十話
俺に向かって来ていた大きな岩が、粉々に砕ける。
おおう……。
すげぇぇな。
今の結構大きかったよな。
『うむ。これほど強力とはな……』
【敵に使われる事はあっても、使える事はなかったですからね】
お!
次のあれなんて……。
おお!
これだけ粉々になると、気持ちいいなぁ。
目の前で、フィールドにぶつかった岩が砕ける。
改めて見るとすげぇぇ。
(それは、こちらのセリフだ)
え?
何が?
(今、時速約一千万キロ……。何故、それを目で追えるのだ?)
そんな事聞かれても……。
何となく見えるんだよ。
『まあ、人間ではないからな』
ちょ!
人間です~!
(我も、馬鹿にするわけではなく、その能力は化け物じみている感じるが?)
本気で人の存在を、全否定するな!
【まあ、もう慣れましょうよ】
無理だから!
てか……。
俺への悪口が増えたのを、改めて実感するよ……。
はぁ~……。
やってらんね~……。
『しかし、この魔力推進とは凄まじい速度に達するものじゃな』
そうだよな~。
社長たちの船も、凄まじい速度だと思ったけど……。
十倍以上だもんな……。
『いくらこの世界の銀河が狭いとはいえ、このままならば本当に短時間で到着するな』
狭い?
狭いの?
『わし等の世界では、一つの銀河を抜ける為には何万年もかかると推測しておった』
マジで?
世界が変わると、色々違い過ぎて混乱しそうだ……。
【まあ、考え過ぎても仕方がありませんよ】
そうだな……。
宇宙旅行なんて、めったに出来ないんだし、楽しまないとな。
****
飽きた!
【言うと思ってました】
もう、修練も終わったし!
する事ない!
景色もほとんど変わらないし!
暇!
する事ない!
(もうすぐだ)
聞きあきた!
ふぅ~。
あ!
【なんですか?】
そう言えば、何でブルーを捜しに行くときに、敵が出てきたんだろう?
『たまたまではないか?』
その可能性もあるけど……。
なんかタイミング良過ぎじゃね?
追いかけて、ブルーの惑星まできたしな~。
『それは、撃退したからではないか?』
後、公子が襲われた時は、いきなり異空間へ取り込まれたって言ってたし……。
【それは、そうですよね】
何かひっかかるな……。
う~ん……。
なんだ?
俺は、何か見落としてるのか?
分かんね~……。
師匠なら……。
師匠なら、どうするんだろう?
俺は、俺の世界で戦った師匠を知っている。
俺のように、ただ敵を斬るだけじゃなくて、敵の目的や裏コードまで入手していた。
師匠ほどの実力があって、何故そこまでしたんだ?
そのまま敵を見つけて倒すのじゃ、駄目なのか?
『あの方は、水面下で調査しておったな……』
何故?
悪意……。
あ!
【どうしました?】
一つ気が付いた事がある。
少し話は変わるけど、悪意の倒し方なんだけどさ。
『なんじゃ?』
梓さんの世界では、悪意を倒せなかった。
でも、それ以外は完全じゃないかもしれないけど倒せてる。
【よく分かりませんが?】
魔力だよ! 魔力の量!
【あ! なるほど!】
そう、あの時俺は神を殺さない事で、魔力の補充が十分じゃなかった。
だから、コアの破壊方法が他の世界と違う。
コアを魔力の結晶みたいなもの……。
それに剣を突き刺せば、コアは結合していられない。
魔力の補充が十分じゃなかった俺は、自然に魔力を抑えて突き刺してコアを拡散させていただけだ。
それで、魔力の爆発もほとんど起きなかった。
それは、悪意にもダメージを与えられていなかったって事だ。
そうだよ!
十分な魔力で攻撃すれば、悪意は消滅させられるんだ!
『うむ。確定ではないが、可能性は高いのぅ』
なら、奴らを完全に殺す事も可能なんだよ。
逆に、魔力以外だと殺せないだ。
【その決め付けは、よくないのでは?】
ああ……。
そうだよな……。
でも、魔力なら奴らを殺せる可能性が高いって事だよな。
『そうじゃな』
少しだけ、光明が見えた。
やる事もない俺は、ブルーの上に座ったまま、悪意について色々な推論をぶつけ合う。
****
(到着だ)
これが、母星……。
【完全に星が死んでますね】
言ってた、観測所の場所は正確に分かるんだよな?
(ああ。これから、星に着陸する。備えてくれ)
ばちこい!
お!
お……おおぅ……・
なあ、ジジィ?
『なんじゃ?』
大気圏突入、前はあれだけ死ぬかとと思ったけど……。
強力なフィールがあると、こんなもんなんだな。
『そうじゃな。苦にもならん』
(これでも、重力までは完全に遮断できないのだがな……)
たかだか、数倍のGだろ?
