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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十一章:召喚の勇者達編
27/77

一話

えっ?


うおお!?


ちょ、何!?


狭間を漂っていた俺を、今までにない感覚が襲う。


急激に何処かへ吸い寄せられた俺の体は、ドカンと大きな音を立てて、何かにぶつか……挟まった。


おふぅ!


い……いって~。


痛いぞ! この野郎!


何なんだ!? こんちくしょう!


え?


あの……。


なんだ? これ?


【なんでしょう?】


『新しい世界か?』


時空の挟間っぽくないし……そうだと思うけど。


何? 何なの?


どう言う状況!?


さっぱり分かんないんだけど!


『魔方陣じゃな……解析してみよう』


薄暗い場所で、地面に書かれた魔方陣。


辺りは、煙のような靄が立ち込めている。


白い光を放っている、その魔方陣から俺が……。


上半身だけの俺が、生えてます。


魔方陣から、俺のへそまで新世界へ出てますが、下半身は……。


どうなってるの?


えっ?


時空の狭間に下半身と、手首から先は残ってるの?


えっ!?


何これ?


何だよ! この状況は!


【いつもの新しい世界へ投げ出される感覚とは、違いましたね】


世界から出る時みたいに、吸い出されるみたいだったけどちょっと違ってたし……。


てか!


身動きがとれない!


『これは……転移の魔方陣に似ておるが』


何? 分かんないの?


『確実ではないが、噂に聞く召喚用魔方陣ではないかのぅ?』


ん……。


【賢者様でも解析しきれないのですか?】


『特異な術式が交ざっておってな……。何かを呼び出すのは、間違いないと思うんじゃが』


ん! 何やってるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!


『五月蝿いのぅ』


呼び出すなら、ちゃんと呼び出せよ!


何で、半分なんだよ!


どう見ても失敗じゃないか!


馬鹿か?


馬鹿なのか!


ちゃんとしなさいよぉぉぉぉぉぉぉ!


身動きとれないじゃんか!


なんだよ? これ?


は~……。


やってらんね~……。


あ?


「てめぇぇが犯人か! ババァ!」


付近の靄がはれ、黒いローブを着た皺くちゃのババァが見えた。


殴るぞ! ババァ!


必要なら、高齢者とか関係なく手を出すぞ! この野郎!


『落ちつかんか、クズ。そして、野郎ではない』


【まあ、本当には手を出さないでしょうが、こっちが不利なんですからやめましょうよ。クズの人】


酷いな! お前等!


ああ?


言葉がわかんね~よ!


何言ってんだよ!


早くこっから出せ!


【念話】


ああ、そうだった。


おう?


おおう!?


こちらに、手をかざしたババァの手が光ってる。


【呪文でしょうか? 何か唱えてますね】


ちょ!


『魔法じゃな。攻撃魔法ではない様に感じるが……』


いやでも!


ババァの手から、光の球がこちらに飛んでくる。


止めなさいよぉぉぉぉって!


舐めんな! ちくしょう!


頭へ向かってきた、それを……。


ふん!


上半身だけで避け……曲がってきやがったぁぁぁぁ!


光の球は、俺の頭に直撃して消える。


「何しやがる!」


「五月蝿いね~……。失敗かも知れないねぇ」


失敗って何だよ!


早く自由に……あれ?


言葉が……。


【啓示みたいですねぇ】


『うむ。情報が流れ込んできたな』


「どうだい? 言葉は分かるだろう?」


「何したの?」


「言葉が不自由になるのは、想定済みだからねぇ。ここの言葉を定着させる魔法だよ」


おお……。


さっきのはそれか。


「しかし、定着して使えるまで、普通は多少時間が必要なんだけどねぇ」


そうなの?


【情報の受信も初めてではないですし、色々な世界で言葉を習得してましたからね。普通ではないでしょう】


『まあ、こいつは変態じゃからな』


変態って言うな!


てか! 変態押しやめろ!


気分悪いわ!


「しかし、上半身だけとは……。変だねぇ」


おいおい。


「いいから、出してくれよ。俺の下半身どうなってんだよ!」


「流石に一日二度の召喚は、無理があったかねぇ?」


はぁ?


知るか!


てか! 無茶するな!


巻き込まれた俺は、どうしたらいいんだよ!


【いらつき過ぎですよ。今、何とかしようと呪文を唱えてくれてるじゃないですか】


『落ちつけ、ちんぴら』


誰がチンピラだ!


【でも、ガラが悪いですよ? 最近】


うおう!


