足元注意報、発令中
(午後3時、金田税理士事務所。ぽかぽか陽気で、エアコンもちょっと緩め。所長が外回りから帰ってきて、席についたタイミングで事件は起きた――)
所長「ふぃ~、暑いな今日は。靴、脱いじゃおうっと」
(ズルッと革靴を脱ぎ、デスクの下で足をぶらぶらさせる)
(――数分後、事務所にほんのり漂い始める異臭)
森(顔をしかめながらパソコンに向かい)「……なんか……魚、焼いてます?」
椎名(鼻をすすりながら)「いや、焼いてないよ……多分……魚じゃないな。もっとこう……湿った感じの……」
栄田(そっと顔を手であおぎながら)「え、これ、もしかして……もしかしてだけど……所長の……」
(3人の視線が同時に所長の足元へ)
所長「ん? なんだ? みんな揃ってこっち見て。俺、なんかついてるか?」
森(慌てて視線を外し)「い、いえっ、なんでもないです!」
椎名(小声で栄田に)「言えないよなあ……言えないよなあ、これは……」
栄田(神妙な顔)「でもこのままだと、事務所全体が……所長の足に支配される……」
椎名「“香る税理士事務所”ってキャッチコピーどう?」
森「やめて、それだけは……」
(しばしの沈黙。ぷーん……とまた漂う香り)
栄田「……あの、ファブリーズ買いに行ってきていいですか?」
椎名「ついでに足用シートも頼むわ。『事務所の備品』ってことで経費で落とそ」
森(笑いをこらえながら)「それ、所長にバレたら怒るかな……」
椎名「大丈夫、前も加齢臭対策の消臭スプレー買ったとき、普通に“経費だろ?”って言ってたし」
(その頃、当の所長は鼻歌まじりに「今月の申告はどこだったかな~」とご機嫌。自分の足元から世界が崩れつつあることに、まだ気づいていなかった)
所長の“開放感”が、事務所に“緊張感”をもたらした一日でした。
誰もが感じているのに、誰も言えない。
そんなとき、必要なのは勇気か、それともファブリーズか——。