使えるものは大事に(?)
(朝、事務所にて。森が書類を整理しながらふと所長のデスクを見やる)
森「……あれ、またペンケース破けてる?」
栄田「ていうか、もう“破けてる”ってより、“崩れてる”じゃない?」
椎名「俺、あれ初めて見たとき、あの中に時限爆弾入ってるのかと思ったもん。」
森「なんで所長って、あれずっと使ってるんだろうな。革っていうか、もはや皮膚感あるよね。」
栄田「お金あるくせにね。おしゃれじゃなくていいから、新しいの買えばいいのに。」
椎名「いや、たぶんアレ、“もうここまで来たら意地”のフェーズ入ってる。」
森「でも言うよね。“使えるものは大事に”って。」
栄田「なのに車は2〜3年で買い替えるんだよね…」
椎名「あのアウディ、去年の暮れに来たばっかじゃん?もう『乗り心地がちょっと硬い』とか言って売りに出してるらしいよ。」
森「いやいや、所長の腰よりペンケースのほうが硬いと思うけど。」
栄田「ていうか、中のペンもやばくない?キャップ割れてるし、インク乾いてるし。」
椎名「でも何本も入ってるよね。どれが生きててどれが死んでるのか、ロシアンルーレットかよ。」
森「しかも昨日、契約書にサインするとき、3本試して出なかったのに“この子、今日はご機嫌ナナメやな”とか言ってたし。」
栄田「いやもう、“子”じゃない。“遺品”だって。」
(そこへ、所長がご機嫌で出勤してくる)
所長「おはようさん。お、みんな揃ってるやないか。」
(3人、慌てて作業のふり)
森「おはようございます!……あっ、所長、昨日の資料、机に置いてあります!」
所長「おお、ありがとう。……ん?なんやその顔。なんか話してたんちゃう?」
椎名「いやいや、あの、ペンケースの話を少し……」
所長「おっ、それならええ話や。これはな、ワシが大学のときから使ってる。」
栄田「え、そんな前からですか……?」
所長「せや。こういうのはな、物の寿命やなくて、情の問題や。最近の若いもんはすぐ買い替えるけどな、ワシは違う。」
森(小声)「(車は秒で買い替えてるけどな……)」
椎名「あの、ところで、昨日納車されたっていう新車、あれ見せてもらっても?」
所長「おっ、見たいか?そら見たいわな〜!最新モデルのレザーシートやで。ナビの音声、関西弁に変えられるんや!」
栄田「なんでそこ関西弁なんですか……」
所長「おもろいやろ。ワシの趣味や。あと、ナンバーな。“11-88”。“イイパパ”や。」
(一同、言葉を失い、ふとペンケースを見る)
森(小声)「……せめて“イイペンケース”にしてほしい。」
(3人、そっとため息をついた)
物を大切にする心は素敵ですが、バランスも大事かもしれません。
所長のペンケースが現役を引退する日は…たぶん、まだ先です。