三話
「では、そなた等は武器を持っていないのだな?」
「はぁ」
痛い!
杖で叩くな! クソババァ!
「相手は、仮にも一国の王なんだよ?」
知るかそんなもん。
「ヨルダよ。よい」
「ほら! 王様もいいっていってるじゃん!」
痛っ!
おんなじとこ殴るなよ! 痛いだろうが!
「武器ももたずに来るなんて……。君は本当にどうしようもないねぇ」
おう?
ライ……こいつ……。
【どうどう】
「まあ、僕達の様に選ばれた武器は、元々もって無いだろうけど」
いちいちむかつく!
武器は持ってるんだよ!
ただ悪意がいる可能性があるから、気付かれない様に出さないようにするだけなんだよ!
『奴等は、記憶を共有しておるらしいからな』
ええい! もう!
【魔力の温存も出来るじゃないですか】
こいつ……殴りて~。
でも、昨日のソフィーとの事を、邪魔した負い目もあるから……。
くっそ!
やってらんね~……。
「その兵が案内をする」
「では、アルベルト様、ソフィー様、レイ様はこちらへ」
****
城の武器庫へ、案内してくれるらしい。
俺とソフィー以外に、アルベルトも急だったせいで銃以外持ってきて無いから、短剣が欲しいそうだ。
「あの……レイさん?」
「何?」
「昨日の……その……」
えっ!?
このタイミングでクレームですか?
悪かったって!
事故じゃん!
「レイ~?」
ああ?
「昨日のあれ……。貴方よね~?」
あれ? なんで姫さんまで付いて来てるの?
「隠しても無駄よ~? 分かってるんだから」
「さあ、何の事だか……」
「あら? いいの~? 賭けを放棄するなら、強制的に私の勝ちって事で~?」
お……おう。
「さ……さぁ」
「じゃあ、貴方は今日から私の奴隷ね~。一生よ?」
「待てよ! 何でもって言ったけど、限度があるだろうが!」
あ……。
『アホ……』
「ほら見なさい!」
ちっ……。
「はいはい、俺ですよ~」
「んふふっ……。まあ、どっちが勝つか楽しみね~」
あっ……。
それだけ言いに来たのかよ。
帰りやがった。
「どうぞ。ここです」
兵士に案内された部屋には、武器が大量に並んでいる。
【まあ、魔族と交戦中ですからね】
さて……。
二人は、普通の武器の中から質のいいのを選ぶのか……。
俺はどうしよう。
『わし等がおるとは言っても、並みの剣ではすぐに折れてしまうじゃろうな』
そうなんだよね~……。
あれ?
「あのさ~。あれは何?」
俺は壁にかかっている鎖で鞘が縛られた剣を指さし、案内をしてくれている兵士に問いかける。
「ああ、あれは、フレイ……呪われた炎の魔剣です」
魔力を感じるな……。
『そうじゃな。これくらいは必要かのぅ?』
「あ! 駄目です! その剣にはドワーフの呪いが!」
そい!
抜いた剣身から、炎が噴き出す……。
「早く捨てて下さい! その剣の呪いで、焼け死んでしまいます!」
呪いねぇ……。
お前の呪いは、神様のそれより強いのか?
『この剣に、意思や呪いは無い様じゃ』
じゃあ、この炎は?
『魔力を込めると、炎を出す仕組みじゃろう』
なんだ……。
じゃあ、前の使用者が魔力を込めてて、その残りが暴走してるだけか。
【どうします?】
こうする。
俺は剣を上下に振って、炎をかき消した。
天井と床を少し焦がしちゃったけど、まあいいでしょう。
「そんな……魔剣が従った? 流石は勇者様」
違うよ兵隊さん。
魔力が尽きるまで、高速で振りまくっただけだよ。
「俺は、これにするよ」
壁に鎖で縛られていた鞘を取り外して、腰に付けた。
そう言えば、剣を普通に装備するって……。
【ほとんど無かったですよね?】
何か気分が出るな!
ちょっとテンションが上がってきた。
ソフィーとアルベルトも装備を整え、出発の準備をすすめる。
****
ソフィーやライ達は、それぞれが馬に乗って行くそうだが……。
俺は面倒なので、四天王ギャレイのいる砦まで、馬車に乗せてもらう事にした。
「あのさ~……」
「なんだい?」
「何でババァもくるの? 最前線だよ? 危ないよ?」
「これでもあたしは、隣国一の魔道士と呼ばれてたんだよ!」
いやいや、お前がもし死んだら俺はいいとしても、ソフィーはどうやって帰ればいいの?
てか、なんで馬車がババァと二人だけなの?
はぁ~……。
「もうすぐ着くよ」
馬車の窓から、山の谷間らしき場所を利用して作った砦が見える。
あれは、攻めにくそうだな。
てか、敵に見えないように接近するんじゃなかったの?
これだけの大人数で来たら、もう土煙や魔力で勘付かれてんじゃないの?
その上、勇者共は砦に真っ向から挑もうとしてるし……。
作戦は? 馬鹿なの?
「では、ソフィーは僕の背中を守ってくれ」
ライとソフィーはラブラブだな。
「あの……どうしようか? レイさん?」
何で俺に聞くの?
