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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第九章:異世界と狭間編
2/77

二話

うん、うん。


そうか、そうか。


ああ、そうですか。


なるほど、なるほど。


幸せって奴ですか~。


いいな~。


羨ましいな~。


あ~あ……死んでしまえ。


『物騒極まりないな、犯罪者』


まだ、何もしてません!


失礼な!


世の道理とは、疑わしきは罰せずですよ。


まだ何もしてません!


『自分は、疑わしければ暴力に訴えるくせしおって』


話しをすり替えるな。


今は、目の前のこいつを殴りたい。


ただ、それだけだ。


【自分のお弟子さんに対して抱く感情としては、不適切だと思いますが?】


だって!


こいつ俺の目の前で!


【暖かく見守ってあげましょうよ】


イチャイチャ、イチャイチャと!


彼女いる奴なんて、みんな絶滅すればいいんだぁぁぁぁぁ!


【その他人に対しての、妬みや嫉みはどうにか出来ないものですか?】


『性根が面白いほど、歪んどる』


【一度は、覚った感じになってたのに……】


『根本が……。いや、存在自体がどうしようもないんじゃろう』


【残念な人だ】


俺の全人格を否定するのやめて下さい!


『人の話はよく聞かんか! そんな事は言っておらん!』


えっ?


あれ?


悪口じゃないの? あれ?


『人格だけではなく、存在そのものを否定しとるんじゃ!』


いや……うん。


あのね……。


最上級の悪口じゃねぇぇぇぇぇか!


どっちが折れるまで、魔剣で聖剣を殴り続けるぞ! コラ!


「あの……師匠」


「はい?」


「少し、休憩を……。ミュンも限界みたいですし」


「ああ、そうですね。では、五分ほど休みましょう」


彼女か!


彼女がそんなに大事なのか!


言ってみろ!


【外と内が、完全に別人じゃないですか】


だって~……。


一緒の時間が欲しいんだか、知らないんだけどさ。


普通、彼女にも訓練をつけて欲しいなんて言う?


有り得な~い。


『それでも、お前は腹黒すぎる』


黙ってろ。


「あの……シモンズさん?」


「なんですか~?」


「私も……御師匠様と呼んでもいいですか?」


ミュンちゃんが顔を赤らめて……。


こんなに可愛い彼女が出来た、アルトくんが憎い。


「それは、勘弁して下さい」


「師匠は、恥ずかしいんだってさ」


憎い。


「そっか……。でも、シモンズさんは本当に冒険者じゃないんですか?」


憎い。


「只の用務員ですよ~っと」


「学園の先生方よりも、お強いのではないでしょうか?」


憎い。


「確かに、俺達二人の打ち込みを片手でよそ見しながら捌くなんて、無理だと思いますよ?師匠」


やっぱり! 事故に見せかけて一回殴る!


【やめて下さい。物騒な】


『その心持では、一生あのお方には追いつけんぞ? 心狭男』


変なあだ名、やめてくださ~い!


「前にも言ったけど、詮索は無しでお願いしますよ~っと」


実際には、手を出してないんだぞ!


俺の心は海より広いわ!


【その海は、きっとペットボトルの蓋より小さいでしょうね】


ええ~。


「では、休憩終りです」


「「はい!」」


『裏と表をそれだけコロコロと……。疲れんのか?』


なれてますんで。


しかし……。


ミュンちゃんも、才能があるよな。


『お前の幼馴染より……一枚上と言ったところか?』


リリーナお嬢様も、才女だったんだけどな~。


世界は広いね。


【実際に、世界をいくつも飛び越えてますからね】


****


夏休みが始まって一週間目……。


何時も通り、夕方までガキ共に付き合った。


「じゃあ、七時からでいいかな?」


「うん」


校門から閉めだした、二人の会話が気になり聞いてみる事にした。


大人の階段はまだ早い!


だって!


俺がまだだから!


返ってきた返事は……。


「師匠は行かないんですか? 夏祭り」


「夏祭り?」


「はい。この付近で一番大きな祭りなんですよ? ご存じないですか?」


存じないから、聞いてるんだがな。


こうして俺は、二人から夏祭りの開催場所を聞いた。


夏祭りに、幼馴染の彼女とデートか。


爆発しないかな? こいつ。


【全く……自分も誰かと行けばいいじゃないですか】


なるほど!


