第11話、バンドが出来る、だと!?
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あれから二週間が過ぎた。
前世の記憶を取り戻してから日課になっている生徒会室を目指して歩く。
今日は成績の件で教師に呼び出されていたので少し遅くなってしまった。
遅れてごめんと言いながら生徒会室に入ると、全員の視線がこちらに集まっていたのもあり、ギョッとして目を剥いた。
「何? 何かあったのか?」
身構えながら問いかける。するとノエルが言った。
「学園祭で生徒会でも何かしようかって話してたんだけどさ、レイが歌ってたやつ皆でやらない? 歌うのはレイで、ギターがグレン。ジェイはベース弾けるし、ボクとクリストフは今のとこはピアノの連弾。ね? ちょうど役割分担出来るし良くない?」
——それって、俺……また歌える!?
前の世界で受け入れられた音楽がここでもウケるとは思わない。
それでも体中を嬉々とした感情が駆け抜けていくのを止められなくて、間髪入れずに「やりたい!」と口にしていた。
「なら決まりだね。これからはその練習もしようか」
「うん。それと必要なら楽譜も書く! 他の人にも分かるようにここの言語にしようかな」
まさかまた音楽が出来るとは思わなくて顔がニヤけて堪らない。
「こういうのってレイのとこでは何て言うんだい? 歌壇でもないし合唱でもない。ましてや劇でもないしね……」
首を傾げたジェイが顎に手を当てた。
「ああ。前世ではバンドって呼んでたよ。俺がやってたのはロックバンドだな」
「「「前世?」」」
「あ。あーーー……」
ジェイには話していたからウッカリしていた。そういえば他の三人には言っていない。
歌の事になるとつい浮かれて乗ってしまう。したり顔で笑んだジェイを見て、こちらから暴露するように仕向けたのが分かり、一睨みしてみせた。
「ふふ、バンドか。いいね」
「前世とはどういう意味だ?」
「もしかしてあの言語たちも関係してる〜?」
クリストフとノエルからの質問に嘆息しながら、観念するように自らの髪の毛をかき混ぜる。
「そうだよ。最近前世の記憶ってのを思い出してさ、その時使ってた言語もまた使えるようになった。お前らに教えてる言語や歌はそこの世界のものだ。俺は歌をうたう職業についていたから。あ、並行して声優業てのもやってたから声も変えられるぞ」
試しに過去にやった役三人分の声音を出して、喋り方を変えながら適当なセリフを当てはめて聞かせた。
「レイ、凄い! 顔隠したらレイって分からないや」
「初めてみる才能だね。歌う時も普段受ける印象と変わるのに驚きしかないよ」
「俄かにも信じ難いな」
多少面食らった表情をしていたが、納得したように頷いている。
「そこにもドラゴンがいたのか?」
——お前本当にドラゴンが好きだな。
グレンに向けて左右に首を振った。
「いや、それどころかドラゴンは空想上の生き物で存在しない。もちろん、魔術や魔法もないぞ。剣などの武器を持って戦うという概念すらなかった。俺が以前居た世界は化学や医療、電子機器が発達した文明だ」
正確には武器を用いた国同士の戦争は確かにあるが、己の生きていた国は平和そのもので、武器の所有すら法律によって制限されていたくらいだ。
「ドラゴンがいない? なら何でお前はリューイと喋れる?」
「それは僕も疑問に思った」
グレンとジェイからのご尤もな返しに唇を引き結ぶ。
今までみたいに当たり障りない話で誤魔化す手もあったが、それはそれで面倒になりそうで思考を巡らす。
「あー……ごめん。それについてはまだ話せない。俺の方でどうしても確認したい事が多々あってさ。だから、悪いけどその話は追々させてくれないか?」
せめてループする理由を突き止めて止めたい。それが分かり解決次第話すつもりでいる。
あやふやで宙ぶらりんの今の状態で話すと、情報過多で不安や混乱しか招かないだろう。
はぐらかさずに神妙な面持ちで告げると、事情があるとそれとなく察してくれたのか、それ以上追求される事はなかった。代わりにノエルが口を開く。
「レイの仕事は歌がメインだったの〜? それにしてもどうやってこの世界に来れたの?」
「うん、そうだな。歌っていうか、バンド内のボーカルだな。主に作詞作曲もしてた。んで、仕事が増えた矢先に事故に巻き込まれて死んだってわけ。何でこの世界だったのかは分からない。それから転生してレイ・エル・メラッドとして今こうして生きている」
知らない事柄に興味があるのか、興味津々に質問攻めにあっていく。家に着いた頃には陽はとっくに落ちていて、そのまま夕食にありついた。
時間が遅いのもあって、今日の勉強会は三十分もしない内にお開きになった。
各々の部屋に戻りベッドの上にうつ伏せに転がる。
風呂上がりなのもあって体がポカポカしていて気持ち良い。
上下の瞼がくっついていくのに抗えずに目を瞑ると、意識はすぐに夢の中へと落ちて行った。
『先輩、じゃあ仕事終わるの待ってますね!』
『ああ。十分あればそっちに行けると思うから』
『分かりました!』
通話を終えてスマホをジャケットのポケットにしまいこむ。
——あ、そうか。アイツと会う約束してたんだっけ。
他界したあの日、桐生という名の後輩と飲む約束をしていた。
人懐っこい犬みたいな男で、バンドのファンクラブにまで入ってくれていた変わり者の後輩だった。
熱烈に支持してくれていたのが嬉しかったのもあり、彼には優先的に時間を割いていた。
霊媒師の仕事をしている祖母から後を継げと言われていて困っている、とよく愚痴を溢されていたのを思い出す。
約束を守れなかったのが今になって悔やまれる。そして意識はそのまま深く落ちて行った。
朝起きるとリューイとグレンがまた右隣に寝ていた。ふと反対側にも違和感を覚えて頭を動かすと、ジェイが追加されていたので嘆息する。狭苦しい事この上ない。
——増部屋した意味なかったな……。
まあ、いいや。やや慣れつつある自分が悲しくなってきた。
それにしても鍵を掛かけていたのに何故毎回突破されている? 魔法で開けたのだとしてもそこまでして入りたいものなのか? 理解不能だ。プライベートも何もあったもんじゃない。




