな。


「厨房に居たり、散歩したりしてるかも知れないから、約束は出来ない……が。居たら、相談くらいには乗るけど?」


「はい! お願いします」


『不憫じゃな』


【そうですね。この場合はソフィーさんが】


何が?


ソフィーはスキップして俺から離れていく。


訳が分からん。


****


俺はそのまま、城の裏から森に入る。


はぁ~……。


この感覚ってさ。


【磁場が狂ってますね】


こういう場所って、方向感覚狂うんだよな~……。


面倒くさいな~……。


確か、こっちの方角だったよな。


****


ああああああああ。


『五月蝿い!』


ど~こ~!


見つからね~よ~!


ああああああ!


泣きますよ? いいんですか~?


【全く見当たりませんね】


もう、火事になれよ~!


何処だよ~!?


あああああ!


『五月蝿い!』


もう、すっかり日が暮れた。


俺は、何時間この森に居るの?


【多分、三~四時間】


あああああ!


もう、勘弁して下さい!


泣きそうな俺が空を見上げると、月を隠していた雲が動き……。


ああ!


キラッてした!


【魔力です! 微弱ですが、魔力!】


何がどうなったか分からないが、木の枝にフレイが刺さっていた。


あった~……。


よかった~……。


さて、城はデカイから見えてる。


『今回は、迷子にならずに済みそうじゃな』


城へ歩き出すと、何の事は無い。


二十分ほどで、到着。


【方向感覚が狂って、同じ所をぐるぐるしてたようですね】


でも、この森いいな。


【確かに、城が目印になって帰るのには困りませんね】


それに、人がめったに来ないって事だし……。


『今日はここで修練をするか?』


そうだな。


久し振りに、木を相手にするか。


****


その日の夕食は、まともな味でした。


よかった~。


「ね~え?」


おお! こうして食べると、このパスタかなりいけるな!


【アレンジしてくれたようですね】


うっめ!


「貴方に言ったんだけど~?」


うっめ!


『パンじゃ! 次は、パンじゃ!』


うっめ!


「痛い! 扇子を投げつけるなよ!」


「私は、貴方に話しかけたんだけど~?」


もう!


「何?」


「これって~、貴方の故郷の料理なんですって~?」


「だから、何?」


「何よ~。他愛ない話なのに~。感じ悪いわね~」


いちいち語尾を伸ばすな!


てか、説教されて必死で剣探して……。


機嫌がいいわけ無いだろうが!


【でも、口には?】


出しませ~ん!


「貴方は、コックでもしてたわけ~?」


ああ……。


「基本旅暮らしだったから……使用人に、軍の助っ人、ホテルマン、傭兵、用心棒(魔族の)、船乗り(正確には海賊)……」


「ああ……、もういいわ」


おう?


自分で聞いておいて、何故頭を抱える?


『よく考えると、色々やったもんじゃな』


宇宙飛行士? にまでなったからね~。


「ねえ~?」


「なんですか~?」


「今度、貴方の作るフルコースが食べたいわね~」


ええ~……。


「いや、面倒なんっ! 痛い! 扇子をいくつ持ってるんだ?」


「食べたいな~」


目が据わってきてるしぃぃぃ!


「機会があれば!」


「頼んだわよ~」


うぜっ!


「それならば、俺も相伴にあずかりたいな」


アルベルト?


「このパスタは、なかなかの味だ」


まあ、一人分も二人分も変わらん。


「ああ、いいよ」


「あ……やっぱり、止めておこう」


え?


アルベルトの目線の先……。


何を睨んでるんですか? 姫さん?


頭おかしいのか?


『不憫な……』


は?


****


食事を終えた俺は、ソフィーが来るかもしれないので部屋に……。


向かおうとしたんだけど。


あれ~?


窓から見える庭では、ライとソフィーが二人で……。


おいおい。


俺との約束は?


てか、大した事じゃないなら、ライに相談しろよ。


アホらしい。


俺は、木剣を持ち森に向かう。


「ふ~……はぁぁ!」


根から切り離した宙に浮く大木を、細切れにする。


一撃一撃を、意識して……。


流れに逆らわず……。


少しでも真の一撃へたどり着けるように、無駄を削ぎ落とす。


そして、残った大事な物をさらに伸ばす。


「ふぅ~」


まだまだ、先は長いな~。


師匠の剣は、きっと切れない物なんて無いんだろうな。


はぁ~……。


えっ!?


