四話
あのさ~……。
『なんじゃ?』
この世界って、特に敵はいないみたいだし……。
俺、いらないんじゃね?
『まあ、敵との遭遇が百発百中とはいかんじゃろう』
はぁ~……。
もう、面倒だし、毎回ラスボスの前にポンと移動できないかな?
【流石に、それは無理でしょう。何より、相手が敵かどうかすら判断できませんよ?】
ああ……。
毎回毎回。
死ぬほど面倒くさい!
もう、敵と戦うから……。
覚悟は決めたから……。
敵出せよ! コラ!
【毎回どちらかと言えば、生活におわれてますからね】
面倒! すんごく面倒!
ああ! もう!
やってらんね~……。
「こら! 折角教えてるんだから、集中しなさい!」
「うぃっす」
只今、社長に言葉を教わってます。
艦内の仕事?
終わらせましたよ!
料理や掃除は得意ですからね!
「で! この場合は、していました。いい? する、じゃなく、していました」
「彼女は、仕事の、していますか?」
「違う! 彼女は! 仕事を! していました!」
怒るなよ……。
「彼女は仕事のしていました!」
「を! の、じゃなくて、を!」
なるほどね……。
『これは、二つ前の世界と文法の使い方が、ほぼ同じじゃな』
ああ。
単語とその意味……後は、発音を覚えれば使えそうだ。
「でも、あんた……やっぱり記憶が無くなる前って、この共通言語喋れたんじゃない?」
「それは、何を、意味、ですか?」
「え~……どう言う意味って事よね? 三日っで、テレパシーの補助があっても普通はここまで覚えられないわよ?」
記憶が無いこと自体が嘘なんで、実際に覚えてますが、何か?
【勉強は出来るのに……】
『不憫なアホの子じゃ』
アホって何ですか?
お前等あ……。
「次は、ここね。彼は! 料理を! 食べて! います!」
ちぃ……。
「彼は、彼女を、料理して、食べました」
「食べられるか! 怖いよ!」
痛い。
「彼女なんて、何処にも書いてないでしょ? わざと? わざとなの?」
結構真面目にやってるのに……。
「はぁ。疲れた。ちょっと休憩」
社長が差し出してくれた、コーヒーを俺もすする。
「聞いてるのも、勉強になるだろうから……。ちょっと、私の話を聞いてなさい」
「はい」
「これから会う客は……恩人って言ったでしょ? その人に失礼が無い様に、話しておくわね」
話が長いし、早い。
俺は、仕方なく念話を繋ぐ。
****
「ね? 恩人なの。変な事しないでね?」
「はい」
「じゃあ、私はヨハンと相談があるから……」
「はい」
「サボるんじゃないわよ?」
「うぃっす」
社長は、部屋を出ていく。
なかなかハードな人生じゃないですか……。
『そうじゃな』
社長は、元々故郷の星で王族なんだそうだ。
社長や他の社員が住んでいた星は、いきなり襲ってきた大規模な宇宙海賊に占領されて、皆奴隷になったらしい。
それを救ってくれたのが、今から向かうレード帝国のドロテア侯爵。
社長の母星や他の星も、帝国の傘下に入る事で帝国の一部となり生き残った。
何でも、社長が今の会社を起業するのも、その侯爵にかなり助けられたらしい。
あれだけ危険な商談に挑んだのは、侯爵からの依頼であり……。
今、大変な事になっているらしい、帝国と連合国との戦争を左右する品物なんだそうだ。
おい!
『なんじゃ?』【なんですか?】
あの社長、頭がおかしい!
【なんですか? いきなり】
だって! 自分が奴隷になって苦労してるのに!
俺の事いきなり奴隷にしやがった!
馬鹿ですか!
『どうせ、奴隷制度が元々普通の星で育ったんじゃろう。悪意なく人を、傷付ける者もおる』
アホですかぁぁぁぁぁぁぁ!
【奴隷でも、面倒を見てくれたじゃないですか】
もう!
しかし、戦争ね~……。
『何かするつもりか?』
いや、人間同士の戦争なんてどうしようもないし……。
『まあ、宇宙船同士の戦争など、わし等では何もできんな』
宇宙空間で、宇宙戦艦に勝てる人間がいるとすれば、もうそいつは人間じゃありません!
てか! 無理!
何百メートルも、何キロもある金属の船なんて、剣で切れません!
勝てません!
勝てる気がしません!
さて、夕飯を作り始めるまで時間があるし……。
「私、の、戦い、を、彼女、で、食べる」
う~ん……。
違うな。
「私、の、戦い、は、彼女、を、食べる、事です!」
うん! これだ!
