花粉症再び
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(別の日、午前10時すぎ。所長が電話応対中。事務所は静か)
所長「あ〜はいはい、大丈夫大丈夫。うちでちゃんと見てるから、安心してよ〜」
(所長の鼻が、また…ピクッ…ムズムズし始める)
森(机の向こうからチラッと見る)「……うわ、始まったかも」
栄田「またですか……?まさか、またくしゃみ……?」
椎名(手を止めて)「今、電話中でしょ!? さすがに、我慢してくれますよね…?」
所長「ええ〜そうそう、そちらの控除証明……あ”あっ……っぐ……」
(所長、鼻を押さえて耐えるが、耐えきれず)
所長「ハーーーーーーックショーーーーーーイ!!!!」
(ビッシャアアア!!!)
(受話器、直撃)
森「うわあああああ!!やったぁぁぁあ!!!」
栄田「やりましたよ! 完全に受話器にいった!!今、飛んだって音したもん!」
椎名「受話器で爆発音とか聞いたことないですよ!? なにあの破壊力!」
所長(拭きもせず、鼻をズビズビ鳴らしながら)「あーごめんごめん。くしゃみ出るのは仕方ないからな」
森「拭いてくださいってば!!!」
所長「まぁでもな、俺の声ってのは“腹から出してナンボ”なんだよ。電話越しでもパワー伝わったろ」
栄田「伝わったの、“腹”じゃなくて“鼻”からなんですけど!!」
椎名「てか、“飛沫で熱意を伝える”とかやめてくださいよマジで!!」
所長(腕組みしてドヤ顔)「昔の部下なんか、俺のくしゃみ聞いて“よっしゃ今月も頑張ろう”って言ってたんだぞ」
森「いやもうそれ、洗脳されてますって!!」
栄田「くしゃみでモチベーション上がる人、今どきいないです!!」
椎名(電話機にスプレーしながら)「てかもうこれ“伝染性やる気”でしょ。被害者の会つくりますよ」
所長「はっはっは。ま、春だからな。みんな花粉に負けんなよ〜」
全員「一番負けてるの、所長ですよ!!!!!」
(電話機がビニール袋に包まれて“立入禁止”のメモが貼られる午後――)
春の風物詩、所長のくしゃみ。
飛ぶのは花粉だけじゃない。
受話器、職員の我慢も飛んでいく。
でも今日も、事務所は笑いとツッコミでまわってる。
――たぶん、ね