タオルで汗をぬぐっていた俺は、人の気配に反射的に木剣を構える。


「気付かれたか」


アルベルト。


てか、こいつ……。


『魔力までおさえる事が出来る様じゃな』


気配も、ほとんど無かった。


俺が感知じゃなくて、直感でしか気付けないなんて……。


「俺の隠形も、なかなかだろう?」


「何時から?」


「数分前だ」


こいつが敵なら、やられてたな。


「しかし、少し自信が無くなりそうだ。お前ほどじゃないにしろ、十分もたないとはな」


お前ほど?


てか、見られた!?


ヤバ……くはないか。


【そうですね。今回は、この程度なら悪意に感づかれる事も無いでしょうし】


「お前が、砦に向かう時の一瞬で気配を無くしたのは、気が付いていたぞ?」


もう、剣技も見られたし、いいか。


「正直、こんなに気配が読めなかったのは初めてだと思うよ」


「そいつは、うれしいね」


「どうしたんだ?」


「お前が、森に向かうのが見えたんでな。少し迷ったが、声のする方に歩いたら見つけられたよ」


なるほど……。


いや、違う違う。


「理由が分からん」


「少し、お前と話がしたくてな」


アルベルトは、肩から下げていたカバンから、酒瓶とコップをとりだした。


へ~……。


まあ、修練は終わったし、いいか。


****


「おっ! いける口か」


「まあ、あんまり酔わないけどね」


コップの酒を飲みほした。


「しかし、相当な実力だとは思っていたが、お前の剣は凄まじいな」


「そうか?」


「ラインバックとユリウスには、勝てると言い切れるが……。お前が相手だと、そうはいかんな」


「へ~……」


危ない事、考えてるな。


「俺は知っての通り、狙撃に自信があるし、ここまで近づかなければ、お前にも気配を覚られないと思っている」


そうだな……。


『五百メートル以上で、ほぼ気付けんじゃろうな』


「だから、初弾が当たるかどうかだな。外れれば、距離を詰められて俺は終わるだろう」


まあ、俺が音速を超えられないと、計算してだけどね。


【でも、音よりも先に弾がきますよ?】


俺の範囲に動く物が来れば、多分分かると思う。


『まあ、実際に何度も回避しておるからな』


「で? そんな事言いに来たわけじゃないだろ?」


「少し長くなるが、俺の昔話に付き合ってくれるか?」


「暇だし、いいよ」


『軽いな、お前』


「俺には、ガキの頃からの相棒がいてな。俺とは違って、近接戦闘のプロだった」


へ~。


「俺の世界にも、魔族がいて年中戦争状態だった。俺達は、兵士の養成学校……一八歳まで同じ道を歩んだ」


喋り方が、単調だな。


「だが、相棒は恋人が出来てその学校をやめたんだ。そして俺は、一匹狼の傭兵になった」


一匹狼って、自分で言っちゃいます?


「だが、五年後傭兵同士として再開した相棒は……。完全に別人になっていた」


この酒、美味いな。


【ちゃんと聞きましょうよ】


「再開する二年ほど前に、嫁さんを魔族に殺されたそうだ。再開したそいつは、魔族を殺す為だけに生きていた」


………………。


「自分の命は、どうでもいいといった感じでな。激戦地に進んで出撃していった。俺は、そんなあいつを助けたくて常に同行していたんだ」


ふ~……。


「魔王は確かに俺が倒した。だが、それは相棒が犠牲になったお陰だ」


命に代えてもか……。


「相棒が、命懸けで魔王の動きを封じ、相棒の声に従って俺はありったけの弾丸と魔力を放った。俺ごと撃てという声に従ってな……」


…………。


「魔王の要塞に乗り込む事が出来たのは、俺達二人だけ。魔王を倒して、周りの魔族どもと戦い……。俺も死ぬつもりだった」


死に損ねちまったか……。


「魔王を倒すと、魔族どもは塵になり……。無様にも、俺は生き残っちまった。だから、俺は死に場所を求めて歩く、只の屍だ」


お前は、何に命をかけたんだ?


友情か?


