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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十章:銀河と相棒編
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十二話

『よ……よし! 魔力の循環が戻ったぞ!』


【早く止血を!】


『うむ!』


【しかし……発作と、魔力循環の強制停止。あの力は、やはり合成魔力なんでしょうか?】


『分からん! 若造! そちらに残っておる魔力をこちらに!』


【えっ!? しかし、完全に精製出来ていない魔力を取り込めば……】


『かまわん! 魔剣自体にダメージはない!』


【賢者様の魂が……】


『そんな事はどうでもよい! 今は、この馬鹿の命を繋ぐんじゃ!』


【……はい!】


『ぐう……くっ!』


爆発に巻き込まれ、宇宙服自体が大したダメージを受けなかった事は、いつもの悪運だろう。


しかし、魔力が尽きかけた俺は、完全には回復出来ない。


折れた骨が皮膚を突き破り、内臓にも深刻なダメージを受けている。


そして、まだ目覚める事が出来ない……。


まだ何も終わっていないのに……。


弱くて情けない俺は……。


あ~あ。


やってらんね~……。


****


(こ……れ……は……)


「もちろん、想定済みだよ」


(貴様……)


「君の下にあるのは、異世界の魔法だ。魔力が強い者を強制的に、その場に縛りつけ動きを封じる」


(こ……の……)


「僕達は、異世界の仲間と記憶を共有出来る。生憎、君達の様な雑魚に、出し抜かれる事はないのさ」


皇帝を降ろす為に着艦した帝国の母船には、既にグスタフが罠を準備していた。


ブルーが格納された場所には、見えない様に特殊な魔方陣が描かれている。


「あ! グスタフ! お姉さ……皇帝陛下が、支度を済ませ玉座へ戻られました」


婚約者が敵の傀儡だとは知らないドロテアが、ブルーの居る格納庫へ入って来た。


「分かった! すぐに行くよ、ドロテア!」


そのドロテアに返事をするグスタフは、何事もなかったかのように返事をする。


「くく……じゃあね、ブルー。くくっ……」


(くう……)


グスタフが格納庫を出る寸前に、下卑た笑みを見せる。


何故か、俺にはブルーの視界情報が流れ込んでいた。


ここでも切っ掛けはあったのに、馬鹿な俺は気が付けない。


****


「すぐに捜索隊を!」


「お姉様! 落ちついて下さい! まだ、全軍が混乱を収拾出来ていません!」


「そうです、陛下」


アーデルハイトは、玉座の間で応急処置を受けながら、騒いでいた。


俺の事よりも、する事があるだろうに……。


「しかし! そ……そうじゃ! ブルーは?」


「残念ですが、疲労がたまり過ぎた様で、休止しています」


「くっ! しかし……」


「敵が、再度進行してこないとも言えませんが、既にコロナ砲は始動準備完了です」


「違う! レイは! レイは、あれだけ無茶な戦いをしたのだ! 帰還出来ぬ状態やも知れぬではないか!」


「お姉様! 落ちついて下さい!」


部下の前だという事も忘れ、アーデルハイトは悲痛な表情で俯く。


「レイ……」


…………。


俺は、もしかして死んだのか?


自分の体を感じない……。


まるで、ただ宇宙空間を漂っている様な。


魂だけが体から抜け出した様な。


宇宙と一体化したようなこの感覚は……。


****


「ブルー?」


アルマ……。


「眠っているの? ねえ……レイは、無事なの?」


さあ……。


もしかすると、死んじまったのかもな。


「もう別の世界へ帰ってしまったの?」


信じてくれてたんだな……。


「私……レイに……レイに会いたい」


アルマ……。


「えっ!? ブルー?」


(その……機材の……奥……壊して……くれ……)


ブルーが、渾身の魔力を込めてアルマへ接続した。


「……分かった!」


雰囲気を察したアルマは、機材をかき分ける。


そして、積まれていた機材の奥にある、不思議な文字が刻まれた金属板を見つけた。


「これね!」


アルマが術式を見つけた所で、格納庫に銃声がなった。


えっ!?


帝国の……兵士……。


腹部を撃ち抜かれたアルマは、その場に倒れ込んだ。


そんな……。


その兵士は、そのまま何も無かったように通路の奥へと歩き出した。


俺には……。


そいつの魂から、汚く漏れ出す黒い何かが見えた。


「ちょ……ちょっと待ってね……」


アルマ!


アルマは、這いずりながら近くにあった工具で、金属板の文字を破壊した。


それにより、ブルーが自由を取り戻した。


(なんて事だ! どうすれば……)


来い!


