五話
「えっ?」
「当然でしょ~? もし火事になったら、責任取れる~?」
うっ!
「魔剣フレイを、鞘に納めずに投げるなんて~……。あんた馬鹿でしょ?」
五月蝿い!
「何~? 文句でも~?」
「イイエ、マッタク」
回収の事なんて、考えもしてなかった。
「城の裏にある森は、深くて暗いわよ~」
何で、ちょっと嬉しそうなの?
頭おかしいの?
「流石に城が見えるから、迷子にはならないでしょうけど~……。あの森で探し物をするのは大変よ~」
ああ、そうですかぁ。
「さ~あ、早く行ってきなさい。おほほほほっ!」
あれ?
笑う事なくね?
『ほれ! 早く回収して、厨房に行くぞ』
ああ、もう。
めんどくせ~……。
はぁ~……。
やってらんね~……。
****
さてさて……。
「はい! こちらが文句など」
出発前に、一応厨房に断りを入れた。
うん?
厨房を出ると、ソフィーが待ち構えていた。
ライ! は……一緒じゃないのか。
じゃあ、話を聞こう。
「あの……今日なんですけど、夕食の後に部屋にお邪魔していいですか?」
は?
「何で?」
「少し、相談が……」
なんだ?
最初に会った頃の元気がないな。
「何の相談だ? 今じゃ駄目なの?」
「大した事じゃないんですけど! 出来れば、後で」
大した事じゃないのかよ。
じゃあ、優先順位は低くてもいいよね。
【表情は深刻そうに見えなくもないですが……】
どうなんだろうな。
「厨房に居たり、散歩したりしてるかも知れないから、約束は出来ない……が。居たら、相談くらいには乗るけど?」
「はい! お願いします」
『不憫じゃな』
【そうですね。この場合はソフィーさんが】
何が?
ソフィーはスキップして俺から離れていく。
訳が分からん。
****
俺はそのまま、城の裏から森に入る。
はぁ~……。
この感覚ってさ。
【磁場が狂ってますね】
こういう場所って、方向感覚狂うんだよな~……。
面倒くさいな~……。
確か、こっちの方角だったよな。
****
ああああああああ。
『五月蝿い!』
ど~こ~!
見つからね~よ~!
ああああああ!
泣きますよ? いいんですか~?
【全く見当たりませんね】
もう、火事になれよ~!
何処だよ~!?
あああああ!
『五月蝿い!』
もう、すっかり日が暮れた。
俺は、何時間この森に居るの?
【多分、三~四時間】
あああああ!
もう、勘弁して下さい!
泣きそうな俺が空を見上げると、月を隠していた雲が動き……。
ああ!
キラッてした!
【魔力です! 微弱ですが、魔力!】
何がどうなったか分からないが、木の枝にフレイが刺さっていた。
あった~……。
よかった~……。
さて、城はデカイから見えてる。
『今回は、迷子にならずに済みそうじゃな』
城へ歩き出すと、何の事は無い。
二十分ほどで、到着。
【方向感覚が狂って、同じ所をぐるぐるしてたようですね】
でも、この森いいな。
【確かに、城が目印になって帰るのには困りませんね】
それに、人がめったに来ないって事だし……。
『今日はここで修練をするか?』
そうだな。
久し振りに、木を相手にするか。
****
その日の夕食は、まともな味でした。
よかった~。
「ね~え?」
おお! こうして食べると、このパスタかなりいけるな!
【アレンジしてくれたようですね】
うっめ!
「貴方に言ったんだけど~?」
うっめ!
『パンじゃ! 次は、パンじゃ!』
うっめ!
「痛い! 扇子を投げつけるなよ!」
「私は、貴方に話しかけたんだけど~?」
もう!
「何?」
「これって~、貴方の故郷の料理なんですって~?」
「だから、何?」
「何よ~。他愛ない話なのに~。感じ悪いわね~」
いちいち語尾を伸ばすな!
