一話
「貴様!」
「よう。クソったれ」
自分の部下達を犠牲に、この空中要塞から地上へ落としたはずの俺を見て、馬鹿がビビってる。
死んだのは、お前の部下だけだ。馬鹿。
てか、魔力を込めた人形だから、死んだとは言わないか。
【まあ、壊れたでしょうか? 正確には】
「何故ここに居る! 何故生きている!」
誰が死ぬか。
「レイ!」
「よかった!」
あらら。
あっさり掌を返してくれるね。
『今まで散々、神に選ばれた自分達以外は、ここで戦う資格はないと言っておったのにのぅ』
まあ、ここの神が決めた選ばれた子供達ってのは、間違えてないけど。
【その神が、敵だなんて、夢にも思わなかったんでしょうね】
おかしいと思いなさいよ~。
馬鹿なの?
「ありがたいぜ! あんたがいてくれれば、百人力だ!」
百って……。
俺はそんなに弱くないわ! クソガキC!
「四つの神具と、レイの力を合わせれば! 必ず勝てる!」
その神具が、曲者なんだぞ~?
お前達に出来るだけ多く敵を倒して魂を吸収させて、最終的にはお前達の魂も取り込んで完成する、神様用の武器なんだぞ?
だから、神具って名前じゃないの!
頭弱いのか! クソガキA!
「目の前のいるのは、間違いなく最強の魔王! でも! 私達も、最強のパーティー!負けるわけにはいかない!」
最強って……。
そりゃ、神だもん。
魔王ってか、魔力の塊で出来た体しかない神が、自分用に作った乗り物だよ? あれ。
実は、魔王ですらないんだってぇ。
自分達も、神器を完成させるために作られた子供だって、分かってる?
勝てない様になってるんだよ! クソガキB!
「わざわざ、地獄の一丁目に増援とは……。あんたも物好きだな。だが、来た以上!最後まで付き合ってもらうぜ!」
俺は、お前が一番嫌いだ!
何、格好いいセリフ言って決まった! みたいな顔してやがんだ!
なんだ? クールか!
クールなライバルキャラ的な存在の、自分に酔ってるのか?
お前だけ、見殺すぞ! クソガキD!
【嫌いなのは、一番顔がいいからじゃないですか?】
自分が格好いいとか、鼻にかける奴嫌い!
せめて、心の中にしまっとけ!
『子供に本気でキレるな、馬鹿』
五月蝿い! クソジジィ!
「予定外ではあるが……。貴様等の終りに変わりはない!」
おっと……。
魔王のコスプレした神様の相手しないとな……。
じゃあ、まずは……回収!
「なっ!?」
「レイ! お前!」
「何をしているんだ! 貴様は!」
ははっ。
ここで、魔王役のお前が怒るって……。
本気で騙す気あるのか? 馬鹿?
ガキから奪い取った神具四つを、俺は海の彼方へ放り投げる。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
あっけにとられるガキどもと、怒り狂う魔王。
バーカ!
「これで、ガキ共から魂は奪えないなぁ……。神様よ~」
「何を言っているの? レイ?」
「お前は! 人類の希望を!」
あ~もう。
「ガキ共、五月蝿い。黙って見てろ。ここからは、大人の時間だ」
とはいえ……。
『魔力は、十分過ぎるほど神じゃな』
楽が出来るなんて思ってなかったけど……。
こいつは、やっかいだよな……。
【神具がなければ、完全な力を発揮は出来ませんが……】
それでも人類なんて、五回くらい滅ぼせそうな魔力があるな。
また、命懸けか……。
やってらんね~……。
でも、まあ……。
これが、俺の進む道だ!
酒場の女共が笑えるように!
目の前の馬鹿は!
俺が殺す!
行くぞ!
『うむ!』【はい!】
****
<バーストインパクト>!
敵のコアを、粉砕した俺は爆発の勢いで空中要塞から吹っ飛ばされた。
ガキ共が魔法で浮遊しながら、要塞の最後を見つめている。
普通に暮らせ、クソガキ共。
そして、何時も通り時空の狭間へと流された。
****
『フィールドを張る!』
【障害物は、障壁でどうにかします!】
くっそ……。
合成魔力を使うと、しばらく体が言う事を聞いてくれない。
どうすれば、この灰色の魔力を使いこなせるんだ?
発作も、合成魔力でおこっているのは分かるけど……。
くる時と、こない時があるし……。
何とか、使いこなさないと……。
次に、あいつ等と戦う時までに……。
【まずいです! まずいです! まずいです!】
うん?
あ!?
ヤバい!
『体は!?』
まだだ! 後、最低五分は無理!
『障壁だけでは、回避できん!』
目の前に、巨大な魔力の渦が出来ている。
以前、体が動く状態でも、命からがら抜けだしたくらい危険だ。
障壁で、流れていく体の軌道を変更するが、巻き込まれる!
【駄目です!】
いだだだだだっ!
