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あたしの好き

 ジリリリリリリッ

 パシンッ

 目覚まし時計を止めて時間を確認する。といっても私がいつもセットしている時間だけど……

「ふぁ~」

 また一週間が始まるのかと思うと少し憂鬱だ。学校は好きだけど休みはもっと好きだ。

 パジャマから制服に着替えて洗面所へと向かう。

「お、キョウコか。おはよう」

「おは……お父さん何してんの?」

 鏡越しに目の合ったお父さんは何やら髪の毛をいじくっている。あぁ……ただでさえ少ないんだから優しくしてあげないと禿るよ。それは心の中だけに留める。

 お小遣いは減らされたくないからね。

「ん? これはだな……うちの同僚に勧められた育毛剤だ。これは効くと評判らしいんだ」

 鏡越しに嬉しそうに話すお父さんの顔。

「へ、へぇ~、そうなんだ……ソレ、まだかかる?」

「お、すまんな。先に使っていいぞ」

 そう言って洗面台の前からずれてくれるお父さん。しかし、両手は頭の上に乗せたままだけど。

「ありがと……」

 とにかくさっさと済ませて朝ごはん食べに行こう。なんか背後から聴こえる頭を刺激する音的なものがヤダ。

「それじゃ先に行ってるね。お父さんも早くおいでよ」

「あぁ、すぐに行く」

 洗面所にお父さんを置いてあたしはリビングに向かう。リビングではすでにお母さんが

朝ごはんの準備を完了していた。美味しそうな料理の数々にお腹が空腹を訴えてきた。うん、あたしも同意だ。

 料理教室を開いているお母さんのご飯を毎日食べられるあたしは幸せだ。

「おはよう、キョウコ」

「おはよう、お母さん」

 お母さんに挨拶を済ませ、あたしはいつもの定位置に座る。「いただきます」の言葉を口にしてあたしはお手製のドレッシングのかかったサラダを口に運ぶ。うん、やっぱりサラダにスプラウトは必須だよね、とか通ぶったことを考えながら食事を進める。

「おはよう、ユウコ」

「おはよう、ヒロノリさん」

 育毛剤を皮膚に塗り終えたお父さんがリビングにやってきた。あたしが生まれても名前で呼び合う二人の関係がなんだか微笑ましく思える。

 夫婦間と親子間の仲が良いあたしの家では忙しい朝でも家族揃って朝ごはんを食べる。それを友達に話すと結構驚かれるから、ある意味あたしの家庭環境は一般的ではないのかもしれない。

「ごちそうさま、今日も美味しかったよ」

「あぁ、美味しかった。ごちそうさま」

「お粗末様」

 一緒に食べ終わったあたしとお父さんはそれぞれ準備をすると、一緒に家を出て駅まで行く。それを話すとやっぱり驚かれるからあたしの家庭環境は一般的ではないのだろう。それが嫌だと思わないあたしをみんなは不思議がるけど、お母さんは優しいしお父さんは面白いからあたしは好きだ。

「いってきまーす」

「いってきます」

「二人ともいってらっしゃい」

 お母さんに見送られてあたしとお父さんは家を出る。最寄りの駅までは歩いて十分ほどかかる。その時間があたしは結構好きなんだよね。

「なぁ、キョウコ」

「ん、何?」

「マンホールって何で円形なのか知ってるか?」

 視線を地面のマンホールに向けながらお父さんはあたしに訊ねてくる。マンホールが円形の理由……なんだろう?

「……何でなの?」

「ん、マンホールが円形なのは蓋が落下しないようにだよ」

「四角じゃだめなの?」

「四角だと対角線の長さより一辺の長さが短いからダメなんだよ」

「あ、なるほど~」

 確かに言われてみればそうだな、と納得するあたし。

 そんなどうでもいい話をしながら駅へと行くのがあたしたちの毎朝。そんな時間があたしはわりと好き。

 そのことをいい機会だからとお父さんに言ってみる。

「……」

 お父さんは少し照れくさそうに鼻を掻いた。

 今月のお小遣いは期待できそうだ♪ なんて私も照れ隠しなことを考える。

 今日もいい天気です。こんな天気があたしは大好きです。


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