【絶対間違ってますって】
「ふふふっ。女の子は食べ物じゃないわよ?」
開けっ放しになっていた扉の向こうには、シルバーボディの女性が立っている。
「アルマ……。おかしい? 言葉? 俺も?」
「本当に、片言はかなり喋れるようになったのね。凄い凄い」
「はい。聞く、少し、問題、ない。喋る、問題、ある」
「じゃあ! お姉さんが、付き合ってあげよう!」
本当にこの人が一番いい人だ。
これは、惚れるね。
マネキンにしか見えない事と。
ぶつかった時に分かった、その大きな胸が金属並みに堅くなければ……。
『童貞をこじらせると……ストライクゾーンが拡張するんじゃな』
【もはや、ブラックホール並みですよ】
俺の打率は、十割九分だ!
【百九パーセントって……百超えてるじゃないですか】
『惚れっぽさであって、女性と上手くいくかは別じゃがな』
ほっといて下さぁぁぁぁぁぁぁい!
****
アルマに言葉を教わりながら、目的地に着いたわけですが……。
はわわわわ……。
なっ……。
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
【これは凄い。もう、凄いとしか言いようがないですね】
『これ……あの……夢じゃぁぁぁぁぁぁぁ! 目を覚ませぇぇぇぇぇぇ!』
落ちつけジジィ!
でも、俺も夢のような気がするぅぅぅぅぅぅ!
【おち! 落ちつきましょう! あの……現実です! 少なくても二割は!】
八割夢って、それもうほぼ夢じゃねぇぇlか!
なんですか?
ここまで来て夢オチですか?
てか、夢オチでいい様な気がします!
「何時もあまり表情を変えない貴方が、そこまでアタフタするなんて、面白いわね」
「アルマ! あれ! あの……何?」
「あれが、レード帝国の帝都……。人工惑星グラードよ」
人工?
人工で惑星作るって何ですか!?
『駄目じゃ……。わしもう寝る』
処理落ちするな!
「元々は、隕石の衝突で粉々になった星だったんだけど、見ての通り人工物で補強して惑星として機能するようにしたの」
星から、この前の軌道エレベーターが無数に生えていて、そのステーション同士が全部連結されている。
もう、オゾン層が金属で出来てるみたいだよ。
【星と直接つながっていないステーションらしき物も、埋め尽くすように浮いてますよ】
もう、宇宙船なんて何台いるか分からん。
『あそこは、検問所の様な所か? 宇宙船が蟻のように並んでおる……』
【うわ! あれ! 入口が!】
えっ? マジでか!?
あれって只の岩じゃないの?
「ああ、あれはさっき言った、惑星の破片を改造してステーションにしてあるの。あの中にも、結構立派な町が広がってるのよ」
田舎者が大都会に来たとかって、レベルじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!
もう、訳が分かりません!
【あわわわ……】
『あばばば』
お前等、胃がなくてよかったなぁぁぁぁぁ!
取り敢えず、俺の回復してくれよ!
もうすでに、口の中が鉄の味です!
「おーい! そろそろ、侯爵様の家に着艦するよ~」
社長が船内放送で、着艦を知らせてきた。
「さあ、レイも行きましょう」
俺は、アルマと一緒に操舵室へと向かう。
****
「衝撃に備えて」
既に、他の四人は自分の席でベルトを締め終わっていた。
地上への着陸では無いので、危険や衝撃は少ないらしいが、念のため何時も椅子に体を固定する。
でもね……。
『これは、何か意味があるのか?』
さあ。
この操舵室の席は、五つしかない。
俺は、壁に無理やりつけた金具と紐で立ったまま自分を縛る。
多分、本格的な着陸失敗で、最初に死ぬのは多分俺だ。
優しさって何でしょうね!
えっ! 社長!
言ってみろ!
【何処に行っても、この扱いは……。ある意味、奇跡ですね】
そんな奇跡いらん!
操舵席の床と計器などの場所以外に映し出された外の映像から、星の周りに浮いた一つの大きなステーションへと入って行く事が分かった。
低速で進んでいた船が、金属の大きなアームで固定されゴウンと船内に音を響かせる。
それと同時に、薄暗くなっていた操舵室が明るくなり……。
外の景色が消えて、只の金属板に変わる。
どんな仕組みだよ。
『さっぱりじゃ』
「さあ! 降りるわよ!」
「へ~い」
****
船を出て、金属でできた連絡通路を抜けると、巨大な扉が開き……。
執事らしき人が、誘導してくれる。
お……おおぅ。
これは……。
【素晴らしい! これは、凄い!】
映像?
いや! 手入れしてる人がいる! 本物かよ!
自動で動く床で進むその通路は、一面のバラに囲まれていた。
むせかえる様な甘いバラの香り……。
『見事な庭園じゃ』
宇宙でも植物って育つんだな……。
偽神の作ったステーションとは、生命力や活気が違うなぁ。
【そうですねぇ!】
てか……おぇ。
ここ臭いきつ過ぎ!
「いい香りね~」
「アルマ……。ここ、臭い、強い」
「何? レイは匂いに酔った?」
俺は口と鼻を押さえている……。
きっつい。
「ここは、我が主の自慢なのですが、お気に召しませんでしたか?」
「ごめん。ちょっと、臭い、強い」
「執事さん。こいつの事は気にしないでください」
社長!
