聖手のマッサージ師1-12話
聖手のマッサージ師1-12話です。
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『癒しの手、貴族の心』
~未亡人サロンのマッサージ師~
アニメ全24話 完全台本 Vol.1(第1話〜第6話)
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■ 世界観設定
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舞台:「アルヴィニア王国」
中世ヨーロッパ風のファンタジー世界。魔法と技術が共存する時代。
王都「ラントワール」には貴族の屋敷が立ち並ぶ一角があり、
その中心に「貴婦人の憩いサロン・フルール」がある。
サロン・フルールは、王国で唯一、貴族婦人専門のマッサージ・療養施設。
厳格な礼節と最高の技術を持つ施術師だけが雇われる名門サロンであり、
特に若き未亡人貴族たちの間で「心と体を癒す場所」として広く愛されている。
近年の長き辺境戦争により、多くの若き貴族男性が戦死または病死。
20歳〜25歳の若い未亡人貴女たちが多数生まれ、
彼女たちの心身のケアを目的として、このサロンは設立された。
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■ 主人公プロフィール
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◆ ライアン・ソルベール(20歳)
職業:見習いマッサージ師(サロン・フルール所属)
外見:明るい茶髪、緑の瞳。中肉中背でやや童顔。
性格:天然でおっちょこちょい。でも施術の腕だけは一流。
人の話をよく聞き、気づかないうちに相手の心を開かせる不思議な魅力がある。
恋愛に関しては驚くほど鈍感。
口癖:「えっ、そうなんですか!?」「あ、すみません!!」
背景:
平民出身。幼い頃に病気がちだった母を楽にしてあげたくて、
独学でマッサージを学び始めた。
母を癒した腕を認められ、異例の平民採用としてサロン・フルールに入職。
現在は見習いながらも、その施術の質はベテランに劣らないと評判。
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■ ヒロイン15人プロフィール
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◆ ヒロイン① アデライド・ヴァルモン公爵夫人(25歳)
外見:プラチナブロンド、青い瞳。長身でモデルのような美貌。
性格:完璧主義のクール系お嬢様。表面は氷のように冷たいが、内心は寂しがり屋。
夫は辺境の戦いで戦死。結婚からわずか3ヶ月での別れ。
感情を表に出すことを貴族の恥と考えているが、ライアンの前では少しずつ崩れていく。
口癖:「……別に。あなたに話すことなど何もありません」
◆ ヒロイン② セレスティア・ランベール伯爵夫人(23歳)
外見:栗色の巻き毛、ヘーゼルの瞳。ふわふわした可愛い顔立ち。
性格:天然ドジっ子お嬢様。本人はいたってマジメだがなぜか騒ぎを起こしがち。
夫は病没。仲はよかったが、まだ子供のように無邪気な性格のまま。
口癖:「えっ、これってそういうこと……?(ポーっとする)」
◆ ヒロイン③ イザベル・ダルクール子爵夫人(21歳)
外見:黒髪ショート、赤い瞳。小柄でボーイッシュ。
性格:活発でサバサバ系。貴族らしくない直球トーク。ライアンを「相棒」と呼ぶ。
夫は辺境戦で戦死。自分も男装して出兵しようとしたほどの行動派。
口癖:「細けぇこたぁいいんだよ! やるかやらないか、それだけだ!」
◆ ヒロイン④ エルミーヌ・ソワレ男爵夫人(20歳)
外見:淡いピンクの髪、桃色の瞳。ふわっとした小動物系。
性格:超内気で声が小さい。ぼそぼそ喋るが、たまに核心をついた一言を放つ。
夫は病死。ほとんど会話もないまま夫を亡くし、ひとり部屋にこもりがち。
口癖:「……(小声)……あの……その……ありがとう、ございます……」
◆ ヒロイン⑤ クロエ・ドゥ・ベルナール侯爵夫人(24歳)
外見:深紅の長髪、金の瞳。妖艶な美人。
性格:策士系お姉さん。何でも計算して動くが、ライアンだけは計算が通じない。
夫は政略結婚で年の差婚。愛情のない結婚に慣れていたが、病死後に孤独を知る。
口癖:「あら、わかりやすいこと。……でも、あなたは読めないわね」
◆ ヒロイン⑥ レティシア・フォルティエ公爵夫人(22歳)
外見:銀髪ツインテール、紫の瞳。少女のような外見だが毒舌家。
性格:ツンデレの王道。プライドが高く、素直になれないが、ライアンにだけ甘える。
夫は辺境戦で戦死。夫婦仲はまあまあで、突然の別れに戸惑いを感じている。
口癖:「べ、別にあなたが良いわけじゃないわよ!?」
◆ ヒロイン⑦ ヴィオレット・シャペル伯爵夫人(23歳)
外見:紫がかった黒髪、深緑の瞳。ミステリアスな雰囲気。
性格:物静かで読書家。詩や文学が好きで、難解な言い回しをする。
夫は病死。詩の才能を持ち、密かに本を出版しているが誰にも内緒。
口癖:「……それは、まるで秋の雨のようですね。音もなく、でも確かに、濡れている」
◆ ヒロイン⑧ ソフィー・グラティエ子爵夫人(20歳)
外見:明るい金髪ポニーテール、空色の瞳。元気いっぱいの笑顔。
性格:無邪気で食いしん坊。貴族らしくないガツガツ食べる。施術中も「お腹すいた」と言う。
夫は遠征中に病死。まだ若く、悲しみよりも「これからどうしよう」が正直なところ。
口癖:「ねえねえ! 施術の後って何か食べていい? お腹ぺこぺこ〜!」
◆ ヒロイン⑨ マドレーヌ・コルネイユ侯爵夫人(25歳)
外見:焦げ茶の髪をまとめた知的美人、琥珀の瞳。
性格:しっかり者のお姉さん系。他のヒロインたちのまとめ役でもある。
夫は戦死。夫との仲は良好で、今も深く愛し続けている。ライアンに対して最も葛藤が大きい。
口癖:「ふふ、仕方ないわね。私が引き受けましょう」
◆ ヒロイン⑩ アンジェリカ・ドゥモン男爵夫人(21歳)
外見:赤茶の緩いウェーブヘア、緑の瞳。そばかすが可愛い。
性格:お転婆で好奇心旺盛。ライアンに対して「実験台」扱いし、突飛な質問ばかりする。
夫は病死。本人はあまりくよくよしない性格で、前向きに生きようとしている。
口癖:「ねえ、もし私が〇〇したらどうする?(目をキラキラ)」
◆ ヒロイン⑪ エヴリン・マルソー伯爵夫人(22歳)
外見:亜麻色の長髪、茶の瞳。清楚系美人。
性格:引っ込み思案だが、歌が大好き。サロンの廊下でよくハミングしている。
夫は病死。音楽の才能を封印されていた(夫の家が厳格だったため)今は自由を謳歌中。
口癖:「え、聞こえてた……?(顔が真っ赤)」
◆ ヒロイン⑫ フランシーヌ・ピエロン子爵夫人(24歳)
外見:ダークブロンド、黒の瞳。凛とした美人だが笑うと子供みたい。
性格:厳格に見えて実は大の怖がり。幽霊や雷が苦手。見栄っ張りでバレたくない。
夫は戦死。武人の家系の出身で、強くあらねばという重圧を感じている。
口癖:「わっ!?……な、なんでもない! 少し驚いただけよ!」
◆ ヒロイン⑬ テレーズ・モリエール公爵夫人(25歳)
外見:白銀の髪、氷色の瞳。神秘的な美しさ。
性格:占い師気質でいつも謎めいたことを言う。よく「予言」するが大体外れる。
夫は病死。「星が告げた定め」と自分を納得させているが、内心は深く悲しんでいる。
口癖:「今日の星は……あなたとの出会いを示していましたわ(キラーン)」
◆ ヒロイン⑭ ナタリー・デュボワ男爵夫人(20歳)
外見:黒髪ストレート、黒の瞳。和風美人系(異国出身の血が入っている設定)。
性格:料理が大好きな家庭的女子。施術の後はいつも手作りお菓子を差し入れてくる。
夫は病死(政略結婚で会ったことほぼなし)。料理で人を幸せにするのが生きがい。
口癖:「はいどうぞ! 今日は焼きたてクッキーよ!」(押しつけるように)
◆ ヒロイン⑮ オリアンヌ・ブランシュ公爵夫人(23歳)
外見:翡翠色の長髪、翠の瞳。妖精のような外見。
性格:超マイペースで天才肌。植物研究に夢中で、施術中も植物の話しかしない。
夫は病死(実験中の事故で……)。今も研究に没頭することで悲しみを紛らわしている。
口癖:「この地方のシダ類の気孔の分布が……あ、ごめんなさい、また話しすぎました?」
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■ サロンスタッフ(サブキャラ)
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◆ ソランジュ・ベロワ(50歳) サロン・フルール院長
厳しくも温かいベテラン。ライアンの才能をいち早く見抜いた人物。
口癖:「ライアン、あなたはまた何かやらかしましたね?」
◆ ギャスパール・ノワール(25歳) 先輩マッサージ師
イケメンエリート。ライアンのことを「天然の怪物」と評しつつ、親友として支える。
口癖:「お前のその罪深い天然、いつか刺されるぞ」
◆ リーゼ・ヴォルム(18歳) 新入り受付嬢
元気いっぱいでライアンのことを密かに応援している。ライアンとヒロインたちの様子を逐一観察してはニヤニヤしている。
口癖:「きゃー! また素敵な展開になってますよ〜!!」
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第 1 話
「癒しの手が、貴族の扉を開く」
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【オープニング映像】
王都ラントワールの朝。石畳に朝露が光り、石造りの建物の窓に暖かな光が灯る。
壮麗な貴族街の一角、薔薇が絡まる白亜の建物に金色の看板。
「SALON FLEUR ―貴婦人の憩いのサロン―」
【BGM:軽やかなハープと弦楽器のメロディ】
ナレーション(ライアンの声):
「俺の名前は、ライアン・ソルベール。二十歳。
王都の名門サロン・フルールに採用されたばかりの見習いマッサージ師です。
夢は、訪れる全てのお客様の心と体を癒すこと。
……で、そのサロンというのが、貴族専門の、しかも女性しか来ない場所で……」
(ドタン!という音)
ライアン:
「あ、すみませんすみません!! こっちですか!?」
ナレーション:
「初日から、僕は迷子になっていました」
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【シーン①:サロン・フルール 廊下】
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白い大理石の廊下。美しい調度品が並ぶ中、ライアンが地図を片手にオロオロしている。
見習い用の白い制服を着ているが、ネクタイが曲がっており、髪も少し乱れている。
ライアン:(独り言)
「えーと……施術室Cは……左? 右? あれ、この廊下、さっきも通った気がする……」
その時、角から優雅に歩いてくる女性。
プラチナブロンドの長髪、青い瞳。上質なドレスを纏ったアデライド・ヴァルモン公爵夫人。
ライアンは気づかずに地図に顔を突っ込んでいる。
アデライドとの距離、みるみる縮まり――
ドシン!!
ライアン:
「わあっ!!」
アデライド:
「……っ!?」
二人、廊下の真ん中で激突。地図が舞い上がり、ひらひらと落ちる。
ライアン:(慌てて立ち上がる)
「す、すすすみませんっ!! 大丈夫ですか!?」
アデライド:(涼しい顔でスッと立ち上がりながら)
「……(しばらく無言)……見ていなかったのはどちらですか」
ライアン:
「自分です!! 本当に申し訳ありませんでした!!
あの、お怪我は……? ひ、膝とか打ちませんでしたか?」
アデライド:
「……心配には及びません。……そちらこそ」
ライアン:(きょとん)
「え?」
アデライド:(一瞬だけライアンの額を見て、すぐ目を逸らす)
「……赤くなっています。額が」
ライアン:(額に触れて)
「あ、ほんとだ! いてて……。ありがとうございます、気にしていただいて」
アデライド:(ツンとして)
「別に。ただ事実を述べただけです」
ライアン:(ニコッと笑って)
「それでも、ありがとうございます。……あの、あなたは施術のお客様ですか?
もしよかったら、その……道も教えていただけたりします?
