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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第九章:異世界と狭間編
12/77

十二話

「なんで?」


「二度同じ事を言わせるな! 消えよ!」


何でですか?


梓さん……。


何でそんな……。


「とっとと消え失せろ! この……」


「何で、そんな必死に嘘をつくんですか?」


すべてではない。


すべてではないが、俺には嘘が分かってしまう。


「黙れ! 人間!」


なんでそんなに……。


「お前など、二度と見たくない! 消えて失せろぉぉぉぉぉぉぉ!」


自分が、泣きだしそうな顔をしてるって気が付いてますか?


「俺には、嘘が分かるんですよ?」


何を苦しんでるんですか?


「五月蝿い! 五月蝿い! 五月蝿い!」


俺じゃあ、駄目ですか?


「いなくなれ!」


俺じゃあ、貴方の涙を止めることはできませんか?


「お……まえ……など……。お前など!」


既に、両目から涙を流す梓さんは必死で歯を食いしばっている。


何がそんなに苦しいんですか?


「お前は……馬鹿で! スケベで! ……優しくて」


教えて下さい。


貴方から、苦しみを遠ざけて見せます。


「いつも、無理に笑いおって……。見ているわしが、胸を痛めている事も知らずに……」


俺に出来る事なら……。


命でも差し出しますから。


「それでも……」


梓さんの表情が……。


一瞬だけ和らいだ。


「お前のその笑顔が、大好きじゃった……」


泣かないで……。


泣かないでくださいよ!


「いいな! この世界から、すぐに立ち去れ!」


そう言った梓さんは、空中に舞い上がり飛び去って行く。


嘘だとしても……。


拒絶された。


いや!


そんな事は、どうでもいい!


俺があの人の涙を止めるんだ!


この俺が!


俺は、そのまま梓さんの後を追うように空を駆ける。


何も知らない馬鹿のまま。


きっと俺の馬鹿は……。


死んでも治らないだろうな。


ふぅ~。


やってらんね~……。


****


「なんだ!? 中で何が!?」


梓さんを追いかけて、海に浮かぶ小さな島に着いた。


その中心にある洞窟で、梓さんの気配が消えた。


どうなってるんだ?


うおおお!


なんだこれ!?


『分からん!』


【なんですかこれは!?】


地面がぐらついたかと思うと、いきなり見渡す限りの風景に何かが出現した。


俺が立っている島以外に、いきなり現れたそれは……。


木の枝!?


ばかでかい、真っ黒い葉の生えていない枝。


地面……海底関係なく伸びたそれは、全ての枝先を天に向けている。


あ……。


嘘だろ……。


『こんな事があるのか!?』


【そんな馬鹿な! 有り得ないです!】


世界には、魔力が満ちている。


その濃度や量は違っても、世界中どこに行っても魔力は存在する。


それは、この世界の根幹が魔力と言う力で成り立っているから。


俺達は、世界の異変に気がつく事が出来なかった。


そこに必ずある物。


そう、たとえば空気。


それは、そこにあるのが当然であり、無くなったり異物が混じる事でやっと異変に気がつく。


世界に満ちたこの世界の魔力。


これは、常に感じて肌で触れている物。


まさか、それこそが原因だと分かるはずがない。


もしかすると、異世界からの異物である俺だから気が付いたのかも知れない。


大気中……いや、地面も!


この世界全てに、黒い魔力が満ちている。


御方様に、力……命を与えられた。


梓さんの言葉を思い出す。


世界中の神が荒神に……。


人間の魔力だって元をたどれば、世界からの魔力だ。


世界そのものが、魔に染まれば……。


この世界全てがそうなる。


理解して、初めて分かった。


梓さんはどうしようもない事を悟り、逃がそうとしたんだ。


荒神達は、梓さんじゃなく……。


異物である俺を殺しに来ていた。


梓さんが荒神化していなかった理由は、分からないが……。


この世界と繋がっている以上、遅かれ早かれ梓さんも。


嫌だ!


そんなの嫌だ!


やっと見つけた大事な人なんだ!


俺の為に、泣いてくれたんだ!


もう、無くしたくない!


どんな事をしてでも、助けるんだ!