夏祭りと言えば……イベントか!


フラグを回収した、好感度が一番高い女性と!


え? あの……あれ?


誰と?


フラグ回収出来てねぇぇぇぇぇ!


【ルーシーさんか、アイナさんがいるじゃないですか】


先日俺を不審者登録した人と、クソビッチ……。


出来るか! ボケ!


後……女性キャラ……。


【理事長と、購買のおばさんくらいですかねぇ】


ババァしかいねぇぇぇぇぇぇぇl!


かわいい学生に、声でもかけとくんだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


やってまったぁぁぁぁぁぁぁ!


【いや……あの……ルーシーさんとアイナさんは……】


『若造!』


【なんですか?】


『無駄な事は、疲れるだけじゃ。諦めも時には必要じゃろう』


【楽しんでませんか? 賢者様?】


あああああああ!


お酒ぇぇぇぇぇぇ!


度数の高い、お酒をくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!


『どの道この馬鹿は、話など聞く気はないじゃろう』


はぁ。


やってらんね~……。


****


『などと言う……』


【事を散々言ってたのに……】


はい。


しっかり祭りに来ましたけど、何か?


『お前は、自分の発言にもう少し責任を持つべきじゃ』


責任なんてクソ食らえ!


『この、駄目な大人代表め』


仕方ないじゃん!


ババァに頼まれたんだから!


【確か、他の教員の方も見回ってるんですよね?】


そうだよ!


てか、お前等も聞いてただろうが!


暇なら、見回りしろって言われたじゃん!


『祭りで使う、小遣いを見返りにな。このガキが!』


報酬ぐらい貰ってもいいじゃん!


世の中、タダってのは怖いんだよ?


【まあ、いいじゃないですか。しかし、本当に大きなお祭りですね】


露店がズラッと並んでる。


なんか、後で花火も上がるって言ってたよな?


【なんの祝いでしょうかね?】


さあ?


この先に、神様祀った建物があるらしいけど……。


【夏ですから、収穫祭と言うわけではないですよね?】


何でも、いいんじゃね?


『お前等……』


あの、あれでいいよ。


【あれ?】


神様の誕生日。


うん! それで行こう。


【まあ、そうですね】


『最近の若い者は、神事を何だと思っとるんじゃ!』


あっ!


次は、あれ買ってみるか。


『神へ日頃の恩恵を……』


うっめっ!


何か、よく分からん生物の丸焼!


これ美味い!


『そもそも宗教に対する考えの……』


【もう少し、辛みがあった方が……】


そうか?


甘さと、辛さの配分はこれでいいと思うけどな。


『そして、祭りとは元々……』


次は、あれにするか?


【見た目として、食べ物が青い色と言うのは、どうなんでしょうか?】


清涼感を出す為じゃね?


暑いし。


【まあ、味には関係ないでしょうね】


『確かに、神に会える機会は多くは無い……』


【あの……これ食べられるんでしょうか?】


気持ちが悪いくらい赤いな……。


『若い者は、そもそもの意味を忘れ……』


熱い!


美味いけど熱い!


【でも、美味しいですよ】


お前は、痛覚ないからじゃんか!


口の中、火傷した……。


何か、口内の上の方の皮がベロンと……。


『無視するなぁぁぁぁぁぁぁ!』


いや、もういいよ。


どうせ、俺達には関係ない世界の神じゃん。


【そうですよ。折角、色々味わえるんですから……】


『もう、ええわい……』


拗ねるなジジィ。キモイから。


『おまっ!』


****


「シモンズさん!」


ああ?


振り返ると……。


おおお!


ルーシー先生!


何時もと違う……。


【この世界の民族衣装でしょうか?】


かわいい!


ああああ……。


何故俺は、この美人に嫌われたんだ……。


『ふん! 自業自得じゃ!』


あああああ!


【こんな場面で仕返ししないでください……】


「どうですか? 今日は、浴衣を着てみたんですが……」


「よくお似合いですね」


目の前でほほ笑んでくれているこの人も、何時か誰かのものに……。


ルーシー先生の、未来の彼氏ぃぃぃぃぃ!


