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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

短編置き場

悪役令嬢はループを終えない――だって、“あなた”がいるから

作者: 猫猫全猫
掲載日:2026/03/30

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 豪華なシャンデリアの光が会場を照らす。

 磨き上げられた白い大理石の床が光を反射して、王宮の大広間を輝かせている。


 集まった人々は、この日のために仕立てられたドレスと礼装を身にまとう。

 色鮮やかな配色。華美にならない程度の装飾があしらわれている。

 今宵はケイロニア学園の卒業生のためのもの。

 これから未来に羽ばたく若者たちが主役だ。


「――諸君、卒業おめでとう。積もる話もあるだろう。

 今宵は無礼講だ。学友たちと心ゆくまで楽しむといい」


 大きな拍手が沸き起こる。

 厳かな祝辞のあと、王はふっと柔らかく笑った。


「羽目は外し過ぎぬようにな」


 気さくな陛下がそのように一言付け加えると、辺りに笑いが生まれる。

 流石は人たらしと言われたお方だ。

 陛下の一言で、卒業生たちの緊張がほぐれた。


 笑いが落ち着くと、音楽隊が演奏を奏でる。

 夜会の開始の合図だ。


 皆が気楽に食事を楽しみ、思い出話に花を咲かせている。


「メビア様、ご卒業おめでとうございます」

「ええ、ありがとう」


 穏やかな笑みを浮かべながら、私――メビア・フォン・オーロボロスは応じる。


(……もうすぐかしら)


 談笑。笑い声。グラスの触れ合う音。

 別れを惜しむ涙と、未来への希望。


 私もこのひと時を楽しむ。

 何でもない、平和なこの光景を。

 このまま時が止まればいいのに。名残惜しくて仕方がない。


 だけど、もうすぐ終わってしまう。

 もう少しだけ。その時が来るまでは、静かに祝いの席を楽しむ。


「メビア」


 不意に、名を呼ばれた。


(ああ、来てしまった)


 振り返るまでもない。よく知っている声。

 この声を、聞き間違えるはずがないのだから。

 ゆったりとした動作で振り返る。


「殿下」


 ラグナ・ピュリオ・ユスティアス王太子殿下。

 この国の次代を担う存在。

 そして――私の婚約者。


「王国の至宝。次代の導き手。ラグナ殿下にご挨拶申し上げます」


 王族への挨拶。宮廷の作法通りに頭を下げる。

 ちらりと殿下の隣を見れば、ひとりの少女が立っていた。

 やはりこの方もいらっしゃったのね。


「……ユリ様も、ごきげんよう」

「は、はい……ごきげんよう、メビア様」


 ユリ・カナエ。

 平民出身。珍しい聖なる魔力を持つ少女。

 特待生として学園に入学した子だ。

 茶色の髪。大きく丸い瞳。

 小動物のような愛らしい容姿をしている。

 思わず守ってあげたくなるような――そんな雰囲気の子だった。


(そういうことね)


