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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十章:銀河と相棒編
22/77

九話

(主よ……。その姿は……)


ははっ。


ちょっと今回は無茶し過ぎた。


(そんなレベルでは……)


大丈夫、大丈夫。


もう、普通に動けるから。


(しかし、足元が覚束ないようだが?)


ああ……。


魔力……光子力が無くなっちまった。


悪いが、ちょっと分けてくれ。


(分かった……)


俺は、近くの柵を使い、ブルーの上へよじ登った。


情けない……。


たかだか、三メートル程度がでかい絶壁に感じる。


「はぁ……はぁ……」


本当に情けない……。


あ~あ。


やってらんね~……。


『魔力を補充する』


ブルーの上で、仰向けになり動けない……。


俺は、合成魔力を使ったのか?


【後遺症の症状は、それと近いですが……。魔力とは違うように感じます】


まあ、後で考えよう……。


今は疲れた……。


(後遺症? どう言う事だ?)


力の代償……。


いや、俺の……俺……への……ば……つ……。


疲弊した俺は、そのまま深い眠りへと落ちていく。


****


『これは……』


【やはり、ストレスが激しいのでしょうね】


真っ暗な空間に、人の姿になった二本の特別な剣が浮かんでいる。


なんだこれ?


【え?】


あれ~?


俺って、ブルーの上に居たんじゃなかったっけ?


【これはいったい……】


『仕組みは分からんが、この状態も初めてではない。目覚めて、この記憶が有るか無いかは半々じゃがな』


何が?


【そうなんですか……】


だから、何が?


うん?


あれは……子供?


てか! あれ!?


周りの景色が、あれ? 何ここ!?


真っ暗だった周囲が、いつの間にか明るくなっており、俺達は砂漠の上空に浮いていた。


【森の奥に砂漠が見えますね……】


オアシス……か?


それとも、砂漠と森の境界点?


『お前の記憶ではないのか?』


見た事ない……。


てか、この植物……何か変じゃね?


【シダ科? 少し原始的な植物ですよ。私達の世界に、今でも似た植物はあります】


知らね。


『お前の記憶ではないのか……』


うお! 吸い寄せられる!


森に囲まれた湖の近くにまで、俺達は意思に関係なく移動する。


そこで、二人の子供を見た。


「ねえ? ブルー?」


え? あれはブルー?


子供の視線を追った俺達は、湖のほとりにブルーの姿を見た。


俺達の事は見えていないのか?


【もしかして、ブルー殿の記憶ではないでしょうか?】


『そう考えるのが自然じゃな』


十歳くらいかな?


【多分】


男と女のガキが湖で遊んでいる。


「まだいいでしょ?」


(ああ。我の力ならば、短時間で帰還可能だ)


「流石ブルー!」


「コリン!」


「えっ? うわ!」


「あははっ!」


コリンと呼ばれた男のガキが、顔を水の中に沈められて騒いでいる。


「あはははっ!」


「ラウラ! この!」


二人は、そのまま湖で鬼ごっこ……。


【微笑ましい光景ですね】


ガキでも死ね! カップル滅亡しろ!


【ええ~】


『腐っとるな』


ガサッと茂みが、大きく動き……。


うん?


うお! モンスター!?


「うわぁぁぁぁ!」


(敵、捕捉!)


おお。


茂みから現れた、虎なんだかサルなんだか分からないモンスターらしきそれを、ブルーはレーザーで焼き払う。


「凄い! ブルー最強!」


「ブルー格好いい!」


(お前達は、我が守護する)


ふ~ん……。


あの、遺跡があった惑星の記憶かな?


『そうじゃろうな』


****


その映像は、移り変わっていく。


あの惑星が、魔法を捨てられなかった理由もよく分かる。


確かに、水も空気もある。


しかし、土地の八割近くが砂漠……。


昼間は五十度を超え、夜間はマイナス二十度……。


そんな中で、緑がある場所は生物の戦場だった。


生命力が強く、環境への適応も出来、何より強い生物だけが生き残る。


雑食性の動物がほとんどで、草食肉食に偏れば生き残れない。


俺が、モンスターだと思った生物は、この星の獣だった。


魔力の感知は出来ないけど、下手するとCやBランクモンスター並みじゃなかな?