てか、説教されて必死で剣探して……。
機嫌がいいわけ無いだろうが!
【でも、口には?】
出しませ~ん!
「貴方は、コックでもしてたわけ~?」
ああ……。
「基本旅暮らしだったから……使用人に、軍の助っ人、ホテルマン、傭兵、用心棒(魔族の)、船乗り(正確には海賊)……」
「ああ……、もういいわ」
おう?
自分で聞いておいて、何故頭を抱える?
『よく考えると、色々やったもんじゃな』
宇宙飛行士? にまでなったからね~。
「ねえ~?」
「なんですか~?」
「今度、貴方の作るフルコースが食べたいわね~」
ええ~……。
「いや、面倒なんっ! 痛い! 扇子をいくつ持ってるんだ?」
「食べたいな~」
目が据わってきてるしぃぃぃ!
「機会があれば!」
「頼んだわよ~」
うぜっ!
「それならば、俺も相伴にあずかりたいな」
アルベルト?
「このパスタは、なかなかの味だ」
まあ、一人分も二人分も変わらん。
「ああ、いいよ」
「あ……やっぱり、止めておこう」
え?
アルベルトの目線の先……。
何を睨んでるんですか? 姫さん?
頭おかしいのか?
『不憫な……』
は?
****
食事を終えた俺は、ソフィーが来るかもしれないので部屋に……。
向かおうとしたんだけど。
あれ~?
窓から見える庭では、ライとソフィーが二人で……。
おいおい。
俺との約束は?
てか、大した事じゃないなら、ライに相談しろよ。
アホらしい。
俺は、木剣を持ち森に向かう。
「ふ~……はぁぁ!」
根から切り離した宙に浮く大木を、細切れにする。
一撃一撃を、意識して……。
流れに逆らわず……。
少しでも真の一撃へたどり着けるように、無駄を削ぎ落とす。
そして、残った大事な物をさらに伸ばす。
「ふぅ~」
まだまだ、先は長いな~。
師匠の剣は、きっと切れない物なんて無いんだろうな。
はぁ~……。
えっ!?
タオルで汗をぬぐっていた俺は、人の気配に反射的に木剣を構える。
「気付かれたか」
アルベルト。
てか、こいつ……。
『魔力までおさえる事が出来る様じゃな』
気配も、ほとんど無かった。
俺が感知じゃなくて、直感でしか気付けないなんて……。
「俺の隠形も、なかなかだろう?」
「何時から?」
「数分前だ」
こいつが敵なら、やられてたな。
「しかし、少し自信が無くなりそうだ。お前ほどじゃないにしろ、十分もたないとはな」
お前ほど?
てか、見られた!?
ヤバ……くはないか。
【そうですね。今回は、この程度なら悪意に感づかれる事も無いでしょうし】
「お前が、砦に向かう時の一瞬で気配を無くしたのは、気が付いていたぞ?」
もう、剣技も見られたし、いいか。
「正直、こんなに気配が読めなかったのは初めてだと思うよ」
「そいつは、うれしいね」
「どうしたんだ?」
「お前が、森に向かうのが見えたんでな。少し迷ったが、声のする方に歩いたら見つけられたよ」
なるほど……。
いや、違う違う。
「理由が分からん」
「少し、お前と話がしたくてな」
アルベルトは、肩から下げていたカバンから、酒瓶とコップをとりだした。
へ~……。
まあ、修練は終わったし、いいか。
****
「おっ! いける口か」
「まあ、あんまり酔わないけどね」
コップの酒を飲みほした。
「しかし、相当な実力だとは思っていたが、お前の剣は凄まじいな」
「そうか?」
「ラインバックとユリウスには、勝てると言い切れるが……。お前が相手だと、そうはいかんな」
「へ~……」
危ない事、考えてるな。
「俺は知っての通り、狙撃に自信があるし、ここまで近づかなければ、お前にも気配を覚られないと思っている」
そうだな……。
『五百メートル以上で、ほぼ気付けんじゃろうな』
「だから、初弾が当たるかどうかだな。外れれば、距離を詰められて俺は終わるだろう」
まあ、俺が音速を超えられないと、計算してだけどね。
【でも、音よりも先に弾がきますよ?】
俺の範囲に動く物が来れば、多分分かると思う。
『まあ、実際に何度も回避しておるからな』
「で? そんな事言いに来たわけじゃないだろ?」
「少し長くなるが、俺の昔話に付き合ってくれるか?」
「暇だし、いいよ」
『軽いな、お前』
「俺には、ガキの頃からの相棒がいてな。俺とは違って、近接戦闘のプロだった」
へ~。
「俺の世界にも、魔族がいて年中戦争状態だった。俺達は、兵士の養成学校……一八歳まで同じ道を歩んだ」
喋り方が、単調だな。
「だが、相棒は恋人が出来てその学校をやめたんだ。そして俺は、一匹狼の傭兵になった」
一匹狼って、自分で言っちゃいます?
