五話
うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャンと音を立てて、皿がテーブルに積み上がっていく。
【いい! いいです! いい!】
『うむ! よし! うむ! ほっほぉぉぉぉぉう!』
侯爵の使用人さん達がいくら慌てふためこうが、皿を積み上げていく俺の速度は変わらない。
そんな俺に、社長達は冷たい視線を向ける。
「凄いな……」
「デンケル以上じゃないの?」
「ああ……。デンケルの三倍はいってる……」
「引くゲロね~……」
「そう? 無邪気で可愛いじゃない」
「アルマは、レイがお気に入りだな」
「母性本能をくすぐられるのよ」
「にしても、食べ過ぎよ! 完全に質量保存の法則無視してるじゃない!」
うほほほぉぉぉぉぉい!
俺は、宇宙船内の限られた食料で我慢していた食欲を、フルスロットル!
テーブルに並べられた食料を、片っ端から口に運ぶ。
うっめ! うっめ!
「あ! あれは、普通の人間種族が食べてはいけない物ゲロ! まずいゲロよ!」
うっ!
苦……。
ピタリと止まった俺へ、皆の視線が集まる。
まあ……。
『関係ない!』
【早く! 続き続き!】
再指導した俺の速度は、先程と比べて全く衰えはしない。
使用人さん達が片付けるよりも先に、ガシャン、ガシャンとサラを積み上げる。
「馬鹿って風邪ひかないだけじゃなくて、毒も効果がないのね」
****
ふぃ~。
体力と魔力がかなり回復した。
「も……もう、宜しいですか?」
侯爵が、引きつった顔で聞いてくる。
「ああ。お腹、満タン」
痛!
「食べ過ぎよ! すみません、ドロテア様」
「いえいえ、これくらい……」
殴るなよ。
ガキも食っていいって言ったじゃん。
いいって言うから、食っただけなのに。
やってらんね~……。
【ガキガキ言ってますが、彼女は十六歳ですよ? 以前なら……】
もう、俺もいい年になってきましたからね!
十八歳以下は、対象に入れない事にしました!
『まあ、そうせんとこの世の女性全て対象になるからな』
うん! もう、ここは涙を飲んで撤退です!
【まあ、どの道誰も相手にしてくれませんけどね】
ちょ! 待てよ!
『何より、好意を寄せられればストライクゾーンはどんどん広がるじゃろう』
【十二歳の少女に告白されてもなびくんじゃないですか? 女性に関しては、ユッルユルですからね】
俺をどんな目で見てるの!?
後、ほっといてよ!
おっとっと!
「俺! トイレ!」
「では、ご案内致します」
「一人、大丈夫」
****
トイレを済ませた俺は……。
何処だ? ここは?
ええ……迷いました。
あっ!
明り発見!
「グスタフ……私は、また人を巻き込もうとしています。私は……私は……」
おおぅ……。
ガキが写真立てを抱いて泣いてますよ。
これは、気楽に迷ったって入っていくのは……無理だな。
【当然です】
グスタフって誰だ?
戦死したのか?
「こっちよ。行きましょう」
「アルマ……」
「遅いから、迎えに来たの」
俺は、アルマに手をひかれて部屋へ戻る。
「侯爵にはね……。恋人がいたの……」
アルマから、再びもたらされる何? その設定? な、話。
この銀河には、大国が三つあるそうだ。
母星に隕石が接近した為、宇宙への進出を余儀なくされた、レード帝国。
まあ、そのおかげで一番技術が進んで領土……領空? も広いそうだけど。
資源が豊富で宇宙船保有数が一番多い、ノーザン公国。
宇宙進出は一番遅かったが、技術開発で独自の発展を遂げたルーニア共和国。
当初は、人種や言葉の違いで戦いのない日はなかったそうだが、十年前……社長の母星を帝国が占領したのを最後に、この三国が不可侵条約を結んだ。
その平和が破られたのは、二年前……。
レード帝国の皇族であるドロテアは、幼馴染でもあるノーザン公国公子グスタフと婚姻を進めていた。
その公子が乗った宇宙船が、突然行方不明になったらしい。
二国でこれでもかってくらい捜索したみたいだけど、見つからなかったそうだ。
そこで、公国と帝国の婚姻をよく思っていなかった共和国が、公国の大公をそそのかしたらしい。
公子の行方不明は、帝国の陰謀だと……。
それを裏付ける様に、公国と共和国の大使が乗った宇宙船が行方不明になった。
帝国の領空内で。
一色即発状態になったが、ドロテアの従姉に当たる皇帝がそれを避けようと、ドロテアの父親を大使に任命し会談を進めようとした。
しかし大使が乗った宇宙船は、公国領空内で消えてしまう。
そこからは、なし崩し的に帝国対公国+共和国連合の戦争へと突入。
その戦争が、一年を超え泥沼化しているらしい。
「う~ん……。戦争、よくない」
「そう。だから、侯爵様は母星の言い伝えに残る力を捜そうとしてるの」
母星の言い伝え……。
あれ?