へでもない。
腕を組んだまま大気圏を抜けた俺は、そのまま目的の場所へ向かう。
そこは、生命が息絶えている死の惑星になっていた。
砂漠と荒野以外に、人間が作ったらしい建物跡が、点在しているくらいだが……。
それも、風化してボロボロだ。
これ、観測所も駄目なんじゃないの?
(あれだ)
えっ!?
嘘……。
【ほぼ完ぺきな状態で残っていますね】
どうなってるの?
あ……。
魔力だ。
(あの建物には、当時の最高技術が使われていた)
え?
魔法科学の?
(そうだ)
もしかして、お前の半永久光子力機関と同じ物が?
(ああ)
この星の止めは、間違いなくあの建物がさしたな。
『そうじゃろうな』
****
建物の周りには、結界があった。
ブルーが着陸し、俺が入口らしき場所に近づくと、それに自動で穴が発生した。
すごいなこれは……。
あ!
ブルー?
(なんだ?)
俺の視角情報は、お前に流れるのか?
(いや、可能なのは会話だけだ)
じゃあ、中の状況を念話で伝えろと?
(その必要はない)
ブルーのコックピットが開き、中から何かが飛び出してきた。
空飛ぶビデオカメラ?
(それで、情報を発信し本体が受け取る)
なるほどね……。
じゃあ、まあ。行きますか。
不思議な金属でできた建物内も、かなり綺麗に残っている。
もちろん、紙等は風化寸前だったりするけど……。
この金属って、ミスリルなのか?
『いや……。初めて見るな』
ふ~ん……。
オリハルコンでもないし……。
(主よ。その部屋だ)
巨大なモニターと、複数の計器がついた机がたくさんある部屋に入った。
(操作は、我が指示させてもらう)
おう。
さて、動……いた!
凄いな……。
一番手前にあった机の、真っ暗になっていた画面を触ると情報が表示された。
(馬鹿な……)
ん?
何が?
(既に起動している)
え?
そうなの?
点けっ放しで、出て行ったんじゃないの?
(それはないはずなのだが……)
まあ、いいじゃん……。
あれ?
この画面……。
(そこだ。その上から三番目、左から十五番目のボタンを押せ)
部屋の奥にある、巨大モニターが表示された。
なんだよこれ……。
おい! これって!
(異空間との穴をあける方法と、それに必要なエネルギーが計算された後だ……)
奴ら、自力でこっちに戻ってきたんじゃない。
誰かが、戻しやがったんだ!
くっそ!
(今から、言う通りに操作してくれ!)
分かった!
ブルーの指示通り操作をする。
そして、表示されたのは、この部屋の使用履歴。
(我は、軍に所属している事になっていた。故に、パスワードも持っている)
ね……年号が分からん。
これ、いつの情報?
(我の体内時計で確認すると……約二年半前だ)
誰だよ!
これを調べた奴が、黒幕確定じゃねぇぇか!
(よし! 転送完了だ。アーカイブから、その日のこの部屋の映像をとりだした)
えっと……。
これをOKすればいいのか?
(ああ)
大きなモニターに、二年半前の映像が映し出された。
そこには、メタルゾンビに似た気持ちの悪い男が映し出される。
「げへっ……げへっ……。ついにたどり着いた」
うん?
こいつ喋れるのか?
「これで、全てが取り戻せる。そして、全てを手に入れられる! げっげっげっ!」
男は、今俺の触っている装置を操作しながら、気持ち悪く笑っていた。
こいつ、知恵がある……。
「これで! 金が! 女が! 男が! 権力が手に入る!」
え?
このキモいの両刀?
「二千年! 二千年で、やっと……」
『もしや、敵の残党か?』
「全てだ! この世界の全てを手に入れる! 俺達が! 私が! 俺が! 思うままだ!」
聞いたか?
【はい……。声質が明らかに変わりましたね。少なくても三種類以上……】
悪意……。
もしかして、悪意って複数意識の集合体か?
『そう考えるのが、正しいじゃろうな』
あ!
こいつ、指が多い!
それに、足も三本生えてるぞ!
これって……もしかして。
ブルー!
(なんだ?)
世界が滅びる前って、敵を攻撃する戦艦は魔……光子力だけを使って攻撃を?
(いや。光子力が主要武器だが、それ以外にも反物質を使った兵器等も使用していた)
それだ!
【どう言う事です?】
こいつは、二千年前の残党なんだよ!
多分、通常兵器でコアを壊しきれなかった奴らが集まったんだ。
ほとんどが、異世界に送られたけど、中途半端に破壊されたこいつ等が寄り集まってこうなったんだよ! 多分!