「だが、五年後傭兵同士として再開した相棒は……。完全に別人になっていた」
この酒、美味いな。
【ちゃんと聞きましょうよ】
「再開する二年ほど前に、嫁さんを魔族に殺されたそうだ。再開したそいつは、魔族を殺す為だけに生きていた」
………………。
「自分の命は、どうでもいいといった感じでな。激戦地に進んで出撃していった。俺は、そんなあいつを助けたくて常に同行していたんだ」
ふ~……。
「魔王は確かに俺が倒した。だが、それは相棒が犠牲になったお陰だ」
命に代えてもか……。
「相棒が、命懸けで魔王の動きを封じ、相棒の声に従って俺はありったけの弾丸と魔力を放った。俺ごと撃てという声に従ってな……」
…………。
「魔王の要塞に乗り込む事が出来たのは、俺達二人だけ。魔王を倒して、周りの魔族どもと戦い……。俺も死ぬつもりだった」
死に損ねちまったか……。
「魔王を倒すと、魔族どもは塵になり……。無様にも、俺は生き残っちまった。だから、俺は死に場所を求めて歩く、只の屍だ」
お前は、何に命をかけたんだ?
友情か?
「この世界には、死に場所を求めてきた。だから、もし俺の命が危なくても助けなくていい。ただ、これが言いたかったんだ」
喋るのが下手だね~……。
「後、お前と相棒が何故かダブって見えてなぁ」
「えっ?」
「自分でも変だと思うんだ。相棒の顔はジャガイモみたいで、女にはもてないし、あれ以来笑いもしなくなったんだが……」
ジャガイモって……。
「何と言うか……。目の奥に悲しみと怒りがあるというか……」
「なんだそれ?」
「俺は口下手でな。上手く表現できないが……つまり」
「つまり?」
「つまり、死に急ぐなって話だ」
「はっ……。お前がそれを言うか?」
「ふふっ……。可笑しな話だがな。だが、お前なら帰りを待つ女の一人や二人、いるんだろ?」
ちょ! おま!
【この人! デリケートゾーンに!】
「あれ? もしかして……」
「ああ! そうだよ! いねぇぇよ! てか、まともにできたことすらないよ! ちくしょう!」
【どうどう】
「嘘……だろ?」
「嘘なんてつくかぁぁぁぁ! つくなら、いっぱいい過ぎてこまるんだ~……。くらい言うわ! アホか!」
『落ちつけ! 童貞!』
ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁ!