(なっ!?)


来い! ブルゥゥゥゥゥゥゥゥ!


****


『おお! 意識が戻ったか!』


【動かないでください! 重症です!】


「来い……来い! 俺はここだ!」


『なんじゃ? どうした!?』


【あれは……】


(主よ!)


俺は、ギリギリ動く右手で、ブルーに掴まる。


急げ!


(り……了解した! アルマが!)


分かってる! 急げ!


ジジィ!


『なんじゃ?』


回復は後回しでもいいから、魔力の補充を先にしてくれ!


【重症です! それは……】


いいから!


『わかった! 並行で行う!』


ブルーの超速度で、俺は帝国の母艦へと向かう。


「陛下! 強制発進したブルーが帰還しました!」


「そうか! で?」


「……レイ殿……。レイ殿も帰還されたそうです!」


「そうか!」


****


「う……ん……。レイ?」


ふ~……。


「もう少し横になっていろ。怪我は復元しておいたから」


間に合った。


ブルー、ここで待機しててくれ。


すぐに戻る。


(了解した)


『まだ、左腕と右足が回復しきっておらん!』


どうでもいい。


それよりも、あのクソ野郎を殺す。


「レイ殿! すぐにタンカを持ってまいります!」


「お座りになって、お待ち下さい!」


「骨が……今動いてはいけませ……がっ!」


今の俺には感知できる。


敵は魔力を隠す……。


だが、その血生臭い……クソったれの魂までは隠せないんだよ。


「なっ!?」


突然、帝国の兵士を斬り捨てた俺に、周りの兵士が固まった。


それを気に留める余裕のない俺は、走り出す。


片足の骨が砕けたままだ。


そして、ダメージを回復していない俺の視界には、靄がかかっている。


だが、関係ない。


俺は死んでない! まだ戦える!



黒い魂を斬り捨てながら、俺は目的の場所へ走る。


「そんな……陛下! レイ殿が!」


「どうしたのだ?」


「乱心されました! 兵を殺しながら、こちらに向かって来ているそうです!」


「なにを……」


大きな音を立てて、玉座の間への扉が壊れる。


俺が斬った兵が、皇帝の前に転げこんだ。


兵達が俺の銃口を向ける。


「待たれよ! これは、どう言うつもりだ!」


「レイ……。どうして……」


「えっ!?」


俺が斬り倒した兵は、緑の炎に包まれ消えていく。


「さあ、次はお前だ」


「くっ……」


万全でないとは言え、俺の動きに普通の人間である、兵士は反応できない。


俺は、真っ直ぐに玉座の横に立つ、グスタフに剣を向ける。


「おおおお!」


甲高い金属のぶつった音が、玉座の間に広がっていく。


俺の剣は、グスタフの服を破り中から跳び出した、金属の触手に軌道を逸らされた。


「もう遅い! すでに、コロナ砲は手に入れた!」


うるせぇぇよ……。


クソ野郎。


「お前は、ここで終りだ!」


俺に向かってくる三本の触手。


それを、進みながら斬り捨てる。


「こ……の!」


遅い。


<サザンクロス>


俺の剣が、グスタフを名乗った敵を十字に切断する。


グスタフの体内は、すでに金属のような敵だけが詰まっていた。


生身はもう、欠片も残っていなかったらしい。


「お前も……終……り……だ」


緑の炎に包まれたそれは、塵へと変わる……。


「レイ……」


「敵を引きいれた俺のミスだ。公子は、二年前に死んでいた。気が付けなかった、俺の……」


ドロテアが、放心状態でへたり込んでいる。


変な期待をさせた俺のせい……。


また、俺の全身が脈動する。


俺の殺意に反応したらしい、体内の合成金属から、魔力が流れ出してきたのだ。


「レイ……そなた……」


「奴らは、俺が殺す……。この命に代えてもな!」


俺の体からは、大量の煙が噴き出していた。


体内の液体金属からあふれ出した魔力を使い、体が完全に回復したようだ。


「陛下! 大変です! コロナ砲が……」


外から、巨大な力を感じる。


敵が来る。


惑星をいくつも飲みこんだ、化け物が……。


勝てる可能性なんて、砂粒程度しかないだろう。


それでも、引けない。


引くわけにはいかない!


全てを極限まで高めろ。


俺自身の魂が燃え尽きるほどに。


俺はブルーの待つ格納庫へと戻る。


そこには、立ち上がれるほど回復したアルマが不安そうな顔で、待ち構えていた。


「レイ……」


アルマ……。


「俺は、もう行くよ。ありがとう」


(行こう、主よ)


いいのか?