死んでしまえぇぇぇぇぇ!


【それは、場合によっては自殺宣言ですよ?】


何が?


【……何でもないです】


「あの……もしよければ、ご一緒に……」


あれ?


あれ? あれ?


もしかして、まだ脈が……。


「見回りしませんか? 生徒達の」


なかったぁぁぁぁぁぁぁ!


仕事ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


ここまで来ると美人局つつもたせ


【違うと思うんですが……】


「あの……シモンズさん?」


「ああ……そうですね。回りましょうか」


****


なんだろう?


美人と歩いてるのに……。


楽しく無~いぃ!


さっきから、露店で買い物がし辛くなったし、先生からの話題は生徒共を指差して確認するだけって!


全……然! 楽しくない!


『この娘も、そっちは疎いのかのぉ?』


そっち?


って、どっち?


【そのようですね】


『馬鹿に、空気や雰囲気を察知すると言うのは無理じゃろうし』


【すごく嫌な平行線ですね】


何が嫌なの?


てか、今俺の事馬鹿って言ってなかった?


『気のせいじゃ』


おおぅ?


「あっ! あそこのグループは私のクラスの生徒で……」


おおおぅ?


「シモンズさん?」


学生らしきカップルが……林の中に入って行きやがった!


けしからん!


けしからんですよ! これは!


【目敏い……】


「あれは……確かうちの生徒ですね……」


「ルーシー先生!」


「はい!?」


「不純異性交遊は……注意してきます!」


「えっ……あの……多少くらいは……」


もちろん、俺はルーシー先生の制止を無視して林の中へ。


『覗く気じゃ』


【覗く気ですね】


違う!


これも仕事です!


キスから先に進むようなら……。


ガン見します!


【『変態』】


こんなチャンス誰が逃すか!


【生徒さんですよ?】


知った事か!


茂みから、気配を消して二人の生徒を覗く……。


手を繋いで、前を歩いていた男が振り返り……。


女の肩を抱き……。


「僕と付き合って下さい!」


あ……あれ?


どうやら、OKを出したらしい女性と笑いあって林を出て行った。


こっ……告白だけかよ!


もっと頑張れよ!


なんだよそれ!?


「あの二人、上手くいくといいですね」


「そうです……えっ?」


うおおお!


隣には気が使いない間に、ルーシー先生がいた。


ビビった!


『最初から付いて来ておった』


【覗きにどれだけ集中してるんですか……】


俺達がしゃがみ込んでいた茂みから立ちあがると、ドンッと言う音と共に花火が夜空を飾った。


う……ん?


「あの……シモンズさん……」


これは……。


「実は、私……あなたの……」


魔力だ。


誰かが、この奥で魔力を使ってるな。


『そのようじゃな』


【今かすかに聞こえたのは……女性の……】


悲鳴だ!


「シモンズさん?」


「先生は、通りに戻って下さい」


「えっ!? あっ!」


****


気配を消したまま、俺は魔力を感じる方向へ走る。


林の少し開けた場所で……。


これは!?


殺気と魔力を纏った男が三人……。


花火の光で、ミュンちゃんを庇うように立つアルトくんと……。


木に叩きつけられたのだろうか?


クソアマが、腕を抑えながら立ちあがろうとしている。


【アルトくん達は丸腰です! 助けないと!】


ああ!


うん!?


次の花火が、クソビッチを照らし出す。


頭から血を流し、体も纏った民族衣装が切り裂かれ、血が流れている。


それを見た瞬間……。


考えるより先に体が動いていた。


「ふん!」


俺に殴られた男が、空中大回転をしながら木の枝にぶつかり、そのままぶら下がった。


逸早く状況を認識したのは、暴漢二人。


即座に臨戦態勢で、ナイフと紙切れを構えた。


そして、俺の姿を確認したクソアマが俺に叫ぶ。


「シモンズさん! 逃げて! 助けを! 相手はプロです!」


咄嗟のせいで、片言になってるよ。


「師匠!」


もちろん……。


誰が逃げるか!


