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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
28/77

二話

「私、馬車なんて初めてなんです!」


ああ、そう。


「で?」


「今、言った通りだよ」


「ほっほぉ~う。じゃあ、俺達以外にも勇者はいると?」


「そうだよ。この国だけでも、四人は勇者が召喚される予定だったわけだよ」


「で?」


腕組みをした俺は、ババァにガンを飛ばす。


「何が聞きたいんだい?」


「ババァは、勇者一人でよかったんだろ? 何で、俺を呼びだした?」


「しつこいね~。ソフィーが失敗だと思ったと、言っているじゃないか」


お前、これ!


ババァが無理して二回も召喚したせいで、俺が呼びだされてるじゃないか!


馬鹿か!


勝手に人を巻き込むな!


てか……。


少し格好いいと思ったのに……。


【何がですか?】


異世界へ、勇者として招かれる。


俺には、無縁だと思ってたぶん……。


『なんじゃ? 色々言っていたくせに、嬉しかったのか?』


【ああ、それで珍しく協力的だったんですね】


あ~あ……。


ぬか喜びかよ……。


やってらんね~……。


【おかしいと思ったんですよ】


何が?


【貴方が、素直にテストを受けるなんて……】


『何時もなら、老婆ごと全員を殴り倒すくらいするはずじゃからな』


するか!


お前等は、俺をどんな人間だと思ってるんだ!


ほぼ、精神破綻者じゃないか!


【えっ?】


『違うのか?』


酷いな! お前等!


てか、それくらいは協力するよ! ほっといてよ!


「そんなに不満かい?」


「不満だね~。何処をどう取っても、失敗して呼びだされてるじゃないか!」


「確かに二回も行ったのは、特別だけどねぇ」


「そんな、無理やりの特別いらん」


「事前の星見では、あたしが運命を変える勇者を召喚すると出たんだがねぇ」


星見?


「占いで?」


「そうだよ」


ふとソフィーを見ると、馬車の窓から外を笑顔で眺めている。


「じゃあ、俺じゃなくてソフィーだろうな。俺は、勇者にはなれないからな」


「そうかい」


四人でいいんだよな……。


五人目の俺って、いらないんじゃね?


【まあ、これも何かの縁ではないですか?】


たく……。


****


街中のレンガで出来た道を抜け、城門をくぐった所で馬車は止まった。


そして、案内の兵士について、俺達は王のいる玉座の間へとはいる。


おっ……。


あれが勇者だな。


『そのようじゃな。かなりの戦闘力を内在しておる』


その横にいる神官と魔道士っぽいのが、呼びだした奴らか。


【あっちは、明確に魔力が強いですね】


つっても、亜人種ほど強くはないみたいだけどね~。


「王は、急な公務で少し遅れますが、すぐにまいりますので」


案内してくれた兵士が、下がって行く。


ふ~……。


「やあ、君達も召喚されたんだろう?」


金髪オールバックのイケメンがこっちへ……。


こいつは……。


敵だ!


【ええ~……】


男前は、全員敵だ!


「僕は、ラインバック。ライでいいよ」


差し出した手は……ソフィーにかよ。


こいつ……たらしか!


「あ……ソフィーです」


「僕は、魔王を五人ほど討伐しているんだ。頼ってくれていいよ。宜しくね」


「はい! 宜しくお願いします」


魔王五人ね~……。


多分、強い事は強いんだろうな。


『人間の中ならばな』


「え~っと……。あちらの人も、最低一人は魔王を討伐しているんだけど、君は?」


ああ?


なんか感じ悪いな……。


けっ……。


魔王くらい……。


あれ?


魔王?


百八の魔物達は……。


『大魔王を名乗る者もおったが、正確には邪神じゃろうな』


あ!


魔王のミア……は倒すどころか助けちゃった!