変じゃね?
『確かに……。宇宙へ帝国が進出したのは、約八十年前』
【言い伝えは、千年以上前から残っているのに、宇宙の遺跡と伝えられている……ですか】
大昔に滅びた古代文明的な物でもあったのかな?
【まあ、私達の世界のように文明が滅びて、再度発展したと考えるのが普通でしょうか?】
『いや、もともと他の星から移住してきた可能性もあるのぅ』
ああ、それもあるね。
う~ん……。
うん! 分かんね!
****
侯爵からあてがわれた部屋へ入り、俺がベッドに座ると、アルマが隣に腰掛けてきた。
あ、独特だけどいい香りがする。
「……レイ?」
「何? アルマ?」
「貴方……私みたいになるのは嫌?」
ああ?
「意味、分からない」
「ちょっと、テレパシーを繋いでくれる?」
(どうしたんだ?)
「私達種族と、貴方達種族は体が違い過ぎて、結ばれる事は出来ないの……」
はい?
「でも、肉体改造すれば、貴方もアニ星人のようになれるの。逆は無理だけど……」
えっと……。
「私とじゃ嫌かな?」
俺に、メタルマネキンになれと?
はははっ……。
貴女は嫌いじゃないってか、好きだけど……。
俺のリスクでかいわ!
アルマと上手くいかなかったら、俺どうすればいいんだよ!
うん?
はぁ~……。
【明日……死ぬ可能性も十分ありますからね……】
俺の手に重ねられたアルマの手は、震えていた。
(ここは一つ賭けをしよう)
俺は、アルマを抱き締める。
「賭け?」
(そう……。全部が終わって、社員みんなが笑ってれば俺の勝ち)
「私はどうすれば勝てるのかしら?」
(社員みんなが泣いてれば、アルマの勝ちだ)
そう、俺が出したのは遠回りのNOと言う返事。
(俺は、負けず嫌いだから……。全力で行くからね)
「ずるいな~……レイは」
震えのおさまったアルマが、一度笑った後部屋を出て行った。
これでいい……。
これ以上俺に近づけるべきじゃない。
あんないい女を死なせちゃいけない。
『どうするんじゃ?』
【今回は、戦えるとは思えませんよ?】
まあ、何時も通り……。
やるだけやってみるさ。
『難儀な奴じゃ』
それから俺は、修練を済ませて眠りにつく。
****
翌日、ドロテア率いる大艦隊と戦場の最前線へと出発した。
元々、ドロテアの出陣は決まっていた事らしい。
貴族ってのは、権力がある代わりに、義務と責任が付きまとう。
直接戦闘に参加しなくても、前線での指揮は最低限の義務らしい。
帝国領土内は、侯爵率いる大艦隊の護衛付きで移動だ。
また、誰がつくった運命なんだか……。
三日後、最前線の母艦と合流した俺達は、皇帝陛下に謁見する。
どう言う世襲制度か知らないが、皇帝陛下は二十歳の美女だった。
「さあ、皆さん顔をあげて下さい。お姉……皇帝陛下から労いを受け賜りましょう」
お姉様って……。
まあ、従姉って言ってたよな。
「皆の者! このたびは、命をかけた任務への参加、心より感謝する」
皇帝陛下は、玉座から機械的な声で言葉を発する。
あんまり、感じはよくないな。
「言い伝えの力により、この戦争を集結させる事を切に願う」
なんか淡々と喋るねぇ。
本当に願ってるのかね?