「この世界には、死に場所を求めてきた。だから、もし俺の命が危なくても助けなくていい。ただ、これが言いたかったんだ」


喋るのが下手だね~……。


「後、お前と相棒が何故かダブって見えてなぁ」


「えっ?」


「自分でも変だと思うんだ。相棒の顔はジャガイモみたいで、女にはもてないし、あれ以来笑いもしなくなったんだが……」


ジャガイモって……。


「何と言うか……。目の奥に悲しみと怒りがあるというか……」


「なんだそれ?」


「俺は口下手でな。上手く表現できないが……つまり」


「つまり?」


「つまり、死に急ぐなって話だ」


「はっ……。お前がそれを言うか?」


「ふふっ……。可笑しな話だがな。だが、お前なら帰りを待つ女の一人や二人、いるんだろ?」


ちょ! おま!


【この人! デリケートゾーンに!】


「あれ? もしかして……」


「ああ! そうだよ! いねぇぇよ! てか、まともにできたことすらないよ! ちくしょう!」


【どうどう】


「嘘……だろ?」


「嘘なんてつくかぁぁぁぁ! つくなら、いっぱいい過ぎてこまるんだ~……。くらい言うわ! アホか!」


『落ちつけ! 童貞!』


ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁ!


近くの木を思い切り蹴り飛ばして、粉々にしました。


【まあまあ】


『酒でも飲んで忘れるんじゃ』


「あの……なんだ。酒でもどうだ? いっぱいもって来たぞ?」


お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


受け取った酒瓶を、ラッパ飲みしました。


****


久し振りに、度数の高いお酒を五本飲みほして、ちょっとだけ酔いました。


三本は一気飲みしたからね。


「おま! それは、駄目だ!」


「なんだよ!の子が、目の前で裸なんだぞ!」


「お前の為に、脱いだわけじゃないだろうが~。うぃ」


「そうだけども! 見るのが男でしょうが!」


「どうせ、ジロジロ舐めまわすように見たんだろ?」


「いや……まあ」


「それは、嫌われるだろうが!」


「だって~……おっぱい見たいもん」


気が付くと、森の中で酔っぱらったアルベルトと、アホな話をしていた。


「お前はしかし、あれだな」


「どれだよ?」


「えらく不器用なんだな」


「ほっといてくれ!」


「俺が、お前の顔なら、とっかえひっかえだぞ?」


「はぁ? もう少しましな世辞は言えんのか!」


「何が?」


「お前の顔! 超ナイスミドルじゃんか! おまえ、もてただろ! 言ってみろ!」


「ああ……ガキの頃から老け顔なんだよ……。あだ名はおっさんだったよ!」


あれ?


ちょっと涙目?


「三十過ぎて、やっと女から相手にされ始めたんだよ! それまでは、銃が恋人だったんだ!」


俺達は……。


抱きあった。


ああ、ホモじゃありませんからね。


「さて、おろ?」


アルベルトが、コップももてなくなっていたので、帰る事にした。


俺が、すすんで男に肩を貸す日が来るなんてな……。


さて、ほぼ意識が無いこの馬鹿は、部屋に放り込むか……。


****


あれ?


ソフィーが、俺の部屋の前で座ってる。


え?


何?


【相談……でしょうか?】


もう、夜中だよ?


「おう。待ってたのか?」


「……お酒……お酒臭いです」


「そりゃ、飲んでたからね」


ああ?


なんだ?


「相談か?」


「もう……もう、いいです」


そう言って、ソフィーは立ち去った。


う~ん……。


【怒ってるんじゃないですか?】


何で?


【分かりませんか?】


え~……。


まあ、どうでもいいや!


【ええぇぇぇぇ】


この馬鹿、放り込もう!


そして、寝る!


眠い!


****


え?


いきなり魔王?


「現在、魔王ルキフェルはこの城におります」


翌日早朝から、宰相に説明を受けている俺達。


アルベルトは、二日酔いのようだな。


「で? 敵の数は?」


ユリウスの問いに、宰相は想定した最大数を口にする。


たかだか、二千か。


余裕だな。


『それは、お前だけじゃ』


他のメンツは、眉間にしわを寄せている。


ただ、アルベルトは別の理由だと思うけど……。


「我が軍の兵士が囮となりますので、その間に皆さんは城へと侵入して戴ければ」


いやいや……。


そんなことしたら、死人がかなり出るって。


この城の兵士、千人も残って無いんだろ?


