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第二十一話

「往生際が悪いやつらめ。さっさと楽になれば良いものを」

「へ、俺は、魔王になったときから、出来る限り足掻こうって、そう決めたからな!」


 蛇の化物へと変化したメリーヌ。

 強がってはみたものの、俺の攻撃はやはり一切通じなかった。

 ドラゴンの時と同じく、鱗が魔法を遮断しているのだろうか。


 だとしたら、こいつの弱点も――。


「ユウカ、やつに半端な魔法は通じない。もしかしたら、やつの弱点も額なのかもしれない。次の一撃に、全てを注ぎ込むぞ」

「うん、わかった」


 俺は、小声でユウカにそういう。

 ユウカも、ゆっくりと頷く。


 そして、俺たちは、全神経を集中させて力を集め始めた。

 ものすごい力が溢れ出るかのごとく、両手に集まってくる。


 そうか。

 勇者の力は、生きる意志の力。


 俺に、もう迷いはない。

 そして、なんとしてでも生きて帰る。

 心からそう思っている。


 その思いが、力となっているんだ。


「いっけええええええええええええええ!」

「な、なんだこの力は! こ、この私が、人間に押されている? そ、そんな馬鹿な、あり得ん! ぐ、ぐぐぐ、こ、こんなもの弾き返してくれる……うおおおおお」


 俺とユウカが力を合わせた光魔法は、一人で放つときよりも何倍もの威力となった。

 二人の生きる意志の力だ。


 俺たちの放つ光魔法が、メリーヌの額を貫く。

 メリーヌは、跡形もなく消え去ったように見えた。


「ぜぇぜぇ、や、やったか!」

「はぁはぁ、こ、これで倒せなかったらもう――」


 その場に倒れ込む、俺とユウカ。

 力を、全て使い果たしたのだ。


「へへ、ざまあみろってんだ。俺たちの、生きる力、思い知ったか!」

「や、やったね、ヤマト。で、でも、もう動けないよ……。私、今ので力を全部使っちゃって」


 倒れたユウカの手を握る。


「俺も、もう動けないな。残念だなあ。ユウカとのデート、楽しみにしてたのにさ、ハハ……」

「ふ、ふふ、こんなときに、ヤマトは相変わらず……だね」


 身体から、力が抜けるようだ。

 俺たちは、このまま死んでしまうかもしれない。

 でも、もう悔いはない。


 出来る限りのことはした。

 メリーヌの野望も阻止することができた。

 魔王として召喚され、わけのわからないまま死ぬよりも全然マシだ。 


 これで、世界は救われるだろう。

 名もなき高校生が、世界を救った、か。

 へへ、なんか、カッコイイな。


 俺も、人のために何か、残せたかな?

 俺が、生きた意味、あったかな?


 俺の心は、何故かすっきりとして、晴れ晴れとしていた。




 そして、俺の意識が遠のいていく。


「グフ、グフフウ……」


 遠のいた意識の中で、かすかに聞こえたその声で、俺は再び目を開けた。


「ま、まさか……」


 今の声は、そんな……。


「グフウウウ! 人間が! 人間ごときが、この私に何をしたあああああああッ! 許さん! もう許さんぞおおお! グフ、グフフ。歴代の勇者たちよ、やつらを殺せ、殺すのだ! そして、やつらを殺したあとはそのままこいつらの世界も滅ぼしてしまえ! もう世界を乗っ取るのはやめだ! こんな人間ども、全て滅ぼしてくれる、グフ、グフフフ!」


 メリーヌは、ぼろぼろになりながらも、鋭い目をして、そう叫ぶ。

 それと同時に、どこからともなく、大勢の人間が現れた。


 歴代の勇者たちだろう。

 しかし、その勇者たちの目が紅く輝いている。

 おそらく、メリーヌに操られているのだ。


「は、ハハ。な、なんだ、倒せてなかったのかよ、チクショウ。せっかく、良い気持ちで死ねるところだったのに、悔いが残っちまうな……」

「こ、こんな、こんなことって……、お願い、メリーヌの言いなりになんてならないで。私のように記憶を取り戻し、自分の意志をしっかりと持って。そうすれば、操られたりなんてしないから! だからお願い――」


 ユウカが、ひたひたと俺たちに向かって歩き出す勇者たちに向かってそう叫ぶ。

 しかし、そのまま止まることなく、俺たちのほうへとやってくる。


 終わりだ。

 何もかも終わりだ。


 俺が世界を滅ぼす、か。

 へへ、ドラゴンの言うとおりになっちまったな。


 参ったなあ。

 俺もユウカも、力を使い果たしちまったし。

 こんな数百人の勇者相手じゃ、どうすることもできないな、ハハ。


 ――ズキン。

 頭が痛みだした。


 ハハ、勇者の力の副作用かな?

 もう、どうにでもなれ、だ。




『――諦めるのは、まだ早い』


 え?

