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第九章 ランニング・ウルブズ

みなさん、こんにちわ。大阪は雨です。寒いなあ・・・


 

 九城は、人気の無い工場街の一角にある、貸しスペースのシャッターを開けた。

 一ヶ月五千円で借りている、トランクルームだ。

 埃っぽく、カビ臭い三畳程のスペースに入ると、敷地内の街灯を頼りに、積まれている段ボールやら、大型のバッグを取り出した。

 蓋を開いて、ナフタリンの匂いを嗅ぎながら、暗い目で中を見下ろした。

 その視線の先には、着古された黒の市街戦用のカーゴパンツと、同色のベスト、

 そして……

 かれの通り名の由来である、近接戦闘に流用していた、落書きだらけのホッケーマスクが、青白く、不気味な笑顔で彼を迎えた。後は現地で買った長袖のシャツ。PMCは軍服を着ないし、階級もない。

 よお、相棒。お見限りじゃねえか。

 頭で響く声に、無表情のまま答えた。

「ハイ、バディ。俺は毎日お前から見てた世界を見てるさ……繰り返しな」

 ハハハハハ……もう、飽きたろ? 昔の女を思い出してコスるような、さもしいマネはやめてよ、七人目の……

  ドガッ!

 九城の岩のような拳がマスクごと、二段にかさねた段ボール箱の底をブチ抜いた。

 下の段ボール箱に入っていた、武器にまみれたホッケーマスクが、拳の下で、愉しくてたまらないという様に嘲笑する。

 ゲハハ、頑丈だろ。感謝しろよ? じゃねえと一年近くも、あんな腐れたブラッディランドで、お遊戯できなかったさ。

 お前みたいな、コワレと一緒にな。

「……」

 九城は拳を抜くと、深呼吸を繰り返した。気を落ち着けると、堂々とトランクルームの外で、着替えをはじめた。

 誰もいないし、見られたところで、サバイバルゲームの準備にしか見えないだろう。

 凍み入るような、寒さも気にならない。

 トランクス一枚になった姿を、弱々しい街灯が照らす。

 上半身も、下半身も、鍛え抜かれた筋肉に覆われ、何か禍々しい雰囲気を湛えていた。

 その理由の一つは、右のわき腹付近にある、背中の弾痕だろう。

 それ以外の目立つ傷は見当たらないが、それ一つで、彼の経歴を語るには十分だろう。

 サッカー用のプロテクターを、スネと前腕に装着し、着々と装備を整えていく。

 バグダッドの傍にある、悪名高いアブグレイブ刑務所と同じ地区に、米軍が補給物資を貯蔵している倉庫群がある。米軍を憎悪する輩たちに、四方を囲まれたエリアを護るのは、ファルコンチームという民間軍事会社であり、五百人のクルド人精鋭部隊がその任を背負っていた。九城がイラクにいた頃、その中に腕の立つ日本人がいる、と聞いたことがあったが、そいつがある日、官憲二人に、病人の血を注射して町から消えた、という噂が立った。その二人は、九城が殺した男達と同等のスカムだったので、だれも同情はしなかったし、歩く死人にふさわしい顔になった二人も、何も言わずに行方をくらました。ただの噂で、被害者が何も語らない以上、罪に問われるわけがない。

 その後、イラク北部のクルド人自治区に逃げ込んだその男は、クルドの軍隊――何年か前までは只の民兵集団だったが――ペシュメルガに潜り込み、外国人のイスラム過激派を、暗殺して回る非合法部隊の一員として暗躍している、と言う噂が流れた。

 それが、十崎という男で、京都大学に通っていると知ったのは、日本でぶらぶらしていた時だった。

 九城が籍を置くツイントリガー社から、米軍司令官ボグダノス大佐が、連絡を取りたがっているというメールがあった。普通、民間軍事組織は、社員の情報を明かすようなまねはしないが、米軍の上層部に、恩を売ることに躊躇があるはずはなかった。このギリシア系で、九城より少し背の低い、ピットブルの異名を持つ博識な軍人に、九城はイラクで助けられ、様々なことを学んだ。国際美術品密輸防止会議に所属し、ニューヨークでは、検事の顔を持つ彼に、十崎の監視を頼まれ、九城は二つ返事で引き受けた。