 瞬間、私は、すべてを理解した。


「少し、いいだろうか」

「ええ。もちろんです」

「ありがとう。こっちだ」


 人目を避ける気はなさそうだけど。

 周囲から目立たない場所に移動する配慮はあったようだ。


 ラグナ殿下は、静かに口を開いた。


「メビア・フォン・オーロボロス」


 王族としての顔。

 家臣に命令するかのような冷たい声。

 この後、殿下が何を言うのか、私にはわかっていた。

 それでも、この声色はナイフのように胸の奥へと突き刺さる。


「君との婚約を――破棄する」


 端的にそして静かに、言葉が落とされた。

 まるで、グラスの中に氷が沈むように。


「……理由を、お聞きしても?」


 幸いなことに、周りは気づいてはいない。

 笑い声も、音楽も、途切れない。

 私たちだけが、外の世界から切り離されて、静まり返っている。


「ユリに対する、度重なる嫌がらせ。見過ごすことはできない」


 ユリ、と。殿下は愛しそうに彼女の名前を呼び、肩を抱き寄せた。

 そして、冷ややかな目で私を睨んでいる。

 思った通りだ。


「……さようでございますか」


 私は、ほんのわずかに目を伏せる。


「申し開きは?」


 何かあるなら聞こうと、ラグナ殿下が問う。

 なんと答えようか。私は少しだけ考えて、すぐ無駄だと首を振る。

 どうせ同じ結末なのだ。ならば――。


「ございませんわ」


 顔を上げる。釈明は一切しない。

 まっすぐに見つめて、優雅に微笑む。

 ラグナ殿下の眉が、ぴくりとわずかに動く。


「……認めるのか」

「ええ。殿下がそう仰るのであれば」


 幾人かが私たちの異変に気づいたのか、息を呑む音がした。

 王の元へ、報告に走る者が見える。


 せっかくの夜会なのに。もうじき台無しになってしまうのね。

 他の卒業生たちに迷惑がかかってしまうわ。

 一生に一度の祝いの席なのに。本当に、申し訳ない。


 (せめて、夜会が終わってから報告すればいいのにね……)


 どうせ、もう何もかもが手遅れなのだから。


「正式な手続きは後日行う。だが――」


 ラグナ殿下は、ユリ様の手を取り、手の甲へ口づける。


「私は彼女を、選ぶ」

「で、殿下。困ります」


 ユリ・カナエが、小さく息を呑む。

 その頬は赤く染まり、まんざらでもなさそうな表情だ。

 祝福の言葉は、まだどこからも上がらない。


 二人の仲睦まじい姿を確認し、私は最後に言うべき言葉を彼らに送った。


「……『誠に、愛する人を見つけたのですね。ラグナ殿下』」


 何度も告げた言葉だから。すらすらと言える。


「『私は殿下を愛しておりました。

 家の決まりで決められた婚約ではありましたが、確かに愛していたのです。』」


 ()()は、心の底からそう思ったに違いない。

 私もその気持ちを想像してみよう。

 少しの寂しさ。諦めの決意。

 どうか殿下を支えてあげてという願い。

 きっと彼女はそう願ったはずだ。


 その思いを、声に乗せる。


「『でも、私では殿下のお心は動かせない。悔しいですわ。ユリ様、どうかお幸せに』」


 ああ、完璧だわ。今回も一言一句違うことなく言えた。

 ノーマルエンドのラスト。

『メビア・フォン・オーロボロス』の最後のセリフ。


 私は達成したという余韻に浸った。

 このうえない多幸感が全身を満たし、幸福を噛みしめる。


「……え? え? なんでノーマルエンドに……。

 ちゃんと選択肢は正しいのを選んだじゃない。

 メビアが騒ぎを起こして、悪役令嬢の断罪ルートになるはずでしょう?」

「ユリ? どうかしたのか?」


(あら。まさか断罪ルートを攻略されていたなんて……)


 ユリ様は顔を青ざめさせて、ぶつぶつと呟いている。

 様子がおかしい彼女を殿下が心配して、何事かと問いかける。


 私には彼女が何を言っているかわかっていた。


 おしとやかな顔をして、私をどん底に突き落とす気だったなんて。

 やはり人は信用できませんね。

 断罪ルートを攻略してた割には、お粗末な行動ばかりだったけど。

 でも、もはやエンディングを迎えたのだから関係ない。


 異変を聞きつけて、王や父上たちがこちらに向かっている。

 ざわざわとにわかに周囲が騒がしい。

 エンドロールはそこまで来ていた。


 私はユリ様に近づいて、彼女にだけ聞こえるように、そっと告げる。


「ユリ様……残念だけど断罪ルートに行くためには、フラグが全然足りませんよ。

 ですが、ノーマルルートでも私は退場するので、それで良しとしてくださいな。

 どうか、お幸せに。ヒロイン……いえ、()()()()()()()()()()()()()

