定額残業制という名の無限ループ
(夕方18:00すぎ、事務所内にて)
椎名「……ん? 所長、今日ももう帰ったっぽいな。」
森「え、また定時きっかり? こっちは決算の山で、今日も帰れないんですけど。」
栄田「“早く帰れよ〜”って言葉、まさか自分に向けてだったんじゃないよね。」
椎名「給料は定額、残業は無限。なんで担当だけ増やされて、しかも帰れって言われるのか。」
森「“働き方改革”じゃなくて、“働かせ方改革”なんだけど、この職場。」
栄田「……っていうか、今日も午前中ゴルフだったよね、所長。」
(そこに所長がひょっこり戻ってくる)
所長「おー、まだやってんの? お前らほんと真面目だなあ〜。早く帰れよ?」
森「帰れって言われても、決算3件、年調の修正、あと税務署の問い合わせ対応、全部僕なんですけど。」
所長「でもな、無理はするなよ? 健康第一だからな!」
椎名「じゃあ、担当減らしてもらっていいですか?」
所長「それはお前、成長のチャンスってやつだよ! 若いうちは苦労しとけって昔から言うだろ?」
栄田(小声で)「その“昔”を押し付けてる今が地獄なんだけどな……。」
森「所長こそ、成長のチャンスじゃないですか? たまには1件ぐらい手伝ってくださいよ。」
所長「いやいや〜俺はもう、現場離れて久しいからさ。口だけ出す係ってやつ?」
椎名「いや、せめて手伝うか、静かに帰ってほしいっすね……。」
(所長、笑って肩をすくめて去る)
栄田「……なんであの人だけ“働かない改革”できてるの。」
森「“責任感”って、所長の辞書には載ってないんじゃない?」
椎名「いや、あるかもよ。“部下に押しつける”って意味で。」
(3人、苦笑しながらPCに向かう)
どんなに仕事が山積みでも、定時で帰る所長。その背中を見送る職員たちは、今日も静かにタスクと向き合う。
文句を言いながらも、最後にはお客さんのために頑張ってしまう――それが、この事務所の“責任感”のかたちなのかもしれません。