 九城は実際に憔悴した官憲二人を見た、注射云々の話を除いて、噂をほとんど信用してなかった。バグタッドは噂話の温床だし、ペシュメルガに日本人が入隊できるとはおもえない。

 九城は、自分の目で確かめたものしか信じなかった。

 そして、十崎と過ごして確信したのは、この痩身で眼差し以外にこれと言って特徴のない男は、九城が知っている中ではもっとも狡賢く、最もケンカが強い戦士だということだ。

 十崎が取引に使う場所は、幾つか候補があったが、最後の会話で目星がついた。

 十崎は今夜、楽しむつもりだ、と言った。なら、時間を掛けて入念な仕掛けを施した場所だ。

 袖口に、ナイフを二本巻きつけたところで、携帯が鳴った。

 液晶の、今日五回目のなつみんの表示を見て、九城は通話ボタンを押した。

 お別れを言うために。

 

「おぃす」

「つ、つながった。九城さん、今どこですか?」

 三条に向かう、京阪電車の車両の隅っこで、七海は声を抑えて叫んだ。

「んー? ええとこ」

「私も連れてって下さい」

「……女は無理やで。なつみんが、早う出るとこ出てBカップ卒業してくれたら、俺そんなところで金使わんで済むのに」

「悪かったですねっっ! それにギリギリCカップですっ!」

 叫んでしまってから、周囲の好奇の視線に気付いた七海は、真っ赤になって隣の車両に、移動した。

「電車の中やろ? 大声でカムアウトするのはどうかと」

「……いい加減だまらないと、耳から手ェ突っ込んで、奥歯カタカタ言わせますよ」

「……それって、英語でどう言うんやろな」

「知りませんよ、もう。それより、十崎さんの居場所はわかりますか」

 電車から降りた。七海は階段に向かって駆けながら言った。

「なんで?」

「馬鹿なことをやめさせるんです。そしていつも通りに学校に来てください。九城さんもね」

「あいつの八割以上は、馬鹿なことでできてんねんで。消えてなくなってまうやん」

「激しく同意ですが、今回は……」

「それに」

 七海の言葉をさえぎり、九城は虚ろに笑った。

「二年ほど遅いわ」

 七海は、改札口を出たところで、肩を怒らせて立ち止まった。突然立ち止まった彼女に、何人かの通行人が軽くぶつかったが、気にしなかった。

「仕方ないでしょう。二年前は……。」

 七海はぐっと唇を噛んだ。

「私は私で、馬鹿なことしてたんですから」

「……そっか」

 七海は再び早足で歩き出す。

「彼を止められるのは、スフィンクスゲームだけです。そしてそれは私にしか出来ない」

「……スフィンクスゲーム?」

「説明している時間はありません。私は今三条で、美夜子さんの家に向かっているところです」

「……! 十崎にばれたら、どえらいことになるで」

「スフィンクスゲームは」

 七海はそれに答えず続けた。噴き出してきた汗で気持ちが悪い。

 結構寒いのにマズイな。

 七海は、手に持った地図に、眼を落として、現在位置を確認しながらつづけた。

「今回私が、やろうとしているスフィンクスゲームは、一つでも多くの十崎さんの弱みが必要なんです。九城さんも協力してください」

「……まーよーわからんけど、以前あいつ、あらあら大辞典、毎週見ててな。研究生ってテレビも新聞も、見ーへんやん?」

 七海の部屋にもテレビはない。NHKの集金人を堂々と、追い返せるのをひそかな自慢にしている。

「みんなに、それで見た知識を嬉しそうに話しててんけど、あの番組やらせってばれてしもたやん? それ以来、十崎の中で、そのこと黒歴史になってんねん。周りの奴等は全く気にしてへんのにな」

