表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第九章:異世界と狭間編
10/77

十話

「にゃぁぁぁぁぁ!」


ぐはっ!


頭部を強打し、脳が頭蓋内で強く揺さぶられた。


これにより、大脳の表面や脳幹神経が損傷する。


これは、頭蓋内におこった閉鎖性脳損傷!


つまり!


『アゴを殴られた、脳震盪じゃな』


俺の足腰が……。


俺の膝がぁぁぁぁぁぁぁ!


【結構余裕があるじゃないですか。分析は間違えていませんね】


「お前は! いきなり何をするんじゃ!」


ちくしょう!


俺の膝がガックン! ガックン! だ!


「いえ……あの……」


「せめて断ってから……」


顔を赤らめて可愛いですが……。


貴方のナックルは可愛くありませんよ、梓さん!


【いきなり背後から、耳を掴まれれば当然の反応では?】


「その耳は、本物なのかな~……っと」


「本物じゃ! ほれ!」


髪をかきあげた梓さんのそこには、本来人間の耳がある場所だった。


つるっつるです。


ピクピク動いてたから、まさかとは思ったが……。


『まあ、耳が四つは必要あるまい』


坊主にすると、凄い物が見えそうだ。


『その、明らかな変態衝動を何故抑える事が出来ん?』


変態って……。


変態は貴様だぁぁぁぁぁぁ!


『なっ! お前じゃろうが!』


お前は、ジジィでしかも変態だ!


『お前は、根本的に変態じゃろうが!』


お前は、ジジィなだけじゃなく変態だ!


『この煩悩と変質者の権化が!』


お前はジジィで! しかも、変態だ!


『お前は……』


【止めましょうよ。不毛ですよ?】


じゃあ、若造が変態だ!


『う~む。今回は致し方ない!』


【え? あの……。何でですか!?】


うひゃん!


「なっ!? 何!? 何!?」


俺の頬を梓さんが、いきなり……。


あの……。


ぺろっと舐められた。


「お前がまた、しかめっ面をしておるんでな。どうじゃ? 驚いたか?」


そりゃあ!


「さっきのお返しじゃ!」


そう言って、梓さんは走って行く……。


因みに、俺の脳内に住み着いた、変人二人と小人さんの事は梓さんに話していない。


『なん……じゃと?』


【ちょ! あの! 多いです! 何がいるんですか!?】


『こいつ、疎通をとってはいかん者と……』


因みに、妖精さんも住んでます。


【!?】


『お前が選択を間違える理由は、そいつらのせいじゃないかのぅ?』


なっ!?


『追い出すぞ! 何処じゃ!』


止めたげて!


実力行使とか! ないから!


【よくそんな訳のわからない相手と会話をして、人の事を変態呼ばわりしますね】


あ……。


気にしてたんだ。


【若干】


「ほれ! サボるな!」


おぼっ!


膝を後ろから蹴られた俺は、持っていたほうきの柄が鼻を直撃して……。


ボタボタと、真っ赤な花を咲かせてます。


「ちょ……あの……」


「す……すまん」


『回復完了じゃ』


「レイは何故そこまで、気を抜いた時に隙が出来るんじゃ? お前、本当に達人か?」


「分かりません……。てか、普通の人間ってこんなもんだと思いまつ」


「ほれ! 掃除じゃ! その鼻血も、綺麗にするんじゃぞ!」


「うぃ……」


なんでだろう?


【何がですか?】


俺の周りは、なぜこれほど暴力を……。


【梓さんは、それほど理不尽でも、致命的になりうる暴力もふるいませんよ?】


確かに、力は強くないけど。


的確に、急所に当ててきます!


後、人間に避けられる速度じゃありません!


【まあ、じゃれてるだけじゃないですか?】


まあ、可愛いから許すけどね……。


でも、そろそろ脳に後遺症が怖い。


【いまさら?】


『また、言わせる気か?』


何?


『自業自得じゃ』


は……ははっ。


もっと器用に生きていきたい。


はぁ~。


やってらんね~……。


****


さて、掃除も済んだし……。


そろそろ、食事の準備を。


「レイよ!」


「なんですか?」


ぶっ!


また、エロ本握りしめてる!


その行為が、結構恥ずかしい事って分かってます?


「今日は、外へ食事に行かんか?」


「はい? 外に?」


「そうじゃ! 男女の仲を進めるには、デートでいい感じ? とかになるのが必要と書いてあった!」


えらく、短絡的な……。


でも、まあいいか。


「いいですね」


問題は一つ……。


「俺、外に出られる服を持ってませんよ?」


因みに今着ている服は……。


ボロボロです。


体は回復出来ても、服はそうはいかない。


連日の戦闘と狩りに、洗濯で……。


服って言うよりは、もう只の布です。


「ふふふっ……。これでどうじゃ?」


梓さんの手には、新品の服が……。


値札らしきものがついてる。


そう言えば……。


「その本もそうですけど、お金ってどうしてるんです?」


「外に仕事へ出た時に、たまに拾えるんじゃ」


手には、紙幣らしきものが……。


どっ……泥棒!


