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香典袋、出す出す詐欺

――午後の事務所。静かに響くキーボード音の中で、椎名が口を開く。


椎名(控えめに)「……実は、母のパートナーが先週亡くなりまして」


森「……えっ、それは……それは大変でしたね……」


栄田「椎名さん……そんなときに、仕事なんて……」


所長(なぜかガバッと立ち上がる)「……そうか、それは、それは……人生には、いろんなことがあるからな……」


(ポケットをごそごそ。時間かけすぎ)


そっとつぶやく「あ、きたな……」


所長(やけにピンとした香典袋をスローで取り出し、チラッとだけ見せる)「俺もね、こういうのは常に持ち歩いてるわけ。心の準備、大事だからさ。うん」


椎名(焦り気味)「いえ、ほんとに、お気遣いなく……!」


所長(にこやかにうなずいて、香典袋をスッと胸ポケットにしまう)「だよな。うん。まあ、気持ちの問題だからさ。うん」


森(小声で)「気持ちは出すけど、お金は絶対出さない男……」


栄田すかさず「まさに“気持ちの詐欺師”よね。感情だけでカツアゲしてる」


森「袋だけで人間性を演出するプロ……!」


栄田「逆に言うと、袋なかったらただの“うなずきおじさん”よ」


森「てか、あの袋、なんでいつも新品なんだよ。毎回パリッとしてるし」


栄田「量販店で箱買いしてる説あるわね。“見せる用”として」


所長(自分に酔いながら)「いや〜、やっぱりさ、人としての真心ってのは、そういう形に……」


森「もう形だけじゃん」


栄田「実体ゼロの真心。まぼろし〜!」


椎名(苦笑い)「……ありがとうございます、所長」


(所長は今日も、渡していない香典袋と、なぜか満ち足りた表情を胸ポケットに収めた)

香典袋は見せるものじゃなく、渡すもの。

……そんな常識が通じない男、それが所長です。

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