ぬがっ!


「なんとか、召喚出来たよ」


「いっ……たいわ! クソババァ!」


魔方陣から、コルク栓のようにすっぽ抜けた俺は、天井に頭を打ちつけ、床に落下した。


火花がちった……。


「我慢しな」


この、クソババァ!


「で? お前の名前は?」


えっ?


ああ……。


「レイだ」


「レイじゃな。我らの願いを受け入れ、よくこの世界へ来てくれた」


願い? 受け入れた?


なんだ? ボケてるの?


「それで、レイよ。早速で悪いが、勇者としての実績を教えてくれるか?」


勇者? 実績?


【話が読めませんね】


「俺……勇者じゃないよ?」


そんなビックリした顔するなよ!


こっちがビックリだよ!


「お前は、何者じゃ?」


「だから、勇者じゃなくて、只のレイだよ」


『呆然としておるぞ?』


訳が分からないのは、こっちなんだけど……。


「おばあちゃん……。その人が、本当の勇者?」


部屋の扉を開けて、ブレザーとスカート姿の可愛い女の子が入ってきた。


その女の子の服装を見る限り、文明は最低俺の世界くらいあるみたいだな……。


「どうしたの? おばあちゃん?」


「あたしは……引退するよ。二回とも失敗しちまった」


失敗?


はぁ?


「訳が分かんないんだけど?」


「訳を説明しよう。こっちにおいで」


****


石壁の部屋を出て、蝋燭が点々と灯っているこれまた石の階段を上る。


あれ?


なんか、建物が古臭い。


でも、俺の学生時代みたいなブレザーを、あの子が着てるしな~……。


『この建物が、儀式的に必要だったのではないか? 古代の魔術的建物ならば、考えられる』


まあ、召喚って難しそうだもんね~。


【地下だったんでしょうか? 明りが窓からさしこんできましたね】


てか、本当に古い作りだな。


階段を上った事で見えてきた石枠の窓に、木の扉はついているが、ガラスははまっていない……。


ババァに案内されてはいった部屋の中には、古臭い木の机に椅子……。


【古臭いデザインですが、古くはない様ですね】


あれ~?


「これでも、飲みな」


出された木のコップには、生温い変なお茶らしきものが……。


あれ~?


文明進んでない?


「あの……」


ああ?


「私、ソフィーです。宜しく」


隣に座った女の子が、笑顔で手を差し出してくる。


ほほぉぅ。


いい手触りだ。


「俺は、レイ。宜しく」


「はぁ~……」


目の前のババァは、頭抱えてるな。


なんだよ?


「まずは、何から話そうかね……」


全部喋れよ、くそババァ。


それも、早急にな!


****


え~っと……。


うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!


あのこれ!


うそぉぉぉぉぉぉぉ!


完全に失敗じゃねぇぇか!


「どうしたもんかねぇ……」


お前より、俺のが困ってんだよ!


勘弁してくれよ……。


ババァが俺達を呼んだこの世界は、ヴァンガティ。


この世界には、魔族やらモンスターがわんさかいて、七人も魔王がいるそうだ。


そして、この世界の勇者が戦死した事で、異世界から勇者を召喚したらしい。


勿論、魔王を倒す為に……。


なんでも、あの魔方陣は相手を絞り込む事が出来る上に、相手に召喚の最終許可を委ねるらしい。


つまり相手を見つけた召喚の魔法は、異世界の魔王を倒して欲しいと言う事を伝え、相手がOKだった場合にのみ転移が開始されるそうだ。


俺! 聞かれてない!


てか! 勇者じゃない!


「このソフィーも、勇者の家系ではあるらしいが、勇者ではないんだよ……。まさか、情報さえ伝わってない一般人が来るとはねぇ」


知るか!


勝手に呼んでおいて、へこむな!


「あの……元の世界には戻れないんですか?」


「戻せるんだけどねぇ……。最低三ヶ月後になるんだよ」


はい?


「特殊な術なんでねぇ。あの魔方陣に魔力蓄積をする期間が、三ヶ月は必要なんだよ」


もう、勘弁してよ……。


【まずいんじゃないんですか?】


何が?


【元の世界に戻される魔法なら、ディウスに戻るんじゃないですか?】


あ……。


ああああ!


最悪だ……。


俺が戻ったら、ディウスが滅びるかも知れん!


『…………』


どうしよう……。


【三ヶ月で他の方法を考えるしかないでしょうね】


ブラックホールは自由に発生させられないし、そうするしかないか。


はぁ~……。


面倒だな~。


「私……私! 魔王と戦います!」


はい?