近くの木を思い切り蹴り飛ばして、粉々にしました。
【まあまあ】
『酒でも飲んで忘れるんじゃ』
「あの……なんだ。酒でもどうだ? いっぱいもって来たぞ?」
お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
受け取った酒瓶を、ラッパ飲みしました。
****
久し振りに、度数の高いお酒を五本飲みほして、ちょっとだけ酔いました。
三本は一気飲みしたからね。
「おま! それは、駄目だ!」
「なんだよ!の子が、目の前で裸なんだぞ!」
「お前の為に、脱いだわけじゃないだろうが~。うぃ」
「そうだけども! 見るのが男でしょうが!」
「どうせ、ジロジロ舐めまわすように見たんだろ?」
「いや……まあ」
「それは、嫌われるだろうが!」
「だって~……おっぱい見たいもん」
気が付くと、森の中で酔っぱらったアルベルトと、アホな話をしていた。
「お前はしかし、あれだな」
「どれだよ?」
「えらく不器用なんだな」
「ほっといてくれ!」
「俺が、お前の顔なら、とっかえひっかえだぞ?」
「はぁ? もう少しましな世辞は言えんのか!」
「何が?」
「お前の顔! 超ナイスミドルじゃんか! おまえ、もてただろ! 言ってみろ!」
「ああ……ガキの頃から老け顔なんだよ……。あだ名はおっさんだったよ!」
あれ?
ちょっと涙目?
「三十過ぎて、やっと女から相手にされ始めたんだよ! それまでは、銃が恋人だったんだ!」
俺達は……。
抱きあった。
ああ、ホモじゃありませんからね。
「さて、おろ?」
アルベルトが、コップももてなくなっていたので、帰る事にした。
俺が、すすんで男に肩を貸す日が来るなんてな……。
さて、ほぼ意識が無いこの馬鹿は、部屋に放り込むか……。
****
あれ?
ソフィーが、俺の部屋の前で座ってる。
え?
何?
【相談……でしょうか?】
もう、夜中だよ?
「おう。待ってたのか?」
「……お酒……お酒臭いです」
「そりゃ、飲んでたからね」
ああ?
なんだ?
「相談か?」
「もう……もう、いいです」
そう言って、ソフィーは立ち去った。
う~ん……。
【怒ってるんじゃないですか?】
何で?
【分かりませんか?】
え~……。
まあ、どうでもいいや!
【ええぇぇぇぇ】
この馬鹿、放り込もう!
そして、寝る!
眠い!
****
え?
いきなり魔王?
「現在、魔王ルキフェルはこの城におります」
翌日早朝から、宰相に説明を受けている俺達。
アルベルトは、二日酔いのようだな。
「で? 敵の数は?」
ユリウスの問いに、宰相は想定した最大数を口にする。
たかだか、二千か。
余裕だな。
『それは、お前だけじゃ』
他のメンツは、眉間にしわを寄せている。
ただ、アルベルトは別の理由だと思うけど……。
「我が軍の兵士が囮となりますので、その間に皆さんは城へと侵入して戴ければ」
いやいや……。
そんなことしたら、死人がかなり出るって。
この城の兵士、千人も残って無いんだろ?
「ただ、この城は元々敵の撹乱用に我が国が作った砦です。内部には、かなり危険な罠が……」
宰相は落とし穴や、勝手に転移させられる部屋など、トラップの説明をしてくれた。
元は魔族が侵入してきた時の為か……。
面倒だな。
「この城さえ取り戻せば、隣国への道が開きます。危険ですが……」
宰相は、深々と頭を下げる。
「お任せ下さい! 宰相殿! この勇者ライが、必ずや兵士達の犠牲を無駄にはしません!」
兵士殺す気満々かよ。
「ユリウス様も、異存は無いようそうです」
自分で言いなさいよぉぉぉって!
「では……」
「異議あ~り!」
「レイ様? 何処でしょうか?」
「囮の兵士いらないよ」
「しかし……」
馬鹿勇者二人のが、睨んできます……。
殴っていいのか?
「これだけ勇者がいるのに、兵士を犠牲にする事ないだろ? それに、囮がどうしても欲しいなら、俺がなってやるよ」
「俺も、レイに賛成だ」
おお! アルベルト……顔が真っ青ですよ?
「ふん! 勇者でも無い奴は、気楽でいいな! なら、囮になってもらおうか!」
うぜ。
「じゃあ、俺が囮に……」
「俺も囮なろう」
アルベ……吐くなよ?