ナイフ使いが、プロらしく俺の死角から飛び込んでくる。


『ナイフに纏わせているのは、風の魔法かのぉ?』


【的確に、首の血管を狙ってますね】


遅いけどね。


プロなら、肋骨を折ったぐらいだと逃げる可能性があるな。


死なない様に、俺は肋骨の強度がある胸の中央部を真っ直ぐ殴りつける。


『そこに、心臓があるのは知っておるか?』


知ってるよ。


【心臓が止まると、人間が死ぬのは知ってますか?】


分かってるって!


これでも手加減したんだよ!


男は地面で一度バウンドすると、少し離れた場所に落下して動きを止めた。


ほらっ!


ぴくぴく動いてる!


生きてるって!


『死後硬直でなければいいがな』


【少なくとも虫の息ですね】


「くっ……」


うん?


最後の暴漢が、地面に紙切れを投げると魔方陣が出現した。


さっき感じた魔力はこれだな。


もう一枚とり出した紙切れを、自分の胸に張り付けた?


「シモンズさん! 気をつけて! 魔法と動きを封じられます!」


この術式は……。


魔力吸収?


『中々高度な式じゃな。陣内の人間を縛りつけるようじゃ』


ああ!


わかった!


『うむ。ターゲットの魔力を使い、そのまま相手を縛りつける魔方陣じゃな』


あの胸に張った札は、それを無効化するって事か。


俺が、何かの魔法を使ったと思ってるのか?


身体強化とか?


【まさか腕力と速度だけで、あんなに殴り飛ばすとは考えていなかったんでしょうね】


『普通の人間には無理じゃろうからな』


ええ~。


「師匠!」


アルトくんは、心配してくれてるのかな?


いい子だね~。


彼女さえいなければ、満点をあげるんだけどな。


「シモンズさん! 駄目! 助けないと……」


無理するなよ。


「そこで、見てて下さい。治療は後ほど」


木の寄りかかりながら立とうとしたクソアマにそれだけ言うと、俺は……。


「なんで!?」


狼狽える馬鹿に、真っ直ぐ歩み寄る。


魔法なんて使ってませんからね。


縛られませんってば。


ふん!


何処を殴ったかは、秘密です。


【かわいそうに……】


****


さて……。


「アルトくん達? 怪我は?」


「俺達は大丈夫です!」


「アイナ先生が庇ってくれたんです……」


ふん。


「あの……シモンズさん?」


おい。


【今やってます】


クソビッチの怪我を復元する。


う~ん……。


「痛っ!」


これはどうしようもないな……。


『足首を捻っておるな』


復元は、外傷しか効果が無いんだよな~。


ジジィの回復は?


『炎症を抑える事は出来ても、お前の体の様に自由には回復できん』


これは、この世界の人にでも回復魔法ってのを、使ってもらった方がいいよな。


「あの……有難う御座います」


クソアマがしおらしいな。


「いいえ」


「あの……あなたは……」


「アイナ先生もよくご存知の、用務員ですよ~っと」


俺は、着衣がボロボロのクソビッチに、馬鹿からはぎ取った上着を羽織らせる。


えっ?


自分の服?


只今! 作業用のズボン(泥とペンキ付着)! Tシャツ(黒の無地)! 麦わら帽子であります!


上着なんてありません!


『架空の相手に、いちいち言い訳をするな』


****


「こっちです!」


俺がどうしようかと考えていると、ルーシー先生が男性教諭とババァを連れてきた。


通りに戻ってろって言ったのに……。


まあ、今は助かるけど。


「どうですか? ルーシー先生?」


クソビッチの足首に、魔法をかけているルーシー先生に確認をした。


「はい、大丈夫です。これで、一晩固定して眠れば……」


「これ以上、手間をかけさせるわけにはいかないわ。いっ!」


無理をして立ちあがったクソアマが、足首を抑えてしゃがみ込む。


顔が真っ青じゃないか。


ザマァァ!