「これでも、王立学院の首席だったんです! 剣も魔法も評価A+でした! きっと力になって見せます!」


いやいや……。


学校って、実戦と訓練はかなり違うよ?


死んじゃうかも知れないんだよ? ソフィー?


「しかしねぇ……」


「私の両親は、本当の勇者です! 私達の世界で、魔王を倒した人達なんです!」


『才能はあるかもしれんな』


人間にしては魔力も、高い方かな?


魂に輝きがある様に感じるし……。


【なんだか、あの世界以降魂まで見えるようになっちゃいましたね】


悪意を捜すにはもってこいだから、いいけどね。


しかし、自分が勇者か? って聞かれて、はい! 自分の親が勇者です! って……。


そりゃあ、魔法のメッセージじゃあ判別できないって……。


この子、頭が弱いのかな?


「で? レイはどうしたい? 呼んだのはこっちだ。三ヶ月面倒は見るよ」


う~ん……。


どうすっかな~。


『まあ、この世界に奴らがいないとは限らん。それに、元の世界には戻らんのじゃろう?』


そうだよな……。


「あのさ、ババァ」


「何だい?」


「俺も少しは腕に覚えがあるし、三ヶ月なんて暇だから手伝うよ」


何?


何をため息ついてるの?


「分かってるのかい? 相手は、魔族を率いた魔王なんだよ?」


「分かってるよ。これでも、ギルドでいい働きくらいはしてたんだよ」


「命が惜しくはないのかい?」


「ヤバかったら逃げるって」


また、ため息ですか!


感じ悪いわ!


「確かに鍛えてるようだけど、魔力を感じないよ、あんた」


魔力?


結構ありますよ?


『お前の魔力は、特殊化し過ぎておる。普通の魔力を探られても、感知できんじゃろう』


そうなのか~……。


てか、魔力なしでも結構いい線いくと思うけどな~。


「分かった。わしも、これ以上異世界から勇者を呼べない。お前達の、テストをする」


何勝手に決めてんだ!


「はい!」


間髪入れずに、ソフィーは元気のいい返事をした。


お前も、少しは人の言う事に抵抗しなさいよ!


「じゃあ、庭の訓練所で警備兵に準備をさせる。少し、ここで待っとくれ」


俺、返事してない!


てか、また巻き込まれたよ。


俺の巻き込まれレベルは、いったいいくつだ?


言ってみろ!


『そうじゃな……最低九百九十九はあるじゃろう』


【ほぼ、回避不能ですね】


うん!


俺も、そうだと思う!


てか、思わざるを得ない!


「テストですか……少し、ドキドキしますね!」


全然。


「私、こういうの少し憧れてたんです!」


憧れって……。


ソフィー……魔王と戦うって、結構血生臭そうですよ?


「私達の世界は、私の両親が平和にしたんで、辺境に少しだけ魔物が残ってるくらいなんです」


平和って大事だよ?


なかなか手に入らないんだよ?


「それでも、今後魔族が復活しないとも言えないので、私達は日々研鑚を積んでいます」


まあ、悪は絶えないって言うしね~。


「少し不謹慎ですが、もし魔王が現れたなら戦いたいと思ってたんです!」


目をキラキラと……。


『戦場では長生き出来んタイプじゃな』


今からのテストで、戦力外と思われたほうがソフィーは幸せかもね。


さて、俺はどうするかな?


さっきはああ言ったけど、わざと負けるのも手だよな?


【そうですね。自由に動けますし、生活にも困らないと言う考え方もできます】


下手に合格したら、動きに制限が付きそうだよね。


【わざと失敗しますか? そういうの、苦手じゃなかったですか?】


まあ、頑張ってみるよ。


****


「じゃあ、一通り練習用の武具は用意したから、好きなのを使っとくれ」


倉庫らしい場所に案内された俺は、一番近くにあった木剣を持つ。


ソフィーは……金属製の胸当て、バックラー、木剣か。


【軽装ですが、万能型でしょうか?】


『魔法重視かも知れん』


まあ、見てれば分かる。



中庭に出ると、鎧を着た兵士が五人……。


あれ? 結構強そうだな。


『まあ、弱くてはテストになるまい』


「まずは……」


「はい! 私いきます!」


そう言って、ソフィーが兵士の前に立つ。


おお……お互いに強化魔法。


『そう言えば、普通の戦闘を見るのは久しいな』


確かに、神様だの戦闘機だの……。


あれ?