施術室Cに行きたいんですが、迷子になってしまって……」
アデライド:(ため息をつきながら)
「……あなた、見習いですか」
ライアン:
「はい! 今日が初日で!」
アデライド:(小さく呆れたようにつぶやく)
「……呆れた。こちらです」
スタスタと歩き始めるアデライド。ライアンは慌てて後を追う。
ライアン:
「え、案内してくださるんですか!? ありがとうございます!」
アデライド:
「……うるさい。黙って来なさい」
その横顔に、ほんの少し、口の端が上がっているのをライアンは気づいていない。
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【シーン②:院長室】
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重厚な木製の扉の前。ライアンが深呼吸している。
隣に先輩施術師のギャスパールが立っている。
ギャスパール:(腕を組んで)
「緊張してるのか?」
ライアン:
「してます。めちゃくちゃしてます」
ギャスパール:
「まあ当然だな。ソランジュ院長はこのサロンで一番怖い人間だからな」
ライアン:
「え!? そんな人なんですか!?」
ギャスパール:
「いや、良い人だよ。ただ……要求水準が宇宙の彼方にある」
ライアン:(顔が青くなる)
「宇宙……」
ドア越しに凛とした声が聞こえる。
ソランジュ(声):
「ライアン・ソルベール、入りなさい」
ライアン:(震えながら扉を開ける)
「し、失礼します……!」
院長室。白と金を基調とした優雅な部屋の中央に、
ソランジュ・ベロワが背筋を伸ばして座っている。
50代でありながら、その威厳と美しさは現役の貴婦人にも勝る。
ソランジュ:(じっとライアンを見て)
「……額が赤い。どうしたのですか」
ライアン:
「あ、えっと……お客様とぶつかってしまって……」
ソランジュ:(目が細くなる)
「……初日早々にお客様とぶつかった?」
ライアン:(ヒッとなりながら)
「は、はい……本当に申し訳……」
ソランジュ:(ふ、と小さく笑う)
「……ヴァルモン公爵夫人から聞きました。
あなたがぶつかった後、真っ先にお客様を心配して、それから礼を欠かさなかったと」
ライアン:
「えっ……そんなこと、報告が?」
ソランジュ:
「夫人は滅多に人を褒めません。でも、『なかなか礼節のある子だった』とおっしゃっていた。
あの夫人にそう言わせるとは……ふふ。あなた、やはり面白い子ですね」
ライアン:(きょとん)
「………面白い、ですか?」
ソランジュ:
「座りなさい。改めて説明します。
このサロン・フルールは、アルヴィニア王国の貴族婦人だけが利用できる最高級サロンです。
我々は単なる施術師ではない。お客様の心の守り人でもある。
ここに来る方々は皆、深い悲しみを抱えています。
若くして夫を失った、まだ二十代の女性たちです」
ライアン:(真剣な表情になって)
「……はい」
ソランジュ:
「技術は申し分ない。あなたの腕は私が保証します。
ですが施術師に必要なのは技術だけではない。
……あなたはどう思いますか?」
ライアン:(少し考えて、まっすぐに答える)
「……聴くこと、だと思います。
施術をしながら、その人が本当に何を求めているのかを、ちゃんと聴くこと。
体の緊張がほぐれると、心も少しだけ開くことがある。
その瞬間に、ちゃんとそこにいること……だと、思っています」
ソランジュ:(静かに微笑んで)
「……よろしい。
では今日から、あなたには15名の担当客をお任せします」
ライアン:(ぎょっとして)
「じ、じゅうごにんっ!? いっきに!?」
ソランジュ:
「問題がありますか?」
ライアン:(震えながら)
「……が、頑張ります……!」
ギャスパール(廊下から聞こえる声):
「(ひそひそ)だから言っただろ。宇宙の彼方だって……」
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【シーン③:施術室C (アデライドとの初施術)】
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清潔で落ち着いた施術室。ラベンダーのアロマ。柔らかな間接照明。
アデライドが施術台に横になっている。上品なリラクゼーション用のローブ姿。
ライアン:(入室してペコリと頭を下げる)
「ヴァルモン公爵夫人、本日担当させていただきます、ライアン・ソルベールと申します。
先ほどはぶつかってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
アデライド:(目を閉じたまま)
「……もういいと言ったでしょう」
ライアン:
「はい。でも、けじめは大事かなと思って……」
アデライド:(小さく鼻を鳴らす)
「……さっさと始めなさい」
ライアン:
「はい。では、まず肩の状態を確認させてください」
アデライドの肩にそっと手を当てると――
ライアンの表情が真剣になる。
ライアン:(静かに)
「……随分、かたいですね」
アデライド:
「……何が」
ライアン:
「肩だけじゃなくて……首の付け根も、背中の上部も。
ずっと力が入りっぱなしになっている感じです。
何かを、ずっと堪えている人の体の緊張の仕方です」
アデライド:(一瞬だけ息を止める)
「……施術師が客の心情を推測するのは余計なお世話ではないですか」
ライアン:
「すみません。でも体は正直に話してくれるので、つい……」
慎重に、丁寧に、肩から首へと施術を始める。
確かで温かい手の感触に、アデライドの眉が少しだけ緩む。
アデライド:(ぼそっと)
「……上手いですね」
ライアン:(明るく)
「ありがとうございます!」
アデライド:
「褒めていません。……ただ事実を」
ライアン:(くすっと笑って)
「今朝も同じことをおっしゃってましたね」
アデライド:
「……っ」(少しだけ頬が赤くなる)「……黙って施術しなさい」
ライアン:
「はい……。でも、一つだけ聞いてもいいですか?」
アデライド:
「……何ですか」
ライアン:
「今、体でいちばんつらいのはどのあたりですか?
一番楽になりたいのはどこか、教えていただけると、もっと丁寧にできます」
アデライド:(しばらく沈黙して……小さく)
「……胸のあたり。
……呼吸するのが、たまに、つらいんです」
ライアン:(優しく)
「わかりました。では今日は、呼吸が楽になるように、胸の周りの筋肉を重点的にやりますね」
アデライド:
「…………(小さな声で)……お願いします」
その言葉がこんなにも素直に出たことに、アデライド自身が一番驚いていた。
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【シーン④:サロンの待合室 (ラッキースケベ①)】
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施術後、廊下をほっとした顔で歩くライアン。
曲がり角で次の担当客の資料を確認しながら歩いていると――
廊下の向こうから元気よく歩いてくる金髪ポニーテールの女性。
ソフィー・グラティエ子爵夫人(20歳)。
彼女は大きな焼き菓子の箱を両手で抱えていて前が見えていない。
ナタリー(廊下の外から叫ぶ):
「ソフィーさん! 前!! 前見て!!」
ソフィー:
「え?」
ドドドン!!
ライアン:
「わあっ!!」
ソフィー:
「きゃっ!!」
衝突。ライアンがバランスを崩し、手をついた先がソフィーの帽子で――
帽子がぽーんと飛び、ライアンの頭にすっぽり被さる。
ソフィー:(ぱちくりして)
「……うわあ、サイズぴったり」
ライアン:(帽子の下から)
「……すすすみません!!」(帽子をとりながら慌てて立つ)
ソフィー:(きょとんと見上げて)
「あなた、新しい施術師さん? なんか……可愛い顔してるね」
ライアン:(真っ赤になって)
「か、可愛い……!?」
ソフィー:(にっこり)
「うん! お腹すいてそうな顔してる! (箱を差し出して)クッキー食べる?」
ライアン:(呆然と)
「……は?」
ナタリー:(走ってきて)
「ソフィーさん! 貴族女性が施術師の方にいきなり食べ物を!……あ、こんにちは」
ライアン:
「こ、こんにちは……」
ソフィー:(構わずクッキーをライアンの口元に差し出す)
「ほら、あーんして」
ライアン:(真っ赤なまま)
「え!? えっ!? あ……は……」
廊下の端でリーゼがメモを取りながらニヤニヤしている。
リーゼ(小声):
「ライアン様……初日から大盛況……素晴らしい……!」
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【シーン⑤:サロン廊下 夕方 (一日の終わり)】
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夕暮れ。金色の光が廊下に差し込む。
ライアンが壁にもたれて疲れ果てている。傍にギャスパール。
ギャスパール:
「で? 初日の感想は?」
ライアン:(虚ろな目で)
「……廊下で二回ぶつかりました……」
ギャスパール:
「それは聞いた。施術の感想は?」
ライアン:(少しずつ表情が戻ってきて)
「……みんな、すごく疲れてるんですね。
体の奥の奥まで、なんか……硬くなっているというか。
悲しみって、体に積もるんだなって……改めて思いました」
ギャスパール:(少し驚いた顔で)
「……いきなりそこか。普通の見習いは技術のことしか言わないぞ」
ライアン:
「でも、体がほぐれると、みんな少しだけ話してくれるんですよ。
ヴァルモン夫人も、最初はすごく怖かったけど……施術の終わりに、
少しだけ、昔の話をしてくださって……」
ギャスパール:
「ヴァルモン夫人が? ……あの人、誰にも心を開かないことで有名なのに」
ライアン:(きょとん)
「え、そうなんですか? 優しい方だと思ったけど……」
ギャスパール:(額に手を当てて)
「……お前、やっぱり天然の怪物だな……」
ライアン:
「怪物って何ですか!?」
その時、廊下の向こうから歩いてくるアデライドの姿。
ライアンに気づき、一瞬足を止め……また歩き出す。
すれ違いざまに、ほんの小さな声で。
アデライド:
「……今日は、よかったです」
ライアン:(えっと顔を向けると、もう背中が遠ざかっている)
「……ありがとうございます……!」
ギャスパール:(ライアンの肩をぽんと叩いて)
「……お前、気をつけろよ」
ライアン:
「え? 何をですか?」
ギャスパール:
「色々と」
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【エンディング】
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ナレーション(ライアン):
「こうして僕の、サロン・フルールでの日々が始まりました。
悲しみを抱えた貴族の奥様方と、天然ドジな僕の施術日誌。
……まさかこんなことになるとは、この時は知る由もなかったのですが」
夜の王都。サロン・フルールの窓に灯る明かり。
遠くから、誰かのハミングが聞こえてくる。
【次回予告】
ライアンの声:
「次回は……セレスティア夫人の施術中に、えらいことが起きました!
いや、ほんとに僕は何もしてないんですよ!?
第2話『天然ドジッ子対決!? 嵐を呼ぶ施術室』!」
【第1話 了】
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第 2 話
「天然ドジッ子対決!? 嵐を呼ぶ施術室」
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【オープニング後】
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【シーン①:サロン・フルール 準備室 朝】
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翌朝。ライアンが施術の準備をしている。
タオルをたたんでいると、ギャスパールが今日の担当表を持ってくる。
ギャスパール:
「今日の担当、確認しとけ。
午前はセレスティア・ランベール伯爵夫人とイザベル・ダルクール子爵夫人。
午後はエルミーヌ・ソワレ男爵夫人だ」
ライアン:(メモしながら)
「セレスティア夫人……あ、昨日の待合室でちょっとお話しした方ですね。ふわっとした雰囲気の」
ギャスパール:
「……一応、教えておくが。
あの夫人、天然ドジで有名でな。施術中に謎のアクシデントを起こすことが多い。
前の担当師は施術中にお湯をぶっかけられ、その前の担当師は椅子を壊されたらしい」
ライアン:
「え……」
ギャスパール:
「で、誰もが匙を投げた結果、お前のところに回ってきた」
ライアン:(青ざめて)
「それって実質的には……」
ギャスパール:
「捨て駒だな」
ライアン:(がくっと膝をつく)
ギャスパール:(去り際に振り返って)
「まあ、お前なら大丈夫だろ。天然同士、なんかうまいことなるんじゃないか」
ライアン:
「うまいことって何ですか!!」
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【シーン②:施術室B (セレスティアとの初施術)】
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施術室。ライアンが用意を整えて待っていると、ドアが開く。
セレスティア・ランベール伯爵夫人が入室。栗色の巻き毛が揺れる。
にこにことした笑顔でとびきり可愛い顔立ち。
セレスティア:(ぱちぱちとライアンを見て)
「あ、今日の担当さん? よろしくお願いします! えーと……」(資料を取り出す)
ライアン:
「ライアン・ソルベールと申します」
セレスティア:(資料に目を落として)
「ライアン……さん……(なぜか資料を逆さまに持っている)……あれ?」
ライアン:
「あの……夫人、資料が逆さまです」
セレスティア:(くるっと資料をひっくり返して)
「あっ! ほんとだ! えへへ……」
ライアン:(ほっこりして)
「では、施術台にお横になりください」
セレスティア:にこっとして台に近づき、乗ろうとした瞬間――
ずるっ。
セレスティア:「あっ」
台の端の滑らかな縁に足を滑らせ、バランスを崩す。
ライアンが反射的に手を伸ばして支えるが、
セレスティアがしがみついた結果、二人でゆっくりと横向きに倒れる。
ドスン。
しばし沈黙。
セレスティア:(ライアンの上で)
「…………あなた、クッションみたい。ふかふか」
ライアン:(床で真っ赤になりながら)
「あ、ありがとうございます……えっと、夫人、立てますか……?」
セレスティア:(ぽーっとした顔で)
「うん……でもなんか心地よくて……」
ライアン:
「ちゃんと施術台の方が心地よいですよ!!」
廊下でリーゼがドアに耳をつけて「きゃっ!!」と小声でガッツポーズしている。
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【シーン③:施術室B (セレスティアの施術 後半)】
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なんとか仕切り直して、施術台に横になるセレスティア。
ライアンが丁寧に肩から背中を施術していく。
セレスティア:(ぽーっとしながら)
「ねえ……ライアンさんって、どうしてマッサージ師になったの?」
ライアン:
「病気がちだった母に、楽になってほしかったからです。
体が楽になると、笑ってくれるから……」
セレスティア:(ほわっとした顔で)
「……お母さん思いなんだね」
ライアン:
「夫人はどうしてサロンに来られているんですか?