【アルトくんのいた世界でも、魔王ではなく厳密には魔王ゾンビでしたね。少し前の敵も、魔王を名乗る神でしたし……】


俺~。


魔王倒した事ない……。


「どうしたんだい? まさか、魔王を倒していないのに勇者を名乗っているのかい?」


こ……の……。


こいつマジで殴ってやろうか。


「レイは勇者じゃない。でも、戦う力はお前さんらに引けはとらんはずだよ」


ババァ……。


そのフォロー微妙じゃね?


「で? どうなんです?」


ライの奥に居た女が、声をかけてきた。


「ああ。魔王なんて倒した事ないよ」


「あら~! やっぱりあの星見は、ハズレだった様ね~」


奥の扉から、王様っぽい奴と……。


派手……服装以上に顔が派手な女が、扇子を仰ぎながら出てきた。


何? こいつ?


「あれ? ババァ?」


ババァ以外のみんなも、膝をついて頭を垂れている。


これは、合わせた方がいいよね。


「私が召喚した、ユリウスとエルザで運命の勇者は決まりじゃない?」


どう言う事?


『さっぱりじゃな』


「皆の者、顔をあげてくれ。私がロンジュール王だ。我が国への助力、まずは感謝を」


ああ、やっぱり王様か。


「そして、存じておる者もおるだろうが、これが星見兼召喚士でわしの娘でもあるカテリーナだ」


え?


姫なのに、予言と召喚するの?


【珍しいですね】


「皆、これからこの国の為に尽力してもらう事になるが……」


自分なりに空気を読んだらしいライが立ち上がる。


「僕はラインバックと言います。ライとお呼び下さい。そして……」


ライは自信満々に魔王を五人倒した事と、自分の持っている聖剣と鎧の事を……自慢した。


なんでも、斬れない物はない剣と、魔法をはじく鎧だそうだ。


流石は、勇者のチートグッズ。


「俺はアルベルト。倒した魔王は一人だけだ。そして、俺の武器はこれだ」


髭を生やしたナイスミドルが、背負っていた黒い金属を本来の形に戻す。


おお!


でっかい銃だ!


折り畳み式なのか。


「ロングライフル?」


ソフィー? そう言う名前なの?


背中から取り出した折りたたみ式の銃は、伸ばすと一メートル半ほどの長さがあった。


普通の実弾だけでなく、特殊な魔法を込めた弾丸、そして魔法だけでも打ち出せる最強の兵器らしい。


銃に頬ずりって……。


キモイなこの髭。


「あ……私はエルザと申します。こちらの勇者、ユリウス様の従者をしております」


あれ?


この美人のねえちゃんも、異世界から来たの? 召喚士じゃなかったのか。


異世界から読んだ人数が合わないんじゃない?


【そうですよね】


あれ~?


従者も一緒に召喚したって事?


『そうなんじゃろう』


てか、美人で優しそうなねえちゃんだな……。


おっぱいもなかなかだし……。


それに引き替え、ユリウスってセンター分けロン毛は……。


クールが売りなのか喋りもしないな。


感じが悪い。


よくあんなのの従者をしてるな~。


【別に恋人を選んでいるわけでもないでしょうし、誰かさんみたいに口下手なだけかも知れませんよ?】


誰かって誰さ~!


「ユリウス様は、強大な力を持つ魔王を三体倒された。我が世界の英雄です」


ニコニコしながら……。


できてんじゃね?


『お前は、人をそんな目でしか見えんのか?』


「私は……あの……勇者の娘でして……。ソフィーと言います」


ソフィーがしどろもどろに自己紹介をする。


まあ、このメンツでは言い難いよね。


学校で一番だった事と、やる気はあると……。


学校じゃないんだから、変なアピールしてもしょうがないだろ?


馬鹿なの?


【まあまあ】


えと……次は俺か。


「あ、レイです。勇者じゃないです。ギルドとかで、モンスター退治とかはしてました」


『小娘が十代後半の回答なら、お前のは一桁の子供の答え方じゃ!』


え?


