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第八話

 俺たちは、魔王城の近くにある町まで来ていた。

 以前、ユウカと二人で泊まった宿屋がある町だ。


「しかし、面倒くさがり屋のベルクも一緒に来るとは思わなかったぜ」

「何よ、私だってたまには人のためになることだってするのよ!」


 ゼクトがベルクと親しげに話をしている。

 俺とユウカは、その二人の一歩後ろからついていく。


「ユウカ、身体は大丈夫か? 疲れたり、具合が悪くなったらすぐ言うんだぞ?」

「う、うん、大丈夫だよ」


 勇者の力を封印したばかりのユウカを気遣いながら、少しゆっくりと歩く。


「なあ、ゼクト、なんで天使の居場所を知ってたんだ?」

「ふっふっふー、俺は、城の噂話が大好きだからな。以前、勇者が話をしていたのを小耳に挟んだのさ」


 俺が前方を歩くゼクトに、少し大きめな声で尋ねると、ゼクトがこちらに振り返りながらそう答えた。

 そういや、俺がベルクの部屋を覗いたときも、いち早く駆けつけてきては、俺のことを変態魔王だなんだと言ってたな。

 城を守るとか何とか言ってた割に、随分と気楽なもんである。

 まあ、たまに勇者が来るくらいで基本的には平和だしな。


「そんなことより、ベルクが魔王なんかのためにここまで動くのは初めてのことだぞ。もしかしたら、ベルクはお前に気があるんじゃないか?」

「そ、そんなわけないだろ。大体、俺のためじゃなくて、ユウカのためだろ?」


 ゼクトが、俺のほうに近寄り小声でそう言ってくる。

 俺も合わせて小声でそう返しておく。

 ベルクが俺のことをどう思ってるかなんてわからない。

 少なくとも好かれてるなんてことはないはずだ。


「ま、そういうことにしておいてやるよ。勇者ともラブラブみたいだし、モテる男はつらいねぇ」

「あのなぁ……」


 ゼクトが俺を茶化すようにそう言ってくる。

 今はそんな話をしてる気分じゃないっていうのに。

 こいつには危機感ってものがないのだろうか。

 この町に来る途中で魔物に襲われそうになったときも、ベルクに任せきりであまり戦ってなかったし。

 なんとも頼りない魔界の戦士だ。


「あらー? ゼクトは魔王と随分仲が良いのね? いつもぼっちな癖に珍しいじゃない」

「誰がぼっちだ! 俺はいつだって魔王様の味方だぜぇ?」


 ベルクが、小声で話をしていた俺たちに向かってクスクスと笑いながら言ってきた。

 ゼクトは、兜のせいで表情がわからないが、声から判断すると笑っているようだ。

 そんな風に、のんびりと会話をしながら進んでいく。


 死ぬかもしれない危険な旅だっていうのに、なんとも不思議な気分だ。

 きっと、もう死ぬ覚悟はできているのだろう。

 人間、いつかは死ぬ。ここまできたら開き直るしかないのだ。

 

 そんなことを考えていると、なにやら大きな駅のような場所に着いた。


「おぉ、もしかしてこの世界にも電車があるのか!」

「ああ、魔列車と言ってな、電気ではなく魔力を使って走らせてるらしいぞ」


 俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。

 俺が知る限り、そんな高度な乗り物が存在してるような世界ではなかったからだ。


「いやぁ、タダで乗れちゃうなんてラッキーだな」

「勇者であることを隠さなくても良かったんでしょうか?」


 勇者御一行ということで、無料で魔列車に乗ることができた。

 ユウカが少し不安そうにして、おろおろとしている。

 これから、天使のところへいくわけで、争いは避けられないだろう。

 ユウカの意見も尤もだ。勇者が列車で向かってることを知られたら何かされるかもしれない。


「どうせオロンがすでに天使に告げ口してるだろうし、あまり隠す意味はないと思うわ」


 ベルクの発言で、ユウカもそれもそうか、と納得した様子だった。

 それにしても、ゼクトは列車の中でも兜を取ろうとしない。

 そういえば、城の中でもずっとこの甲冑姿のままだな。暑くはないのだろうか?

 それとも、中身が透明とか、鎧が本体とか、そういう魔物なのだろうか?


「わぁ、悪魔だ悪魔がいるぞぉ! えいえいっ! この僕が退治してやるー!」

「なんですってー、悪魔にケンカ売るなんていい度胸じゃない! こら、待ちなさーい!」


 他の乗客の小さな男の子を追いかけまわしてるベルク。

 普段のベルクからは想像もできない行動に、俺は思わず目を丸くした。

 それにしても、なんであの子は、ベルクが悪魔だってわかったんだろう?

 ベルクの見た目は、人間とほとんど変わらないように思えるのだが。


「この世界の悪魔って一体どういう存在なんだ?」

「んー、魔王を召喚する悪いやつってところだな。まあ、ベルクも城の配下を守るために仕方なく召喚してるだけだけどな」


 俺の疑問にゼクトが答える。

 はて、魔王は悪、その魔王を召喚する悪魔も悪ということか?

 でも、今のベルクに対する他の乗客の視線からは、とてもそんな風には見えない。

 あの小さい子の親も微笑みながら見守ってるだけだし。


「な、なあ、なんでベルクは悪魔なのにあんなに懐かれてるんだ?」

「ああ、あれはベルクがよく一緒に遊んでる唯一の友達なんだよ」


 なんだそれ意外すぎる。

 小さい子とか好きそうに見えないのに。

 そもそも、悪魔が人間の子と仲良しって問題ないのだろうか。

 この世界は不思議なことが多い。


 列車に揺られてしばらくすると、ユウカが俺の肩に寄りかかってきた。

 俺が驚いてユウカのほうを見ると、クークーと寝息を立てていた。

 死の恐怖で満足に眠れなかっただろうししょうがないか。


 そして、数時間列車に揺られた後、ようやく目的地に到着した。

 ベルクがさっきの子と何やら悲しそうにお別れの挨拶をしている。

 そして、俺たちは町の中心部へとやってきた。


「この町に天使がいることは確かなんだが、具体的な場所まではわからないな」


 案内するといってたゼクトが、腕を組みながらなんとも頼りない発言をする。

 ベルクが、あきれた様子でそれを見ている。

 

「あ、私、わかります。こっちですよ!」

 

 すると、ユウカが突然何かを思い出したように走り出した。

 ユウカに案内されるがまま、一つの塔のような建物へとやってきた。


「ここです! この最上階があの天使室です」

「よく覚えてたな、ユウカ。よし、こっから先はシグやオロンが何をしてくるかわからない。注意して進もう!」


 もしかしたら、俺たちの命を奪いに来るかもしれない。

 恐る恐る、塔の扉を開ける俺たち。

 何故か鍵はかかっていなかった。


 俺たちは、細心の注意を払いながら、塔に入っていったのだった。

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