俺の戦ってた相手、おかしくない?


人間が勝てそうな相手いないんだけど。


『はいはい……』


今更だけど、たまには言わせてよ!


【あっ! 決着が付きそうです!】


えっ?


おお……。


兵士が放った炎の魔法を、風の魔法でかき消して、首筋に剣を……。


ソフィー結構強いな。


『流石は、勇者の子供と言ったところか?』


うん、人間にしてはかなりレベル高いな。


可愛いし……もてそうだな。


【これで、彼女は魔王と戦う事になるんでしょうね】


う……。


はぁ~……。


仕方がない、付いて行くか。


「次は、レイだね」


「う~い」


次に出てきた兵士が、薄ら笑いを浮かべてる?


なんだ?


「女性には手加減と思っていたが、お前には必要ないよな?」


目の前の兵士が……生意気です。


はい! お仕置き決定!


『やり過ぎるでないぞ』


分かってるって……。


「始め!」


ひっ……。


「では! 行くぞ!」


さぁぁぁつ!


【殺しちゃ駄目ですって】


ボディ!



「おい! しっかりしろ! 駄目だ! タンカを!」


少し速く動いたので、多分あの放物線を描いた兵士には、何が起こったか分からなかっただろうなぁ。


俺に鎧がへこむほど殴られ、壁にぶつかった兵士は……。


泡吹いて白目をむいています。


はいはい……。


木剣ではなく殴りましたが、何か?


『やり過ぎじゃ』


大丈夫! 殺して無い!


「凄い凄い! レイさん強いじゃないですか!」


何? 弱いと思ってたの?


「仕方ない……。二人とも、明日の朝から城に行って、王に会ってもらうよ? いいね?」


「はい!」


「へいへい」


****


ふっ……はっ……ふん!


俺は、自分にあてがわれたカビ臭い部屋で、日課の修練を行う。


一度剣を止め、意識を集中する……が。


駄目だ。


あの力の出る兆しもないし、液体金属も反応しない。


くっ……この!


ええい! もう!


くそったれ!


どうすりゃいいんだよ!


【焦っても仕方がありません。それに、あれは人間の扱える力ではないかも知れないですよ?】


だって~。


あの時使えたじゃん。


『つまり、お前は人間ではないと言う、結論じゃな』


うっさい! ボケ!


人間です! 何よりもまず、人間です!


『それはさて置き……』


ええ~……。


『完璧と言うつもりはないが、人間としての研鑚は限界に近い』


【そうですね。死神様の剣技で、通常の限界はもう突破しています。もちろん、それを多用出来るのは、私達の回復と復元があってこそですが】


まあ、根本的に人間が神様と戦う事自体が無茶だけどさ。


それでも……。


『分かっておる。今更、それを止めはせん』


【それに、現在も驚くべき事に、貴方はまだ徐々にレベルが上がっています】


『焦るなと言う事じゃ。それとも、この前のように魔力を無理やり合成するか?』


いや~。


軽く死にかけたし、それはいいや。


でも、今俺の成長には、神と人を分ける大きな壁だか、川だかが道をふさいでいる。


何か切っ掛けを……。


【何か分かりそうで、分からないんですよね~】


そうなんだよな~。


どうすっかな~……。


てか……目がちかちかする。


『蝋燭明りのせいじゃろうな』


窓には、ガラスが入っていない。


風のせいでろうそくの火が揺らぎ、目に悪い。


『あの娘の世界が発展していただけで、この世界は中世程度じゃろうな』


みたいだね……。


てか、限りなく古代に近いくらいだよ。


最悪だ。


【最悪です!】


なっ!? 何?


【あんな……あんなパスタは! 認めません! アルデンテを理解していない!】


ゆで過ぎで、デロンデロンだったな……。


まあ、田舎料理だと思って。


『そうじゃぞ。パンは原料の味がしっかりしておった。それほど悪くはない』


【折角、久し振りにパスタがあったのに……】


今度、俺が料理してやるから勘弁しろ。


【はぁ~】


うん?


この気配は……。


ソフィーか?


『そうじゃろうな』


二つ隣の部屋の、窓の位置から気配が……。


何してるんだ?


窓から……。


ああ?


飛び降り!?


明らかに、窓の外に向けて気配が移動している。


俺は窓から、外に顔を出した。


何してるんだ?


【壁をよじ登ってますね】


何?


屋根の上にでも行きたいの?