俺の事勝手に決めるなよ!
もうひとつの扉をくぐると、臭いは薄くなって……。
おおおおおおお!
『なんじゃ? これは? こういう生物か?』
空中に魚が泳いどる!
てか、この空間自体が水中みたい!
「あの! 社長! 魚! 空! 泳いです!」
「恥ずかしいからやめて……。後、泳いでるね」
だって!
そんなに顔真っ赤にする事ないじゃん!
「これは、立体映像です。本当の魚では御座いませんよ」
立体映像?
駄目だ……。
もう、驚き過ぎて……正直疲れてきた。
『わしもじゃ』
【私も……】
それからも、よく分からない物が並ぶ通路を進んだ。
おい。
【はい……】
若造も疲れてるな。
ここって、大きな金属の箱みたいな中だったよね?
【そうですよ】
最終的に、広い庭の真ん中に大きな館があるよ。
俺達は、何時の間に地上に降りたんだ?
庭の端が見えませんが?
「あんた本当に、何も知らないのね~」
社長! 俺は、そう言ったでしょうが!
「あんたが考えてる事は大体分かるから説明しておくと、庭の端が立体映像になってて、先まで続いてるように見えてるだけよ」
はははっ……。
何でもありかよ。
****
「待っていましたよ! キール!」
ゴンっと頭を突き抜けるような、衝撃が走る。
痛いわ!
建物の奥で、侯爵? らしき女に会った俺は、ぼ~っと眺めてました。
因みに俺以外の全員は、跪いて頭を下げている。
つまり俺は、デンケルにおでこと床をぶつけられたわけですよ。
頭下げるっていうか、押し潰されたカエルみたいになりました。
「頭をあげて下さい!」
「御無沙汰をしております、ドロテア様」
「あら? その方は?」
「うちの新入社員のレイです」
あれ? 美人じゃなくて、美少女?
ガキじゃね?
【かなり若いですね】
ん! ジジィ!
疲れてても、返事くらいしなさい!
『わしはもう眠りたい』
ええい! もう!
「あ! い! さ! つ!」
痛い痛い。
俺が、再びぼ~っとしていると、社長に首を絞められました。
「あ、俺、レイ。よろしく、お願い、した」
「はい。宜しくお願いします」
「すみません。こいつ、言葉が不自由なもので」
「構いません。それよりも、あれは?」
「はい! ここに!」
社長が先日の商談で買った、金属の筒をガキにうやうやしく持っていく。
「これで、揃いました。ただ……」
うん?
社長とガキが……。
ひそひそと、何喋ってるんだ?
「任せて下さい! ドロテア様!」
「危険が伴います。いいのですか?」
「はい!」
「ここにいる全員、貴方に命を救われた者達です!」
おやおやおや?
俺は、救われた記憶なんて無いぞ?
「だから、貴方様の為なら命を惜しむ者なんていません!」
いますよ!
ここに!
『またじゃ』
【巻き込まれるのは、戦えても戦えなくても一緒なんですね】
なんじゃそれ!
「なあ! みんな!」
俺以外の全員が、笑って頷く。
いやいやいや!
「私達は、ご存知の通り、連合との戦争をしています」
ご存じじゃありません!
「この遺跡には、平和をもたらす力があると言い伝えられています。こうしている今も、私達は多くの同胞の命を失っています」
自分で行けよ。
「私達は、残念な事に戦争の為に自由には遺跡へは迎えません。ですから……」
あ……。
そう言えば……。
【商船は、戦争や領土に関係なく移動できるんでしたよね?】
そうでした~。
「分かっています! 侯爵様! 私達が、必ずその力を持ち帰ります!」
俺以外の五人が、侯爵の前で手を重ねる……。
えっ?
俺も行かないと駄目?
今回俺は、役立たずですよ?
宇宙船が爆散すれば、流石に俺でも死にますよ?
うわ~……。
みんなが、空気読め的な目で俺を見てるよ。
逃げ道なしかよ。
仕方なく俺が手を重ねると、みんなが……。
「よし! やるぞ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ! 」
もう! 勘弁して下さいよ!
あんな宇宙船一台で、戦場を駆け抜けて!
危険かもしれない遺跡に行って!
なんだかよく分からない力を、持って帰ってくるって!
何の会社だよ!
どんなトレジャーハントだよ!
馬鹿か!
いや……。
馬鹿だお前等! コンチクショウ!
勝手に、人の命までかけるなよ!
何? その目は?
使命感に燃える目ですか?
俺! 完全に関係ないからね!
【あ~あ】
『ここで死ぬのは……流石に嫌じゃな』
何をどう取っても嫌だ!
馬鹿か!
馬鹿なんですか!?
【でも、あなたはそれを口に……】
はいはい!
出せませんよ!
『チキンが』
俺の根性無しぃぃぃぃぃぃぃぃ!
『何時もは空気を読めんくせに……』
【こんな時だけ……】
もう! 自分で自分が嫌になる!
あ~あ……。
やってらんね~……。