『皇族としては、間違ってはおらん』
【あらゆることに、感情を込めるなんて不可能ですよね。まだ、労ってくれるだけましなんでしょう】
まあ、アルマ……てか、メタルマネキン回避の為に頑張ってみますか。
「陛下……。各将校から、被害状況報告が入りました」
「酷い……」
悲しそうな顔に変わるドロテアに対して、皇帝は眉ひとつ動かさない。
ある意味凄いね。
****
「あ~……緊張した」
「社長。これ、どうぞ」
俺は、謁見の間から引き上げたみんなに、お茶を配る。
「それにしても……レイ?」
「なんですか?」
「あんたよく、一週間で言葉覚えたわよね? まだ、イントネーションに違和感はあるけど、普通に会話出来てるもんね」
最近、言葉を習得するのが日課みたいになってるんでね。
「あんた、本当に記憶ないの?」
うっ……。
「アリマテン」
「まあ、テレパシーでは、お互いに嘘はつけないって話だから、嘘はついてないんじゃないか?」
ナイス! ヨハン!
ただ、そんな設定は知らなかった!
「まあ、そうらしいゲロ。それに、こいつに嘘をつく理由がないゲロよ」
念話って魔法ですから、バリバリ嘘ついてますけどね!
「まあ、連合のスパイ……も、こんな馬鹿じゃ務まらないわよね」
みんなが、笑ってます。
はははっ……。
誰が! 馬鹿だ!
殴り倒すぞ!
「ほれ! お代り!」
「俺も、頼む」
社長とデンケルがカップを差し出してくる。
緊張して喉がカラカラだったみたいだな。
あら……。
「お湯が無くなった。貰ってくる」
俺は、ティーポット片手に部屋をでる。
****
う~ん……。
【宇宙空間では、方向感覚がマヒするんでしょうか?】
また迷った……。
ちょ……泣きそう。
広いよ!
広過ぎるよ! この宇宙大母艦!
壁が全部変な金属だから、気配も読みにくいし!
もう! お湯が冷める!
あああああ!
頭を掻き毟っていた俺は、ガシャンと何かが割れる音が聞こえた。
うん?
「私は! 私は……」
この声は……どっかで聞いたな。
「アルベルト……クルト……すまない。私が不甲斐無いばかりに……」
あまりにも、声の感じが違うので分からなかった。
音のした場所を覗くと、皇帝がボロボロと涙を流していた。
「もう、百五十万人……。くそ! くそ! くそ!」
情報を確認する端末を、皇帝は素手で殴りつけていた。
さっきの音は、その液晶が割れた音だったらしい。
皇帝の手からは血が……。
「何が、国を守るだ! 何が皇帝だ! 私は……」
まあ、二十歳そこそこで、百億人の命を背負って……。
『百五十万人の死を受け入れるか……』
【公共の場では、さっきのように心を殺すのがやっとなんでしょうねぇ】
泣いてくれるなよ……。
美人が台無しだ……。
ピィーピィーと壊れていない端末が音を出して、ランプを光らせる。
「何用か?」
皇帝は音声だけで、その通信を受けた。
「陛下。ディーター伯爵から、戦力の補給依頼および……」
皇帝ってのは素の自分でいられる時間も、少ないらしい。
部下と会話をしながら、皇帝は手から滴る血をハンカチで拭きとっている。
「では、すぐに行く」
「はっ!」
「うん!? これは……」
自分の拳が白い光に包まれ、復元されている光景に皇帝はあっけにとられる。
さて、この迷宮をどうやってぬけるかな……。
「ああ! レイ! また、迷子?」
「ごめん、アルマ」
「こっちこっち」
「待て! そなた……」
俺は、振り向かずに手を軽く振りながら、迎えに来てくれたアルマに合流する。
これは……。
何が出来るか分かんないけど、頑張るしかないよねぇ……。
『仕方があるまい』
ですよね~……。
****
それから三時間後、補給の済んだ俺達は出発する。
連合領土内へ向けて……。
戦場に迷い込んだ輸送船を装い、戦場を駆け抜ける。
流れ弾をさけ、連合国の検問を社長達のはったりで突破した。
「よし! 戦場から完全に離脱できた!」
操縦士であるヨハンの声で、皆が胸をなでおろす。
ふぅ~……。
やる気を出したはいいけど、俺って全く役に立たないな。
【まあ、いいじゃないですか】
「ちょっと待つゲロ! 識別不能船三隻接近!」
うん?
「強襲艦二隻……強化護送艦一隻……通信、機体識別信号に返信なしゲロ」
えっ?
敵?
あれ? 魔力……。
魔力じゃね?
『どこじゃ? まさか……あの目の前の船か?』
多分……。
「あれは……公国の船だ……」
「くそ! ばれたのか?」
「いえ、それにしても返信なしはおかしいわ!」
皆に緊張が走る……。
「デンケル……念のため、あれを起動しておいてくる?」
「分かった」
社長の指示で、デンケルが何かのスイッチをいじり始めた。
なにして……おおぅ!?
