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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十章:銀河と相棒編
18/77

五話

うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャンと音を立てて、皿がテーブルに積み上がっていく。


【いい! いいです! いい!】


『うむ! よし! うむ! ほっほぉぉぉぉぉう!』


侯爵の使用人さん達がいくら慌てふためこうが、皿を積み上げていく俺の速度は変わらない。


そんな俺に、社長達は冷たい視線を向ける。


「凄いな……」


「デンケル以上じゃないの?」


「ああ……。デンケルの三倍はいってる……」


「引くゲロね~……」


「そう? 無邪気で可愛いじゃない」


「アルマは、レイがお気に入りだな」


「母性本能をくすぐられるのよ」


「にしても、食べ過ぎよ! 完全に質量保存の法則無視してるじゃない!」


うほほほぉぉぉぉぉい!


俺は、宇宙船内の限られた食料で我慢していた食欲を、フルスロットル!


テーブルに並べられた食料を、片っ端から口に運ぶ。


うっめ! うっめ!


「あ! あれは、普通の人間種族が食べてはいけない物ゲロ! まずいゲロよ!」


うっ!


苦……。


ピタリと止まった俺へ、皆の視線が集まる。


まあ……。


『関係ない!』


【早く! 続き続き!】


再指導した俺の速度は、先程と比べて全く衰えはしない。


使用人さん達が片付けるよりも先に、ガシャン、ガシャンとサラを積み上げる。


「馬鹿って風邪ひかないだけじゃなくて、毒も効果がないのね」


****


ふぃ~。


体力と魔力がかなり回復した。


「も……もう、宜しいですか?」


侯爵が、引きつった顔で聞いてくる。


「ああ。お腹、満タン」


痛!


「食べ過ぎよ! すみません、ドロテア様」


「いえいえ、これくらい……」


殴るなよ。


ガキも食っていいって言ったじゃん。


いいって言うから、食っただけなのに。


やってらんね~……。


【ガキガキ言ってますが、彼女は十六歳ですよ? 以前なら……】


もう、俺もいい年になってきましたからね!


十八歳以下は、対象に入れない事にしました!


『まあ、そうせんとこの世の女性全て対象になるからな』


うん! もう、ここは涙を飲んで撤退です!


【まあ、どの道誰も相手にしてくれませんけどね】


ちょ! 待てよ!


『何より、好意を寄せられればストライクゾーンはどんどん広がるじゃろう』


【十二歳の少女に告白されてもなびくんじゃないですか? 女性に関しては、ユッルユルですからね】


俺をどんな目で見てるの!?


後、ほっといてよ!


おっとっと!


「俺! トイレ!」


「では、ご案内致します」


「一人、大丈夫」


****


トイレを済ませた俺は……。


何処だ? ここは?


ええ……迷いました。


あっ!


明り発見!


「グスタフ……私は、また人を巻き込もうとしています。私は……私は……」


おおぅ……。


ガキが写真立てを抱いて泣いてますよ。


これは、気楽に迷ったって入っていくのは……無理だな。


【当然です】


グスタフって誰だ?


戦死したのか?


「こっちよ。行きましょう」


「アルマ……」


「遅いから、迎えに来たの」


俺は、アルマに手をひかれて部屋へ戻る。


「侯爵にはね……。恋人がいたの……」


アルマから、再びもたらされる何? その設定? な、話。


この銀河には、大国が三つあるそうだ。


母星に隕石が接近した為、宇宙への進出を余儀なくされた、レード帝国。


まあ、そのおかげで一番技術が進んで領土……領空? も広いそうだけど。


資源が豊富で宇宙船保有数が一番多い、ノーザン公国。


宇宙進出は一番遅かったが、技術開発で独自の発展を遂げたルーニア共和国。


当初は、人種や言葉の違いで戦いのない日はなかったそうだが、十年前……社長の母星を帝国が占領したのを最後に、この三国が不可侵条約を結んだ。


その平和が破られたのは、二年前……。


レード帝国の皇族であるドロテアは、幼馴染でもあるノーザン公国公子グスタフと婚姻を進めていた。


その公子が乗った宇宙船が、突然行方不明になったらしい。


二国でこれでもかってくらい捜索したみたいだけど、見つからなかったそうだ。


そこで、公国と帝国の婚姻をよく思っていなかった共和国が、公国の大公をそそのかしたらしい。


公子の行方不明は、帝国の陰謀だと……。


それを裏付ける様に、公国と共和国の大使が乗った宇宙船が行方不明になった。


帝国の領空内で。


一色即発状態になったが、ドロテアの従姉に当たる皇帝がそれを避けようと、ドロテアの父親を大使に任命し会談を進めようとした。


しかし大使が乗った宇宙船は、公国領空内で消えてしまう。


そこからは、なし崩し的に帝国対公国+共和国連合の戦争へと突入。


その戦争が、一年を超え泥沼化しているらしい。


「う~ん……。戦争、よくない」


「そう。だから、侯爵様は母星の言い伝えに残る力を捜そうとしてるの」


母星の言い伝え……。


あれ?