俺の大切な人を!


俺の命に代えても!


****


目の前の地面がバギバギバギと音を立てて裂け、巨大な竜の頭が姿を見せた。


その竜は、こちらを見据える。


まるで、木でできた様な竜の目は、皮膚と同じ真っ黒で、瞳から意思が感じられない。


こいつが……。


こいつが!


『止めよ! 逃げるんじゃ!』


「返せよ……」


【駄目です! これは……これは世界そのものです!】


「返せよ! 梓さんを返せぇぇぇぇぇ!」


俺は、目の前のそれに力の限り叫んでいた。


ミルフォスやヨルムンガンドのような、世界の一部ではない。


目の前にあるのは、世界そのもの。


立ち上る魔力だけで、気が遠くなるほどの存在。


だが、そんな事は関係ない。


俺の……。


俺の梓を返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


「おおおおおおおおお!」


『馬鹿者!』


全力で、剣を打ち込む。


全身全霊。


まさに、全てをかけて二本の剣を振るう。


『くう! 魔力を流すぞ!』


【はい!】


『全力で、防御回復に回すんじゃ!』


【分かっています! これは……人間では相手に出来ません】


があああああああああ!


返せよ!


その人は、大切な人なんだ!


俺を……。


こんな俺を、好きだと言ってくれた人なんだよ!


命よりも大事なんだ!


頼むよ!


俺の命でも何でもやるから!


俺から、その人を奪わないでくれよ!


俺の……。


全てなんだよ……。


『この大馬鹿者!』


【ああ……。そんな……】


昔、師匠に大事な教えを受けた。


どんな事があっても、諦めるなと。


絶望にうち勝てと……。


俺は、その教えを実践できていると思っていた。


だが、違ったようだ。


俺は、絶望しなかった。


それは、ただ希望を持っていなかったから。


人は希望を持ち、それが壊れた時本当に絶望するんだ。


本当に諦めないって事は、希望を持たずに特攻する事じゃない。


希望を知り、絶望に襲われても、なお諦めない事こそ本当に学ばなければいけない事。


本当に修行不足だ。


恋人に手をかけた事があるほどなのに……。


自分のあらゆる技が通じなかった俺は、その場で膝をついた。


絶望にのみ込まれた俺は、ただこちらを見ている目を見つめ返した。


「返してくれよ……。頼むよ……」


ゆっくりと開いた、竜の口から衝撃波が向かってくる。


『くう! フィールド!』


【障壁を可能な限り展開します!】


目の前の竜……世界は、今までの敵などとはステージが違う。


俺の世界で偽神を名乗った物の作った、強固な障壁は簡単に砕け散る。


そして、俺は地面に埋まるほど強力な力で吹き飛ばされた。


反射的に、急所を避けたのは本能だろうか?


ちくしょう……。


ちくしょう……。


ちくしょう……。


ちくしょうぉぉぉぉぉぉぉぉ!


梓さん……。


俺……。


助けられなかった。



あ……。


俺は、ある事を思い出す。


大切な事……。


好きだ……。


俺は、梓さんに好きだと伝えてない。


何も、伝えてない。




まだ、愛してるって言ってない……。




俺の左目から、一筋の涙がこぼれた。


悲しくて、辛くて、悔しくて……。


ゆっくりと、竜が口を開いていく。


これで……。


これで、俺は終りか……。


情けない最後だ。


愛した女も守れずに、絶望して死んでいく。


これが……俺なんだな。


「馬鹿者!」


えっ!?