【性格の悪い事で……】


でもまあ、仕方ないか……。


学校から、徒歩五分くらいだし。


「えっ!? ちょ!」


「学校に行けば固定もできますし、確か杖もありますから」


「あの! でも! でも!」


「出来れば、セクハラで訴えないでくださいね……」


「そっ! そんなことしません!」


クソビッチを背負った俺は、ババァに目線を送り学園へと歩き出す。


****


「頼んだよ」


「有難う御座いました、師匠」


背中を向けたまま、手を軽く振った。


アルトくん達はババァと警察……いや、軍の人が送って行くから安全だろう。


しかし……。


『警察ではなく、軍の出動か。何かあるんじゃろうな』


ババァと話をしていた軍人のおっさんは、明らかに偉い人だよね?


ミュンちゃんを狙ったプロ……。


【何かあるんでしょうね】


う~ん……。


『どうするんじゃ?』


【このまま行くと、何時も通りですよ?】


撤退!


【毎回言ってますよね?】


巻き込まれたくありません!


面倒です! すごく面倒です!


【いいんですか? お弟子さんも渦中にいますよ?】


いいんです!


『まぁ、どうせいつもどおりじゃろう』


不吉な事を言わないでください!


死になさい! クソジジィ!


「あの……もしかして重いですか? 私」


ああ?


「いいえ。軽いですよ」


「でも……先程から眉間に……」


「只の考え事です」


お前じゃなく、ルーシー先生なら満面の笑みだろうけどね。


「あの! 私……やっぱり降ります! 自分で!」


この……クソビッチが!


俺の背中で暴れるな!


痛っ!


ええい!


「きゃんっ!」


背中からクソアマを投げ上空へ放り投げ、お姫様だっこの形でキャッチ!


もちろん、関節を掴んで動けないようにします!


「えっ? ええっ!? あの! シモンズさん! あの!」


耳元で大きな声を出すなよ。


顔を真っ赤にして怒るし~。


もうやだ! こいつ!


「もうすぐ着きますから、もう少しだけ我慢して下さい」


「私……あの! こんなに男性の方とその……」


やっと、落ち着いてきた。


「私、学生時代に好きな人が……でも、その人が亡くなってしまって……その」


ああ?


何言ってんだ? こいつ?


「それから……あの! つまり……あの!」


つまり何だよ?


う~ん……。


ああ!


『流石に、気が付いたか』


触るな! キモイって事か!


おいおい!


怪我の手当てしようって相手に!


このファッ○ンクソビッチが!


【はぁ~】


『ある意味、期待を裏切らん奴じゃ』


何に期待してたんだよ?


「え~……ああ! さっきは本当にありがとうございました!」


五月蝿い。


【必死に会話を、続けようとしてるじゃないですか】


そうだね~。


俺と会話をして、この気まずい空気を緩和しようてしてるんだろうね~。


【分かってるなら……】


断る!


ノーの方向で!


【あなたと言う人は……】


****


宿直室に着いた俺は、クソアマを椅子に座らせてテーピングをしたうえで、木の枝を使い補強する。


まあ、これで歩くには問題ないだろう。


『お前に、こんな事が出来ると思わなんだ』


どういう意味だよ?


【今回は、悪い意味ではないですよ? あなたは、回復と復元があるので応急処置なんて必要ないじゃないですか】


えっ?


マジで?


『なんでもかんでも、悪い方にだけとるな』


「ありがとうございます」


「いいえ。取り敢えず、この棒を杖として使って下さい」


うん?


まだ、顔が真っ赤だ。


元々、色が白いから茹でダコに見えるな。


もういい加減、そんなに怒らずに機嫌直してくれよ……。


「あなたは、元冒険者ですか? 先程の対応は、魔法なんでしょうか?」


う~ん……。


「只の用務員ですよ。冒険者って職業に、ついた事は有りません」


ギルドで働いたり、色々はやったけどね。


「聞いても……無駄ですか?」


「まあ、特に何も無いですからね」


早く帰ってくれ。


俺は、今から修練をしたいんだ。


うん?


扉の外に気配?


あ……この気配は。


ルーシー先生?


何だ?


「あなたは、不思議な人ですね。最初にあなたを見た時は、軽薄そうで……。あまり好きになれないタイプだと思ってました」


俺は、今でもあなたの事をそう思っとります。


「でも、よく働くし、手際もいいし……」


使用人歴は長いんでね。


「何よりも、生徒だけじゃなく教員まで困っていると、そっと助け船を出す」


うっ!