あ、立ち入ったことを聞いてすみません……」
セレスティア:(少し間があって)
「……ちゃんと食べてるのに、体が疲れてて。
それで……その……こういうの、初めてで……
ちゃんと誰かに、体を楽にしてもらうっていうのが。
夫がいた時も……あまり……うまくお話しできなくて……」
ライアン:(ゆっくりと、でも確かな手で)
「そうですか……。
では今日は、ゆっくりでいいですよ。
話したいことがあれば話せばいいし、何も話さなくてもいいです。
ただ、体を楽にすることだけ考えてください」
セレスティア:(目をぱちくりして)
「……ライアンさんって……なんか……へんなひと」
ライアン:(苦笑い)
「よく言われます」
セレスティア:(にこっと)
「いい意味で、だよ」
しばらくして。
セレスティア:(うとうとしながら、ぼそっと)
「……また来ていい?」
ライアン:(静かに微笑んで)
「はい。いつでもどうぞ」
セレスティア:(目を閉じたまま)
「……うん。じゃあまた来る……zzzz」
ライアン:(驚いて、でも笑いながら)
「……え、寝てしまわれた……」
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【シーン④:施術室A (イザベルとの初施術)】
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午前の後半。施術室が変わり、ライアンが身構えていると――
ドアが勢いよく開く。
イザベル:(ずかずかと入室しながら)
「よーし! 今日の担当は誰だ!」
ライアン:
「は、はい! ライアン・ソルベールです!」
イザベルがライアんをじろじろ上から下まで見る。
イザベル:
「……ほう。思ったより細いな。でも目はいい。平民出身だろ?」
ライアン:(ぎくっとして)
「え……わかりますか?」
イザベル:
「立ち方でわかる。貴族育ちの腰の入れ方じゃない。
あたしも半分そっち側みたいなもんだから、わかる。
……別に悪い意味じゃないぞ。むしろ好感だ」
ライアン:(ほっとして)
「ありがとうございます……」
イザベル:(台にどさっと横になりながら)
「で! さっさとやってくれ! 硬いとこはそこらじゅう全部だ!」
ライアン:(手を当てながら)
「……本当だ。全身、鎧みたいに固まってますね」
イザベル:
「辺境戦の報告書を読むたびに固まるんだよな。夫が死んだ場所の地図とか、
今も毎日見てる。なんかそこにしか、あいつのことを感じられる気がして……」
ライアン:(少し間を置いて、静かに)
「……大切にされているんですね、その人のことを」
イザベル:(ちょっとだけ声が変わって)
「……まあな。悔しいけど」
ライアン:
「悔しい……?」
イザベル:
「あいつ、死んじゃいけない人間だったんだよ。
あたしより強かったし、優しかったし、バカみたいに真っ直ぐで……
なのに死にやがって……バカヤロウ……(ぐっと、目に力が入る)」
ライアン:(何も言わずに、ゆっくりと肩を施術しながら)
イザベル:(しばらくして)
「……なんで黙ってんだ」
ライアン:
「こういう時は、聴く方がいいかなと思って」
イザベル:(鼻で笑って、でも声が少し温かくなって)
「……お前、変なやつだな」
ライアン:
「今日二回目です、その言葉」
イザベル:
「褒め言葉だ。受け取っとけ」
ライアン:(くすりと)
「ありがとうございます」
イザベル:(少し沈黙してから)
「……また来ていいか?」
ライアン:
「もちろんです」
イザベル:(ふんっと顔を背けて)
「別にお前に会いたいわけじゃないからな。体の問題だからな」
ライアン:(笑顔で)
「はい、わかってます」
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【シーン⑤:施術室D (エルミーヌとの初施術)】
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午後。施術室の外でライアンが心の準備をしている。
ギャスパールからの資料を見ている。
ライアン:(資料を読んで)
「エルミーヌ・ソワレ男爵夫人……内気で声が小さい……会話が苦手……
前担当師はエルミーヌ夫人との会話に疲弊して辞退を申し出た……?!」
コンコン、とライアンがノックして入ると――
部屋の隅、施術台ではなく壁際の椅子に、
小さな体をさらに縮めて、淡いピンク色の髪をした少女のような女性が座っている。
エルミーヌ・ソワレ男爵夫人。両手を膝に置き、じっとしている。
ライアン:(静かに、穏やかに)
「こんにちは。ライアンと申します。今日よろしくお願いします」
エルミーヌ:(ちらっとライアンを見て、すぐ目を逸らし、ぼそっと)
「……よろしく……おねがいします……」
ライアン:(無理に近づかず、少し距離を保って)
「えっと……今日は、どんな感じにしましょうか?
全身でも、部分的でも、あるいは……もし今日はただここにいるだけでもいいです」
エルミーヌ:(ぱっと顔を上げて、驚いたように)
「……いる、だけ?」
ライアン:
「はい。施術は強制じゃないので。慣れてきたらで大丈夫です。
緊張しているのに無理やり触れるのは、むしろよくないと思うので」
エルミーヌ:(じっとライアンを見て……ぽそっと)
「……今まで、誰もそんなこと言わなかった……」
ライアン:
「そうですか……。じゃあ今日はとりあえず、お茶でも飲みながらお話しするだけにしましょうか。
施術室でお茶ってへんですけど……」
エルミーヌ:(ほんの少し、口の端が上がって)
「……へん……(ぼそっと)でも、いい……です」
ライアン:(にっこりして)
「では、院長に聞いてきますね!」
エルミーヌ:(ライアンが出ていった後、一人で)
「…………(ほうっと息をついて、胸に手を当てる)……なんだろ……この人……」
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【シーン⑥:ラッキースケベ② サロン浴室付近】
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施術後、ライアンが使用済みタオルを回収しながら廊下を歩いている。
浴室方向の角を曲がった瞬間――
突然、頭上からお湯がどばーっとかかる。
ライアン:
「うわあああっ!!」
上を見ると、浴室の窓から慌てた顔のイザベルが覗いている。
イザベル:
「あっ!! ご、ごめん!! 浴室のバケツが窓から……!」
ライアン:(全身びしょ濡れで)
「……これ、どういう状況なんですか……」
イザベル:(赤い顔で)
「窓の外に干そうとしたら手が滑って……! ほんとごめんって!!」
ライアン:(ぽたぽた滴を垂らしながら)
「……夫人が謝るんですか。なんかそれはそれで心配ですね」
イザベル:(またムっとして)
「なんだよその言い方!」
ライアン:
「いや、嬉しかったんです。ちゃんとそういうこと言える人なんだなって」
イザベル:(ぎょっとして、ぶんっと窓を閉める)
(窓の内側から、なんか叫んでいる声がかすかに聞こえる……が、内容は聞こえない)
リーゼ(後ろから):
「ライアン様……拭きますか?」(タオルを差し出しながら目をキラキラさせている)
ライアン:
「……ありがとう、リーゼさん……」
リーゼ(小声で):
「ちゃんと記録しましたから大丈夫ですよ……!(謎の台詞)」
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「セレスティア夫人は施術中に寝てしまうし、
イザベル夫人にはお湯をかけられるし、
エルミーヌ夫人はお話しするだけで一日終わったし……
でも……なんか、楽しい。
それぞれの方が、ちゃんと、自分の時間を持ってくれてる感じがして……
それだけで、もうちょっと頑張れる気がしました」
次回予告:
「次回! クロエ夫人がやってくる! 計算された優雅さと、計算外のあの男。
それから……ヴィオレット夫人の謎の詩の意味とは?
第3話『策士、翻弄される』お楽しみに!」
【第2話 了】
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第 3 話
「策士、翻弄される」
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【シーン①:施術室E (クロエとの初対面)】
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施術室。ライアンが準備を整えている。
ドアがゆっくりと開き、深紅の長髪、金の瞳の女性がしなやかに入室。
クロエ・ドゥ・ベルナール侯爵夫人。妖艶な美しさが部屋の空気を変える。
クロエ:(部屋を見渡してから、ライアンに視線を当てて)
「……あら。今日の担当は、あなた?」
ライアン:
「はい。ライアン・ソルベールと申します。よろしくお願いします」
クロエ:(ゆっくりライアンの周りを一周する)
「……ふうん。平民の子ね。院長はどういうつもりかしら。
……なんてね、冗談よ。ふふ」
ライアン:(戸惑いながらも)
「……あ、はあ……」
クロエ:(施術台にエレガントに横になりながら)
「ねえ、あなた、いくつ?」
ライアン:
「二十歳です」
クロエ:(くすりと笑って)
「ずいぶんと若いのね。……慣れてる? 貴族女性を相手にするのは」
ライアン:(正直に)
「まだ2日目なので……正直、緊張はしています」
クロエ:(意外そうな顔で)
「あら、正直ね。……施術師は『慣れています』と答えるものだけど」
ライアン:
「嘘をついてもすぐバレるので……(苦笑い)」
クロエ:(にっこりして)
「面白い子ね。……ちょっと試させてもらうわよ?」
ライアン:
「試す……とは……?」
クロエ:(甘い声で)
「施術しながら、色々聞いてもいい?
私、担当師がどんな人かを見極めてから判断するの。
つまり……あなたが私のお眼鏡に叶うかどうか、ね」
ライアン:(ごくっとして、でも真面目に)
「……はい。聞いてください。答えられることはちゃんとお答えします」
クロエ:(予想外の答えに少し目を見開いて)
「……なるほど。では始めましょうか」
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【シーン②:施術室E (クロエの質問攻め)】
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施術が始まる。ライアンがクロエの背中を丁寧に施術しながら。
クロエ:
「好きな女性のタイプは?」
ライアン:(考えながら施術しつつ)
「うーん……笑った顔が可愛い人ですかね」
クロエ:(くすりと)
「ありきたりね。……では、今まで誰かを好きになったことは?」
ライアン:
「……あんまりそういう方向に頭が動かないというか……
施術のことを考えていると、それだけで頭がいっぱいになってしまって」
クロエ:(ふふっと笑う)
「……本当に? 嘘ではなさそうね」
ライアン:
「クロエ夫人は、どうして施術に来られているんですか?」
クロエ:(間があって)
「……あら、逆質問? 生意気ね」
ライアン:
「すみません……」
クロエ:
「……いいわよ。……ちょっと、疲れたの。
ずっと計算して生きてきたから……。
政略で嫁いで、夫を亡くして、それでも計算して……。
ここにいる間くらい、計算しなくていい時間が欲しくて」
ライアン:(素直に)
「そうですか。……じゃあ今日は、無駄話でもしながらやりましょうか。
計算なしで」
クロエ:(くすっと笑う)
「……あなた、計算できないだけじゃないの?」
ライアン:(少し間があって)
「……そうかもしれません(苦笑)」
クロエ:(初めてちょっと本気で笑って)
「ふふ……ふふふ……!
……あなた、面白いわね。本当に」
ライアン:(嬉しそうに)
「ありがとうございます!」
クロエ:(笑いながらも)
「……計算できないくせに、なんで肝心なところで的を射るのかしら……」
(独り言のように呟いたその言葉は、ライアンには聞こえていなかった)
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【シーン③ ラッキースケベ③ 廊下の本棚の前】
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施術後の休憩時間。ライアンがサロンの廊下にある本棚で施術の参考書を探している。
背伸びして一番上の棚を取ろうとしている時——
後ろからヴィオレット・シャペル伯爵夫人(紫がかった黒髪、深緑の瞳)が
同じ棚の本を取ろうと無言で近づいてくる。
互いに気づかず、ライアンが身を乗り出した瞬間、ヴィオレットも手を伸ばし——
ポン、とヴィオレットの手がライアンの手の上に重なる。
二人、同時に気づいてびっくり。
ライアン:
「わっ!! す、すみません!!」
ヴィオレット:(びっくりしているが、表情は静かで)
「……いいえ……」(じっとライアンの手を見ている)
ライアン:(本を取ってヴィオレットに渡しながら)
「こちらですか?」
ヴィオレット:(受け取りながら、少しだけ頬が赤い)
「……ええ。……あなたが、ライアン・ソルベールさん?」
ライアン:
「はい! ヴィオレット夫人……ですよね? 明日が初施術のご予定の」
ヴィオレット:(本をぱらぱらとめくりながら、ぽつりと)
「……本棚で出会う人とは、不思議な縁があると、詩人は言います」
ライアン:(きょとんとして)
「そうなんですか?」
ヴィオレット:(ライアンをじっと見て)
「……明日、よろしくお願いします」
ライアン:
「こちらこそ。楽しみにしています」
ヴィオレット:(歩き去りながら、一人で小さく)
「……楽しみ……か。そんなふうに思ったのは……久しぶりね……」
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【シーン④:施術室F (ヴィオレットの施術)】
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翌日。ヴィオレットの施術。
ミステリアスな雰囲気の施術室。アンバーのアロマ。
ヴィオレットは横になっているが、目を閉じずに天井を見ている。
ライアン:(施術しながら)
「……夫人、目を閉じた方が楽ですよ」
ヴィオレット:
「……目を閉じると、色々なことを考えてしまうから……」
ライアン:
「ああ……それはわかります」
ヴィオレット:(少し間があって)
「……あなたは詩を読みますか?」
ライアン:
「あまり……施術の本は読むんですけど……夫人は詩がお好きなんですか?」
ヴィオレット:
「……詩を書いています。誰にも言っていませんが」
ライアン:(驚いて)
「えっ、すごい! 読んでみたいです!」
ヴィオレット:(ぱっと振り向いて、少し照れたように)
「……なぜ?」
ライアン:
「夫人の言葉、不思議なんですよ。昨日の『本棚で出会う人』って話も……
ちゃんと意味があるような気がして、ずっと考えてたんです」
ヴィオレット:(静かに、でも少し嬉しそうに)
「……ふふ。あなたはちゃんと聴いているんですね」
ライアン:
「はい。みなさんの言葉、全部聴きたいなって思って」
ヴィオレット:(しばらく沈黙して、ぽつりと)
「……夫が死んでから、詩が書けなくなりました。
言葉が、どこかに消えてしまったみたいで……。
でも今日……少し戻ってきた気がします」
ライアン:(優しく施術を続けながら)
「……よかったです」
ヴィオレット:(目を閉じながら、静かに)
「……あなたの手は、詩のようですね。
音もなく、でも確かに、何かを解かしていく……」
ライアン:(きょとんとして、でも嬉しそうに)
「……詩みたいに言っていただけると、なんか照れますね」
ヴィオレット:(かすかに微笑んで)
「……照れている顔も、詩になりますよ」
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「クロエ夫人は計算が得意な方で、僕を色々試そうとしていた。
でも……計算通りにいかないって言ってくれた。なんか嬉しかったです、不思議と。
ヴィオレット夫人は詩人で、言葉がとても綺麗で……
施術してるうちに、夫人の言葉がじわじわ沁みてきて……
あれ、なんか体の方が目覚めてきた気がするのは、僕だけですかね……?
いや、絶対気のせいです。施術師ですから。プロですから」
次回予告:
「第4話! レティシア夫人の本音が大爆発!?
そしてソフィー夫人と一緒に食べ歩きデート(業務)が発生します!