生きて帰れるなんて、思うなよ?


(天国へ昇るなら、我の翼が必要だろう?)


いらね~よ。


勝手に天国言って、待ってるあの二人に会ってこい。


【私達が向かうのは……】


『わし等が落ちるのは……』



地獄の底だ。



****


ブルーに乗った俺は、宇宙へと飛び出した。


異空間から姿を現したそれは、巨大な金属の虫……。


それは、コロナ砲を一口に飲み込んだ。


いや、取り込んだのか……。


惑星が小さく見える。


くそでけぇ。


いったい何万キロあるんだよ。


この宇宙に散らばる黒い魂が、吸い寄せられるように、それと合流していくのを感じる。


よく見ると、虫の表面は人の顔や腕で埋め尽くされているな。


悪意は欲望の権化……。


より強い力を求めて、あれと一つになって行く。


魔力の底が分からない。


あれが……あれこそが奴らの最終形態なんだろう。


敵は、巨大な化け物だ。


さあ、殺しに行こう。



『お前が戦うと決めたのならば、わしが刃となろう』



【貴方が真っ直ぐ進むなら、盾となり全てを退けましょう】



(主に翼が無いのなら、我が代わりに飛ぼう)




行くぞ!


『うむ!』【はい!】(了解!)




剣を構えた俺は、真っ直ぐ進む。


予想通り、俺に向かって逃げ場のない程の攻撃が降り注ぐ。


それでも、俺達は真っ直ぐ進む。


フィールドを全開にした状態で……。


それでも、どんどん威力の増していく敵の攻撃に、何時までもつか分からない状態だ。


こいつに生半可な技は、つうじないだろう。


なら、俺の最高を出すまでだ。


師匠から授かった剣の神髄。


心技体全てを高めるんだ……。


集中しろ。


四つの意思を、今こそ一つに!


俺の体から立ち上る灰色のオーラは、ブルーの魔力と溶け合い……。


フィールドが青く輝く灰色へと、変化していく。


究極の魔力で展開したフィールドは、敵の攻撃を空間ごと湾曲させてかき消していく。


カシャンと音を立てて、魔剣が秘言の力なしで形を変えた。


聖剣が、一点の曇りもない意志の力により、液状化して魔剣と同化する。


二つは、一本の剣となり灰色の魔を刃として発生させた。


魔力に反応した体内の、合成液体金属[青生生魂アポイタカラ]は、肉体を極限へと導く。


さらに、ブルーの半永久光子力機関から、その魔力が余すことなく流れ込む。


それと同時に、ブルーの体がきしみ始める。


分かっていた……。


ブルーの魔力は、命そのもの。


そのすべてを俺に回せば、それは尽きる。


魔力でコントロールしていた、ブルーの外装がはがれていく。


こうなる事は、分かっていた。


全てを賭けた、究極の一撃を!


ブルーの命が、全て魔力の刃に変化した。


(行け! 主よ!)


俺が全力で踏み出すと同時に、敵の攻撃にさらされたフィールドも纏っていないブルーの機体が砕け散る。



(行ってくれ……あ……る……じ……よ)



星の直径を超えた魔力の刃は、灰色の剣身に青い光をともしている。


これが、俺達四人の魂だ!


「一撃必殺!」


光を越えた速度で、剣を振り抜く。



「ディメンションブレイカ―!!」



これが、今俺達の全て……。


全ての想いを爆発させた、極限。


巨大な魔力の刃は、虫を袈裟がけに両断し、燃え尽きるように消えた。



敵を封印していた空間ごと切り裂いたその一撃は、ブラックホールを発生させた。


「やった……」


流石に、もう空っぽだ。



あれ?


俺の体は、敵の緑ではなく、金色に輝く炎に包まれていた。


ははっ……。


梓さん……。


神様の貴方は、俺のこの最後を知っていたんですか?


確かに金色に輝いてますが……。


そのまま燃え尽きるみたいです。


ははっ……。


締まらね~な。


やってらんね~……。




天国にいる貴方には、会えないでしょうけど……。


俺……。


やれるだけやってみました。


これが、弱い俺の限界です……。


でも、頑張ってみましたよ……。


後悔はありません。


【ええ】


『そうじゃな』


ブルーは、コリンとラウラに会えたかな?


『うむ』


【もう、二人を乗せて自由な空を飛んでいるんじゃないですか】


ああ……。


そうだな……。



空間の消滅と魔力の衝突による力で、敵が巨大な爆発を起こす。


ゆっくりと流れた時間の中で、そのまま俺は……。


それに飲みこまれていく……。

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