 緊迫した状況にもかかわらず、七海は笑ってしまった。

「……なんか可愛い。有難うございます」

「……自分、十崎のこと好きなんやろ」

「なななんでそうなるんですか! ラマーズ呼吸法を知ってるのと知らないのとでどれだけ違うと思ってるんです!」

「いや、でも」

 九城は困ったようにつづけた。

「十崎は多分、なつみんのこと好きやで」

「……は?」

 なぜか滔々と、出産時の痛みを和らげる呼吸法を説明し始めた七海は、一撃で動きを止められた。

 頭が真っ白になる。

「だって、あいつ女嫌いやで。口閉じてたらもてんのに、よってくる女みんなからかって、わざと怒らせるんよ。だからあいつ関わりのある女の子ひよこちゃんだけなんやけど」

 七海の中の完全にフリーズしてしまった脳内に、織河製OSが警告を発する。

 『次のアプリケーションの起動に失敗しました。……思っても見なかったラララ両思い.EXE  考古学研究室、又は太陽系に送信しますか?』

「なつみんだけいつも特別扱いやん? あーあひよこちゃん可哀想……」

「誰が送信するか!! ろくでもない邪推はyou、やめて下さい! クジラを食べて、何が悪いんです!」

「……いや、俺も好きやけど」

 七海のまったく意味を成さない絶叫に、少し引きながら九城は答えた。

「……よー考えたら、十崎もあの女も含めて、今ならコーヒー一杯で何とかなるレベルや」

「……コーヒー?」

「君はわからんでええよ。十崎と子供作る計画でも立てとき。出産祝いは、鯨のステーキでええか?」

「あああたたたたたたた!」

 七海は怪鳥のような奇声を発しながら携帯の番号を連打した。

「十崎は、こっちでなんとかするわ。ただ、危ないから場所は教えられへん。なんかゲームがしたいんやったら十崎が戻ってから好きなだけやり。ひよこちゃんにはあんまり心配させんでやってほしいけど……男の取り合いやから、しゃあないか。んじゃな」

「おまえはすでに死んでいるっ!」

 七海は携帯に叫ぶと、肩で息をしながら通話を切った。

 疲れた。いろんな汗でびっしょりだ。

 十崎さんが、私のことを……だと?

 私のことを……だと?

 私の……たわしを……

「はっ」

 七海は両手で、お相撲さんのように、自分のほっぺをべっしべしと何度もはたいた。

 ゆるんでない、ニヤけてなんかない!

 いつの間にか、目的の家の前に立っていた。

 ありふれた町並みにある、びっくりするほど普通の一戸建てだ。

 なんて十崎さんの関係者としてはふさわしくないんだろう。いままでの自分の挙動不審な所作や、会話が気づかれてないことを祈りながら、チャイムを押す。

 程なく。

 『はーい』

 インターホンから、少女のものらしい、誰何の声が流れてきた。

 七海は襟を正すと、噛まないように心がけて、話始めた。

「夜分遅くにすみません、私十崎さんと同じ研究室のもので織河七海と申します。お兄様のことでお話したいことがございまして」

 

 物部たちは今、十条から、町外れにある閉鎖したカーショップへ向かっていた。十崎に指示されたのだ。

 物部が手配した別働隊は、二台に分乗して、別のルートから向かっているはずだ。大きなガラス張りの室内で、数台の新車を展示するタイプの自動車販売店の間取りは、どこも単純だ。後は立地だが、情報をあつめている時間はない。

「……まずいことになりました」

 携帯で、通話を終えた物部は、誰にともなく呟いた。

「これ以上悪くなりようがあるのか?」

 自嘲する様に笑う、ウルに眼を向ける。

 彼女はだんだん寂しくなっていく景色を眺めながら、コンビニで買ったビタミンのタブレットを、少量の水で流し込んでいた。

「昼間、あなたを研究室まで案内した男がいたでしょう……九城という名で、米軍の犬です」

 ウルは、手に持っていたペットボトルを落とした。

 一気に、血の気が引く。

「この男、PMCとして赴任したイラクで、味方を六人殺している、本物の狂犬です。通り名はジェイソン。面白半分に、イラク人を撃ち殺すPMCは山ほどいますが、自分の仲間を撲殺した人間は、聞いたことがありません」