『ツンデレの嵐と、食いしん坊の嵐』! お楽しみに!」
【第3話 了】
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第 4 話
「ツンデレの嵐と、食いしん坊の嵐」
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【シーン①:施術室G (レティシアとの初施術)】
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施術室。ライアンが準備万端で待っていると——
ドアがバンっと開いて、銀髪ツインテールの女性がずかずかと入ってくる。
レティシア・フォルティエ公爵夫人。紫の瞳がぱちぱち怒っているように見える。
レティシア:(ライアンを見て、仁王立ちになって)
「あなたが今日の担当?」
ライアン:
「は、はい! ライアン・ソルベールです!」
レティシア:(じろじろ見て)
「……平民よね。なんで平民がここに?」
ライアン:
「院長に採用していただきまして……」
レティシア:(鼻を高く上げて)
「ふん。まあ……院長の決定なら仕方ないわね。
ちゃんとやりなさいよ。手を抜いたら承知しないから」
ライアン:(笑顔で)
「はい、精一杯やります!」
レティシアが施術台に横になる。
ライアンがそっと肩に手を当てると——
レティシア:(びくっとして)
「っ!! な、何!?」
ライアン:(びっくりして手を引っ込めて)
「す、すみません! 痛みましたか!?」
レティシア:(顔を真っ赤にして)
「ち、違う! ただ……その……いきなりだから……驚いただけ……!」
ライアン:(心配そうに)
「初めての施術は驚きますよね。では、今から触れる前に声をかけますね」
レティシア:(顔が赤いまま、そっぽを向いて)
「……べ、別にそんな気遣いは要らないけど……」
ライアン:
「では、肩の左側から始めますね」
と言って静かに施術を始めると——
レティシア:(数秒後、ふわっと息を吐いて)
「っ……ん……」
ライアン:
「気持ちいいですか?」
レティシア:(即座に)
「べ、別に! 普通よ! 普通!」
ライアン:(ふふっと笑って)
「そうですか……(施術を続ける)」
レティシア:(またふわっと)
「……(ぐっと堪えようとするが、手の感触があまりにも気持ちよくて)……ん、んん……」
ライアン:
「首の付け根あたりも、随分張っていますね」
レティシア:
「……そこ……そこは特に……(ぼそっと)」
ライアン:(丁寧に、丁寧に解していく)
レティシア:(声が小さくなって)
「……ねえ」
ライアン:
「はい?」
レティシア:
「……あなた、うまいわね」
ライアン:
「ありがとうございます」
レティシア:(またそっぽを向いて)
「べ、別に褒めてるわけじゃないから! ただ事実を言っただけで……!」
ライアン:(内心:アデライド夫人と全く同じ言葉だ……)
「(微笑んで)……はい、わかりました」
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【シーン②:施術室G (レティシアの本音が溢れる)】
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施術が進み、レティシアの体が随分ほぐれてきた頃。
レティシア:(とろとろしながら)
「……ね、ライアン」
ライアン:(突然呼び捨てにされてびっくりしたが)
「はい?」
レティシア:
「……夫のことさ……あんまり知らなかったの……。
政略で決まって、ご挨拶して、式を挙げて……会ったのほんの数回で……
それで辺境に行って……帰ってこなかった……」
ライアン:(手を止めずに、静かに聴く)
レティシア:
「……泣いていいのかわからないの。
悲しいのか、寂しいのか、それとも……知らない人を亡くした気持ちなのか……
全然わからなくて。みんなに「かわいそうに」って言われるの……
でも、そう言ってもらうたびに、すごく……嘘をついてる気分になって……」
ライアン:(施術を続けながら、穏やかに)
「……嘘じゃないと思いますよ」
レティシア:
「え?」
ライアン:
「よく知らない人を亡くしたとしても……
それが悲しいなら、悲しんでいい。
あるいは、何が悲しいのかわからなくて迷うことだって、立派な気持ちですよ。
正解なんてないですから」
レティシア:(しばらく沈黙して)
「……あなた、変なこと言うのね」
ライアン:
「またそれですか」
レティシア:(くすっと笑ってしまう)
「……でも……ちょっと、楽になった。
……ありがとう。……ありがとう、ね」
ライアン:(驚いて、でも優しく)
「……こちらこそ、話してくれてありがとうございます」
レティシア:(ハっとして、また顔を赤くして)
「い、言ってないわよそんなこと! ……言ったけど! でも! 忘れなさい!」
ライアン:(笑いを堪えながら)
「……忘れません」
レティシア:「もう!!」
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【シーン③:王都市場 (ソフィーとの食べ歩き)】
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サロン主催の「外気浴プログラム」。担当施術師が客をサロン外の市場へエスコートする業務。
ライアンとソフィーが二人で王都の市場に来ている。
ソフィー:(目をキラキラさせて)
「わーっ!! 見て見て! 焼きチーズパンだよ!!」
ライアン:(苦笑いしながら)
「ソフィー夫人、もう4軒目ですよ……」
ソフィー:(構わず屋台に突進して)
「お兄さん! 一個ください!! ライアンも食べる?」
ライアン:
「あ、では一つ……」
屋台のおじさんがチーズパンを渡す。
ソフィーがかぶりついた瞬間、チーズが伸びに伸びて——
ぴよーんとライアンの頬についてしまう。
ソフィー:(チーズを口にくっつけながら、ぱちくりして)
「……あっ」
ライアン:(頬についたチーズを触って)
「……あ」
ソフィー:(じっと見て、ぷっと吹き出す)
「ふふっ……ふははは!! ライアン、チーズ顔!!」
ライアン:(拭きながら、つられて笑ってしまう)
「夫人のせいですよ!!」
ソフィー:(笑いながらハンカチを差し出して)
「ごめんごめん! 取ってあげる!」
ソフィーが手でライアンの頬のチーズを取ろうとして——
そのまま手が頬に触れてしまい、二人の距離が急接近。
二人、同時に気づいて、ぱっと離れる。
ソフィー:(真っ赤になって)
「あ……えっと……チーズ……取れた?」
ライアン:(同じく真っ赤になって)
「……あ……はい……ありがとう、ございます……」
二人、しばらくしーんとして……
ソフィー:(ぱっと前を向いて)
「あっ!! 今度はフルーツ飴だよ!!」
ライアン:(ほっとして)
「お、落ち着いてください!!」
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【シーン④:市場の広場 (感動シーン)】
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夕暮れの市場。人が引き始め、噴水広場で二人が一休みしている。
ソフィーが石のベンチに座って、夕日を見ている。
ソフィー:(ぽつりと)
「ねえ……私、夫のことあんまり悲しんでないって、変かな」
ライアン:(隣に座りながら)
「変じゃないですよ」
ソフィー:
「みんな『大変だったわね』って言うんだけど……
正直、会ったことほとんどなかったし、
何が大変なのか……わからなくて。
でも……これからどうしようって、それだけはずっと考えてて……」
ライアン:(穏やかに)
「それって……すごく正直な気持ちだと思います。
悲しむふりをしなくていいんじゃないかな」
ソフィー:(ライアンを見て)
「……ライアンって、なんで施術師になったの?
前にお母さんの話してたけど……」
ライアン:
「母が病気の時、何もできなくて……ただそこにいることしかできなかった。
それがずっと悔しくて。
でも……ある時、ただそばにいて、手を握ったら、
母が「ありがとう、楽になった」って言ってくれて……。
それだけで……十分だって思ったんです。
何か大きいことをしなくても、ただそこにいることが、できることなんだって」
ソフィー:(じっと聴いていて、ふわっと微笑んで)
「……ライアンは、ちゃんとそこにいてくれる人なんだね」
ライアン:(少し驚いて)
「……そうあれたら、と思っています」
ソフィー:(夕日を見て、静かに)
「……じゃあ、これからどうしようって迷っている私の隣にも、いてくれる?」
ライアン:(一瞬ドキっとして……でも真剣に)
「……施術師として、はい。いつでも」
ソフィー:(くすっと笑って)
「施術師として、か。……それでも十分だよ。ありがとう」
夕日が二人を染める。
広場に鳥の声が響く。
〔BGM:ゆっくりとしたピアノのメロディ〕
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「レティシア夫人の本音を聴いて、なんか……うまく言えないけど、
こういうことのために施術師になったんだなって思いました。
ソフィー夫人と市場を歩いて……あの夕日の顔が、また可愛くて……
いや! 施術師として! プロとして! そういう意味で!!
……なんで頭が真っ赤になってるんだ、僕」
次回予告:
「第5話! マドレーヌ夫人の葛藤! 夫への想いと新しい感情のはざまで……
それからアンジェリカ夫人の『実験』に巻き込まれます!
『愛した人の面影、揺れる心』!」
【第4話 了】
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第 5 話
「愛した人の面影、揺れる心」
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【シーン①:施術室H (マドレーヌとの施術)】
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しっかりした雰囲気の施術室。
マドレーヌ・コルネイユ侯爵夫人。焦げ茶の髪をまとめた知的美人。
ライアンが入室すると、穏やかに微笑んで出迎えてくれる。
マドレーヌ:
「ライアン・ソルベールさんですね。噂は聞いていましたよ。
他の方たちの様子が変わったって、皆さんから聞いて……」
ライアン:(驚いて)
「えっ、そうなんですか?」
マドレーヌ:
「ふふ、ええ。特にレティシアが……彼女、珍しく機嫌がよかったもの。
あの子が素直に笑うのなんて、久しぶりで……」
ライアン:(照れながら)
「それは……レティシア夫人が頑張られた結果で……」
マドレーヌ:(優しく首を振って)
「あなたのおかげよ。素直に受け取ることも大事よ、ライアンさん」
ライアン:
「……はい(少し赤くなって)」
施術が始まる。マドレーヌは落ち着いて、リラックスしている。
マドレーヌ:(静かに)
「……夫のことを思い出す手の感触があるの。
施術、ではないけれど……疲れていると頭を撫でてくれたり、
背中に手を当ててくれたり……」
ライアン:(穏やかに聴きながら)
マドレーヌ:
「だから……正直、怖かったの。ここに来るのが。
誰かに触れられることで、また思い出して……辛くなるんじゃないかって」
ライアン:(手を止めずに)
「……どうですか? 今は?」
マドレーヌ:(少し間があって)
「……不思議と……違う、のよね。
思い出すけど……それが痛くない。
あなたの手は……夫の手とは全然違うのに……なぜかちゃんと受け取れるの」
ライアン:
「それは……夫人が、ちゃんと受け取る準備ができてきているからだと思います」
マドレーヌ:(目を細めて)
「……そうかもしれない。……あなたはちゃんと、会いに来る人の心を読むのね」
ライアン:
「体が教えてくれるので」
マドレーヌ:(くすっと笑って)
「ふふ……素敵な言い方ね。
……でも……ライアンさん、一つだけ正直に教えていただける?」
ライアン:
「はい?」
マドレーヌ:(真剣な目で)
「……みんなに同じように接していて……あなた、疲れない?」
ライアン:(少し驚いて、でも笑って)
「……疲れます、そりゃあ。
でも……みなさんと話している時間が、なぜか一番元気になれるんです。
不思議ですよね、僕も」
マドレーヌ:(しばらく見つめて、ふわっと微笑んで)
「……そう。……そうね。
あなたに傷ついてほしくないな、と思っただけよ。
……余計なお世話だったかしら」
ライアン:(心から)
「いいえ。……ありがとうございます、マドレーヌ夫人」
マドレーヌ:(少し目を潤ませながら、そっと目を閉じて)
「……いい子ね、あなた……」
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【シーン②:サロン 中庭 (感動シーン:マドレーヌと亡き夫の話)】
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施術後、中庭。薔薇の咲く小さな庭園。
マドレーヌがベンチに座り、ライアンも隣に腰かけている。
マドレーヌ:(静かに話し始める)
「夫が戦死の報せが来た日……私、笑ってしまったの」
ライアン:(驚かずに、ただ聴いている)
マドレーヌ:
「信じられなくて……笑うしかなかったの。
それがずっと……自分を苦しめていた。
『私は夫の死で笑った女だ』って……」
ライアン:(静かに)
「……それは、笑ったんじゃないと思います」
マドレーヌ:
「え?」
ライアン:
「あまりに大きすぎる悲しみが来た時……体が受け止められなくて、
別の感情みたいな顔をして出てくることって、あるんですって。
施術の勉強で読んだんですが……
夫人は笑いたくて笑ったんじゃなくて、
体が悲しみの大きさに追いつけなかっただけだと思います」
マドレーヌ:(しばらく沈黙して……静かに涙が伝って)
「……そう……なのかしら……」
ライアン:(何も言わずに、ただ隣にいる)
マドレーヌ:(涙をそっと拭いて)
「……ありがとう。……ずっと誰かに聞いてほしかった言葉だったかも」
〔BGM:静かなチェロのメロディ〕
薔薇の花びらが一枚、ゆっくりと落ちる。
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【シーン③:施術室I (アンジェリカの「実験」)】
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午後。施術室に入ると、アンジェリカ・ドゥモン男爵夫人が目をキラキラさせて待っている。
赤茶のウェーブヘア、緑の瞳にそばかす。ノートとペンを持っている。
アンジェリカ:
「きたきた! ライアンくん!」(くん付け)
ライアン:(戸惑いながら)
「は、はい……よろしくお願いします、アンジェリカ夫人」
アンジェリカ:(ノートを広げて)
「今日ね、ちょっとアンケートに答えてもらっていい?」
ライアン:
「……アンケート?」
アンジェリカ:
「そう! 施術師ってどんな気持ちで仕事してるのかな〜って思って!
え、ねえ、施術してる時、何を考えてるの?」
ライアン:
「えっと……筋肉の状態とか、どの方向に力をかけるかとか……」
アンジェリカ:(ものすごい勢いでメモして)
「ふんふん! では、もし施術中に担当のお客様がとっても可愛い顔したら?」
ライアン:
「……そ、その……集中を……」
アンジェリカ:
「集中できる? できない?!」
ライアン:(真っ赤になって)
「で、できますっ!! プロなので!!」
アンジェリカ:(にやにやして)
「ほんとに〜? じゃあ今から検証ね」
ライアン:
「けんしょう!?」
アンジェリカ:(台に横になりながら)
「施術しながら私が色んな顔したら、ライアンくんがどんな反応するか観察します!」
ライアン:
「それは……夫人にとってのメリットは……!?」
アンジェリカ:
「知的好奇心!!」
ライアン:(がくっとなりながら、しぶしぶ施術を開始する)
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【シーン④ ラッキースケベ④ 「実験の副産物」】
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施術中。アンジェリカがいきなり振り返って話しかけようとした瞬間——
ちょうどライアンが体を屈めていたので、鼻と鼻がほぼ触れそうな距離になる。
アンジェリカ:(固まって)
「……」
ライアン:(固まって)
「……」
0.5秒の静寂。
アンジェリカ:(ぱっと顔が真っ赤になって、ノートで顔を隠す)
「けっか……観察けっか……ライアンくん、目が……めちゃ……きれい……」
ライアン:(同じく真っ赤になって、素早く体を起こす)
「す、すみません!! 急に振り向かないでください!!」
アンジェリカ:(ノートからちらっと覗いて)
「……今日の実験は……予想外のデータが取れました……」(小声)
ライアン:(頭を抱えて)
「夫人の実験、もう少し……安全な内容にしてください……!」
アンジェリカ:(にやりと)
「えー! これが一番データが取れるのに!」
ライアン:「とれなくていいです!!!」
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「マドレーヌ夫人の涙を見て……自分が施術師でよかったって、初めて本気で思えた気がする。
アンジェリカ夫人は……今後も絶対に何かやらかすと思う。間違いなく。
でも……なんか、笑えるんですよね。みんなそれぞれで、みんな真剣で……
ここは、不思議な場所だな、って思います」
次回予告:
「第6話! エヴリン夫人の歌声がサロンに響く!