「じゃあ、俺達二人が囮になるから、残りが中に入るって事で」
「よろしいのですか?」
「ああ」
「問題無い」
今のお前は問題あるけどね、アルベルト。
吐くなよ?
****
んで……。
翌日の早朝、俺たち二人は魔王城の前に立っていた。
「今日は顔が青く無いな」
「流石にもう大丈夫だ」
さてと……。
「出てこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! クソったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺が思いっきり叫ぶと、城門が開き土煙が……。
来た来た。
あれ?
三千はいるな。
悪意の魂は……無しっと。
ライ達の気配は、宰相から教えられた抜け道に……入ったな。
「どうする?」
え~……。
面倒だから……。
「俺が、敵減らすからてきと~に援護して」
「まあ、お前なら問題ないだろうな。了解した」
「あ! 見せてやるよ」
「何をだ?」
「俺の剣技」
「楽しみにしている」
俺は、魔剣フレイを抜いてそのまま敵に向かって走る。
ほいほいほいっと!
「おいおい……これじゃあ……」
そいそいそそいっと!
「援護する必要が無いじゃないか……」
いや~……。
何時もこうだと楽なんだけどね~。
【そうですね~……。賢者様起きませんね~】
まあ、起きる必要もないけどね。
ドン、ドンっと、大きな銃声が響く。
逃げ出した敵を、アルベルトが撃ち抜いてくれた。
さあ、とっとと終わらせよう。
【はい】
****
「一時間か……思ったより時間をくったな」
「途中から、敵が逃げ出したんだから仕方ないだろう?」
てか、速度を抑えてたから時間をくい過ぎた。
「じゃあ、四人を追いかけますか~」
「そうだな」
「あの!」
振り向くと、兵隊さん達……何?
「ありがとうございます。レイ様! アルベルト様!」
兵隊さんが大勢で、土下座してる。
何で?
「囮になって戦死……。恐怖はあったんだろう」
ああ。
俺達のお陰で、それが必要無くなったのね。
【兵士さん達からすれば、二人は命の恩人なんでしょう】
「ああ……いいよ」
それだけ言うと、城へ入る。
もちろん、正門から堂々と。
「あれ? 宰相が言ってたのとトラップが違うな……。トラップの位置を、魔族達が変えたのか?」
「おい! レイ! 天井が!」
確か、もう少し先に仕掛けられてるはずのトラップだ。
十トンあるって言ってた、天井がどんどん下がってくる。
もちろん、扉は鍵がしまった。
焦るなよ。
「解除の仕方は、宰相が教えてくれたよ」
「そ……そうか! 俺は、二日酔いで聞いていなかった。どうするんだ?」
え~……。
「忘れた」
「なっ! お前!」
俺に銃口を向けるな! 馬鹿!
え~っと……。
「キック!」
迫ってくる天井の動く音が、大きな破砕音にかき消される。
「お前……」
扉を蹴破って、俺達はそのまま外へ出た。
「お前な~……」
俺は、アルベルトに人差し指を向けて、口を開く。
「俺の世界には、こんなことわざがある! 困ったっときは……力技!」
『聞いた事もないわ!』
あっ、起きたかジジィ。
「お前の世界は……それでいいのか?」
『ほれ見ろ! お前のせいで、誤解を招いておる!』
知らね。
「まあ、先を急ごう、アルベルト」
飛び出してきた矢を叩き折り、落とし穴を飛び越え、魔王がいると思われう部屋までもう少し。
「まさか本当に、力技だけで潜り抜けるとは……」
「ことわざって素晴らしいって事だよ」
【貴方って人は……】
お!
「この部屋の説明は覚えてる」
「本当か?」
あれ~?
俺って、何でどんどん信頼が無くなるの?
実績は積んでるのにな~?