気付かれた……。


見つからない様に、してたつもりだったのに……。


「気が付いたら、何時も目であなたを追ってました……」


おや?


「今日も……本当は殺されると思って……。怖くて怖くて」


おやおや?


「そんなときに、あなたが助けにきてくれて……」


おやおやおや?


「本当に、正義の味方に見えました。あなたが」


そういえば……。


ルーシー先生がこのクソ……アイナ先生は、俺に気があるとかないとか。


「あなたの事を、もっと知りたいと思うのは……。駄目……ですかね?」


潤んだ瞳で、照れ隠しの笑顔……。


そう言えば、ベースは美人なんだよなぁ。この人……。


アップにした、何時もと違う髪型が……。


こっ! これぇぇぇぇぇぇぇ!


空気を読んだ、寄生生物AジジィとB(若造)も出てこないしっ!


『この!』


【おさえて!】


まあ、完全に聞かれてるようだけど。


予想外の大チャンス?


ヤッベ! 可愛く見えてきた!


宿直室は……実質俺の部屋……。


お……押し倒していいんじゃね?


マジでか!?


ああああああああああああ!


今日は、神様!


あんたに感謝します!


きっと、祭りに行ったのが正解だったんだぁぁぁぁぁぁ!


明日、お供え物持って行ってやるよぉぉぉぉぉぉぉぉ!


あれ?


でも震えてない?


てか! 泣いてない?


「私が生まれて初めて好きになった人は、亡くなってしまいました」


そう言えば、そんな事言ってな……。


「あなたは、死なないでくれますか?」


ああ……。


反則だ。


涙を流して笑うなよ……。


「ご! ごめんなさい! 何言ってるんだろ! 重いですよね?」


なんか、色々抱え込んでたのか?


抱き締めるには……。


俺じゃあ、役不足なんですよ……。


「あっ……」


アイナ先生の頭を優しく撫でる。


今は、これが精一杯……かな?


「お疲れ様でした」


「シモンズさん……」


「レイです」


「えっ?」


「レイでいいです」


「レイ……さん?」


「さんはいりません。只のレイです」


****


さて!


こう言う場合は……。


「ルーシー先生? そろそろ、入ってきませんか?」


ガタッという物音も後、しばらくしてから不思議な表情のルーシー先生が、部屋に入ってきた。


「あの……すみません」


アイナ先生も、なんとも言えない表情になってるな。


「お二人とも明日のご予定は?」


「明日は……午後から補習の授業を……」


「特にありません」


「大人の気晴らし方法を知ってますか?」


俺は、買い溜めしていた酒と、おつまみを出す。


本当は打撲した時の飲酒は、悪化の原因になるかも知れないからよくないけど、今日はまあいいよねぇ。


「親睦会ってのでいかかがでしょう?」


****


それから、二時間後……。


俺は……。


部屋を掃除しております。


もちろん、一人で!


二人は既に、かなり酔っぱらい支離滅裂な言葉を喋り続けています。


さっきから、酒やスナック菓子を……。


やめて下さい!


部屋がアルコールの臭いで充満してます!


訳もなく、俺に酒をぶっかけて二人で笑わないでください!


迷惑です!


『お前が、やたらと度数の高い酒ばかり買いこむからじゃ』


だって!


俺は、あれくらいじゃないときかないんだもん!


『もう、アルコールの原液でも飲んどれ』


死んでしまうわ!


「れもね! アイナ……わたひたひって……」


「うん、好きになる人いつもいっしょだね~……。先輩の時も……」


ああ?


先輩?


死んだって人?


「うっ!」


まだマシに見えたアイナ先生が、口を押さえてトイレに走って行った。


なるほど。


リバースですね。


ルーシー先せ……。


酒瓶抱えて眠ってるよ……。


待てど暮らせど出てこない、トイレへ向かうと……。


トイレの前で、仰向けのアイナ先生が眠っていたわけで……。


ミィィィィィィスったぁぁぁぁぁぁぁ!


酒呑ませるんじゃ無かったぁぁぁぁぁ!


****


仕方なく俺は、二段ベッドに二人を寝かせた。


おや?


おやおやおや?


もしかして!


『やめんか! 性犯罪者!』


いやいや!


ちょっとしたアクシデントじゃん!