そしてフランシーヌ夫人……雷雨の夜に本性が……!?
『静かな歌声と、嵐の夜に』!」
【第5話 了】
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第 6 話
「静かな歌声と、嵐の夜に」
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【シーン①:サロンの廊下 朝 (エヴリンの歌声)】
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朝のサロン。廊下を歩くライアンの耳に、かすかなハミングが聞こえてくる。
透き通った、美しい歌声。思わず足を止める。
声を辿っていくと、窓の外を見ながらハミングしているエヴリン・マルソー伯爵夫人の後ろ姿。
亜麻色の長髪が朝の光に輝いている。
ライアン:(思わず聴き惚れている)
エヴリン:(振り返って、ライアンに気づいて顔が真っ赤になる)
「え……!! 聞こえてた……?!」
ライアン:(はっとして)
「あ! す、すみません! つい……すごく綺麗な声で……」
エヴリン:(両手で顔を覆って)
「やだやだやだ……! 誰にも聴かせるつもりなかったのに……!」
ライアン:(焦って)
「ごめんなさい! でも……本当に綺麗でした。
もし嫌でなければ……施術の時に歌ってもいいですよ? 集中できそうだし……」
エヴリン:(指の隙間からちらっとライアンを見て)
「……そんなこと言う人……初めて……」
ライアン:
「え?」
エヴリン:(少しずつ手を下ろして)
「……夫の家では歌はお行儀が悪いって言われてて……
ずっと我慢してたから……誰かに聴かせるなんて……恥ずかしくて……」
ライアン:(真剣な顔で)
「それは……もったいないですよ。あんなに綺麗な声を封印するなんて」
エヴリン:(ぽーっとして)
「……封印……(くすっと)なんか、ドラゴンみたいな言い方」
ライアン:(照れて)
「あ……確かに……(苦笑)」
エヴリン:(ちょっと微笑んで、でもまた少し恥ずかしそうに)
「……じゃあ……施術の時……歌ってみる……かも……」
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【シーン②:施術室J (エヴリンの施術と歌声)】
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施術室。エヴリンが横になっている。最初はかなり緊張した様子。
ライアン:(静かに施術を始めながら)
「……エヴリン夫人、緊張してますね」
エヴリン:(小声で)
「……そりゃ……誰かに聴かれるって思うと……」
ライアン:
「では、僕も一緒に歌いましょうか。音痴ですが」
エヴリン:(くすっと笑って)
「じゃあ余計に恥ずかしい……(少し考えて)……でも……歌うね」
ほんの小さなハミングから始まる。
徐々に、施術の心地よさとともに、声が大きくなっていく。
美しい旋律が施術室いっぱいに広がる。
ライアン:(施術しながら、思わず聴き入っている)
エヴリン:(歌いながら、だんだんリラックスして、体の力が抜けていく)
歌が終わった後の静寂。
エヴリン:(照れながら)
「……どうだった?」
ライアン:(心から)
「……すごかったです。体の力が、歌と一緒に抜けていくのが感じられました。
声って……体に繋がってるんですね、本当に」
エヴリン:(目が潤んで)
「……そんなふうに言ってくれる人……いなかった……」
ライアン:
「これからは、どこかで歌ってほしいな、と思います。
閉じ込めておくのは……もったいなさすぎる」
エヴリン:(泣きそうになるのを堪えて、小声で)
「……ありがとう……」
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【シーン③:サロン宿泊室付近 夜 雷雨】
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夜。天候が急変し、激しい雷雨になる。
サロンには遠方から来た客のための宿泊室もある。
何人かのヒロインたちがこの夜は宿泊することになっていた。
ライアンが宿泊客への挨拶を終えて廊下を歩いていると——
ドーン!!という雷鳴。
ライアン:(びくっとして)
「うわっ!!……雷、すごいな……」
その時、隣の部屋から「ヒッ……!」という声。
ライアン:(立ち止まって)
「……?」
ドーン!!(また雷)
「ヒッ……!!(今度は少し大きく)」
ライアン:(ノックして)
「……あの、大丈夫ですか?」
しばらく沈黙。
「……べ、別に……大丈夫……何でもないわよ……」
聞き覚えのある声。フランシーヌ・ピエロン子爵夫人だ。
ライアン:(もう一回ノックして)
「フランシーヌ夫人……雷が苦手でしたら、廊下でお話ししませんか?」
しばらく沈黙。
がちゃっとドアが細く開いて、フランシーヌの顔が覗く。
いつもの凛とした表情だが、顔色が悪く、若干の涙目。
フランシーヌ:(プライドを保ちながら)
「……苦手とは言っていないわ。
ただ、少しうるさくて……眠れないだけ……」
ライアン:(真剣な顔で)
「廊下のソファで一緒にお話ししましょう。お茶もあります」
フランシーヌ:(一瞬葛藤して)
「……仕方ないわね……付き合ってあげる」(結局出てくる)
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【シーン④:廊下のソファ (フランシーヌと雷の夜)】
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廊下の小さなソファ。ライアンがお茶を淹れて、二人で座っている。
ドーン!!(また雷)
フランシーヌ:「ッ……!」(思わずライアンの腕をぎゅっと掴む)
ライアン:(驚くが、静かにそのままに)
フランシーヌ:(数秒後に気づいて、手を放して)
「っ!! な、なんでもないわよ!! 寒かっただけ!!」
ライアン:(さりげなく)
「そうですか。じゃあ毛布お持ちしましょうか」
フランシーヌ:(ぷぷっと頬を膨らませて)
「……い、いい。……なんで笑ってないの」
ライアン:
「笑いませんよ。怖いものがあるのは自然なことですから」
フランシーヌ:(少し驚いて、それからぽつりと)
「……武人の家柄なのに……情けないでしょ」
ライアン:
「武人だって人間ですから」
フランシーヌ:(じっとライアンを見て)
「……あなたって……変なひとね」
ライアン:(苦笑いして)
「……本当に今日、何回その言葉を……」
フランシーヌ:(小さく笑って)
「褒め言葉よ、ちゃんと」
ドーン!!(また雷)
フランシーヌ:(今度は少しだけ、ライアンの肩に頭を傾けて目をぎゅっとつぶる)
ライアン:(真っ赤になりながらも、静かに動かない)
フランシーヌ:(しばらくして、雷が遠ざかると、そっと頭を起こして)
「……見なかったことにしなさい」
ライアン:(まっすぐに)
「……はい、見ていません」
フランシーヌ:(口の端が上がって)
「……いい子ね、あなた」
二人、しばらくお茶を飲みながら雷雨が収まるのを待つ。
雷が遠ざかる頃、フランシーヌがうとうとしていて——
気づけば肩を借りて、静かに寝息を立てていた。
ライアン:(真っ赤になりながら、でも起こさないでいる)
〔BGM:優しいギターのメロディ〕
雷雨の後の静けさ。廊下の窓に、月明かりが戻ってくる。
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「フランシーヌ夫人が朝目を覚ます前に、そっと毛布をかけて離れました。
翌朝、夫人はものすごく凛々しい顔で「おはよう」とだけ言って去っていきました。
……あの夜のことは、二人とも、絶対に言わない気がします。
でも……なんか、あれで繋がったような気がして……
施術師として、適切な距離感を保たないとな、と思いながら……
頭の中に、あの月明かりと、フランシーヌ夫人の寝顔が浮かぶのが止まらない。
……プロとして! きちんとしないと!!」
次回予告:
「第7話! テレーズ夫人の予言が炸裂!!そして15人全員と初顔合わせのサロン茶会!
『星の予言と、賑やかな午後』!」
【第6話 了】
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【Vol.1(第1話〜第6話) 完】
続きはVol.2(第7話〜第12話)に収録されています
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『癒しの手、貴族の心』
~未亡人サロンのマッサージ師~
アニメ全24話 完全台本 Vol.2(第7話〜第12話)
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第 7 話
「星の予言と、賑やかな午後」
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【シーン①:施術室K (テレーズとの初施術)】
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朝の施術室。ライアンが準備をしていると、扉がゆっくりと開く。
白銀の髪、氷色の瞳。テレーズ・モリエール公爵夫人。
神秘的な雰囲気を醸し出しながら、まるで舞台女優のように入室してくる。
テレーズ:(施術室の空気を吸い込むように目を閉じ、次にゆっくりとライアンを見て)
「……今日の星は、あなたとの出会いを示していましたわ」
ライアン:(戸惑いながらも)
「は、はあ……テレーズ夫人、ですね。よろしくお願いします」
テレーズ:(しなやかに施術台の周りを一周しながら)
「あなたのオーラは……淡い緑と、温かい橙。癒しの色ね。
でも……中心に、まだ見えていない何かが隠れている……」
ライアン:(きょとんとして)
「……オーラ……ですか」
テレーズ:(振り返って、人差し指をライアンに向けて)
「あなたは今、十五の運命に繋がれています。
そしてその中の一つが……あなたの心を決定的に変える」
ライアン:(苦笑いしながら)
「じゅ、十五……それって、担当のみなさんのことですかね……」
テレーズ:(にっこりと)
「さあ。星は答えを教えてくれるだけで、解釈はあなたがするものですわ」
ライアン:(やんわりと)
「……夫人、施術台にお横になりますか?」
テレーズ:(あっさりと横になって)
「ええ、もちろん。さあどうぞ」
ライアン:(施術を始めながら)
「……ちなみに、その予言、よく当たりますか?」
テレーズ:(少し間があって)
「……まあ……当たる時は、当たりますわ」
ライアン:
「当たらない時は?」
テレーズ:(平然と)
「星の読み方を間違えただけです。星は常に正しい」
ライアン:(吹き出しそうになるのを堪えながら)
「な、なるほど……」
テレーズ:(少し笑って)
「……あなた、笑いたいでしょう」
ライアン:(驚いて)
「え!? そんなことは……」
テレーズ:
「いいのよ、笑っても。……みんな笑うから。
でも私は本気で信じているわけではないの。
ただ……こうして占いや星のことを考えていると、
夫のことを考えずに済むから……」
ライアン:(手を止めずに、静かに)
「……そうですか」
テレーズ:(静かに)
「夫が病で逝く直前に、『星が導くままに生きなさい』と言ったの。
彼は星が好きな人だったから……だから私も、星を信じることにした」
ライアン:(施術をしながら、優しく)
「……素敵な約束ですね」
テレーズ:(少し潤んだ目で、でも穏やかに)
「……あなたに言われると、本当にそう思えてくる。
不思議な子ね」
ライアン:(苦笑いして)
「よく言われます」
テレーズ:(くすっと笑って)
「今日の施術、星が言っていたとおりよ。……とても心地よいわ」
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【シーン②:ラッキースケベ⑤ 予言のせいで大混乱】
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施術後の廊下。テレーズがライアンに向かって指を立てる。
テレーズ:
「一つ予言しておきましょう。
今日の午後、あなたは誰かの『大切なもの』を拾います。
……必ずよ」
ライアン:(苦笑いして)
「わかりました……気をつけます」
午後。廊下を歩いていると——
ナタリーがお菓子の箱を両手に抱えて猛スピードで走ってくる。
ナタリー:
「ライアンさん! これ差し入れです!!」
ライアン:
「あ、ありがとうございま——」
ナタリーが差し出した箱を受け取ろうとした瞬間、
箱の底が抜けてクッキーが廊下に散乱。
ライアンが慌てて拾おうとしゃがんだ瞬間——
廊下の角からレティシアが勢いよく歩いてきて、しゃがんでいるライアンの存在に気づかず——
ドスン!!