 物部は、ため息をついて続けた。

「十崎といい、この男といい、なんでイラクと京都には、イカレた奴らばかり集まるんですかね」

「……ばれていたのか」

 ウルは、放心したように呟いた。物部の話も聞いてなかったようだ。

 震える手で、ペットボトルを拾う。蓋をしていたのが、幸いだった。

「あの男に道案内を頼んだ、私が間抜けだった。これで私も立派な犯罪者だな」

「別にあなたのせいではありません。私も今、初めて事の露見を知ったばかりです。それに」

 物部は寂しい十字路を、右折しながら続けた。

「あなたが、密輸をしたという証拠は、どこにもない。今のところ、犯罪者は十崎だけです」

 物部は、震える右手を左手で掴み、静かに息を整えようとする彼女を、ちらりと見た。

「慰めはいい。あの九城という男が、アウルディーの素性を、知らないとは思えない。接触した私が、無関係なはずがないんだ」

「うぬぼれないで下さい。なんで私が、あなたを慰めないといけないんですか? 事実を把握してもらわないと困るから、言っているだけです。密輸をしたのはあなたではないし、取引は行われていない。万引きした商品は、店の人間にまだ見つかってないんですよ」

 ウルは肩を落とし、大きく息をついた。少しは安心したらしい。

「計画は大幅に変更ですね……状況は一線を越えました。あなたには、この件を降りてもらいます」

「いいのか? できるものなら私もそうしたい。正直、怖くてたまらないんだよ……だがな」

 ウルは疲れきった瞳を、フロントグラスの向こうに向けた。かすれた声は、官能的ですらあるが、もちろん本人は意識していない。

「アウルディーが、それを許すとは思えない。やつにとってのおもちゃが一つ消えたら、むくれて姿を消すんじゃないか?」

「……」

「シリンダーシールを、盗まれたのが私の責任でなければ、喜んで降りるさ……少なくとも、取り返すまでは付き合う。役立たずなりの、責任はとる」

「……いいでしょう。十崎の姿を確認するまでは、行動を共にしてもらいます。奴を見つけさえすれば、あなたは必要ない。捕らえて吐かせればいい」

 ウルは、物部の横顔に目をやった。物部はチェシャ猫のような笑顔を、前方に向けたまま続けた。

「私の手配した連中は精鋭ですよ。逃げることは不可能ですし、彼らが少し撫でてやればどんな奴でも囀ります……!?」

 五〇〇メートル四方に、建物がほとんど見えない、開けた土地の産業道路沿いに、目的のカーショップはあった。

 その懐に、闇夜を切り裂き、赤色灯を回転させる、少なくとも二台のパトカーを孕んで。

 

 

 物部はヘッドライトを消し、車を慎重に路肩へと寄せた。少なくとも四〇〇メートルは離れているこの車を、向こうから視認したかどうかはわからない。

 別働隊は、すでに展開していたはずだ。彼らは間違いなく、発見されているだろう。

「どういうことだ」

 ウルが愕然と呟いた。

「公安か……いや、行動が早すぎるし、私が現れるまで待つはずです」

 物部の表情も、さすがに硬い。しばらく様子を見ていると、パトカーは物部たちが向かう方角に消えていった。

 程なくして、今度はヘッドライトを付けた、二台の車が物部たちのほうに向かってきた。

「仲間です」

 物部が、囁いた。

 その二台は、停車することなく、物部の車とすれ違った。一瞬垣間見たその車内にいるものたちは、日本人には見えなかった。

 物部の携帯が、震える。

「ヘイ、エース、どういうことだ。展開して、二分後にポリスが来たぞ」

 通話ボタンを押したとたん、懐疑と、怒りの入り混じった声が流れてきた。

「よく、ごまかせましたね」

「捕り物にしちゃ、ポリスの数が少なすぎるからな。陽気に話しかけたら、向こうのほうから、ここでサバイバルゲームをしちゃいけませんと来た。建物の持ち主から、最近敷地内が、BB弾だらけにされて困ってるって通報があったんだとよ」

