十三話
真っ暗な宇宙空間……。
その中で、十センチほどの赤く丸い光が点滅している。
それは、その世界で元最強の機体と呼ばれていた……。
戦闘用宇宙船のコントロールを司っていた、AIだ。
俺に関わると、その相手はろくなことが無い。
俺の不幸に巻き込まれちまうんだ。
はぁ~……。
やってらんね~……。
「見つけた! 見つけました!」
「ハンス! 通信!」
「社長……通信は繋いだままゲロ」
「そうだったわね……」
船外作業服を着たデンケルが、それを回収する。
その光景を、母艦で見つめているのはアーデルハイト皇帝陛下。
「回収完了です! 陛下!」
「御苦労。応急処置を施した後、こちらへ持ち込むのだ」
「はい!」
古代の魔法文明が作ったAIは、自身の危機に自動で救難信号を出していた。
ブルー自身は助かりたい、助かろうとは考えていないかもしれない。
しかし、プログラムされたAIであるブルーは、供給されていたエネルギー源が途絶える事で、一時的な自己保存休眠状態に入っていた。
****
応急処置完了との報告を、社長達から聞いた皇帝は、通信を終えた。
それと同時に、ドロテアが皇帝のいる私室へ入ってくる。
目を真っ赤にはらして、くまが出来ていた。
眠れていないのだろう……。
「ドロテア……大丈夫?」
二人しかいない部屋で、アーデルハイトは素顔の自分を出す。
「泣くだけ泣きました……。立ち止まり、殻にこもってもグスタフは悲しむと思うんです。優しい人でしたから……」
「そう……。休みが必要なら、何時でも言ってね」
「ありがとうございます、お姉様。それで……」
「ブルーの頭脳と推測できる機器は、回収出来たわ」
「レイ様は……」
皇帝は、首を左右に振った。
「……あの方は、きっと死んでいないと思うんです。お姉様も、そう思っているんじゃないですか?」
「実はそうなの……。あんな爆発の中で、人間が生きていられるはずがないのに……」
顔を伏せていた皇帝陛下は、少し哀愁漂う笑顔をドロテアに向ける。
「きっと、次の世界に向かわれたんでしょう。レイは、また泣いている人々を助けているはずです。今も……」
なるほど……。
俺が生きているか……。
女の勘は恐ろしいね。
【ずいぶん余裕がありますね……】
え!?
そうですよ。
俺は超能力者じゃないんで、見てもいない光景を知る事なんて出来ません。
実は……。
『電波と会話するな! 死ぬぞ! 馬鹿!』
馬鹿って言うな! クソジジィ!
え~と……。
そう!
只今俺は……。
爆発で吹っ飛ばされて、炎と衝撃でボロボロの宇宙服を何とか換装し……。
皇帝陛下の部屋にある、窓!
その窓枠に外から掴まってます。
【ちょ! 速度上がってきましたよ?】
因みに、魔力もないし、合成魔力の副作用で右ひじから上しか動きません。
今、掴まっているのが精一杯です!
誰か助けて下さい!
空気が無くなって、死んでしまいます!
こんな死にかた嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
『流石に、無理をし過ぎて全く体が動かんな……』
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
え?
あれ?
船の速度上がってね?
ちょ……。
【さっきからそう言ってるでしょうが!】
『全く、電波だか妖精だかと、喋る余裕などないと言うのに……』
読者もしくは、プレイヤーに喋りかけてたんです!
『おらんわ! そんな者!』
うっさい!
てか……。
マジで……。
速度が……。
「さあ、キール商会の皆さんを迎えに行きましょう」
「そうね」
ちょ! 待って!
俺は、ここに居ます!
母船と、それを護衛する艦が加速を開始した。
あ……。
あああああああああ!
もちろん、俺の指は振りほどかれました。
****
宇宙空間に、一人で取り残される……。
あ~あ……。
やって……。
俺が溜息を吐き出した瞬間、ドボッっと鈍い音が全身を駆け巡った。
う……げ……。
ヘルメットのシールドが、真っ赤に染まった。
もちろん、内側から俺の血で……。
『宇宙服は無事じゃが、背骨が粉々じゃ……』
【内臓も、複数破裂しましたね……】
え~……。
俺が掴まっていた母艦と同時に、加速を始めた護衛艦に……。
ひき逃げされました。
船首が、俺の背中に凄い速さで直撃です。
ちょ!
なにしてくれてんのぉぉぉぉぉぉぉ!
やべ……。
痛いとかじゃなくて……。
意識が……。
【あの……魔力は……】
『う……うむ。全く無い。これは、ちょっと洒落では済まんぞ……』
あの……えと……。
時空の狭間に、吸い込まれそうな感覚まで来たんですけど……。
あの、これ……。
【最悪です……】
『どうしようもないぞ……』
二人の声に、いつもの冗談の雰囲気は……全くありません。
これって……。
死ぬんじゃね?
『【………………】』
ちょ!
死にたくないって言ったら、事態が悪化した!
馬鹿かぁぁぁぁ!
馬鹿……な……の……意識が……。
ちょ……。
マジで、勘……弁……してく……だ……さい。
あの……。
やってらんね~……。