レティシア:
「わああっ!!」(ライアンの上に転んで重なる)
ライアン:(床で、レティシアを下から見上げて)
「……だ、大丈夫ですか!?」
レティシア:(真っ赤になって猛スピードで立ち上がって)
「み、見た!? 見たでしょ!?」
ライアン:
「何をですか!?」
レティシア:
「そういう顔しないで!!」
ナタリー:(散らばったクッキーを見ながら)
「……箱が……」
廊下の角からひょっこりとテレーズが現れる。
テレーズ:(にっこりと)
「ほら。誰かの大切なものを拾ったでしょう?」
ライアン:(床に散ったクッキーを手に)
「……これが大切なものですか?」
テレーズ:(少し考えて)
「……クッキーは大切なものよ」
ナタリー:(力強くうなずいて)
「そうです!! 大切です!!」
レティシア:(まだ顔を赤くしたまま去っていきながら)
「……見てないわよね!? 絶対見てないわよね!?」
ライアン:(クッキーを拾いながら)
「……テレーズ夫人の予言、ちゃんと当たりましたね」
テレーズ:(満足そうに)
「星は常に正しいのよ」
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【シーン③:サロン大広間 午後 (15人全員の茶会)】
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大広間。丸いテーブルが並び、午後の紅茶と焼き菓子が用意されている。
ソランジュ院長主催の「月例茶会」。客とスタッフが顔を合わせる場。
ライアンが広間に入ってくると——15人のヒロイン全員が揃っている。
ライアン:(ぐるっと見回して、少し固まる)
ギャスパール:(隣で)
「どうした、顔色悪いぞ」
ライアン:(小声で)
「……みなさん全員が一カ所に……なんかすごい圧迫感が……」
ギャスパール:
「お前の担当が全員いるんだから、それはそうだろ……」
ソフィー:(真っ先にライアンを見つけて手を振る)
「ライアン! こっちこっち! クッキー食べる!?」
アンジェリカ:(ノートを持ってすたすた近づいて)
「来た来た! 今日は複数人との関係性を観察します!」
イザベル:(腕組みしながら)
「おう、相棒。今日もよろしくな」
エルミーヌ:(部屋の隅で小さくなりながら、ライアンを見てぽそっと)
「……来た……」
アデライド:(窓際で紅茶を飲みながら、ライアンをちらっと見て視線を戻す)
レティシア:(ライアンを見て顔が赤くなり、そっぽを向く)
クロエ:(扇で口元を隠しながらにっこり)
ヴィオレット:(本を持ちながら、静かに微笑む)
マドレーヌ:(穏やかに手を振る)
エヴリン:(ライアンに気づき、手を振ろうとして途中で恥ずかしくなって止める)
フランシーヌ:(凛とした顔でうなずく。ただし耳が少し赤い)
テレーズ:(意味深な笑顔で)「今日の星が告げた通りの展開ね」
ナタリー:(大きなお菓子の籠を持って)「ライアンさん! 今日も差し入れです!!」
オリアンヌ:(植物図鑑を開きながら、ふらっとライアンの方へ)
「ライアンさん、このシダ類の気孔について……」
セレスティア:(ぽーっとした顔でライアンを見て)
「……あれ、今日のライアン……なんかきらきらして見える……」
ライアン:(全員の視線を受けながら、小声でギャスパールに)
「……ギャスパールさん、助けてください……」
ギャスパール:(ライアンの肩をぽんと叩いて)
「頑張れ。俺には無理だ」
ライアン:「ひどい!!」
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【シーン④:茶会 各ヒロインとの会話ラッシュ】
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茶会が進む。ライアンは各ヒロインと次々に会話する羽目になる。
〔ナタリーのテーブル〕
ナタリー:(次々とお菓子を皿に積み上げながら)
「ライアンさん! これ食べて! これも! こっちも!」
ライアン:(もぐもぐしながら)
「お、美味しい!!」
ナタリー:(ぱっと顔を輝かせて)
「ほんと!? よかった!!」
〔オリアンヌのコーナー〕
オリアンヌ:(植物図鑑を広げながら)
「ね、ライアンさん。このシダ類の気孔の密度が、温度によって変化する仕組みって知ってます?」
ライアン:(正直に)
「存じません……」
オリアンヌ:(目をキラキラさせて)
「じゃあ教えてあげます! まずですね……」
15分後。
オリアンヌ:(まだ喋っている)
「……そして気孔が閉じる際のタンパク質の反応が……」
ライアン:(笑顔で相槌を打ちながら、目が少し遠い)
〔アデライドと二人になる瞬間〕
少し人が移動した隙に、ライアンとアデライドが隣になる。
アデライド:(紅茶を口に運びながら、横目でライアンを見て)
「……楽しそうですね」
ライアン:(振り返って)
「はい! みなさんとお話しするの、楽しいです」
アデライド:(少し間があって)
「……あなたが来てから、皆さんの顔色が良くなっています。
……院長も、そう言っていました」
ライアン:(照れながら)
「みなさんが頑張られているからですよ」
アデライド:(静かに、少しだけ低い声で)
「……あなたのおかげです。……素直に言います」
ライアン:(ぱちくりして)
「ヴァルモン夫人……」
アデライド:(また無表情に戻って、カップを傾けながら)
「……一度きりしか言いませんから、忘れないように」
ライアン:(心から、穏やかに笑って)
「……はい。忘れません」
その笑顔を見て、アデライドが一瞬、ほんの一瞬だけ、目を伏せる。
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【シーン⑤:茶会終了後 (ギャスパールとの会話)】
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広間の後片付け。ライアンとギャスパールが二人になる。
ギャスパール:
「……どうだった? 全員揃った感想は?」
ライアン:(少し考えて)
「……全員違う、と改めて思いました。
同じ状況に見えて、抱えているものも、必要なものも、全然違う。
でもみんな……共通して、誰かに聴いてほしそうにしてる、って気がして」
ギャスパール:
「……そう思えるのが、お前の強みだな。
俺はここまで長くいるけど、施術師として接することに徹してきた。
でもお前は……施術しながら、ちゃんと人として接してる」
ライアン:
「それって……サロンのルールとして、大丈夫なんですかね?」
ギャスパール:(にやりと)
「ソランジュ院長が黙認してる時点で、答えは出てるだろ」
ライアン:(少し驚いて)
「……院長が?」
ギャスパール:
「ここに来るお客様に必要なのは、ただの施術じゃないって、
院長は最初からわかってた。……だからお前を採用したんだと思うぞ」
ライアン:(じわじわと実感して)
「……そうか……」
ギャスパール:(ぽんと肩を叩いて)
「まあ……ただ一つ、余計なお世話を言うとすれば」
ライアン:
「何ですか?」
ギャスパール:(真剣な顔で)
「……お前自身の心も、ちゃんと見ておけよ」
ライアン:(きょとんとして)
「え?」
ギャスパール:(それ以上は言わずに、荷物を持って去りながら)
「まあ……いずれわかる」
ライアン:(一人残されて、ぽつりと)
「……僕の心?」
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「テレーズ夫人の予言は、妙なところでよく当たる気がします。
そして茶会……15人全員と同じ部屋にいたら、なんか……脳が溶けそうでした。
でも……楽しかった。ほんとに。
ギャスパールさんの言葉が、少し引っかかっています。
自分の心……か。……まだ、よくわからないです」
次回予告:
「第8話! ナタリー夫人の特製スイーツ特訓に巻き込まれる!?
オリアンヌ夫人の研究室を初訪問、そして……植物採集デートが発生!?
『キッチンの戦場と、翡翠色の森』!」
【第7話 了】
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第 8 話
「キッチンの戦場と、翡翠色の森」
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【シーン①:サロン厨房 (ナタリーの特訓)】
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休日のサロン。ナタリーがソランジュ院長に許可をもらい、サロンの厨房を借りている。
ライアンが休憩で立ち寄ったところ、ナタリーに捕まった。
ナタリー:(エプロン姿でライアンの手を引きながら)
「ライアンさん! ちょうどよかった! 手伝ってください!!」
ライアン:
「え!? 何をですか!?」
ナタリー:
「お菓子作りです! 新しいレシピを試したいのに、一人じゃ手が足りなくて!」
ライアン:
「い、いや、でも僕、お菓子なんて……」
ナタリー:(すでにエプロンをライアンに装着させながら)
「大丈夫です! 言われた通りにやればいいので!」
ライアン:(エプロンを着けられながら)
「……はい……」
厨房でナタリーの指揮のもと、ライアンがバターを練り始める。
ナタリー:(てきぱきと)
「そこ! もっと力を込めて! マッサージと同じですよ!」
ライアン:(なるほどと感心して)
「言われてみれば……筋肉に似てる気がしてきた……」
ナタリー:(小麦粉を量りながら)
「ライアンさんって、マッサージの時どんなこと考えてるんですか?」
ライアン:
「体の状態を読みながら……その人が今何を求めているかを感じながら……ですかね。
体の声を聴く、みたいな感覚です」
ナタリー:(手を止めて、じっとライアンを見て)
「……それ、料理と同じだ」
ライアン:
「え?」
ナタリー:
「食べる人が何を求めているか……疲れているのか、悲しいのか、嬉しいのか……
それによって、甘さを変えたり、温かさを変えたり……
体の声を聴く料理……私、それが好きで」
ライアン:(驚いて、でも嬉しそうに)
「……すごい。夫人、それってもしかして天才的な発想では……?」
ナタリー:(照れながら)
「え!? そんな……でも……嬉しい……」
(そっぽを向きながら、でも口元がにやけている)
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【シーン②:ラッキースケベ⑥ 小麦粉爆弾】
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作業が続く。ライアンが小麦粉の袋を高い棚から取ろうとして——
袋の封が外れており、ライアンが傾けた瞬間、どさーっと小麦粉が降り注ぐ。
ライアン:
「うわああっ!!」
真っ白になるライアン。
それを見ていたナタリーが——
「ぷっ」と吹き出して、大爆笑。
ナタリー:(お腹を抱えて)
「ふふっ……ふははは!! 雪だるみたい!!」
ライアン:(小麦粉まみれのまま)
「笑ってないで……!!」
ナタリーが笑いながら、ライアンの頭の粉を払おうと手を伸ばして——
バランスを崩し、ライアンの胸元に顔からダイブしてしまう。
ドスン。
しばしの沈黙。
ナタリー:(ライアンの胸元に顔を埋めたまま、声だけ)
「……ふわふわ……」
ライアン:(全身真っ赤で固まって)
「……夫人……?」
ナタリー:(はっと気づいて、猛スピードで飛び退いて)
「ちっ、違います!! 転んだだけです!! 転んだだけ!!」
ライアン:(小麦粉まみれで、同じく真っ赤で)
「……は……はい……わかりました……」
二人、しばらく真っ赤なまましーんとして。
ナタリー:(ぼそっと)
「……ふわふわでした」
ライアン:「聞こえてますよ!!」
ナタリー:「聞こえてない!!」
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【シーン③:完成したお菓子を一緒に食べる (感動シーン)】
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粉まみれ事件の後、二人で小さなクッキーが焼き上がった。
ナタリーが一枚、ライアンに差し出す。
ライアン:(一口食べて)
「……美味しい……! すごく、美味しいです」
ナタリー:(少し照れながら)
「本当に?」
ライアン:
「はい。……温かい、って感じがします。味だけじゃなくて」
ナタリー:(クッキーを自分でも一口食べて、少し遠い目をして)
「……夫に、一度だけ作ったんです。
会ったのほんの数回だったけど……その時に。
食べてくれたのか、どうか……わからないままになってしまって」
ライアン:(静かに)
「……美味しかったと思いますよ、絶対に」
ナタリー:(ちょっと涙目になって、でもにこっと笑って)
「そうかな……そうだといいな」
ライアン:(真剣に)
「この味で美味しくないわけがないです。断言します」
ナタリー:(くすっと笑って)
「……ありがとう、ライアンさん。
……また一緒に作っていいですか?」
ライアン:(元気よく)
「はい! また巻き込んでください!」
ナタリー:(ぱっと顔が輝いて)
「やった!! じゃあ次はシュークリームです!!」
ライアン:「覚悟します!!」
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【シーン④:サロン近郊の森 (オリアンヌとの植物採集)】
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サロン外気浴プログラムの一環。オリアンヌ・ブランシュ公爵夫人との外出。
王都近郊の小さな森。翡翠色の光が差し込む美しい場所。
オリアンヌ:(すでに採集袋と図鑑と虫眼鏡を持って、興奮気味に)
「来た来た来た!! ここは一年ぶりですけど、やっぱり素晴らしい!!」
ライアン:(のんびり歩きながら)
「こういうところが好きなんですか?」
オリアンヌ:(しゃがんで地面の苔をじっくり観察しながら)
「好き以上です。生きがいです。
夫が亡くなって……しばらく何も手につかなかったけど、
この子たちは待っていてくれたから……また来られました」
ライアン:(隣にしゃがんで、苔を見ながら)
「……植物って、動かないけど、ちゃんとそこにいてくれる、か」
オリアンヌ:(ライアンをちらっと見て)
「そうです! まさに! さすがライアンさん、わかってる!」
ライアン:(照れながら)
「まぐれです……」
オリアンヌ:(また植物に視線を戻して)
「……ライアンさんも少し似てますよ。
ちゃんとそこにいてくれる感じ」
ライアン:(少し驚いて)
「……そうあれたらいいな、と思ってます」
オリアンヌ:(にこっと、珍しくまっすぐ笑って)
「すでにそうですよ」
ライアン:(じわっと温かくなって)
「……ありがとうございます」
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【シーン⑤:ラッキースケベ⑦ 森の中でずぼっ】
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森の奥へ進むオリアンヌ。ライアンが後に続く。
足元が湿っており、オリアンヌが珍しい苔に気を取られて歩いていると——
ずぼっ。
オリアンヌ:(泥濘にはまって)
「あ」
ライアン:(慌てて手を引こうとして、自分もずぼっとはまり——
そのまま二人で泥濘の縁にずるずると倒れ込む)
ドサッ。
しばしの沈黙。
オリアンヌがライアんの上に倒れた状態。二人とも半分泥だらけ。
オリアンヌ:(むくっと起き上がって、自分の泥だらけの腕を見て)
「……あ」(次にライアンを見て)「……あ」
(次に地面の泥を見て)「……あ!! このあたりの土、珍しい色してる!!」
ライアン:(泥だらけで仰向けのまま)
「……夫人、大丈夫ですか、と聞こうとしたんですが……」
オリアンヌ:(すでに土のサンプルを採集袋に入れながら)
「大丈夫です! むしろ最高の収穫!! ライアンさん、転んでくれてよかった!」
ライアン:(呆然として、でもくすっと笑ってしまう)
「……まあ……お役に立てたなら……」
オリアンヌ:(ちょっと我に返って)
「あ……ごめんなさい。服が……」(ライアんの泥だらけの服を見て)
ライアン:
「全然大丈夫ですよ」
オリアンヌ:(少しだけ申し訳なさそうに、でも目はキラキラしたまま)
「……今日来てよかった。あなたと来てよかった」
ライアン:(泥だらけのまま笑って)
「……僕もです」
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「ナタリー夫人と作ったクッキーの味が、まだ残っています。
オリアンヌ夫人の目がキラキラする理由が、少しわかった気がする。
自分が好きなものを、誰かと一緒に喜べる……それって素敵なことですよね。
……で、服は帰ってから洗いました。泥がすごかった」
次回予告:
「第9話! ヒロインたちの間で嫉妬の嵐が始まる!?
アデライド夫人vsクロエ夫人の静かな火花!
そしてライアン、初めて自分の気持ちに気づき始める……?
『見えない炎と、揺れる心』!」
【第8話 了】
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第 9 話
「見えない炎と、揺れる心」
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【シーン①:サロン待合室 (嫉妬の火種)】
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ある日の昼。待合室に数人のヒロインが揃っている。
アデライド、クロエ、レティシア、マドレーヌ、イザベルの5人。
何気ない会話をしていると、廊下の方からナタリーの楽しそうな声が聞こえる。
ナタリー(廊下から):
「ライアンさん! 昨日のクッキー、みんなに好評でした!!
