所長と、コーヒーと、死の危機
(昼食後。誰もがそれぞれの作業に没頭している)
所長「……ん?……んんん?
おいおい、ちょっと待てよ。なんか、おかしいな……」
椎名「え、何がですか?」
所長「俺の机に、コーヒーが!ない!!
誰だ!? サボったのは!!」
森「いや、誰がっていうか……今日は特に担当決めてなかったような……」
所長「なにぃ!?
社会は“持ち回り”でできてるんだよ!コーヒーも例外じゃない!」
椎名「社会の根幹がコーヒーに……?」
所長(椅子にドカッと座って)「あ〜〜〜〜、喉かわいた!
もうダメだ……このまま干からびてしまう……
……誰か、遺影にはスーツ着せといてくれ……」
栄田「はいはい、勝手に死なないでください」
森「っていうか、水飲めばいいじゃないですか。目の前にペットボトル……」
所長「ばかもんっ!
水とコーヒーは別腹だ!!
コーヒーはな、男の戦闘服みたいなもんなんだよ!」
椎名「いや、それ着るもんじゃないです……」
栄田「あの……じゃあ、私、入れましょうか?」
所長「いや、栄田くんはパートさんだろ。こういうのは正社員がやるべきだよ。
えらそうに言うけど、俺は“やさしさ”の塊だからな」
椎名「それ、自分で言う?」
森「……じゃあ、僕が入れますよ。どうせ集中できないし」
所長「うむ、感謝する。
ただし、温度は熱すぎず、ぬるすぎず、俺好みに。
カップは黒いやつな。あれが一番しっくりくる」
椎名「めんどくさっ!」
森「カフェか。ここ、カフェか。」
(数分後、コーヒーを持っていく森)
森「はい、こちら“所長好みブレンド”、お待たせしました〜」
所長(一口すすって)「……うん、これこれ。これがなきゃ始まらん。
おかげで生き返ったわ!」
栄田「さっきまで死にかけてた人のセリフじゃない……」
所長「人間、愛だな。やっぱり、部下の愛情ってのが一番のエネルギーよ」
椎名(心の声)「こっちはエネルギー吸われてる側ですけどね……」
職員がコーヒーを用意するのが当然だろう・・・と思っている所長。
自分で入れればいいコーヒーを職員に入れてもらいたいがために、
だだをこねる・・・