そうかな?


でも、これ以外に説明方法が思いつかない……。


『はぁ~……アホの子じゃ』


アホって言うな! クソジジィ!


「ぷっ……おほほほっ!」


うおう!


姫が大声で笑い出した!


てか、おほほって……。


「やはり、私のほうが優れたいたようね~! 大魔道士ヨルダ! いえ……元大魔道士かしら~?」


えっ?


何?


ババァと姫は競ってたの?


「はい。面目ありません」


ババァはその言葉に、只頭を下げる……。


【何でしょうね? この人間関係は?】


分かんね。


****


王様から王様なりの感謝の言葉を貰った後、部屋を移動するのか再び案内の兵士が俺達に近寄ってきた。


「では、改めてこの世界の状況を宰相から説明させる」


日頃、軍議をしているであろう部屋へ案内された俺達は、机に広げられた地図で説明を受ける。


これは……。


【異世界から勇者を呼んだのも、納得ですね】


だよね~……。


大陸の七割以上が、魔族達に支配されていた。


『異世界から、実績も実力もある勇者を召喚する。理にはかなっておるな』


ゲームみたいに、レベル一桁で呼んでも意味無いだろうしな。


しかし、ちょっとそれっぽいな。


『そうじゃな』


この大陸には、元々この国を含めた五つの王国があったらしい。


完全には倒せないまでも、人間達は魔族を大陸の辺境へは追いやっていた。


二年前までは、大陸の八割を人間が支配していたそうだ。


しかし、突如七人の魔王が魔族を統括して、勢力図を一気に塗り替えたらしい。


五つの王国のうち、二つは地図上から消えている。


この勇者の召喚は、数ヶ月前から三つの王国で計画された事で……。


ババァや姫さんを含めた、予言をする力がある人間を集め準備を進めていたらしい。


ただ、一月前に各国を繋ぐ拠点や町が敵の手に落ち、他の国と連絡が取れなくなった。


仕方なく占いで一番いいとされる日に、この国の四人の召喚が可能な魔道士が召喚を実施したそうだ。


急に現れた七人の魔王……。


悪意の可能性は、十分にある。


『気は抜かん事じゃな』


そうするよ。


「では、このボルタレス砦に、魔王配下の四天王がいると?」


「はい。見て頂いた通り、この砦は我が城の目と鼻の先」


それで、明日にでも攻め込んでほしいか……。


ギリギリだな、この国。


【切羽詰まってますね】


「この砦を占拠しているのは、ネクロマンサーである四天王ギャレイ。ゾンビやスケルトンが、無尽蔵に増えていくのです……」


へ~……。


じゃあ、ギャレイを最初に倒せば問題ないんじゃね?


『まあ、そうじゃが……。普通の人間には難しいと思うぞ?』


なんで?


『ギャレイとやらに、たどり着くのが難しいはずじゃ』


まあ、そうか……。


「お任せ下さい! 宰相殿! 明日にでも、この勇者ライが討伐してご覧にいれます!」


てか、これだけ勇者いるし、大丈夫じゃない?


ヤバそうなら、俺も戦うし。


【そうですね】


****


それから、二時間ほど説明を受け、打ち合わせを行ってから解散になった。


ぷひぃ~……。


会議って肩こるわ~……。


うん?


ソフィーはライの英雄譚に、目を輝かせている。


ほうほう、ドラゴンを倒したと……。


頭おかしいんじゃね~の?


【仲間の死を乗り越えってって……。あんなに嬉しそうに、話す事じゃないですよね】


てか、ドラゴンくらいで犠牲を出すな、馬鹿。


馬鹿らしい……。



俺は一人で部屋を出る。


おや?


