二話
「積荷を駄目にした事と、勝手に乗り込んだ事! まずは、謝るとかってないの?」
あわわわ。
『落ちつけ、馬鹿』
馬鹿じゃありませ~ん!
「何? 喋れないの?」
あの……。
あれ……。
その……。
あばばばば。
【情けない】
「聞いてるの!」
(あの……ごめんなさい)
「うん? あんたもしかして、エスパー?」
エスパー……。
(はい! そうです!)
『また、この馬鹿は……』
【嘘が嘘を呼ぶ、最悪の雪だるまにならないといいんですがね】
ちょ! もう!
なんでお前等は、不吉なことばっかり言うの!?
ばっかじゃね~の!
『馬鹿はお前じゃ』
もう、嫌だ。
こいつ等、最悪。
はぁ~……。
やってらんね~……。
「分かった! テレポートに失敗したのね!」
テレポ……。
うん!
そう! もう、それでいい!
(はい)
「なるほどね……。で?」
(で?)
「名前とか、状況説明をするんじゃないの?」
えっと……。
何をどう喋ればいいの?
状況が、全く分からない。
何を説明すればいいの?
俺は、どうすればいいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
誰か助けて下さぁぁぁぁぁぁぁぁい!
「う~ん……」
えっと……。
もう、適当になんか言っとく?
『やめておけ』
どうしようかな~。
港の近くにある倉庫で、テレポーテーションの練習してて……。
しくじった!
うん!
これだ!
【自分が、ことごとく選択ミスするって覚えてます?】
じゃあ!
港じゃなくて、平原で!
【違うと思いますが……】
「あんた、もしかして記憶が混乱してる? 確か、エスパーって記憶が混乱したりするんでしょ?」
うぉん!
(はぁ……。ちょっと、記憶がとんでるみたいです)
「なるほどね。で? 名前も覚えてないの?」
(あっ……レイです)
「じゃあ、レイ。それ以外は?」
(それが、全く覚えてません……)
「う~ん……。テレポートって、どれだけの距離が移動できるか分からないけど……」
セーフ?
【多分】
余計な事喋らなくてよかった……。
「惑星間は移動できないわよね? てことは、あの星から来たの?」
はい?
惑星? 星?
はい?
俺は、女が指差す丸い窓に目を移す。
おおぅ!?
はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
動転した俺は、窓に顔をべたりと吸いつける。
あの!
これ……。
え?
【ちょっと……これは……】
『予測と対策を、考えておくべきじゃった……。絶対無いとは言い切れん……』
目の前には……。
はい?
宇宙空間らしき場所が見えますが、何か?
てか! 俺はどこにきてるの!
馬鹿なの!?
「あんたもしかして、ここが宇宙船の中だって分かってなかったの?」
分かってませんでした!
てか!
宇宙船!?
普通の船だと思ってました!
宇宙って! 馬鹿ですか!
こんな場所、人間の来ていい場所じゃないよ!
何してんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「何を呆然としてるの? もしかして、本当に何も理解できてない?」
俺は、必死で頭を上下に振った。
目の前にいる女は、呆れたように大きくため息をつく。
てか! よく宇宙船の中に出られたな!
ちょっとでもずれれば、宇宙の真ん中に一人ぼっちですよ!
空気がありませんよ!
流石に死んでしまうわ!
なんだかんだで、狭間の中って呼吸出来ますからね!
【流石の悪運……】
「母星や、連絡できる相手は?」
(分かりまてん……)
「何か、覚えてる事は?」
(名前だけ……)
「たく……どうするの! この水!」
ひぃ!
怒ってらっしゃる!
【今回は、逃げる事も出来ませんね】
「手間もかかるし、値段もそこそこするのよ? もう!」
ひぃ!
ごめんなさい!
「仕方ないわね……。体で、払って貰おうかしら!」
体……。
体ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
えっ!?
えっ!?
いいんですか!?
罰じゃなくて、御褒美になりますが!
いいんですか!
【これは、あれでしょうね】
『多分そうじゃろうな』
ちょ! あの!