体が、ブチって引きちぎれる!
てか……。
ふざけてる場合じゃない!
マジで、引きちぎれる!
腕も……。
くっそ!
ヤバい……。
(フィールドを対流させろ!)
この声は……。
(早くしろ!)
ジジィ!
『うむ!』
体の表面に定着させたフィールドを、回転させる。
ジジィが四散しない様に魔力を押さえて、俺が魔力を回転させる。
これは……。
『少々コントロールに難儀するが、これほど強固になるとは……』
若造!
【はい!】
障壁を何度も展開して、魔力の渦にのみ込まれない様に抵抗する。
体が動くようになり、何とか脱出できた。
助かった~……。
(それでいい。何も言わなくても、魔力の流れに合わせる事が出来るとは思わなかったが)
師匠!
何処です?
(多分、かなり近くの世界に居る。お前の魔力が見えたからコンタクトをとったが、正解だったな)
はい! 助かりました。
【ありがとうございます】
『すみません』
(ああ。今、この世界から俺は動けないが……)
何してるんだろう?
(敵と戦っている)
敵?
(お前が今戦っている奴らだ)
世界の汚れ……ですか?
(ああ。悪魔、汚れ、ドミネーター……呼び方は様々だが、世界を破壊しようとする力だ)
やっぱり、師匠は知ってたんだ。
敵がいる……。
行く世界、行く世界……滅びかけてるのは、異常だ。
まあ、俺が持ち前の不幸で、そう言う世界に行きやすいのもあるだろうけど。
(元の世界に誘導してやる)
師匠……。
いえ! 遠慮させていただきます。
(お前……)
俺も、その敵と戦います。
(人間のお前には、荷が勝ち過ぎる。死ぬ可能性が……)
それは、どうでもいいんです。
俺も、戦います!
(馬鹿が……。また、何かを背負ったな?)
何時もの事ですよ。
俺は、こういう生き方しか出来ないようです。
(しかし、お前の世界で記憶は……)
なにより、このまま世界を壊され続ければ、人ごとじゃない。
何を言われても、戦います!
(そうか……。ならば、悪意をたどれ)
悪意?
(奴らは、別の世界から入り込む異物だ。巧妙に、人の心のすき間に入り込み、自分達が自由に活動する為に動く)
なるほど……。
悪だくみしている奴等を、重点的に探るって事ですね?
(ああ。それが、奴等にたどり着く近道だ)
了解です!
(マスター!)
(すまないが、こっちも……)
はい、御武運を。
そこで、師匠とのリンクが切れた。
きっと……。
【私たちでは太刀打ちできないほどの敵と、戦っておられるのでしょうね】
『そうじゃな』
次に会ったら、もっと鍛えて貰おう……。
今の俺なら以前の俺より、いろいろ覚えられるはずだ。
【まあ、基本は大事ですし、あの方からなら成果は期待できますしね】
ああ……。
師匠の足元になんて……。
もう、甘えていられない。
師匠に追いつくんだ。
『うむ』
ちょっと壮大で夢みたいな、目標だけどな……。
【そうですね……】
でも……。
もう、諦めるなんてごめんなんでな!
****
それから三日ほど、狭間を漂った。
ごぼっ!?
「ごぼぼぼっ!」
呼吸!
あの! えっ!?
はぁ!?
ごぼぼ!
【おちついて下さい!】
水!?
水の中!?
ヤバい!
いきなり水中かよ!
海?
『いや! 真水じゃ!』
真っ暗! 夜!?
「がぼぼぼっ!」
てか! 死ぬ!
こんな死にかた、やだ!
ちょ!
何で水面に、ゴムみたいな蓋が!?
空気!
ヤバい! ヤバい! ヤバい!
うお! まぶしい!
真っ暗な水中でもがいていた俺に、光が差し込んできた。
周囲のゴムを裂いたせいで、俺を包んでいた水がバシャリと周囲へ広がる。
「ごぼっ! ごほっ! ごほっ! ごほっ! おえぇ……。はぁはぁはぁ……」
し……死ぬかと思った。
うん?
褐色の肌をした、バンダナ+眼帯女が何かを言っている。
『言葉は、全く理解できんな』
えっと……。
念話を繋ごう!
「あんた! 聞いてるの?」
よし……。
「どうやって入ったのよ? 運送用の三百リットルパックから出てくるなんて……」
後ろを向くと、自分が入ったであろう、ゴムっぽい袋が水浸しになっていた。
「これって、真空パックなのよ? 穴も開いてないし」
実は、いきなりその中に放り出されました。
「分かった! 最初から、この中に隠れてて、空気ボンベが壊れたのね!」
空気ボンベ?
「でも、こんな間抜けな奴初めて……」
あれ?
これって……。
「こんな間抜けた、密航者はね!」
いきなりピンチかよ……。
この世界の事も分かってないのに……。
勘弁してくれよ。
も~……。
やってらんね~……。