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第十八話

 程なくして俺は勇者に対抗する力も取得した。

 これで、いつオロンが現れても大丈夫だ。


「よし、一旦、地上に戻ろう。ベルクも少し休んだほうが良い」

「え、ええ、そうね……」


 俺たちは、地上に戻ることにした。

 夜も明けて、太陽の日差しがいつもの何倍も明るく感じた。

 その光が、俺の心を癒すかのように、優しく包み込む。

 どんなにつらいことがっても日はまた昇るのだ。


 俺は、ベルクと別れ、自分の部屋へと戻ってきた。


「おはようございます、魔王様! お食事になさいますか?」


 昨日のことは、まるでなかったかのように元気いっぱいに笑顔で挨拶をしてくるミル。

 実に強い子だ。


 天使のいた町で軽く食べて以来、何も口にしてなかった。

 そんな余裕もなかったわけだが。

 そんな俺もようやく、少し元気になれた。


 それもこれも、ミルのこの優しい笑顔のおかげだ。

 俺よりも年下であろうミルが、こんなにも健気に頑張っているのだ。


「あ、ああ、そうだな。寝る前に少し食べておこうか」


 俺も無理やりに笑顔を作りそう言った。

 そうだ、悲しんでなんかいられない。


 ミルやベルク、そしてこの城の配下たちは俺が絶対守って見せる。

 それが俺にできることなのだから――。


 しかし、どうしてだろう。

 俺は、そんな誓いをも忘れ、ミルを裏切ってしまうことになる。


 俺は、食事の後、死んだように眠った。

 心も身体もすでに限界だったのだろう。

 ベッドに倒れ込み、そのまま深い深い眠りについた。


 そして、そのまま俺はこの世界からいなくなったのだ。

 