すぐにでも、脱ぎますが?
「いいわね!」
(喜んで)
「じゃあ、あのロッカーにモップが入ってるから! 排水出来てない水を、拭きとって!」
はは~ん。
「さあ! 駄目にした水の分、きっちり働いてもらいますからね!」
はいはい。
分かってました!
はいはい!
体って! 労働力ですよねぇぇぇぇぇぇぇ!
分かってましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!
『【予想通り】』
そうですねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「じゃあ、私は別の仕事があるから、終わったら操舵室にきて」
(へ~い)
「あ! そうだ! 私は、キール! この船の船長で、この会社の社長! 宜しくね!」
「ウィーン……パシュ」
自己紹介を背中越しにして、社長はそのまま部屋を出た。
てか、あの扉かっけぇ。
金属の自動ドアかな?
『宇宙船だけに、あんな何でもない扉でも、密閉性が高いようじゃな』
【ただ、壁のスイッチで開きましたから、自動ドアではないと思いますよ?】
うっさい。
さて、掃除をするか……。
ロッカーへ向かおうとした俺の耳に、ゴツ、ゴツと規則的な音が届く。
足音? にしては、やけに大きいなぁ。
おう?
うおう!
モッモッモ! モンスター!
何?
ここは、宇宙船って言うダンジョンですか?
何? 何?
倒せばいいの?
【いえ……。何か喋りかけてきてますよ?】
『魔力も、人間より少し強い程度じゃ。落ちつかんか』
えっと……。
「端末に情報が流れた、新入りのレイってのはお前だな?」
……。
(はい)
目の前の三メートルほどのムキムキ一つ目巨人が、話しかけてきた。
ごく普通に……。
「俺は、デンケル。主に、整備をやっている。宜しくな」
(はい。宜しくお願いします)
挨拶をしてくれた、ムキムキ巨人はそのまま工具らしきものを持って、部屋を出て行った。
あれ?
亜人種?
【多分……】
斬りかからなくて、よかった~。
ふぅ~……。
****
掃除を済ませた俺は、その倉庫らしい部屋の出口へと向かう。
ドキドキ。
俺がボタンを押すと、プシュンと気密が破れ、ウィィィンと音を出して扉が横方向へ開かれる。
おお!
この扉かっけぇぇ!
何これ?
かっけぇぇぇ!
『ほれ! 早くいくぞ! 状況を確認するんじゃ!』
へいへい。
十回ほど開閉をした後、通路を進む。
おお……。
全面金属の通路……。
只の船とは一味違うな。
な!?
なんだ? あれ?
マネキン?
アンドロイド!?
何か、ちょ!
エロいけど、怖い!
通路の先から、つるっつるの女性らしき物が歩いてきます。
女性の輪郭と、ルビーのような目だけがついた、マネキンらしきものが……。
はっ! 話しかけられた!
繋ぐか?
『アンドロイドでは繋がらんぞ?』
「貴方がレイね? 私は、アルマ。宜しくね」
(は……はい。宜しく)
「あら? 貴方は、アニ星の人間を見るのは初めて?」
アニ星?
……。
『よく、漫画で読んでおったじゃろうが』
あああああ!
そうだよ! ここ宇宙!
宇宙人!
宇宙人じゃん!
(はい。初めてでして)
「私達は、毛が生えてないし、皮膚が銀色なの」
へぇ~……。
「それ以外は、みんなと同じなのよ?」
ほほぅ。
「だから……そんなに、ジロジロ見ないで。さすがに恥ずかしいわ」
(あ! ごめんなさい)
「次は勘弁してね。じゃあ、また後で」
まさか、宇宙まで来てしまうとは……。
****
なんだか、計器やらモニターがたくさんある部屋に、社長と、普通の人間に見える男と……。
両生類?
【こういう、種族の方では? リザード族もいるくらいですから……】
何かを喋りかけている社長に、念話を繋ぐ。
正直、繋がないと何を言っているか全く分からん!