ただの人間に、そんな化け物共を狩る事は難しい。


砂漠に適応した弱い生物を捕獲し、砂漠の地下に住居を構えて暮らす。


雨水を溜めているが、どうしても水が足りない場合は、オアシスへと出向く。


主戦力は、ブルーのみ。


今ほど魔力が強くないが、それでも人々はブルーに頼るしかなかったようだ。


勿論、過酷な状況の中で、ブルーが守りきれない人が死んでいく。


オアシス以外の場所でも、砂漠で化け物に襲われる人も多い……。


『地獄じゃな』


いろいろ世界を回ったけど、これはかなり酷いな。


【魔法があっても、これでは……】


この星に、ネオヒューマンが来なかったのも、運が悪かったって事か。


そんな中、ブルーはコリンとラウラと言うガキと親交を深めていく。


この星で生まれた、二つの命。


環境や、栄養失調のせいか、二人以外の子供は生まれていない。


製造されて間もないブルーは、その二人の友であり、兄弟だった。


一緒に、喜び、怒り、悲しみ、笑っていた。


コリンとラウラ……。


同世代がいない二人は、自然に惹かれあう。


二人から別々に相談を受けたブルーは、親身……兄弟として相談にのり、お互いの秘密を守る。


「ブルー……俺、明日ラウラに告白しようと思うんだ」


(そうか……上手くいく事を祈ろう)


…………。


「ブルー! 聞いて! 私……コリンに告白されたの!」


(そうか……返事はしたのか?)


「うん……。結婚式では、挨拶を頼もうかな!」


(無理を言うな。……おめでとう)


****


【なんて事だ……】


『惨いな……』


ああ……世界は残酷だ。


二人の結婚式前日、男達はブルーと共にオアシスへ、食材と水を求めて向かう。


帰宅したブルー達が見たのは、地下に居住スペースとして沈めた宇宙船の、隔壁を食い破って侵入した虫……。


三メートルの羽が生えていないカミキリムシのようなそれは、大群で押し寄せ人を襲った。


その虫を撃退したコリンとブルーは……。


真っ赤な水たまりの中に、ウエディングブーケを被ったラウラを見た。


首だけになったラウラの頬には、涙のあとが残っていた。


俺は首を抱き、叫び続けるコリンを見ながら顔をしかめる。


俺の胸の奥が……チクリと痛みを訴える。


この悲劇は……。


いや、それ以外の悲劇も含め、この世界に悪意さえいなければ……。


****


コリンは、女性のいなくなった滅んでいく惑星で、指導者となり……。


少ない金属と、ブルーのレーザーで切り出した岩を使い、俺達の行った遺跡を作る。


こんな悲劇が二度とおこらないように……。


遺跡への道しるべ……。


あれは、コリンの魂そのものなんだ……。


コリン五十三歳……。


あの惑星では長生きだろうな……。


一番若かったコリンは、既にブルーと二人きりになって二十年が経過していた。


「ブルー……。俺も、ここまでだ」


(コリンよ! 起き上がるな!)


「いいんだ……。俺には、最後の仕事が残っている」


一日のほとんどをベッドで過ごすコリンは、最後の力を振り絞り……。


自分の命を魔力に代えて、ブルーを封印する。


ブルーの格納庫である遺跡が、閉まり始めた。


「ブルー……。こんな苦労をかける俺を、恨んでくれていい」


(分かっている! 分かっている……)


「でも、もうこんな悲劇を繰り返さない様に……どうか……どうか……」


(任せてくれ! 我は必ず!)


「ありがとう……兄ちゃん」


(ああ……我も後から行こう……天国とやらへ。ラウラと共に、待っていてくれ)


「ああ……」


ブルーの姿を隠す岩の扉……。


それが、締まりきる前に魔力が尽きたコリンが倒れこむ……。


「ラ……ウラ……」


そこで、景色が真っ暗になる……。


****


はぁ~……。


これで、何が何でもやるしかなくなったよ。


(主よ……)


まあ、どの道倒す予定だったし、一緒だけどね。


(契約……我の力を貸そう。いや! 全てを捧げよう! だから……)


戦うっつってるでしょうが~。


(主よ。生還できる確率は……)


ゼロか?