 なぜそんなことになってしまったかというと。

 それは、今より数時間前の事。

 俺の夢の中に、突如として現れたメリーヌ。

 彼女は、透き通るような笑顔で俺にこう告げた。


「あなたの幼馴染に会わせてあげる」


 その言葉で、俺は動揺した。

 いや、考えるまでもなかった。


「……会いたい。会わせてくれ」


 そう言ってしまった。

 それが、取り返しのつかないことになるなんて思わなかった。


「ふふ、そう言ってくれると信じてましたよ。さあ、お行きなさい。彼女もまたあなたを待っていますよ」


 メリーヌが、そういうと、俺は光に包まれ、そして意識を失った。




 俺が再び目覚めると、そこは見覚えのある、懐かしいベッドの中。

 現実世界の、高校生である俺の部屋のベッドの中だったのだ。

 俺は、自分の両手を見つめ、現状を理解できないでいた。

 悪い夢でも見ていたのだろうか。


 異世界で起きたことが、遠い昔であるかのように記憶の片隅に追いやられていた。


 ケータイを見ると、魔王として召喚された日と同じ日付だった。

 けど、時間はそれよりも前だ。


 何が起こっているのだろう。


「おっはよー! あれー? 今日は珍しくもう起きてるんだ」


 俺の部屋をノックもせずに、勢いよく入ってきたのは俺の妹のナナだ。

 いつも時間ぎりぎりまで寝ている俺を起こしに来るのが日課だった。

 しかし、俺が起きていたため、頬を膨らませてつまらなそうにしている。


「お、おはよう。俺、ずっとここで寝てたのか?」

「は? 何言ってんのよ、当たり前じゃない。寝ぼけてないでさっさと顔洗ってきたら?」


 どうなっているんだろう。

 やっぱり、夢だったとでもいうのだろうか。


 そんなまさか。

 いや、でも、考えてもみれば、あんな非現実な世界、ありえないよな。

 俺が魔王だなんて、そんな馬鹿な話があるわけないよな、ハハ。


 なんだろう、俺、疲れてたのかな。

 でも、なんか、胸の奥に引っかかるこの感覚はなんだろう。


 思い出せない。

 何か、何か重大なことを忘れているような、そんな気がした。


 そして、俺は、そのまま学校へと向かう。

 そこで、ユウカを見つけた。


 俺は急いで駆け寄る。


「お、おう、ユウカ!」

「あ、おはよー。どうしたの、なんか嬉しそうな顔して」


 ユウカだ。間違いない。

 いつも通り、優しい笑顔で俺を包み込んできた。


 そんなユウカを見て、ニヤニヤと笑っていると、不思議な顔をされた。


 なんだ、やっぱり夢だったんだ。

 おかしいと思ってたんだよ。


 あー、良かった。

 なんだ、夢だったんだ。

 良かった。本当に良かった。


 ユウカが無事で、またこうして元の世界で暮らせるんだ。


「あ、あのさユウカ……」

「ん、なあに?」

 

 俺は、あの世界のことを言おうとしたがやめた。

 あれは俺の夢だったんだ、それなら早く忘れよう。


「ううん、なんでもない、いや、ユウカがいてくれて良かったなーって思ってさ」

「えー、何よそれ、頭でも打ったわけー?」


 俺がそういうと、ユウカがクスクス笑いながらそう言ってきた。

 ユウカがそばにいるだけで、俺は幸せなのだから。


 幸せ……なのだから――。

 

 ――ズキン。


 頭に、強烈な痛みが走る。

 なんだろう、何かものすごい嫌な感じだ。


 おかしい、こんなに幸せなのに。

 なぜ?


『水の精霊を信じるな』


 誰だッ!?

 頭が痛い。割れるようだ。


 どうなってやがる……。


『現実から目を背けるな』


 痛い。イタイ。やめろ。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 気付いたら俺は、叫んでいた。

 そんな俺をユウカが心配そうに見つめてくる。


「どうしたの、ヤマト? 本当に頭でも打ったの?」

「え、あ、ううん。いや、なんか耳鳴りがしてさ……、大丈夫、ただの気のせいだと思う」


 なんだんだ、今の。

 あの声、どこかで聞き覚えがあるような。


 しかし、よく思い出せない。

 ん?


「きゃ、ちょっと何するのよ!」

「いや、こ、これ、お前、この傷どうしたんだよ! おい!」


 俺は、ユウカの肩の辺りにうっすらとある傷を見て、ユウカに掴みかかった。


「あれ? なんだろうこれ? 私、こんなところ怪我してたっけかな?」

「もっとよく見せてみ……いってえ!」


 傷をよく見よう制服をずらそうとしたら、いきなり殴られた。

 別に胸を見ようとしたわけじゃないんだが、そう思われてしまったらしい。


 いや、でも今はそれどころじゃない。

 あの傷。


 そう、ゼクトがユウカに付けた傷そっくりだ。

 ベルクが治療はしたものの、今みたいにうっすらと傷跡がほんの少しだけ残っていたのだから。


 どうなってやがる。

 夢じゃなかったとでもいうのか。


『水の精霊を信じるな』


 ――ズキン。


 まただ、またこの声。

 頭が痛い。


 この声、確か……。

 ブルードラゴン?

 いや、そんなまさか。


 俺は、恐る恐る、手に力を込めた。

 すると、手の平がきらきらと光り輝くのがわかる。


「うそ……だろ?」

「わ、なにそれ、手品?」


 勇者の、力だ。

 何がどうなってるんだ一体。


 あの世界の出来事は、夢じゃなかったのか?

 だとしたら、何故俺は今ここにいるんだ?


 たしか、夢の最後にメリーヌがユウカに会わせてやると、そう言っていたような?

 でも、ユウカはあの時のことを覚えていない様子だ。


 ん、待てよ?

 確か、シグは勇者を元の世界に帰すときに記憶を消すとかなんとか言ってたような……。


 つまり、ユウカが覚えてないのは記憶を消されたせいなのか?

 じゃあ何故、俺は記憶が残ったままなんだ?


 水の精霊メリーヌは、一体何をするつもりなんだ?

 わからないことだらけだ。


 俺は、ただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。

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