なんだか、三人が同時に話しかけて来てる……。
(あの……俺、一人一人しか話が出来ないっす)
「ああ、なるほど。じゃあ、一人ずつ挨拶してくれる? 後、そこにある船内服を着なさい。酷い格好よ?」
まあ、毎度ながら爆発に巻き込まれましたんで……。
でも、これは宇宙服かな?
ピチピチだけど、白地にブルーのライン……。
結構、格好がいいな。
『お前のそのセンスは、わしにはわからん』
「多分、サイズは問題ないはずだから、先に着替えて来て」
(ありがとうございます)
「ああ。もちろん、その服のお金もツケだから」
この守銭奴が。
【まあ、ここは素直に従いましょう】
ちぃ……。
服を着替えた俺は、残り二人……。
操舵士のヨハンと、通信士の両生る……ハンスに挨拶をする。
「宜しく」
(お願いします)
「宜しくゲロ」
(宜しくお願いします)
ゲロって言った!
このカエル! ゲロって!
『いちいち反応するな』
だって!
うん? 社長?
「いいな! 今日から、こいつが私達の新しい……」
なんだかんだで、雇ってもらえたのか……。
「奴隷だ!」
おや?
『落ちる所まで落ちたな』
「何でも言いつけるんだ。こいつに拒否権はないからね」
無いんですか?
【まあ、美味い話なんて無いんですよね……】
それも無いの!?
何でこうなるの!?
毎回毎回毎回……。
ええい!
コンチクショォォォォォォォォ!
****
「うん! 今日の料理も中々だったゲロ」
(どうも)
食事の速度が遅い、ハンスの皿を下げる……。
また、これかよ……。
宇宙船から逃げられなくなって二日目から、俺は食事を作る係をしています。
『お前……海賊船でも、同じことをしておったな』
やってましたよ。
てか……。
なんだよ、これ?
あの時は、陸地まで走れないから仕方なくだった……。
【そうなんですか】
今なら、海のど真ん中でも走って逃げる事が出来るよ。
『まあ、そうじゃろうな』
でもね……。
宇宙なんて無理だから!
絶対無理!
【まあ、諦めましょう】
何で!?
何で、こんな事になるの!?
無理に閉じ込める事ないじゃん!
馬鹿か!
てか、宇宙の星間戦争って何!?
そこまで行くと、もうどうしようもないからね!
俺にも、不可能って結構あるからね!
あ~……もう。
この世界は、師匠の管轄だって……。
宇宙怪獣とか出てきても、流石に勝てないって。
無理だって。
うん? デンケルが……。
(なんですか?)
「さっき揺れただろ? 岩に外装を擦ったようだ。修理を手伝え」
(へ~い)
とても、動きが制限された宇宙服を着用し、デンケルと外出用の部屋に向かう。
部屋の赤いランプが消えるのを待つ。
何でも、空気を抜いて真空にしてるそうです。
もう、何をしているか俺にはよく分かりません。
****
宇宙船の外に張り付いた俺は……。
命綱を繋いで、デンケルの指示に従って金属板や、工具を渡すだけ……。
はははっ……。
そうですよ!
役立たずですよ!
わっけが分かりませぇぇぇぇぇぇん!
『魔法ならば、一日の長があるんじゃがな……』
科学怖い……。
【私達の手が出せるのは、せいぜいテレビ……くらいでしょうかね?】
科学嫌い……。
ふと、振り向くと……。
そこは、何処までも続く暗黒の世界……。
あの瞬く星の一つ一つに、物語があるんだろうな……。
俺のかぶっているヘルメット内に、ゴンという音が響く。
おおう!
何するんだ! デンケル!
宇宙空間で、人を殴るな!
「集中しろ。宇宙空間は危険だと教えただろうが」
念話を繋いでみたら、怒らりた……。
「次は、そこの溶剤だ」
(へ~い)
なんだよ、この状況……。
俺は、これからどうなるんだろう……。
もう、敵とか言ってる状況でもないよ……。
勘弁して下さいよ~!
ぷひぃ~……。
やってらんね~……。