神様で泥棒!


もしくは、神様が泥棒!


『因みに、お前は本物の泥棒じゃがな』


う~ん。


余計な事は、気にしない方向で!


【少しは、処世術を覚えましたね】


「早速着替えて来い!」


「へ~い」


少し大きめのサイズだが、特に問題ないな。


「よし! 出掛けるぞ!」


いやいやいや!


「梓さん! 耳!」


「ん?」


「ん? じゃなくて! その耳はまずいですって!」


この世界に、亜人種はいない。


「そうなのか? 何でじゃ?」


「まわりの人から、変に思われますって!」


「自分の存在は、他人に決められるものではない。まわりがどう思うかなど、関係あるまい?」


そうですね……違う!


「自分の存在ってのは、まわりが自分をどう認識するかも含めて自分だと思いますよ?」


なんでこの人は、常識が偏ってるんだ?


『まあ、こんな閉塞した空間で暮らしておれば、仕方あるまい』


「しかし……」


「何より、この前言った通り俺は一度捕まって逃げたんです。目立つと面倒な事になります」


「そうか。では、どうする?」


一度、外に出た俺は、帽子を購入する。


「では! 今度こそ出発じゃ!」


「うぃっす!」


帽子にスカート……。


新鮮な感じで……。


「なんじゃ?」


「あっ! いえ! 何でも!」


可愛いとかきれいですって……口に出しにくいな……。


「さて! では、まずは腹を満たそう!」


おおぅ!


梓さんに組まれた、俺の左腕に!


左腕にぃぃぃぃぃぃぃぃ!


ふにっとした感覚が……。


俺……死んでもいい。


『待て! 馬鹿!』


【小さい! 小さいです! こんな小さい幸せで、死なないでください!】


「うん? なんじゃ? お前も楽しいか?」


自然と至福の表情になっていた俺を見て、梓さんが笑う。


「はい」


「ふふふっ! そうか!」


年上なのに、なんて無邪気に笑うんだ。


ああ……。


今日は、最高の一日になる予感……。


えっ!?


何だ!?


魔力!


【大きいです!】


これは、何の嫌がらせだ!?


あれ?


「梓さん?」


「そんな……馬鹿な」


「どうしたんですか?」


「くっ! 向かうぞ!」


「はい」


あらら……。


世界の意思からの指示が届いちゃったか。


でも、なんだ?


梓さんの顔色が悪い。


「あの? どうかしました?」


少し悩んだようだが……。


その表情の理由を教えてくれる。


俺も感じた魔力は、荒神……。


その相手は、梓さんの友人に似ているらしい。


梓さん同様に、荒神の始末屋をしている土地神らしいが……。


不可解な事が二つ。


まず、梓さんのように厄を祓える土地神が、荒神退治をしているので、よほどの事がない限り始末屋が荒神になる事はないらしい。


さらに、今から向かう相手の始末依頼が、世界の意思からこないそうだ。


日頃は荒神化後、遅くても一分以内に近隣の始末屋に連絡が来るらしい。


なんだ?


どう言う事なんだろう?


始末屋だけに、荒神になりきってないとか?


うん!?


まただ。


また、誰かに見られている様な感覚が。


****


おいおい!


なんだよ! この魔力!


【ヨルムンガンド並み!?】


いや……。


あれよりは、弱いが……。


『十分神と呼べるレベルではあるな』


クソったれ!


流石は、梓さんと同格。


敵だと思われる怪物は、何かを咀嚼していた。


あの服装は……。


【特防の人でしょうね……】


黒い着物を着た男が、特防の服を着た男を抱え込み、血しぶきを飛び散らせている。


人間の姿のままで、人間を……。


えぐい物を見せてくれる。


奏出かなで!」


梓さんの叫びに、男が振り返った。


奏出と呼ばれた男の口は大きく裂け、歪で巨大な牙が生えている。


そして、爬虫類を思わせる巨大な目は、ギョロギョロと絶え間なく動く。


両手の爪も……何とも凶暴な形だ。


「……ぐあ……あ……あず……さ」


「奏出! よし! わしが祓って……」


気に入らない。


あの男が声を出し、少しだけ正気があると思えたであろう梓さんの笑顔が、何か嫌だ。


って! ちょっとぉ!


「奏出!」


振り下ろされる爪から、隙だらけの梓さんを引っ張って回避させる。


「お前! お前……」


なんて悲しそうな顔をするんだよ。


あの男とはどう言う関係ですか?