なんだ!?
『魔力? うむ、魔力じゃ』
いきなり、船内の奥から魔力が発生し始めた。
何? どう言う事!?
「来た! 反物質魚雷! 二発!」
「回避!」
「ぐううう!」
俺達の乗る船は、アクロバットな動きで敵の魚雷を回避する。
Gがそこそこかかったので、俺以外のみんながベルトに必死で掴まっている。
普通の人間って、こんなもんだよな……。
『まあ、何事もなく腕を組むお前の方が、異常じゃな』
「あの三隻を敵と認識ゲロ!」
「あんな戦艦に、機関銃なんて豆鉄砲じゃ役に立たないぞ!」
えっ?
デンケルさん? もしかして……。
それって、勝ち目ないの?
ちょ! あの! ミサイルとかって無いの? この船。
どうすんの!?
「あれをかますわよ! みんな! 対衝撃準備!」
「はい!」
えっ!?
何する気!?
「行くわよ! 変形!」
へっ……変形!?
まさか!
この船って、ロボットに!?
夢のロボットに変形できるんですか!?
マジでかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
これは、燃える!
って……あれ?
【残念ですね】
『まあ、宇宙での戦闘に人型の意味は全くないからのぅ』
俺の乗る船の突端が、四つに割れて広がった。
その四つの間には、電流がバチバチって感じで光ってる。
なんだ……。
ロボットがいる世界に来たのかと、期待したのに……。
あ~あ……。
テレビみたいに、ロボット同士の撃ち合いが見たかった。
【それよりも! あれ!】
何?
おおぅ?
電撃が、円を形どり……魔方陣が浮かび上がった。
『これは……攻撃魔法じゃ。光の魔法か?』
ああ!
そう言えば、さっきから魔力が!
「いくわよ! フォトンクレイモア! ファイアー!」
魔方陣から、大きな光の球が敵に向かって飛んでいく。
完全に魔法だよ。
え?
こんな科学の世界に魔法なんてあるの?
あ……避けられた。
『いや! ここからじゃ!』
は?
おおおお!
敵が避けた光の球は、一度動きを止めて小さな無数の光の弾へと分裂した。
そして超高速で敵艦一隻に飛んでいくと、そのまま敵艦を沈めた。
『誘導型、光の散弾じゃな』
でも、敵が散開したから一隻しか沈められて無いな。
「チャージは?」
「まだだ!」
「どれくらいかかるの?」
「後……五分」
背後から感じていた魔力は、かなり弱まっていた。
五人のおでこに冷や汗かな? が、滲んで来ている。
さて……。
「反転して逃げられる? ヨハン?」
「無理だな……。敵の機動力が上だ」
「せめて、二隻沈められていれば……」
「待て! チャージ完了! ど……どう言う事だ?」
「デンケル? 本当なの?」
「ああ……」
「今は迷ってる時間は無いわ!」
二発目の光の散弾が、強襲艦を撃破する。
「神様ありがとう! 有難く、奇跡を使わせて貰ったわ!」
まあ、奇跡じゃなくて、俺が機関室の奥にある機械につながった水晶らしき物に、魔力を注入したんだけどね。
どう思う?
『難しいじゃろうな』
だよね~。
「そんな!」
「フォトンクレイモアが、かき消されたの?」
「なんなんだ! あの護送艦は! くそ!」
眉間にしわを寄せていた社長の目が、大きく見開かれた。
予想外の光景を、モニター越しに見たからだ。
「ちょっと……何をしているんだ! レイ!」
先に出した魔剣と聖剣を、船外作業服着用後握った俺は、部屋の空気を抜く。
「レイ! なにを!」
「あ! ちょっと行ってきま~す!」
****
命綱無しに、宇宙空間へと飛び出した俺は、障壁を展開する。
【宇宙に空気はありませんからね】
もう、障壁を蹴るしかないだろうな。
行くぞ!
【はい!】
『うむ!』
「な……なんだ? あれ?」
「なんだ? あの真っ白な円は? あれも、超能力なのか?」
おお!
抵抗が少ないから、意外に加速できるな!
回避しようとする護送艦よりも速く動けた俺は、フィールドを切り裂き艦内に侵入した。
魔力が充満している?
なんだこれ?
う~ん。
まあ、魔力が強い方に向かってみるか……。
うおおお!?