ババァと姫さん……。


「い~い? この国で一番すぐれている魔道士は、この私。それが証明されたのよ」


「はい。姫様のおっしゃる通りです」


【あのお姫様……少し嫌な感じですね】


う~ん……。


「この国を導くのは、今後私の役目」


「はい」


「でも~……。勇者見習いに、只の傭兵とはね~。酷過ぎるわね~」


「姫様……お言葉ですが、あのレイと言う男は、あれでなかなかの強さを持っています」


「あら? 私に口答え?」


「いえ……その……」


「まあ、いいわ~。結果はすぐに出るでしょう。もちろん、私が従者ごと召喚した、ユリウスが活躍るするでしょうけどね~」


それだけ言うと、姫さんは扇子を仰ぎながら通路を歩きだした。


う~ん……。


『どうしたんじゃ?』


あの姫さん……一見感じが悪いけど……。


言葉に嘘と言うか……。


【嘘?】


違うんだけど、何か引っかかる。


う~ん……。


てか、ババァが俺を結構認めて、姫さんにまで口答えしたのは意外だな。


「あっ! 勇者殿!」


え?


違いますけど?


「それぞれの客室を用意しておりますので、案内を……」


まあ、呼び方なんて何でもいっか。


****


暇なので部屋で修練をしていると、可愛いメイドさんが晩餐会の用意が出来たと、呼びに来てくれた。


結構可愛いな。


てか、メイドだし……。


口説けばイベント発生しないかな?


『無理じゃ、電波馬鹿』


その、すごく無線とかが好きみたいな呼び方、止めてくれます?


『じゃあ、馬鹿』


やめなさいよぉぉぉって!



大きな立食式のパーティ会場……。


豪華な内装に、貴族らしい人がいっぱいいる。


「あ! レイさん!」


ソフィー……。何? その格好は?


「パーティー用のドレスを着付けて貰ったんです! どうですか?」


【空気を読みましょうね】


諭すな!


「い……いいと思うよ」


「えへっ! お姫様になったみたいです!」


動きにくそうなドレスに、派手な髪形と、貴金属。


俺の好みじゃないな。


「ソフィーよく似合ってるね」


「あ! ライ、ありがとう!」


「後で一曲、踊って頂けますか? お姫様」


跪いたライが、ソフィーの手の甲に口づけを……。


寒気がする。


駄目だ。


俺、こいつ本気で嫌いだ。


嬉しいのか恥ずかしいのか分からない顔で、ソフィーがこちらを見てくる。


知らね~よ。


自分で考えろ。


【冷たいですね。異世界で最初にできた友達として、頼りたいんじゃないですか?】


俺と仲良くして、死なれても気分が悪いし、あのライってのでいいんじゃね?


実際に、そこそこは強そうだし。


【そう……ですか】


王様の、今日は存分に英気を養ってくれと言う言葉で開始の挨拶はしめられた。


う~ん……。


び……びみょ~。


不味くはないけど、美味くない。


【ああ~……パスタが~】


うん! パスタは、はっきり不味いね!


『贅沢は言えんな……』


美味くないけど、食い溜めしとくか……。


俺は話しかけようとしてくる貴族を、回避しながら会場を回る。


その間も、料理を常に口に運ぶ。


最近の唯一の楽しみなのにな~。


はぁ~……。


【もう駄目です! こんなパスタは論外です!】


五月蝿い。


【パァァァァァァスタァァァァァァァ!】


壊れやがった……。


ジジィと言い、こいつと言い……。


仕方ない……。


「あのさ、厨房ってどっち?」


一人の衛兵を捕まえて、厨房へ向かう。


****


「ど! どど……どうされましたでしょうか? 私共に、不手際がありましたでしょうか?勇者様?」


厨房の使用人さん達が、全員頭を下げている。


「いや……。貴方がたに不手際はないよ。ただ、少し故郷の料理を作りたくなったから、材料と機器を貸してくれる?」


「は! はい! どうぞ!」


「ありがとう。ただ、俺勇者じゃないからね」


「は?」


一応、俺は自分の事を話しつつ、パスタを作る。


麺を適度に茹で、保存用に塩漬けされた肉とバジル、野菜を炒めて香辛料で味を調整した。


【これです! これ! あ……ああ~……幸せ】


逝ったんじゃないのか?