変じゃね?


『確かに……。宇宙へ帝国が進出したのは、約八十年前』


【言い伝えは、千年以上前から残っているのに、宇宙の遺跡と伝えられている……ですか】


大昔に滅びた古代文明的な物でもあったのかな?


【まあ、私達の世界のように文明が滅びて、再度発展したと考えるのが普通でしょうか?】


『いや、もともと他の星から移住してきた可能性もあるのぅ』


ああ、それもあるね。


う~ん……。


うん! 分かんね!


****


侯爵からあてがわれた部屋へ入り、俺がベッドに座ると、アルマが隣に腰掛けてきた。


あ、独特だけどいい香りがする。


「……レイ?」


「何? アルマ?」


「貴方……私みたいになるのは嫌?」


ああ?


「意味、分からない」


「ちょっと、テレパシーを繋いでくれる?」


(どうしたんだ?)


「私達種族と、貴方達種族は体が違い過ぎて、結ばれる事は出来ないの……」


はい?


「でも、肉体改造すれば、貴方もアニ星人のようになれるの。逆は無理だけど……」


えっと……。


「私とじゃ嫌かな?」


俺に、メタルマネキンになれと?


はははっ……。


貴女は嫌いじゃないってか、好きだけど……。


俺のリスクでかいわ!


アルマと上手くいかなかったら、俺どうすればいいんだよ!


うん?


はぁ~……。


【明日……死ぬ可能性も十分ありますからね……】


俺の手に重ねられたアルマの手は、震えていた。


(ここは一つ賭けをしよう)


俺は、アルマを抱き締める。


「賭け?」


(そう……。全部が終わって、社員みんなが笑ってれば俺の勝ち)


「私はどうすれば勝てるのかしら?」


(社員みんなが泣いてれば、アルマの勝ちだ)


そう、俺が出したのは遠回りのNOと言う返事。


(俺は、負けず嫌いだから……。全力で行くからね)


「ずるいな~……レイは」


震えのおさまったアルマが、一度笑った後部屋を出て行った。


これでいい……。


これ以上俺に近づけるべきじゃない。


あんないい女を死なせちゃいけない。


『どうするんじゃ?』


【今回は、戦えるとは思えませんよ?】


まあ、何時も通り……。


やるだけやってみるさ。


『難儀な奴じゃ』


それから俺は、修練を済ませて眠りにつく。


****


翌日、ドロテア率いる大艦隊と戦場の最前線へと出発した。


元々、ドロテアの出陣は決まっていた事らしい。


貴族ってのは、権力がある代わりに、義務と責任が付きまとう。


直接戦闘に参加しなくても、前線での指揮は最低限の義務らしい。


帝国領土内は、侯爵率いる大艦隊の護衛付きで移動だ。


また、誰がつくった運命なんだか……。


三日後、最前線の母艦と合流した俺達は、皇帝陛下に謁見する。


どう言う世襲制度か知らないが、皇帝陛下は二十歳の美女だった。


「さあ、皆さん顔をあげて下さい。お姉……皇帝陛下から労いを受け賜りましょう」


お姉様って……。


まあ、従姉って言ってたよな。


「皆の者! このたびは、命をかけた任務への参加、心より感謝する」


皇帝陛下は、玉座から機械的な声で言葉を発する。


あんまり、感じはよくないな。


「言い伝えの力により、この戦争を集結させる事を切に願う」


なんか淡々と喋るねぇ。


本当に願ってるのかね?


