四話
なんだよ? この空気は?
ユリウスとライが、めっちゃ睨んできやがる。
ああ?
やんのか? こら!
『止めろ、人間の底辺』
え?
俺って、人間の最下層なの?
だって!
睨まれたら、むかつくじゃん!
【相手からすれば、美味しい所を持って行かれた! と、思ってるんじゃないですか?】
だって~。
こいつ等はいいけど、一般兵が犠牲になりそうだったじゃん。
「レイさん! 凄いで……」
俺に歩み寄ろうとしたソフィーを、ライが手で制止した。
「君は、最低限のルールも守れないのか?」
ああ?
戦いに、ルールもクソもあるか!
「こんな恥ずかしい勝ち方は初めてだ! やっている事が、魔王軍以下だ!」
いちいち、いちいち……。
もうこいつ、殴っていいよね?
いいんだよね?
【止めましょうよ】
『ここで手を出せば、完全な悪者じゃ』
ああ! もう!
こいつ嫌い!
なんで、頑張って責められるの?
訳が分かんないんですけど?
はぁ~……。
やってらんね~……。
うん?
ライがソフィーの手を引いて、自分ごと後ろに下がって……。
ああ……。
【向こうも嫌いなようですよ】
いっそ、これで死ねと思ってるんじゃないか?
「今だ!」
門の陰で息を潜めていたオーク達が、俺に向かって走り出した。
教えないだけじゃなくて、ソフィーごと安全圏に移動しやがったよ。
はぁ~……。
とことんやな奴だな。
ふん!
「プギィィィィィ!」
勿論、俺を殺そうとしたオークの斧を避けて、本気の拳骨です。
俺に殴られた豚が、錐揉み状に回転し、地面を弾んでいきます。
『首の骨……以外にも折れたじゃろうな』
本気で殺そうとする奴なんて、手加減しないからな。
ふん!
おら!
んなろぉぉ!
勇者達は、全く助けてくれないので、向かってくるアンデッド以外のモンスター達を……。
殴って! 殴って! 蹴り倒します!
あ……。
こ~れ! た~のし~!
【出ましたよ……】
気晴らしになるなぁ! おい!
おら!
俺のローキックで、オークの両膝から先が千切れ飛ぶ。
まだ生きてるので、軸足を変えてそのまま一回転してます。
結果として、踵が頭に直撃しました。
え? はいはい。
地面にめり込んで塵に変わりましたけど、何か?
視界に入ったアルベルトが……。
構えた銃をおろしたよ……。
え? 助けてくれないの?
『助けなど不要じゃろうが』
まあね。
おらぁぁぁ!
あはは!
おっと……。
接近戦を止めて、弓矢での攻撃に切り替えたか。
なら……。
「うぼっ!?」
一番近くにいた、トロルの腕を掴み……。
「必殺! FF!」
【意味が違いますよ】
敵に投げつけました。
おら!
もう一発!
俺に投げられた敵は、仲間を巻き込んで……塵にになりました。
死ねや! おらぁぁぁぁ!
『なんじゃろうな……』
【戦い方が、褒められないと言うか……】
勝てばいいんだよ! 勝てば!
『セリフは、ほぼ悪人じゃな』
あ!
逃げ出しやがった!
待て!
逃げるオークの背後から、首を目がけて……。
ジャンプ!
「フランケン……」
両膝で頭を挟み込み、自分の体をそらせてオークを引っこ抜く。
「シュタイナー!」
頭が地面と同化したオークが……。
まあ、死ぬよね。
【かわいそうに……】
この間いった世界で見た、この技やってみたかったんだよね~。
『おい、馬鹿』
なんだよ? クソジジィ?
『その隙だらけの技のせいで、敵が全員逃げたぞ?』
あああああ!
うん?
なんだ? あれ?
気球ってやつか?
「飛行船だな」
アルベルト……ようはでっかい風船的な物か?
なら!
おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
魔剣フレイを抜いて……。
投げました。
届け! 届……。
うわ~……。
ブーメランみたいに戻ってくるよ。
【横向きに投げるからですよ】
仕方無い。
『駄目じゃ、馬鹿』
反射的に、魔剣を呼び出そうとしたが拒否された。
うおう!
何とかスウェーバックで、躱したが……。
戻ってきたフレイのかすめた前髪が、チリチリに……。
うおい! ジジィ!
『アホか! お前は! 折角、隠しておるんじゃろうが! 気軽に出すな!』
あ……ごめんごめん。
ドガンっと耳元で、大きな銃声がする。
でっかい風船は、アルベルトの銃で見事に撃ち落とされた。
おお~。
こいつ、すげ~な。
「お前は、あれか?」
「何?」
「剣士ではなく、格闘家なのか?」
「いえ、剣士ですが?」
なんで、頭を掻くんだよ!
『剣士は普通、剣を使うし……』
【剣を考えなく投げたりはしません】
だって~……。
うん?
相変わらず、ユリウスとライは俺の事が気に入らないらしいな。
【もう、気にしない! で、どうです?】
あの二人を殴るわけにいかないし、それしかないよね~……。
因みに、帰りの馬車内で、アルベルトと同じ質問をババァにもされました。
うぜっ。
****
「おお! よくぞ! 報告は受けておるぞ!」
城に戻った俺達に、王様が駆け寄ってきた。
何?