「梓さん?」


竜の瞳がうねり、人の顔が浮き出てくる。


それは、とても……とても愛おしい人の顔。


「何とか、一時的に……止めた! 逃げるんじゃ!」


「梓さん……」


「馬鹿者! 早くせんか!」


「……好きです。愛しています」


「この……大馬鹿者が……わしも同じ気持ちじゃ」


「俺は、神様なのに子供っぽくて、怒りっぽくて、優しい貴方が大好きです」


「わしは、馬鹿でスケベで優しいお前が大好きじゃ」


あ……ああ。


ちくしょう。


「俺は……貴方がいない世界なんかで生きていたくない」


「我がままを言わんでくれ……愛しきそなたよ。わしは、所詮只の狐じゃ。人の女を捜すがいい」


梓さんは、優しく……諭すように話しかけてくる。


「嫌だ! 俺に出来る事があるなら、何でもする! だから……」


「わしは、これでも頑張っておるが、もう限界も近い」


「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!」


「お前と過ごした時間は、わしの生涯で一番幸せじゃった。ありがとう」


悲しそうに笑う梓さんの笑顔で、俺の心は狂ってしまいそうだった。


先程の衝撃波を防ぐために魔力が尽き果て……。


ジジィと若造も、反応がない。


体は動いてくれそうにない。


それでも……。


「さあ、もう行ってくれ……。そなたの未来は黄金に輝いておる」


「梓ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


梓さんの顔が消え、竜がゆっくりと口を開いて行く。


逃げる力もないよ……。


情けない。


でも、どうせ死ぬなら梓さんに……。


****


「あら~、所詮は人間だったわね。残念!」


「この賭けは私の勝ちのようだな」


目の前の竜が、青くメタリックに輝く障壁らしきもので動きを封じられた。


なんだ?


倒れたままの俺と、竜の間に降り立ったのは……。


この世界にきて最初に俺を逮捕した、特防の女二人だった。


「お前等……」


「もう! 君のせいで負けちゃった~。少し期待したんだけどな~」


「ふん! 人間などに、期待するだけ無駄だ」


なんだ? こいつ等は!?


「でも~。あの人と同じ技を使うじゃない? 仲間とかだと思ってぇ」


あの人?


し……師匠の事?


何で、この世界の人間が……。


「うふっ。事情が分からなくて、ビックリって感じかしら?」


「これでどうだ?」


二人の女は、秘めていた途方もない魔力を解放した。


「嘘……だろ?」


特防の服は、レッドメタリックとブルーメタリックの鎧へと換装された。


この感じは……。


目の前にいる竜と……同等!?


いや、この感じは……そうだ! 師匠に似ている。


人間大の体に、膨大な魔力が内在されている感じ。


「お前等……」


「口を慎め、人間よ。我らは、世界を監視し導く存在だ」


世界を!?


「私達は、世界の裁定者。時空の女神なのよ~」


女神!?


どう言う事だ!?


「私はユーノで、あっちのポニーテールで青いのがアストレア。この世界を、どうにかしようと思ったんだけどねぇ。私達の干渉はどうしようもない場合を除いて、最低限しか出来ない決まりなのよ~」


訳が分からない……。


「う~ん。アストレア!」


「なんだ?」


「ここ任せてもいい? 彼に、説明をしてあげないと」


「そんな人間など、捨ておけばいい物を……。相変わらず、酔狂な……」


「ね! お願い!」


「まあ、次は一人でやってもらうからね、ユーノ!」


「ありがとう!」


よく見ると、周りに生えている枝全てが結界らしきもので封じられている。


こいつ等一体……。


「この世界に来てすぐに、私から逃げたでしょ? それから、監視してたのよ? 気付かなかったでしょ?」


そう言えば、視線を感じた……。


「マサキ:シンドウを知っているわね? 貴方が使っているのは、原初にして最強の彼だけが受け継いだ剣技なの」


マサキ……師匠の本名。


「俺の、師匠だ」


「なるほどね。私達は、彼と同じように時空を渡る女神なの」


この世界は、汚れによりもう終わってしまうらしい……。


この二人は、そういった世界を監視し、可能であれば修復するそうだ。


そして、修復不可能と判断した世界を消滅させる。


世界が汚れて消滅する場合、隣接した世界ごと飲みこんでしまうからだそうだ。


それを阻止するのが仕事……。


世界の裁定者……。


「この世界の末端である、土地神に汚れが取り付き始めてねぇ。それをそのまま殺してしまうと、汚れごと世界の中心に吸収されちゃうって仕組みなのよ~」


じゃあ……。


この世界に止めを刺したのは……俺?