(いや……しかし……)


じゃあ、やるってば。


一分でも一厘でもいいよ。


ゼロじゃないんだろ?


(主よ!)


命くらいかけてやる……。


もし、ここで命が消えるなら、俺はそこまでなんだろうよ。


でも……。


死ぬなら奴らも道連れだ。


心臓が潰されて、脳が吹き飛んで、命が消えても……。


魂で殺してやるよ、奴ら全員をな!


『まあ、そう言う事じゃ』


【頑張って行きましょう】


(何故だ?)


あ?


頼んだのお前だろうが。


(すまないとは思うし、嘘ではないと感じている、しかし、異世界の人間である主達が、何故それほど……)


『なんじゃ? まさか、我らが命をかけるのが不服か?』


(違う! しかし……)


【私達が過去に命をかけたのが、百や二百だと思っていませんか?】


(百!? そ……それは……)


ええい! もう!


面倒くさい奴だ!


素直に、ありがとうで済むのに!


特別だからな!


俺は、念話を使う……。


そして、俺の戦いを見せた……。


念話って、便利だね。


どう? わかった?


お前の敵は、俺の敵なの!


殺すの!


(理解した……。改めて頼もう! 異世界の最強よ! 我と共に……)


分かったつってるでしょうが!


(いや……あの……)


しつこい!


『こいつは、こんな奴じゃ。慣れろ』


【慣れないと、頭がおかしくなりますからね~】


(ああ……)


まあ、あれだ!


ここから解放しろ!


普通に眠らせろ! 疲れてるから!


(了解した)


後、敵が来たら教えてくれ。


すぐに起きるよ……。


ただ、少しだけ……。


****


「何と言う事だ……」


この会話の意味を、馬鹿な俺は理解していなかった。


俺の念話は、特定の相手にしか伝わらない。


しかし、ブルーの接続は近くに居る人間全てに伝わる。


コリンとラウラ、二人とブルーは同時に会話していた事に、俺は気がつかない。


皇帝、侯爵、アルマ……。


俺を心配したこの三人に、全て伝わっているなんて考えもしなかった。


****


「ん……ふぃ~……。敵は?」


(出現していない)


うお! 服の血が乾いてバリバリのベタベタだよ……。


シャワー浴びて、服を着替えよう。


(体は?)


うん。問題ない。


血と寝汗で気持ち悪いけどね~。


うん?


「おお! 目が覚めたか!」


何? 皇帝?


何してるの?


てか、笑顔?


え? 何?


「そなたは、なかなかの大食漢と聞いているのでな。これを用意した」


格納庫の明りが点くと、豪華な料理が並べられていた。


何?


報酬?


『パ……パンじゃ!』


「さあ、遠慮は無用だ」


皇帝? キャラ変わってない?


それより。


「ちょっと、シャワー浴びて着替えを……」


「抜かりない。こちらに用意しておる」


おおぅ?


簡易シャワーらしきものと、着替えが大量に……。


何?


なんか怖いんですけど!


【まあ、ここは甘えてもいいのでは?】


「じゃあ……」


俺は、シャワーを浴びて、自分で選んだ服を着る。


なんだ?


なんか怖い……。


何か騙そうとしてる?


【貴方は、もう少し他人の好意を素直に受けるべきでは?】


『早くせんか! パン! パン! パン!』


五月蝿いよ!


「どうじゃ?」


「はぁ……美味しいです」


「そうか! どんどん、食べよ!」


騙されるんじゃね?


「そう言えば、その服はどうじゃ?」


え?


「あ……いい感じです」


「そうか! それは、特殊な素材で強度が高いのだ!」


てか……。


そんなにジッと見られてると、食べにくいんだけど……。


何が楽しいのか、皇帝は俺の食事風景を、テーブルに両肘をつけて頬杖で見ている。


笑顔で……。


こ……怖い! 騙される!


美人の笑顔は、好きだけど!


きっと騙される!


【被害妄想ですよ。きっと、戦いを労ってくれてるんですって】


『そうじゃ! それよりも……次のパンじゃ!』


ちょ! 五月蝿い! イースト菌中毒!


