三話
「で? どうなの?」
いきなりなんだよ。
「返事は?」
(まあ、そこそこは)
「デンケルが来てくれれば、一番安心なんだけどね」
何をしようって言うんだ?
『まあ、何かの危険が伴うんじゃろうな』
ですよね~。
「あんたは、顔に似合わずいい体してるし……。荷物もそこそこ持てるわよね?」
(まあ、そこそこは……)
てか、顔?
顔って何だ?
なんだよ! 言ってみろよ!
お前基準で不細工ってか!?
【また……】
言ってみろ!
【きっと逆ですって……】
暴れるから!
もう、後先とかどうでもいいから!
『お前は、コンプレックスをどうにか出来んか?』
ん、無理!
顔が悪い相手に、不細工って……。
虐めですか!?
止めなさいよ~って!
【もう少し、自信を持ちましょうよ。悪くないですって……】
ははっ……。
ここまでもてないんだから、自身なんて持てるわけもない……。
本で読んだけど……。
限りなく標準的な顔が、美男美女なんだって。
『そうらしいな……』
今まで見てきた顔……親や友達を判断基準にするらしいよ。
【なるほど……】
自分の顔って毎日見る事が出来るから、それを標準と勘違いし易いんだって……。
【ああ、そうなっちゃいます?】
不細工で、ナルシストって最悪じゃん!
もう、俺の自信なんて欠片も残ってないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!
ああああ!
【本当に悪くないのに……】
『自分が美形じゃとは……思えんじゃろうな』
【女性との縁が、ことごとく消えますからね……】
ああああああ!
整形ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
したい……。
やってらんね~……。
痛!
「聞いてるの?」
なんでここの奴等は、いちいち頭殴るんだよ! くそ!
(すみません。なんですか? 社長?)
「聞きなさいよ! だから……デンケルは整備をするから、船に残るの。で、ヨハンと私とあんたで、商談に行くの! いいわね!」
(はい……。で? 何で、喧嘩の強い弱いが関係するんですか?)
「ちょっと、訳ありの商品を仕入れるの」
ああ、それでか。
あれ?
これって、逃げるチャンスじゃね?
てか、ここしかないんじゃね?
『今回は任せる。好きにせい』
よし!
状況を見て逃げよう!
【まあ、流石に奴隷はちょっと嫌ですよね】
うん!
もう、宇宙空間なんてクソ食らえ!
****
三時間後、なんだかすごい場所に来ました。
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「ここは、星に固定された宇宙ステーションよ。で、あの軌道エレベーターで、地上まで降りるのよ」
必死で、窓から外を見ていた俺に、アルマが説明をしてくれる。
(直接、地上に降りたりはしないんですか?)
「出来るけど、今回は必要ないからね」
何で?
首を傾げてる俺に、さらに説明してくれる……。
アルマがこの船で、一番いい人だ。
外見が普通なら、惚れてるよ。
「ふふっ。地上への降下も、地上からの大気圏離脱も、リスクが大きいし燃料や機材諸々を消費するの」
(へ~……)
「だから、人が降りるだけでいい場合、普通そうするわ。何より一般人は宇宙船なんて、個人所有してないのよ」
(まあ、お金かかりますよね)
「ええ。ここは、他の星への定期便を使う為にくる人が、一番多いわね」
(なるほど)
「因みに、あの軌道エレベーターはかなりの積載が可能だから、他の星から運送された荷物なんかも地上に降ろしてるのよ」
(なるほどね~……。よくできてますね~)
「ふふふっ。レイは本当に、頭が空っぽになってるのね」
(すんません)
近づいて分かったが、デッカイ円盤状のステーションには、いくつも出入り口らしきものがあり……。
絶え間なく、宇宙船らしきものが出入りしている。
近づくにつれ、その入口の一つ一つがとんでもなく大きい事が分かった。
『想像を絶するとは、まさにこの事じゃな』
すっげぇぇぇ……。
うん?
社長?
「ほら! 行くわよ!」
(へ~い)
手招きされて近付いた俺の首に、社長が手を伸ばす。
おおう?
(社長……あの、これは?)
「見ての通り、特殊合金製の首輪よ」
(えっと……)
「あんたはまだ、借金が残ってるの! そのまま行くわけないでしょ!」
読まれた……。
でもまあ、これくらいなら逃げるけどね!