 物部はすべてを悟った。アウルディーだ。

「してやられました。まさか、犯罪者が警察を頼るとはね」

「……! なるほどな。おれも初めて聞いたよ、そんなケース。だが、効果は抜群だ。みんなブルっちまって、今夜は立ちゃしねえ」

「引いてください」

「それしかねえな」

 通話を終えた物部は、十崎に電話した。

「どうです、僕のおもちゃの兵隊たちは?二四時間、三六五日、電話一本、無料で働くんですよ」

 電話にでるなり、十崎はうれしそうに言った。

「……僕の、というところと、無料、という部分には疑問がありますね」

 物部は、内心の動揺を悟られないように言った。

「これで、招かれざる客はいなくなりました。お茶菓子の用意も、限りがありますし。まあ、どうぞあがってください、汚いところですが」

「警察を呼ばれたんじゃあね。出直しますよ。もっとも次があるかどう……」

「物部英。西京区で、物部オートサービスを経営。従業員は無し」

 十崎の謡うような口調に遮られる。

「武器の密輸から、はては犯罪に使われた自動車の解体。死体の処分まで請け負う、アフガニスタン人の営む自動車解体ヤードと、深いつながりを持ち、自身は危険すぎて、公安の深奥部でしか存在を知られていないA級テロリスト」

 物部の眼差しが狂気を帯び、握り締めた携帯が、ピキリと音を立てた。

「なんでも、前・総理の急所を握っているそうですね。羨ましい」

「なかなか面白い与太話じゃないですか。あなたを殺したい理由が、またひとつ増えましたよ」

 物部の頭の中で、一つの言葉だけが跳ね回っていた。

 なぜ知っている?

「それと、最近若い娘さんが出来たそうですね。昔、児童売春撲滅運動のボランティアで赴任していた、タイから連れ帰ってきたとか。なんでタイから、連れ帰ってきたのが、日本人なんです?」

「それはね」

 物部は、眼も眩む怒りの中、額に何本もの青筋を立てながら、極めて優しい声で言った。

「ある日、あなたに突然妹が出来たのと、同じ理由だと思いますよ。樫田美夜子……でしたっけ、あなたの妹の名前? 女子高生にしては、幼く見えますね」

 物部は、かつて自身が最も嫌悪していた言葉を、吐き出す。

「ツテを使って、タイの娼館に売り飛ばせば、世界中の変態どもが……」

「首の骨をへし折る前に、全身の関節を増やしてやろうか?」

 受話器から、絶対零度の声が流れ出した。

 突如変わった十崎の口調に、物部は心地よい緊張を覚えながらも、唇の端をゆがめた。

「これは失礼。まあ、あなたが物知りな程度には、私も物知りだってお伝えしたかったんですよ」

「しかし、そういう輩を、一番憎んでいたはずのあなたが、そんな台詞を吐くとはね……なんにせよ」

 電話の向こうから、挑発するかのように、鋼が何かにはまり込む、鋭い音が聞こえた。

 リボルバーの回転弾倉が、本体に叩き込まれた音だ。

「お会いして、もっと良く知り合うべきですね、僕たち」

 物部は、馬鹿にしたように言った。

「のこのこ行くと、おもいますか?」

「もちろん。車屋の任務完遂率は、一〇〇%なんでしょ?」

 物部の顔が、怒りで膨れ上がった。

「……いいでしょう。生まれてきたことを、後悔させてあげます」

「ああ、それはとっくにしてますから。じゃ、僕はもう中にいますので、必ず二人揃って来てください」

 物部は、通話の切れた携帯をしまうと、一つ深呼吸をしてから、ウルの方を向いた。

「バックアップなしで、行くハメになりました。今から、私の指示に従ってください」

 物部は、後ろに放っていたバッグから、目薬を取り出した。

 

 

 一台のロードスターが、カーショップの敷地内に滑り込んでいくのを確認し、九城は夜間用の双眼鏡を下ろした。

 カーショップから、約一キロ離れている。ウルマの仲間らしき兵士達が展開し、パトカーがやってきて去って行く、一部始終を見ていた九城は苦笑した。

「あいつらしいわ」

 九城は、傍らのバイクに双眼鏡のストラップを引っ掛け、徒手空拳で前進を開始した。


作者より

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回は、この事件の真相が明らかになります。

どうぞお付き合いください。


後書きってむづかしい・・・

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