「私達は、特防って人間のふりして汚れごと消してたんだけど、残念だけど間に合わなかったのよぉ」


女神……。


特別な力を持ってるなら。


「あの中に! 俺の大事な人が取り込まれたんだ!」


「知ってるわ。見てたもの……」


ユーノと言う女神の目は、俺が言う事を知っている様な……。


冷めた目になっていた。


「助けて下さい! 何でもします! お願いです! 梓を……」


「無理よ。彼女も、貴方が荒神達と戦っている最中には、半分以上荒神化が進んでいたの」


「何でもします! 命でも……何でも差し上げますから……」


「彼女が、最後まで正気だったのは、貴方への想いからかしら? それだけで、もう十分奇跡なの。残念だけど、奇跡はもうソールドアウトよぉ」


「ぐ……うううう」


「人のまま、この世界までたどり着いた貴方は、知っているんじゃない?」


くっそ……。


くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!


聞きたくない……。


俺は、それをよく知っている。


でも、今は聞きたくねぇぇぇぇんだよ!


頼むよ……。


「世界は残酷で、現実はそんなに都合よくは……出来てないの」


頼むよ……。


頼むから……。


俺は、どうなってもいいから梓さんを……。


「貴方のそれは、都合のいいが、ん、ぼ、う」


分かってる……。


分かってるんだよぉぉぉぉぉぉぉ!


でも……。


梓さんは……。


梓さんは、何も悪くないじゃないか!


「でもね……。貴方は、助けてあげる」


「俺は!」


「それが、この世界に止めを刺した。貴方への罰」


あ……。


「悔やんで、苦しんで生きて行きなさい……」


全部俺のせいで……。


「そして、悔しかったら……次は上手くやることね~。まあ、無理でしょうけど」


神……。


神様のクソったれ!


「ユーノ! 時空の固定完了よ!」


「こっちも説明完了~!」


梓!


「梓!」


泣きぼくろのクソったれ女神が、俺に向かって魔力を放つ。


ぐがっ……。


『おお! 魔力が……』


【体も、回復している!?】


「くそ! くっそ! くっそぉぉぉぉぉ!」


俺の体を取り巻く魔力は……。


本当の神がつくった力。


一ミリも体が動かない。


「はい。じゃあ、気をつけてねぇぇ」


ふわりと浮かんだ俺は、そのまま開いた次元の狭間へと流される。


「穿て! 神槍ゲイボルグ!」


アストレアが右手に持った槍に、感じた事のないほどの魔力がこもる。


そして、光り輝くそれは……。


俺の愛する人の世界へと向けられた。


くっそたれ!


「梓ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


一瞬……。


一瞬だけ、竜の瞳から顔を表した梓は……。


笑ってくれた……。


光に包まれるその世界の、隙間が……。


ゆっくりと閉じていく……。


****


皮肉な事に、ジジィのフィールドと若造の障壁を使って何とか超えていける次元の狭間を、なんの苦も無く進んでいく。


俺の動きを封じている、神の結界……。


俺に関わると……。


俺に関わった人は、不幸になっていく。


俺に愛されると……。


みんな死んでいくんだ……。


みんな……。


みんな……。


俺は……。


疫病神で、本当の死神だ。


『…………』


【…………】


あ~あ……。


やってらんね~……。




そのまま……。


俺は次元の狭間を流れていく。


ただ、無言で……。


****


「あれが……ねえ。そうは思えないわ」


「いいの? ユーノ? あいつを気に入ったって」


「でもね~……。目の前で、あんなに別の女を……。ちょっと気分悪いじゃない?」


「だから、あの態度?」


「知ってる? 嫌いって感情は、好きって感情に変わりやすいのよ」


「でも、あいつは立ち直るのかしら? 潰れてもおかしくないと思うけど?」


「ふふふっ……。潰れたら……そこまでの男って事よ」


「まあ、私も期待なんてしてないけどね」


「そうよ。私達は、万が一上手くいけば、利用するだけ」


「性悪」


「ふふふっ」


「くくっ……」


****


もし……。


たら……。


れば……。


もしあの時、こうだったら、そうなっていれば……。


そんな事を言っても、この世界はどうしようもない。


自分の存在を、全てかけて戦った俺。


誰よりも多く殺した俺に、待っていたのはさらなる地獄。


やっぱり俺は……。


死ぬべきだったんだ……。

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