俺は、散歩中の犬のように首輪の鎖を引かれながら、迷宮のようなステーションを進む。
【これは、凄い】
亜人……宇宙人がわんさかいるよ。
【ここでは、私達の言う人間も一種族に過ぎないのかも知れませんね】
おおう?
デッカイナメクジが、服を着ている……。
えっ?
魚! 魚が歩いてる!
『あれは……虫? 人? なんじゃ?』
【あれ! 五メートルはありますよ……】
なんだ? この魔窟は!?
ぐえ!
「ほら! キョロキョロしない! 行くわよ!」
首輪引っ張るな!
苦しいんだよ!
俺達は、何かのチケットを何かの機械に入れて、軌道エレベーターと言うものに乗った。
『何か、あれじゃな。列車と言う乗り物のようじゃな』
ああ、似てるね……。
****
乗り物を変えて、地上の見た事もない近代的な都市を抜け。
なんだか、俺が見慣れた雰囲気の街へとたどり着いた。
【これは……スラムでしょうか?】
建物のグレードが急激に下がり、歩いている人間もなんかチンピラみたいに見える。
露店も……あやしい物売ってるな。
『まあ、何かは分からんがな』
え~……。
こんな場所?
何の商談だよ。
社長が進んでいくのは、スラムの怪しい建物……。
それも、酒場の裏口を抜けてさらに地下へと降りていく。
もう完全に、違法な物を買う気だよ、この人。
おおう……。
厳つい宇宙人が守る扉を抜けて、ソファーに座った社長とヨハンの前には、緑色のキモイ宇宙人。
あ? 俺は、後ろで立ってます。
ソファーが二人がけだし、喋れないなら交渉の手伝いは出来ないからね。
うん?
社長の雰囲気が……。
ちょっと繋げるか。
「値段が約束と違うし、これは本物じゃないね」
見たまんま、胡散臭い宇宙人じゃん。
てか、後ろに銃らしきものを構えた厳ついのが三人いる時点で……。
騙そうとしてるんじゃない?
言葉分からないから、俺はよく分かんないけど。
「私を舐めるんじゃないよ!」
うん?
社長が眼帯をめくる。
中から、真っ赤な瞳が……。
右目は、ブラウンなのに……。
何? オッドアイを隠してたの?
【にしても、眼帯で隠すのは変ですよねぇ】
魔力は、感じない。
「私のこの目は審美眼って言う、嘘を見抜く目なんだ! せめて、商品は本物を用意しな!」
審美眼?
『絵や彫刻を、見極める能力の事じゃったか? まあ、鑑定する力じゃな』
何? そんな特殊能力持ってるの?
おおぅ?
今! あの!
ずれた!
【カラーコンタクトレンズってやつですね……。多分はったりでは?】
『まあ、商談には多少のはったりも必要じゃろう』
まあ、よく考えるこって……。
あ……でも、騙されたっぽい。
緑の宇宙人が指を鳴らすと、奥から形のよく似た金属の筒を持った……虫? が出てきた。
なんだ?
社長、まだ怒ってるよ。
「約束の十倍じゃないか! 他の商談相手? こっちが先だろうが! ふざけるなよ!」
なんだか、空気がピリピリと……。
今のうちに逃げようかな?
「約束の二倍! これが、限界だ! これ以上は……」
うおお!
ヨハンすげぇぇぇ!
後ろの三人が銃を構えた瞬間、ヨハンの銃が火を吹いた。
【一瞬で、三人の腕にそれも、正確に当ててますね。凄い】
俺、銃は使えないから、素直にすごいと思うよ。
『そう言えば、以前撃った時全弾当たらないだけではなく、味方に誤射をしたな』
自分……。
不器用なんで……。
てか! いいじゃん!
その後、復元させて敵は全部斬ったじゃん。
「さあ! どうする?」
お!
交渉成立か?
奥の部屋に通されてって……。
えっと。
え? いいの?
そんなに素直に付いて行って……。
****
あぁぁ、やっぱりか。
これって……。
『騙された様じゃな』
奥の部屋は、地下にしてはかなり大きなものだった。
その中に居たのは、四メートル強のメタリックな肌をした巨人が待っていた。
ヨハンの撃った銃は、その皮膚ではじかれましたよ。
あ~あ。
さっきの部屋に居れば、こいつ出てこなかったのに。
社長は、歯ぎしりねぇぇ……。
この場合は、俺を盾にして逃げ出すかな?
