正義の迷い子
(顧問先・応接室にて)
社長「あーそれね?あの“手数料的なもの”でさ。渡さんといかんのよ、いろいろあって…」
椎名「“いろいろ”って…あの、どこに渡すんですか?」
社長「そこはまあ、大人の事情ってことで。所長さんに前に話したら、“雑費”でって言われてたんだけど…今回は“買掛金”で処理してってさ。」
椎名「(心の声)買掛金に“渡し物”?やばくない?てか所長、何やってんすか…」
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(事務所に戻るなり)
椎名「ただいま。……ねえ、ちょっとこれ聞いてよ。」
森「なにその顔。なんか口に入れちゃいけないもの食べた人みたいな顔してんぞ。」
椎名「いやマジで…顧問先で、得体の知れない支払いが“買掛金”で処理されててさ。“渡さなきゃいけない手数料”的なやつ。」
栄田「手数料“的”? 的ってなに?名詞で濁してる時点でもうダメじゃん。」
椎名「しかもそれ、所長が“今回は買掛金でいこう”って言ったらしい。」
森「どこへいった所長の正義…」
栄田「この前、職員には“帳簿は税理士の鏡!汚すな!”って言ってたじゃないの!」
椎名「あれ、たぶん“お前らは”っていう前提が隠れてたんだよ。」
森「自分は別枠ってやつか…税理士界のフリーパスかよ。」
栄田「それもう“税理士免許”じゃなくて“免罪符”よ。」
椎名「俺ら、正義の味方ごっこしてる場合じゃなかったな…」
森「ごっこじゃない!正義はある!たぶん…たぶん…」
(所長、部屋からひょっこり)
所長「おう、おつかれ。で、あの買掛の件はうまく処理できたか?」
椎名「……所長、正義はどうされたんですか?」
所長「正義?そんなもんはな、使い方が大事なんじゃ!」
栄田「…あれですか?レンジでチンする系の“とっておき”?」
森「違うだろ。“賞味期限切れてる系”だろ。」
所長「なんか言ったか!?」
椎名「いえ、“正義の味方、時々休業中”ってだけです。」
所長の指示は、どんな法律よりも強くて、
どんな倫理よりもふんわりしている。
今日も“何か”が帳簿の中で静かに泳いでいます。