【自分の胸に聞きましょうか】
まあ、どうでもいいや。
「あの中央に置かれた水晶が、精霊になるんだって。それを、掴まえて元に戻せば扉が開くって言ってた」
「なるほど」
俺が手を伸ばすと、水晶は目が三つあるモモンガのような生物になった。
これが、精霊か。
「よっ! この!」
「待て! くそ!」
つ……掴まえ……られない?
想像以上に速い!
なら……。
少しだけ速度を……うおおおおお!
大きな音と共に、石の壁が砕け散った。
狭い部屋で、止まり切れなかった俺は、壁を突き破って外へ落下……。
「危ないぞ!」
しそうになって、アルベルトに服を掴んでもらって助けられました。
くっそ!
最小限の力に抑えた俺からすると、あの精霊は速過ぎる!
そして、力を解放すると遅すぎる!
『帯に短したすきに長し……。これがことわざじゃ』
【相変わらずの不器用さですねぇ。もう少し加減は出来ませんか?】
うっさい! ちょ! 待て!
「これは、骨が折れそうだな……。レイ?」
****
待てや! コラ!
この! くぉの!
目では追えてるのに!
精霊が空中でどんどん速度を変えて……。
ああ! もう!
イライラする!
「この! 待て!」
幾度も俺が壁にぶつかったせいで、部屋の中に衝撃音が響く。
くっ!
待てよ!
ちょ! 待てって!
おらぁぁぁぁぁぁ! 待て!
クソ小動物!
この!
小動物が、幾度も俺の手をすり抜ける。
『これは……』
【速度を上げ過ぎですね。何回か、追い抜いてるじゃないですか】
ええい! イラッとする!
「待て! コラ!」
はぁ?
俺の進行方向に、魔族がいる。
「邪魔だ! どけっ!」
俺の足の裏から、ベギョンと少し生々しい音が聞こえてきた。
俺の邪魔するからだ!
止まれないんだよ!
道をふさいだ魔族を蹴り飛ばして、俺は小動物を追いかける。
お!
袋小路だ!
逃げさね~ぞ!
「がああああ!」
蹴り倒した魔族が、叫びながら勢いよく立ちあがってきた。
ええい! もう!
邪魔すんな!
今それどころじゃないんだよ!
「ちょ……と! だ……まっ……てろ!」
仕方が無いので、その魔族の両足首を両手でそれぞれ掴み、床に動かなくなるまで叩きつけた。
ふぅ~。
これで邪魔者はいなくなった!
さあ! 小動物!
覚悟しろ!
って、あれ?
何処に行った?
「ほら、掴まえたぞ」
俺に背後から声をかけてきたアルベルトの手には、水晶玉が……。
ああ~……。
この、馬鹿が邪魔するから……。
何だろうこの悔しさは?
途中まで進めていたゲームデータで、他の奴に先にクリアされるような……。
はぁぁぁぁ。
「お前……分かってるのか?」
「何が?」
あれ?
ライ達がいる……あれ?
ああ!
「そうか! 部屋を出れてたのか!」
「まあ、お前がこいつを追いかける為に、壁を蹴破ったからな……」
じゃあ……。
『アホ……』
小動物掴まえなくてよかったじゃん!
もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
なんだよこれ!
「あの~……」
エルザ?
「何?」
「今、貴方の足元で……」
ああ?
さっき邪魔した魔族か。
「何?」
「魔王が、虫の息なんですが?」
えっ?
『はぁ~……情けない』
ええええええええええ!
これ?
「俺も、それを伝えようと思ったんだがな……」
早く言えよ!
えええ!
これぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
【ピクピク痙攣してますね】
ええええええええ!
ちょ!
ええええええええええ!
『馬鹿者が……』
【ちょっと集中し過ぎましたね……。悪い意味で】
う~ん……え~。
悪意はなし。
「ふん!」
取り敢えず、フレイで止めを刺しときました。
あれ~?
また、この空気?
も~……。
勘弁してくれよ。
はぁ~……。
やってらんね~……。