【なるほど、複数意識ですか……】
『この異空間……。あの方が作られた様な、狭間のさらに隙間に偶々できた空間のようじゃな』
穴の広げ方は……。
これだと、かなりエネルギーが必要みたいだな。
でも、不可能じゃない。
【確かに、魔力以外でも可能のようですね】
でも、魔力以外だとかなりの力が……。
離れた銀河で、ブルーを使って穴をあけて倒すのがいいのか?
(完全に破壊が可能であれば、それがいいだろうな)
しかし……。
このキモイのは、どっからこんなエネルギーを……。
うん!?
魔力!
(主よ! 敵の襲来だ!)
****
急いで外に出た俺は、敵の艦隊を目撃した。
俺が空を見上げると、敵艦ではないらしい輸送船が攻撃されている。
うん?
魔力を感じない、目の前に墜落したその輸送船から……。
気配がする……。
中に人がいるのか!?
くっそ! ブルー!
迎撃頼む!
こっちは、人命救助してから、戦う!
(了解した!)
「うわああああ!」
ドアを蹴破って入った輸送船内では、金属の虫に銃を乱射するおっさん。
多分、それじゃ死なない。
俺は、銃弾を躱して虫を斬り捨てた。
もちろん、魔力もちゃんと込めている。
「た……助かった」
この宇宙船、もう飛べそうにないな……。
「おい! おっさん一人か?」
「あ……ああ! 助かった! ありがとう!」
半泣きになっているおっさんが、頭を下げてきた。
「取り敢えず、外に出ろ。まだ、あの虫がいるかもしれん」
「わかった」
迎えを来させるようにしないと、ブルーには乗れないしな……。
俺は出口へ向かう為に、おっさんへ背を向ける。
その瞬間、突然魔力が背後から出現した。
なっ!?
魔力を感知した俺は、反射的に剣を振るった。
「ぐがああああ!」
メタルゾンビのように変化したおっさんの腕を、俺は斬り落としていた。
コア!?
こいつ……。
敵!
「はぁ!」
俺は、そのままおっさんを斬り捨てた……。
くそっ! 芝居だったのかよ!
あれ? 敵は魔力を隠せる……。
あ……。
――巧妙に、人の心のすき間に入り込む――
俺は、師匠の言葉を思い出した。
その事で、俺の中にあった疑問が連鎖的に繋がって、答えを出していく。
敵は俺がこの星へ来るのを、知っていた。
そうでなければ、こんな罠は仕掛けられない。
となると……。
最悪だ……。
くそっ! そうだよ!
敵は、巧妙……知恵があるんだ!
それも、巧妙に罠をはり計略を巡らせるほどの!
――あの宇宙空間で足場にした白い円も超能力なのかい? ――
俺が、障壁を使ったのはグスタフを助けた時と、ブルーの惑星で戦った時の二回。
一回目は百パー無理だし、二回目は操縦していたハンスが見ていないのだから、奴には無理なはずなんだ!
もちろん、連合の艦隊無力化になんて、使う必要すらなかった。
知ってるはずがないんだ……。
『敵は、戦艦すら侵食する……』
あんな金属の箱なんかじゃ、防げるはず無いんだ!
やられた……。
くそったれ!
狙いは……。
【コロナ砲……。あれならば、異空間への扉を開けます!】
俺達の船を襲ったのは、たまたまかもしれないが……。
俺とブルーが潰せなかった場合に備えて、公子の死体を利用しやがったんだ!
くっそ!
魔力が感知できないって、何だよ!
『戦争を引き起こし、コロナ砲を引っ張り出した』
この宇宙服の改造と、スペア用意が早かったのも、俺達を遠ざけたかったんだ!
異空間から本体を呼べば、俺達を倒せるって事かよ。
くっそ!
【そう言えば、皇帝がのる輸送船を襲われた時には、グスタフさんは連合の輸送船へ乗り換えていましたね……】
俺は、まんまとはめられたのかよ。
これが、師匠がひそかに動く理由か!
俺は、馬鹿だ!
『コロナ砲の準備は、整ったと言っておったな……』
まずい!
急いで戻らないと!
クソったれ!
って……。
おいおいおい……。
輸送船から出た俺は、空一面の敵艦隊を見た。
確か、敵も魔力推進を使うから、ブルーと同等の速度が出るって言ってたし……。
最悪だ!
空を蹴り、ブルーと合流した俺は、星から離脱しつつ敵を倒す。
その間に、俺の考えた推測をブルーに伝えた。
クソったれ! クソったれ! クソったれ!
俺は、とことん選択を間違える!
勘弁してくれよ!
本当に……。
やってらんね~……。