【多分、そうでしょうね】


あ……。


「きゃっ!」


やばっ!


ソフィーが足を滑らせた。


くっそぉぉ!


「ふぅぅぅ」


セーフ……。


「えっ? レイさん?」


急いで壁を走って転落するソフィーの手をとり、屋根に飛び乗りました。


あっ……ぶね~。


「先客がいたんですね」


まあ、俺の動きが見えなきゃ、先に上ってたようにしか見えないか……。


「ありがとうございます」


俺に引っ張り上げられたソフィーは、笑顔で……って。


アホですかぁぁぁぁぁ!


軽く死にかけてるじゃないか!


ここ三階だぞ!


****


「ああ! やっぱり! ここからの眺め最高ですね!」


はいはい、よかったね。


「私の世界だと、町の明かりでこんなに星空が綺麗に見えないんです!」


そうですか。


「それに、空気もおいしい!」


屋根に大の字になって寝ころんで……。


なんですか?


青春ですか?


けっ!


【美人でも、才能がある人は嫌いなんですね】


イエ~ス。


「私の両親が、勇者だって言いましたよね?」


戻って修行しようと思ったのに……。


喋り出しやがった。


「私のお父さん、魔王と一緒に死んじゃったんです。魔王は、本当に強かったってお母さん言ってました」


それも、なんか重い話じゃないですか?


「小さい頃から、お父さんに負けない勇者になる事を目標にしてたんです。お母さんを含めたまわりも、そんな私に期待してくれました」


勇者……ねえ……。


俺は、俺の殺した勇者……セシルさんを思い出す。


あの人も、周りからの声に応えようとしていたな。


「でも、私の世界には魔王がいなくなってました。情けないですけど、実戦もほぼ未経験です」


平和はいいことだぞ……。


「私は、自分が勇者に相応しいとも、ただ力を誇示したいと言う事でもなく……」


なく?


「鍛えたこの力で、悲しむ人がいるのなら力になりたいと思っていたんです。両親の様に……」


十七歳か……。


純粋で、下心のない真っ直ぐな信念だな。


【そうですね……。しかし、やはりまだ青い】


『役が人を育てるとはよく言うが、少々危ういな』


ああ。


正義か……。


一番、質が悪い言葉だ。


金や名誉ならば、見合わないなら戦いから回避が可能。


だが、正義だけは相手がどんなに強くても、自分自身の逃げ場をなくしてしまう。


そして、都合のいい奇跡とやらを待ち望む。


【本当の理に、実戦からたどり着いてくれればいいんですがね】


そうだな。


「いきなり、すみません。こんな話……。少し、興奮してるみたいで……」


ふぅ~……。


「俺の世界にも、勇者はいた」


「え?」


「本当の勇者ってのは、あり方で力じゃない。自分の弱さを見つめて、それと真っ直ぐ向きあって尚、人を思いやれるって事だ」


「はい」


「お天道様に真っ直ぐ顔を向けて、無謀ではなく本当の勇気で進む者。それが勇者だと思ってる」


「はい!」


「まあ、実戦では恐怖や憎悪なんかも、心の中でごちゃごちゃに混ざるもんだ。それに飲みこまれないようにな」


少々お節介かな?


【まあ、これくらいはいいんじゃないですか?】


『言葉の意味を、本当に理解できるかどうかは、この小娘次第じゃ』


出来れば、無駄死にはしてほしくない。


「余計な事を言ったな。じゃあ、俺は先に部屋に戻る」


「あっ……あの!」


ああ?


「レイさんは、勇者ではないんですか?」


はぁ?


「昼間のテストもそうですが、何か不思議な力を感じます。それもとても強く」


嫌だね~。


才能だけじゃなく、直感まであるよ。


「生憎、俺は勇者じゃない。只の一般人だ」


俺自身が元凶だった不幸の中で、英雄とは呼ばれた事もあるが……。


結局、自作自演みたいなもんだ。


真実を知れば、恨まれても、感謝なんてされないだろう。


「でも……」


俺は、振り返らずに返事をする。


「俺には、勇者になる資格がないんだよ。だから、俺はどうあがいても勇者にはなれない。それだけの話だ」


そう……。


人を不幸に巻き込んで、殺す事しかできない俺は……。


勇者にはなりえない。


『【………………】』


「降りるときに落ちるなよ」


それだけ言うと、俺は部屋へと戻った。


はぁ~……。


説教臭かったな。


俺も歳をとったかな?


あ~あ……。


やってらんね~……。

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