「な、なんでアンタが!? アンタももしかして、憑依者なの!?」

「ユリ!? おい、メビア! ユリに何を吹き込んだんだ!」


 何も吹き込んでなどいない。

 事実を伝えただけ。

 私は全部知っているの。

 この身をもって、何度も経験したから。


 この世界は物語で出来ていて。

 彼女はヒロインに憑依した異世界の人間で。

 私は断罪される悪役令嬢だということ。


 正確には、断罪される悪役令嬢に憑依した異世界の人間だけどね。

 ユリと同じように、私もこの世界の異物に過ぎない。


 ラグナ殿下ノーマルエンド。

 “何度も繰り返した結末”。


 ***


 この身体に憑依したと気が付いたのは、いつだったか。


 最初はメビア・フォン・オーロボロス自身だと思っていたのだ。

 何も知らずに、のほほんと過ごしていた。

 ラグナ殿下の婚約者として、穏やかに学園生活を送っていた。

 そこに、アリシア・カナエという平民出身の少女が編入してきた。


 彼女はとても平民らしい考えの持ち主だった。

 明るく、優しい子。

 笑顔が良く似合う可憐な少女だ。

 物怖じしない性格で、誰とでも身分に関係なく接した。だから友人も多かった。


 ただ、平民ゆえ礼儀作法を破ってしまうこともしばしばあった。

 婚約者がいる男性にも、特に考えずに友人感覚で一緒にいたわ。

 当然、令嬢たちはいい顔をしない。

 見かねた私が、注意しても彼女は理解しなかった。


 男性は、物珍しさと彼女の愛らしい容姿から寛容な態度だった。

 平民だから仕方がない。むしろそんな態度こそ、彼女の魅力であると。甘やかす。


 アリシアが殿下と親しくなるのも、時間の問題だった。

 私はオーロボロス侯爵家の令嬢として、殿下の婚約者として、厳しく彼女に警告した。


 殿下は未来の国を背負う方。

 彼の慈悲を勘違いして、軽率な行動は慎むように。


 結果、私に待っていたのは夜会での公開断罪劇だ。

 夜会で突如、殿下から婚約破棄を宣言された。

 失意と屈辱に震えて、家に帰った私を待っていたのは公爵家からの追放処分だった。

 平民女にしてやられ、家門に泥を塗った愚者。


 理由は何であれ、王族との繋がりという利用価値を失い損切りされたのだ。


 何もできずに、路頭をさまようことになった私は、暴漢に襲われてその命を落とした。


 これが一番最初だ。

 記念すべき第一回目の記憶。

 悪役令嬢追放ルートの結末である。


 私は再び意識を取り戻す。

 私の時間は巻き戻り、なんと婚約破棄を告げられた夜会まで戻っていた。


 あの時は、混乱と恐怖から取り乱してしまい、とんでもない醜態を晒したっけ。


「メビア! どうしたんだ。落ち着いてくれ!」

「いや! 近づかないで! 私と婚約破棄をして、アリシアと一緒になるというのでしょう!」

「婚約破棄だなんて! 滅多なことをいうな!

