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チャンピオン

一人称と現代設定ともろもろの練習です。

期待せず、ゆるりと読んでいただければ嬉しいです。

 最悪だ。

 教室の角席で寝ていたら聞きたくもない会話が聞こえてきた。


「一ノ瀬さん、ずっと好きでした。

 俺と付き合って下さい」


 この声は、畑山か?

 この前は辰吉、その前は葛西……。往年のチャンピオンを総ナメにしていくのか。凄いな一ノ瀬。


「ごめんなさい」


 一ノ瀬よ、毎試合1ラウンドK.O.ではプロモーターが泣くぞ。TV中継の尺だって……


「誰か好きな人がいるの?」


 おおっと、挑戦者立ち上がった。

 その目にはまだ、闘志が宿っていたか!

(見えんけど)


「――うん。だからごめん」

「わかった。ありがとう」


 たから一ノ瀬よ、せめて2ラウンドまで持たせてやれ。


「ーーー」


 行ったか……。


「うおっ!!チャンピオン!!」

「ちゃんぴおん?」


 顔を上げると、そこには一ノ瀬。

 弾むようなショートカットに、ブラウスよりも白い肌。

 凛とした眉が瞳の透明感を際立たせている。


 ――それにしても近い。


 まさか、机の端に顔を乗せて俺の顔を覗き込んでいるとは。


「……こら。今の聞いてたでしょ?」

「はて、何のことやら」

「まぁ、いいわ。帰りましょう」

「いや、流石に畑山がみたら悲しむだろ」

「ほら、やっぱり聞いてた」

「……今年入って何人目?相変わらず、すげぇモテるよな」

「どうでもいいわ」


 俺と一ノ瀬はいわゆる幼馴染だ。

 それどころか、母親が親友で家が隣同士とくれば、その距離感は半端ない。何せ一緒にバレエ教室に通わされてたほどだ(流石に中学に上がる段階で辞めさせてもらったが)。


 ともかく哺乳瓶くわえてた頃から、高2の今に至るまで、一緒にいない時間の方が少ないと言っても過言ではない。


 これで何もないのだから、幼馴染とはなんとも罪な設定だ。


「早くして」という、一ノ瀬の視線に引っ張られる様に

 教室を出る。


 敵(往年の世界チャンピオンず)はいない。まぁ、一ノ瀬との関係は級友の知るところなので見られても問題ないのだが。


「ねぇ、進路どうするの?」

「ん〜。とりあえず家を出たいかな」

「えっ? 何でよ?」

「なんか1人暮らしって憧れるでしょ!自立のための滑走路みたいで」

「何それ?あなた琵琶湖にでも飛び込むの?」

「こらこら、せめて20m位は滑空させてくれ」

「あはは!」


 街を歩けばスカウトが群がる美少女と軽口を交わす中とは、普通に考えれば随分な役得だ。


 そうこうしているうちに、オオカミみたいな狛犬が睨みをきかせる神社の前にさしかかった。どうでもいいがこの神社は、五穀豊穣の御利益があるらしい。もっとも宅地化の波をうけて周囲の田畑は消滅したが。


「おぉ、噂どおりすっげえかわいいじゃん。どう、俺と遊び行かない?」


 町自慢の狛犬より目つきの悪い輩が登場。登場の仕方からして小物感が強い。


「そりゃどうも。でも、生憎俺はノンケだよ」

「だっれがテメェなんかに話しかけるかけるかよ」

「だってお前俺と目があったじゃん」


 言いながら一ノ瀬を背後に隠す。


「何だお前?この子の彼氏か」

「そんなもんより、もっと深い仲つったら信じる?」

「あぁ?なんだそりゃ?」

「ちなみに、おたく名前は?」

「薬師寺だよ。北高の薬師寺つったら分かるか?」

「残念。諦めろバンタム級。その名前じゃ無理だ」

「あん?名前なんかどうだっていいだろ?しかも名前じゃくて苗字だ」


 呆れる薬師寺を無視して、一ノ瀬に目配せ。


「ごめんなさい。私、あなたのこと知らないし、知りたくもないわ」


 珍しく一ノ瀬の語尾がキツい。

 どうやら、今日は機嫌が悪いらしい。


「まぁ、どのみち断ろうが関係無いんだけどね」


 カウンターが効かないのかと思ったら薬師寺の背後から、ワラワラと湧き出る追加モブ達。


「えーと具志堅、鬼塚、亀田1、2、3といったところか?」

「あ?お前頭悪いの?6対1だぞ。お前は今から袋叩きされるんだよ」

「そうかなぁ? 俺が召喚まほー使えるって言ったらお前、信じる?」

「あん?厨二病も大概にしろよ」

「後悔してもしらないよ。おほん。それでは、いでよチャンピオンず!!」


 詠唱と共に背後の曲がり角から、畑山、辰吉、葛西、竹原、内藤、長谷川が姿を現した。


「おいなんだよ。チャンピオンずって」

「よー畑山と愉快な仲間達! もちろんお前らのファイティングネームだよ」


「……ねぇ。みんな、もしかして私をつけてたの?」


 召喚獣達と軽口を交わしていたら、セコンドの一ノ瀬の眉根が寄った。やはり、今日は機嫌が悪いらしい。

 でも、一ノ瀬よ、この召喚獣たちは好きな子の前で、かっこいいところを見せようとしたんだ。もう少し、優しさをあげてもいいんだぞ。


「で、お兄さん方どーするの?」

「ちっ!!しらけた帰る」


 しれっと7対6になったしね。平和が一番だ。


 ◇◇◇◇


 その後、無事に一ノ瀬を無事家まで送ると、なぜかチャンピオンずに河原まで連れて来られた。


「なんだよ。なんかよーかよ」

「用も何も、お前は告白しないのかよ」

「――――まだ、しねぇ」

「ヘタレだな」

「腰抜けだな」

「負け犬だな」

「バター犬だな」


 ちょっと竹原君。それは変態にいうセリフだよ。


「お前一ノ瀬のこと好きだろ?」

「ああ、そうだよ」

「ならなんで、俺らが告白するのを止めもしないし、お前は何もしないんだよ」

 畑山の視線が熱い。

 きっとこいつは努力、友情、勝利のどれも捨てないだろうな。


「俺、高校卒業したら苗字変わるんだよ」

「えっ?お前ん家の両親離婚するの? ――なんかゴメン」

「ちげぇって。俺のおふくろの実家って女ばっかりでさ。墓を継ぐやつがいないから親父が婿養子に入るんだよ」

「なんか、複雑なんだな。ってそれと一ノ瀬への告白って何もかんけーねぇじゃん」

「わかってねーな。畑山よ。俺の苗字なんだと思う?」

「何って。『井上』だろ?」

「そう。PFP1位だよ。統一王者だよ。そんなの負けフラグ立ちすぎだろ」

「なんのこっちゃ」


 おわり


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