キモイな。


うん?


「食べる?」


そのまま調理場で食べ始めた俺を、使用人さん達が眺めていた。


かなり量を作ったので、皿を出すと……。


大盛況で、皿が……空に……。


【ノォォォォォォォォン!】


五月蝿い!


てか! 美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど!


全部食うな! 馬鹿なのか?


仕方なく、再度作り始めた俺の左右には、メモを持った使用人さん達……。


うぜ!


うざいよ!


邪魔だよ!


さらに、乞われて何種類かのパスタを作って見せた。


何だ? これ?


作っては食うを続けた俺は、使用人さん達にお礼を言われつつ厨房を出た。


因みに、若造はヘブンに行って帰ってこない。


さて、一応会場には戻るか……。



お~や?


「勇者殿? どうされました?」


「晩餐会は?」


「先程終了しましたが?」


ああ……。


まあ、腹も膨れたし眠るか……。


あ!


月明かりの中、ライとソフィーが庭へ向かって歩いていく。


いい雰囲気だな……。


死ね! このカップルが!


『お前は、それを言わんと気が済まんのか?』


基本的には。


【……はぁ~……】


お~い、若造?


【はい~?】


いい加減! 帰ってこい!


【……え~?】


もう! 帰っておいで!


ハウス!


【あ……失礼しました】


久し振りで嬉しいのも分かるけど、そこまでひたるな。


キモイ通り越して、気味が悪い!


後、気分が悪い!


『確かに』


【はぁ……すみません】


さて、部屋に帰るか。


****


あ?


自分の部屋の扉に手をかけると、隣の部屋からパシンと乾いた音が……。


確か、隣はユリウスとエルザの部屋。


なんだろう?


鍵穴から、中をのぞく。


おいおい……。


ユリウスが、エルザの胸元を掴んで平手をかましていた。


「きゃ! お許しを!」


「お前は……何時から俺よりも先に、自分を紹介するようになった?」


ユリウスは、能面のような顔で往復ビンタを続ける。


ええ~……。


【そう言えば、王様に向かってエルザさんは、自分の名前を先に言いましたね】


いやいや……。


それでこれはやり過ぎだろ?


ユリウスは、エルザが泣きだしても手を止めない。


しばらくそれが続いき、ユリウスの息が少し上がった所で、エルザを壁に投げつける。


「お許しを! お許しを!」


うおう……。


投げ捨てられたエルザが、急いでユリウスに近づいて……。


靴に口づけしてる……。


怖っ!


何? この状況?


「ぎゃん!」


そのエルザを、さらにユリウスは蹴りつけた。


エルザ、鼻血出てるぞ?


「お仕置きが必要だな?」


「はっ! はい! 至らない私に、罰を! ですから……どうか見捨てないでください」


エルザは、そのまま頭を床にすりつけている。


「さあ、いつものお仕置きだ」


「はい!」


そのユリウスの言葉で、エルザはって……。


なんだよこれぇ。勘弁しろよぉ。


『ほう。覗かんのか?』


見てて気分悪いし……。


美人が他の男にって……あんまり見たくない!


てか、俺の部屋に変な声が聞こえそうな気がするから、修練兼散歩する!


【しかし、勇者とは名ばかりで歪んでますね】


でも、ああいうプレイかも……。


お互いが楽しんでるって可能性も、あるよね。


『では、あの女の言葉に嘘は感じたか?』


いや。


『ならば、あの女があ奴に依存しておるのじゃろう』


依存?


殴られて、鼻血だして?


『そう言う異性に、駄目と分かっていても依存してしまう女はおるもんじゃ』


ふ~……。


俺なんて、殴るんじゃなくて殴られるのに……。


【貴方はちょっと特別です】


ユリウスに見切りをつけてくれれば、俺が優しくするのにな~……。


『もしそうなっても、きっとあの女にお前は殴られる』


おま……でも、俺もそう思う。


もう少し、上手く生きていきたい……。


****


あん?