また一緒に作ってほしいです!!」
ライアン(廊下から):
「もちろんです! また誘ってください!」
待合室、しーん。
アデライド:(紅茶を静かにカップに置いて)
「……最近、ライアンさんはナタリー夫人とよく一緒にいるようですね」
クロエ:(扇をゆっくりと動かしながら)
「あら。気にしていたの?」
アデライド:(すっと目を細めて)
「別に。事実を述べただけです」
クロエ:(くすりと笑って)
「そう。……私も最近、ライアンの施術の予約を増やしたの。
あの子、話せば話すほど面白くて」
レティシア:(むっとして)
「べ、べつにそういうことはどうでもいいんだけど……
でもライアンって、みんなに同じように接してるんでしょ?
特別感がないっていうか……(ぶつぶつ)」
マドレーヌ:(穏やかに)
「ライアンさんは、みんなにちゃんと向き合っているのよ。
それがあの子の強みで……」
イザベル:(腕組みして)
「でも俺は……相棒として特別扱いされてる、と思ってる(どや顔)」
一同:「「「されてないわよ」」」
イザベル:「なんで揃って言うんだ!!」
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【シーン②:廊下 (アデライドとクロエの静かな対決)】
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茶会後の廊下。アデライドとクロエが二人になる。
クロエ:(さりげなく、でも核心をついた声で)
「アデライド、あなた……ライアンのことが気になっているでしょう」
アデライド:(足を止めずに)
「……何の話ですか」
クロエ:
「惚けなくていいわよ。私も同じだから。
あの子……計算通りにいかないのよね、どうしても」
アデライド:(少し足を緩めて、横目でクロエを見て)
「……あなたが正直に話すのは珍しいですね」
クロエ:(苦笑いして)
「あの子のせいよ。計算を外す癖が移った気がする」
アデライド:(また歩きながら、静かに)
「……私は、ただ施術を受けているだけです。
それ以上でも、それ以下でもない」
クロエ:
「それが本心なら、私は何も言わないわ。
でも……あなたが一番最初に彼と出会ったこと、覚えている?」
アデライド:(少し間があって)
「……廊下でぶつかった。それだけです」
クロエ:(くすりと)
「そのくせ、院長に報告したでしょう? 彼のことを」
アデライド:(ぴしっと)
「……それは、サロンの品質管理の一環です」
クロエ:(遠ざかりながら、笑って)
「そうね。そういうことにしておきましょうか」
アデライドが一人残って、廊下の窓の外を見る。
アデライド:(小さく、独り言のように)
「……余計なことを……」
でも……口元が、ほんのわずかに和らいでいた。
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【シーン③:施術室A (ライアンとアデライドの施術 深まる会話)】
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施術室。アデライドが横になっている。施術が始まる。
アデライド:(しばらくして、静かに)
「……ライアン」
ライアン:
「はい?」
アデライド:
「……あなたは、みんなに同じように接していますか?」
ライアン:(施術しながら考えて)
「……接し方は同じかもしれないけど、感じることは全員違います。
夫人はもう……正直に言うと、一番最初に緊張した方です」
アデライド:(少し意外そうに)
「……私が?」
ライアン:
「はい。最初に廊下でぶつかった時……すごく怖かったです。
でも案内してくださって……嬉しかったのも、本当で」
アデライド:(少し間があって)
「……ぶつかってきたのはあなたですよ」
ライアン:(苦笑いして)
「そうでした……」
アデライド:(また静かに)
「……施術を受けるたびに、楽になっていく。
ただ……それと同時に、何かが怖い気がしています」
ライアン:(手を止めずに)
「怖い……ですか?」
アデライド:(言葉を選びながら)
「……楽になると、油断する。
油断すると、何かを期待する。
期待すると……失う時に、また……」
ライアン:(ゆっくりと、でも確かに)
「……それは、夫人が一度深く傷ついたからですよね。
怖くて当然だと思います」
アデライド:(少し声が小さくなって)
「……施術師に、こんなことを話すものではないと、わかっています。
でも……あなたに言うと、なぜか……外に出てしまう」
ライアン:(穏やかに)
「……それでいいと思います。
ここは、そういう場所だから。
……そして僕は、夫人が何かを期待したとしても、
ちゃんとここにいます。逃げません」
アデライド:(しばらく沈黙して、ぽつりと)
「……約束、ですか」
ライアン:(まっすぐに)
「約束です」
アデライドが、その言葉を聞いて目を閉じる。
何も言わないまま、でも……目の端に光るものが、一瞬だけあった。
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【シーン④:サロン屋上 夕暮れ (ライアン、自分の気持ちに気づき始める)】
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夕暮れ。サロンの屋上テラス。ライアン一人が空を見ている。
ライアン:(独り言)
「……みんな、それぞれに大切なことを話してくれて……
体をほぐすと、心がほぐれて……
それが嬉しくて……でも……」
頭の中に、各ヒロインの顔が浮かぶ。
アデライドの涙の気配、ソフィーの夕日の笑顔、フランシーヌの寝顔、
エヴリンの歌声、ナタリーの差し入れ、セレスティアの無邪気さ——
ライアン:(頭を抱えて)
「……あれ……なんか……」
足音がして、ギャスパールが屋上に上がってくる。
ギャスパール:
「何してる? 顔が赤いぞ」
ライアン:(慌てて)
「なんでもないです!」
ギャスパール:(隣に立って夕空を見ながら)
「……前に言ったこと、覚えてるか? 自分の心を見ておけって」
ライアン:
「……はい」
ギャスパール:
「お前、最近……施術師としての顔と、普通の二十歳の顔が混ざってきてるぞ」
ライアン:(ドキっとして)
「……それって……どういう意味ですか?」
ギャスパール:(にやりと笑って)
「……自分で考えろ」
ライアン:(一人屋上に残って、また空を見て)
「……自分の心、か……」
夕日が落ちていく。
ライアんの表情が、少しずつ変わっていく——
困惑から、驚きへ、そして——
「……あ、まずいな……」
小さく呟いたその言葉が、夕風に溶けていった。
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「……気づきたくなかった、かもしれない。
でも気づいてしまった。
僕は……施術師として以上の気持ちで、みんなのことを……
いや! でも! 担当師として! プロとして!!
……でも。
アデライド夫人の言葉が、夜になってもまだ頭の中にある。
やばい、これはやばい」
次回予告:
「第10話! ライアンがプライベートでアデライド夫人と王都を歩くことに!?
初めての二人きりのお出かけ……デートだよライアン、気づいて!!
『白亜の街を、二人で』」
【第9話 了】
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第 10 話
「白亜の街を、二人で」
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【シーン①:サロン正面玄関 休日の朝】
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ライアンの休日。
朝から私服で出かけようとしていたところ、玄関前でアデライドと鉢合わせる。
アデライドも私服——といっても上品な薄いブルーのドレス。
アデライド:(同じく外出しようとしていたようで、ライアンを見て足を止めて)
「……あなたも、外に?」
ライアン:(私服のアデライドを見て、思わず目が止まる)
「は、はい……ちょっと王都を歩こうかと……
(慌てて)あ! 夫人も外出ですか? お邪魔でしたら……」
アデライド:(少し間があって)
「……どこへ行くつもりですか?」
ライアン:
「えっと……特に決めてないんですけど。本屋さんとか……市場とか……」
アデライド:(また少し間があって、そっぽを向きながら)
「……私も、特に決めていません。
……別に、一緒に歩いてはいけないというルールはないでしょう」
ライアン:(ぱちくりして)
「……あ! は、はい! もちろんです!」
アデライド:(ツンとして)
「勘違いしないように。
ただ……あなたが迷子になると困ると思っただけです」
ライアン:(苦笑いして)
「……最初の日のことを、まだ覚えていてくださったんですね」
アデライド:(少し頬を染めて)
「……当然です。忘れません」
ライアン:(でも笑いながら)
「ありがとうございます。では……よろしくお願いします」
アデライド:(小さく頷いて、歩き出す)
ライアン:(隣に並んで、心の中で)
「(……これって……もしかして……)」
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【シーン②:王都の通り (アデライドと街歩き)】
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石畳の通り。花屋、本屋、カフェが並ぶ。
アデライドが少し前を歩き、ライアンが隣に並ぼうとすると、
アデライドが無言でペースを落として横に並ぶ。
ライアン:(花屋の前で足を止めて)
「夫人、この花、すごく綺麗ですね」
アデライド:(さりげなく見て)
「……白薔薇ね」
ライアン:(花屋のおじさんに)
「一輪、いただけますか?」
おじさん:
「もちろん! 彼女さんへのプレゼント?」
ライアン:(あわあわして)
「いや! そういうわけでは……!」
アデライド:(静かに、でも少し頬が赤くて)
「……余計なことを言わないように」(おじさんへ)
おじさん:(にこにこして)
「いや〜お似合いですよ〜!!」
ライアン:(白薔薇を受け取って、アデライドに差し出しながら)
「あの……よかったら」
アデライド:(一瞬だけ驚いた顔で、でもすっとそれを受け取って)
「……ありがとう」(小声で)
ライアン:(その声に、また心が跳ねる)
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【シーン③:ラッキースケベ⑧ 街の噴水広場】
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広場の噴水前。子供が駆け回っている。
ライアンとアデライドが噴水のそばを歩いていると——
駆けてきた子供がアデライドの足元にぶつかりそうになる。
ライアン:(反射的にアデライドを引き寄せる)
子供は無事に横を走り抜けていき——
ライアンの腕の中に、アデライドが収まっている状態になっていることに、二人同時に気づく。
数秒の沈黙。
アデライド:(ぴしっと固まって、顔が赤くなっていく)
ライアン:(同じく固まって、同じく赤くなっていく)
ライアン:(慌てて手を放しながら)
「す、すみません!! 子供が……!!」
アデライド:(ツンと顔を背けながら)
「……わかっています。……お礼を言います」
ライアン:
「え?」
アデライド:(前を向いたまま、小さく、でもはっきりと)
「……ありがとう」
ライアン:(真っ赤なまま、でも笑いながら)
「……はい」
広場の鳩が、のんびりとその二人の周りを歩いていた。
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【シーン④:カフェ (アデライドの過去と本音)】
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王都の小さなカフェ。窓際の席。紅茶と焼き菓子。
アデライド:(紅茶を一口飲んで、静かに話し始める)
「……夫と、街を歩いたことはありませんでした」
ライアン:(静かに聴く)
アデライド:
「式を挙げた次の月に、彼は辺境へ発った。
街で並んで歩くとか、一緒にカフェに入るとか……
そんな当たり前のことが、一度もなかった」
ライアン:
「……それは、寂しかったですね」
アデライド:(少し驚いた顔で)
「……ええ。そうです。……寂しかったです」
ライアン:
「今日……少しでも、そういう時間になればいいな、と思います」
アデライド:(静かに、でも確かに)
「……なっています」
ライアン:(じわっと温かくなって、でも困って)
「……あ、でも僕はただの施術師で……」
アデライド:(ライアンを遮って)
「……今日くらいは。
ただのライアン・ソルベールとして、隣にいてください」
ライアン:(息を止めて、それから静かに)
「……はい」
アデライドが窓の外を見る。
街の人々が行き交う、普通の昼下がり。
アデライド:(ほんのかすかに、でも確かに微笑んで)
「……きれいな街ですね。こんなにちゃんと見たのは……久しぶり」
〔BGM:柔らかなピアノとバイオリンのデュエット〕
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【シーン⑤:帰り道 (感動のラスト)】
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夕暮れ。二人並んでサロンへ帰る道。
アデライドが白薔薇を手に持っている。
アデライド:(少し前を見ながら)
「……ライアン」
ライアン:
「はい?」
アデライド:(言葉を選びながら、ゆっくりと)
「……私は、人を遠ざけるのが癖になっています。
傷つく前に、距離を置く。
それが正しいと思っていた。
でも……あなたが来てから……それが、少し……ほぐれているような気がして」
ライアン:(静かに聴いている)
アデライド:
「……怖いです。まだ。
でも……今日は、怖くなかった。
あなたの隣では」
ライアン:(しばらく沈黙して、でもまっすぐに)
「……それを聞いて、嬉しいです。
……施術師として以上に」
アデライド:(ぴしっと足を止めて、ライアンを見て)
「……今、何と言いましたか?」
ライアン:(気づいて、真っ赤になって)
「あ! いや! その……つまり……担当として! より良くケアできるという意味で……!!」
アデライド:(少しだけ、本当に少しだけ笑って)
「……嘘が下手ですね」
ライアン:(顔が茹で上がって)
「……はい……」
アデライド:(また前を向いて、歩き出しながら、小声で)
「……嬉しかったです。……それだけ」
ライアン:(心の中で)
「(……これは……本格的に……まずい……)」
サロンの灯りが、夕闇の中に温かく見えた。
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「やばい。やばいやばいやばい。
施術師なので、感情は置いといて、プロとして——とずっと言い聞かせてきたのに。
アデライド夫人が白薔薇を持っていたこと、
笑った顔、そして……ありがとうの声が。
全部、全部頭から離れない。
……これを恋と呼ぶのか、僕はまだ認めたくないんですが。
たぶん……もう、手遅れかもしれない」
次回予告:
「第11話! イザベル夫人と剣術練習場へ!
ヴィオレット夫人の詩集が出版される!そして……サロン内でまさかの嫉妬大爆発!?