なんだあれ!?
『アンデッド!? いや、分からん!』
体の半分が、うごめくメタリックな管におおわれた半分腐ってるっぽい人間が、こちらに歩いてくる。
ゾンビ?
コアは……ある!
何あれ?
【さあ……】
そいつらは手の甲をうごめく管を、鋭い爪のように変化させ、俺に向かって振り下ろしてくる。
まあ、襲ってくるなら……。
コアを斬り捨てるのみ!
船外服で、かなり動きにくいがそれでもこんな雑魚にはやられん!
うわ~……。
いっぱい来た。
【連合の新兵器か……】
『また、裏で蠢くあれかもしれんな』
ははっ……。
なら!
俺の獲物だ!
メタルゾンビどもを斬り捨てながら、俺は船の奥へと向かう。
あれ?
メタルゾンビと、金属でできた五十センチぐらいの虫しか出てこない。
ボスは?
首を傾げながら、俺は通路の一番奥にあった扉を蹴破る……。
ああ! あれっぽい!
虫をバリバリと食べる大きなメタルゾンビが、操舵室らしき場所に座っていた。
この、気持ちが悪い魔力……。
俺は、これを知っている。
『幾度も感じた……これが悪意の魔力のようじゃな』
空気がなく、声は聞こえないがこちらに向かった威嚇してきているようだ。
なっ!?
速い!
鉤爪のようになった足で壁を掴み、高速で室内をとび跳ねている。
くっそ!
見えてるけど! 重力も摩擦抵抗もない空間で、この船外服!
障壁と壁を使い、俺もとび跳ねるが……。
くっそ!
追いつけない!
どうする?
…………。
よし!
行くぞ! 若造!
【はい!】
部屋の隅に立ち止まった俺は、敵の動きを目だけで追いかける。
素早く動き続けていた敵は、フェイントをかけた上で、俺の頭上から爪を振り下ろしてきた。
遅い。
【行きます!】
障壁で敵を宙に縫いとめ、剣で切り裂いた。
よし! 成功!
宇宙空間でも結構戦えるじゃん!
一息ついた俺の目の前が、赤く変色した。
宇宙服内に、ピィーピィーと警告音が鳴り響く。
え!?
ぬああああああ!
穴ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
あの!
穴ぁぁぁぁぁぁぁぁ!
【空気が漏れてます! 漏れてますぅぅぅぅぅぅ!】
『どうするんじゃ!』
えっと! えっとぉぉぉぉぉぉぉぉ!
あああ!
そうだ!
船外服の腰に着いたパックを開き、特殊なテープを取り出し、穴に張り付ける。
やばかった……。
『しかし、まだ漏れとるようじゃぞ?』
被っているヘルメットの内部に表示された赤色が、黄色にはなったがアラームは鳴り続けている。
とっとと脱出しよう……。
あれ?
なんだ? あれ?
金属の箱?
かすかに、感じの違う魔力?
棺?
『いや、この金属のせいで確かではないが生きておるようじゃ』
二メートルほどの金属の箱にある小さなガラスを覗くと、人間らしき男が眠っていた。
【空気! 無くなりますよ!?】
えっと……。
えっとぉぉぉぉぉぉぉぉ!
ふん!
金属の箱につながっていたケーブルを切り、その箱を担いだ。
こういう時、無重力っていいね!
あれ?
操舵室の大きな画面が、真っ赤になり数字がカウントされている。
ヤバいんじゃね?
『またじゃ……。この馬鹿は、爆発せんと気が済まんのか?』
俺のせいみたいに言うな!
【早く! 早く! 早くぅぅぅぅぅぅぅ!】
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
****
空気が漏れ出す船外作業服で、無重力と戦いつつでっかい箱を担いで頑張りました。
結果は……。
死ぬ!
死ぬって!
死んでしまうって!
早くぅぅぅぅぅぅぅぅ!
マジで!
マジだって!
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
爆発する敵艦から脱出し、船には何とかたどり着きましたが……。
真空の部屋に空気を満たす前に、俺の作業服内の酸素濃度がやばいレベルに……。
死ぬって!
早く! 早くぅぅぅぅぅぅぅぅ!
因みに、この部屋に空気が充満するまで……。
三分はかかります。
只今、ほぼ無酸素で激しい運動を……六分!
酸素……。
死ぬ……。
いし……意識が……。
マジで……。
こんな死にかた……嫌……。
あの……。
やって……。
やってらんね~……。