そんなに嬉しかったの?
「まさか、半日で四天王の一角を倒すとは! 流石だ!」
興奮するな!
そして、手を握るな!
男に触られて喜ぶ趣味は、無い!
「この!」
痛い!
「王を敬わんか!」
王様の手を振りほどいたら、ババァに殴られた。
「痛いだろうが! ババァ!」
「この!」
ふふん!
ババァの杖を回避! え……あれ?
目の前に、折りたたまれた扇子が迫って?
二段攻撃……だと?
「ぐがっ!」
人中……人中に扇子が直撃した。
それも……これ!
あの! これ!
「金属製の扇子じゃねぇぇぇか! 死んでしまう!」
「あら~? 勇者なら、これくらい避けてよね~」
お前か! クソ姫!
【いちいち気を抜くから……】
うっさい! ボケ!
「で~? レイ?」
「なんだよ?」
「貴方は、格闘家なの~? それとも、剣士~?」
また、それかよ。
「剣士だよ」
「剣を使わない剣士なんて、聞いた事ないんだけど~?」
「じゃあ、次は使うよ。それでいいだろ?」
何? その含みのある笑顔は?
「剣士のくせに、素手で魔族の四天王を倒すって~……。貴方の事が、気になるんだけど~?」
おおう……。
『お前が普通に戦わんせいじゃ』
だって~……。
「ねえ~? どうなの~?」
後ずさる俺以上の速度で、姫さんが近づいてくる。
あわ……あわわわわ!
えっと……えっとぉぉぉ!
ああ!
「あれだよ! 四天王を倒したのは、アルベルトだよ。俺は、補助しただけだって!」
全力の営業スマイルで、言ってみた!
「あら~? そうなの?」
姫さんの目が、アルベルトに向いた。
今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「あ! こら~!」
ベランダから、庭に向かって、そおい!
****
「きゃ! レ……レイ……様?」
あ! 昨日のメイドさん!
「あの……今三階から……」
「ああ……。気のせい、気のせい」
「そう言えば、砦の魔族を倒されたんですよね! レイ様が!」
「それ、間違いだ。倒したのはアルベルトで、俺はその補助。後、レイ様じゃなくて、レイでいい」
「でも……」
「昨日言った通り、俺は勇者じゃないんでね」
この子は……着やせするとみた!
E!
【Dカップ!】
『アホ……』
はい! ジジィの負け~!
****
「しかし、ヨルダ殿……。変わった男を召喚したもんだな」
ベランダから庭を見下ろすアルベルトが、ババァに喋りかける。
「そうだねぇ。不思議と人を引き付ける……」
「まあ、それ以上に嫌われる事もあるようだが」
「変わってるってのだけは、認めるわ~……」
二人の会話に、姫さんも加わる。
「しかし、気にかかる男だ」
俺を見ていた姫さんの眉間に、深いしわが刻まれた。
「な~に? あいつ? 私には嘘の笑顔なのに、使用人には本当に笑いかけてるじゃな~い!」
「姫様……お抑え下さい」
「ふん!」
鼻から強く息を噴き出した姫さんは、自室へと不機嫌そうに引き上げていった。
しかし、答えが分からんな。
【Dですって】
Eだって!
触らせてくれないかな~?
『全く……。若造もアホに合わせるな!』
【いえ……先日負けたので、今度こそはと……】
「レイ……様?」
「様はいらないって」
「でも……」
「で? 何?」
「昨日のお料理を、王様と姫様も気に入られたそうなんです。で……厨房担当の者が、お時間がある時で構わないので……その……」
使用人さん達を教育すれば……。
【私達の食生活も……】
『満足いくものになるじゃろうな』
うん! 決まり!
「じゃあ! 行ってくる!」
「えっ? でも、今日はお疲れに……」
「あっ! 全然! じゃあ、またね!」
俺は、厨房に向かって走る。
俺達の明日は、俺の教育にかかってる!
『よし行け! 馬鹿!』
【パァァァァァァァスタァァァァァァァァァ!】
よし! 今日はパン食べない!
『なっ!』
****
「違う、違う」
「すみません!」
そんなに、頭下げないでよ。
「食材を炒める前に、油をひかずに火にかけるんだ。これは、空焚きって言って……」
何!?
魔力だ!
この感じは……。
『魔族じゃな』
「悪い! 敵が来た! 続きは、今度!」
俺は、魔力を感知して厨房を飛び出した。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
さっきの庭からだ!
そこに向かう途中の通路で、魔力を奪われたのかミイラ化した兵士が倒れていた。
くっそ!
「まさか、ギャレイがやられるとはな……」
「だが! ギャレイは我ら四天王の中で、最弱の存在」
さっき俺が飛び降りたベランダに、三人の魔族。
『全員Bランクじゃな』
その中の体が岩でできた様な化け物の手には、メイドさんが握られている。
この!