 メビア……聡明な君が一体どうしたというんだ……。それに、アリシアとは誰のことだ?」

「平民で、礼儀知らずに他の男をたぶらかす、恥知らずな女のアリシアではありませんか!!」

「僕の妹が平民なわけがないだろう。それに、アリシアなんて名前じゃない。

 行方不明になっていた魔塔主の末っ子。ネネ・エリュシオンだ」


 そういったのは次期魔塔主となる男性――クロノ・エリュシオン。

 彼の背に庇われていたのは、一度目でラグナ殿下と結ばれた憎きアリシア・カナエその人だった。


 落ち着けるわけがない。

 私は恐慌状態に陥って、その場にあった物を手当たり次第に投げて暴れた。

 駆け付けた兵士に押さえつけられて、私は広間から連れ出されてしまう。


 その後、精神の病で僻地に送られる。

 療養という名目の監禁。

 私は屋敷の中で一生を過ごすことになった。

 当然、そんな状態だからラグナ殿下との婚約も白紙にされた。


 アリシア――ネネ・エリュシオンはというと、結局、ラグナ殿下とは結ばれなかった。

 魔塔で実の父や兄と一緒に暮らすことになったらしい。

 自身の珍しい魔力を研究し、国に貢献していると噂好きの世話係から耳にした。


 ベッドの住人となった私は、天井を見上げたまま考え続けた。

 なぜ、死んだのに同じ時をやり直しているのか。

 なぜ、一度目にはいなかった魔術師クロノがあの場にいたのか。

 なぜ、あの女の名前が違うのか。


 ぐるぐると私は考え続ける。


 そういえば、出自も変化していたわ。

 アリシアは確かにただの平民だった。

 私自身で密偵を雇い、彼女の身辺を洗い出したのだから間違いない。

 彼女には、きちんと平民の両親がいて慎ましく生活していた。

 実は行方不明の魔塔主の末娘だったなんて……とても信じられない。


 まるで都合よく、誰かが書き換えたみたいに、筋書きが変わった。


(物語みたいね。アリシア……いえ、今はネネかしら? 

 彼女はヒロインで、どうしたって幸せになる。

 そして私は悪役ってわけね。

 彼女の引き立て役として絶対に不幸になる存在……)


 そこまで考えて、馬鹿馬鹿しくて大笑いした。


 あんまりだ。都合が良すぎる。

 心が病んでいるから、そんな荒唐無稽な発想が頭に浮かんだのだろう。


「ああ、おかしい。ヒロインに悪役だなんて!」


 そこで、私の頭に凄まじい痛みが走る。

 割れるような耐え難い激痛。

 ベッドでもだえる私の脳裏に言葉が焼き付く。


『ここは物語の世界だ』


 二回目の私の記憶はここで終わる。

 魔術師クロノルートノーマルエンド。

 “混乱のまま何もできなかった忌々しい結末”。


 ***


 次に意識が戻った場所は自室だった。

 またか、という感覚と今までのは全部夢だったのでは、という考えが入り混じる。


 日付を確認すると、学園に入学前までさかのぼっていた。

 思わず悲鳴を上げそうになる。

 だが、二回目の記憶が頭をよぎり、寸前で押しとどめた。


 もう精神異常者扱いはごめんだから。

 世話係が心配そうに私を見たが、何でもないのよと微笑む。


(確かめる必要があるわ)


 ここが物語の世界なのか。そして、なぜ私は何度も繰り返しているのか。

 同時に変えたいとも思った。

 幸いなことに、これからのことをある程度知っている。

 もう悲劇は繰り返したくない。


(ラグナ殿下との婚約は諦めよう。そして、アリシアと仲良くするのよ)


