見守る男と、見られる鼻毛
栄田「……ねえ、森さん。所長、今日……鼻毛、出てるよね?」
森「見た。左側一本、完全に飛び出して独立国家樹立してるわ」
椎名「誰か言えよ。あれで外回りされたら、うちの信頼が…鼻から崩壊するって…」
栄田「でも言ったら絶対、“そんなもん気にするやつは心が狭い”って逆ギレでしょ?」
森「この前“靴下に穴あいてますよ”って言ったら、“地に足つけてる証拠だ!”って逆に説教されたぞ」
椎名「いや、地面に足つけすぎでしょそれ…」
(そこへズカズカ登場)
所長「やあやあ、みんな朝からご苦労だな!こうしてワシが見守っているおかげで、事務所の秩序が保たれているのだ!」
栄田(小声)「その鼻毛で“秩序”とか言われても…」
森「鼻毛が無秩序に飛び出してんだけどな…」
椎名「ていうか、今日の所長、やたら動くな。いつも新聞読んでるのに、今日は廊下でターン決めてたぞ」
森「鼻毛に主導権握られてんじゃない?今日の動き、鼻毛主導説」
栄田「なんかもう、こっちが気を遣って目をそらすのに疲れてきた…」
椎名「俺、さっき一回、鼻毛と目が合った気がするもん…」
所長「おい、なにをひそひそ話してる?ワシがいるからこそ、この事務所はうまく回ってるんだぞ。わかってるかね?」
栄田「ええ…もちろん…(鼻毛が)回してるんですよね…」
森「いやもう、そのうち“所長と鼻毛の二枚看板”って紹介されそう…」
椎名「誰か…あの一本を抜いてやってくれ…俺の心の平穏のために…」
何もしない”と“堂々と出ている”の融合。今日も所長は威厳を保ち、鼻毛もまた、風に揺れる。