『皇族としては、間違ってはおらん』


【あらゆることに、感情を込めるなんて不可能ですよね。まだ、労ってくれるだけましなんでしょう】


まあ、アルマ……てか、メタルマネキン回避の為に頑張ってみますか。


「陛下……。各将校から、被害状況報告が入りました」


「酷い……」


悲しそうな顔に変わるドロテアに対して、皇帝は眉ひとつ動かさない。


ある意味凄いね。


****


「あ~……緊張した」


「社長。これ、どうぞ」


俺は、謁見の間から引き上げたみんなに、お茶を配る。


「それにしても……レイ?」


「なんですか?」


「あんたよく、一週間で言葉覚えたわよね? まだ、イントネーションに違和感はあるけど、普通に会話出来てるもんね」


最近、言葉を習得するのが日課みたいになってるんでね。


「あんた、本当に記憶ないの?」


うっ……。


「アリマテン」


「まあ、テレパシーでは、お互いに嘘はつけないって話だから、嘘はついてないんじゃないか?」


ナイス! ヨハン!


ただ、そんな設定は知らなかった!


「まあ、そうらしいゲロ。それに、こいつに嘘をつく理由がないゲロよ」


念話って魔法ですから、バリバリ嘘ついてますけどね!


「まあ、連合のスパイ……も、こんな馬鹿じゃ務まらないわよね」


みんなが、笑ってます。


はははっ……。


誰が! 馬鹿だ!


殴り倒すぞ!


「ほれ! お代り!」


「俺も、頼む」


社長とデンケルがカップを差し出してくる。


緊張して喉がカラカラだったみたいだな。


あら……。


「お湯が無くなった。貰ってくる」


俺は、ティーポット片手に部屋をでる。


****


う~ん……。


【宇宙空間では、方向感覚がマヒするんでしょうか?】


また迷った……。


ちょ……泣きそう。


広いよ!


広過ぎるよ! この宇宙大母艦!


壁が全部変な金属だから、気配も読みにくいし!


もう! お湯が冷める!


あああああ!


頭を掻き毟っていた俺は、ガシャンと何かが割れる音が聞こえた。


うん?


「私は! 私は……」


この声は……どっかで聞いたな。


「アルベルト……クルト……すまない。私が不甲斐無いばかりに……」


あまりにも、声の感じが違うので分からなかった。


音のした場所を覗くと、皇帝がボロボロと涙を流していた。


「もう、百五十万人……。くそ! くそ! くそ!」


情報を確認する端末を、皇帝は素手で殴りつけていた。


さっきの音は、その液晶が割れた音だったらしい。


皇帝の手からは血が……。


「何が、国を守るだ! 何が皇帝だ! 私は……」


まあ、二十歳そこそこで、百億人の命を背負って……。


『百五十万人の死を受け入れるか……』


【公共の場では、さっきのように心を殺すのがやっとなんでしょうねぇ】


泣いてくれるなよ……。


美人が台無しだ……。


ピィーピィーと壊れていない端末が音を出して、ランプを光らせる。


「何用か?」


皇帝は音声だけで、その通信を受けた。


「陛下。ディーター伯爵から、戦力の補給依頼および……」


皇帝ってのは素の自分でいられる時間も、少ないらしい。


部下と会話をしながら、皇帝は手から滴る血をハンカチで拭きとっている。


「では、すぐに行く」


「はっ!」


「うん!? これは……」


自分の拳が白い光に包まれ、復元されている光景に皇帝はあっけにとられる。


さて、この迷宮をどうやってぬけるかな……。


「ああ! レイ! また、迷子?」


「ごめん、アルマ」


「こっちこっち」


「待て! そなた……」


俺は、振り向かずに手を軽く振りながら、迎えに来てくれたアルマに合流する。


これは……。


何が出来るか分かんないけど、頑張るしかないよねぇ……。


『仕方があるまい』


ですよね~……。


****


それから三時間後、補給の済んだ俺達は出発する。


連合領土内へ向けて……。


戦場に迷い込んだ輸送船を装い、戦場を駆け抜ける。


流れ弾をさけ、連合国の検問を社長達のはったりで突破した。


「よし! 戦場から完全に離脱できた!」


操縦士であるヨハンの声で、皆が胸をなでおろす。


ふぅ~……。


やる気を出したはいいけど、俺って全く役に立たないな。


【まあ、いいじゃないですか】


「ちょっと待つゲロ! 識別不能船三隻接近!」


うん?


「強襲艦二隻……強化護送艦一隻……通信、機体識別信号に返信なしゲロ」


えっ?


敵?


あれ? 魔力……。


魔力じゃね?


『どこじゃ? まさか……あの目の前の船か?』


多分……。


「あれは……公国の船だ……」


「くそ! ばれたのか?」


「いえ、それにしても返信なしはおかしいわ!」


皆に緊張が走る……。


「デンケル……念のため、あれを起動しておいてくる?」


「分かった」


社長の指示で、デンケルが何かのスイッチをいじり始めた。


なにして……おおぅ!?