話し声?


「お嬢様! お師匠であるヨルダ様にあのような……」


「婆やは、五月蝿いわね~」


「しかし!」


「私のする事に、口出ししないでくれる~? 貴方にその権限は、無くってよ」


悲しそうな顔のばあさんが、立ち去って行く。


やれやれ……。


俺は、通路の曲がった角を少し引き返して姿を隠し、気配を消す。


ガンと鈍い音がした。


「痛……仕方無いじゃない」


少しだけ、覗いてみると……。


壁を蹴った姫さんが、足を抑えてしゃがみ込んでいる。


その目には、涙がにじんでいる。


「この国は……この国は私が背負わなくちゃいけないのよ」


やっぱり、嘘じゃなくて強がりだったか。


どおりで違和感を覚えたはずだ。


「お婆様の星見、そしてお母様の魔術師としての才能を受け継いだ私が……この私が!」


【わざと自分を追い込んでって、所でしょうか?】


恐怖や不安に飲みこまれないように、自分を奮い立たせるか。


『不器用な娘じゃ』


まあ、性格が悪いのは元々かもしれないけどね~。


「そうよ! 私は……私は!」


「俺の恩人が言ってたんだが、涙を我慢し過ぎると心が壊れるらしいぞ?」


「なっ!?」


「あの婆や? だっけ? あの人くらいには本心を打ち明けて、愚痴ってもいいんじゃね?」


俺は、姿を隠したまま声を出していた。


「あ……あんたなんかに! 何が分かるって言うの!」


「頑張る事は悪い事じゃないし、姫さんの頑張り方が間違えてるなんて言うつもりはね~よ」


「この……」


「でも、無理をし過ぎると、大体ろくな事にならないぜ?」


「じゃあ! どうしろって言うの? お父様も……頼りにならないのよ?」


あれ?


あの喋り方も、わざとか。


てか、ガス抜きしろってさっき言ったんだけどな~。


「じゃあ、一つ俺と賭けでもするかい?」


「はぁ?」


「この国が平和になったら、俺の勝ち。ならなかったら、姫さんの勝ちだ」


「何を……」


「負けたら、何でも言う事聞いてやるよ。そのかわり勝ったら、ババァ共に謝れよ。いいな?」


「それって……」


「まあ、俺は負けるの嫌だから頑張るけどね~」


「ちょ!」


姫さんが、俺のいた場所を見たときには……。


もうそこに俺はいない。


****


さて、庭で剣でも振るか……。


「すまないねぇ」


庭には、ババァがいた。


「何が?」


「カテリーナも……。色々抱えてるんだよ」


俺の先回りなんて無理なはずなんだがなぁ……。


何かの魔法か?


「あんたには、ソフィーの事といい苦労をかけるね」


「さあ……何の話か分からんな」


「あんたは、そうやって笑うんだねぇ……」


ババァの前を通り過ぎた俺は、庭の開けている場所へ歩いていく。


『ふむ……』


【何を知っているのでしょうか?】


食えない妖怪ババァだ。


さて……。


あ……。


「ライ! やめて! い……あ!」


「あ……」


庭園に入ると、そこでライとソフィーがキスしてました。


「あの……これ! 違うの!」


俺は……。


精一杯空気を読んだんだ!


うん!


頑張ったんだ!


【それが逃走って……】


『チキンが』


いやいやいや!


俺の限界超えてるって!


『まあ、そうかも知れんな』


ババァの事考えてて、気配を読んで無かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


折角いい雰囲気の二人を、邪魔しちまったよ!


絶対舌打ちされるレベルだよ!


なんで俺は、こんなにタイミングが悪いんだ!?


ああ!


もう!


やってらんね~……。

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