「まあ、そう構えるな、異界の勇者達よ。今日は挨拶にきたのだ」
「そう我等は、仲間を殺された腹いせに、少し挑発に来ただけ」
「くくくっ……この小娘は美味そうだ」
メイドさんに、化け物がかぶりつきそうだ!
やらせるか!
「やめ……。えっ?」
「おらぁぁぁぁぁぁ!」
壁を駆け上がった俺は、化け物のアゴにとび蹴りをかました。
その衝撃で緩んだ手から、メイドさんを救出して部屋の隅へ移動する。
ふ~……。
「レイさん!」
「ふん! 僕だけでも助けられたものを……」
メイドさんは……。
「大丈夫か?」
「はい……はい……」
俺の腕の中で、震えて涙を流している。
それも、必死に鳴き声を両手で押さえて……。
やってくれたな、クソ野郎。
「おい……ゴルガン? そのダメージは……」
俺が蹴りつけた敵の頬は、岩の様な皮膚が剥がれて大量出血している。
でもね……。
そんなもんで許すか!
殺す! 女を泣かす奴も、殺そうとする奴も殺す!
「ぐがああ! いてええ! あの人間! 殺す!」
『あっちもやる気じゃな』
後悔させてやるよ!
「この! ゴミ以下の人間が……あん?」
馬鹿は、視界から消えた俺をキョロキョロと捜す。
気配を消して、死角から動く俺は……。
既に背後に居ます!
馬鹿の腰を両手で掴み……。
「スープレックスゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
手加減抜きで、頭から床にたたきつけたせいで、フロア全体が揺れる。
手には、何かが折れる感触が……。
ちっ! まだ生きてる!
大の字でピクピクしている馬鹿を、マウントから死ぬまで殴りつけた。
「この! お……おい! 退却……えっ?」
「ホーリーシャイン!」
「天雷斬……三式」
「ショット!」
ライの白く光る斬撃と、雷撃を帯びたユリウスの斬撃が敵を切り裂き、アルベルトの銃が止めを刺した。
四天王を瞬殺。
【腐っても勇者達です】
「くっ!」
最後に残った羽の生えた一人が、飛び去ろうと……。
誰が逃がすか!
「死ね! おらぁぁぁぁぁぁ!」
俺は、敵のコアに向かってフレイを投げる。
今度は切っ先から、真っ直ぐ飛ぶように!
うし!
室内に銃声が響く。
俺の剣が刺さり、動きを止めた敵の頭をアルベルトが撃ち抜いた。
やっぱり、勇者の中でこいつかなりレベル高いな。
『戦い方は、かなり独特じゃがな』
他の二人も、学生時代の俺より格段に強いけど、アルベルトはさらに上だ。
【そうなんですか?】
『今回は、その通りじゃな』
ふん!
敵の城に来て、逃げられるとでも思ったのか?
馬鹿なの?
「大丈夫か?」
「あり……がとうご……ざいます……」
メイドさんは、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、何回も頭を下げてくれる。
この世界の魔族は、同情の余地ないな。
『亜人種ではないし。人間を、食料としてしか考えておらんからな』
これで、心おきなく殴れる。
【既に十分殴ってますけどね】
「さあ、顔洗ってこいよ。お前、顔が大変な事になってるぞ?」
「あの……すみません」
「いいから、行って来いって」
「はい……ありがとうございます。レイ様」
「様はいらないぞ~……っと」
走り去るメイドさんに、一応言ってみた。
さて……厨房に戻るか。
「ちょっと~……」
姫さん?
「なんで、私よりあのメイドに優しいの~?」
はい?
え~……。
あっちのが俺の好みで、メイドさんだから、フラグが立つと思うから。
【空気を読みましょうね】
だから、諭すな!
分かってるよ!
えっと……。
ええっと!
う~んっと!
え~……。
「別に……」
『お前、さんざん考えてそれか?』
「何? レイは、あんなのが好みなの~? それとも、私が嫌いとか~?」
「いや……別に嫌いじゃないよ……」
「じゃあなんで~? ちゃんと、訳を説明しなさいよ」
こいつ……。
【あ~あ、目をつけられた】
うぜっ!
ものっそい、うぜっ!
ええい! もう!
『結局それか、チキン』
チキンって言うな!
折るぞ! クソジジィ!
「まあ……色々ですよ~っと!」
うげっ!
「げほっ! げほっ! おえ!」
営業スマイルで、誤魔化して走り去ろうとした俺。
その俺は営業スマイルをしている間に襟を、姫さんに掴まれてました。
逃げようと必死で、気付かなかった。
てか! 首がぐきっ! ってなるわ!
さっきの人中といい!
「死んでしまうわ!」
「あら~? 因果応報って言葉……ご存知ぃ?」
目が据わってらっしゃる。
あれ~?
俺って、そんなに悪いことした?
「は~い……正座!」
俺は、反射的に従ってしまう。
俺って奴は……。
それから、扇子で頭をペチペチ叩かれながら、色々聞かれました。
二時間ほどはぐらかしたら、最後にちょっと強めに蹴られて釈放されました。
『お前の強い女への恐怖症は、治る見込みがないな』
えっ?
一生治らないの?
【多分……】
マジでか!?
あ~……。
やってらんね~……。