「駄目だ、ヨハン! ここは、三人で逃げる方法を考えるんだ!」
へ~……クズではないのか……。
「駄目だと言ってるでしょ! あんたもレイも……私の仲間だ!」
奴隷に向かって仲間ね~……。
はぁ~……。
【まぁまぁ、何時もの事じゃないですか】
また、何時ものセリフだよ。
仕方ない。
ブチンと何かが引きちぎれる音が、社長の耳に届く。
「はっ!?」
鎖を引きちぎった俺に、社長は目を丸くしている。
まあ、俺は説明も面倒なんで、そのままデカイのに向かいます。
何かを喋りかけて来てるが、全く分かりません。
なので……。
俺流の交渉を……。
ローキック!
おお、血は赤いんだ。
思い切り蹴りつけた、巨人の左すねは凄い音を立てて、骨が飛び出ました。
どうも、構造は普通の人間と変わらないっぽい。
こっちは……踵落とし!
巨人が倒れて、いい位置にあった右ひざがグシャっと……。
うん! ぺっちゃんこ!
けけけっ……。
『また、出たわい。悪い癖が』
ええい、もう!
ソバァァァァァット!
足を押さえて、転げまわるのが目ざわりなので、胸部を蹴り飛ばして巨人を壁にぶつけます。
よし!
動きが鈍くなった!
【足が、膝まで埋まってましたよ?】
知らんな~……くくくっ。
お……。
ふん! ふん! ふん! ふん! ふん!
涙を流してる癖に、生意気にもまだ右腕を俺に伸ばしてくるので……。
指を一本一本空に向けて、アッパーで突き上げてみました。
【どう見ても、ギブアップだったんじゃ……。指の付け根が、全部グチャグチャじゃないですか】
さて! そろそろ、本格的に交渉開始だ!
【え!?】
『お前のそれは、交渉ではなく恐喝と言う』
喋れなくなると困るから、取り敢えず……。
鼻ぁぁぁぁぁぁぁぁ!
俺の拳が肘まで埋まった所で、いったん引きぬく。
おお!
この鼻なら、後三発は殴っても交渉出来るな。
『この悪魔め』
うけけけ……あん?
(なんですか? 社長?)
「もういい! やり過ぎだ!」
社長と、ヨハンに羽交い絞めされました。
仕方ない、今日の交し【力技】はここまでだ。
……。
若造! 変なセリフを挟み込むな!
【私は、間違えてません】
お!
今日は、まだまだいけそうだ。
その後、銃を持って押し寄せてきた宇宙人を三十人ほど……交渉しました。
『お前の言葉は、根本的におかしい!』
くっくっくっ……。
で、スムーズに商品が買えました。
ただ、社長に少し文句を言われたが、奴隷から下働きに格上げしてもらえました。
毎度だけど、俺の力は超能力って事で。
『この嘘付き悪魔の変態め』
おい!
変態はおかしいだろうが!
せめて、変態はやめろよ!
【じゃあ、変態ドS魔人】
おい!
肝心の変態が残ってる!
まずは、そこを消せ!
後、俺はノーマルだ!
【『はぁ?』】
ちょ! お前等感じ悪!
****
「これは、恩人から頼まれた大事な商品だったんだ! 少々やり過ぎだけど、よくやった!」
(はぁ……)
宇宙船に戻ってから、俺は社長からかなり褒められた。
後、やり過ぎだと再度怒られた。
「これであんたも、正式にうちの社員だ! これからも頼んだわよ!」
(そりゃ、どうも……)
こうして、俺は有限会社キール商会の正式社員になった……。
身分は一番下だけど、デンケルに殴られる回数は減ったよ。
『まあ、そこは身分ではあるまい』
あのメタリック巨人は、デンケルより強い種族だったらしい。
まあ、所詮宇宙人でも人間ですから。
負けませ~ん。
さて! 今日のご飯は何を作ろうかな~。
『おい、馬鹿』
なんだよ!
てか、馬鹿って言うな! クソジジィ!
【当初の予定を忘れてまん?】
当初?
え~……。
あああああ!
逃げるの忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
やってもうたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
【はぁ~……】
『アホの子……』
ああああああああ!
もう、ステーションから出港しちまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
あ……。
俺の自由が……。
やってらんね~……。