十一話
退け!
(フォトンホーミングレーザー)!
ブルーの攻撃を受けた敵艦が、爆散する。
退けよ!
【くっ! 障壁展開します!】
退けよ! クソったれ!
迫ってきた昆虫を模した、戦艦大の敵を斬り捨てる。
くっそ! 邪魔だ!
斬り捨てた戦艦が、緑色の炎をともして燃え尽きる。
あそこだ!
(了解した!)
魔力と敵の動きを脳内で予測して、敵の包囲網に手薄な場所を見つけた。
ジジィ!
『よし!』
ブルーの突端に移動した俺は、光の大剣となった魔剣の切っ先を敵に向ける。
(左翼は局所フィールドを展開する)
【右翼側は、攻撃を障壁で逸らします! ぶつからないで下さい!】
(認識した)
「おおおおおお!」
目の前の敵を貫通しながら、右側に旋回する。
(行くぞ!)
おう!
旋回した場所にある障壁を盾と目隠しに使い、旋回しながらさらに頭上に向かって進路を変更する。
らあああ!
そして、目の前に居た虫型敵戦艦を両断した。
よし!
『気を抜くな!』
おう!
****
元母星の空で、自分を球状に作られた敵の包囲を抜けだした俺達は、宇宙君間に出て加速していく。
【来ました!】
(フォトンレーザー)
ブルーの進行方向とは逆に向いた俺は、追いついた敵を斬る。
敵もフィールドを張っているが、ブルーからの魔力で斬撃の威力が増しており、今の俺はそれをほぼ無視できる。
(フィールドを発生させると、加速に限界があるぞ!)
敵はこっちに任せろ!
行け!
<バーストスラッシュ>
後方へ、三日月状の衝撃波を乱射する。
加速タイミングが早かったお陰で、少しだけ敵よりも先行している。
間に合え!
間に合えよ! ちくしょう!
【しかし……足止めに、この大群とは……】
(元は、惑星を食らいつくほどの数だったのだ。まだ、少ないと言えるだろう)
それにしても、大部分がまだ異世界にいるはずなのに、ここで千を超えてくるなよ!
どれだけ戻ってきてるんだよ!
『戦争でのエネルギーを利用されたと、考えるべきじゃろうな』
あっちにいるのは、どんな大艦隊だよ!
『こちらの半数をきるとは考えにくいな』
てか、こっちの倍以上の可能性が高いじゃねぇぇか!
クソったれ!
自分の馬鹿さ加減が嫌になる……。
やってらんね~……。
無事でいてくれよ!
<バーストスラッシュレイン>!
間に合ってくれよ! ちくしょう!
****
俺が交戦を続けながら移動を初めて、数時間後三国連合艦隊の前に、敵の大群が姿を現した。
これは、俺の帰還への判断が敵の予想を上回ったお陰らしいが、それでもまだ帰りつくには時間が必要だ。
「第七! 第十六艦隊壊滅!」
「くう! 脱出艇は?」
「……確認出来ません。救難信号もありません」
「第二十九艦隊より救援要請!」
「第三艦隊! 残存兵力三割をきりました!」
「補給部隊を救難に回せ! 第三艦隊は第十艦隊及び、第十一艦隊と合流後、その指揮下へ!」
敵の強襲を受けた連合艦隊は、最後尾の司令官や参謀の乗る艦までもが、慌ただしく動いていた。
「大変です! 右翼の共和国艦隊が、突破されました!」
「ああ! 挟撃されています!」
「第四十二艦隊! 第四十三艦隊! 陣形内部の敵殲滅に当たれ!」
「第百五艦隊! 分艦隊を指揮して、陣形の穴をふさぐんだ!」
所属国に関係なく、提督や将軍という地位にある者の中でも特に優秀な人材達が、劣勢を緩和させる為に指示を出し続けていく。
「コロナ砲の準備はまだなのか? くぅ!」
「コロナ砲さえあれば……」
「狼狽えるな! 準備は着実に進んでいる! 今私達は、目の前の損害を減らす事に集中するんだ! 気を抜くな!」
「ガストール男爵の船が……。中……大破! 航行不能です!」
「急ぎ救命艇での脱出を!」
「あ……。反応ロスト……爆発を確認しました」
俺の選択ミスで、命が消えていく。
多くの命が、戦場で蹂躙される。
その間も、全速力で交戦しつつ移動は続けているが、それでも多くの人命が失われ続ける。
全てを守りたい……。
間に合え……。
そう考える俺のこれは、クソったれ女神が言った都合のいい願望なのだろうか?