「ただ、この城は元々敵の撹乱用に我が国が作った砦です。内部には、かなり危険な罠が……」


宰相は落とし穴や、勝手に転移させられる部屋など、トラップの説明をしてくれた。


元は魔族が侵入してきた時の為か……。


面倒だな。


「この城さえ取り戻せば、隣国への道が開きます。危険ですが……」


宰相は、深々と頭を下げる。


「お任せ下さい! 宰相殿! この勇者ライが、必ずや兵士達の犠牲を無駄にはしません!」


兵士殺す気満々かよ。


「ユリウス様も、異存は無いようそうです」


自分で言いなさいよぉぉぉって!


「では……」


「異議あ~り!」


「レイ様? 何処でしょうか?」


「囮の兵士いらないよ」


「しかし……」


馬鹿勇者二人のが、睨んできます……。


殴っていいのか?


「これだけ勇者がいるのに、兵士を犠牲にする事ないだろ? それに、囮がどうしても欲しいなら、俺がなってやるよ」


「俺も、レイに賛成だ」


おお! アルベルト……顔が真っ青ですよ?


「ふん! 勇者でも無い奴は、気楽でいいな! なら、囮になってもらおうか!」


うぜ。


「じゃあ、俺が囮に……」


「俺も囮なろう」


アルベ……吐くなよ?


「じゃあ、俺達二人が囮になるから、残りが中に入るって事で」


「よろしいのですか?」


「ああ」


「問題無い」


今のお前は問題あるけどね、アルベルト。


吐くなよ?


****


んで……。


翌日の早朝、俺たち二人は魔王城の前に立っていた。


「今日は顔が青く無いな」


「流石にもう大丈夫だ」


さてと……。


「出てこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! クソったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


俺が思いっきり叫ぶと、城門が開き土煙が……。


来た来た。


あれ?


三千はいるな。


悪意の魂は……無しっと。


ライ達の気配は、宰相から教えられた抜け道に……入ったな。


「どうする?」


え~……。


面倒だから……。


「俺が、敵減らすからてきと~に援護して」


「まあ、お前なら問題ないだろうな。了解した」


「あ! 見せてやるよ」


「何をだ?」


「俺の剣技」


「楽しみにしている」


俺は、魔剣フレイを抜いてそのまま敵に向かって走る。


ほいほいほいっと!


「おいおい……これじゃあ……」


そいそいそそいっと!


「援護する必要が無いじゃないか……」


いや~……。


何時もこうだと楽なんだけどね~。


【そうですね~……。賢者様起きませんね~】


まあ、起きる必要もないけどね。


ドン、ドンっと、大きな銃声が響く。


逃げ出した敵を、アルベルトが撃ち抜いてくれた。


さあ、とっとと終わらせよう。


【はい】


****


「一時間か……思ったより時間をくったな」


「途中から、敵が逃げ出したんだから仕方ないだろう?」


てか、速度を抑えてたから時間をくい過ぎた。


「じゃあ、四人を追いかけますか~」


「そうだな」


「あの!」


振り向くと、兵隊さん達……何?


「ありがとうございます。レイ様! アルベルト様!」


兵隊さんが大勢で、土下座してる。


何で?


「囮になって戦死……。恐怖はあったんだろう」


ああ。


俺達のお陰で、それが必要無くなったのね。


【兵士さん達からすれば、二人は命の恩人なんでしょう】


「ああ……いいよ」


それだけ言うと、城へ入る。


もちろん、正門から堂々と。


「あれ? 宰相が言ってたのとトラップが違うな……。トラップの位置を、魔族達が変えたのか?」


「おい! レイ! 天井が!」


確か、もう少し先に仕掛けられてるはずのトラップだ。


十トンあるって言ってた、天井がどんどん下がってくる。


もちろん、扉は鍵がしまった。


焦るなよ。


「解除の仕方は、宰相が教えてくれたよ」


「そ……そうか! 俺は、二日酔いで聞いていなかった。どうするんだ?」


え~……。


「忘れた」


「なっ! お前!」


俺に銃口を向けるな! 馬鹿!


え~っと……。


「キック!」


迫ってくる天井の動く音が、大きな破砕音にかき消される。


「お前……」


扉を蹴破って、俺達はそのまま外へ出た。


「お前な~……」


俺は、アルベルトに人差し指を向けて、口を開く。


「俺の世界には、こんなことわざがある! 困ったっときは……力技!」


『聞いた事もないわ!』


あっ、起きたかジジィ。


「お前の世界は……それでいいのか?」


『ほれ見ろ! お前のせいで、誤解を招いておる!』


知らね。


「まあ、先を急ごう、アルベルト」


飛び出してきた矢を叩き折り、落とし穴を飛び越え、魔王がいると思われう部屋までもう少し。


「まさか本当に、力技だけで潜り抜けるとは……」


「ことわざって素晴らしいって事だよ」


【貴方って人は……】


お!