なんだ!?


『魔力? うむ、魔力じゃ』


いきなり、船内の奥から魔力が発生し始めた。


何? どう言う事!?


「来た! 反物質魚雷! 二発!」


「回避!」


「ぐううう!」


俺達の乗る船は、アクロバットな動きで敵の魚雷を回避する。


Gがそこそこかかったので、俺以外のみんながベルトに必死で掴まっている。


普通の人間って、こんなもんだよな……。


『まあ、何事もなく腕を組むお前の方が、異常じゃな』


「あの三隻を敵と認識ゲロ!」


「あんな戦艦に、機関銃なんて豆鉄砲じゃ役に立たないぞ!」


えっ?


デンケルさん? もしかして……。


それって、勝ち目ないの?


ちょ! あの! ミサイルとかって無いの? この船。


どうすんの!?


「あれをかますわよ! みんな! 対衝撃準備!」


「はい!」


えっ!?


何する気!?


「行くわよ! 変形!」


へっ……変形!?


まさか!


この船って、ロボットに!?


夢のロボットに変形できるんですか!?


マジでかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


これは、燃える!


って……あれ?


【残念ですね】


『まあ、宇宙での戦闘に人型の意味は全くないからのぅ』


俺の乗る船の突端が、四つに割れて広がった。


その四つの間には、電流がバチバチって感じで光ってる。


なんだ……。


ロボットがいる世界に来たのかと、期待したのに……。


あ~あ……。


テレビみたいに、ロボット同士の撃ち合いが見たかった。


【それよりも! あれ!】


何?


おおぅ?


電撃が、円を形どり……魔方陣が浮かび上がった。


『これは……攻撃魔法じゃ。光の魔法か?』


ああ!


そう言えば、さっきから魔力が!


「いくわよ! フォトンクレイモア! ファイアー!」


魔方陣から、大きな光の球が敵に向かって飛んでいく。


完全に魔法だよ。


え?


こんな科学の世界に魔法なんてあるの?


あ……避けられた。


『いや! ここからじゃ!』


は?


おおおお!


敵が避けた光の球は、一度動きを止めて小さな無数の光の弾へと分裂した。


そして超高速で敵艦一隻に飛んでいくと、そのまま敵艦を沈めた。


『誘導型、光の散弾じゃな』


でも、敵が散開したから一隻しか沈められて無いな。


「チャージは?」


「まだだ!」


「どれくらいかかるの?」


「後……五分」


背後から感じていた魔力は、かなり弱まっていた。


五人のおでこに冷や汗かな? が、滲んで来ている。


さて……。


「反転して逃げられる? ヨハン?」


「無理だな……。敵の機動力が上だ」


「せめて、二隻沈められていれば……」


「待て! チャージ完了! ど……どう言う事だ?」


「デンケル? 本当なの?」


「ああ……」


「今は迷ってる時間は無いわ!」


二発目の光の散弾が、強襲艦を撃破する。


「神様ありがとう! 有難く、奇跡を使わせて貰ったわ!」


まあ、奇跡じゃなくて、俺が機関室の奥にある機械につながった水晶らしき物に、魔力を注入したんだけどね。


どう思う?


『難しいじゃろうな』


だよね~。


「そんな!」


「フォトンクレイモアが、かき消されたの?」


「なんなんだ! あの護送艦は! くそ!」


眉間にしわを寄せていた社長の目が、大きく見開かれた。


予想外の光景を、モニター越しに見たからだ。


「ちょっと……何をしているんだ! レイ!」


先に出した魔剣と聖剣を、船外作業服着用後握った俺は、部屋の空気を抜く。


「レイ! なにを!」


「あ! ちょっと行ってきま~す!」


****


命綱無しに、宇宙空間へと飛び出した俺は、障壁を展開する。


【宇宙に空気はありませんからね】


もう、障壁を蹴るしかないだろうな。


行くぞ!


【はい!】

『うむ!』


「な……なんだ? あれ?」


「なんだ? あの真っ白な円は? あれも、超能力なのか?」


おお!


抵抗が少ないから、意外に加速できるな!


回避しようとする護送艦よりも速く動けた俺は、フィールドを切り裂き艦内に侵入した。


魔力が充満している?


なんだこれ?


う~ん。


まあ、魔力が強い方に向かってみるか……。


うおおお!?