願いなんて、クソの役にも立たない。
分かっているが、それでも俺は……。
この戦場で散って行く命は、俺が背負わないといけない罪なのだろう。
ある者は、忠義の為。
ある者は、名誉の為。
ある者は、愛の為。
その魂を戦場で散らしていく。
俺なんかが背負えるほどのだろうか?
だが、その皆の想いは背負わなければいけない。
俺がこの世に存在していい、唯一の理由なのだから……。
俺の命には、銀貨一枚ほどの価値もない。
それでも、生きるなら。
それでも、戦うなら。
それでも、前に進むなら……。
俺の存在を賭して戦おう。
俺と言う、存在全てを。
****
「分艦隊を下がらせよ!」
(入った! 入ったぞ! 主よ!)
俺を追いかけていた敵を、全て消滅させてしばらくすると、ギリギリブルーが通信を傍受できる範囲に入った。
よし! まだ生き残っててくれてるんだな!
急ごう!
(後、もう少しだ! 可能な限り、加速する!)
おう!
「コロナ砲準備完了まで、もたせるのだ! 艦内! 乗員に告げる! 非戦闘要員は、速やかに脱出艇で退艦せよ!」
ブルーが随時情報を伝達してくれているおかげで、戦場の情報が俺達にも伝わってくる。
皇帝は無事みたいだ……。
【しかし、皇帝自ら指揮を出しているとは……】
『かなり切迫しているようじゃ』
ああ!
分かってる!
「各艦隊へ告げる! 防御フィールドを最大出力で、指揮艦を最前線へ!」
なんてこった!
(各将校貴族が乗る艦が一番、防御フィールドが強いはずだ)
「整備兵等、非戦闘要員は速やかに退艦! 乗員も宇宙服を着用せよ!」
もてよ!
もう少しだけもってくれよ!
「我に続けぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺が到着するまでの数分……。
耐える事しか出来ない俺の耳に、散り行く多くの命が……声が聞こえてきた。
****
「陛下! フィールド出力三割まで低下です!」
「全乗組員に告げる! 退艦せよ!」
「駄目です! 敵の……敵の集中砲火です! きます!」
皇帝の乗る旗艦へ、エネルギー砲が一斉に放たれた。
フィールド全開だ!
(了解!)
【障壁! 展開!】
「あ……ああ……レイ」
その集中砲火をはじいた俺の目の前には、数万の大艦隊。
後ろには、円陣……いや、球陣をくんだ連合艦隊。
半数以上が……くっそ!
「レイ! よく……よく戻ってくれた」
お待たせしましたね……皇帝。
「レイ! レイ! レイ!」
社長達も……生きててくれたか。
ここで、こちらからの通信が出来ないのが痛いな。
『間者の事を伝えられんな』
でも、今は目の前の敵が先だ!
行くぞ!
『うむ!』【はい!】(了解!)
ブルーの十二ある砲門からレーザーを放ち続け、可能の限りの速度で移動を続ける。
そして、俺は魔力の刃を灯した剣で、敵を切り裂く。
ブルーに乗っての移動は、地上で俺が出せる最高速度を上回っているだろう。
それでも、敵はその速度領域へと侵入してくる。
ブルーが最新の機体ではあるだろうが、敵も過去の魔法科学で作られた機体を吸収しているのだから、当然ではある。
しかし、ブルーの魔力と、俺の戦闘技術は敵を撃破する。
「おおおお!」
脳内を殺意で満たし、戦う事に俺の全てを傾ける。
余計な事を考えれば、そこで終わってしまう。
常に降り注ぐ、数万の攻撃を掻い潜り、迫りくる数百の敵を斬り捨てる。
一秒の間に、どれほどの攻防をしているのだろう。
まともに受ければ、体が消えてしまいそうな攻撃を避け……。
敵を追撃する魔力の砲撃を浴びせ……。
巨大な虫へと変形する戦艦を、切り裂く。
『な……なんじゃ!? どうなっておる?』
【これは……】
敵を斬る為に、二本の剣に魔力の刃が灯っている。
その刃は、巨大な敵に合わせてどんどんその刃を巨大化させていた。
【魔力を、より多く循環させているようですね……】
『こんな事はありえん……』
【えっ!?】
『お前は、偽神が作りしオリハルコンの聖剣。許容量が高いか、制限がないのかも知れん。じゃが、わしは違う』
【まさか、許容量を超えている?】
『うむ! 信じられん事じゃが、わしへと流れ込む魔力が、賢者の石に蓄積可能量をゆうに超えておる』
【どういう事でしょうか】
『マイナスな事ではないが……。先日の魔力枯渇状態での力といい……。何かが起こっているかも知れん』
【何か……】
「おおおおおおおお!」
なっ!
俺の体が、大きくドクンと脈動した。
えっ!?