 争いを避けて、手を取り合うのだ。

 ヒロインを害さなければ、悪役の座から降りられるかもしれない。

 あの婚約破棄のイベント自体を無くせるのでは、と希望を見出したのだ。


 三回目の私は運命を変えようと奔走を始める。


 慣れないことばかりだった。

 幸い手本は身近にいる。アリシアだ。

 彼女を真似して、誰にも優しく分け隔てなく接した。

 過去の私からは考えられないほど物事に対して寛容になった。

 それまでは世話をされて当然、という考えだったが、それも改める。

 世話係、執事、料理人、庭師。一人一人に気を配り、声掛けを忘れなかった。


 こっそり市井に出て、平民のふりをして町を探索したりもしたっけ。

 買い食いなんて、はしたない事も初めて経験した。

 正直に言うと、悪くない。とても楽しかったわ。

 思いがけず、隣国から亡命に来ていた王子を助けるという新たな出会いもあった。


 かつては、絶対にしなかった行動の数々。

 文字通り、人が変わったように試していく。


 結果、周囲の私に対する態度が変わる。

 メビア様が変わられたと誰もが口々に噂した。

 私の目的通り、良い方向に。


 皮肉な話だが、ラグナ殿下との婚約を諦めてから、前よりも殿下との仲が改善された。


 いずれヒロインと添い遂げる可能性があるから、適度な距離感を保った。

 ヒロインを敵対せず、仲良くすることも忘れてはいない。


 この時のヒロインはシオリ・カナエと言う。

 私が不可解なやり直しをするたびに、ヒロインの名前が変わるという法則を発見したのは、この時からだった。


 では、この結末はどうなったか。

 結論としては、婚約破棄されるという結末は避けられなかった。


 ただし、静かに目立たぬように、殿下から告げられただけだった。

 一回目のように、大勢の前で公開処刑のような断罪はない。

 また二回目のように、私が正気を失って、取り押さえられるということもなかった。


 ラグナ殿下とシオリは心の底から結ばれ、お互いを深く愛し合っていた。


 こんなことになってしまって申し訳ない。

 全部、私が悪いから、どのような罰も受ける。だから私とシオリの仲を許してほしい。

 ラグナ殿下が頭を下げて私に謝罪までしたのだ。

 シオリも一緒に頭を下げて、涙を流してごめんなさいと謝ってくれた。


 その後、ラグナ殿下との婚約は解消された。

 そして、なぜか助けた隣国の王子、フェンリル殿下に見初められて、私は隣国に嫁ぐことに。

 結果的には、良い方向に落ち着いたのではないだろうか。


 ラグナ殿下溺愛エンド。

 “数少ない、悪役令嬢も救われる結末”。


 ***


 それから私は何度も人生を繰り返す。


 婚約破棄されて追放されることもあれば、ラグナ殿下と和解することもあった。

 フェンリル王子の時のように、別の方と結ばれることもあった。

 国賊として処刑されるという最悪の結末も経験した。


 私は何十、何百と人生を繰り返し続けた。

 最初こそ、この繰り返しを終わらせようとあがいたこともある。

 このループから抜け出して、私の人生を全うするのだと、大それたことを考えた。


 何者かの意思によって、強制的に繰り返される感覚。

 私の人生を好き勝手に書き換える存在がいる。

 それは人の人生を楽しんで笑う、悪魔のような存在なのだ。


(悪魔にとっては、娯楽感覚に違いない。

 まるでゲームみたいに……、次はどの結末を見ようかしら、なんてね。悪趣味だわ)