食べるから、黙ってろ!


「お姉様! グスタフから……。あっ! レイ様!」


様?


「あの……侯爵? 様って……」


さっきまでさんだったじゃん。


「命の恩人へ、敬意を払うのは当然です」


ああ!


そう言う事だったのね。


ふぅ~……。


これで、安心して食える。


【美味しいですね……。パスタはありませんが……】


この世界に無いんじゃね?


しかし、格納庫以外で食べたかったな。


【確かに、すこし殺風景ですよね】


いや、ブルーと……。


(なんだ?)


ブルーと距離を置けば、会話に割り込めなくなるから……。


(なんだ!? 我は、邪魔だと!?)


え~……。


頭の中に、三人いるって結構ですよ!


俺のプライベートが無いんですよ!


少し、静かになりたいときもあるんですよ!


(……先程見た主とは、別人のようだな)


【慣れて下さい……。何回も言いますが、何時もこんな感じです】


そうだ! 慣れろ!


(この……)


『パァァァァァァァァン! 手を止めるなぁぁ!』


はいはい。


「で? ドロテア? 何か?」


「グスタフから、公国側の了解を得たと通信が入りました」


「そうか。何よりだ」


あれ?


皇帝?


ドロテアと喋るときは、元に戻るんだ……。


****


食事を済ませた俺は、再び皇帝侯爵と会談の場へ向かう。


「待っていたよ」


公国側の輸送船で向こうに行っていたグスタフが、笑顔で出迎えてくれた。


そして、公国側とは、すんなり休戦が決まった。


やるね~、グスタフ。


「我らは、納得がいかんな。これだけの被害を受けて、はいそうですかと、帰る事は出来ん」


案の定というか、共和国がごねはじめる。


まあ、予想はしてたけど……。


『戦死者の遺族への慰謝料を払い、共和国側へ一部領土を譲渡するか……』


帝国も被害者だっつてるのに……。


滅ぼすぞ、コラ。


「それは受け入れられない。わが帝国も、長引く戦で財政が切迫している」


「ならば、我ら共和国は一兵卒になるまで、戦い続ける事を……え?」


おおぅ!


【凄い方です】


皇帝が、頭を机に擦りつけていた。


皇帝が頭を下げる。


この場で、それがどれほどの意味があるかは、推して知るべし……。


『並みの器量で、出来る事ではないな』


「もし必要であれば、この皇帝……アーデルハイト:ガリア:バウムガルトの首を差し出そう!」


この言葉と、強い意志を表す瞳で、会談は終了した。


アーデルハイト閣下の圧勝~。


(あの娘……なかなかの傑物だったか)


そうらしい。


「じゃあ、これを!」


俺は、グスタフから受け取った宇宙服を確認する。


酸素ボンベを通常の二倍セットできる上に、着用中でも交換可能にして貰った。


これがあれば、大丈夫だな。


****


帝国の旗艦へ戻った俺は、両生る……ハンスから端末の接続端子を受け取る。


「これが、ステーションのデータゲロ」


「分かった」


分かる?


(ああ。今コピーしている)


「やっぱり……私達も付いて行った方が……」


アルマ……。


「大丈夫。それに、ブルーだけの方が速いから……。多分、すぐに戻って来れるはずだよ」


それよりも……。


「俺は、こっちの方が心配なんだけど……」


「任せてくれ。僕等公国もそうだし、共和国側の船団も協力してくれる」


俺は色々考えて、嘗ての母星へ敵の情報を確認する事に決めた。


俺がいない間は、三国合同艦隊がこの銀河の護衛をする事になっている。


「任せておけ。それに、公国と共和国の強力でコロナ砲も準備が整っておる」


『あれならば、敵に対抗可能じゃろうな』


皇帝……。


やっぱ笑うとかわいいな~。


【今、そこですか!?】


(主よ……。下心は……)


『無駄じゃ。この馬鹿は煩悩の権化。死んでも治らん!』


言いきるな!


分かってるよ!


ちょっとじゃん!


そして、俺は母星へと向かう。


但し、この事も俺が選択した事……。


馬鹿な俺が選択した事だ。


はぁ~……。


やってらんね~……。

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