そんな……戦闘中に……。
(主よ!)
しまっ……。
動きが鈍った俺に向かって、敵の攻撃が迫ってくる。
「が……」
俺の脇腹をかすめた敵のエネルギー砲は、肉を溶かし、骨を削った。
左足は薄皮一枚のみで繋がり、焼け残った肝臓の半分が見えている。
くそ……。
(フィールド!)
ブルーは、急いでフィールドを展開した。
ドクンと脈動するたびに、苦痛がその強さを増していく。
こんな時に……。
「レイ! レイが!」
「おやめ下さい! 皇帝陛下!」
「皆! 急ぎ退艦せよ!」
「……いえ! お供いたします!」
「お前達……」
くそ……。
【復元しています! もう少しだけ……】
(急いでくれ! フィールドだけでは、これだけの直接攻撃を防ぎきれん!)
くそったれ……。
『しっかりせんか!』
何とか意識を保った俺は、急いで宇宙服を換装した。
え?
あ……ああああ……。
ブルーのフィールドを突き破った敵。
その敵に、皇帝の母艦が……。
特攻した。
復元!
【待って……完了です!】
馬鹿がぁぁぁぁぁぁ!
「アーデルハイトォォォォォォォ!」
敵にぶつかった皇帝の乗る戦艦の船首部分から、爆発が広がって行く。
「ぐ……がああああああああああ!」
(なっ!? 操縦が!)
俺の全身が灰色のオーラを纏い、ブルーの操縦ごと支配する。
「おおおおおおぉぉぉ!」
俺はフィールドを張ったまま、皇帝の船へと突っ込んだ。
「しっかりしろ!」
「おお……レイ。無事か?」
ブルーから離脱した俺は、倒れていた皇帝を抱き起こす。
皇て……アーデルハイトは、宇宙服の中で血を流してながら笑っていた。
馬鹿が……。
ブルー!
魔力を感知しながら、生きている乗員全てを担いで、俺はブルーの上に乗せた。
アーデルハイト自身と、皇帝の為に船に残った十三人。
なんとか皆生きているようだ。
「行け! ブルー!」
(何!? 主はどうするのだ!)
「早く行け! 退路は俺が守る!」
(しかし……)
「いいから! 行けぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
火の手の上がった艦内の、中央モニターをバキバキと食い破り姿を見せた虫型の敵が、迫ってくる。
尚も俺の体は、脈動と苦痛を強めていくが……。
歯を……食いしばる!
邪魔だ……。
痛みを……苦痛を意識の外へ追いやるんだ!
来いよ……クソ野郎!
俺は、ここだ!
かかってこい!
怒りを、怨みを、殺意を高めろ……。
命を……燃やせ!
「ぐ……があああああああああああ!」
『来た! ぐう!』
【これ……は……】
俺が、獣の様に叫ぶと同時に、全身を再びあのオーラが包んだ。
『全力……全力で、合わせるんじゃ! 余計な思考は捨て、合わせるぞ!』
【はい!】
俺は、敵に向かい走り出す。
目の前の敵を切り裂き、宇宙空間へと飛び出した。
そして、宇宙をかける。
自分の足で宇宙の魔力を蹴り、加速する。
全身から噴き出したオーラは、敵の攻撃を寄せ付けない。
敵を殺す……。
全身から噴き出す血で、目の前が徐々に赤く染まって行く。
痛みも苦しみも知った事か!
お前達のせいで死んでいった人達は、もっと苦しかったはずだ。
辛かったはずだ。
俺は、ここで足を止めるわけにはいかないんだ!
さらに全身から噴き出す量を増やしたオーラは、悪露の移動に取り残され始め、宇宙空間に尾を引いていく。
「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
全てがゆっくりと動く世界で、俺だけが加速を続ける。
心を埋め尽くす青い炎の様な殺意と、比例するように。
「陛下! 起き上がられては……」
「あれは……。まるで、流星……」
「レイ……あなたは……」
俺が通り過ぎた後、少しだけ遅れてそこにいた敵が爆散する。
まるで、思い出したかのように……。
(主よ……)
コロナ砲を使用させる前に、敵を殲滅出来た。
しかし、限界を超えた俺は……。
最後の敵艦が爆発したそれに、巻き込まれた。
そこで、ギリギリ保っていた意識が途切れる。
情けない俺のこれが限界だった様だ。
馬鹿な俺のせいで、多くの命が失われた戦場。
俺は、そこを漂う。
宇宙のゴミのように、ただ漂う。
魔力、体力、意識を失った俺は……。
全てが終わっていないのに……。
本当に情けない……。
あ~……。
やってらんね~……。