 娯楽。ゲーム。

 頭にぱっと浮かんだその単語に、またあの激痛が走る。


『ここは、私が大好きなゲームの世界』

『メビア・フォン・オーロボロス。私の最推し』

『私が彼女のわけがない。私はただの現代人。彼女の中に入ってしまっただけの、異物だ』


 なんだ。そうだったのか。――そう、だったのだ。

 灯台下暗しとはまさにこのこと。

 メビア・フォン・オーロボロスの人生を娯楽のように楽しんでいたのは。


 私――■■■■だった。悪魔は、私自身だ。


 ああ、でも。メビア。誤解しないでほしい。

 私は、あなたのことが大好きなのだ。

 どの攻略対象もヒロインも興味はない。あなただけを見ていたの。

 誰よりもずっと、ずっとずっとあなたを愛している。

 いいえ、愛などと生ぬるい。あなたは尊い女性だ。

 孤高で誇り高く、強烈に輝く道しるべ。私の救世主――メビア様。


 決して、あなたの人生を娯楽のように楽しんでいたわけではない。

 あなたの事を敬愛していた。

 あなたのどんな生き様も知っておきたかったの。


 だから、どんなルートも。正々堂々と真剣に進んだ。

 あなたが苦しむ様を見るのは、目を背けたくなるほど辛かったけど。

 だって、誰よりも祝福を受けて、栄光の道を進むべき人だ。

 幸せになってほしかった。


 メビアが幸せになるエンディングだけ見るという選択肢もあったのだ。

 だけど罪深い私は、メビアの全てが見たくて。 彼女の結末の全てを知りたかった。

 だから、全てのルートを攻略したのだ。


 結局のところ、なぜゲームの世界に入り込んでしまったかは分からない。

 ゲームだからと、何度も何度もメビアの人生を繰り返し遊んだ。


 その、罰なのかもしれない。

 贖罪として、私自身が身をもって体感せよということだろうか。

 だとしたら。本望だ。


「私の全てをメビア・フォン・オーロボロス様に捧げます」


 私が■■■■だと自覚してから、このループを脱却しようという気持ちは消え失せた。

 何回目だと数えることもやめた。

 どのループも敬愛するメビアの人生。だから全力で向かい合った。


 いつか、本物のメビアがこの身に帰ってきたとしたら。

 私はきれいさっぱり消える。あなたに全て返す。

 その時こそ、私は真の意味で許されるのだ。


 メビアに憑依した矮小な人間だと自覚してから、今がどんなルートなのか手に取るように分かった。

 イベント発生の時期。必要なフラグ。キーとなるセリフ。

 全部知っている。その知識があれば、イベントを回避して辛い道を避けることもできる。


 今の私なら、ルートにはない道も作ることができるかもしれない。

 ――けれど。


「これは私の人生ではない。メビア様の人生である」


 私の意思はいらない。

 メビアが何を望むかなのだ。

 彼女がどのような道を歩きたいのか。


 ラグナ殿下と結ばれるのか。ヒロインに復讐したいのか。

 それとも、政略結婚などに縛られず自由になりたいのか。

 どのルートが、どのような結末がメビアの望みなのか。


 そればっかりは、私ごときに、わかるはずがない。……ならば。


「メビア様が帰ってくるまで、繰り返し続ける。

 だって、私は原作至上主義メビア・フォン・オーロボロスですもの」


 そして、私は繰り返し続けている。

 メビアの人生を何度も。


 ヒロインの動向を観察し、周囲の状況からルートを分析する。

 そして、正しいルートへ選んで、エンディングに進んだ。

 順調に繰り返し続けている。


 だけど、最近、違和感を感じる。

 誰かに見られているような、そんな感覚。

 メビアが戻ってきたのかとも思ったが、違う。


 それに、攻略対象たちの行動にズレが生まれ始めている。

 まだ、些細な違和感でしかないけど。

 このままだと、ルート攻略に支障が出る可能性もある。


 これは一体、どういうことか。何かのバグか。それとも別の要因なのか。


「どうしたらいいのかしら。ううん、弱気になってはダメ。

 メビア様の物語を汚させたりしない」


 無数の視線に様々な感情が流れこんでくるのがわかる。

 既視感があった。私はこの感情を知っている。


「なるほど。つまり、そういうことだったってわけ」


 あの激痛が私の頭を襲う。もはや福音とすら思える、この痛み。

 恐らくこれで最後だろう。私はようやく全貌を、全てを理解した。

 けれど、やることは変わらない。

 私の救世主、メビアのために繰り返し続けるだけ。

 私は物語の歯車。回り続ける舞台装置。ただの部品に過ぎない。


 ねぇ、そこのあなた。

 どうかこのまま見ていてくださいね。

 ゲームの世界の悪役令嬢に憑依した現代人、という筋書きを。


 今、一字一字私を見ているでしょう?

 どういう経緯でこの話を読んでいるかは分からないけどね。


 あなたが私を見て『メビア』を意識する。

 そして、彼女はどう終わるのだろう、と思う。

 ほんの少しだけでも考えてほしい。


 あなたが思い描いた結末(ルート)に導かれて。

 悪役令嬢(メビア)が帰ってくるかもしれないわ。

 ……なんて、私の都合のいい妄想かもしれないけれど。


 意識が薄れていく。

 また、新しいメビアの人生がスタートするわ。

 一体、次はどんなルートかしらね。


「この物語は面白かったかしら?」


 メビアはどのような結末を望むのか。

 この話はどのように終わるのか。

 良かったら、あなたの感想を聞かせてほしい。


「メビアは、帰ってくると思う?」


 選択肢は今、あなた(読者)の手の中にある。

 ページをめくって、結末を読むか。

 それとも、ここでめでたしめでたしか。


 ■■■■エンド?

 “これが本当の結末かは、誰にも分からない”。

もし、この物語の続きを望むのなら。

もし、貴方もメビアに帰ってきてほしいと願うのなら。

どうか教えてほしい。

貴方だったら――どんな結末を選択するの?

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以前、乙女異世界転生について調べたことがあります。かつては新鮮で斬新だったものが、今ではありきたりで繰り返しの多い物語になってしまうという点が興味深かったです。このメタテキスト的なコンセプトは斬新で、…
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