なんだあれ!?


『アンデッド!? いや、分からん!』


体の半分が、うごめくメタリックな管におおわれた半分腐ってるっぽい人間が、こちらに歩いてくる。


ゾンビ?


コアは……ある!


何あれ?


【さあ……】


そいつらは手の甲をうごめく管を、鋭い爪のように変化させ、俺に向かって振り下ろしてくる。


まあ、襲ってくるなら……。


コアを斬り捨てるのみ!


船外服で、かなり動きにくいがそれでもこんな雑魚にはやられん!


うわ~……。


いっぱい来た。


【連合の新兵器か……】


『また、裏で蠢くあれかもしれんな』


ははっ……。


なら!


俺の獲物だ!


メタルゾンビどもを斬り捨てながら、俺は船の奥へと向かう。


あれ?


メタルゾンビと、金属でできた五十センチぐらいの虫しか出てこない。


ボスは?


首を傾げながら、俺は通路の一番奥にあった扉を蹴破る……。


ああ! あれっぽい!


虫をバリバリと食べる大きなメタルゾンビが、操舵室らしき場所に座っていた。


この、気持ちが悪い魔力……。


俺は、これを知っている。


『幾度も感じた……これが悪意の魔力のようじゃな』


空気がなく、声は聞こえないがこちらに向かった威嚇してきているようだ。


なっ!?


速い!


鉤爪のようになった足で壁を掴み、高速で室内をとび跳ねている。


くっそ!


見えてるけど! 重力も摩擦抵抗もない空間で、この船外服!


障壁と壁を使い、俺もとび跳ねるが……。


くっそ!


追いつけない!


どうする?


…………。


よし!


行くぞ! 若造!


【はい!】


部屋の隅に立ち止まった俺は、敵の動きを目だけで追いかける。


素早く動き続けていた敵は、フェイントをかけた上で、俺の頭上から爪を振り下ろしてきた。


遅い。


【行きます!】


障壁で敵を宙に縫いとめ、剣で切り裂いた。


よし! 成功!


宇宙空間でも結構戦えるじゃん!


一息ついた俺の目の前が、赤く変色した。


宇宙服内に、ピィーピィーと警告音が鳴り響く。


え!?


ぬああああああ!


穴ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


あの!


穴ぁぁぁぁぁぁぁぁ!


【空気が漏れてます! 漏れてますぅぅぅぅぅぅ!】


『どうするんじゃ!』


えっと! えっとぉぉぉぉぉぉぉぉ!


あああ!


そうだ!


船外服の腰に着いたパックを開き、特殊なテープを取り出し、穴に張り付ける。


やばかった……。


『しかし、まだ漏れとるようじゃぞ?』


被っているヘルメットの内部に表示された赤色が、黄色にはなったがアラームは鳴り続けている。


とっとと脱出しよう……。


あれ?


なんだ? あれ?


金属の箱?


かすかに、感じの違う魔力?


棺?


『いや、この金属のせいで確かではないが生きておるようじゃ』


二メートルほどの金属の箱にある小さなガラスを覗くと、人間らしき男が眠っていた。


【空気! 無くなりますよ!?】


えっと……。


えっとぉぉぉぉぉぉぉぉ!


ふん!


金属の箱につながっていたケーブルを切り、その箱を担いだ。


こういう時、無重力っていいね!


あれ?


操舵室の大きな画面が、真っ赤になり数字がカウントされている。


ヤバいんじゃね?


『またじゃ……。この馬鹿は、爆発せんと気が済まんのか?』


俺のせいみたいに言うな!


【早く! 早く! 早くぅぅぅぅぅぅぅ!】


きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


****


空気が漏れ出す船外作業服で、無重力と戦いつつでっかい箱を担いで頑張りました。


結果は……。


死ぬ!


死ぬって!


死んでしまうって!


早くぅぅぅぅぅぅぅぅ!


マジで!


マジだって!


きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


爆発する敵艦から脱出し、船には何とかたどり着きましたが……。


真空の部屋に空気を満たす前に、俺の作業服内の酸素濃度がやばいレベルに……。


死ぬって!


早く! 早くぅぅぅぅぅぅぅぅ!


因みに、この部屋に空気が充満するまで……。


三分はかかります。


只今、ほぼ無酸素で激しい運動を……六分!


酸素……。


死ぬ……。


いし……意識が……。


マジで……。


こんな死にかた……嫌……。


あの……。


やって……。


やってらんね~……。

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