『……不憫な』
ああ?
「ねえ? レイさん?」
「いいんじゃないの? 初めての実践だし、それくらいがちょうどいいと思うよ」
なんだ? ライ?
なんで、勝ち誇ったような顔してるんだ?
「では、ユリウス様と私が、左右から来る敵の相手をしますね」
勇者が最前衛で、その後方を軍の兵が付いて行くか……。
力押しが得意な俺が言うのもなんだけど……。
なんの捻りも無いねぇ。
「俺は、遠距離からの狙撃が戦闘スタイルだ。悪いが後方から狙撃させてもらう」
アルベルトは……。
【魔力はこもっていますが、確かに服と帽子しか装備していませんね】
まあ、遠距離からの強力な攻撃があれば、身軽に移動できる方がいいよな。
「おい! レイ! お前は俺のフォローを頼む」
え?
「ああ、いいよ」
「まあ、君には期待していない。後方で僕の活躍を見てればいいさ」
こいつ! マジで!
どさくさに紛れて斬りに行くぞ? ゴラァ!
「おい! 行くぞ?」
「へいへい……」
****
アルベルトと俺は、砦の近くに小高い場所を見つけて、そこへ向かう。
しかし……。
「なんで、勇者でも無い俺をお供に?」
「あまり俺を見くびるな」
はい?
「確かに、お前からは魔力をほとんど感じない。だが、戦場の臭いがする」
戦場の臭い?
え? 俺臭い?
「さっきの、魔剣から出る炎を消した時に確信した。お前は、あのガキ共よりリアルな戦場に居たんだろう?」
ああ……。
こいつ、完全に戦闘のプロだな。
「正々堂々の勇者らしい勝負。大いに結構だが、まずは勝つ事が重要だと、あのガキ共は分かっていない」
確かに……。
「俺も魔王を倒して、国では勇者と祭り上げられた。だが、その前に一介の傭兵だ。戦場を渡り歩いてきた」
なるほどね。
【意外な理解者が出来ましたね】
「どうだ? 俺の鼻も、捨てたもんじゃないだろう?」
ここは、無理に誤魔化す理由もないな。
「まあ、ガキ共のフォローをしていきますか」
お?
魔力……。
砦の前に広がる平原から、ゾンビやスケルトンが大量に生えてきた。
あ? あれかな?
『Bランクと言ったところか?』
砦の門壁の上に、魔力を帯びた奴がいる。
砦の中にそれらしい魔力は無いし、あれだな。
「ここからでは門楼が邪魔で、狙撃が出来んな」
「じゃあ、あいつを見える位置まで移動させれば倒せるか?」
「距離は問題ない。それに、威力も十分だ」
なるほど……。
「じゃあ、俺が移動させてくるよ」
「出来るのか?」
「おう。任せとけ」
****
俺は気配を殺して、戦場の端を砦に向けて走る。
少し、ソフィー達に目を向けると……。
流石、勇者共。
アンデッドをフルボッコですね。
あいつ等を中心に、軍がどんどん前進してる。
でも、あの方法だと何時間かかるんだろう?
【敵のアンデッドも、どんどん補充されてるようですしね】
さてと……。
砦の壁に到着した俺は、壁を駆け上がる。
へ~……。
この世界のオークは、モンスターなんだな。
『コアがあるな』
あ! あれはトロルかな?
アンデッド以外も、そこそこいるじゃん。
『まあ、これくらいは当然じゃろう』
さてと、抜き足差し足……。
俺は誰にも気づかれる事なく、ローブを纏った馬鹿の後ろに到着。
さてと……。
こんな場合は、やっぱりあれかな?
ん……。
「ドロップキィィィィィィィィック!」
え?
ああ……。
四天王を背後から思いっきり蹴りつけて、門の上から落としましたけど、何か?
広い平原に届くほど大きな銃声が、遠くから聞こえた。
おお!
アルベルトすげぇぇぇ!
落下してる敵を、撃ち抜いたよ。
すっげ!
「嘘……レイさん?」
「な……何をしているんだ!?」
「そんな馬鹿な……」
あれ? でも、かすかに生きてるな……。
【アンデッド達が消えませんね】
どうしよかな?
コアに悪意は感知できないし、普通に倒すか。
『まあ、そうじゃな』
あ……そおい!
目の前を飛び降りた俺は、両足をそろえてそのまま……。
「ストンピング!」
踏みつけました。
ズドンという、いい音が聞こえましたよ。
簡単にいうと、四天王とやらが、俺の足元で息を引き取った訳ですなぁ。
はい!
終り!
アンデッド達が、土にかえって行く。
よしっと!
アルベルトに、親指を立てて合図を送る……。
あれ?
頭を掻いてる?
『何と言うか……』
【この人に勇者は無理なんですよ】
えっ?
何で?
敵を倒したよ?
『結果を見ると、効率的ではあるんじゃがな……』
【何と言えばいいか……】
なんだよ?
【『姑息過ぎる!』】
ええ~……。
だって……。
兵士や、勇者達まで呆然としてる。
俺頑張ったのに~……。
なんだよ。
やってらんね~……。