ちょっとパンツが見えるとか!


【もう寝かせたんですから、二人に触れる必要はありませんよ?】


ちょっと手が胸に触れるとかぁぁぁぁぁ!


テンションが上がってきたぁぁぁ!


【やめましょうよ。何時もそれでロクな事にならないんですから~】


ブラジャーって寝る時とらないと、苦しいって聞いた事があるな~。


これは、善意です!


うん!


善意なら許される!


『誰が許すか! やめろ! 煩悩!』


ふははははっ!


逃がさん! 逃がさんよ! こんなチャンス!


『若造! 障壁じゃ! このバカを止めるんじゃ!』


馬鹿じゃありませ~ん!


そして!


止まりませ~ん!


【大丈夫ですよ、賢者様。ほら】


ガチャリと、扉を開けて……。


ババァァァァァァァァァァ!


「なんだい? この酒臭さは? 窓を開けな」


バババババババァァァァァァァァァ!


オォォウ! シット!


「何を、ぼーっと立ってるんだい? 早く開けな!」


仕方なく、窓を開けて振り返ると……。


ババァが、勝手に酒を飲んでやがる。


「どうやら、上手くこの二人のガス抜きをしてくれたようだね」


俺のガス抜きは、てめぇぇに邪魔されたがな!


「この二人は、私の生徒で……息子の後輩なんだ」


なんか勝手に語り始めた!


聞いてない!


ゴーホーム!


ババァ! ゴーホーム!


「今日みたいな原因不明の殺人は、もう十年も続いてるんだ……」


うん?


十年?


「犯人は、その時々で雇われたプロの殺し屋。狙われるのは、決まって魔力の強いうちの生徒……」


う~ん……。


「今から、私の知っている事を話す。だから……」


巻き込まれたかな?


【まあ、何時もの事じゃないですか】


俺って、不幸……。


「俺の、目の届く範囲でしたら……やってみますよ」


ああ……。


俺の馬鹿。


『知っとる』


五月蝿いわ!


「すまないね。さっき話しをしていた、軍の少将をしているのがうちの旦那でね」


この町でおこる、生徒の殺人事件。


狙われた学生時代のアイナ先生とルーシー先生を守って死んだのが、ババァの息子。


「息子の葬儀がある日に、そこの二人が息子を殺した犯人に掴まった事もあったね」


この前の、ルーシー先生の話……。


『この二人が、ここの教師になったのは……』


生徒を守る為にってか?


律儀な事で……。


「私はあんたの力を、一級の冒険者にも引けを取らないと思っている。すまないが……」


ババァは、俺に深く頭を下げた。


あんなにプライドの高いババァが……。


こんな俺でも、その意味は分かっているつもりだ。


『どんな事をしてでも、生徒を守りたいんじゃろうな』


アイナ先生達も含めてな……。


俺はもしかして、これを見越して拾われた?


ははっ……。


この狸ババァが……。


【いい……教師じゃないですか】


気がつくと、俺の口角は少し上がっていた。


この申し出を……。


この思いを、無碍にするって事は……。


『まあ、人間失格じゃな』


てかさ……。


まぁ……俺じゃねぇよな。


【はい。私達に異存はありません】


「ババァ……俺は受けた恩くらいは返すさ。必ずな」


「ありがとう……」


涙をためるな! ババァ!


なんかキモイ!


『まったく……』


【素直じゃありませんね……】


****


ババァが、部屋を出た後……。


校庭に出た俺は、剣を振るう。


こんな時でも、きちんと修練はしないとね。


ああ! もう!


ええい! くっそ!


モンモンするぅぅぅぅぅぅぅぅ!


【ええ~。そこですか?】


あんな話を聞いた後で、あの二人に変な事出来ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


ああああああ!


そして! 巻き込まれたぁぁぁぁぁぁぁ!


『中と外が、完全に別人じゃ』


【あれだけ格好をつけて、最後がこれですからね】


あああああ!


五月蝿い! 五月蝿い! 五月蝿ぁぁぁぁぁぁぁい!


おっ!


【お?】


………………。


…………。


……。


おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!


【『最低じゃ(ですね)』】


あ~あ……。


やってらんね~……。

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