「すま……ない。……俺……を……殺せ」


全身から感じる魔……霊力は真っ黒だ。


荒神のそれ……。


自身が元に戻れないと知って、殺してくれか。


「奏出……。分かった!」


「す……ま……ない」


何故だろう?


俺の胸の奥……深い場所がチクリと痛んだ。


二人の関係も、気になるが……。


親しい相手を殺す行為……か。


「レイよ! お前は手を出すでないぞ!」


「はい」


全力の梓さんと男が、戦闘を開始した。


制限の仕組みはよく分からないが、本当の力を解放したらしい梓さんは凄まじい。


俺のよく知る巨狼は、銀色で綺麗な毛並みだ。


あの男が変異した狼は、大きさこそ同じだが真っ黒で気持ちの悪い毛並みだな。


「臨兵闘者皆陣列前行! はぁあ!」


梓さんは終始、考えなく暴れる獣を術で押さえ込んでいる。


しかし、その顔はとてもつらそうだ。


泣きそうと言ってもいいと思う。


そいつとは、どんな関係ですか?


****


周辺の建物がほとんど瓦礫に変わる頃、決着がついた。


「はぁ! はぁ! これで!」


梓さんが、動きを封じた獣に向かって印を結ぶ。


「今……楽に……」


ヤバい!


『魔力が膨れ上がったぞ!』


躊躇し、目を閉じた梓さんに、巨狼の大きな顎が迫る。


何やってんだ! 馬鹿!


全力で走った俺は、梓さんを突き飛ばす。


俺の両足から、激痛が走る。


しま……。


両方食いちぎられた! くそ!


「ぐぅぉぉぉぉ!」


両足を失った俺は、空中で回避する事も出来ず、咆哮と共に向かってきた衝撃波をまともに食らった。


くそっ……たれ。


胸部の骨……。


『内臓を全てもって行かれた! 急ぐぞ!』


【はい!】


「レイ! レイ!」


血を拭きだし、動かなくなった俺に梓さんが必死に叫びかけてくる。


触ろうとするのをやめたのは、外から見てもそれだけ酷い状態って事だよね。


「わしの……わしのせいじゃ!」


止めて下さい。


俺なんかの為に……。


泣かないで。


「奏出! もう、わしは迷わん!」


駄目です。


たとえどんな状態でも、親しい相手に手をかけると……。


心が痛むんですよ。


壊れてしまうほどに。


貴方の苦しみは、俺が背負います。


だから……。


だから! 泣かないで!


『きおった!』


俺の体内にある、合成金属が大量の魔力を放出する。


その力を使い、俺の体は瞬く間に完治した。


「えっ!?」


梓さんの隣をすり抜け、俺は敵に向かって真っ直ぐに走り出す。


「がう!?」


流石は、神様。


きっちり、上空へ跳んだ俺の影を目線で追ってきた。


<ミラージュ>


もちろん、そこにはもういないけどな。


空を蹴りさらに上空に跳んだ俺は、再度空の壁を蹴りつける。


弾丸のように加速した俺は、巨狼のコアを目がけて突き進む。


そして右肩に背負った二本の剣を、わざとタイミングをずらして振り抜く。


<メテオブレーク>!


聖剣が強力な魔力を切り裂き、露わになったコアを魔剣が両断した。


うん?


霧散した魔力が……。


『何処かへ吸い寄せられておるのか?』


【こんな事は、初めてですね】


なんだ?


「馬鹿者!」


梓さんが、駆け寄ってくる。


「何故じゃ!? あれほど神に手を……」


「呪いくらい受けますよ」


「何を考えて……」


「さっきの狼と、仲がよかったんじゃないですか? 覚悟を決めても、辛いもんですよ?特に、終わった後で」


さあ、そんな顔はやめて下さい。


「お前は本当に……」


俺の胸に、梓さんが顔をうずめる。


「あいつは……」


話してくれるんですね?


「あいつは、わしに始末屋としての仕事を教えてくれた男じゃ」


師匠ですか。


「右も左も分からん、わしに術を教えてくれた。色々教えてくれたんじゃ……」


涙を流す梓さんに俺が出来たのは、そっと撫でる事だけ。


「本当に気のいい……男じゃった」


そうですか。


馬鹿な俺は、異変に気づけない。


ただ、傷ついた梓さんが心配だった。


あの奏出って奴に、梓さんは好意があったのか?


なんて、本当にどうでもいい事を考えていた。




分からなかった。


知らなかった。


どうしようもなかった。


言い訳ならいくらでも出来る。


でも、世の中それで許されない事が多過ぎる。



俺は、気を抜いてはいけない。


俺は、安心してはいけない。


俺は、全てを知らなければいけない。


俺は……。


幸せになってはいけない……か。



あ~あ。


やってらんね~……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