 この声は――。


 次の瞬間、辺りが火の海と化す。


「間に合ったようね、ヤマト! 助けに来たわ!」


 俺の目の前に現れたのは、ブルードラゴンの背中に乗ったベルク。


「お前、どうしてここが……、そ、それにそのドラゴンは……」

「ふふ、話は後よ、ほら、これを飲んで」


 そう言って、差し出してくるのは生命の水だ。

 俺とユウカは、最後の力を振り絞り、生命の水をゴクリと飲み干した。


「ふぅ、まるで生き返ったみたいだ。すごいな、生命の水の力は!」

「安心するのは、敵を倒してからよ!」


 炎に焼かれたはずの歴代勇者たちが、炎の渦の中から襲い掛かってくる。

 くそ、光の壁で炎を防ぎやがったか。


「数が、数が多すぎる! 光魔法を暴発させるにしても、この数じゃどうにもならねえよ!」

「歴代の勇者たちは、私とドラゴンが引きつけるわ! あなたとユウカは、メリーヌを倒しなさい。メリーヌさえ倒せば、勇者たちも元の姿に戻るはずよ!」


 そういって、ベルクは、突風で勇者たちを吹き飛ばし、道を作る。

 俺とユウカは、その隙に、メリーヌのほうへと向かった。


「グフ、グフフ。人間ごときが、どこまでも私をコケにしやがって……」


 メリーヌは、そういうと、周りにある水を吸い込み始めた。

 メリーヌの傷がみるみる塞がっていく。


「グフフ。生命の水の力を使えば、傷せも癒せるのだ。そして、その力を最大限に活かせるのもこの私だけ。もはやお前らに勝ち目はない! さあ、私を怒らせたことを地獄で後悔するがいい!」


 氷のブレスを吐いてくるメリーヌ。

 俺たちは、ベルクの支援魔法のおかげで、ふわっと舞いそれをかわす。


「後悔するのは、貴様のほうだぜ! いくぞ、ユウカ!」

「ええ」


 そして、再び、メリーヌの額目掛けて、全力で光魔法を放つ。

 しかし、メリーヌは、額にバリアを張ったのか、寸前のところで魔法が掻き消えた。


「勝ち目はない、といったはずだぞ? 私に同じ手は通用せん! 死ねええええ!」

「きゃああああ」


 メリーヌより放たれた無数の氷の刃が、ユウカに襲い掛かる。

 そして、そのまま、どさりと地面に叩きつけられた。


「次は、お前だ」


 メリーヌが、俺をキッと睨み付け、今度は俺に向けて氷の刃を発射した。

 俺は、咄嗟に光の壁を作り、氷の刃を防ぎつつ、ふわりと着地する。

 こいつ、つ、強い!


 さっきは、メリーヌが油断していたからなんとかなった。

 だが、今度はそうもいかないようだ。


 ユウカは気を失ったままだ。

 俺も、さっきので力の大半を使ってしまった。

 

 くそ。

 どうしたら、どうしたらいいんだ。


『己を信じろ。ヤマト、お前には、まだ眠っている力があるはずだ。それを全て解放するのだ』


 ブルードラゴンが、俺にそう告げる。

 眠っている、力?


 俺は、目を閉じ、精神を集中させる。


 俺の身体を光が包み込む。

 その光が、溢れ出し、部屋全体を照らした。


「グフフ、なんだそれは、痛くもかゆくもないぞ? ん、何をやっているお前たち。どうした、一体、どうしたというのだ。ええい、さっさと、こいつらを倒さんか!」


 俺の光によって、歴代の勇者が正気に戻ったのだ。

 そして、現状を把握したのか、メリーヌを一斉に取り囲む。


「こいつが、こいつが、全ての元凶だったのか!」

「思い出したぜ、俺もあの世界で、無理やり魔王を倒させられたことを!」


 歴代の勇者たちが、そんなことを言いながらメリーヌを睨み付ける。


「ま、待て、お前たち。わ、私が悪かった。そうだ、私を助けたものは、永遠の命を授けよう」


 慌てうろたえるメリーヌが、そんなことを言うが誰も耳を貸そうとしない。


「行くぞ! 俺たちの、生きる意志、こいつに見せつけてやろうぜ!」

「おおー!」


 そして、数百人もの勇者が放つ光魔法が、合わさりメリーヌに襲い掛かる。


「グフ、グフフ、こんなもの、わ、私のバリアで弾き返してくれる……。!? なんだと、バリアが張れない、どうして……」

「残念だったな、これはゼクトの生きた証だ。これが、利用された俺たち全員の、力だ!」


 ゼクトの光魔法を暴発させる禁術。

 それを応用して、メリーヌの光の壁をかき消したのだ。

 

「ぐおおお、人間ごときに、この私が……。人間ごときに…………。ぐああああああああああ」


 そして、今度こそ本当に、跡形もなくメリーヌは消え去った。



 俺たちの、勝利だ!

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