「この部屋の説明は覚えてる」


「本当か?」


あれ~?


俺って、何でどんどん信頼が無くなるの?


実績は積んでるのにな~?


【自分の胸に聞きましょうか】


まあ、どうでもいいや。


「あの中央に置かれた水晶が、精霊になるんだって。それを、掴まえて元に戻せば扉が開くって言ってた」


「なるほど」


俺が手を伸ばすと、水晶は目が三つあるモモンガのような生物になった。


これが、精霊か。


「よっ! この!」


「待て! くそ!」


つ……掴まえ……られない?


想像以上に速い!


なら……。


少しだけ速度を……うおおおおお!


大きな音と共に、石の壁が砕け散った。


狭い部屋で、止まり切れなかった俺は、壁を突き破って外へ落下……。


「危ないぞ!」


しそうになって、アルベルトに服を掴んでもらって助けられました。


くっそ!


最小限の力に抑えた俺からすると、あの精霊は速過ぎる!


そして、力を解放すると遅すぎる!


『帯に短したすきに長し……。これがことわざじゃ』


【相変わらずの不器用さですねぇ。もう少し加減は出来ませんか?】


うっさい! ちょ! 待て!


「これは、骨が折れそうだな……。レイ?」


****


待てや! コラ!


この! くぉの!


目では追えてるのに!


精霊が空中でどんどん速度を変えて……。


ああ! もう!


イライラする!


「この! 待て!」


幾度も俺が壁にぶつかったせいで、部屋の中に衝撃音が響く。


くっ!


待てよ!


ちょ! 待てって!


おらぁぁぁぁぁぁ! 待て!


クソ小動物!


この!


小動物が、幾度も俺の手をすり抜ける。


『これは……』


【速度を上げ過ぎですね。何回か、追い抜いてるじゃないですか】


ええい! イラッとする!


「待て! コラ!」


はぁ?


俺の進行方向に、魔族がいる。


「邪魔だ! どけっ!」


俺の足の裏から、ベギョンと少し生々しい音が聞こえてきた。


俺の邪魔するからだ!


止まれないんだよ!


道をふさいだ魔族を蹴り飛ばして、俺は小動物を追いかける。


お!


袋小路だ!


逃げさね~ぞ!


「がああああ!」


蹴り倒した魔族が、叫びながら勢いよく立ちあがってきた。


ええい! もう!


邪魔すんな!


今それどころじゃないんだよ!


「ちょ……と! だ……まっ……てろ!」


仕方が無いので、その魔族の両足首を両手でそれぞれ掴み、床に動かなくなるまで叩きつけた。


ふぅ~。


これで邪魔者はいなくなった!


さあ! 小動物!


覚悟しろ!


って、あれ?


何処に行った?


「ほら、掴まえたぞ」


俺に背後から声をかけてきたアルベルトの手には、水晶玉が……。


ああ~……。


この、馬鹿が邪魔するから……。


何だろうこの悔しさは?


途中まで進めていたゲームデータで、他の奴に先にクリアされるような……。


はぁぁぁぁ。


「お前……分かってるのか?」


「何が?」


あれ?


ライ達がいる……あれ?


ああ!


「そうか! 部屋を出れてたのか!」


「まあ、お前がこいつを追いかける為に、壁を蹴破ったからな……」


じゃあ……。


『アホ……』


小動物掴まえなくてよかったじゃん!


もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


なんだよこれ!


「あの~……」


エルザ?


「何?」


「今、貴方の足元で……」


ああ?


さっき邪魔した魔族か。


「何?」


「魔王が、虫の息なんですが?」


えっ?


『はぁ~……情けない』


ええええええええええ!


これ?


「俺も、それを伝えようと思ったんだがな……」


早く言えよ!


えええ!


これぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?


【ピクピク痙攣してますね】


ええええええええ!


ちょ!


ええええええええええ!


『馬鹿者が……』


【ちょっと集中し過ぎましたね……。悪い意味で】


う~ん……え~。


悪意はなし。


「ふん!」


取り敢えず、フレイで止めを刺しときました。


あれ~?


また、この空気?


も~……。


勘弁してくれよ。


はぁ~……。


やってらんね~……。

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