『剣と詩と、嫉妬の三角関係』!」
【第10話 了】
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第 11 話
「剣と詩と、嫉妬の三角関係」
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【シーン①:王都 剣術練習場 (イザベルとのデート)】
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外気浴プログラムの一環。イザベルの希望で、王都の剣術練習場へ。
木剣を手にしたイザベルが、颯爽と型を見せている。
イザベル:(木剣を振り回しながら)
「見てろ! これが俺の父に叩き込まれた型だ!」
ライアン:(端っこで見守りながら)
「……すごい! 本当に、男爵家ではなく武門の家みたいな……」
イザベル:(にやりとして)
「だろ! あたしの父は武人気質でな。
娘だからって甘やかさなかった。おかげでこの通りだ」
ライアン:(感心しながら)
「夫人が男装して出兵しようとしたっていう話、本当だったんですね」
イザベル:(木剣を下ろして、ちょっと遠い目で)
「……うん。夫が出征する時……ついていきたかった。
でも夫に止められた。
お前は生きていてくれ、って言って……それが最後の言葉になった」
ライアン:(静かに)
イザベル:(また木剣を構えて)
「だから、強くなる。
あいつが守ろうとしたあたしが、弱いままじゃ……あいつの選択が無駄になる気がして」
ライアン:(ゆっくり近づいて)
「……一つ聞いていいですか?」
イザベル:
「なんだ?」
ライアン:
「強くなることと……悲しむことは、別のことだと思うんですが」
イザベル:(ぴしっと止まって)
ライアン:
「夫人が強くあろうとするのは、すごくかっこいい。
でも……悲しい時は悲しんでいいと思う。
それを見せてくれたって……夫さんは弱いとは思わないんじゃないかな」
イザベル:(しばらく沈黙して、ぽつりと)
「……やっぱり、お前は変なやつだな」
ライアン:
「……また言われた」
イザベル:(木剣を壁に立てかけて、ライアんの方を向いて)
「……泣いていいのか? ほんとに?」
ライアン:(まっすぐに)
「もちろんです」
イザベル:(一瞬、子供のような顔になって)
「……そっか……(深呼吸して)……じゃあ、後でな」
ライアン:(きょとんとして)
「……後で?」
イザベル:(また凛々しい顔に戻って)
「今は剣の練習する! お前も一本持て! 特訓だ!」
ライアン:
「え!? 僕が!?」
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【シーン②:ラッキースケベ⑨ 剣術特訓の悲劇】
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木剣を持たされたライアン。イザベルが型を教えようとしている。
イザベル:(後ろから腕を掴んで、フォームを直そうとして)
「ちがう! こうだ! 腰から……」
ライアン:(イザベルに腕を誘導されながら)
「こ、こうですか?」
イザベル:
「腰! 腰を回せ!」(がっちり後ろからホールド)
二人の距離、ゼロ。
練習場の他の利用者がこちらをちらちら見ている。
ライアン:(顔が真っ赤で固まっている)
「……い、イザベル夫人……少し……近くないですか……」
イザベル:(気にせず)
「剣術は密着してナンボだ! いいから腰!」
ライアン:(震えながら)
「……は……はい……」
そこへ、ちょうど通りかかるクロエ。
練習場の入り口から二人の様子が丸見えで——
クロエ:(扇で口元を隠しながら)
「……ふふ。これは……面白い展開ね」(くるりと立ち去る)
その後、ライアンが一人でよろよろと帰り道に——
イザベル:(さばさばして)
「今日の特訓の感想は?」
ライアン:(ぐったりして)
「……施術より疲れました……」
イザベル:(豪快に笑って)
「ははは!! 情けないな!!」
ライアン:(でも笑いながら)
「楽しかったです」
イザベル:(笑いながら、でも少しだけ声を落として)
「……あたしも」
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【シーン③:サロン図書室 (ヴィオレットの詩集)】
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夕方。サロンの小さな図書室。
ヴィオレットが本を持って、窓際に立っている。
その本の表紙に「翠雨の詩集 V・シャペル著」と書かれている。
ライアン:(入室して、本に気づいて)
「夫人……それは……!」
ヴィオレット:(少し照れて、本を胸に抱えながら)
「……出ました。今日、初版が届いて……」
ライアン:(駆け寄って)
「出版されたんですか!! すごい!!」
ヴィオレット:(ふわっと微笑んで)
「……あなたに言いたかったんです。
あなたが「読んでみたい」と言ってくれた日から……
また書けるようになって……」
ライアン:(目を丸くして)
「……僕が言ったことが、きっかけに?」
ヴィオレット:(本をそっとライアンに差し出して)
「はい。……一冊、あなたに」
ライアン:(受け取って、大切に持って)
「……ありがとうございます。……絶対読みます」
ヴィオレット:(静かに笑って)
「……また感想を、聴かせてください」
ライアン:(本の表紙を見ながら、じわっと)
「……楽しみです」
ヴィオレット:(少し間があって、詩のような言い回しで)
「……あなたは、誰かの言葉の種を、知らないうちに撒いていく人ですね。
そして……気づかないうちに、その花が誰かの心に咲いている」
ライアン:(静かに、でも確かに受け取って)
「……そうなれたら、嬉しいです」
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【シーン④:嫉妬大爆発 待合室の修羅場】
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翌日の待合室。
偶然集まったレティシア、セレスティア、ソフィー、アンジェリカ、エルミーヌの5人。
リーゼが無邪気に情報を流してしまう。
リーゼ:
「みなさん! ライアン様、昨日イザベル夫人と剣術練習場に行かれたみたいで、すごく密着して……(うっとり語る)」
レティシア:(顔が赤くなって)
「……密着って何よ!?」
セレスティア:(ぽーっとして)
「……剣術……密着……ライアン……(くらくら)」
ソフィー:(ぐっと拳を握って)
「ずるい!! 私もデートしたのに!!(市場の話)」
アンジェリカ:(ノートに記録しながら)
「これは……競争原理が働いている……興味深い……!」
エルミーヌ:(部屋の隅でぼそっと)
「……(ライアン)……わたし、まだ施術してもらってないのに……(小声)」
そこへライアンが通りかかって、顔を覗かせる。
ライアン:
「あれ、みなさん揃ってるんですね! 何のお話ですか?」
全員:「「「「「何でもない!!!」」」」」
ライアン:(きょとんとして)
「……そうですか……」(去っていく)
一同、しーんとして、それから一斉にため息をつく。
リーゼ:(にやにやしながら)
「……ね、みなさん。ライアン様って……良いですよね」
全員:(微妙な顔で、でも否定できない)
マドレーヌ:(いつの間にか後ろに来ていて)
「……全員、自分の気持ちと向き合いなさい(穏やかに、でも核心をついて)」
一同、一斉に顔が赤くなる。
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「なんか……待合室の空気が最近おかしい気がするんですが、気のせいですかね。
ヴィオレット夫人の詩集、今日から少しずつ読んでいます。
すごく……すごく綺麗な言葉で、読むたびに夫人の声が聞こえる気がして……
あ、やばい、また変なこと考えてる」
次回予告:
「第12話! エルミーヌ夫人との施術、ついに本格スタート!
そして……ライアン、ヒロイン全員から同じ日にプレゼントをもらうという
奇跡にして災難な一日が訪れる……!?
『小さな勇気と、大きな混乱の一日』!」
【第11話 了】
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第 12 話
「小さな勇気と、大きな混乱の一日」
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【シーン①:施術室D (エルミーヌとの本格施術 開始)】
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エルミーヌとの初日からしばらく経った。
毎回「今日もお茶だけ」→「少しだけ手に触れる」→「肩だけ」と
ゆっくりゆっくり段階を踏んできた。そして今日——
エルミーヌ:(施術台に横になりながら、ぽそっと)
「……今日……ちゃんと……してもらいたいです」
ライアン:(嬉しくて)
「本当ですか?」
エルミーヌ:(顔を横に向けて、ぽすっと枕に埋めて)
「……うん……でも怖かったら言います……」
ライアン:
「もちろんです。いつでも言ってください」
施術が始まる。エルミーヌがびくっとして——
エルミーヌ:(ぼそっと)
「……こわい……」
ライアン:(すぐに手を止めて)
「止めましょうか?」
エルミーヌ:(首を振って)
「……いや……怖いけど……大丈夫……続けて……」
ゆっくり、ゆっくりと施術が進む。
最初はぎゅっと力が入っていたエルミーヌの体が、少しずつほぐれていく。
エルミーヌ:(ぽそぽそと)
「……あたたかい……」
ライアン:(静かに)
「はい」
エルミーヌ:
「……誰かに、こんなに、丁寧に触ってもらったのって……初めてかも……」
ライアン:(その言葉の重さを感じながら、施術を続けながら)
エルミーヌ:(目が少し潤んで)
「……夫とも……あんまりちゃんとお話しできなくて……
ただ……家に一人でいることが多くて……
誰かがそこにいてくれる感覚……久しぶりで……」
ライアン:(穏やかに)
「……ここにいますよ」
エルミーヌ:(ぼそっと、でも確かに)
「……うん……(涙が一粒、枕に落ちる)……ありがとう……」
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【シーン②:感動シーン エルミーヌの笑顔】
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施術が終わって。エルミーヌが静かに起き上がる。
いつもより少しだけ顔色が良くて——
ライアン:
「どうでしたか?」
エルミーヌ:(少し間があって、ぽそっと、でも口元が少し上がって)
「……うん……良かった……」
ライアン:(嬉しそうに)
「また来週、同じようにやりましょう」
エルミーヌ:(うなずいて、出ていく前に——ほんの少し振り返って)
「……ライアンさん……」
ライアン:
「はい?」
エルミーヌ:(ほんの、ほんの少しだけ——笑って)
「……ありがとう。また来ます」
その笑顔を見て、ライアんの胸がじわっと温かくなった。
〔BGM:優しいピアノのメロディ〕
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【シーン③:プレゼント大作戦 (大混乱コメディ)】
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この日、ライアンの誕生日だということをリーゼが余計なことを喋ったせいで——
ヒロイン全員が「プレゼントを渡さなければ」という使命感に燃えていた。
午前10時。ライアンが廊下を歩いていると——
ナタリーが現れる。
ナタリー:(大きな箱を持って)
「ライアンさん! お誕生日おめでとうございます!! 特製バースデーケーキです!!」
ライアン:(驚いて)
「ありがとうございます!! でも、どうして誕生日を……」
ナタリー:「リーゼさんが教えてくれました!!」
そこへソフィーが来て——
ソフィー:(小さな包みを持って)
「あ!! ライアン!! 誕生日おめでとう!! 市場で見つけた!!」(押しつける)
ナタリー:「ソフィーさん!! 私が先でした!!」
ソフィー:「でも私の方が可愛い!」(根拠なし)
ナタリー:「ケーキと可愛さを比べないでください!!」
そこへイザベルが来て——
イザベル:(木剣の形をした彫刻を持って)
「相棒! 誕生日だそうだな! これをやる。木彫りだが、俺が削った」
ライアン:(感激して)
「え!? 夫人が!?」
イザベル:「……一晩かかった(ぼそっと)。まあ受け取れ」
三人が口々に話しかけてくる中——
レティシアが颯爽と現れて——
レティシア:(小さな包みを差し出して、顔を赤くして)
「べ、べつにあなたのためとかじゃないわよ!?
ただ……誕生日くらいは……義理として!!」(包みをライアんの手に押しつける)
ライアン:(受け取りながら)
「ありがとうございます……」(開けると中は手編みのハンカチ)「えっ、これ……手作りですか?」
レティシア:(顔が真っ赤で)
「違う!! 買った!! 絶対に買った!!」(でも端に「R」のイニシャルが刺繍されている)
ライアン:(「R」を見て)
「……レティシア夫人のRですか?」
レティシア:「ぎゃああああ!! 忘れろ!! 忘れてえええ!!」(走って逃げる)
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【シーン④:ラッキースケベ⑩ プレゼントの嵐の中で】
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廊下で次々にヒロインたちがやってくる。
アンジェリカからは「あなたの観察レポートまとめ」(謎)、
テレーズからは「星が授けた守護石」(よくわからない石)、
ヴィオレットからは「あなたへの詩、一篇」(折りたたまれた紙)、
オリアンヌからは「珍しい種の標本セット」(使い道不明)、
フランシーヌからは「革製の手帳」(凛とした顔で「施術の記録に使いなさい」と言って去る)、
マドレーヌからは「手書きのレシピ集」(「体に良い食事の作り方よ」と笑顔で)、
エヴリンからは「手書きの楽譜」(「……いつか……弾いてみて……」と小声で)、
最後——
エルミーヌが一番遠慮がちに来て、ライアンに小さな紙を差し出す。
エルミーヌ:(ぼそっと、顔を真っ赤にして)
「……お誕生日……おめでとうございます……」
ライアン:(紙を広げると、不器用だけれどしっかりした字で「元気でいてください」と書いてある)
ライアン:(じわっとして)
「……ありがとうございます、エルミーヌ夫人」
エルミーヌ:(顔を赤くしたまま、くるっと向いて、ぼそぼそ)
「……喜んでもらえると……嬉しい……(足早に去っていく)」
ライアン:(両手いっぱいのプレゼントを持って、廊下に一人立って)
その時、最後にアデライドが現れる。
プレゼントは持っていない。
ただ——ライアんの前に来て、静かに一言。
アデライド:
「……誕生日、おめでとうございます」
ライアン:(目が合って)
「……ありがとうございます」
アデライド:(少し間があって)
「……今日は……また、一緒に歩きませんか。
誕生日くらい、誰かと過ごすべきでしょう」
ライアン:(プレゼントを全部抱えながら、真っ赤になって)
「……是非、お願いします」
アデライド:(ライアんの両腕いっぱいのプレゼントを見て、ほんの少し笑って)
「……荷物を置いてきなさい、まず」
ライアン:「はい……!(笑顔で)」
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【エンディング・次回予告】
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ナレーション(ライアン):
「こんな誕生日は、生まれて初めてでした。
プレゼントが多すぎて部屋に入りきらなかったけれど——
それよりも……みんなが、それぞれの気持ちでいてくれていることが……
じわじわと、ずっと温かくて。
エルミーヌ夫人の「元気でいてください」って言葉が一番刺さりました。
……あと、アデライド夫人と夜の街を歩いたことも、
一生忘れない気がします。
……僕、ちゃんと施術師でいられるのかな……」
次回予告:
「いよいよ後半戦!
第13話! サロンに危機が訪れる!廃業の噂、そしてライアンの決断!
『サロン・フルールを、守れ』!」
【第12話 了】
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【Vol.2(第7話〜第12話) 完】
続きはVol.3(第13話〜第18話)に収録されています
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読んで頂きありがとうございます。




